調味料は適切に(リリカルなのは短編集)   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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以前にコピー本として発行したモノをハーメルン用に編集したモノになります。

初出 平成26年 12月29日


【中2】そんなある日のSkill&a way

 

     1.

 

 ある日の昼休み。

 

「世の中、何が幸いするのか分からないのよね」

 

 聖祥学園女子中等部校舎の屋上で、横に座る友人、アリサ・バニングスが唐突にそんなことを言った。

 

「まぁ、そうやね」

 

 余りにも突然すぎて、何と反応して良いか分からなかった八神はやては、お弁当を食べる手を止めて、それに曖昧に反応する。

 

 考えてみると、アリサの唐突さはいつものことなのかもしれない。普段はその唐突

な言動を通訳してくれている友人達がいただけだ。

 

「今日は、昼休みだけでなく、放課後も三人とも不在だからね。珍しく私とアンタだけしかいないのよ」

 

 アリサの言葉に、おや――と、はやては首を傾げた。

 

「なのはちゃんは?」

 

 放課後――フェイトは魔法使いのお仕事。すずかは習い事。それは知っている。だが、今日はなのはに何か用事があったとは聞いていないのだが。

 

「ああ――何か、先輩に頼まれゴトがあるとかで、どっかの部活に顔を出すんだって」

「へぇ」

 

 はやては相づちを打ちながら、思案する。

 なのはは優秀な魔導師ではあるが、フェイトと違って運動神経の方がお世辞にも良いとはいえない。

 

 いつも一緒にいる自分達五人組の中では、はやてとコンビでスポーティングダメーズである。

 

 そんななのはが、先輩に頼まれゴトをする部活とはなんであろうか。

 

「あ、ちなみに文化系らしいわ。失礼なコト考えないでって、釘を刺された」

「お、おう……」

 

 その釘は、アリサを経由してきっちりとはやてにまで飛んできている。流石は狙いをはずさぬシューターである。感心の仕方が少し違うかもしれないが。

 

 それはともかく――

 

「それで、アリサちゃんは放課後に何がしたいんよ?」

 

 話が脱線してしまった気がするので、話題を戻す。

 それにアリサはうなずき、答える。

 

「うちの学校ってさ、基本的にいつでも部活に体験入部できるのよね」

 

 つまるところ、今日の放課後の予定はそういうことになるらしかった。

 

 

 

 

     2.

 

 放課後――

 

「それで、アリサちゃん。

 結局、どこの部活に突撃するか決めたん?」

 

「それなんだけどね」

 

 はやての問いにうなずいて、アリサは答える。

 

「私達とは縁遠そうな奴がいいかなって」

「縁遠そう?」

「そうよ」

 

 はやてが訝しむと、アリサは大仰にうなずいた。

 

「積極的に触りに行かないと、今後の人生で一切触れるコトなさそうな奴よ」

「ふむ?」

 

 それに、はやては首を傾げた。

 学校に部活として存在し、それでいて自分達とは縁遠そうなもの――正直、見当が付かなかった。

 

「習い事としてはポピュラーだけど、私とすずかはしてないのよねー。まぁ家柄、雰囲気合わないってのもあるかもだけど」

 

 はやての眉間にますます皺が寄る。なおさら、分からなくなってきた。

 

「なら逆に、私らの仲で一番それが似合いそうなんは誰や?」

「なのは」

 

 即答だった。

 

「私達の知らないところで、なのははこのスキルを持ってても不思議じゃないわね」

「なんで?」

「関西の高町本家――ようするに桃子さんの実家ね――の親類には、これの先生をしてる人もいるらしいし、桃子さんも多少は心得あるっぽいのよ。

 そうなると、高町本家に帰省した際に、なのはが習っててもおかしくないでょ?」

「まぁ、わからんでもないけど」

「それに――」

「それに?」

 

 聞き返すと、アリサは少しだけ言葉を選ぶような風に思案してから、答えた。

 

「士郎さんと桃子さんがフリーダムな人達だから、印象は薄いだろうけど、なのはも結構な家柄のサラブレッドよ?」

「…………言われてみると」

 

 桃子の実家――高町は関西では結構大きな名家らしい。桃子が好き勝手に出来ているのは、末っ子だからというのも大きいだろう。

 

 士郎の実家――不破家はすでに存在はしていない。詳細は知らないが一族は火事で全滅してしまったらしい。とはいえ、話による大きな武家屋敷で、宗家である御神家共々かなりのもだったそうで。

 

