調味料は適切に(リリカルなのは短編集)   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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以前コピー誌で発刊したモノをハーメルン用に編集して投稿しております。


初出 平成24年 12月31日


【ViVid】毒蜂 街に来たりて、八角鷹 眼を光らす【とらハ3】

 

「なんか、最近この辺りに暗殺者が彷徨いてるらしいから、気を付けろ」

「わかったー」

「軽ッ!?」

 

 横で聞いていたそのやりとりに、思わずヴィヴィオは声を上げた。

 

 ヴィヴィオが、いとこの雫と出掛けようとした時、雫の父――恭也が軽いノリで告げてきた危険な内容を、雫も同じぐらい軽い調子で返したのだ。

 

「そう?」

「わりと普通だと思うが」

「その感覚がすでに普通ではないと思うのですが」

 

 今はいわゆる年の瀬。

 新年を祝うということはミッドチルダでは馴染みがない。だが、ヴィヴィオの母やその幼なじみ達は、地球の出身だったり、地球に住んでいたことがあるのでこの時期になると地球へと帰省するのである。

 

 当然、娘であるヴィヴィオも母と共に、母の実家へとやってきていた。

 

 母の実家は喫茶店を経営しており、母はそこを例年通りに手伝いに行っている。

 ヴィヴィオもちょくちょく手伝いはするのだが、今日は従姉妹の月村雫と遊ぶために、彼女の家まで遊びに来ていた。

 

 ただ、ヴィヴィオも雫もインドア好き格闘家である。

 本を読んだり、ゲームをしたりというのも好きなのだが、やはり互いに手合わせがしたくなるのだ。

 

 そうして二人の意見が一致したところで、適当に出掛けようとした所、彼が声を掛けてきたわけである。

 

「あ、暗殺者とか物騒すぎるってレベルじゃないような……」

「まぁ確かに暗殺者がこの街を歩いてるとなると危ないわよね」

「そうだな、確かに危なくはあるな……」

 

 ヴィヴィオの言葉に、月村親子はうんうんとうなずき、

 

『暗殺者が!』

 

 そう、声を唱和させて告げるのだった。

 

 

 

     ★

 

 

 

 

「…………」

 

 人気が無い裏路地で、男は手にしたスマートフォンを操作する。

 呼び出したのは一通の依頼メール。

 

『ターゲット:高町士郎。旧姓、不破。

 元フリーのボディーガード。任務中の怪我の後遺症により引退。

 現在は妻・桃子と共に喫茶店を経営している。

 

 現在かなり有名なボディーガード不破恭也、御神美由希 両名の父であり師。

 不確定情報であるが、香港の元人喰い鴉で現在警防隊勤務の御神美沙斗の兄らしい。

 

 恭也、美由希の他になのはという娘がいる。

 海外にて仕事をしているという情報があるが、どの国にも高町なのはは見つからず。

 

 時折、帰国して喫茶店を手伝っているので嘘ではないらしい。

 恐らく国外で、偽名にて裏方家業をしているからではないかと推測される。

 

 また、なのはが光を操ったという目撃情報がある。

 

 あらゆる病院に情報が存在しないが、未登録の高機能性遺伝子障害者すなわち超能力者の可能性あり。

 年齢的にも現役である子供達には気を付けた方がいいだろう。

 

 御神の生き残りは可能な限り消してもらいたいが、今回は士郎のみで良い。

 だが、士郎以外の血縁者殺害一人ごとにボーナスは出す。

 恭也の娘、雫。なのはの娘、ヴィヴィオにも、僅かばかりだがボーナスを出そう。

 成功を祈る』

 

 もう何度も読んだ文章を改めて読み返し、添付されている写真を見る。

 

「引退したとはいえ、ターゲットもさすがは元ガードといったところか。先ほど、マンションの屋上から狙撃しようとしたら目があった。恐ろしいコトではあるが」

 

 それを考えると、腕はともかくカンは鈍ってはいないようだ。

 そして、勘づかれてしまったのも事実。今頃は、子供達が警戒している可能性がある。

 

 恭也と美由希の勇名は知っている。

 

 大規模な犯罪組織『(ロン)』が衰退した原因の一旦。さらに恭也は、その関連組織ゴールドクローバーのボスの逮捕に関わっており、美由希はゴールドクロバーが雇った暗殺者スライサー・グリフを返り討ちにしている。

 

 そして、この依頼主は知らないようだが、なのはは異世界で魔導師をしている。それも、エースオブエースと賞される最高峰の砲撃魔導師だ。

 

「欲は……かくものではない」

 

