調味料は適切に(リリカルなのは短編集)   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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過去に同人誌で出したネタをハーメルン用に改稿しました。


初出2006.11.3

……2006年ッ!?(古すぎて自分でもビビる


【A's】お塩は適量で

     1

 

「ランサー……セット!」

《Photon Lancer》

 

 フェイトの呼び声に応じ、バルディシュは周囲に無数の発射体(フォトン・スフィア)を展開する。

 

「ファイアッ!」

 

 合図と共に発射体(フォトン・スフィア)から、眼下のなのはに向かって魔力弾が発射される。

 放ったフェイト自身かなり良いタイミングで打てたという確信があった。これなら例え相手がなのはであってもかなりの成果が上がったはずだ。

 

 地面に炸裂した魔力弾の破裂の引き起こした大量の砂煙を見下ろしながら、フェイトは油断せずになのはの出方を伺う。

 

「――え?」

 

 唐突に、それに気がついた。

 なのはの魔力反応がなくなっている。

 

 そんなバカな――と、小さく口の中でつぶやきながら、周囲を見渡す。だがもし地上にいるのであれば砂煙が邪魔で確認が出来ない。

 

(どういう……こと?)

 

 もしや当たり所が――と、思いはしたが魔法そのものは非殺傷モードに設定してある為、大事には至らないはずである。ましては相手はなのはだ。この程度で終わるはずがないという確信があった。

 

「はぁ――はぁ――はぁ――……」

 

 なのはとの戦闘演習を始めてからまださほど経っていないし、何より大した魔法を使っていないというのに肉体と精神が疲労を訴えている。

 

(長期戦は……いつも以上に不利……)

 

 疲労もあるがそれ以上に向こうは周囲の魔力残滓をも利用する大技を持っているのだ。魔法の乱発はそれの威力を挙げるという危険性を伴う。

 

 この演習を白星で終わらせるには、魔力反応からも視覚からも消えうせるという荒業をやってのけたなのはのその先の手を読む必要がある。

 

(前回は負けたけど……今回は勝たせてもらうよ……なのは!)

 

 砂煙はまだ収まりそうに無い。

 

 

 

 

     2

 

 なのはとフェイトの戦闘演習が行われている数日前。

 

 クロノはアルフを連れて高町邸にやってきていた。そこにフェイトの姿はない。

 

「フェイトちゃんが――無茶してる?」

 

 自らが話した内容をなのはに聞き返されて、クロノは神妙にうなずいた。

 無茶はいつもの事じゃないかな。そう言い掛けて、なのはは思いとどまる。いつも通りの無茶ならばクロノはわざわざ家まで訪ねくるはずがない。

 

「えーっと、具体的にはどんな無茶?」

「まぁようするにオーバートレーニングだよ」

 

 言っても止めてくれなくって――と、アルフが嘆く。

 どうやら結構深刻らしい。

 

「でも、学校とか遊んでるときとか、そんな感じしないよ?」

「そりゃあ原因が君とシグナムと言っても過言じゃないからな。君やはやての前じゃあ、そんな事を口には出来ないだろう?」

「そうなの?」

「ああ」

 

 何で気がつかないんだとでも言うようにクロノはこれ見よがしに嘆息する。

 

「シグナムとは性格上、よく戦闘演習として対戦しているし、互いの時間が合う時は君だって付き合うだろう?

 ここの所、彼女は負けが込んでるみたいでね。そこへこの間の演習でも君が勝った。

 一種のスランプだと思うんだが、フェイト自身、少し気落ちしてるきらいがあった。だから僕のところへやってきた簡単そうな仕事を頼んだんだ」

 

 うまくいけばまた気を取り直せるだろうと考えてのクロノの計らいであったのだが、それが想定外の理由により逆の効果を持ってしまったという。

 

「何があったの?」

「へタレだったのさ。その指名手配犯」

「ほえ?」

 

 それの何が予想外だったのだろう――アルフが忌々しげに言う言葉になのは首を傾げる。

 