「うちは完全に海外、すずかは日独混合……そして完全和風のなのはと。何気に揃ってるのよね」

「ついでに、フェイトちゃんは完全異世界やし、私はまぁ地球異世界混合みたいなもんやからな。何気に揃っとる」

 

 などと二人で言ってはみたものの、何が揃っているのだか自分達でも良く分かっていないのだが。

 

「で、士郎さんの妹さん――美沙斗さんも、何気に習ってたらしいのよね。士郎さんもやるように言われたらしいけど、性に合わないからって逃げ回ってたらしいわ」

 

 そんな話をしている内に、はやても段々と分かってきた。

 

「確かにまぁ、それは私らとは縁遠そうなコトやね」

「お、気が付いた?」

「それによって、道を求め、道を探す――そういう意味やと御神流なんてやっとると、確かに縁がありそうやわ」

 

 それでいて、体育会系ではなく文化系ともなれば、そう多くはない。

 

「これから行くんは、華道部か茶道部やろ?」

 

 ちなみにまったくの余談ではあるが、武術とは武を生きる(すべ)とし、その術だけを追求するのが身技である。武を求道の手段あるいは人生の道標とするのを心技とした――武道とは似ているようで異なっている。

 故に武と違い、生きる手段にはなり難く、求道的側面が非常に強い華や茶は、道のみであり術はほとんど存在しない。

 

「うちの学校は、茶道・華道部。セットになってるみたいなのよね」

「それすら知らなかった程度には興味なかったんやね」

「まぁね」

 

 アリサはあっさりとそれを認める。

 

「活けられた花を愛でたり、()てられたお茶を飲んだりするのには興味あったけど、自分でやろうっていう気はほとんどなかったし?」

「せやな。そこは割と私もそうやね」

「なので、自分からやろうと思わないと触れる機会がないものっていう意味では、これほどふさわしいモノはないと思うワケよ」

 

 確かに、生け花にしろ抹茶にしろ、自分から触れにいかなければ、見たり飲んだりする機会すらないだろう。

 

「一応、確認するけど――顔出すの、そこでいい?」

 

 ここまで煽っておきながら、アリサはそうやって聞いてきた。きっとはやてが首を横に振れば別の部活を見に行こうとするのだろう。

 

 まったくもって、わがままなようでいて、気遣い屋だ。

 

「もちろん。やったコトあらへんコトっちゅうんは、何やかんやで楽しそうやしな」

 

 笑ってうなずくと、アリサも嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 

 

 

 

     3.

 

「たのもーッ!」

 

 茶道・華道部が部室としている和室のドアを開け、その先にある襖を開きながら、アリサが入っていく。

 

「いや、そのセリフはどうなんよ?」

 

 何となく一緒にされたくないな――と思いつつも、はやてもお邪魔しますと言いながら、入っていくと……。

 

「あれ? アリサちゃん? はやてちゃん?」

「…………」

「…………」

 

 何故か花を活けているなのはがいた。

 

「どういたの、二人とも」

「いや……放課後暇だったから、さ」

「何や、やったコトないコトでもしてみようか思て」

 

 思いついたのが、この部であったのだと、説明する。

 そんなやりとりを横で聞いていた部長さんが、「まぁ」と嬉しそうに手を合わせる。

 

 そのまま自己紹介をされたので、こちらも自己紹介を返すと座布団を用意してくれた。

 

「どうぞどうぞ、お掛けください。今、必要なものを一通り持ってきますから、まずは理屈など考えず、お好きなように活けてくださいな」

 

 部長さんは丁寧な口調と物腰のはずなのに、どこか巻くし立てるような調子だ。

 

「いや、そう言われて……」

 

 体験入部とはいえ、興味を持って訪ねて来てくれたのがよほど嬉しいのだろう。

 

「私ら、そもそも、活け方の基礎みたいなんも、サッパリなワケですし」

「そこは問題ありませんわ」

 

 小さな卓袱台に、花器と剣山。花切ハサミ。

 アリサとはやての為に、それらを用意しながら、部長さんはなのはを示した。

 

「高町さん、お友達に教えて差し上げて」

「はい」

 

 そううなずくなのはだったが、その仕草はどことなくいつもと違う。

 

「にゃはは、こういう場所だしね」

 

 こちらの視線に気が付いたのだろう。そう言って、彼女は笑った。

 つまりは、和室マナーというか和式礼儀作法というか、そういうのをしっかりと意識しているということなのだろう。

 

 そうして、なのはは部屋の隅にあるバケツの中から、適当に花を見繕い始めた。

 

 そんな友人の後ろ姿を見つつ、はやてはふと部長さんに訪ねた。

 