 泥で濁り淀みきった沼のような声で、彼は独りごちる。

 スライサー・グリフ。長剣を使う戦闘狂。性格や人格は暗殺者向きとは言えなかったが、その剣の腕は確かだった。

 

 たまたま迷い込んだ異世界で、特殊な道具や一時的な身体強化の術を身につけ、それを用いて地球で暗殺を繰り返してきた。

 

 その際に、当然向こうでのニュースなどを目の当たりにする機会もあったからこそ、その魔導師の存在を知っている。だが、こんな形で白き砲撃主(エース・オブ・エース)と関わり合いになるとは思わなかった。

 

 依頼を受けた時点でリスクはある。いや、リスクのない暗殺などそもそも存在しないのだ。

 

 故に、欲はかくものではない。速やかに依頼を遂行する。

 

 だが――

 

「孫は十歳と十二歳か……チャンスがあれば小遣い稼ぎは出来る」

 

 親が親だし、家系も家系だ。武術を習っている可能性がある。だが、武に長けていようと所詮は子供だ。

 

 御神流……二十年近く前にテロによって一族のほとんどが死亡した。

 その生き残りが、子供を作り、また増えていく。

 

「それを好ましく思っていない人間がいるんだ。恨みはないが、仕事はさせてもらう」

 

 独り言は悪いクセだ――そう思いながらも、最後にそれだけ呟き、彼は裏路地の闇の中へと姿を消した。

 

 

 

     ★

 

 

 

「あー……そうか。新年の準備……」

 

 八束(やつか)神社の長い石階段を登り切った後で、目に映った光景を見て、雫は思わず苦笑した。

 

「っていうか、毎年ここか翠屋の手伝いしてるんだから、そういうの忘れるのはどうかと」

 

 ヴィヴィオも釣られるように苦笑するが、ここに来るまで自分も気づかなかったので人のことは言えない。

 

 クリスマスを過ぎれば、神社は年末年始の準備で大忙しだ。

 

 境内なども掃除などされてるようなので、さすがにここで手合わせするのは気が引けるし、そもそも作業している皆さんの邪魔になってしまう。

 

「境内の裏とかは?」

「んー……」

 

 ヴィヴィオの提案に、雫は下唇に指を当てて思案する。

 境内の裏には、八束神社で以前巫女をしていた人に許可を貰ってサンドバッグが置いてあったりするのだ。

 

 なんでも、なのはがまだ小学生だった頃に設置され、壊れても別のサッドバッグが設置されるという。恐らく誰かがここで訓練しているのだろう。それが誰であるかは、ヴィヴィオも雫も教えてもらっていない。

 

 それはともかく――そのサンドバッグがある辺りなら、本殿からも離れているし、邪魔にもならないと思うのだが。

 

「さすがに、この忙しい時に裏手とはいえ暴れちゃうのもね」

「じゃあ、家の道場にする?」

「それがいいかなー」

 

 だったら、最初からそうすれば良かったね――互いにそんなことを言いながら、石階段を引き返していく。

 

 ――と、

 

「…………?」

「雫?」

 

 その途中、足を止め雫が周囲を見渡した。

 

「ヴィヴィオ……誰か、私達を見てる」

「……ッ!」

 

 息を飲み、肩に乗せていたぬいぐるみ――クリスに、念話で索敵を指示すると、

 

「魔導師以外は、発見率悪いんだけどね」

 

 そう言ってヴィヴィオは目を伏せた。

 

「ミッドの魔法使いさん達は、その辺り弱味だよねー」

 

 そんなヴィヴィオに、気楽な調子で雫が言ってくる。

 

「生体探知系の魔法――もうちょっと工夫して使えるようにした方がいいとは思うけど……なかなかねー」

 

 実際、ミッドチルダの魔導師は魔導師適正を持たない相手を甘くみている部分があるのは事実だ。もちろん、そうでない魔導師もいるのだが、未だに少数派である。

 

「どう?」

「分かってるくせに……」

「気配、消えたね」

「うん……」

 

 魔法無しに気配探知出来るあたり、個人的には反則な気もするのだが――

 

「クリスも見失ったみたい」

 

 互いに肩を竦めあい、とりあえずの安堵をする。

 

「さっき、恭也さんが言ってた人かな?」

「だと思う。さて、どうしたものかな」

 

 月村の血筋。御神の血筋。狙われる心当たりが無いわけではない。

 

 だが、あの視線は――

 

「私だけじゃなく、ヴィヴィオも見てた気がする」

 

 だとしたら、狙いは……

 

「もしかして、私も狙われてる?」

「かもね」

 

