デビサバ2主人公が渡の立ち位置にある設定です。時系列的にはキバ最終回の大牙との和解後、名護さんの結婚式までの期間に当たります
主人公の性格はアニメ準拠なので、渡とはちょこちょこ対人関係が異なります。
ちなみに今話では変身しません。ではどうぞ
※最初からかなりのネタバレですので原作未プレイの人はある程度注意してください
…目が醒めると、そこには異様な光景が広がっていた。
子供の頃に見た、プラネタリウムにでも出てきそうな…『銀河』、そうとしか表現できないような巨大な光の渦が目の前にあり、その中心に凄まじい数の光が成す奔流が吸い込まれていく。
その光の奔流の末端、そこに自分…『紅響希』が居るのだということに気づいたのは、目覚めてからしばらく経ってからのことであった。
「…あれ、なんだっけ…?俺、どうしてこんなところに…」
自分が今上を向いているのか下を向いているのかも解らない朦朧とする意識の中で、響希は何故このような状況下にあるのかを必死に思い出そうとし…
『キャッホー!グッドモーニング!!』
『お目覚めですか、我らが王よ。他の皆様は既に向かわれましたよ』
「!?」
いつの間にか目の前に浮かんでいた携帯電話、そこから現れた異様な男女の声に響希の思考は思わず停止してしまう。
『向こうに向かわれる前に、臣下の末席として最後のご挨拶をさせて貰いたくお時間を頂きました。此度は人類に課せられた試練、そして管理者との戦いに於ける貴方様のご活躍…誠にお見事でございました』
『ホントにすっごーい!まさかポラリスに勝っちゃうなんて、君ってばホントに最高の王様だよ~☆』
「…?」
全く要領を得ない2人の言葉に、響希は首を傾げるしかない。
『…あらら?もしかして王様ってば憶えてない?』
『ふむ…世界回帰の影響でしょうか、どうやら記憶が曖昧になっているようですね。…では僭越ながら、私どもの方からここに至るまでの記憶を遡ってご説明させて頂かせてもよろしいでしょうか?』
『さかのぼっちゃう~?』
「…よく分からないけど、教えてくれるのなら頼むよ」
他に選択肢も無い以上、響希の返答はそれしかなかった。
『オッケ~☆そんじゃ、ちょっぴり時間をだいぎゃくて~ん!』
『思い出して下さい、貴方様の辿られた軌跡の数々を…』
『『我らの王が定めた、人類の選択までの叙事詩の全てを…!』』
キーンコーンカーンコーン…
学校から聞こえてくる予鈴の音を聞き流しながら、響希は校門の前で未だ出てこない友人を待っていた。
『おい…もう試験終わってから30分は経つぜ。いくらなんでも遅すぎじゃないかダイチの奴?』
「まあね、でもそろそろ…ほら」
「お~い…!響希~!」
お気に入りのパーカーのフードの中から聞こえてくる声と会話していると、自分の名を呼びながら待ち侘びた友人…『志島大地』が大急ぎで駆け寄ってくる。
「ハァ、ハァ…!わ、悪ぃ…お待たせ…!」
「別に良いよ。でもどうしたの?」
「いや~ハハハ…帰ろうとしたら受験票忘れてるって先生が持ってきてくれてさ、それが森ちゃん先生だったんだけど、よりにもよってそれをデカ山に見られてさ…」
「ああ…大山先生、森先生にゾッコンだもんね。…で、点数稼ぎにこってり絞られたって所?」
「うい…全くその通り。ホンット良い迷惑だよな~……で、そっちはどうだった?」
「ん~…ボチボチかな。大地は…聞いて良いの?」
「その言い方逆に失礼だかんな!?…まあお察しの通りだけど。ハァ~…お前はいいよな、高二から中途入学で入ったってのに成績特に悪いわけじゃもんな。やっぱり、例の家庭教師の人のお陰なのか?」
「あ~…うん、まあ…そうかな。頭だけは良いからね、あの人…ちょっと変わってるけど」
『…いや、ありゃどう言い繕ったって変人だろ』
「ん?なんか言ったか響希?」
「え?あ、な…なんでもないって!それより今からどっか行かない?模試も終わったし息抜きしようよ」
