調味料は適切に(リリカルなのは短編集)   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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過去にコピ本で出してたり、別サイトで公開してた奴。ハーメルンへの投稿練習を兼ねて、ハーメルン用に少々手を加えたり修正したりしてアップです。

お読み頂いた方達が少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


【StS】ピュアなフリしたラッサムスープ

     1.

 

「何かこういうの久しぶりねぇ~」

 

 上機嫌に鼻歌を歌いながら、彼女は紙面にペンを走らせる。

 

 電子技術魔導技術が発達し、物品や紙面でのやりとりをする情報伝達手段が少なくなり、映像による直接の会話やメールなどの手軽かつリアルタイムに近いやりとりが増えてきた昨今においては、こうやって自分の思いを紙面にしたためるという行為はほとんど廃れてきてしまっている。

 

 それでも、世の中に本がなくならないのは、それを手に持ってその紙面に連なる文字を読み解くと言う行為が、人の人生や思いを読み解くことに似ているから、なのではないだろうか。

 人というのは少なからず、他人の心を理解したいと思うのだ。例えそれが、見ず知らずの作者という存在であったとしても。

 

 自分で書いた手紙の紙面を軽く読み直しながら、彼女は少し顔を赤くする。

 

「改めて読むと少し恥ずかしいわね」

 

 ややクセのある丸っこい文字は――時空管理局からすると犯罪組織扱いである――ファミリーを束ねるボスのクセ字としてはやや可愛いすぎる気もする。

 

 だが、手紙というのはそれが良いのではないか、とも思う。

 電子メールなどでもフォントを選ぶことが出来るし、それで様々な表現をすることも可能ではあるが、それでも手書きによる書き手のクセ字というのは、どんなフォントよりも雄弁に思いを語る。

 

 一字一句。その書き連ねる文字の、書き連ねる文章の、その一瞬。そのひと時の感情が、そこに現われるのだ。

 恋文――などと言われるこの手のものは、スクールに通っている頃は、それなりに流行りもしたが、やはり電子メールや映像通信での手軽さに比べると、面倒くさいという側面から、僅かな間に廃れてしまった。

 

 話を聞く限りだと、それはスクールガール達のある種の通過点らしく、世代の違う女性陣に聞いてみても、自分が関わった関わらなかったは別にして、それなりにそういう出来事はあったそうである。

 その辺りできゃっきゃうふふと盛り上がれるのは、コイバナ好きの女の子らしさと言えるかもしれない――が、まぁ男性陣からはくだらないと冷たい反応だった。余談だが、お前は女の子って年齢かと聞き返すのは禁止である。

 

 それはさておき……それなら当時そういうものをもらったりしたらどう思うのか――と、ファミリーの面々に尋ねようと思ったのだが、だいたい返答が予想付いてしまったので、敢えて聞かなかった。まったくもって面白くない。

 

 それはそれとして――

 

「いやー……青春を思い出すわっ」

 

 うきうきワクワクと筆を走らせた。それはもう、何か本気で恋する女の子に戻ったみたいに。

 

 だからこそ――というべきか、余計な装飾というものはしなかった。

 便箋も封筒も飾り気のない、だけど女の子が使うものっぽいそういうやつを敢えて選んだし、文字を書くのに使ったペンのインクもあくまで黒だ。

 

 思いを伝えるのであれば、余計な装飾なんていらない。

 電子メールなどであった場合は、誰が書いても同じ文字にしか見えないので、逆に装飾が必要かもしれないが、こうした手書きの手紙であるのなら、むしろその文字そのものが思いを伝える装飾の役割を果たすはずだ。

 

「我ながら、ちょっと青臭いかなー」

 

 口では言っているが、少なくとも執筆中はとてもノリノリであったのは事実だ。

 インクが乾いているのを確認し、便箋を丁寧に折りたたむと、それを封筒へ入れてハートマークのシールで封をする。

 

 それから――

 

「んー……」

 

 宛先は敢えて、『私の大好きなあなたへ』とだけして、名前は書かないことにする。差出人も同様に『あなたが欲しい私より』と小さく書いておく。

 

 これで完成。

 

 それをシワが付かない程度にひらひらと動かして、封筒の宛名などを乾かしながら、

 

「ヴェイローン」

 

 自室を出て、弟の名前を呼ぶ。

 

「何だよ」

 

 偶然にもすぐ傍にいたらしく、ぬっと不機嫌そうな顔をした男が顔を出してきた。

 

「この間ゲットした役に立たない携帯転送装置どこにしまったっけ?」

「それなら俺の部屋にあるけどよ……何に使うんだ?」

 