 ならば、狙いは御神の一族全員なのだろう。

 ヴィヴィオはあくまで養子であり、血を引いてるわけではないのだが、向こうがそこまで知らないだけだと思われる。

 

「とりあえず、クリスに頼んでママ達や恭也さん達にメールはしといた」

「それで何とかなるでしょ。たぶん」

 

 

 

     ★

 

 

 

「久々の休暇なんですが、どうにも無粋な輩がのぞき見してるような気がします」

 

 カウンター席ではなく、窓際にある四人掛けのボックス席に座ってコーヒーを啜っていたクロノ・ハラオウンは、隣のボックス席を拭いているこの店の店長――士郎に、そう嘯くと、

 

「気のせいじゃないんだなこれが」

 

 店長は店長で、軽いノリでそう笑った。

 日々の仕事が激務であり、こう一人でのんびりする機会がすくないクロノにとっては久々の寛ぎタイムだったのだが、どうにも気が休まらない。

 

「ほい」

 

 隣の席のテーブルを拭き終わった士郎は、クロノへと一枚の写真を放った。

 

「これは?」

(シン) 紅虎(ホンフゥ)。俺に――いや、御神の一族を忌み嫌う連中が雇った殺し屋」

「顔写真まで持ってるんでしたら、警察にでも行ったらどうですか?」

「警察がどうこう出来るやつだと思う?」

 

 無論、口ではそう言ったが、クロノもどうこう出来るとは思っていない。

 

「そんなワケで、可愛い孫達も狙われる可能性があるので、守って欲しいんだが」

「そのお孫さん達の父親や母親は、わりと無敵な人達だったと記憶してますが」

 

 現役の最強と賞されるボディーガードに、時空管理局のエースオブエース。地球、ミッドチルダどちらの殺し屋がやってきても返り討ちは確実な実力者だ。

 

「そうは言うがなぁ……」

 

 士郎はやれやれと言った調子で背筋を伸ばし、わざとらしく肩を竦める。その直後に席に面した窓硝子に数点の穴とそれを中心とした放射状のヒビが入った。

 

「防弾硝子の窓って高いんだ」

「本音はそっちですか」

 

 窓が防弾硝子仕様の喫茶店など、世界広しといえども翠屋くらいだろう。

 

「実は新宿にも一件あるぞ。防弾硝子仕様の喫茶店」

「どうせ士郎さんの現役時代の知り合いとかが経営してるんでしょう」

 

 だとしたら、この防弾硝子は重度の職業病なのではないだろうか。

 クロノと士郎は動じることなく、そのままお喋りを続けているが、周囲のお客さん達は突然のその光景にどよめいていた。

 

 だが、それを店内のスタッフ――士郎の娘や、家族づきあいのある手伝い達――が、手慣れた様子で謝罪して回っている。

 

「これで、もしかしたらターゲットをヴィヴィオ達に変えたかもしれませんね」

「現役を退いたとはいえ、そう簡単に俺はやられるつもりはないしな」

 

 戯けた口調でそう言う士郎に、クロノはわざとらしく音を立ててコーヒーを啜る。

 

「もちろん、オフ中の提督へ仕事依頼だからな。ただとは言わないよ」

「――それで、おいくらです?」

「そのケーキセット。タダってところで」

「引き受けました。あ、出発はこのセット完食してからですので」

「ま、そのくらいなら問題ないさ」

 

 それから、二人は示し合わせたようにケータイを取り出し、ほぼ同時に受け取ったメールの画面を開いて見せ合った。

 

「すでに近づいた後だったみたいだな」

「あの二人もまぁ決して弱くはありませんからね」

 

 互いにそう笑い合ってから、硝子に受け止められたライフル弾――それが数秒前まで収まっていただろう地点へ向けて、細く引き絞った強烈な殺気を解き放った。

 

 

 

     ★

 

 

 

「末恐ろしい子供達ではあるな」

 

 とあるビルの屋上でライフルの準備をしながら、紅虎は呟く。

 子供だから与しやすいかと後を付けていたが、ちょっとした気配を察知されてしまった。

 

 警戒されてしまった以上、その警戒が解けるまでは、勘づかれやすくなってしまうだろう。

 

 仕方ないので、一旦子供達からは離れ、こうして翠屋を覗けるビルの屋上へとやってきたわけなのだ。

 

「これだけ距離があれば――」

 

 ライフルを構え、スコープを覗き込む。

 

 窓際の席には黒髪の男が一人、ケーキセットを食べている。

 その横で、ターゲット・高町士郎はテーブルを拭いていた。

 

 こちらに気づいた素振りはない。あるいは、気づいていないフリをしているだけか。

 