「お!それ乗った!んじゃあとりあえず渋谷にでも行こうぜ」
フードの中に居るもう1人の友人の声を誤魔化しつつ、響希は大地と共に街へと繰り出していった。
「ふぃ~…いやー、久しぶりの開放感からかちょっと買いすぎちゃったなぁ~」
「久しぶりって、模試の試験期間入ったの先週じゃないか。…まあ、ちょっと散財したのは同意だけどね」
ひとしきり買い物を終えた2人は、お気に入りの渋谷名物スクランブル交差点を一望できるカフェで休憩をとっていた。
「ところで響希、お前が買ったのって楽譜とか弦とかバイオリン関係ばっかだけど…やっぱり音大行くのか?」
「まあね。ちゃんとした奏者の勉強もだけど、やっぱり俺の目標は父さんの作ったバイオリンを超える物を作りたいっていうのだからね。その為にも、きちんと基礎から学び直したいんだ。今まではずっと我流でやってたからね」
「ブラッディローズ…だっけ?何度か見せて貰ったけど確かに凄いよなそれ。俺、楽器の善し悪しなんて分からねえんだけど…なんつーか、こう…お前の親父さんの『魂』って奴を感じたよ」
「…ありがとう。そう言ってくれると父さんもきっと喜ぶよ」
友人の素直な称賛に、響希は足下に置かれたそれ…ブラッディローズの入ったケースに目を落とす。普段は自宅に厳重に保管してあるのだが、今回は調整の為に持ち出してきていたのだ。…ケースから出す度にその筋の人たちから注目されてしまうので響希としてはあまりやりたくはなかったのだが。
「…ホントに、大学別々になっちゃうんだよな~。折角友達になれたって言うのにさぁ…」
「そうだな。…今更だけど、本当にありがとうな大地。ずっと引き籠もってた俺なんかと友達になってくれてさ」
「な、なんだよ急に…水くさいこと言うなって!俺達友達だろ?そういうの無しにしようぜ!」
「…うん、分かったよ」
響希の言葉は、紛れもない本心であった。物心ついたときから、とある事情で極端に家の外に出ることを恐れていた響希は、高校にも通わずただひたすらに我流で憶えた知識を基にバイオリン製作に没頭していた。しかし、ある事件を機に高校へと編入した響希に真っ先に話しかけてきたのが、たまたま近所に住んでいた大地だったのだ。
「けど、実際お前が羨ましいよ。将来やりたいことがちゃんと決まってるとかさ~、俺なんか大学行ったら合コンして、車乗って彼女作って~…とか、適当にしか考えてなかったし」
「ああ、だから免許取りに行ってたのか。…でも、皆そんなもんじゃないの?やりたいことなんて今から見つければいいだけだろ。何処に行ってもどんなときでも、大地は大地なんだからさ。大地のやりたいようにすれば良いだけだよ」
「…お前、普段ぼーっとしてる癖にこんな時だけ格好いいこと言うよな」
「そうかな…?」
「…あ、そうだ!お前に見せたい物があったんだった、ちょっと携帯出せよ」
「?」
言われるがまま携帯を差し出すと、大地はそれを操作しとあるサイトを表示させる。
「じゃーん!」
「…『ニカイア』?って、何コレ?」
「やっぱ知らなかったか~。これさ、今密かに流行ってる死に顔サイトなんだってさ!」
「死に顔…サイト?」
「ああ。これに登録するとさ、同じサイト登録してる知り合いの死ぬときの光景が届くんだってさ」
「…随分物騒なサイトだな。ていうか、どう考えたってあり得ないだろそれ。死ぬときの光景が届くって事は、まだ起きてないことが分かるってことだろ。そんなことあり得るのか?」
「いや~それがさ、意外と信憑性あるっぽいんだよ。ネットとかの噂だと、もう何人か死に顔が映ってホントに死んだ奴がいるって…」
「…噂だろ?たまたまタイミングが合ってただけの偶然じゃ無いのか?」
「まあまあ、ジョークアイテムだと思ってちょっと登録してみろって」
「…まあ、それだけなら」
登録するため大地から少し身体を背けて携帯を操作しながら、響希はフードの中に囁く。
(…どう思う?本物だと思うこのサイト?)
