調味料は適切に(リリカルなのは短編集)   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

3 / 9
前話で「解決編は後日そのうち」と言ったな……アレはウソだ。
……というか、前半だけで放置しちゃうのも座りが悪くて舌の根が乾かぬうちに公開するコトにしました。

こちらは解決編です。先に問題編から読み始めるコトをオススメします。

はやてたち五人がとあるホテルに泊まった時のこと、殺人未遂事件が発生。
はやては事情聴取される中で、手元にある情報から事件の推理を始め――現場を改めて確認して、一つの気づきを得る。そこから事件の全貌が見えたのだが……その背後に次元犯罪者の影も見えて……?

仲良し五人組以外の登場人物は基本的にオリジナルキャラとなっております。

初出はコピー本 平成24年 10月7日のイベントで発行したものです。


【中2】魔導探偵はやての事件簿~花に沈む書道家~解決編

    9.

 

「さて、それでは話してもらいましょうかしら? あなたの推理を」

 

 階段の前まで来たところで、水樹警部補にそう促されたはやては、ひとつ頷いてからかたり始める。

 

「まず――この事件は、犯人と、それとは別の人物の誤解によって、花が散らばるという奇妙な形が出来上がっておるっちゅうコトを先に言っておきます」

 

 全員が訝るような顔を見せる中、はやては廊下に飾ってあるアレンジメントからアヤメを一つ抜き取った。

 

大河内源慈(おおこうちげんじ)さんは、自分が死ぬのだと思った時に、何かしらの理由でら自分の持っていた花束をバラして、そこからアヤメを握り締めたちゅうんは、みんな知ってる通りや」

 

 ピコピコと、アヤメを手で弄びながらはやては続ける。

 

「でもそれは、ダイイングメッセージなんかやなかった。まぁ正しく言うなら、死の間際に残そうとした言葉やからダイイングメッセージで間違いないんやけど、別に犯人を示す意味のある言葉ではあらへんかったんや」

「なんだって……?」

 

 みんなを代表するように声を上げる神河氏。それに答えるように、はやては視線を彼に向ける。

 

「別の意図があって握られたそれが、たまたまアヤメだっただけなんや。そやけど、たまたま通りがかりに血を流して倒れてる大河内さんを見かけた人は、それをダイイングメッセージだと勘違いしてもうた」

 

 視線だけでなく、身体も神河氏に向きなおすと、はやては手で持っていたアヤメを彼に投げた。

 

 それを思わずキャッチする神河氏。

 はやては彼がそれを受け取るのを確認してから、真っ直ぐに見据えて告げた。

 

「そやろ? 神河春秀さん」

「…………」

「貴方は何かアヤメさんとイザコザがあった末のコトではないかと、そう勘違いして、その手からアヤメを取ろうとした。

 せやけど、それが上手くいかず千切れてしもうたんや。焦りながらも、それでもアヤメさんをかばう一心で、方法を考えた。それが、十五階にあったアレンジを倒れてる大河内氏の周囲にぶちまけるコトやったわけや」

 

 千切れてしまったものは仕方ないが、不自然に千切れた花を握られているというのは、警察も何か疑う可能性がある。

 

「そして花束に使われていたアヤメだけ回収し、それ以外のばら撒いた花だけでなく、花束からアヤメだけを回収した」

 

 千切れているとはいえ、握られていたのはアヤメだ。手から回収され、周囲にアヤメが散らばっていれば、それがアヤメだとバレてしまう。

 

 それを誤魔化すための苦肉の策であったのだ。

 

「だけど、なんで十五階なのよ? アレンジだったら十四階にも飾ってあるでしょ?」

「うん。アリサの言う通りだと、私も思うけど」

 

 アリサとフェイトの金髪コンビに、はやては首を横に振った。

 

「出来なかったんよ。物理的に――ではなく、心理的に、な」

 

 何故ならば、十四階のアレンジメントにはアヤメが使われているのだ。

 