「どちらでもいい。弾鉄(ひきがね)さえ引けば、こちらの勝ちだ」

 

 余裕を見せるつもりであるのなら、その足下をすくうだけだ。

 ターゲットはテーブルを拭き終えると、隣で座っていた男と談笑を始めた。どうやら、彼は常連かなにかのようだ。

 

「メモ……いや、写真か?」

 

 その男に、士郎が何かを手渡す。さすがに、ここからではそれが何であるかまでは、見ることが出来ない。

 

 もしかしたら、士郎は昔のツテを使い情報屋のようなこともやっているのかもしれなかった。だとしたら、あの男はその情報屋としての客――といったところか。

 

「ふむ……もし情報屋をやっているのだとしたら、個人的には利用したいところだが」

 

 これから殺してしまうのは些か惜しい。もっと早く知っていれば良かったと思わなくはない。

 

「まぁ、そういうのもまた殺し屋の仕事の業、か」

 

 狙いを定めたまま独りごちていると、士郎が身体を起こして軽く肩を竦めた。

 チャンス――そう思うと同時に、弾鉄を引いた。都度、数度。

 

 だが、その弾丸は予想外のものに遮られた。

 

「防弾硝子――だとッ!?」

 

 一体、どこの世界に防弾硝子を用いた喫茶店があるというのだ。こんなもの、想定できるわけがない。

 

 彼にしては珍しく取り乱していると、窓硝子にヒビが入ろうとものんびり談笑してた二人が、突然こちらを睨んできた。

 

「……ッッ!!」

 

 次の瞬間――心臓が止まったかのように錯覚した。

 

 殺気に心臓を撃ち抜かれるかのような、衝撃。

 

 たかが、殺気。されど、殺気。

 士郎と黒髪の男が発した殺気は、それだけで並の人間であればその場にへたり込み泣き出しかねないほど強力なものだ。

 

 しかも、周囲にまき散らすのではなく、それをコントロールして矢のように飛ばしてきた。

 

 あの黒髪の男も、一般人ではないらしい。いや、こちらを見るあの眼差しは、法の番人側の目だ。

 

 しかも警察のような生ぬるいタイプではない。自分のような暗殺者とことを構えることにも慣れている、傭兵や軍隊の類。

 

「これは……まずいというレベルではないな……」

 

 恐らく、自分はあの黒髪の男に目をつけられた。士郎が情報料をタダにする代わりに、何とかして欲しいなどと依頼していた場合、こちらの身が危険になる。

 

 今回の仕事は失敗だ。これ以上、この街にいるのはまずい。

 

 紅虎はもてる限りの全速力で片付けをすると、一つの立方体の箱を取り出した。

 

「とりあえずはこの場から離脱。逃げる算段はその先で考える」

 

 その箱を撫でると、足下に魔方陣が展開される。そして、もうひと撫ですると、彼はその魔方陣の中へと吸い込まれていくのだった。

 

 

 

     ★

 

 

 

「地球って、どんなところかと思ってたんですが、わりとミッドと同じ感じですねっ!」

「まぁこの国はわりとそうやな」

 

 ミウラ・リナルディは初めての異世界旅行にはしゃぎながら、周囲を見渡している。

 

 それに八神はやては微笑を浮かべた。

 元々家族と共にこちらへと帰省しているのだが、ミウラが「地球ってどんなところですか?」と訪ねてきたので、一緒に連れてきたのである。

 

 もちろん、彼女の両親には許可はとってある。

 

「こっちには、ヴィヴィオちゃんも来とるやろうから、後で挨拶に行こうな」

「はいッ!」

 

 元気いっぱいに答える彼女を見てると、何となく幼なじみであるなのはの気持ちが分かる気がしてくる。

 

(子供がいるって、こういうんかなぁ)

 

 リインフォースやアギトとはまた違う、不思議な感慨のような気分。

 決して不快ではなく、むしろくすぐったくもあるのだが、同時にひどく自分も歳をとってしまったようで複雑である。

 

「は、はやてさんッ!?」

「どないした?」

 

 突然、慌てたような声を上げるミウラを訝ると、彼女は何やら空き地を指さしている。

 

「あ、あの、あそこ……!」

「空き地がどうかして――え……?」

 

 ミウラが示す先に視線を移すと、空き地に突然見慣れぬ魔方陣が展開し、そこから黒ずくめの男が一人、湖面から浮かび上がるように姿を現した。

 

 瞬間、はやての中でスイッチが切り替わる。プライベートモードから、管理局員モードへ。

 

