調味料は適切に(リリカルなのは短編集) 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
初出 平成29年 05月28日
0.
人は――知り得たことしか知らないし、
人は――見えた部分しか見れないし、
人は――見たい部分しか見ることはできない。
だけど、それでも――知れば変わるし、新しく見える部分は増やせるし、視点を変えれば見たい部分も変わってくる。
以前の私は、未知の部分は思いこみ、勝手に想像し、勝手に腹を立てていた。
フーちゃんと本気でぶつかって、目が覚めた今、あの時の私は苛立ち混じりに、ずいぶんとひどい思いこみで、勝手に腹を立てたなぁって思う。
「気にしすぎじゃリンネ。あちらさんは、別に気にしとらん言うとった」
「そうだけど――」
それでも、知ってしまったから――当時の自分に対する自己嫌悪でイヤになる。
キッカケなんて些細なことで、それを知り得たことはただの偶然で。
始まりは、ナカジマジムとの合同合宿。
場所は次元世界カルナージにある、ホテル・アルピーノ。
そこに作られた、時空管理局の局員用、高難易度ミッションの体験シミュレーター。
せっかくだからと、制作したルーテシアさんの誘いですることになった体験会。
私ことリンネ・ベルリネッタが体験した高難易度ミッションのシミュレーションが発端の小さな小さな悩みと、ささやかな一歩の物語。
――――はじまります。
1.
「某管理局魔導師達から頼まれていた、過去の高難易度ミッションの時の戦況を再現し体験できるシミュレーターッ! ついに完成したのッ!」
えへん――と、ルーテシアさんが胸を張ると、意味が理解できているらしいヴィヴィオさんとほか数人だけが拍手をしていて、よく分かっていない私やフーちゃんたちは、首を傾げた。
「簡単に言うと、管理局の魔導師さん達が過去に戦った、とんでもなく強かった犯罪者とか、とんでもなく困難な状況からの脱出だとか――そういう難しいの一言じゃ済まないような状況を再現し体験できるシミュレーターよッ!」
イマイチ盛り上がらない私達に、ルーテシアさんが説明してくれますが、やっぱりよく分からない。
ただ、再現されるミッションはあまりにも難易度が高すぎて、事件当事者に改めて体験させてもクリアできるかは分からないレベルだそうで……。
再現してある状況というのはどれもこれも、魔導師達の実力と運と奇跡と偶然が噛み合わさったからの成功したようなものも多いのだとか。
ハリーさんやエルスさんは何となく分かったような顔をしているけれど、私はやっぱりよく分からなかった。
「まぁ競技選手だもの、相手の経歴はともかく、強い人って気になるでしょ?」
その部分はよく分かったので、みんなうなずく。
もちろん、私も。
「それに番長とエルスは、管理局入り考えてるんでしょう? だったら、余計に興味があるんじゃないかしら?」
「まぁな」
「はい」
そういうわけで、試運転を兼ねた体験会に相成ったのでした。
2.
ルーテシアさんが作ったシミュレーターにおける体験会。
それは、競技格闘の中だけでは絶対に体験できないような、対戦相手ばかりで――
ヴィクターさんとミウラさんがタッグを組んで挑んだ相手は魔導書型のデバイスを手にした銀髪の女性。
何でも、ミウラさんがお世話になっている方のお姉さんなのだとか。
残念ながらすでに他界されているって話だけど、そんな方とシミュレーター上でも手合わせできるのは嬉しいと、ミウラさんは意気込んでいた。
でも、結果は大敗北。
勝利条件は一定時間足止めするか、一定以上の魔力ダメージを与えるか――なんだけど、二人はそれを満たすことはできず、それどころか収束系砲撃で二人ともまとめてKO。
強い相手、難しい相手――事前にそう説明されていても、ミウラさんやヴィクターさんの強さを知っている私としては驚きです。
ちなみに、ヴィヴィオさんのお母さんが九歳の頃にほぼ一人でその条件を満たされたと聞いて、さらに驚きです。
……ヴィヴィオさんのお母さん、管理局の方だと知ってはいたけど、そそんな歳の頃にこんな方と戦っていたというのはすごい話です。
私も、ルーテシアさんが一時期お世話になった人で、メガーヌさんの元上司だった人と戦わせてもらった。
正直言って、歯が立たない。恐らく、私に有利な競技ルールで戦ったとしても、勝てない相手だったかな。
実践と競技の違いを含めた様々な要因の差もあるんだと思うけど、競技世界だけでは知ることのできない強さのようなものを感じられて、結構楽しい体験だった。
これ以外にも、ナカジマ会長のデータもあった。
それに加えてナカジマジムの面々や聖堂教会のシスター・シャンテなどのセコンドで時々見かける人達のデータも。
でも、データ上のみなさんは、どうにも冷たい目というか、とても怖い目をしてる。
以前の私も、フーちゃんから見るとこんな目をしてたのかな?