「あの、部長さん」

「はい。何でしょう、八神さん?」

「なのはちゃんは、部員やないんですよね?」

「ええ。華道・茶道ともに、それぞれ外部の講師の方が来て下さってはいますが、それも毎回というわけではありません。

 なので、講師の方が来れない時は、経験があるという――高町さんに来て頂いてるんです。

 お恥ずかしい話ですが、部長とは名前ばかりで、私はほとんど未経験なものですから」

 

 はやての中に未経験という言葉に対するボケが思い浮かんだのだが、敢えてそれを表に出すのを控える。

 

「それは良いんですけど。あの――聞きづらいんですけど、部長……」

 

 そんな部長さんの話を聞いてから、アリサが部室内を見渡してから、彼女におずおず尋ねた。

 

「ほかの、部員は?」

 

 それに関してははやても気になっていた。

 いないのだ。部員が。部長以外に。

 

 なのはは部員ではないものの、経験者ということで、部長が頼んで来て貰っている臨時講師のようなものだ。

 

 そうなると、この場にいる部員は部長さんだけになってしまう。

 

「ええ。その……茶道の日にはみなさん、顔を出してくださるんですけど……」

 

 苦笑とも、嘆きともとれる表情で、部長さんは言った。

 

「言いたくはないんですけど、それって……」

 

 アリサがそんな風に返そうとした時、

 

「そうなんだよねー」

 

 花を選び終わったなのはが、こちらへと戻って来ながら、部長さんの代わりにうなずいた。

 

()てたお茶のお茶受けとして、和菓子が用意されるからね。ほとんどの部員さんがそれが目当て。茶点(ちゃた)てだって、そこまで熱心じゃないというか、我慢すればおいしいお茶とお菓子が楽しめるっていうノリ?」

 

 それ自体は悪いことではないのだが、露骨すぎるのも困りものだと言う。

 

「それでも良いのですよ。部員のみなさんが在籍して下さってますから、この部も存続出来ているのです。

 お茶の時だけとはいえ、来て下さってるから、水増しの幽霊扱いされるコトもありません。それで、充分です」

 

 部長さんは、本当に僅かな時間だけとはいえ、この部で華道や茶道に触れたことで、それらの示す道に魅せられた人なのだろう。

 習い事としてではなく、学校の部活としてやるからこそ、彼女にとっては意味がある。部長さんを見てるとそんな風に思えた。

 

「まぁ、それはともかくとして」

 

 話を切り上げるように、なのはは花を包んだ紙を、はやてとアリサの側に置く。

 

「こっちが、はやてちゃんの」

 

 そこにあるのは、薄い緑色や濃い緑の花や、薄い水色の花。そして葉っぱのみの生花が多い。

 赤や黄色もあるのだが、全体の三分の一もなかった。

 

「そして、こっちがアリサちゃんの」

 

 アリサの方がはやてとは逆に、ハッキリとした赤や黄色に、控えめなオレンジやクリーム色など、暖色系のものでまとめられている。

 

「花の切り方と、活け方を簡単に教えるから、その後は、好きなように活けてみて。

 活ける上での基本ルールとかは後回し。まずは活けるコトそのものを楽しまなくっちゃね」

 

 流派や使う花器で、ある程度の縛りルールのようなものがあるらしいが、それにこだわりすぎて窮屈になってしまうと、初めての人には面白味が薄れてしまうそうだ。

 

「それじゃあ、高町先生。よろしゅう頼みます」

「高町先生お願いしまーす」

「もう、二人ともからかってぇ」

 

 困り顔をするなのはのところへ、部長さんもやってくる。

 

「私もご一緒に聞かせてもらおうかしら。よろしくお願いしますね高町先生」

「部長まで……」

 

 なのはは困ったように苦笑するが、満更でもなさそうだ。基本的に人に何かを教えるのは嫌いではないのだろう。

 

 そうして、はやてとアリサを交えた、本日の華道部の活動が始まった。

 

 

 

 

     4.

 

(好きに活けてええ言われてもなぁ……)

 

 花の切り方と、活け方をざっくりと教わった後で、はやてはそんな風に、頭を悩ませる。

 

 難しいのは後回しというのは、取っつきやすくて助かるが、だからといって自由すぎるのも悩んでしまう。

 

(それに、この色合い……)

 

 なのはが用意してくれた花の色合わせを見ていると、ふと思う。

 

(サラダみたいやなー)

 

 薄い緑や黄緑の花に、葉っぱ類はレタスやルッコラ。

 鮮やかな赤や黄色の花たちは、トマトやパプリカ。

 そんな風に見てたら、閃くものがあった。

 

(いっそ、美味しく見えるように活けてみよかな)

 

 美味しそう――というのは、いささかズレてるような気もするが、好きに活けていいのだから、その方向でやってみよう。

 

 サラダを盛りつける時のように、美味しく見えるように。彩りよく見えるように。

 

 

 

 

 

      5.