『ん、いや…俺にはなんとも言えねーわ。…仮にそうだとして、これが奴らの仕業だっていう証拠も無いし、そもそもアイツらが態々人間を見殺しにする必要も無いしな。そんなことするくらいなら自分で喰っちまうぜ』
(…だよね。やっぱりただのジョークサイトなんじゃないかな…)
そんなことを言いながら登録を終えると、画面にハイテンションなバニーガールが現れる。
『ご登録、ありがとうございまーす☆私、あなたの案内役を務めますティコって言いまーす!動画がアップされたらアナウンスするから、絶対見に来てねーっ☆それでは、ハブ・ア・ナイスた~!』
「……」
「な?妙に明るいところが逆に怖いだろ?ちょー凄くない?」
「…ある意味ね。正直あんまり趣味じゃ無いけど」
「あははっ、まあお前はな~。…さて、そろそろ行こうぜ。動画、楽しみにしてろよな!」
「ああ…」
地下鉄渋谷駅ホームにて…
「…でさ、威張り散らしてるところに森ちゃんが来た時のデカ山の顔がさ……ん!?」
「どうした、大地?」
「響希、あれあれ…!」
大地が声を潜めながら指さした先には、後ろのホームで同じ学校の制服を着たボブヘアーの少女が参考書を手に電車を待っていた。
「やっぱそうだ…あれ、C組の『新田維緒』だぜ!成績優秀で性格も従順、清純で控えめで、何より可愛くてスタイルもいい!ウチの男子の中じゃ狙ってない奴のほうが珍しいぐらいなんだぜ!…いいよなー、憧れるよな~」
だらしなくデレデレした大地とは裏腹に、響希は彼女の様子に『デジャヴ』を憶えていた。
(…なんだか、深央さんに似てるな。雰囲気が、出会った頃の彼女にすごく…)
かつて仄かな恋心を抱き、複雑に絡まった因果の果てに死に別れた女性によく似た雰囲気を持つ維緒に奇妙な感傷を抱き、響希は思わず隣の大地を窘めるように言う。
「…あんまりジロジロ見てやるなよ。多分彼女、普段からそういうのを感じてるだろうから嫌がられるかもだぞ。告白する前から撃沈したくなんてないだろ?」
「う…確かにな。ていうか響希さん、ちょっと淡泊過ぎないかい?ああいう女の子がいたらお前だってつい見ちゃうだろ、男として」
「…俺は、そういうのはちょっとな。うまく言えないけど、ああいう人とはあまり関わりたくないんだ。気づかないうちに、傷つけてしまいそうでさ…」
「ふ~ん…。お前もなんかいろいろあるっぽいな。…あ、もしかして昔ああいう子と付き合ってたりとか…」
「…あの、すみません」
「おひょぉぉぅっ!!?」
いつの間にか近くに来ていた維緒に声をかけられ、振り返った大地は奇妙な声を上げて後ずさってしまう。
「あ…ご、ごめんなさい!うちの学校の制服着てたからつい…」
「に、に、新田しゃん…!?ととと、とんでもないですホントマジでっ!…そ、それでどしたんですか?」
「あ…えっと、その…」
「…新田さんは今から試験?選択科目の試験は午後からだから、今からでもまだ間に合うよ。俺たちは午前の基本科目だけだったからね」
緊張しているのか要領を得ない維緒に、先ほど反対のホームに居たことから先ほど自分たちが来た道を向かおうとしていること、そして参考書を持っていることから彼女も模試を受けに行くのだということを察した響希が助け舟を出す。
「え…あ、そうなんだ。ありがとうございます…!」
「どういたしまして。…ああ、そうだ。大地、試験の問題文ってどこで貰えたっけ?」
「ふぇ!?あ…ああ、それなら受付のところで…」
気を聞かせて話を振ってくれた響希に、大地が意図を察して気を取り直して答えようとした…その時。
ピロリ~ン
「「「!」」」
まったく同じタイミングで、3人の携帯にメールが着信する。
「お?奇遇だな、3人同時にメールが来るなんて…お?」
「これは…」
響希と大地に届いたメール、それはニカイアからの死に顔動画のメッセージであった。
「おお、さっそく来てんじゃん!しかもお前だってよ…って、ていうかもしかして新田しゃんのメールも…?」
「あ…もしかして二人もそうなの?うん、これ…」
維緒に届いたメールも、響希たちと同じ死に顔動画のメールであった。
「お、おお…!奇遇ですね~、新田さんもニカイア入ってたなんて…ていうか、俺の死に顔動画じゃんか!?」