……ウェンディさんやシスター・セインは今とあまり変わらない顔をしているような気がするけど。
「ナカジマ会長……若い頃ヤンチャしていたって……このシミュレーターにデータがあるってコトは……」
「ジルの想像通りだよ。局に追われてたコトがある」
「良かったんですか、私達に知られてしまって?」
「このメンツなら問題ないって思ったからな。今は一般人だよ」
そう笑っているナカジマ会長を見ると、何となくナカジマジムの人達がお人好しな理由が分かる気がする。
みんな色々あって、それでも笑って前に進もうとしてる人達なのかなって。
「あの頃のあたしらはさ、当時の保護者達から常識の代わりに、管理局法の破り方ばっかり教わってたのさ」
その話から、ナカジマ会長も、私やフーちゃんと同じような境遇で育った方なのだと想像ができる。
でも、私やフーちゃんと明確に違うのは、教え導く人が悪い人であったこと。縋るものが無い私達孤児にとってはある意味で、保護してくれている人達が全てという面があるから……。
ナカジマ会長とコーチのやりとりを聞きながらモニタに目を向けると、シミュレーター上のナカジマ会長と戦っていたヴィヴィオさんが、ガッツポーズを取っている。
「しょーりーッ! 当時のノーヴェなら、タイマンの
「良くやった良くやった。ある意味、当時のあれこれへリベンジできたか?」
「んー……そういうコトはする気は特にないけど……それでもリベンジっていう言い方するなら、相手はノーヴェじゃないかな」
「そうかい」
複雑な感情の入り交じった苦笑を浮かべながら、ナカジマ会長はヴィヴィオさんの頭を撫でています。
やりとりの中で聞こえた、リベンジという言葉。
エリート公務員の娘で、お嬢様学校に通う恵まれた境遇の女の子――ヴィヴィオさんのことはそう思っていたんだけど、なんだか違う気がしてきて……
上手く言えない棘のようなものが、胸に刺さったような気がした。
3.
「ノーヴェが自分のデータを見せるのOKしたなら、私もいいかな?」
「お前がそれでいいなら、あたしは構わないよ」
「分かった。フーカさんやリンネさんになら、知られても問題ないと思うしね。
二人のコトに勝手に首を突っ込んじゃったお詫びというかなんといいますか……」
はにかむような、申し訳ないような顔で、ヴィヴィオさんがそう言うのに、フーちゃんが慌てて答える。
「や、そんなコトないです。むしろリンネと話す機会を作れたのはヴィヴィさんたちのおかげじゃから……」
「うん。フーちゃんの言う通りだから」
私もフーちゃんに同意です。
実際、そう思っているから。
「えへへ……ありがとうございます。
でも、せっかくですから、二人も挑戦してみてください」
そう告げると、ヴィヴィオさんはルーテシアさんのところへと向かいました。
そうして、ヴィヴィオさんの意見と、ルーテシアさんの提案から、私とフーちゃん。アインハルトさんにジークリンデさん。それからヴィクターさんの五人が選ばれました。
「五人でも荷が重いかもだし、あと二人くらい入ってもいいわよ?」
ルーテシアさんの言葉に、ハリーさんとエルスさんも名乗りをあげて、合計七人で挑戦です。
「シャンテも入っていいのよ?」
ルーテシアさんにシスター・シャンテもそう誘われるけれど、彼女は大げさに肩を竦めた。
「シミュレーション上とはいえ、彼の方に立ちはだかるのは畏れ多すぎますので、辞退させていただきまーす」
「シャンテそういう言い方しないでよ、もう」
「あははは。ごめんごめん」
畏まった言葉遣いをしながら嘯くように辞退したシャンテさんに、なぜかヴィヴィオさんは頬を膨らませるように文句を言っている。
――畏れ多い?