「それをぶちまけるいうコトは、花束からわざわざアヤメを回収した意味がなくなってまう。それに、アヤメが落ちていればアヤメさんへの疑いをより深くしてまうかもしれへん。そう思ったんやろうな。そして、同時に自分がしてしまったコトの罪悪感から、逆に警察や救急に連絡するのが怖くなったしもうたんや」

 

 そうして、慌てて部屋に戻った。

 自分以外の誰かがいずれ見つけてくれる――と。既に死んでしまっていると思い込んでいたが故に。

 

「その通りだよ……。まさかあの時点でまだ生きてるなんて思いも見なかった」

「なぜ、確認しなかったのかしら?」

 

 警部補の言葉に、彼は自嘲気味に口の端を小さく動かしてから答えた。

 

「アヤメが握られているコト。そればかりに気を取られてしまったんですよ」

「ハル……」

 

 彼の取った行動は間違っている。間違っているが、それでもアヤメのことを第一に考えての行動だ。

 

 それを理解出来たからこその、複雑な表情で、アヤメが彼の名前を呟く。

 

「それで、その後にはやてちゃんがオジサンを……」

「いや。それもちゃう。その次に、発見したはアヤメさん。貴女やろ?」

「…………」

「そして、貴女は神河さんがやったのではないかと、そう思った。アシスタントをしとったアヤメさんは大河内氏の周囲にばら撒かれた花が、十五階のアレンジなんやとすぐにわかったんやろな」

 

 アレンジが不自然に一つ無くなってることが、神河氏へ繋がってしまうかもしれない。そんな想いから、彼女は近くにあった十四階の花の半分を十五階に持っていって飾ったのだ。

 

「でも、私じゃない……私は、あくまで花の半分を上に持っていっただけ……」

 

 下唇を噛み締めながらのアヤメの言葉に、はやては分かっていると頷いた。

 

「そうやな。確かに神河さんとアヤメさんのやったコトは、犯罪や。そやけど、大河内氏を殴ったのは別の人や」

 

 全員が息を呑む。

 

「犯人はたぶん、衝動的に殴ってもうたんやろ。そやけど、それで殺すことは出来へんかった。殴られた大河内さんは、犯人から逃げる為に近くの階段へと駆け寄った」

 

 その時、殴られた痛みと薄暗い廊下という状況のせいで、階段から足を踏み外したのだと思われる。

 

「階段の踊り場に倒れた大河内さんの様子を本心では見に行きたかったんやろうけど、体質的にそれが叶わへんかった」

 

 体質と、血を流して倒れる大河内氏の両方からくるストレスとプレッシャーで、結局、犯人はその場から逃げ出した。

 

 そのせいもあり、大河内氏は意識を失う前に、花束をバラし、花を握り締める猶予が出来たのである。

 

「その犯人の体質というのは?」

 

 水樹警部補に訊ねられ、はやては答えた。

 

「高所恐怖症や」

 

 多くの面々が訝る中で、いち早くなのはが階段の踊り場を見遣る。

 

「踊り場の壁は、ガラス張りだからだね」

「せや。夜とはいえ、そこから眼下を見れるんや。そのせいで怖くて倒れた大河内さんに近寄れへんかったんよ」

 

 そして、そこから奇妙な偽装の連鎖が始まってしまったのである。

 

「そうやろ? 大河内真百合(おおこうちまゆり)さん?」

 

 いつの間にか泣くのを止め、愕然とした視線をはやてに向けている真百合にみなの視線が集中した。

 

「最初に、どうして花をばら撒いたのか――それを考えとったんやけど、そもそも花をばら撒く余裕があるんやったら、なんでダイイングメッセージを残させるようなことをしたのか、思ったんよ。もしかして、殴った犯人と花をばら撒いた犯人は別におるんやないかってな」

「でも、それじゃあ私が犯人だなんて……」

 

 何かを言おうとした彼女に、はやては首を横に振った。

 

「まぁまぁ――最後まで聞いてくれてもええやろ? 真百合さんが高所恐怖症やないかと思ったんは、昨日の夕方、エレベータ待ちをしながら、大河内さんに叱られとった時や」

 