「すみません、時空管理局の者です。ここは管理外世界です。魔法の使用は原則禁止のはずです。もし、転送事故等の類でしたら、出身世界と所属をお教えてもらってもよろしいですか?」

 

 そう訪ねながら、はやてはミウラへ向けて念話を使って男に勘づかれないように、警戒しておくように伝える。

 

 男がいきなり襲いかかってきた場合、自分の手持ちの手段だとどうしても反応が遅れがちになってしまう。

 

 ミウラを危険に晒すのは本意ではないのだが、ケースバイケースというやつだ。

 

「時空管理局――よりにもよって、転送先に……ッ!?」

 

 男が驚愕したのは一瞬だけだ。

 すぐさま、ポケットからナイフを取り出し、はやての想定以上の速度で踏み込んでくる。

 

(この動き――魔導師やない。どちらかというと、非魔導師のプロフェッショナル……ッ!)

 

 はやては咄嗟に、目の前へ防御障壁を作り出すが、この男の持つナイフはそれを易々と切り裂く。

 

(あかん……!)

 

 完全に想定外。

 

 あのナイフは、魔力を持たない者が、魔力を持つ者へ対抗するために作られた対魔導師用。

 そんなものを持った相手が、いきなり転送魔法で現れるというのは、ほとんど想定していなかった。

 

「はぁぁぁぁ――ッ!」

 

 だが、こちらも最悪を考慮してカードは伏せてある。

 男より一瞬遅れて、ミウラが地面を踏みしめ、

 

「ハンマーシュラークッ!」

 

 相手を撃ち貫くかのような鋭い拳を振り抜いた。

 対魔ナイフがはやてに届くよりも先に、ミウラの拳が男を捉えて吹き飛ばす。

 

「ぐお……ッ!」

 

 地面を滑りながら、それでも男は素早く立ち上がった。

 

「うわ! あのタイミングで後ろの飛んで威力散らしましたよあの人ッ!?」

「覚えておくとええよミウラ。魔法を使わん世界のプロフェッショナル――彼らは、魔法使わず人間を越えてまう」

「人間を越えるコトなどは出来んさ。人間としての限界を極めているにすぎない。もっとも――俺よりも高い限界値を持ち、その限界ギリギリまで鍛え抜いた者達が居ないわけではないが」

 

 暗く――汚泥に濁った水のような声に、ミウラがはやての後ろに隠れるように一歩引く。

 

「相手が地球のプロフェッショナル言うなら、余裕は微塵もあらへんな。その恐ろしさ――よう知っとるつもりや。事情は聞かん。叩きのめして、知り合いのプロフェッショナルに引き渡す」

「よく見れば……トリプルエースの一人――八神はやて、か」

「ミッドに知り合いがおるみたいやな。そのナイフとさっきの転送陣――出所を吐く気は……」

「あると思うか?」

「思わへんな」

 

 言うなり、はやてが指を鳴らすと男の足下から四本の魔力鎖が現れて絡みつこうとする。

 

 だが、男はそれに捕まることなく、あっという間にナイフですべて切り刻むと、懐から立方体の箱のようなものを取り出した。

 

「ミッドチルダの魔法使い達は、魔法に対して驕りがある――そう思っていたが、お前はどうやら、そうでもないらしいな」

「さっきも言うたけど知り合いに地球のプロフェッショナルがおるからな。ええ、勉強させてもろうてる」

 

 声と同じくらい濁った瞳をこちらに向け、男は口の端を小さくつり上げた。

 

「ミウラといったか――先ほどの打撃、魔力ありとはいえ悪くなかった。だが、もっと反応速度をあげるべきだな。キミは一瞬、私を殴るべきか悩んだな?」

 

 はやての横でミウラがどう反応して良いか困っている。

 だが、それにはやてが何かを言う余裕はない。迂闊なスキは命取りだ。

 

「魔法を使わない人間だから、魔法で殴ってはいけない――そういう甘さが時として必要がない場合もある」

「ミウラはそれでええんよ。戦闘魔導師やのうて、競技魔導師やからな」

「……ふっ」

 

 その笑みにどのような意味があるかは分からなかったが、彼は笑みを浮かべながら再び転送陣を足下に展開した。

 

「キミ達には感謝する。逃亡中とはいえ頭に血が上っていたのを冷ましてくれたからな」

 

 それだけ言うと、男は魔方陣の中へと沈んでいく。

 

「あ、待ち……ッ!」

 

 咄嗟にはやてが手を伸ばすが、男はあっという間にその姿を消してしまった。

 完全にその姿が無くなったのを確認してから、はやては大きく息を吐いた。

 