「逃げる素振りや変な行動をするなら撃つ――そう警告したんだ、あたし達は。そしたらアイツってばいきなり動こうとしたんでフェイトが相手の足元に向かって軽いのを一発撃ったのさ。

 ハッタリを効かせる為に、物理効果付きでね。足元が抉れればこっちの本気だって分かるだろうって――あたしもそう思ったさね。でもね、何がへタレかって、そいつ……何をしようと思ったか知らないけど、その場で足をもつれさせて転んだんだ。

 そのままそいつの身体はランサーの斜線軸に……」

 

 フェイトはもちろん、威力は抑えて撃っただろうから犯人は大怪我をするような事はなかっただろうが……そんな事を思っているとどんよりとクロノがアルフの説明を引き継いだ。

 

「犯人の罪状が罪状だったからね。出来る限りの無傷の逮捕が好ましかったんだ。

 そのコトを事前に僕がフェイトに話しておいたのが仇になった。犯人を無力化して逮捕することには成功したんだがフェイト自身は課せられた任務をちゃんとこなせなかったと余計に気落ちしてしまったんだ……」

「それからなんだよ。フェイトが無茶な訓練を始めたのは――い自分はまだ力足らずだからもっと力をつけないと……いつもの訓練だけじゃ足りないからもっと増やそうってさ」

 

 負のエネルギーというか運命と言うか、そういう不運のようなものは、どういうわけか連鎖したり重なったりするのが世の常である。負けが込んだのもたまたま調子が悪い日が重なっただけかもしれないし、犯人が転んだというのも運が無かったとしか言いようが無い。

 

 何をやってもうまくいかない――そんな状態が続くのはいわゆるスランプというやつである。スランプと言うのは大概、何らかの要因によってコトが上手く運ばなくなった時、意固地になって無理を通そうとする為、失敗するという悪循環が繰り返されているだけである。

 

 解決法としては気分転換したり、肩の力を抜いたりというのが一番だ。自信が無くなり掛けているのなら少し難易度を下げてみるというのもアリである。

 

 そういう意味ではクロノの判断は間違っていない。犯人が転んだのは本当に不運なだけである――もちろんフェイトの運勢が、だ。

 

「ところで、その犯人の罪状ってなに?」

「食い逃げ」

「は?」

 

 なのはは目を丸くする。指名手配犯とはいえそんな事件が管理局に回ってくるものなのだろうか?

 しかも、かなり功績をもった執務官の元へ。

 

「君の考えている事は分かる」

 

 自分もそう思った――と、クロノは続ける。

 

「でもこいつは、次元世界を股に駆ける食い逃げ常習犯なんだ。口癖は『俺に食い逃げできない世界はない』。

 

 どういうワケか高度な転移魔法を身につけていて、上手いこと世界を渡り歩きながら食い逃げを繰り返してるという、一応次元犯罪者」

 小物だけどな、と付け加える。

 

「うあー」

 

 という呻き声しか出すことが出来ない。小物過ぎるにも限度がある。

 

「運……ないね、ここ最近のフェイトちゃん」

「そうなんだよねー……」

 

 ウンウンとアルフ。

 

「ここ数日の運の悪さとフェイトの真面目な性格と重なって今状態になってしまったんだろうな」

 

 深く深く嘆息しクロノは肩を落とす。

 その様子に、このままでは心配のし過ぎでクロノまでスランプに陥るのでは、となのはは本気で心配する。

 

「そこでだ、なのは」

 

 しばらく俯いていたクロノは顔をあげ、真っ直ぐになのはを見据えて告げた。

 

「はい?」

「君にフェイトの説得を頼みたい」

「いいけど……」

 

 なのははうなずきながらなんとなく思った事を口にする。

 

「そういうのってお兄さんの仕事じゃないの?」

 

 深い意味はなかったのだが、過去、なのはの姉である美由希もオーバーワークをし続けた事があり、それを兄の恭也が説得し止めさせたことがあった。

 

 それを思い返しての言葉であったが――

 

「だめだよなのは……クロノの傷口に塩をグリグリ押し付けてその上をわさびとマスタードでコーティングするような事言っちゃあ……」

「あー……えーっと……」

 