 彼女はエレベータに乗るのを躊躇っていた。それに対して、大河内氏はそれを怒ることなく、手を差し伸べていたのを思い出したのである。

 

「たったそれだけのコトで?」

「確かにたんにモタモタしとるだけやったら、そうは思わへん。せやけど、大河内氏はそれまでの怒りが嘘のように消えうせ、真百合さんに手を伸ばしたんやろ? その直前に、妹さんと一緒に橋から落ちたとも聞いてたからな。その可能性はあるんやないかって――そう思ったんや」

 

 そこまで告げてから、はやては軽く息を吐いて、震える真百合を真っ直ぐに見つめた。

 

「殴るのに使ったもんはまだ処分出来てへんやろ?」

 

 衝動的なものだった故に、部屋に戻って落ち着いてくると逆に怖くなってきたに違いない。部屋のすぐそばにある階段で、先ほど自分が殴った父親がいるのだと思うと、怖くて外に出れなかった可能性が高い。

 

「どんなにキレイに洗ってもルミノール反応はそう消えるもんやない。きっと、習字道具の中にある鈍器に使えそうなものから出て来るはずや」

 

 部屋の中ではそうそう処分できるものでもないだろう。窓から投げ捨てるという方法も取れなくはないが、高所恐怖症であることを思えば、カーテンを閉めた後は窓に近づくようなことはしないはずである。

 

「それでも犯人やないし、高所恐怖症でもないって言うんやったら、まずは部屋の中

を警察に調べさせて、その上で、ここの階段上って十六階に行く途中の踊り場から、窓の外を数分間眺めてきてくれへんです?」

 

 はやてに言われ、登り階段の前まで行くが、真百合はそこで大きく嘆息した。

 

「認めるわ……お父様を殴ったのは私よ」

 

 目を伏せて、搾り出すようにそう告げる彼女に、フェイトは思わず前に出た。

 

「まさか、理由は――」

「ええ。きっと、貴女には一番理解できるんじゃないかしら?」

 

 

 

    10.

 

 妹ともに橋から転落した事故。

 二人して同じ場所から落ちたのに、生き残ったのは自分だけ。

 

 当時こそ、父親は自分だけでも生きてくれて良かったと言ってくれていたものの、それでも時が経ち、ようやく気持ちの整理がつき始めた頃から、父親の様子は変わりだした。あるいは本性が出てきたのか。

 

 書道の話となってくると、元々人が変わるような人ではあったのだが、それがかなり露骨になってきたのだ。

 

 妹のことばかり話た後で、こちらに当たってくる。

 まるで、お前ではなく美百合が生きていて欲しかったとでも言うような様子が、心苦しかった。

 

 それでも、せめて父親に居てくれてよかったと言って欲しくて、父親の秘書を始めた。

 秘書とは勝手に名乗っているだけではあるのだが、書道以外のことに無頓着な父の作品を守るという意味合いもあった。それをちゃんと理解してくれているのかは分からなかったが。

 

 そういった部分が良く分かってくれていなかったようだが、それでも、スケジュールの管理などをし始めると、それなりに父もありがたがってくれた。

 

 だけど――

 

 初めこそ、そう言ってもらえて、昔の父に戻ってくれたみたいで嬉しかったものの、次第にやはり、辛くなってきてしまったのだ。

 

 秘書としての事務の仕事もやって当たり前になってしまったからか、また妹と比べられ始める。

 

 それがどうしようもなく辛かった。

 

 昨日のエレベータの前で、怒られた時、自分の中で何かが弾けてしまったのだ。

 もやもやした気分のまま、それでも父のことを理解しようと始めた書道の真似事。たまたまその日のよる、その気分をぶつける為にやってみたものの気分は晴れず。

 

 いい加減寝ようと思い、道具を洗うべく廊下に出た時、父の後姿を見つけたのだ。

 

 だいぶ酔っているようでこちらには気づいていない。

 

 気がつくと、持っていた道具で父を後ろから殴っていた。

 