一体、私達はこれから、どんな人のデータと相対するのだろう?
首を傾げながら、言われた場所で待機していると、フレーム建造物が姿を変えて大きな黄金の扉が目の前に現れた。
その扉を見て、待機場の雰囲気が急に変わっていく。
「……ハルにゃん……気合い入れるよ。シミュレーションとはいえ、ご先祖様達の思いに応えるええ機会や」
「はい。当時、相対するコトすら叶わなかったのを思えば、ただの体験会で有っても充分に意味がありますから」
二人のチャンピオンが、試合の時とは別の鋭い表情を浮かべている。
「なるほど……これが話に聞いていた……。
覇王と鉄腕のお二人に、この雷帝――ささやかながら力添えを致しましょう」
ヴィクターさんも、普段とは何か違う顔。
「ハルさん達なんだか様子が変じゃな」
「うん。どうしたんだろう?」
私とフーちゃんで首を傾げていると、エルスさんが答えてくれました。
「あの三人にとって、この扉はご先祖様から続く因縁があるのでしょう」
「オレらは今までの体験会のルール通り、ダウン判定やゴングが無いってのだけ気にして戦ってりゃいいさ」
それを補足するように、ハリーさんも言います。
二人は何か知っているようだけど、必要以上に踏み込む必要もないという感じなので、私とフーちゃんは素直にうなずきました。
「それじゃあ、空間条件もオンにするわね」
ルーテシアさんの声が響くと同時に、急に身体が重くなる。
「なんじゃ、これ?」
「これがAMFですか」
「なかなかシンドイが、まぁ動けないほどじゃねぇな」
身体が重くなったのではなく、魔法をうまく使えなくする効果があるみたいです。
身体能力補正の効力が突然薄れたので急に身体が重くなったように感じたのだと思う。
「ヴィクター大丈夫か?」
「ええ。驚いたけど、不思議と身体はこれに馴れてるみたいに感じますわ」
「さすがは雷帝です」
「アインハルトにそう褒められるのは悪い気分ではありませんわね」
前の三人は、この状況をあまり気にしていないようで、落ち着いていました。
「扉を開けたらミッション開始になるからね。覚悟を決めてから、開けるコト」
そして、ルーテシアさんの声によって、私達七人は顔を見合わせた。
やっぱりジークリンデさん、ヴィクターさん、アインハルトさんの様子が変だ。
変――というのとは少し違うかな。まるで試合に挑む時のような、いや、それ以上のピリピリと痺れるような緊張感を纏っている。
それはこれまでの、どこか和気藹々とした体験会の空気とはまったく違う気配……。
「エルス、俺――ちょっとナメてたかもしれねぇ」
「同感です。こんな空気の中で局員の皆様は戦っていらっしゃるのでしょう」
ハリーさんとエルスさんのやりとりで私とフーちゃんも気づいた。
「なぁ、リンネ。もしかしてこの空気を――」
「うん。きっと――」
それは、普通に生活している限り、味わう機会はほとんどないもの。
これまでの体験会の中にある、楽しさ混じる緊張感とは別種の空気。
「――これが、戦場と呼ばれるものなのかも」
そう思うだけの緊張感が、今この場に満ちていました。
4.