 どうやらすでにクロノお兄ちゃんは頑張った後のようである。

 

「ご、ごめんね……クロノ君」

 

 ひどく気落ちしているクロノになのはは苦笑しながら謝った。

 

「いや……いいんだ……それじゃあ失礼するよ」

「じゃあねなのは」

 

 背後に黒い縦線を背負いアルフの肩を借りながら帰宅するクロノに手を振りつつ、なのははフェイトを説得する手段をぼんやりと考え始めていた。

 

 といっても、いいアイデアが湧くわけでもなく、だからといってあまり考える時間はかけられないな――とも思う。

 

「やっぱり、経験者は語る――かなぁ?」

 

 そうしてなのはは、姉の元へと足を向けた。

 

 

 

 

 

     3

 

 自宅にある道場の片隅でなのはは姿勢を正して正座をし、姉から教えてもらったアドバイスを反芻しつつ、フェイトの無茶を止めさせる手段を考える。

 

 無理な特訓を心配してる人がいるということ。頑張りすぎが逆に身体をガタガタにしているということ――その二つを分からせてあげるといい……そう、美由希は言っていた。

 

 今のフェイトにはたぶん、誰からの説得にも応じないだろう。ならどうにか無理やり話を聞いてもらう機会を作るしかない。

 

 だとしたら――一戦交え、それをネタとして説得する。それが一番だろう。

 

 だが、ただ一戦交えるだけではきっとダメだ。なら、正攻法ではなくからめ手で……出来るなら最終的にはこちらの得意分野ではなくフェイトの得意分野――ショートレンジあるいはクロスレンジからのアクションで決着を付けたい。

 

 そうすればそれを引き合いに出せるはずだ。

 

 ゆっくりと目を開けて立ち上がると、気が向いたら触るといいと言って、兄が用意しておいてくれているなのは用の木刀を二振り手にした。

 

「初めて手にした目的が、訓練じゃなくて実戦って言うのは――なかなかにアレかも……」

 

 苦笑しながららも、なのはの胸中では作戦はすでに決まっていた。

 

 

 

 

 

     4

 

 フェイトの放ったフォトンランサーを受けずになのはは敢えて躱した。

 地面に突き刺さった魔力弾は粉塵と砂煙を撒き散らす。

 

(……よぉし……)

 

 自分の姿を砂煙が隠してくれる。これは好機だった。

 なのははバリアジャケットを解除し、レイジングハートも宝石形態に戻す。

 それから可能な限りの自分の魔力を隠し、さらには、予め兄から教わってきた気配の消し方をさっそく実践。完璧でなくともかなり誤魔化す事が出来るはずだ。

 

 そして最後に杖ではなく、一対の木刀を手にする。

 

「レイジングハート……サポートお願いね」

《Yes. Master》

 

 なのはは自分の魔力を押し殺したまま、微弱な魔力弾を二つ生み出し、

 

(うん……そのままそのまま……)

 

 それぞれを微妙にコントロールしつつ、自身はその場から離れていく。

 

(準備は出来た! あとは――)

 

 砂煙で視界を遮られているが、確かにフェイトを感じる方を見て、木刀を持つ手に力を込めた。

 

 

 

(魔力反応が出てきた? でも……二つ!?)

 

 そのどちらも微弱である。フェイトはなのはの性格や戦術からこの先の戦法を推測しだす。

 

(片方は囮……? もしかしたら両方とも囮で、本人はすでに砂煙の中にはいない……とか?)