 彼女の問いかけに、ヴェイロンは眉を顰めた。

 それもそうだろう。件の転送装置は、大きいものをまともに転送出来ないのだ。人間を転送しようとすると、せいぜい十メートルちょっと。脱出とか逃げ出したりするのに使えるかと思って手に入れた一品だったのだが、これではあまり役に立たない。そんなものをわざわざ使いたいと言い出したのだから、訝るのも分かる。

 

「んー……この手紙なら、結構な距離飛ばせそうでしょ?」

「確かにな。小さければ小さいほど、軽ければ軽いほど、一応遠くに飛ばせるみてぇだし――たぶん、その手紙なら二十キロくらいか」

「これでもそんなものかー……じゃあ、どっちにしろ届け先の建物の近くまでは行かないとダメね」

「次元世界を跨げるとでも思ってたのか?」

「そうだったら苦労はないのになー……程度には考えてた」

 

 姉の返答にやれやれとヴェイロンは肩を竦めながらも、少し待ってろと告げて自室へと向かっていく。

 

「ふふふのふー……さぁて、ちょっとしたおイタの始まりよ。おねーさん、わくわくしちゃうッ!」

 

 彼女――フィッケバインファミリーのボス・カレンは、それはもう、いたずら大好きの猫が面白いいたずらを思いついた時のような素晴らしい笑顔を浮かべ、自室へ戻っていくヴェイロンの後姿を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

     2.

 

 時空管理局特務六課。

 

 その名の通り、特殊な任務を遂行するスペシャリスト達が集まったといっても過言ではない部隊であり、その構成員の多くは数年前、機動六課という特殊部隊として、ミッドチルダ首都クラナガンを襲ったテロリスト達を倒した英雄部隊の面々である。

 

 とはいえ、彼らとて任務外の通常業務や訓練などの時は、取り立てて特殊な人間などではなく、ごくごく普通の人間だ。

 

 もちろん、こういう部隊であるし、つい先日フッケバインファミリーという犯罪者集団と大バトルをやらかしたばかりである。なので、その後始末として働き続けている人たちもいるのは確かであるが、そこはそれ。

 

 少なくとも、エリオ・モンディアルとトーマ・アヴェニールの両名は、とりたてて慌しいようなことなどなく、二人で談笑しながら隊舎の廊下を歩いていた。

 

「ごめんね、エリオ君。なんかロッカー半分借りちゃって」

 

 茶色い髪の方、トーマが申し訳なさそうにそう言うと、長めの赤髪をうなじの辺りで束ねている長身の少年、エリオは首を横に振る。

 

「元々、私物は少ないから。気にしないでいいって」

 

 トーマはそもそも特務六課の人間ではない。少々込み入った事情があり、特務六課預かりとなっているのだ。一応、便宜上は見習い隊員ではあるのだが。

 

「俺も私物は少ないんだけど……アイシスが面白がって、俺の荷物漁りしてくるもんだから」

「あははは」

「笑い事じゃないって」

 

 そして、その込み入った事情により、トーマはつい先日まで共に旅をしていたアイシスとリリィと同じ部屋で生活をしている。

 

 一応、男と女であるからして、カーテンという仕切りは存在しているのだが、その触れれば揺れるほど脆弱な仕切りの向こうで、アイシスやリリィといった同じくらいの年頃の女の子が着替え等をしている状態というのは、非常によろしくない。年頃の男の子の、健全な脳みそ的な意味で。

 

「気持ちは分かるけどね」

「他人事みたいに言ってるけど、エリオ君だってキャロちゃんと同室でしょ?」

「んー……まぁそうなんだけど。キャロとは兄弟みたいなものだし、わりと一緒にいるコトも多いから、慣れたというかなんというか」

「それ、キャロちゃん聞いたら怒りそう」

「え? なんで?」

 

 思わず聞き返すエリオだったが、確かに最近のキャロは良く分からないタイミングで不機嫌になることがある――と日頃のことを思い返す。

 

 もし、トーマの言う通り不機嫌になる要因が今の発言にあるのであれば、気をつけておいた方が良いかもしれない。

 

「トーマは、キャロが怒る理由――分かるの?」

「何となくは。だけど、俺の口からは言えないかなー」

「そっか。なら聞かないけど」

 

 是が非でも聞き出した方が身の安全は確保出来そうではあるものの、言いたくない人に無理やり口を割らせるというのは、エリオの性格上出来ることではない。

 

「話は戻すけど、キャロだって時々僕の私物に興味持つから、あまり僕のロッカーも安全とは言えないよ?」

「でも、キャロちゃんなら黙ってこっそりと覗いたりとかしないよね?」

「うん、まぁ。たぶん」

 

