ディフィside
「こちらB-1。今の所、問題無し」
『こちらC-4!問題ありません!』
『……E-6、問題無し』
『あーはいはい、A-3、問題無しっと』
『こら!ちゃんと真面目にやりなさい!これも任務なの!』
『いだだだ!?おいこら、耳引っ張んな!!』
私の通信を起点として、明るめの声、感情のあまり籠もっていない淡々とした声、そしてやる気が無い様な声とそれを叱る声が通信内を行き来する。
思わず頭を振り、溜め息をつく。
危険な相手を追っているというのに、最後の2人のやり取りと来たら……まるで漫才の様。
ここ最近、ミッドチルダにて起こっている連続殺人事件。
曰く、遺体はいずれも惨たらしいまでに斬り傷を付けられていた。
曰く、遺体の状態からして、致命傷はトドメと思われる2つの大きな斬り傷。それ以外の傷は深いものの、何故か急所を全て外している。
曰く、現場付近で男の異常なまでの高笑いを聞いた人がいる。
それ等の情報から、私達レネゲイド課にも声がかかった。
そして情報収集の後、犯人がオーヴァードの可能性があるという事で、現在任務に出ていると訳だ。
おそらくその犯人が中にいるであろう廃工場を監視している。
『……動きはまだ無いようですね』
通信に入る、穏和、というのがよく似合う声。
レネゲイド課部隊長、ユーゴ・ミストライト二等陸佐。
「はい。先程から沈黙のままです」
『まだ詳しい能力は解っていません、注意して下さい』
「了解」
通信を終え、そして再び廃工場を見下ろす。
なかなか動きを見せない敵に、少しばかり苛立ちを感じ始めた時だった。
『……!敵1体を補足。戦闘に入る』
味方から連絡が入った。
その後、ガキン、という何かと何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。
それにしてもおかしい。
先程から、何ら動きは無かったはず、なのに何故?
『マスター、魔力反応を感知。あの廃工場内です』
!
デバイス……「ブレイブギア」の言葉に顔をしかめる。
廃工場に、まだ犯人がいる?
それとも、私達を惑わせる為のブラフ?
……仕方無いか。
今彼のポジションに近いのは、確か……。
「こちらB-1。アヤメ、E-6の彼が襲われてるから、援護に向かって」
『今、もう向かってる!』
それは結構、と内心で呟き、もう一方に続ける。
「私と、A-3は廃工場に向かう。問題無いわね?」
『了解』
『はいはい、任務任務っと』
通信を切る。
次の瞬間、私は空中に身を踊らせた。
重力を操って着地、そして廃工場の入口へと走る。
扉を開け、中の様子を窺う。
ただでさえ今は真夜中、辺り一面が暗さで視界が悪いというのに、それが廃工場の中ともなると否応無しに緊張感が高まる。
「何か」がいるかもしれないと思う分、余計に……。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
笑い声が響いた。
その音源の位置を感覚で掴み、デバイスの銃口を向ける。
ゆらり、と。
それは姿を現した。
ひょろりとした体型。
何故かは知らないが裸である上半身と、ニヤニヤと締まらない笑みを浮かべているその顔はかなり白い。病気と言っても問題が無い位。
そして、一番違和感を放っている、2本の剣。
「……連続殺人事件は、あなたの仕業かしら?だとしたら大人しくして欲しいわね、そうすれば弁護の機会がある」
「ヒャヒャヒャヒャ女だ、肉だ!どうしようかな血祭り、バラバラ?たまんないねヒャヒャヒャヒャ」
これは駄目だ、と私はほんの僅かの可能性をすぐに捨て去った。
会話が成立していない。
完全に理性を失っている。
姿形は人であっても、その精神はもう人ではない。後戻りも出来ない。
ジャームだ。
なら、躊躇う必要も無い。
ここで倒す。
にしても。なら、あの2人を襲っているのは……?
「悲鳴聞かせろおおおおお!」
そんな事を考えている間に、相手は剣を構え、意外に速いスピードで私に迫る。
魔力障壁を……!
ガキン!