 

 ありえない話ではない。どこかでこちらの様子を見ながら、必殺の一撃の準備をしている可能性がある。

 

 だが、

 

(それなら、もっと強い魔力反応があるはずだけど……)

 

 では、こちらはどううって出るか――そこが出てこない。

 頭を振る。どうにも思考が散漫だ。自分らしくない。なぜか集中力が下がったようにも感じる。

 

「とにかく、出てきたのを向かえ撃つよ、バルディッシュ!」

《Haken Form.》

 

 力強く応える代わりに主の意を汲み取り形状を変える相棒に、フェイトは自身も力強くうなずき、どこから相手が来ても良いように構える。

 そして――

 

「来る!」

 

 反応を感じる魔力の一つが、急激に移動速度を増した。

 その反応は素早くフェイトの足元を通過して、急上昇してくる。

 

(こっちは……)

 

 砂煙から現れたのは、桜色の光弾。

 

「フェイク!」

《Haken Saber.》

 

 それに向かい、バルディッシュから生み出されている魔力刃を切り離し投げ放つ。

 同時に、先の魔力弾に一足遅れでもう一つの魔力反応が上昇してくる。

 それを向かえ撃とうとして、

 

(なんで……?)

 

 気が付く。

 先に放たれた魔力弾は切断できたと思っていた。だが、魔力弾は消滅すること無く、背後にある。

 理由は分からないが、なのははわざわざ遠隔操作をして魔力弾にハーケンセイバーを避けさせたのだ。

 

(じゃあ、こっちから来るのは?)

 

 迂闊といえば迂闊だった。ちゃんと魔力弾を消した事を確認してからでも、次発の魔力に対して反応できたはずだ。

 

(……本当に、らしくない)

 

 自覚する。今の自分は何かおかしい。

 背後の魔力弾の動きに注意しつつ、目線は下から来る魔力反応へと向ける。

 そして二つめの魔力反応の正体は、

 

「こっちも、ダミー!?」

 

 またも魔力弾だった。

 それに向かい先と同じようにハーケンセイバーを放つが、やはり魔力弾は方向転換をしてそれを避けた。

 

(なんで……わざわざ?)

 

 速度はそれなりにあるが、込められた魔力は僅かだ。

 ぶつかってもフェイトに対しさしたるダメージが望めるとは思えない。

 

 だとすれば――

 

(何かのアレンジが組み込まれた、仕掛け弾?)

 

 考えられなくもない。そうでなければわざわざ遠隔操作してまで、消滅を回避させる必要性がないのだから。

 

「なら、当たるのはまずい……」

 

 そう判断して、まるで生きているかのように迫ってくる二つの光弾をうまく躱しつつ、時折それらを消す為の魔法を放つが、その事如くが当らない。

 

「くっ!」

 

 じわじわと焦りが滲んできた時、

 

「――ッ!?」

 

 足元に突然、魔力反応が現れた。しかも、それはすで加速し始めている。

 

(……何時の間に?!)

 

 

 

 

 

     5

 

 フェイトの魔力反応、そしてフェイトから放たれる魔法の反応を細かに感じ、それに合わせてなのはは魔力弾を巧みに操っていく。

 あちらのの動きに焦りが感じられるようになった頃、なのははレイジングハートにお願いをする。

 

 使う魔法はブリッツアクション。なのはが得意とする移動魔法であるフラッシュムーブとは違い、直線移動を加速するのではなく、動きそのものを高速化する魔法だ。

 

 本来なのはは遠距離型の魔道師であり、瞬間的な反応速度を得る代わり機敏な動作を捨てている。その為、なのはには向かない移動魔法である。

 

 この魔法を得意としているのはどちらかというとフェイトだ。使用目的の主は、中距離から間合いを縮める事。

 今回、敢えて接近戦でフェイトに勝とうとしているなのはにとっては、現状にぴったりの魔法である。

 

 しかし、本来この魔法の使い手でないなのはには制御や起動に若干問題がある。それをレイジングハートに頼んでサポートしてもらうというワケだ。

 

「いくよ! レイジングハート!」

《Yes. My master. Blitz Action.》

 

 グンと身体が上空へと引っ張られるのを感じながら、しかしそれには逆らわず、二刀を構えたままなのははフェイトへと向かっていく。

 

《GO》

「えいっ!」

 

 レイジングハートの合図に合わせて、左手の木刀を振るう。

 砂煙を抜けると同時にフェイトが視界に入る。そして剣はかなりベストとも言えるタイミングで振るう事が出来た。

 

 完全に意表を付いた攻撃だと思ったが、フェイトはギリギリで身体を捻り、その一撃をバルディッシュで受け流す。

 そのまますれ違うように交差して、なのははフェイトよりも高い位置で静止して振り返る。

 