 父が血を流しながらこちらに振り向き、目を見開いた時、血が凍るかと思った。

 

 その後のことは良く覚えていない。ただ、もうダメだと、ここで父を殺すしかないと、混乱した頭で考えていたのだけは覚えている。

 

 だが、そこで父は階段へと逃げ、そして足を滑らせた――

 

「その後のコトは、そちらのお嬢さんの推理通りよ」

 

 全員が彼女の話を黙って聞いてた。

 

 なんと声を掛けるべききかと、みなが悩んでいるのだろう。

 そこへ最初に声を掛けてきたのは、やはりフェイトと呼ばれていた長い金の髪の少女だ。

 

「それでも――耐えるべきだったと、私は思います」

「貴女も、似たようなコトがあったんでしょう?」

「はい。姉を亡くしてます。そして、母は姉を亡くしたショックで人が変わってしまいました。姉は左利きで、母の才能は受け継がず、明るい人で、私は右利きで、母の才能を受け継ぎ、そしてどちらかとしえば大人しいタイプです。なのに……双子だから、母は常に私を姉とダブらせて……」

 

 重々しく息を吐き、一度目を伏せてから、フェイトは顔を上げた。

 まっすぐにこちらを見据えて、優しくも儚い赤を湛えた瞳を揺らす。

 

「それでも、私は母が大好きでした。姉を亡くしてから、母親は何かの研究に没頭していました。でも、それが終わればきっと元の母に戻ってくれると信じてました」

「どうして? どうして、そんな風に信じられたの?」

「だって、母さんとの思い出がありましたから。母さんの優しい笑顔の記憶が、(ここ)にありましたから」

 

 いつかは元に戻ってくれると、そう信じていた――彼女はそう語る。

 確かに、厳格ながらも、時々自分達子供の為に車を出して遠出をしてくれたことがあった。

 

 あまり笑う父ではなかったが、はしゃぐ自分達を見る目は、間違いなく優しかった。

 

 それでも、妹が死んでからの父は――

 

「私の母の研究はエスカレートして、自分の研究所まで建てました。そして、ある日、その研究所は訳があって崩壊。たまたまそこに居た私は、なのはに手を引かれて助けられましたが、母さんはそのまま……」

 

 既に、彼女の母親は死んでいる――その事実に、真百合はショックを受けていた。

 

 いつか元に戻ってくれると信じ続けた結果は、元に戻る前の事故死。

 そして、信じることが出来なくなった自分は、父を殺そうとした。

 

「だから、真百合さんのお父さんが一命を取り留めたコトに私は安心したんです」

「なんで貴女が私の父のコトを……」

「だって、私は今になって……もっとちゃんと母さんと向かい合えばって後悔してるんです。本当はあの穴に、なのはの手を振り払っても、母さんを追って飛び込んでも良かったんじゃないかって……そんなコトまで今でも時々考えます」

 

 でも、自分は今を生きていて、そして死んでしまったが故に、自分の思いを母に伝えることは出来ない。

 

「でも、真百合さんのお父さんは生きています。だから、ちゃんともっと、向かいあってください。自分の胸の中を、お父さんにぶつけてみてください。凶器は持たずにただ強い心を胸に持って」

 

 気がつけば、自分の目から涙が流れ始めている。

 

「わた……しは……」

 

 何か言おうと思った。だが、言葉が何も出てこない。頭が回転してくれない。

 

 忘我とは、こういうことを言うのだろうか。

 後悔してるのか、反省してるのか、何も感じていないのか――それすらも判断出来ない。

 

 そんなこちらの心中を察しているのだろうか。フェイトは、昨日のように手を握ってくれた。

 

「真百合さん」

 

 声を掛けられ、はやての方へと視線を向ける。

 

「大河内さんがどんな意図があってアヤメを握り締めたのか――それは本人に聞かないとわからへんです。でも、もしかしたら、アヤメの花言葉を知っていたのかもしれません」

「花言葉?」

 

 聞き返すときに、チラリと見えた神河氏はハッとした顔をしていた。

 いったい、アヤメにはどんな花言葉があるというのだろうか。

 