 

 気がつけば、正座をして背筋を伸ばして、集中してやっていたらしい。

 とりあえず完成はしたので、顔を上げる。

 

 思ったよりも、こじんまりとした纏まり方をしてしまった。

 

 横を見れば、アリサがやたらと豪快に活けている。

 その花の色合いも相まって、炎のように見えなくもない。アリサらしいと言えば、アリサらしいが。

 

「なのはちゃん、こんなんでええんかな?」

「うん。全然OK。

 

 なんか美味しそうで、はやてちゃんらしい」

 

「あははは。料理の盛りつけのつもりで活けたからなー。ほんま、アリサちゃんやないけど、何が役に立つかわからへんもんや」

 

 切り花の茎を切りすぎて想定より短かったり、ちゃんと活けてたつもりが倒れてしまったりと、悪戦苦闘したものの、それでも活けている時は楽しかった。

 

「ふふん。どうよ、なのは」

 

 どうやらアリサも完成したらしく、なのはを呼んでいる。

 

「にゃはは、アリサちゃんらしいね。カッコいい」

「でしょ、でしょー!」

 

 それを見ながら、何となく気がついた。

 なのはは、割と最初からこの完成系をイメージしてたのではないだろうか。

 

 そうでなければ、自分とアリサの渡された花色の組み合わせに差があった理由がない。本来であれば、同じ花材でも問題なかったはずだ。

 

「お二人とも初めてなのにお上手ですね」

 

 部長さんは嬉しそうに、はやてのアリサの作品をまじまじと見ている。

 何となくそれが気恥ずかしくて、はやてはアリサへと視線を向けると――

 

「…………」

 

 何やらアリサが神妙な顔をしていた。

 その表情の意味に気づいたらしいなのはが、苦笑する。

 

「正座って、何気に集中力高まるらしいんだよね。作業に集中し始めると、自然と背筋も伸びていくし」

 

 机の高さとか作業のしやすさだとか、そういうのがピッタリだったりすると、自分が正座していたことを忘れるほど集中してしまうこともあるという。

 

 それはつまり――

 

「アリサちゃん」

 

 はやてはニヤリと笑い、手をわきわきとし始める。

 幸い――というかなんというか――自分は、アリサのような状況にはなっていない。自由である。

 

「ちょッ、はやてやめなさい。やめてちょうだい」

 

 ジリジリと、はやてはアリサへとにじりよっていく。

 

「やめてください――っていうか……」

 

 だが、思うように動けないアリサは、はやての魔の手から逃れる手段はなく……

 

「やめろぉぉぉぉぉ――……ッ!!」

 

 アリサの拒絶を無視して、はやての指はアリサの痺れきった足へと伸びていった。

 

 

 

 

 

 

     6.

 

 つんつん。

 

「ひゃうっ!?」

「ほほう……ええ声が出たなぁ……」

「あ、あんた、ねぇ……」

「ほれほれ」

 

 さわさわ。

 

「ひゃうあぁぁぁ……な、撫でないで……」

「い・や・や♪」

 

 さわさわ、つんつん、なでなで。

 

「あ、ああ……ぅ……ひゃっっぅぅぅ……」

「ええ声で鳴くやないかぁ~」

「ぜ、絶対……」

 

 つん。

 

「絶対にぃ……にゃっ……!?」

「んー? 絶対に、何やぁ?」

 

 さわり。

 

「ひゃう……許さ、にゃ……いん……ぁぅ……だから、あん……ねぇ……!」

「ふっふっふっふっふ。アリサちゃん……いつまでそんな強がりを言ってられるんかなぁ……?」

「どこの悪役よあんたッ!……って――あッ、ちょッ……こらぁッ!」

「ふふふふふ、悶絶揉み倒し拷問スペシャル……対痺れた足用フォーム!」

「やめなさいってぇぇぇぇぇ――……ッ!!」

 

 もみもみもみもみもみもみもみもみ……。

 

「あっ……やっ……あっ……んぅ……」

「ふぃにーっしゅ!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……んッッ!?」

 

 

 

 

 

 

     7.