……張る必要は無かった。
相手の2つの刃は、1本の刃によって受け止められている。
「悪いが、俺の仲間をやらせる訳にはいかねぇな!」
ボサボサの黒髪をしたそいつは少し笑うと、そのまま敵を弾き飛ばして距離を取る。
「お前を……斬り裂いてやる!」
ついで、気合いの籠もった叫び声と共に幾つもの糸が展開された。
ワイヤーの様に鋭利なそれは、相手にかするようにして命中。
致命傷には程遠いとはいえ、苦痛に相手はグギ、と呻く。
その糸を展開した、長い黒髪、意志の強そうな瞳をした彼女も私の隣に立つ。
ハヤト・タカサキ。
ツバキ・タマノ。
レネゲイド課でも、屈指の実力を誇るオーヴァード。
名前や容姿から、日本人なのかと思ったけど……どうやら、彼等の先祖が日本人で、ミッドチルダに渡り、現地人と結婚したらしい。
さて、改めて敵に意識を集中する。
「ディフィには支援頼んで良いか?俺とツバキで押さえる!」
ハヤトの言葉に了解、と頷き。
次の瞬間、一気に動き出す。
ハヤトが刀を振り下ろし、それを敵は左の刃で受け止める。
ハヤトが右の刃で狙われる、それは私が狙撃する事で阻止。
その隙を突いてツバキが糸を伸ばし、敵にダメージを与えつつ、右の刃を絡め捕った。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
けど、敵は動じない。
相変わらず嫌な笑みを浮かべて左の刃でハヤトと斬り結びながら、そこら辺に落ちている小石を右手で拾い上げる。
と、新しく1本の剣がその手に収まった。
「物質変換……!俺と同じ、モルフェウスか!」
相手の攻撃手段を奪うのは無理、か。
なら、私は2人のサポートに徹しよう。
ブレイブギアに命じて、ガンモードからシールドモードに移行させる。
これで狙撃は出来なくなるけど、代わりにサポート魔法を集中的に強化出来る。
魔法障壁があるから、別に小さな盾の形状なんかにしなくても別に良いのだけれど……そこは、私の小さなこだわりだ。
さて、まずは。
『Gravity hold!』
重力をかけ、敵の動きを鈍らせる。
これだけでも有利にはなるけど、だめ押しをしておこう。
『Shift up、Accelerator!』
重力で時空に干渉。
ほんの僅かだけ、2人の「時」を加速させる。
……ふう、ほんの僅かなのに、やっぱり多くの魔力を消費する。
胸焼けする嫌な感覚と、頭に響く鬱陶しい声を我慢しながら、後は相手を妨害しつつ見守るのみ。
支援の効果は高かった様で、2人はかなり有利に戦いを進めていた。
「おおおおお!」
ハヤトが刀を叩き付け、それを相手は2つの刃で受け止める。
しかし、彼は魔力を刀に注ぎ込み、その刀を防ぐ刃を結晶化、粉砕した。
相手の顔に焦りが見え始める。
ズボンのポケットから何かを取り出そうとするけど、それはガンモードに移行、すぐさま狙撃して妨害。
そしてその隙を、2人が見逃す筈がない。
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
高速の斬撃、そして糸による連撃。
断末魔の叫びと共に、敵は動かなくなった。
「ふぃー……ありがとよ、ディフィ。助かった……って、大丈夫か?」
「心配無いわ。……少し、疲れただけ。それより、あっちに行きましょう……あの2人もまだ戦ってる様だし」
「解った。立てる?」
ツバキに手を貸して貰って立ち上がり、残り2人の下へ。
丁度、戦いは終わる所だった。
1人の少年……右腕を黒い異形に変えた彼が、敵の首根っこを掴み、持ち上げている。
少し離れた所には、結構激しい呼吸をしながらへたり込んでいるアヤメが。……無事みたいね。
「赤き闇に堕ちろ……!」
『Crimson trigger!』
鋭く彼が言い放つと同時、一気に紅蓮の炎が舞い上がった。
残ったのは、白き灰のみ。
……終わった。
ユーゴさんへの報告はツバキに任せ、私は空を見上げる。
相も変わらず、綺麗な星が瞬いていた。
完璧なまでにオーヴァードのターン。
オーヴァードの戦闘の練習をしたかった事と、レネゲイド課の空気化を防ぎたかった、これが理由です。
空気化を防ぐどころか新しいキャラが出てくるのは気にするな!知ってる人にはニヤニヤしていただけると幸いです。
ジャームが街をうろつき始めて、レネゲイド課も忙しくなって来ています。更に裏部隊的な事も増えてきますね。……頑張れユーゴさん。
感想やアドバイスお待ちしております。