 そして、はやての言葉を引き継ぐようになのはがその花言葉を告げた。

 

「いくつかありますけど――『愛』『良い便り』、そして……」

 

 すでに、涙で視界がぼやけている。

 本当に父は死の間際にそんなことを考えていたのか。

 

 真意は直接聞くしかない。だが、例え偶然であったとしても、アヤメが握られたことに意味があったのではないだろうか。

 

「『あなたが大切』」

「う……あぁ……くぅ……」

 

 もはや涙と嗚咽を堪えられなくなっていた。

 その場に崩れるようにひざを突いて、口元に手を当てる。

 

 どうして――自分はこんなことをしてしまったのだろうか。

 

「それと……なんやけど、花言葉を知らなかった場合の考え方やと……別にアヤメである必要はなかったんやと思うんよ。ただ、あの花束の中にあったシベリア――白百合以外だったら、何でも良かったんやと思う」

 

 涙でぐしゃぐしゃになったまま、顔を上げる。

 

「真百合さんは、大河内さんが振り向いて顔を見てきたと言うたやろ? きっと、殴られた理由もちゃんと理解してたんやと思う。だから、それを受け入れた。受け入れた上で、真百合さんが出来る限り容疑者から外れ、逮捕されないようにと……そう思って、わざと真百合さんが怪しまれ難い、偽りのダイイングメッセージを残そうとしたのかもしれへん」

 

 全部推測に過ぎない――そう、はやては告げる。

 だが、どちらの場合であったとしても、父は美百合ではなく、自分のことをちゃんと好きでいてくれたのだと分かった。

 

「あ、ああ……」

 

 だとしたら、自分はとんでもない勘違いの大馬鹿野郎ではないか。

 

「大声出して泣いちゃっていいと思いますよ」

 

 フェイト達の友達である、もう一人の金髪の少女がそんな言葉を投げかけてくる。

 その少女の横にいる黒いロングヘアの少女もそれにうなずいて、優しく告げた。

 

「泣いてすっきりしたら、ごめんなさいって言いに行きましょう――まずはそれからです」

 

 子供から、まるで幼い子をあやすような言葉を投げられる。

 だけど、それが嬉しかった。こんなことをした自分にもこの娘達は優しい言葉を掛けてくれる。

 

「年下で申し訳ないですけど、私でよければ」

 

 そして、フェイトが崩れ落ちた自分を抱きしめてくれた。

 同じような境遇の中で、それでも母親を信じ続け、今を生きている彼女が眩しかった。

 

「私もフェイトさんのように強くなれるのかしら」

 

 泣きながら思わず独りごちると、それにフェイトが応えた。

 

「それは無理だと思います」

「…………」

「だって真百合さんは真百合さんです。私じゃありませんから。だから、真百合さんは真百合さんらしく強くなって、そうして強くなったなら、自分らしくと胸を張ってください。えへん、と」

 

 その言葉に、さらに涙があふれ出て、真百合はしばらくフェイトに抱かれたまま泣き続けるのだった。

 

 

 

 

     11.

 

 こうして、すれ違いと誤解と勘違いが交わった事件が幕を閉じた――

 

「せやけど、一つオマケがあるんやったな」

 

 水樹警部補は、真百合女史が泣き止んでから、連れて行くといっていた。

 そして警察署へ連れて行く途中、大河内氏の病室に寄っていくと言っていたので、その後の顛末が少し想像出来た。

 

 きっと、意識を取り戻した大河内氏は酔っ払って勝手に足を滑らせたとでも、言うことだろう。

 

 高所恐怖症である彼女がエレベータに乗るのを躊躇った時、大河内氏は手を差し伸べていた。本当に真百合さんのことを何とも思っていなければ、あの手は出ない。

 

 つまりは、そういうことなのだろう。

 

「ま、こっちの事件のことはひとまず置いておいて……や」

 

 念話で呼び出した人物が、どうやらやってきたようだ。

 