 

「絶対に……絶対に許さないんだからぁ……」

 

 はやてに組み伏せられて、痺れた足をひたすらに撫でられ突つかれ続けたアリサは、涙目となり息も絶え絶えになりつつも、気丈な顔でそう告げた。

 

 もっとも、当のはやてはというと――

 

「いやぁ、アリサちゃんの可愛い嬌声(こえ)涙目(かお)……堪能させてもろうたわぁ……」

 

 全く気にかけた様子はなく、それどころかツヤツヤしてる。

 

「あの、高町さん……止めなくて良かったのですか?」

「まぁいつものコトですから」

「ふふ、仲が良いんですね」

「はい」

 

 うなずきはするが、なのはの表情は苦笑いだ。

 何ともみっともないところを部長さんに見せてしまった気がする。

 

 ともあれ――

 

「はやてちゃん。一応、言っておくね。

 

 覚悟、しておいた方がいいかもよ?」

 

「何の話や?」

 

 滅多にないアリサ弄りのチャンスにハッスルしてしまったようではあるが、後のことを考えなさすぎる。

 

「はやて……」

 

 復活したアリサが、はやての肩に手を置いた。

 

「お? アリサちゃん?」

「覚悟はいいわね?」

「え?」

 

 問答無用とばかりに、今度はアリサがはやてをうつ伏せするように押し倒すと、何やら足を絡めた。

 

「え、ちょ、アリサちゃん!?」

 

 複雑に絡まった足に、アリサが力を入れた瞬間、はやての目の色が変わった。

 

「ちょッ!? アリサちゃん、これ……洒落になってへんって……!!」

「あんたの意見は却下!」

「あ、た……痛ッ! いたたたた……ギブギブ!」

 

 バンバンと畳を叩くはやてだったが、アリサはそれを無視して、力を強めたり弱めたりを繰り返しているらしい。

 

「マジで関節キマっとるんやけどッ!?」

「マジで関節キメてるのよッ!!」

 

 そうやってドタバタやりながらも、備品やら互いが活けた花などを倒したり壊したりしないように気をつけているのだから、大したものである。

 

「あの……高町さん……」

「大丈夫です。二人とも、おふざけの線引きはしっかりしてますので」

「そうなんですか……?」

 

 流石に、疑わしげではあるが、なのははそれ以上何も言わなかった。

 そんな中、アリサははやての足を固めながら、顔だけ部長さんに向けた。

 

「そういえば部長。今更なんですけど」

「なんでしょう……? っていうか八神さん大丈夫なんですか?」

「あ、コイツは自業自得なんで暫く気にしないでください」

 

 はやてを心配する部長さんに、アリサはそう告げてから、尋ねた。

 

「ほかの部員も華道活動の方に呼ばないんですか?」

 

 アリサの問いに、部長さんは苦笑した。

 

「そうしたいんですけどねぇ」

 

 その表情が気になったのだろう。はやても顔を上げて――背筋するかのような姿勢なので苦しそうだが――尋ねた。

 

「みなさん何で来ないんですか?」

「さぁ……でも華道だと、お菓子とか出ませんからねぇ……」

 

 確かに食べたり飲んだりが目的ならそうだろう。

 だが、少なくとも今こうやってなのはから教えてもらい、難しいこと抜きに花を活けるのは楽しかった。

 

 その部分を理解してもらえれば、もうちょっと人は来そうなのだが――

 

「あ、もしかしてお花の講師の先生って怖かったりします?」

 

 はやての言葉に、部長さんは首を横に振った。

 

「個人的には高町さんと同じくらい、優しく教えて下さって方だとは思っておりますが」

 

 アリサは関節技(レッグロック)を解いて、はやてと顔を見合わせる。

 自分たちの作品を見る部長さんの目は、仲間がいることを喜ぶかのような、羨ましむかのようだった。

 

 あんな目を見てしまうと、無駄に世話を焼きたくなってしまうのがアリサ・バニングスである。

 

「やりもしないで、ツマラナイとか言ってる連中がいるのは癪ね」

「アリサちゃん、無理や無茶は部長さんに迷惑かかっちゃうからね?」

 

 なのはの刺してくる釘に、アリサは肩を竦めた。

 

「良い、なのは?