 うなずきつつも返事が曖昧だったのは、誰かに乗せられてしまえば、結構一緒にやりそうな予感がしたからだ。

 機動六課時代であれば、スバルやティアナがそそのかしたりする可能性もあるが、今はあの二人もそれなりの地位もあるし、そういういたずらをする歳でもないだろう。

 

 だけど、キャロはそうでもない――年齢や管理局員としての肩書きや地位に関してエリオも人のことは言えないが――。

 起動六課時代以上に、そういうのに興味があるようなのだ。

 

 そこに、アイシスという起爆剤と出会ってしまっているので、きっかけ次第ではキャロもそういうことをしかねない――気がする。全ては憶測であるのだが。

 

 そんな感じで、年少チームの少年組は、女の子に振り回されて困るという、聞く人が聞けば怒りかねない話に盛り上がりながら、食堂へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

     3.

 

 そして、年少チームの少女組。

 

「ふふふ、ここはロッカールームッ!」

「うん、それは見ればわかるけど」

 

 黒髪に小さなポニーテールを作っている少女、アイシス・イーグレットがややテンション高めに告げると、その横にいた桃髪の小柄な少女、キャロ・ル・ルシエが正反対のノリで嘆息する。

 

「男の子が女の子を気にするように、女の子だって男の子のコトが気になるわけです」

「うん、まぁそうだね」

 

 アイシスにちょっと付き合って欲しいと言われ、連れてこられたのが男性用のロッカールームなのだから、キャロとしてはどう反応して良いか分からない。

 ちなみにロッカールームとは言うが、別にシャワールーム傍に設置してあるものではなく、単純な私物置き場みたいなものだ。

 

「キャロさんは、エリオさんのコト気にならないの?」

「どーゆー意味で?」

 

 いまいちアイシスの行動や質問の意図が分からずに、キャロは問い返す。

 

「主に私物とか」

「それは気になるけど、でも勝手に見るのはどうかと」

 

 無論、ロッカーには鍵だって付いている。アナログ式ではあるのだが、今の時代、かえって電子ロック等よりは安全かもしれない。

 

「こんなアナログ式……このアイシスちゃんに掛かれば……」

 

 なにやら針金でガチャガチャやると、ロッカーの内側からガチャリという音が聞こえた。

 

「ちょ、ちょっとアイシスッ!?」

「私だって気になるわけですよ。トーマの私物とか……というわけでオープン!」

 

 キャロの制止もむなしく、アイシスは勢い良くロッカーを開く。

 

「あれ? いつもよりモノが少ない……」

「いつもやってるの?」

「気が向いた時とか。時々モノが増えたり減ったりして面白いですよ。時々、エッチな本とかもありますし」

「え、えっちなほんって……」

「話によると、ちょうど今くらいが一番えっちぃコトに興味あるみたいです。男の子って」

 

 赤くなるキャロに、少し口元を綻ばせつつそう告げるアイシスは、トーマのロッカー漁りに飽きたのか、それを閉め、ちゃんと鍵を掛けなおしてから、別のロッカーを見遣った。

 

「アイシス? なんでエリオ君のロッカー見てるの?」

「だって気になりません?」

「えっと、まぁ――気にならないって言ったら嘘になるけど……」

「私も気になりますし」

「気になるッ!?」

「あ、そーゆー意味じゃないですから安心してください」

 

 告げて、アイシスはエリオのロッカーの鍵穴をガチャガチャと弄り始める。

 

「そんなワケでエリオさんのロッカー、オープン!」

「アイシス。やっぱり勝手に開けたらダメだってー!」

「あー、やっぱりトーマと同じカンジだなー」

 

 結局、キャロの制止は虚しくロッカーは開いてしまう。

 

「ダメだってこんなのー」

 

 口ではそう言いながらも、やはりキャロは気になるのか、ロッカーの中をまじまじと覗き込んでしまっているので説得力の欠片もない。

 

「あれ? トーマの荷物が混ざってる? さては、私対策かなトーマめぇ……」

「こ、この、本……」

 

 スタイルの良い裸の女性が、右手で左の二の腕を掴みつつ胸を、左手で股間を隠している写真が表紙になっている本を見て、キャロが顔を赤くしながらあたふたしている。

 良く良くその表紙の女性を見てみると、青髪のショートカットで、裸ながらもどこかボーイッシュな雰囲気を持っている気がする。

 

 アイシスは、まだエリオと出合って間もないが、それでも彼の趣味とは少し違う気がして、ふと思う。

 

 ――そして、それが何となく誰かに似てるなと思った時、その本の持ち主に気が付いた。

 

「あー……それ、たぶんトーマの私物かと」

「いや、でも、えっと……」

 