先頭の三人がどうしてそこまでの緊張感を持っているか分からないものの、今回のシミュレーションのデータはヴィヴィオさんがルーテシアさんに使用を提案していたものです。
わざわざ、参加メンバーまで指定したんだから、何か意味があるんだと思う。
「ヴィヴィさんは、わざわざわしとリンネも参加しろと言うとった。つまり、この扉の向こうにはヴィヴィさんが秘密にしとった何かがあるんじゃろうな」
「うん。ナカジマ会長も、そうだったしね」
「ナカジマ会長の過去は、一歩間違えばわしらの過去にもなってた話じゃった」
孤児だった私達を拾ったのが悪人であったなら――そう思うと、他人事には思えない話だった。
そんな話をフーちゃんとしていると、アインハルトさんから声をかけられました。
「フーカ、リンネさん。準備はいいですか?」
「押忍ッ!」
「はいッ!」
魔法が使いづらい環境でも、戦い方はいくらでもある。
相手がどれだけ格上でも、一矢報いるくらいのことはするつもり。
「では、開けますわ」
ヴィクターさんが扉に手をかけて、ゆっくりと押し開いていくと、大きな空間が広がっていた。
幾何学的な模様の黄金の床と、入り口から最奥まで真っ直ぐに伸びる翡翠色の道。
その道の終端。縦長の空間の最奥には玉座と呼ぶに相応しい椅子と、そこに腰掛ける、どこか見窄らしい姿をした幼い金髪の子。
私達が全員、扉を抜けるとその子が顔を上げた。
赤と緑の瞳。今と比べると随分と幼い姿だけど、それは間違いなく――
「ちんまいヴィヴィさん……?」
フーちゃんが小さく首を傾げる。
確信を得られないのは、こちらへと向けられる双眸には、押さえきれない憎しみと怒り……そして悲しみに満ちていて、今の明るいヴィヴィオさんとはまるで別人のよう。
「ママを……」
「え?」
「ママをッ、返してぇぇえぇぇ――――ッ!!」
悲鳴のような絶叫と共に、幼いヴィヴィオさんは変身制御による大人モードへ。そしてバリアジャケットも展開。今の白い上着じゃなくて、同じデザインの黒いもの。
バリアジャケットと共に、憎悪と哀しみと現在の姿さんからは想像もできない濃密な魔力を纏っているヴィヴィオさんが、
「あなた達がッ、ヴィヴィオからママを奪ったッ!!」
床を蹴った。
同時にヴィクターさんも前に出てバリアでその拳を受け止める。
「くッ、話で聞いていたものと、実際に目の当たりにするのとは、全然違いますわねッ!」
「『ゆりかご』による戦闘強要機能と、テロリストからの催眠暗示による二重洗脳でしたか」
「さぁ、かつてのヴィヴィにゃんを止めよかッ、みんなッ!」
最初からある程度は知っていたらしいハリーさんとエルスさんは即座に動き始めるけれど、私はまだ頭が付いていかない。
戦闘の強要? テロリストからの暗示?