《Barrier Jacket.》

 

 同時に、魔力を隠す為に解除していたバリアジャケットを再装着した。

 

「なのは……」

「うまくいったと思ったんだけどなー」

 

 残念そうに言うなのはに、フェイトは眉を潜める。

 

「でも、すごい驚いた」

「あはは……そう言ってもらえると嬉しいな」

 

 なのはは少し照れ笑いするように答えてから、真面目な顔をして告げる。

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

「なに?」

「この模擬戦、私が勝ったらちょっとお話聞いてほしいな」

「別に……なのはの話なら勝負に関係なく聞くけど……」

「でもね、今のフェイトちゃんは、たぶんちゃんと聞いてくれない気がするから――」

「………もしかして、なのはもクロノやアルフみたいに、訓練を止めさせようとしてるの?」

 

 眉を潜めて、疑わしげに言うフェイトになのはは首を振った。

 

「やっちゃダメだなんて、私は言わないし、クロノ君やアルフさんだって言ってないはずだけど……そう思っちゃってるなら、やっぱりこの勝負に勝ってから話しを聞いてもらった方がいいかな」

 

 なのはは左を順手で、右を逆手で木刀を持ち、大きく左半身を退いて右手をやや下方気味に伸ばす。

 

「なのは……私と接近戦をする気?」

「うん……って、言ったらどうする?」

「剣っていうのは――見様見真似、一朝一夕で出来るようなものじゃないよ?」

「分かってる……でも、フェイトちゃんを納得させるにはこれしかないかな――って」

「…………わかった」

 

 なのはが何の為にそんな事をするかが分かったわけではないだろう。しかし、なのはが自分に対して何かをする為に接近戦を挑んできているというのだ。得手不得手に関係はなく、こちらが本気を理解したという事なのだろう。

 

 そしてフェイトも、バルディッシュを構える。

 

「まだ馴染んでない武器に、戦法。そして不慣れな魔法――それで勝てるっていうの……なのは?」

「勝てるよ。今のフェイトちゃんになら!」

 

 力強く答えて、なのははキッとフェイトを睨んだ。

 

「そこまで言うなら……手は抜かないよ?」

「うん!」

 

 そして、しばらくの沈黙が流れ――

 

《Blitz Action》

 

 白と黒。弾かれたように二色が同時に空を駆ける。

 

 

 

 

 

     6

 

 確かにフェイトにいつものキレはない。だが、それでも彼女の方が速いし、確認するまでもなく近接戦闘の腕前は向こうの方が上だ。

 

(それでも……勝たないと!)

 

 なのははブリッツアクションで加速する中で、にさらにブリッツアクションを起動し、重ね崖をする。

 

「重ね掛け!? でも、まだ私の方が速いよ!」

 

 フェイトが横一文字に振るうバルディッシュをなのはは躱し、さらにブリッツアクションを重ねる。

 そこからなのはは左手で袈裟斬りを放つ。

 

 難なく避けるフェイトに、なのはは袈裟懸けの時の身体の勢いを殺さずに右の木刀を突き出す。

 この連撃に、フェイトは多少驚いたようではあるが、やはり避けられてしまう。

 

(もっと速く動かないと!)

 

 さらにブリッツアクションを重ねる。

「これで……同じ位!」

「速度が同じでも!」

 

 振り下ろされるバルディッシュを木刀で受ける。手がその衝撃で痺れるが、手放さなかっただけ僥倖だ。

 

「同じでダメなら!」

 

 腕前で勝てないのなら、速度で勝つ。なのははもう何度目かのブリッツアクションを重ねる。

 

 が、

 

「重ねがけなら私にも使える!」

 

 同時にフェイトも重ね掛けをして、速度を上げた。

 

「え~! ズルい!」

「ズルくない! っていうか、先に重ね掛けし始めたのはなのは!」

「それならこっちだって!」

 

 重ねに重ねる。

 なのはがブリッツアクションを使うたびに、それに応じてフェイトもブリッツアクションを起動する。

 