 そう告げても、軽いパニックから復帰出来ないのは、この小さな年上さんはこの手のモノに耐性がないからかもしれない。魔導師としての能力とこういうものはさすがに関係ないようだ。

 

 まぁアイシスもアイシスで、パニックになってないだけで、顔が赤くなっているし、その自覚もあるのだけれど。

 表紙の写真そのものよりも、その表紙と一緒に書かれている内容を示唆した煽りが、余計なものを想起させるせいなのかもしれないが。

 

「エリオさんは、こーゆーの持ってないのかなー」

「エ、エリオ君は、こーゆー本、持ってない……はずだもん!」

「そう思いたいですよねー」

 

 ニヤニヤと笑いながら、アイシスはロッカーを漁る。もはや制止する意志がすっかりなくなっているキャロと一緒に。

 アイシスは面白がって、キャロはエリオを真面目男子であると信じて、ロッカーを漁っていると、どこからともなく白い封筒が落ちてきた。

 

 ひらりと舞って床に落ちるそれに、キャロとアイシスは顔を見合わせる。

 それから、アイシスは興味津々とばかりにそれを拾い上げた。キャロは不安そうに、アイシスが拾ったそれを覗き込む。

 

『わたしの大好きなあなたへ』

 

 封筒の表にはそう書かれている。

 

「こ、これはーっ!」

「そ、そんなー……」

 

 相変わらず両極端な反応をしながらも、興味そのものは二人とも失せることはない。

 

「差出人は誰かなー?」

 

 アイシスが楽しそうに裏を見ると、

 

『あなたが欲しいわたしより』

 

 と、書いてある。

 

「誰よッ!!」

「誰ぇッ!?」

 

 それから、二人は少しだけ眉を顰める。

 

「これ、エリオさんとトーマ……どっち宛てなのかな?」

「エリオ君のロッカーに入ってたら、エリオ君宛てだとは思うけど……」

「トーマは荷物をごちゃっとエリオさんのロッカーに放り込んだだけっぽいから、混ざっててもおかしくはないんだよねぇ……」

「…………」

「…………」

 

 僅かな沈黙。

 そして、沈黙のままアイシスはエリオのロッカーを閉じて鍵を掛けなおした。

 

「この時間――二人は食堂……よね」

「うん。一緒に、食堂行くって言ってたし」

 

 ロッカールームの時計を見ながら呟くアイシスに、キャロがうなずく。

 

「中は……さすがに、見ちゃうのは失礼か」

「気になるけど、そこまでやっちゃダメだよ」

 

 ロッカーを覗くまではイタズラで済むだろうが、まだ開封されてない手紙を勝手に開いて見てしまうのは失礼すぎる。手紙の差出人に対しても、エリオやトーマに対しても。

 

 まぁ持ち出してしまっている時点で、礼儀もなにも無い気がするのだが、そこまでのことを、今の二人は気にする余裕を失していた。

 

 キャロもアイシスも、自分では良く分からない苛立ちを胸に秘めつつ、食堂を目指すべくロッカールームを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

     4.

 

「ありゃー……これは想定外」

 

 口調こそ困っているが、その表情は楽しそうである。それはもう、楽しみにしていたおもちゃを買ったら予想以上想像以上に面白かった子供のような、そんな顔だ。

 

「あの女共信じられねぇな――なんで勝手に他人のロッカー漁ってんだ?」

 

 一人じゃ嫌だからという、ワケノワカラネェ理由で連れて来られたヴェイロンは、様子を窺っていたモニターから目を離しつつ、低く呻いた。

 

「思春期の女の子ってそんなものよ?」

 

 それに対し、この場へと連れて来た張本人であるカレンは楽しそうに告げる。

 

「オレの学生時代の同級生とかも、オレの知らねぇとこでやってたってコトか?」

「可能性はあるわね」

「ゾッとしねぇなおい」

 

 出来る限り当時の女子達を思い出さないように頭を振って、改めてモニターを見遣る。

 

「んで、姉貴。これに何の意味があるんだ?」

「んー……」

 

 ヴェイロンの問いに、カレンは下あごに細長く綺麗な人差し指を当てて少し思案してから、何か閃いたように軽くうなずいた。

 

「古来より伝わる、先人達の素晴らしい言葉があるコトをヴェイは知らない?」

「あン?」

 

 意図の読めない姉の問い返しに、ヴェイロンが眉を顰めると、彼女はニマァと口を歪ませながら、その素晴らしい言葉とやらを口にした。

 

「ひ・ま・つ・ぶ・し」

「帰る」

「あー! ヴェイぃ~帰らないでぇ~」

 

 即座に立ち上がり踵を返すヴェイロンの足に絡みつくように、カレンは抱きついてそれを制する。

 

「うるせぇ離せ!」

「おねーさん一人にされると寂しくて死んじゃうからぁ~」

「なら丁度いい一度死んでその馬鹿直してから帰って来い!」

「あ~んもぅ~ヴェ~イ~ロ~ンンー!」

 

 敵対しつつ利用させてもらってる特務六課の連中には見せられないし、見せたくない光景だ――そんなことを思いながら、抱きついて駄々を捏ねる姉を引き剥がす作業をしつつ、ヴェイロンは深く深く嘆息するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

     5.