「ある意味、生きてるだけ儲けもんかもしれへんな」

「ち、地球って怖いところなんですね……」

「こんなん特別や。普段会えないレアな化け物にでも出会った程度にしとくとええよ」

 

 そう告げてから、やや自分の口調がピリピリしているのに気が付いた。

 改めて息を吐いてから、ミウラの頭を撫でる。

 

「緊張して喉が渇いてもうたし……なのはちゃんのご両親がやっとる喫茶店にでも行こか」

「あ、はい! 美味しいって話ですから楽しみです!」

 

 そうして、二人で歩き始めた所に、はやてのケータイが鳴った。

 それを取り出し、受信したメールを見て思わず苦笑する。

 

「星 紅虎……捕まえそこねたんは、失敗だったかもしれへんけど……」

 

 ミウラが居たのだ。それを思えば、今回の結果が最上としておこう。

 今の出来事を素早く打つと、情報の送り主へとリターンする。

 

「はやてさん?」

「ん、何でもあらへん。ほな、行こか」

 

 

 

     ★

 

 

 

 転送陣から飛び出すなり、紅虎は思わず腹部を押さえて転げ回る。

 

「ぐおお……めちゃくちゃ効いた……! あのミウラとかいう小娘……思い切りやりやがって……ッ!」

 

 あのまま続けていればやばかったのはこちらであった。

 だが、八神はやてが必要以上にこちらを警戒していたのが功を奏した。

 

 ミウラのことを守ろうとしている部分もあったので、利用させてもらったのだが――

 

「確かに威力を散らせたが、痛いもんは痛いんだ……くそッ」

 

 大きく息を吐き、何とか立ち上がってから周囲を見渡す。どこかの民家の庭のようだ。

 家の中には人の気配はあるが、こちらの気づいた様子は無い。

 

「でかくはないが……家の庭に道場というのもすごいな」

 

 長居をするわけにはいかない。

 家に道場があるということは、それなりに武に長けたものが住んでいる家ということだ。

 

(……ん? 家に道場……?)

 

 何か引っかかりを覚えた、直後――

 

「……ッ!」

 

 紅虎は咄嗟にナイフを振るった。

 飛来した鉄の針のようなものを弾くと、

 

「惜しい」

 

 そんな声が聞こえてきた。

 声のした方へと視線を向けると、そこは道場の入り口。そこに居たのは――

 

「月村、雫……」

「やっぱり狙いは私……ううん、御神の関係者、かな?」

 

 構えているのは木刀だが、十二歳とは思えぬスキの無さを見せている。油断の出来ない相手だ。

 

 この場からも逃げるしかないだろう。

 懐から、再び立方体を取り出す。

 その瞬間、物陰から虹色の光弾が飛来する。

 

「……!」

 

 紅虎は素早くナイフでそれを切ろうとするが、光弾は綺麗にそれを躱し、彼の手に持った立方体を狙う。

 

 それに気づいて身体を捻るが、今度は物陰からヴィヴィオが飛び出してきた。

 

「この――ッ!」

 

 狙いはやはり立方体。これが転送装置であるとバレている。

 さらに雫までこちらへと踏み込もうとしているのを見、一瞬対応に悩む。

 その隙に、光弾が立方体をはじき飛ばした。

 

「しまった!」

 

 手から離れたそれに慌てて手を伸ばそうとするが、それを空飛ぶウサギのぬいぐるみが空中でキャッチ。そのまま家の軒下の方へと飛んでいく。

 

「クソッタレ!」

 

 そのウサギを視線で追うと、一人の女性がそこにいた。

 戸の縁に腰を掛けていた女性が、その箱を受け取とると、ウサギの頭を撫でる。

「よくやったわ。クリス」

「お前は……?」

「名乗ってあげてもいいわよ。私は月村忍。それで、うちの可愛い娘と、可愛い姪っ子のコンビに何か?」

 

 忍と名乗る女性は、武術などの心得はなさそうだが、その双眸に含まれる怒気は、一般的な母親のそれとは違う。その怒気のこもった瞳だけで人の心を殺せそうな――そんな殺気じみたものを感じる。

 

(何らかの……能力者か……?)

 

「忍さん、その人が紅虎だね」

「そうみたいねー」

 

 家の奥から、女性が二人やってくる。

 一人は栗色の髪をサイドアップにした女性。ミッドチルダでは知らぬ者の居ない英雄。エースオブエース。高町なのは。

 

 もう一人は金の髪を腰元よりも長く伸ばした女性。彼女もミッドチルダでは有名だ。高町なのは、八神はやてと並び称される魔導師、フェイト・T・ハラオウン。

 

(最悪だ……転送装置無しに、この状況は……ッ!)