 双方、重ね掛けによる負担が尋常ではなかった。速度の上昇による肉体への負担。魔法を重複させる事による精神への負担。そのどちらもが、なのはとフェイトへの重圧となってのしかかっていた。

 

 重ね掛けしている数の多い為、なのはの精神への負担が大きく、また、もとより肉弾戦用の特訓をしていない身体である、速度が上がるごとに掛かる負担も大きい。

 

 対してフェイトは、得意とする魔法であり元もとの速度もあることから重ね掛けの負担は軽く、近接戦闘の訓練も積んでいるため肉体への負担も最小限だ。だが、それ以前に、ハードワークによって身体へ大きな負担が掛かっている分がある。疲労度としてはなのはとそう変わらないのかもしれない。

 

(もっと速く……もっと速く!)

 

「なのは! これ以上の速度は!」

 

 それでもなのはは負担など気にしていないかのように重ね続け速度を上げ続ける。

 細やかな移動が苦手ななのはではあるが、自身でも驚くほど制御できていた。

 

 しかし、フェイトの警告の意味もわかる。これ以上の速度が出ると、移動中の周囲の動きは人間の動体視力での知覚が難しいほどのものへと変わる。それでは戦闘どころではなくなるはずだ。それを意味してのフェイトの警告。それは理解できる。

 

 だが、

 

「負けるわけにはいかないから!」

 

 言ってなのはは更に重ねる。

 

 同時に、手足の先を冷たく感じ、軽い虚脱感に襲われる。魔力が減ってくると感じる脱力感だ。

 

 歯を食い縛り、両手の小太刀を強く握りなのははそれに耐えて、さらに速度を上げていく。

 どんどん速度をあげながら、なのははフェイトに向かって、ほとんどカンだけで剣を振っていた。

 

 最初は簡単に捌かれていたものの徐々に徐々にではあるが、受け流したり避けたりではなく、受け止められる事が増えてきていた。

 

(でも……まだ足りない……もっと、それこそフェイトちゃんの防御よりも速く動かないと!)

 

 なのははさらに――重ねる。

 今必要なのは、速度に耐える体力。魔力の消耗に耐える精神力。剣を落とさない腕力。そしてフェイトを見失わない視覚。

 

(それ以外、今はいらない!)

 

 

 

 

 

     7

 

「……くっ!」

 

 なのはの攻撃を受け止めながら、フェイトは呻く。

 

(人の無茶を止めさせるとかいうわりには……なのはも充分無茶してる)

 

 フェイトもなのはに合わせて速度を上げていくが、そろそろ自分的な限界が来る。もはや互いに何重掛けしているのかが分からなくなってきてはいるが、自分の事だ。直感的に、これ以上は無理だと分かる。

 

(でも……なのはは――まだ速くなる!?)

 

 なのはの繰り出す左右の連撃を受け止める。なのはは気付いてるのだろうか――その攻撃の精度と打ち込みの強さ――そして速さが、移動速度と共の向上している事を。

 

(このままだと……少しマズいかな……?)

 

 今はまだ何とか視れるレベルだが、これ以上まだ数度とブリッツアクションを重ねるなら、厳しくなる。

 

(でも……そこまで行けばいくら動体視力や知覚が優れてたって……)

 

 そう、流れて見える周囲の速度が人間の限界を凌駕してしまうはずだ。

 さらに速度を増したなのはの左手から突きが繰り出される。

 それを受け流そうとしたとき、直前で切っ先がグンと伸びた。

 

(……えっ!?)

 

 ガツンと何かがバリアジャケットの生む障壁に打ち付けられた衝撃が走る。

 純粋な物理攻撃のほとんどは、バリアジャケットが防いでくれる。だからこそノーダメージで済んだのだが――

 

(今のが――魔力武器による一撃だったら……)

 

 ぞっとする。確実に致命傷だ。

 

「もっと行くよ!」

(まだ加速できるの!?)