 

 食堂にて、エリオとトーマが注文した料理を丁度食べ終わった時――

 

「エェリィオくぅぅん」

「トォォォマァァァァ」

 

 何やら、もう不機嫌を通り越したすごい顔をしてるキャロとアイシスがやってきた。

 そのあんまりにもあんまりな形相に、思わず二人は飲んでいた水を吹き出してしまう。

 

「ふ、二人とも……ど、どーしたの?」

「別に」

「特になにも」

 

 嘘だ――と、エリオとトーマは思うもののそれを口にする勇気を彼らは持つことが出来なかった。

 

「これ」

 

 そして、席に着かずにアイシスが一枚の封筒を差し出してきた。

 

「エリオさんのロッカーから出てきました」

「僕は現時点でツッコミを入れたい」

 

 思わず呻くエリオだったが、アイシスは聞く耳持たずに続ける。

 

「トーマの荷物もエリオさんのロッカーに入れてるんだよね」

「えーっと……」

 

 エリオのロッカーを開けられている時点で言い逃れもなにもないのだが、トーマは思わず目を泳がせて、言い訳などを色々と巡らせる。

 

「そんなワケでこれがどっちの持ち物なのか教えて」

 

 メラメラと何やら瞳に炎を灯しながらこちらを見てくるキャロ。アイシスもだいたい同じような表情をしている。

 

「どっちの持ち物って言われても」

 

 とりあえず、エリオは差し出された封筒を手に取った。

 宛名も送り主の名前も分からないその封筒は、だけど雰囲気から何であるかは知れる。

 

「これ、ラブレター!?」

 

 思わずトーマがテンションを上げるが、アイシスに睨まれて上がった分の倍の数値分マイナスされた。何でこんなに睨まれるのかわけが分からない、と思いつつ怖いことには変わりないので口を噤む。

 

「これ、トーマのだよね?」

 

 周囲に女性の多い生活が長いエリオは、即座に状況を判断してトーマにその責任を擦り付ける。

 相手が女性であるのならともかく、トーマのような同世代の男友達なので、気兼ねがない――そんなわけで、彼には自分の身代わりにアイシスとキャロの雷をもらってもらおう。

 

 即座にそういう思考が出てくる程度には色んな経験を積んでいるエリオであったが、

 

「え? でも、ロッカーはエリオ君だったんだから、エリオ君宛ての可能性もあるよね?」

 

 自分と似たようなオーラを出しながらそう返してきた。

 迂闊だった――と、エリオは胸中で舌打ちする。

 

 考えてみれば生い立ちは違えど、トーマは自分と似たような境遇で育って来たのである。そして、彼の人生もまた周囲に女性が多い人生なのだ。こういう状況下での突破方法として、同じようなことを考えていてもおかしくはない。

 

 現に、トーマの目からは――

 

(自分だけ逃げようたってそうは行かないよ?)

 

 という意志が伝わってくる。これは中々手強い。

 

「ふーん……二人とも知らないんだ?」

 

 ずずいと顔を近づけて訊いてくるキャロに、二人は無言でぶんぶんと頭を縦に振る、

 

「中を見てもいい?」

 

 不機嫌になりながらも、勝手に開けずちゃんと訊いてくるのはキャロらしいというかなんというか――まぁこの迫力の前にダメだという言葉を吐けないので、二人は何度も首肯するしかないのだが。

 

 そうして丁寧に封筒を開けて、中から出した便箋を読み始めるキャロ。

 

 何だか徐々に顔を赤くしていっている。

 

「……?」

 

 エリオとトーマが訝っていると、よほど気になったのかアイシスがそれを横から覗き始めた。そんなアイシスに、キャロは便箋を手渡す。

 

 それを読み進めたアイシスもまた、顔を赤くし始めていく。

 どうやら、あの手紙のおかげでキャロとアイシスの怒りは静まったようであるが――

 

「エリオ君ッ、トーマッ!」

「「は、はいッ!」」

 

 先程までの不機嫌さが嘘のように真面目な調子になったキャロに呼ばれ、二人は思わず背筋を伸ばす。

 

「こんな手紙をもらっておきながらどっちのモノか分からないなんて失礼ですッ!」

 

