「…グギュェア…」
あくびを決めながら目を覚ました私は、朝日に照らされて輝く甲皮を背負って
……水の底にいました
どうしてって?
ほら、黎明の亡都って、エリアBの奥部分、その端が水辺じゃん?だから潜って見たんだけど、予想以上にアラガミどころか何もいない
…魚はいるし、水死体はあるし
元住宅だったらしいアパートもある
もちろん今日も静かに死体が暮らしている
「…グ…」
ゴポゴポと水の中に泡を吹きながら、私が周囲を見渡しても、やはりアラガミはいないし、動くものは魚影か藻くらいだ
我は安住の地を得たり…
………だと思いたいけど、グボロ・グボロとかウコンバサラとか水棲系アラガミかいつ私を齧りにくるかわからないので、正直、安住とは言えない
頑張らなきゃ…生きるために
まずはどうしよっかな…水飲みまくったら水出せるようにならないかな…?
水出すだけじゃ意味ないけど
…体内に砂鉄と水を保存して、それを混ぜた水を高圧で放出…放電…
うん、いろいろアイデアは出るけど、実現できなかったらただの妄想
まずは一つづつ…日課のランニングからやろう!
ズチャズチャと足音を立てながら、虫ならではの逆関節を鳴らして走るドレッドパイク
それはあまりに奇怪であったが
それでも、走り続けた彼女の体に
少しづつ、変化は生まれていた
4日後
私は相変わらず黎明の亡都のエリアB、北側の図書館前で待機していた…
「…グルッゥ…」
オウガテイルさんいらっしゃい
私最近何も食べていないの
どうかこのかわいそうな少女に食べ物を恵んでちょうだい?
死ね(無慈悲)
私はとりあえず走りながら
(ここ最近でオウガテイルより速く走れるようになった)オウガテイルの飛ばしてくる針を、
そして、
「グルガァァッ!」
噛み付いてきたオウガテイルに
先ほどの捕食で活性化した装甲をわざと噛ませて…その足に、渾身の一撃!
「
いい感じに突き刺さったツノが
体から足を切り離す
バランスが取れなくなったオウガテイルが転倒するより前に、横に回り込み…!
倒れるオウガテイルの背中をかじり取って!んー美味しいっ
と!
「グルガァァッ!」
美人局スタイルの奇襲に怒り狂ったオウガテイルが、即座に足を再生してきた!
ヤバ…
なんてね、オウガテイルの牙は私の背中にしか当たらないし、そもそも背中は甲殻で覆われているんだから牙は滑るばかり、先ほどの光景を繰り返しているだけだ
それに、チマチマとオラクルを捕食しながら、私は活性化を維持しているのに対し
オウガテイルはオラクルを剥ぎ取られ続けて再生を繰り返し、すでにリソースが枯渇しかけている、この状態何ができるとも思えない
「ギジィッ!」
何度目かの齧り付きで、ついに再生が途切れる、オラクル細胞の枯渇だ
オウガテイルは再生能力を失い、そして私は依然活性化したまま、いかに遠距離攻撃を持たないドレッドパイクとて、オウガテイルよりも移動が速い以上は遠距離攻撃の間合いに逃げることはできない!
「
私は、オウガテイルに死を宣告して…
その直後、蹴り飛ばされた
「
ごてん、と転がる私、当然、牙を受け流し続けていた甲殻は腹には無い
しかし、ドレッドパイクには起き上がるすべはない
「グルルルルゥ…」
よくもやってくれたなぁ…とでも言わん気に、ゆっくりと歩み寄ってくるオウガテイル
「グガアッ!」
オウガテイルは何度目かでついに結実するだろう努力…すなわち、牙による一撃を振り下ろさんとして
「プッ!」
私がとっさに吹いた糸に目を潰されてのたうち回った
『アラガミ紡糸』
虫型アラガミが吐く糸である
コクーンメイデンが捕食アイテムに持っているが、私はコクーンメイデンも食べている、そして私は
「ギジィッ!」
糸を止めて、再度吐き、今度は胴体に着弾、その先端は壁に吐きつけて固定!