 私の人付き合いって、道じゃなくて術なのよ」

「アリサちゃん……なのはちゃんの言ってる意味分かっとる?」

「分かってるわよ」

 

 口を尖らせるアリサに、部長さんがキョトンとした表情を浮かべている。

 

「だから……なのは、次にアンタが華道を手伝うのいつ?」

「え? んー……来週の火曜日……?」

 

 視線で部長さんに問うなのは。それに部長さんはうなずく。

 

「はい。来週も来ていただけるのはありがたいのですけれど……」

 

 戸惑っている部長さんに、アリサは訊ねる。

 

「部長は、華道を楽しんでるんですよね?」

「ええ。先代の部長さんが文化祭で実演しているのを見て以来、自分もあんな風に楽しそうに出来たらな、と」

 

 それに、アリサうなずいてから、笑みを浮かべた。

 

「だったら、ほかの部員達にも、楽しいんだっていうのを教えないと、たぶん来てくれないですよ。

 華道――もしかして、まともに見せたコトないんじゃないですか?」

「確かに、アリサさんの言う通りですけど……」

 

 お茶とお菓子を目的で入部した連中だ。

 華道なんてそもそも見向きもしないのだろう。

 

 それでも最初に無理矢理にでも華道をやらせれば、また少しは違っていたかもしれない。

 だが、部長さんは茶道にさえ出席してくれればそれで良いとしてしまったが故に、今の空気が生まれてしまった。

 

 もしかしたら、華道をやりたい部員もいるのかもしれないが、空気を読むとか流れや惰性などで、来なくなってしまっている可能性がある。

 

 だから――

 

「私が来るようにし向けます。

 ただし、華道へ来た部員達に、華道に興味を持たせることが出来るかどうかは部長次第です」

 

 もちろんアリサだって部員達に無理強いはしない。

 だが、せっかく入部したのに、もったいないと、アリサは思ったのだ。

 

「あの……アリサさん……」

「ダメですよ。部長さん。こうなると、アリサちゃん聞きませんから。なので、まぁ、来週の火曜日。ちょっとだけやってみましょう。部長さんも、仲間が欲しいっていつも言ってるじゃないですか」

 

 なのはに言われたのが決定的だったのだろう。

 

「そう……ですよね。

 

 アリサさん達が来てくれてこんなに嬉しかったんですもの。やってみますね!」

 

「そうこうなくっちゃ!」

 

 

 

 

 

     8.

 

「……それで、先週からアリサちゃんは忙しそうにしてたんだね」

 

 翌週火曜日の放課後。

 中庭のベンチで、ひとしきり説明を終えたアリサに、すずかとフェイトは納得したような顔だ。

 

「でもアリサ、どうやって華道の日に来ない人達を集めたの?」

 

 フェイトのもっともな疑問に、アリサはオーバーに肩を竦めて見せた。

 

「別に」

 

 生徒会長に頼んで、生徒会が保管している部員名簿を見せてもらった後、各クラスへと顔を出して、それぞれの部員と軽く話をする。

 

 それで、華道にも興味ありそうな人には、部長さんが本当は華道活動にも顔を出して欲しいと思っている旨を伝えた。

 

 また、本当に茶道が好きな人もいたのだが、その人には華道の方の出席率が低すぎると、片方が潰れてしまう可能性を伝える。

 

 そして、完全にお茶とお菓子目当ての人たちには、生徒会から部長が苦言を受けていると伝え、その上で、ごちそうしてもらっている恩くらいは返してあげたらどうだろうか、と言ってみたりもした。

 

 そうやって部員全員――と言っても十人にも満たないが――に声を掛けて回ったのである。

 

 確かに大変ではあったが、別に大変だっただけなので、アリサは自分が何をしたかなんて、口にはしない。

 

 だから――

 

「大したコトなんてしてないわ」

 

 そう答えるだけである。

 実際、大したことをしただなんて、思っていないのだ。

 

「まぁ……はやては生徒会長に何か頼んでたみたいだけどね」

 

 それはアリサの預かり知るところではない。

 

「生徒会長に頼むって……」

「何をしたんだろう?」

 

 すずかとフェイトが顔を見合わせて、首を傾げていると、噂の本人がやってくる。

 

「いや、別に大したコトしたわけやあらへんのやけど」

「はやてちゃんもそう答えるんだ」

「実際、大したコトしてへんしな」

 

 ただちょっと、生徒会長にお願いしただけである。

 茶道活動の日。部員たちが集まってくる少し前に、部室へ赴き、部長さんにお茶をごちそうになってきて欲しい、と。本当にそれだけだ。

 

 それも一度だけ。あとは、アリサに説得された部員たちが勝手に勘違いをしたのである。

 それ故に、はやては大したことなんてしていないと、そう答える。

 

「二人とも、実は大したコトをしてそうな気がするんだけど」

 

 フェイトはそう言うが、二人は肩を竦めるだけだ。

 その仕草に、謙遜も謙虚もなく。ただ本当に、大したことなんてしたつもりはなさそうだ。

 

「それで、はやて。華道活動はどうなりそう?」

「まぁ完全お茶飲み派以外は、華道にも興味もってくれたようや」

 

 こっそりと覗きに行っていたはやての報告にアリサはうなずく。

 

「その完全お茶飲み派も二つに分かれたんじゃないの?