 そもそも勝手にロッカーを覗くのは失礼じゃないのか――なんてツッコミはもはや野暮以外のナニモノでもなさそうなので、口にはしないが。

 

「そうだよ! こんな可愛い手紙まで書いてるのにッ!」

 

 色々と納得しかねるのだが、真面目な上に女性に対してあまり強気になれない二人は黙って聞くことしか出来ない。

 

 フッケバインのヴェイロンや、あるいはカレン。そうでなければ、エリオ達の上司であるはやて辺りならば、ロッカーの件を理由に反論し、逆に相手を説教して有耶無耶にした上で手紙を回収。その後、暫く姿を晦まし、ほとぼり冷めた頃に帰ってくるといった強引な手段を講じるのだが、エリオとトーマはそういう捻くれた手段が取れない真面目な人間なのである。今はその真面目さが足を引っ張っているのであるが。

 

 この状況を打開する手段はもはや第三者の乱入しかありえない。

 誰でも良いから来て欲しい――そんなことを思いながら、エリオとトーマは大人しくキャロ達に怒られていた。

 

 そこへ、救いの女神かもしれない人がやってくる。

 

「あれ? 四人で何してるの」

「スゥちゃん!」

「スバルさん!」

 

 思わず目を輝かせるトーマとエリオ。よっぽど二人からの理不尽なお説教に参っていたらしい。

 

「えと? 何?」

 

 何やら真面目な顔をしているキャロとアイシス。雨に濡れた子犬が近くを通る人を見上げているかのようなエリオとトーマ。その二組の間に視線を巡らせつつ、スバルはどうリアクションとって良いのか分からずに頬を掻いた。

 

 その時、スバルの目に映ったのはテーブルの上の手紙だ。

 

「なにこれ?」

 

 それをスバルが手に取るのを、四人はそれぞれの思惑の中で『しまった!』と頭を抱えたり舌打ちをしたりする。

 そしてそれにスバルが目を通してる間に、トーマはエリオへ思念通信を送る。

 

《エリオ君。スゥちゃんが読んでる今のうちに逃げない?》

《でも、それをしたらキャロ達が……》

《ほとぼり冷めた頃に戻ってくればいい気がするんだ。今怒られ続けるか、もしかしたら怒りが収まってかもしれないことを希望に逃げるか、だよ》

 

 エリオは僅かに逡巡した後に、トーマにうなずく。

 

《それじゃ、そうしよう》

 

 念話で告げてエリオはトーマの手を取ると、高速移動(ソニツクムーブ)を起動して食堂から逃げ出した。

 背後からキャロとアイシスの叫びとも怒声とも取れる声が聞こえるが、それを無にして隊舎の廊下を駆け抜ける。

 

「キャロ!」

「アイシス!」

「「ごめーん!!」」

 

 二人は律儀に謝罪しながら。

 

 

 

     ♪

 

 

 

「あははははは……! オトコのコ達は大変だねぇ……!」

「まさかその厄介ごとの原因作った女がこっそり様子見ながら腹抱えて爆笑してるだなんて夢にも思ってねぇだろうよ」

 

 やれやれと嘆息しながら、ヴェイロンはターゲットにされたエリオとトーマに思わず同情してしまうのだった。

 

 

 

 

 

     6.

 

 食堂からだいぶ離れた場所まで移動したところで、エリオはソニックムーブを解除する。

 

「とりあえず、逃げてきちゃったけど」

「どうしようか」

 

 顔を見合わせ、二人して頭を抱えた。

 正直言って、このままほとぼり冷めるまで姿を晦ませるのが一番ベストな気がして仕方がない。

 まぁ現実的に考えてさすがにそれは無理なのだが。

 

「差出人を探す、とか?」

 

 トーマの言葉に、エリオは肩を竦める。

 

「見つけてどうするの?」

「えっと、どっち宛てにだしたのって……」

「訊いてどうするの?」

 

 二度目の聞き返しに、トーマはお手上げだと、両手を挙げて示した。

 途中でトーマも気付いたのだろう。それは差出人に対して極めて失礼なことだ。

 

 あれが本当にラブレターなのだとしたらなおさらである。それに――

 

「悲しませないように断る方法が思いつかないしね」

 

 エリオの言葉にトーマはうなずく。

 最初からあの手紙――のみならず、この手の手紙は、断るつもりでいたのだ。

 

 特に二人もこれといった理由はないのだが、思春期の少年がそれなりに悩み、出してきた答えなのである。

 その思考の奥底には、自覚がなくとも誰かしらへの仄かな恋慕が含まれているのかもしれないが、それは本人達すら知る由もない。

 