「リンネ。ごちゃごちゃ考えるのはあとじゃッ! 今のヴィヴィさんと動きはまったく違うが、強いのだけは間違いないんじゃからなッ!」
「うんッ!」
フーちゃんに背中を強めに叩かれ、気持ちを切り替わった。
私は軽く呼吸を整えながら、ヴィヴィオさんを見る。
ヴィヴィオさんはかなり無造作な魔力を込めた回し蹴りを放つ。それをヴィクターさんは先ほどのように受け止めようとして、バリアごと吹き飛ばされて壁に激突した。
「なんなんですかッ、あの馬鹿力ッ!!」
思わず目を見張り叫ぶエルスさんに、ジークリンデさんが冷静に説明する。
「うちの鉄腕。ハルにゃんやヴィクターの古流武術。クロにゃんの古代魔法なんかと同じ古代技能――それがヴィヴィにゃんの聖王の鎧や。身体能力の向上と全身の硬質化……それに伴う四肢の武器化を行うスキルやね。
ようするに全身がフーにゃんの拳と同じような状態になっとるんよ」
「なんとも反則のようなスキルじゃのう」
言いながら、フーちゃんが踏み込んでいく。その言葉には私も同感だ。
死角から回り込むようなフーちゃんの動きに、だけどヴィヴィオさんは即座に反応して射撃魔法を撃ち出す。
咄嗟にフーちゃんはそれを防ぐものの、そこで足を止めてしまう。それを確認すると同時に、黒い光を纏った右腕を振りかぶるジークリンデさんへとヴィヴィオさんは視線を巡らせる。
「アカンッ!」
ヴィヴィオさんの瞳がジークリンデさんを捉えると、そちらへと左手を掲げた。瞬間、ジークリンデさんの眼前に魔法陣が広がり、そこから拡散砲が放たれて彼女を吹き飛ばした。
「覇王――ッ!」
意識がジークリンデさんに向かってるヴィヴィオさんへと、アインハルトさんと、復帰したフーちゃんが同時に踏み込んでいって――
「断空拳ッ!!」
アインハルトさんと、フーちゃんが同時に拳を打ち出す。
瞬間、ヴィヴィオさんの足下から魔力の鎖が飛び出してきて、二人を絡めとった。
「ヴィヴィさん、どんだけ目を持っとるんじゃ……!」
「まるで、ヴィヴィオさんのお母様と戦ってるようです……!」
私だって、それをただ眺めていたわけじゃない。
真っ向勝負で勝ち目はないのは明白。それならば、私らしい方法で足止めをするだけッ!
フーちゃんとアインハルトさんの隙間を縫って、私は姿勢を低くしながらヴィヴィオさんの膝へと抱きつくようなタックルをする。同時にアインハルトさんがバインドから抜け出したので、ヴィヴィオさんは戸惑った。
その一瞬の隙で充分。私はヴィヴィオさんの足に組み付いた。
鋼鉄のような肉体も、硬い骨も、高い身体能力も、組み付いてしまえば一瞬の隙くらいにはなるはず。
「……離してッ!」
ヴィヴィオさんが組み付いた私へと手刀を振り下ろす。
ザクリという生々しい感触が肩から響いてくる。
クラッシュエミュレートと分かっていても、とんでもない激痛で、私は顔をしかめた。
魔力もロクに籠もってない手刀で、私のバリアジャケットを容易く切り裂き、その内側の身体まで引き裂くなんて……!
それでも、痛みで手を緩めたりすることはしないッ!
そこへ、エルスさんの声が響きます。
「これでどうですかッ!」
エルスさんが複数のバインド魔法を同時に用いてヴィヴィオさんを拘束した。
組み付いていた私はすぐにその場から離れると、ヴィヴィオさんの下半身へもエルスさんのバインドが絡みついていく。
「ハリーさんッ!」
「おう。チャージ完了だッ! 行けッ、イレイザー!!」
動けないヴィヴィオさんへとハリーさんの放った強烈な砲撃が炸裂した。
……けれど――
「今のは、痛かった……」
ハリーさんの砲撃で吹き飛ばされたヴィヴィオさんは、泣きそうな顔をしながら立ち上がった。ダメージはあまり無さそう。
「AMFとかいうので、威力が下がっちまったか」
「いや、あの様子ではAMF関係なく、ピンピンしてたかもですよ」
エルスさんとハリーさんは苦笑しあっていますが、私も同じ気持ちだ。
七人で掛かって何とか作り出した隙に叩き込んだはずの高威力の攻撃に耐えてしまってるわけだから……。
「実際にこのヴィヴィにゃんとタイマンで戦った言う、ヴィヴィにゃんママは……どうやって勝ったんやろか……」
「その辺り、この戦いが終わったらヴィヴィに聞いてみるとしましょう」
「はい。まずは、出来るところまでやってみるとしましょう!」
改めてみんなで気合いを入れて挑みましたが――結果としては、敗北です。
正直、何をしてもダメージを与えられる気がしませんでした。
「いつか、一人でも勝てるようになりたいものです」
シュミレーターが終了し、玉座が消えていく中で、息を整えながらのアインハルトさんのその呟きは、どこまでも真っ直ぐな力強さを感じるものだった。
5.