再度吐き、今度は頭に着弾!糸の先は天井につけて固定!
そして、私はジタバタしながら体を揺らして勢いをつけ…よっと!
「
姿勢を戻すことに成功!ダメージはあるけど、オラクル的には損害はあんまりない
さて、オウガテイルさん
ハイクを詠め、カイシャクしてやる
「グルガァッ!」
水面下のアヒルのように足をジタバタしていたオウガテイルだが、天井の糸を切れないように、胴体の糸が付いている以上、十分な膂力は発揮できない
そして、私はそっと横を通り抜けて
通路の奥へ移動して…
「
決断的シャウトとともに、突進しながらツノを突き出し、オウガテイルの胴体にあるコアを貫き…崩れゆくオラクル細胞を捕食、吸収する
…あぁ…
美味しい…
はっきり言って私は
コアをまるごと捕食できたのが良かったのか、かなり効率よくオラクル細胞を吸収できた、今度は遠距離攻撃が欲しいなぁ…ドレッドパイクの体は貧弱だし、構造上衝撃に弱いから
銃で撃たれたら終わりだから
ちゃんとそれに対する防御が欲しい
具体的には対抗できる遠距離攻撃が
はぐはぐ……美味しいんだけど…多いなぁ…昔は散々マナーがどう、食材がどう、作った人への感謝がどうって言われたけど、そんな御託こねてるならもうちょっと栄養が欲しいんだよ
結局必要最低限ギリギリのラインの養分しか入ってないクソマズ飯で何に感謝しろってのさ、まぁ足りない分点滴で入れるとかって言って金取りたいのはわかるけど
両親の遺産なんてもうすっからかんになっちゃったし、ね?
「グッン…」
よし、食べ終わった
実を言うと、私の両親は不仲で
結局は父の家にあった金で母を買ったような関係だったらしい
父が貢ぐ金が尽きれば、母はさっさと蒸発して、病弱な私の入院費に多量の金を注いでいた父もまた、家での立場が弱るに連れて
私に関心を示さなくなり、最終的には病死した、その途端に始まったのが
私の扱いについての話
誰が引き取るかじゃなく、誰が遺産を相続するかの話だ
もちろんそれには私の親権という大迷惑なデキモノが付いてくるので、どうにかしてそれを回避しつつ父の生命保険で出てきた大金を手に入れようか、という話だった
親戚みんなが寄ってたかって、私の知らないところで私に相続される遺産を奪い合い、私の親権を押し付けあう
そんな戦いが闇の中で繰り広げられているうちに、私自身の入院維持で磨り減っていた遺産は、結局父方の祖母が手にして…
それを弁護士が伝えに来たっきりだ
私はその祖母の顔も知らないし
知る気もなかった
いつ入院が打ち切られて死ぬのかもわからないし、いつ死んでも特に誰も困らないので、私自身の死には興味も関心もなかったから
「…
ジュリウス隊長もそんな感じだったなぁ
まぁ、私はその状態でも楽しめてたし、となりのベッドの女の子とか、入れ替わるたびに友達になってたし
一番最後は八尋ちゃんだったや
コミュニティルームでよく話した神谷くん、一個年上だったけど、去年歳を追い越しちゃった玲ちゃんとか
エロ本を私のベッドに隠してくれとか言い出す大工の内蔵太さん
私に『もう目が見えないから』ってVitaとか色々くれた、私にゴッドイーターを教えてくれた達彦くん
退院してから髪飾りを贈ってくれた洋太くん、私に色々な場所の話を聞かせてくれた愛弓ちゃん、
ピンボケの写真しか撮れないのにカメラマンしてる門矢さん
足の骨折ったっていいながら普通に歩いてて怒られてた遠藤さん
いっつも平気平気って言って、笑ってたけど、いっつも怪我してる立花さん
限定されたコミュニティながらに
私自身が人を知らないわけじゃない
だからジュリウスよりはマシな環境だと思うけど、それでもやっぱり
『一般人的な生活』したかったって思うときもある
まぁ、今そんなこと言える環境じゃないけど…さて、日課のランニングでもやりますか