「それに、探すって言っても手紙は食堂に置いて来ちゃったしね。手がかりとか何もない」

 

 付け加えるのならば、自分達は中身をまともに見ていない。

 チラ見すらしてない手紙から筆跡で人を探すことなど、不可能だろう。

 

「それもそうだね」

 

 二人はぐったりと嘆息する。

 本気でどうしよう――そんなことを二人が考えていると、二人の傍に突如魔法陣が展開された。

 

「!?」

 

 驚き硬直するトーマと、即座に思考を臨戦モードに切り替えるエリオ。

 だが、その魔法陣は――

 

「キャロちゃんの……召喚陣?」

 

 そう、キャロが使用する特殊な魔法。召喚術の魔法陣だ。

 しかし、このタイミングで展開されるこの魔法陣はいったいなんなのだろうか。

 

 その疑問も、ほどなく解答を得る。

 

「みーつけた」

 

 魔法陣から出てきた人物の放つ、獲物を見つけた肉食獣のような低くも、喜びを隠し切れないような声に、二人は思わず顔を引き攣らせた。

 

「「ア、アイシスー!?」」

「だけじゃないんだなぁ」

 

 その言葉に呼応するように、術者本人もまたその魔法陣から現われた。

 

「自分を他所に召喚するって、やってやれないコトないんだね」

 

 ニコッ――と笑うキャロであったが、二人はその笑顔が黒いものに見えてしかたない。

 

「何で二人とも逃げるのかなぁ?」

 

 そんなの二人が怖かったからに決まってる――という言葉は、エリオもトーマも喉の奥から出てこないように、グッと答えた。

 

「ふーん、答えないんだ」

「それじゃあ二人とも、もうちょっと私達とお話しましょうか?」

 

 顔の上半分に影を降ろしながらも、いつもどおりの笑顔を浮かべるアイシスとキャロに、トーマとエリオは情けなくも、素直にうなずいてしまうのだった。

 

 

 

     ♪

 

 

 

「修・羅・場~♪ 修・羅・場~♪」

 

 ぬふふふふ~んっと鼻歌交じりに観察してる姉の姿を見、

 

「本気で、何でそんな楽しそうなんだよ……」

 

 いい加減、トーマ達が哀れに思えてきたヴェイロンは大きく嘆息する。

 その時、ふと目の端が捕らえた違和感に眉を顰め、その原因を探す。

 

「……これは?」

 

 目に映ったのは、特務六課で起きているドタバタ悲劇の原因を作るのに使った転送装置。

 何故それを違和感に思ったのか、訝しみながらヴェイロンは手を伸ばし、その理由に気が付いて、ますます眉間の溝を深めた。

 

「なぁ、姉貴――」

「なぁにー?」

 

 上機嫌に振り向くカレンとは対照的な引き攣った笑みを浮かべながら、

 

「こいつ、何だと思う?」

 

 ヴェイロンはその転送装置の中にあるモノを指差した。

 

「あれ?」

 

 指されたものを見て、カレンは思わず子リスのように可愛らしく首を傾げる。

 そこには、自分が書いたラブレターがそのまま残っていた。

 どうやら、転送に失敗していたらしい。

 

「じゃあ、あの騒ぎ……何?」

「俺が知るかよ」

「ま、いいわ」

 

 うふふーっと、上機嫌のままカレンは転送装置の設定を弄ってから、改めてボタンを押す。

 どうやら今度こそちゃんと飛んでいったようだ。

 

「今さらかよ」

「このタイミングだからよ」

 

 言って、カレンが示す特務六課の様子を見遣れば――

 

 

 

      ♪

 

 

 

 キャロとアイシスによる理不尽なお説教の最中、四人の頭上に何か光が現われた。

 

「?」

 

 思わず四人が見上げると、その光は収まりそこから一枚の便箋が落ちて来る。

 それをアイシスが手を伸ばしてキャッチした。

 

「ア、アイシス……さすがに、無警戒でのキャッチって危険じゃない?」

「うん……今、わたしもキャッチしてから思った」

 

 エリオの指摘に、アイシスは思わず苦笑する。

 あからさまに怪しい光から出てきた手紙。それが単なる手紙であるとは限らないのだ。

 

 管理局の施設とはいえ、何らかの手段によって、敵対している組織がこういったものを送り込んでこないとも限らない。

 

「でも、一応、何の仕掛けもない手紙みたいだけど……」

 

 とはいえ、今の騒ぎの原因になっているラブレターといい、このどこからともなくやってきた手紙といい、紙による意志伝達というのは珍しい。そんなものが二つも、自分達の手元にあるというのも、非常に稀有な事態といえるかもしれない。

 

 それはそれとして――と、アイシスは手紙の宛名を見る。それをキャロが横から覗き込む。

 