ホテルの一室に戻った私は、部屋の片隅で膝を抱えていた。
幼いヴィヴィオさんとの戦いの後、簡単にヴィヴィオさんの生い立ちを聞いた私は、自己嫌悪で潰れそうになっている。
知りようがない話だったとはいえ、私は随分と都合のいい思いこみをヴィヴィオさんに押しつけていたみたい。
「リンネ、入るぞー」
部屋のドアがノックされ、フーちゃんが呼びかけてくる。
私が黙っていると、フーちゃんは気にせずに部屋へと入ってきた。
「また部屋を暗くして丸まっとるんじゃな」
「フーちゃん、私……」
何を言いたかったのか分からない。
何かを言おうと思って口を開いて、そこで言葉が止まる。
だけどフーちゃんは、私が言葉に詰まることなんてお見通しだったみたいに、ポンと私の頭に手をおいて、私の横へと座った。
「気にしすぎじゃリンネ。ヴィヴィさんは、別に気にしとらん言うとった」
「そうだけど――勝手に思いこんで『恵まれたお嬢様のヴィヴィオさん』に、私の前に立ちはだからないで……って、ずっとそう思ってたの」
「でも、ヴィヴィさん本人には言うとらんのじゃろ?」
「……うん」
「なら、ええじゃないか。問題なんてどこにもないのぅ」
「問題……無いのかな?」
フーちゃんを見上げるように横へ視線を向けると、フーちゃんの手が私の前髪を払った。
「何が問題になるのか分からん。ヴィヴィさんだって言われてもいない悪口について謝られても困るじゃろうが」
「…………」
そう言われると、そうかもしれない。
「しかも、なんやよく分からん理由でリンネが凹んでるからの。ヴィヴィさんも失敗したかも……なんて落ちこんどるんじゃ」
「それは……申し訳、ないかな」
「そうじゃ。謝るんじゃったらそれじゃろ」
勝手に悪く思って、そのことで勝手に悩んで、挙げ句に勝手に落ち込んで――確かにヴィヴィオさんから見ると、私ってよく分からない子になってるかも。
「いうても、ヴィヴィさんは謝る必要ないって言うじゃろうけどな」
確かに、あの子ならそう言うんだろうな……。
小さく嘆息すると、フーちゃんがわしわしと、私の頭を乱暴に撫でる。院の頃から変わらない手付きが、ちょっと懐かしい。
「リンネは独り相撲が好きじゃのう」
「好きで空回ってるワケじゃないよ」
うー……と唸りながら、私はぎゅっと自分を抱きしめる。
「その空回りも、リンネが優しいからじゃけぇ。悪いコトではないじゃろ」
ポンポンと頭を叩きながらフーちゃんが言う。
「じゃけども、抱え込んでそのままってところは直さんとならん。優しいままでええから、もうちょっと行動せんとの」
「……うん。そう、だね……」
「ヴィヴィさんがどういう反応するか、今から考えても仕方がないじゃろ。リンネが謝りたいなら謝ればええんじゃ。何もせんまま、こうやって部屋に閉じこもっとるから、リンネは色んなもんを見落とすんじゃ」
困った時、何もしないまま閉じこもるから色々なものを見落とす――その言葉が、私のなかにストンと落ちる。
この前、フーちゃんと戦って目が覚めた。常にセピア色だった世界に、鮮やかな色が灯った。夢の中のおじいちゃんが笑ってくれた。
だけど、それでも私はまだまだ相変わらずだったのかもしれない。
もっとフーちゃんやジルコーチ、ヴィクターさんに、相談とかできるようにならないと、ダメなのかも。
「フーちゃんはすごいね。何でも分かってるみたい」
「何でも分かってるわけじゃないけぇの、リンネのコトだから分かるだけじゃ」
「そうなの?」
「そうなんじゃ」
フーちゃんは優しいね。
だから、ついついフーちゃんに甘えちゃうのかもしれない。今日だって、心のどこかでフーちゃんが来てくれるって思ってたのかな――私?