 今後もお茶を飲みに来る人と、退部予定の人とで」

「正解。そこはまぁしゃーないな。部活としてではなく、完全にお茶飲み目当て。礼儀作法を学ぶ気も更々ないとなれば、ある意味で完全おじゃま虫やしな」

「遅かれ早かれ、部にとっての危険因子になりかねないわけだしね。部長には申し訳ないけど、それで正解ね」

 

 それでもなお残ってる方は、まだ見込みがある部員ということになる。

 

「茶道に華道かぁ……縁遠い部活だよね」

 

 アリサとはやてのやりとりを聞きながら、すずかがそんなことを嘯く。

 それに、フェイトもうなずいた。

 

「私なんてもっとだよ。なんかデタラメな茶道は、リンディ母さんがたまにやってるけど」

 

 デタラメな茶道に心当たりがあるはやては、思わず小さく吹き出した。

 その笑いの意味がわからずアリサは疑問符を浮かべる。だがすぐにそれを振り払うと、少し意地の悪い笑みを浮かべて見せた。

 

「学校だと制服だけど、イメージは沸いたわよね」

「何が?」

 

 アリサの突然の言葉に、すずかが首を傾げた。

 

「なのはよ、なのは。

 正座して背筋伸ばして、花を活ける姿がサマになってるのよ。あれ、和服着てたら完璧ね。

 私らの中で、もっとも大和撫子な姿が似合うのはあいつなの間違いないわ」

「…………」

 

 チラチラとフェイトの方をみながらそう告げるアリサ。

 それに、フェイトが真剣な顔をして聞き入っている。

 

 ややして――

 

「ちょっと、和室行ってくる!」

「行くのはええけど、部活動の邪魔したらあかんよ~」

「うんッ、大丈夫ッ! 分かってるッ!」

 

 フェイトははやてにそう答えると、立ち上がって中庭から走り去っていった。

 

「大丈夫なんかな……」

「さすがのフェイトちゃんも、部活に乱入するような無茶はしないと思うけど……」

 

 心配そうなはやてと、それに苦笑するすずか。

 

「すずかも見たかったら行ってきたら?」

「んー……そうだね。フェイトちゃんが無茶しないように監視する意味もかねて」

 

 口では大丈夫だと言ってはいるが、やはりフェイトのことは不安らしい。流石はフェイトの人徳である。

 

「そっちが七割でしょ?」

「アリサちゃんが煽ったんでしょ」

 

 まったく、もう――と笑いながら、すずかも立ち上がった。

 

「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃーい」

 

 手をひらひらさせながら、すずかを送り出すはやて。

 そうして、彼女の姿が見えなくなってから、ベンチに腰を掛けると天を仰いだ。

 

「何で、なのはちゃんの居る日にしたんや?」

「それを分からないあんただとは思わないけど?」

 

 アリサの言葉に、はやては軽くうなずいた。

 

「まぁ、散々サボっとった人達やしな。いきなり外部講師の人と会うんも、ちょう後ろめたいかもしれへんからやろ?」

「そういうコト」

 

 腕を組んで、肯定し、ついでに――と、アリサは補足をする。

 

「ついでに、部長が直接みんなに話掛けるのに意味があると思ったのよ、なのはは完全フォロー役」

「なのはちゃんは教えるの上手いしな」

 

 流石は教導官さんや――とうなずくはやてに、アリサは少しだけ神妙な顔をした。

 

「そうね。綺麗に見せたり、楽しむ為の取っかかりを教えるだけなら、そうでしょうけど」

「ん? なんや含みある感じやね」

「教導隊として、魔法を使う(すべ)を教えるのも、確かに上手いでしょうね」

 

 だけど――と、一呼吸入れてから、アリサは続ける。

 

「どこまで行っても、術師なのよ、あの子(なのは)は。導師にはなれないわ」

 

 強くなる為に、生き延びる為に技術を追求し極めていく。

 華であるのなら、ひたすらに美しい――芸術としての活け方を追求していくことになるだろう。

 

 なのはの教え方とはそういうものだ。この辺りは、彼女の兄・恭也も同じである。その辿り着く先は、自ら歩む道への悟りなどではなく誰もが認める技術の極地のみだ。

 

 弟子と共にそこへ辿り着こうとする思考は、結果として弟子の下地作りにも余念がないものとなる。

 

 端から見れば、良い指導者に見えるかもしれないが、弟子からすればハードワークのスパルタでしかない。

 