「俺は新田さんのだ。このサイトの知り合いの定義ってどうなってるんだ?…でも、新田さんがこういうのに入ってるって意外だね」
「あ、うん…友達に誘われて断れなくって…でも、一応見てみないかな?」
「おお、そうだな。どれどれ…」
3人がメールの動画フォルダを開くと、ニカイアのタイトルロゴの後に動画が再生される。
停電しているのか薄暗い駅のホームに、電車が横転しながら火花をまき散らして突っ込んでくる。
人々の悲鳴が木霊する中、加速した勢いのまま電車は飛び上がるようにしてホームへと乗り上げる。
くの字に曲がった状態で乗りあがった車体は一瞬そのまま停止し、やがて重力に従って倒れていき…
真下に居た響希たち3人を、押し潰してしまった…
「……っ!」
「…な、なにこれ…?」
「は、はは…ちょっと、笑えなくねえ…コレ…?」
車体の下敷きになり、頭から血を流す自分たちの姿に全員の顔が引き攣ってしまう。
「じ、ジョークにしては、リアリティがあるよな…は、ハハ…」
「そ、そうだよね…冗談、だよね…」
大地と維緒はそう言うが、余りにも衝撃的な内容に動揺が隠しきれていない。響希も単なる悪戯だと思おうとしたが、ふとフードの中から声が聞こえる。
『…なあ、響希。こんなこと言うのアレだけどよ、この動画に映ってるホームって…ここじゃねえか?』
「っ!」
ハッとして動画の冒頭と周囲を見比べると、その言葉通り動画に映っているホームは今自分たちがいる場所と全く同じ場所であった。そして案内を見れば、電車はもう間もなくホームに入ってくる。
「…大地、新田さん。一旦駅から出よう、なんだか嫌な予感がするんだ」
「え…お、おう。…あ、でも新田さん今から試験だしよ…」
「あ…私は大丈夫だよ。それに、私も今の見てちょっと不安になったから…」
「よし、急いで外に…」
その時であった。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「うわぁぁっ!?な、なんだぁ!?」
「きゃああああっ!」
「くっ…地震…!?」
轟音とともに立っていられない程の揺れが突如としてホームを襲い、響希たちは元より駅に居た人々は悲鳴を上げてその場に蹲ってしまう。揺れの影響でホームの電気が消え、あちらこちらで崩落や地割れが生じる。そして
ギギギギギッ…ガガガガガガッ!!
鈍い金属音を響かせながら、先ほどの動画の焼き直しのように暗がりの向こうから電車が火花をまき散らして突っ込んでくる。
ガコォォンッ!!
電車は勢いそのままに人々を巻き込みながらホームへと乗り上げ、偶然にも響希たちの手前で車両連結部がくの字になる形で宙へと浮き上がった。
ガガ…ギッ!
しかし、その幸運も束の間。無理な体制のまま浮き上がった車両は重力に従いそのまま真下へと落下し…
『響希ィッ!危ねぇーッ!!』
響希のフードから飛び出した蝙蝠のような何かが落下する車両へと突撃するが、その質量差に敵うはずもなくあえなく弾き飛ばされてしまった。
ガキィンッ!
『ぬわーっ!!?』
「『キバット』ォ!!」
暗闇の向こうに吹っ飛ばされた相棒の名を叫んだ響希を嘲笑うかのように
ズドォォンッ!
電車は響希たちへと落下したのだった。
ちょっとばかり主人公の設定を
紅響希…今作主人公。設定は紅渡と同じだが、性格が渡より若干社交的だったためこの世アレルギーを言い出すほどコミュ障ではない。…が、それでも自分の正体について後ろめたいものはあるため必要以上に前に出たがることはあまりない。
響希が生まれる前に近所の志島家に音矢が話をつけていたおかげで中学までは通っていたが、卒業後は義務教育が終わったことを理由に進学せずに音矢と真夜の遺した遺産で生活していた。辛うじて大地とは友達付き合いを続けていたが、その大地にも黙ってファンガイア退治で家を空けることが多かった為かなり疎遠ではあった。
大牙との和解後、高校に入る為に猛勉強し、半ば押しかけで家庭教師を買って出た名護のおかげで大地と同じ高校に編入できた。当初は編入のタイミングもあって避けられていたが、大地が積極的に話しかけてくれたおかげでそこそこ友達は出来た
原作ではピアノが特技だったが、今作ではバイオリンが特技になっている
次回はいよいよ変身します。ではまた