「さてと」
そう漏らしながら、フーちゃんが立ち上がる。
それから、私に手を差し伸べた。
「リンネ。立てるか?」
「え? うん。立てるけど……」
「ならヴィヴィさんとこへ一緒に行くんじゃ」
「今から?」
「こういうのは早い方がええじゃろうが」
差し伸べられた手を取ると、フーちゃんは私を引いて立ち上がらせてくれる。
それに併せて私が立ち上がると、フーちゃんはぐいぐいと私を引きずるように引っ張っていく。
「今までは知らんかった。じゃが今日は知るコトが出来た。
知れば変われるし、新しく見える部分は増やせるんじゃ。それに視点を変えれば見たい部分も変わってくるじゃろ?
そうは言うても見てるだけじゃいかん。知っただけじゃ意味がないんじゃ。触ってみて、初めて分かるコトもある」
だから――と、フーちゃんは続ける。
「怖がってないで、触わりに行く必要があるんじゃ。試合もそうじゃろ?
リンネは今まで触りに行くコトをサボっていたんじゃから、人より多く触りに行ってもええくらいじゃ」
そう告げて、フーちゃんは私の背を押した。
6.
気が付けば、目の前にヴィヴィオさんがいて。
どうして良いか分からなくて、だけどニコニコしながら何かを待っているヴィヴィオさんに、何を言えばいいのか分からなくて――
「えっと、その、ゴメンなさいッ!」
とりあえず、私は頭を下げた。
フーちゃんの言ってた通り、ヴィヴィオさんは困った顔をしたけれど、とにかく私は謝りたかったんだから、これでいい。
それから、謝った理由を言えば、気にしなくていいですよなんて彼女は笑う。
それでも謝りたかったから――と、もう一度ゴメンなさいと告げた。
不思議と、それで気持ちはだいぶ軽くなった。
その後は、ヴィヴィオさん達と普通にお喋りができた。
フーちゃんの言う通りだ。
悩んでるだけじゃなくて、ちゃんと動けば、こんなにも簡単なことだった。
「な? 言った通りじゃろう?」
「うん。フーちゃんはすごいね」
「リンネがすごくないだけじゃ」
「そっか。そうかも」
♪
人は――知り得たことしか知らないし、
人は――見えた部分しか見れないし、
人は――見たい部分しか見ることはできない。
だけどそれでも……
見えた部分、知り得た部分だけでなく、直接それに触りに行ければ、何かがきっと変わるはず。
今日の私がそうだった。
フーちゃんがそう背中を押して、教えてくれた。
これからもっと――サボっていた分を取り返す為――格闘以外もがんばらないと。
そんな風に思った一日でした。
【You can worry because you know it - Closed.】
===当時のあとがき===
あとがき
どうも、北乃ゆうひです。
フーカもリンネも喋り方難しいんじゃー! と叫びながら書き上げたSSでございました。
内容的にはヴィヴィオ戦でリンネの独白に対して視聴者が入れていたツッコミを、リンネが体験するというお話。
ご都合主義の塊のようなお話ですが、ロストロギアを使わなかったから褒めて欲しい(ぇ)
それはそれとしてリンネの一人称形式、すごい難しかったです。意外とリンネの言葉遣いや相手ごとの対応差みたいな資料が少なくて四苦八苦。久々にこれで良いのかと悩みながら書き上げた一品でした。
読んでくださった皆様がひとときでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
手にとってくださった人、読んでくださった方々他皆々様に最大級の感謝を(ありがとう)。
【17:29 / 27 / 05 / 2017 End Roll - closde. 】
vvdもvvstもアニメ二期してほしいよねぇ……
=============
ここまでお読み頂き、ありがとうございました٩( 'ω' )و