「……他人の空似じゃなかったのね……。あの子は高町なのは――エースオブエース」

「そういうことや。ま、今この場にいるのはしがない小娘捜査官だけやから、安心しい」

「良く言うわ――夜天の王の二つ名を持ち、高町なのはと並び称されるエース魔導騎士のくせに」

 

 話題にされないフェイトちゃんがちょっと可哀想や――そんなどうでも良いことを少しだけ、考えつつ、はやては彼女を真っ直ぐ見据えた。

 

「アヤメ・スズライト。本名はアイリス・ベルベット。時空管理局で手配を掛けられている窃盗犯。何でまた地球におるかは、わからへんけどな」

「帰らないし、逮捕されるのも御免よ」

「ロストロギア盗んだ人をハイそうですか言うわけにはいかへんのや」

 

 アヤメが殺気を出す。思わずはやても構えるが、彼女は大きく息を吐いて、それを消した。

 

「これは返すわ」

 

 そして、デバイスの機能を使って収納してあったらしい、ロストロギアをはやてに向かって放り投げた。

 

「返してくれるんはありがたいんやけど、それでも窃盗は窃盗やよ?」

「……そのロストロギアには感謝してるの」

「…………」

「それの本来の機能は知らないわ。でも、どん底まで落ちていた私を救ってくれたのよ。そのロストロギアは私をこの世界へと転送した。そして、ハルに出会ったッ!」

「河神さんのコト、本気なんやね」

「ええそうよ……だからミッドに帰るわけにはいかないの」

 

 真っ直ぐにこちらを見据えてくる彼女に、はやても真っ直ぐに視線を返す。

 

 ややして――

 はやては力を抜くように息を吐いた。

 

「アイリス・ベルベットは、ロストロギアを盗むつもりはなかった。だが、たまたま盗んだものがロストロギアであり、何を盗んだのかも知らぬまま逃走している最中にロストロギアが発動し、管理外世界へと転移した」

 

 それから、まるで報告書を読み上げるかのようにはやてが語りだす。

 

「転移先の世界にて、少々厄介な事件に巻き込まれており、逮捕して連れ戻すコトは現地世界の混乱を招きかねない為、逮捕はせず。タイミングを見計らい対話を試みたところ、反省の色がありロストロギアは返却された。

 このことから、しばらくこの世界にて様子を見ることにする。監視者はその該当世界出身であり、この事件の担当官でもある、八神はやてが行う」

 

 そこまで言ってから、はやては肩を竦めた。

 

「上を納得させるのが難しそうやけど――まぁこんなもんやろ。後でどん底だった理由をちゃんと教えてな。それと懲役を何とかできても、罰金だけはどうにもならへんから、そこは覚悟しておいてな」

 

 アイリス――いや、アヤメ・スズライトがどれだけ神河氏のことを想っているかは、はやても充分に知っている。

 

 ここで、そちらの事情なんて知るかと連れて行くことは、さすがにはやてもしたくなかったのだ。

 

 下手したら始末書ものかもしれないが、自分の始末書一枚で、幸せになれる人がいるのなら、それもアリではないいだろうか。

 

 無論、それは彼女が反省し、自ら更正に向かっているからだ。

 

 さすがに、傷害現場を荒らしたことはかばい切れないが、それは地球での事件だ。アヤメ・スズライトとして、彼女は罰を受け入れることだろう。

 

「アイリス・ベルベットに未練はあらへんの?」

「無いといえば嘘になるけど、天涯孤独で友達もまともに居なかったんだもの。新しい人生を歩むのも悪くないと思ってるわ。何より、アイリスよりもアヤメで居た方が幸せなのよ」

 

 その言葉に、はやては少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ええコト教えてあげるな。日本語ではアヤメなんやけど、アメリカの言葉だと、アイリス言うんよ?」

「え?」

「結局、どっちもアヤメさん(おねーさん)やってコトや」

 

 それからはやては一枚の紙を手渡す。

 

「私の連絡先です。当分は無理やけど、しばらくしてミッドに帰りたくなったら連絡してくれれば、何とか考えますよ」

 