 

「ヴィヴィオの保護者としても、高町の人達の友人としても見過ごせない相手かな。もちろん、執務官としても」

 

 だが、相手は子供二人と魔導師二人。一人は何らかの能力はあれど、実戦経験はなさそうな女。

 

 やりようによっては組み伏せられる。

 

「何か庭が騒がしいなと思って見てみたら……あんまり、穏やかな状況じゃなさそうだね」

 

 そして、この家の入り口だろう方から現れたのは、

 

「……御神、美由希……ッ!」

「そっちの名前を呼ぶっていうコトは、そっち側の人なんですね」

 

 獲物は持っていないが、メガネを外しこちらを向くだけで、強烈なプレッシャーを感じる。

 

 その気配から察する。真正面から勝てる相手ではない。

 

「ただの暇つぶしのつもりだったのだが、わりと管理局的にも見過ごせない相手だったとはね」

「まったく、窓硝子の修理代とか言うなら自分で何とかしろよと思わなくはないんだが」

 

 さらに、美由希の後からやってきたのは、二人の黒ずくめ。

 

「不破恭也……それに……」

 

 あの窓際に座っていた男。

 

「私のコトは分からないようなので名乗っておこう。時空管理局のクロノ・ハラオウン提督だ。こちらの言いたいコトは分かっているな?」

 

 時空管理局の提督クラスまでもが現れるなど、思っても見なかった。

 

 ――いや、だが背後の塀を越えれば逃げること出来る可能性がある。

 そう思い、そちらに視線を向けると、空から女性と少女のコンビがそこへと降り立ってきた。

 

「ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム」

「同じく鉄槌の騎士ヴィータ推参、てな」

「我らが主と弟子を襲ったらしいな?」

「つーか、この状況あたしら来た意味なくね?」

 

 ここへ来て、退路が完全に断たれた。

 

「はは……はははははは……」

 

 もう笑うしかない。

 依頼どころか、暗殺者としての自分はどうやらここで終わりらしい。

 

「人間、追い詰められると笑うのねー」

「忍さん、なんか呑気ですね」

「これだけ揃えばねー」

 

 そうして、星 紅虎はナイフを捨てると大人しく両手を挙げるのだった。

 

「はは……はははは……はははははははは………はぁ……」

 

 

 

     ★

 

 

 

 雫が繰り出した突きを紙一重で躱し、ヴィヴィオは踏み込んで拳を振り上げる。

 

 振り上げられた拳に対し、雫は強引に突きの勢いを殺して横へと飛び退く。

 

 逆にヴィヴィオは拳の勢いを利用して、地面を蹴り飛び退いた雫を追いかけた。

 

 俊足の追い足。追いつかれた相手はそれを受け止める以外に防御手段がない――そんなタイミングで繰り出された蹴りを、事もあろうか雫は自らの着地と同時に身体を深く沈め、ヴィヴィオの足を払うという無茶な手段で潰してのける。

 

 足を払われたヴィヴィオが宙を舞う。だが、その宙を舞う勢いを無理に止めようとせず、ヴィヴィオは魔力付与した片手で地面に手を付き、ハンドスプリングの要領で飛び上がりつつ姿勢を戻す。

 

 だが、完全に体勢を整えさせまいと、雫が力強く踏み込んでいく。

 

「この仕事――引き受けた時点で、失敗だったか」

 

 拘束され、警察へと引き渡されるまでの間、ヴィヴィオと雫の組み手を見ながら、紅虎は乾いた笑みを浮かべた。

 

 同世代の少女達とは次元が違う。

 あれでまだどちらも、切り札を使ってないというのだから、末恐ろしいどころの話ではない。

 

 喫茶店の窓が防弾硝子だった以上、仕事中の士郎を狙撃するのはほぼ不可能。なら、店内で仕掛けられたかといえばノーだ。

 

 暗殺である以上は人質は論外だし、取ろうものなら、この場で自分を囲んだメンバーだけでなく、他のメンバーまで集まって救出作戦などを展開されていただろう。

 

「なんや、さっきの殺し屋さんやないか」

 

 その声に、苦い顔をしながら、紅虎は振り向く。

 

「八神……はやて……」

「もしかして、私らから逃げた後で、ここへ飛んでもうた?」

「勝手に想像しろ」

 

 考えてみれば、トリプルエースは幼なじみだという話だ。この展開は想定出来た。

 想定出来たのに、対応を考えていなかったのは完全に自分のミスである。

 

「やはり、この依頼――引き受けたコトそのものがミスだったか……」

「えーっと、僕はちょっと違うと思います」

 