「人を殺す為の古武術の家系に生まれちゃったから、そうなのかもしれないけどね」

 

 もっとも、そんなスパルタに着いていけるとなると、その弟子もまた導師ではなく、術師としての極地を目指せるだけの心意気を持っているのであろうが。

 

「だけど、なのはの面白い所は、指導者の補佐に回った時ね。今回の場合、部長なワケなんだけど。

 部長のサポートに回ったなのはは、部長の考え方を尊重した上で、部員達に花の活け方教えるでしょうから、私やはやてと同様に楽しめる教え方になるんじゃないかしら」

 

 どちらかと言えば人を振り回すことの多いアリサではあるが、見るところはちゃんと見ているようだ。

 

 この辺りは、きっと会社経営者である父などの影響だろう。

 

「いやー……。なんちゅうか――ほんま、何が幸いするかわからんなー」

 

 アリサから話を聞いて、はやてが思ったことはそんなものだった。

 

「何よ突然」

 

 それにアリサが訝しむと、はやては笑いながら答えた。

 

「ほら、華道・茶道部に遊びに行こう言うた日、アリサちゃんがそう言っとったやろ?」

「あー……言ってた気がするわ」

 

 アリサが相づちを打つのを確認してから、はやてが続ける。

 

「アリサちゃんがあの日、華道・茶道部に行こう言わへんかったら、今日の出来事がなかったわけや」

 

 自分も余計なお節介をすることはなかっただろう。

 たまたまアリサの気まぐれが、たまたま華道活動の日で、そこになのはが居たからこそ、今回の奇跡は起きたのである。

 

「何を大袈裟な」

「そうは言うてもな、アリサちゃんのワガママが巡り巡って役に立ったわけやから、もっと胸張ってええんとちゃうの?」

「それじゃあ普段の私は役に立たないワガママをしたい放題やってるみたいじゃないの」

「おお? そう聞こえてもうたらなら申し訳あらへんな。せやけど、今回は張ってええんやで。胸。えへんと」

「別に自慢するコトでも誇るコトでもないでしょうに」

「そうか、張らへんのか……胸」

 

 残念そうにはやてが呟く。

 

「……えへんしないんやな……胸……」

 

 その様子に、アリサは疑わしげな半眼になってうめいた。

 

「あんた、私が胸張ったら何するつもりだったのよ?」

「そりゃあもう、態度以上にわがままな(それ)を、こう……」

 

 口にしてから、はやてはしまったという顔をした。

 

「ほう? わがままな胸(これ)をどうするの……?」

「…………」

「…………」

 

 はやては口を閉じ、ふぅ……と息を吐いてから、とても良い笑顔でアリサに告げた。

 

「それじゃあ、私は用事があるんで、この辺りで帰宅モードへ移行や」

 

 しゅたっと手を上げてベンチから立ち上がるはやて。

 一緒になって、アリサも無言で立ち上がる。

 

「…………」

「…………」

「アリサちゃん」

「なに?」

 

 半眼のまま、アリサが問い返す。

 はやては息を吸って、声を上げながら、地面を蹴った。

 

「ほな、また明日ッ!!」

「逃ッがすかぁ……ッ!」

 

 全力で逃げ出すはやてを、アリサは全力で追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 世の中何が幸いするか分からない。

 ついでに、何が災いするか分からない。

 

 

 

「待ちなさいはやてッ!

 あんたのそのセクハラ癖ッ、ここらで矯正してやるんだからぁ……ッ!」

「あ~ん……アリサちゃんッ! か~ん~に~ん~や~!!」

 

 

 

 何というか、これは……

 そういうお話だったと言うことで――

 

 

 

 

【An accidental flower blooms. - closed.】

 

 

 

 




===当時のあとがき===

 あとがき

 お久しぶり、あるいは初めまして。北乃ゆうひでございます。年度最後の薄い本は、こんな中学生なお話でございました。少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

 今年は結果としてオフセット本がまったく出せず、楽しみにされていた方々には大変申し訳なく思います。

 こればかりは、完全な個人経営とも言える同人であるが故という部分もありますので、ご理解頂けると助かります。

 来年がどうなるか予想は出来ませんが、それでも中学生シリーズのオフセは、いずれ必ず出すコトはお約束します。見捨てないでいただけると幸いです。

 今回はスペースが少ないのでこの辺りで失礼します。
 今年一年、北乃に付き合ってくれた全ての方々に最大級の感謝を。

 それでは皆様、良いお年をお越し下さいませ。

【28 / 12 / 2014 / 16:32 ENDRoll-Closed.】

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ここまでお読み頂き、ありがとうございました٩( 'ω' )و

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