 そのメモがしっかりとアヤメの手に握られたのを確認すると、はやてはくるりと踵を返した。

 

「それじゃあ、私はみんなのところに戻りますね。戻ったら、普通の日本の女子中学生なんでよろしゅうに」

 

 そう告げると、はやては手をヒラヒラとさせながら去っていく。

 

「どこが普通の女子中学生よ……」

 

 受け取ったメモを握り締めながら、アヤメはその後ろ姿に深々と頭を下げた。

 

「こんな複雑になっちゃった事件を推理して解決しちゃってるくせに」

 

 口では毒づくが、感謝で胸がいっぱいだった。

 

 現場を荒らしたことで、自分もハルも警察に連れて行かれるだろう。

 だけど、それに逃げるつもりはない。アヤメ・スズライトとして責任は取るつもりだ。それはきっとハルも同じだろう。

 

「涙が乾いたら、私も戻りましょう。戻ったら、私だって普通の地球人、アヤメ・スズライトなんだから……」

 

 

【Tendarness which a flower and murderous hid. - closed.】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===当時のコピ本のあとがき===

 

 

 あとがき

 

 お久しぶり、あるいははじめまして、北乃ゆうひです。

 プライベートで色々あって、心身ともにいっぱいいっぱいで、原稿なんてやってる余裕がなかったのですが、それでもせめてコピー誌でも良いから何か出したいと苦心してたら、なんか妙に凝ったものが出来た気がします。

 二冊でワンセットのミステリー。いかがだったでしょうか?

 北乃的にミステリーは二度目です(一度目はブログ【のたり】にうpってあります)。

 まぁその時に二度とミステリーなんてやりたくねぇなんてのたまったのですが、懲りずにやっちゃいました。

 はやてが主役。単にはやてに、『謎は全て解けた』とか『事件解決やよ』って言って欲しかっただけです。

 なのに、なんでこんな複雑な構成になってるんでしょうねぇ……(聞くな

 一応、解決編を見ずとも読者が推理出来る構成にはしたつもりです。

 

 

 ノックスの十戒もちゃんと守れているハズ。

 きっと、たぶん。

 

 

 時間的にも精神的にも書く余裕がない時に限って、こういうネタばかり沸くから不思議なものです。

 それでも、このあとがきを皆さんがお読みになられていると言うことは、何とか形にはなっているようで、嬉しい限り。

 

 

 本当は僕らの推理ノート風のつもりだったのですが(容疑者が三人なのはその名残)、気がつくと金田一少年風になってましたので、はやての推理ノートから急遽、事件簿に変更したりして。

 

 

 あ、余談ですが、警察官をどうしよか悩んだんですよね。探偵ものにはつきものの。

 剣持警部とか五十嵐警部とか目暮警部みたいなポジ。

 最初はとらハのリスティもってこようと思ったんだけど、彼女出すとサイコメトリーで事件解決しちゃうんでジョーカー過ぎて……。

 そんな訳で、思いつきの女警部補さんが生まれましたとさ。

 

 

 え? 警部補の名前?

 ノリに決まってるじゃないですかー。

 次回また魔導探偵はやてをやるとしたら田村刑事か植田刑事が出てくるかもしれません(ぁ

 

 

 さて、製本作業は後日やるのですが、仕事の都合、たぶんイベント前日に徹夜でしょう。きっと。

 まぁ、死なない程度にがんばるとします。あるいは、がんばった結果、本書があなたの手元にあることでしょう。

 

 

 まだ、後書きのスペース余裕があるんですが、時間がないしネタもないので、もったいないですが、この辺で失礼します。

 

 

 そんなワケで、読んでくださったみなさん。そして、色々とギリギリな北乃を支えてくれる友人や、ツイッターのフォロワーさん達みんなに、最大級の感謝を込めて(ありがとうございます)。

 

【22 / 10 / 2011 / 15 : 17 / ENDRoll - closed.】

 




お読み頂き、ありがとうございました。
少しでも楽しんで頂けたのでしたら幸いです。
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