 独り言にはやての横にいたミウラが反応する。

 

「なんだと?」

「そもそも、殺し屋なんておっかない職業を選んじゃったコトがミスじゃないかなって」

 

 無邪気な子供の意見だ――そう思ったが、紅虎は同時に別のことも思っていた。

 

「ある意味、真理かもしれん」

 

 足を洗う良い機会というやつなのかもしれない。

 そんな風に考え始めた矢先、

 

「いやまぁなんちゅーか、シリアスな空気出してるところ悪いんやけど」

 

 どこかバツの悪そうにはやてが告げる。

 

「この街で犯罪やらかそうって時点で失敗やと思うよ」

 

 そうして、はやての口から様々な人物の名前を聞かされ、紅虎の顔は青ざめていく。

 

「多数のHGS(超能力)に、表の格闘技有段者にシークレットサービス……裏の有名な元殺し屋達……それに加え、ミッドのSクラスの魔導師までそんなに……」

 

 八角鷹――あるいはハチクマと呼ばれる鷹がいる。その鷹は、雛の為にスズメバチの巣を襲う。

 

「ミッドに住んでた言うんなら、アースラって名前くらい聞いたことあるやろ?」

「英雄艦と賞されている次元航行艦だな、それがどうかしたのか?」

 

 この街はまるでハチクマが住む森林だ。自分のようなスズメバチが獲物を求めやってくれば、それを逆に捕食する。

 

「この街、当時の提督が住んでるし元クルーも結構多いんよ。私もその一人やしな」

 

 ハチクマの毛は分厚くその毒針が体内に届かない為、スズメバチは逃げ惑うしかない。

 

「……世界一……いや、次元一犯罪がしにくそうな街じゃないか……」

 

 まったくもって、今日の自分が逃げ惑うスズメバチそのものではないか。

 

「まぁミウラの言ったことも一つの真理やけど、単純に考えるなら下調べが不足しすぎてたとちゃう?」

 

 全くもってその通りだ。もっとしっかりと人間関係を調べておけば、違約金を支払ってでもこの依頼を止めたかもしれなかったのだから。

 

 がっくりと紅虎がうなだれる。

 その時、

 

「はやてさん! 下がって!」

 

 ミウラが突然、はやての腕を引いた。

 

「わったった……!」

 

 バランスを崩しながらその場から退くはやて。

 

 そこへ――

 

「ディバイン……バスター!」

 

 ヴィヴィオが魔力を解き放ち、雫がそれを見切って躱し、

 

「……え?」

 

 その砲撃は吸い込まれるように紅虎の足下で炸裂した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 雛である孫達でさえ、これだけの才能の原石なのだと実感すると同時に、爆風によって吹き飛ばされる。

 

 紅虎は宙を舞いながら、

 

(もう、俺――暗殺者辞める……)

 

 心の底からそう誓うのだった。

 

 

 

 

【Occasionally a scapegoat also preys on an evil - cloused.】

 

 





===当時のあとがき===

 あとがき

 初めまして&お久しぶり。北乃ゆうひでございます。
 本書をお手にとっていただき、恐悦至極。
 本来はオフセ予定でしたが色々と予定が狂ってしまいコピー誌になってしまって申し訳ありません。それはそれとして、本書を少しでもお楽しみ頂けましたら何よりです。
 久しぶりに、【動詞or形容詞(英語)&(英語)】なタイトルから外れた形にしてみました。
 深い意味はないんですが、単にそのパターンのタイトルが思いつかなかったというかなんというか。
 何となく動物を使った詩っぽい一文タイトルは『冬啼き鶯は夏を駆れるか?』以来なので、だいたい五年ぶり。
 え? 五年!? 自分で言っておいて驚きいっぱいで色々なんです。
 そろそろコピー誌のストックもたまってきたので、また短編集を出すかとは思います。
 その前に、スイートステップマイハートの4巻も出さないとですね。
 個人的にはいくつか新書か文庫サイズで出したい長編モノの構想もあったりして、やりたいことは色々です。来年はどうなるコトやら。
 同人活動も十年経ったので、そろそろ傑作選とかやってもよいかしら?
 自分で選ぶのも何ですし、アンケートとか取ったりして。出来るかどうかは別ですけどね。考えるだけならタダですから。
 そんなこんなで、本日はこの辺りで失礼します。
 お手にとってくださった皆様に最大級の感謝(ありがとう)を。
 そして、皆さん良いお年を迎えることを。
 では。

【28 / 12 / 2012 / 20 : 22 / ENDRoll - closed.】


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ここまでお読み頂き、ありがとうございました٩( 'ω' )و

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