『私の大好きなあなたへ』

 

 アイシスとキャロの様子を見ていた男子二人は、空気がより冷たくなったことに気が付き、思い切り顔を引き攣らせる。

 無言で、アイシスは便箋の裏を見る。

 

『あなたが欲しい私より』

 

 確信する。アイコンタクト。エリオはトーマの手を取る。そこまでの流れは食堂と同じ。そして次の展開も――

 

《ソニックムーブッ!》

 

 これ以上は危険だと判断した二人は、高速で廊下を駆け抜ける。

 そんな男子二人を、

 

「エリオ君ッ!!」

「トーマァッ!!」

 

 二つの叫びが追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

     7.

 

「何や騒がしいなー」

 

 特務六課部隊長八神はやては、ベッドの上に身体を起こし読んでいた書類から顔をあげ嘯いた。

 

「表情と口調がチグハグですけど?」

「いやー、若い子が元気なのはええコトやな」

 

 ずっとこの医務室のベッドに居たはずなのに、全部分かってるような口調の上司に、ティアナ・ランスター執務官は思わず頭を抱えた。

 

「上手いことやってくれてありがとなー」

「本当にこれでよかったんですか?」

「アイシスちゃんは、トーマとリリィ以外にはまだ心開けてへんようやったからな。こういう馬鹿騒ぎにでも巻き込まれれば、少しは壁も薄くなるんちゃうかな、と」

「巻き込まれる……というか、中心人物ですよ」

「そこは嬉しい誤算や」

「絶対嘘ですよねそれ」

 

 エリオかトーマの私物ロッカーの中にラブレターを入れておけば、アイシスの心の壁が薄くなる――最初にそう言われた時は、このちびたぬ隊長は一体何を言っているのかと思ったものだが、よもやこんなドタバタ騒ぎを想定していたとは、完全に予想外だった。

 

 こうなることを初めからから想定した上で、わざわざティアナにラブレターを入れてこいと言ったのだろう。

 

「誰も見てなかったからとはいえ、正直、すごい恥ずかしかったんですけど」

「まぁあれを書くとき私も恥ずかしかったんでおあいこっちゅうコトにしてくれへん?」

 

 もっとも、ティアナが恥ずかしがるのも想定のうちだ。むしろ、意味もなくドギマギしてる様子を隠れ見ていたとは、はやては口が裂けても言う気はないが。

 

「あれ、はやてさん直々の執筆だったんですか」

「書いてる時は思わず昔を思い出してもうた」

「やっぱりそうなります?」

「まぁなー……ほんっと、男子なんてクロノ君となのはちゃんのお兄さんに、ロッサくらいしか縁なかったなぁ思うと、悲しくて悲しくて」

「ナカジマ三佐はそこに入らないので?」

「ティアナは今の三人の中に師匠を加えても問題ないと?」

「ごめんなさい」

 

 半眼になって睨まれ、思わずティアナは謝った。

 

「話戻すけど、有事が起こればエリオとキャロもプロやしな。ドタバタモードから仕事モードに切り替えられるやろ。二人がシリアスやってれば、トーマとアイシスだってとりあえずはドタバタを止めるやろうし、しばらく放っておいても問題あらへんよ」

「分かりました」

 

 一つうなずいてから、ティアナは苦笑する。

 

「あの、聞いても?」

「何や改まって」

「部隊長って、そこまで部下に気を回せないと出来ないものです?」

「そんなコトあらへんよ。自分が出来へんのやら、出来る副官や部下がおればええ。全部が全部自分で出来るような部隊長なんておらへんって。

 私が色んなコトを全部出来てるように見えるんやったら、それはティアナの見てないところで、他の部隊員達が色々やってくれてるだけや。私はそれをまとめとるだけなんよ」

 

 その言葉に少しだけティアナが安堵したところへ――

 

「エリオ君ッ!!」

「トーマァッ!!」

 

 廊下の方から二人の少女の大音声が聞こえてくる。

 

「いやー……エリトマコンビの災難やなぁ」

 

 しみじみと、だが笑いを堪えながら呟く部隊長に、

 

「原因が何を言ってるんですか、まったく」

 

 カレンに対するヴェイロンと似たような表情で嘆息するのだった。

 

 

 

 

【Love Letter Panic!! Ver.Force - closed.】

 




アップしといて何なんですがForceSSの需要ってどんなもんなんでしょうね?

何はともあれ、ここまでお読み頂きましてありがとうございます。

今後とも、某所で公開してるモノや過去に同人誌で出したモノ等をちょいちょい、ここで公開していこうかと思っておりますので、その際にはよろしくお願いします٩( 'ω' )و

では。
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