 

 あらゆる面で、なのはは限界だろうに、どうしてそこまで出来るのだろうか。

 

 フェイトは荒い息をしながら、間隔の狭まっていくなのはの攻撃を必死で躱し、受け流し、弾き、受け止める。

 それでもたまに、目前でなのはの手が伸びたかのように迫ってくる攻撃が混じっており、それだけが躱せなかった。

 

 そしてなのはの攻撃速度が増すたびにそんな一撃も増えていく。

 

(そんな……ショートレンジの戦いで、なのはに圧倒されるなんて……)

 

 表情には出さないものの内心で驚愕しながら、フェイトはさらに激しさを増すなのはの攻撃を受けながら、どうやって勝つかを必死で思考していた。

 

 

 

 

     8

 

(もっと速く! もっと速く! もっと速く!)

 

 何度か攻撃が通った。でも、納得の行く一撃ではない。もっとちゃんとした一撃を決めたい。

 それならば、もっと速く動かないと。本当にフェイトが防御を出来なかったと確信出来る一撃が。

 

 もうフェイトの姿を正しく見れていない。流れる中に見える、僅かな黒と金。それだけを目で追っている。攻撃をしている。

 

(でも……これじゃあダメだよね。ちゃんと、目で見てしっかりと攻撃できないと)

 

 だが、速くすればするほど視覚は定まらない。

 

(ちょっとの時間でいい。攻撃するほんの数秒だけでいいからフェイトちゃんの姿を見たい!)

 

 フェイトが防げなかった攻撃を出した時の間隔を思い出す。時間が引き延ばされたような、フェイトの防御速度が下がって見えたような、そんな感覚。

 

(うん、あの感覚がもっと続けば……)

 

 そういう一撃が出るたびに、その感覚を覚えようと集中する。

 

(え?)

 

 もう何度目の事だろうか、突然、周囲の動きが遅くなっていく。

 

(違う……周りだけじゃなくて……私も!?)

 

 そして徐々に世界が色を失っていく。移動しながら感じるのは、まるでゼリーの中を進んでるみたいだなー……という感覚だった。

 

 そして気が付く。

 

(フェイトちゃん……私の動きよりも遅い?)

 

 そうだ。確かに遅い。このひどく緩慢な世界において自分よりも、フェイトの方が遅い。

 

(チャンスは――今!)

 

 フェイトに向かって突き進む。遅々としか進まない自分にやや焦りながら、それでも後一歩と言う距離まで届く。

 

 左手を引く。

 

 フェイトの顔が驚愕に染まる。

 

 左の木刀を突き出す。

 

 フェイトがバルディッシュを動かす。

 

 狙いは首……のやや左。

 

(でも、私の方が――)

 

 そしてなのはの木刀がフェイトの首を掠めつつ、

 

(速いよ!)

 

 ――伸び切った。

 

「えへへ……ね? 私が勝てたでしょ?」

 

 そう言ってなのははフェイトに微笑みかける。

 

「……負け……ちゃった」

 

 呆然としながらも負けを認めてくれたフェイトになのはは安堵する。同時に――

 

「あ……あれ?」

 

 四肢から力が抜け、身体の先端が酷く冷えている。ついでに、意識も遠くなっていく。

 

(あちゃー……ちょっと、がんばりすぎちゃったかも……)

 

「なのは!?」

 

 木刀が手から零し、なのはを支えていた魔力翼が散っていくのに気が付いて、フェイトが慌ててなのはを抱きとめる。

 

「あ……あはは、ごめん、フェイトちゃ……ん」

「なのは? ……なのはってば!?」

 

 心配をするフェイトの呼び声を聞きながら、なのはまどろみの中へと落ちていった。

 

 

 

 

     9

 

「ふにゃ……?」

 

 目が覚めると、よく見慣れた天井だった。

 

「私の部屋?」

「そうだよ」

「フェイトちゃん?」

「模擬戦で無茶しすぎて意識を失ったんだそうだ。まったく、無茶を止めるのに無茶してどうする」

 

 心配そうに覗き込んでくるフェイトの背後に、兄が腕組みをしながら経っていた。

 どこか怒ったような顔をしているが、まぁ、これが兄――恭也のデフォルトであり、ついでに長年兄妹をやっている事で手にいれた表情読み取り術により、兄が怒っているというより心配してくれている事が見て取れる。

 

「フェイトちゃんも、お兄ちゃんも――心配掛けてごめんね」

 

 身体を起こして謝ると、

 

「あぅ」

 

 全身にむず痒いような筋肉痛特有の痛みが走る。

「大丈夫?」

「まぁ、無理のし過ぎで身体がガタついてるだけだろう」

 

 フェイトとは対照的に、冷静に兄がこちらの状態を汲んでくれる。

 そんな二人に痛みに耐えながら笑いかける。どうにも引きつった笑みになってしまうが。

 

「ところでなのは」

「何?」

「話って何かな?」

「あ――うん……」

 

 何と言うべきか、少し考えてなのはは告げた。

 

「あのねフェイトちゃん」

「うん」

「トカゲの尻尾って元に戻らないんだよ」

「は?」

「今のお前が言うな、なのは」

 

 フェイトは変な顔をして、兄がぴしゃりと言い放つ。

 

「ごめんなさーい」

 

 どうやら兄にはこちらの言葉の意図が伝わったようである。

 

「何で今ので会話が成立するのかな……?」

 

 困った顔をするフェイトに、

 

「まぁ、ようするにだ……」

 

 恭也が通訳をする。

 トカゲの尻尾は再生する。しかし再生した尻尾に骨は無い。特訓し過ぎ、無茶し過ぎで身体を壊し、それが完治しても後遺症が残り、訓練の成果を見せる機会を一生失えば、その無茶に意味がなくなる――つまりはそういう事だろう。

 

「なんていうか……わかり辛いっていうか回りくどいって言うか……」

「さすが我が妹だ」

 

 困っているような嬉しいような、そんな複雑な表情をするフェイトと、うんうんと感心したようにうなずく恭也。

 

「でも確かに、今のなのはが言っても説得ないよね」

「あはは……でも、フェイトちゃん。私の事心配してくれたでしょ?」

「それはそうだよ。あんな無茶な戦い方をすれば……」

「私は無茶だとは思わなかったけど……」

「無茶だよ! 重ね掛けをあれだけすれば、身体にも精神にもすごく負担が掛かるんだから!」

 

 少し怒ったように、口早にそう言うフェイトに、

 

「うん。ありがとフェイトちゃん」

 

 なのはは嬉しそうにお礼を言った。

 

 それから、

 

「でね、フェイトちゃんの無茶にも心配してくれてる人がいたんだよ」

 

 そんな事をなのはは告げる。

 

「別に私はそんな無茶してたつもりは……」

 

 そう反論しかけた時に、フェイトはハッとする。これじゃあ今のなのはの言い訳と同じ事だ。自分が無茶だと思っていなくても他人から見れば充分無茶だったのだ。

 

「もしかしたらフェイトちゃんは無茶だと思っていないかもしれないけど、模擬戦の時のフェイトちゃんって、いつものキレが無かったんだけど、気付いてた?

 それって、無茶をし過ぎて身体が弱ってたって証拠じゃないかな?」

 

 言われて、初めて不調の原因を知ったフェイトは俯いた。

 

「ごめん……なのは」

 

 しゅんとしたままフェイトは詫びる。

 そんな彼女の頭に恭也は手を乗せた。

 

「謝るのはなのはだけに――じゃあないぞ」

「え?」

 

 顔を上げて恭也を見るフェイトになのはが笑いかける。

 

「一生懸命なお兄ちゃんと、心配性な使い魔さん。それから優しいお母さんに謝らないと、ね?」

 

 なのはの言葉に、フェイトは溢れかけた涙を拭って、

 

「うん!」

 

 力強くうなずいた。

 

 




 リリカルなのはA'sリアルタイムTV放送開始直後くらいのイベントで出した本のはず。そんな古参の古いネタでございますですわ。

 今見ると色々と書き直したい衝動に駆られましたが、誤字脱字と一部の表現以外はほぼ当時のままとなっております。

 少しでも楽しんで頂けたのであれば幸いです٩( 'ω' )و
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