どうなるかはさっぱり分かりません。
結婚したい女と結婚願望のない男
結婚。
人はそれを人生の墓場という。
独身のような自由は無くなり、家には自分以外の人間がいる。
自分が働いて得た金も自由には使えなくなり、プライベートも自分一人というのが難しくなる。
少ない休日である土日も家族サービスに費やされてしまい、ただひたすらにごろごろしたい…なにもしたくない…という願いは踏みにじられる。
それが結婚である。
超常災害対策機動部タスクフォース「Squad of Nexus Guardians」
通称「S.O.N.G.」
その前身は日本政府の特務機関「特異災害対策機動部二課」
今では世界の平和を守るため国連所属になりましたー…というがその実態は日本政府の持つ聖遺物、異端技術の情報を独り占めさせまいという各国政府の思惑がある。
しかし…今ではもうかつてほど精力的に活動しているというわけではなく、細々とした聖遺物関係の事件やら災害救助、パヴァリア光明結社残党の確保が主で最後にあった大きな事件はというと…五年前のシェム・ハだかなんだかが暴れたくらい。
それ以降は事が起こる前に鎮圧というのがほとんどで現在の「S .O .N .G.」のお仕事は?と聞かれてたら「火種を消す火消しです」というのが正しいだろう。
もしくは災害救助。
そんな組織に二課の頃から所属しているのが私…
「六堂千鶴」
女のような名前だが男だ。
なんでも六堂家は代々長子の名前に鶴の字を入れる習わしがあるとか…
正直、大した家でもないが風鳴の分家だかなんだかというプライドがあるらしく俺を含めた兄弟は厳しく育てられ、皆それなりの職には就いた。
そこまでは別にいい。
職は生きていくのに大事だし二課ひいては「S .O .N .G.」 に所属していれば任務で死なない限り将来安泰である。
しかし、しかしだ。
家は就職の次は跡継ぎだなんだと騒ぎ出した。
そろそろ三十路というかつては遠い存在だと思っていた文字が迫り、「もう立派に独り立ち出来たのだから長男として家を継ぐのだ!そして嫁を娶り、跡継ぎを作れ!」と祖母は言い出した。
しかし、私に家を継ぐ気なんて更々なかった。
更に言うなら私は結婚する気がなかった。
家督を継ぐ権利を次男である「亀助」に譲り、私は家から縁を切りこれでうるさいものとおさらば、私は仕事に生きると心に誓った。誓ったのだ。
しかし、予想外のところから結婚の二文字が私に迫ったのであった…
「マリア…これはなんの冗談だ」
「千鶴、お願い!私と結婚して!」
テーブルに置かれた書類と謎の紫色の箱が二つ。
ペンと印鑑が二つ。
テーブルを挟んでこちらを懇願する目で見つめる歌姫であり、一応は私の後輩かつ部下である「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」
二月初旬の土曜午前九時に私の家に訪れた彼女をリビングにあげて、座らせてから十秒…もなかったと思う。
練習でもしてきたのかという程の慣れた手つきでショルダーバッグからこれらのセットをテーブルに綺麗に並べた。
そして、今の言葉。
寝惚けた頭を起こすのにちょうどいい…というには重すぎるパンチを食らってしまった。
「いやいや待て待て。これはなんの冗談だ?エイプリルフールにはまだ二ヶ月近くある」
「お願い!なにも言わずこの書類に名前と印鑑を…」
「なんだ、新手の結婚詐欺か?同じ職場のよしみだ、警察に通報してやろう」
「いやいや待て待て待ちなさい!結婚詐欺なんかじゃないわ!あんな結婚を金儲けなんかと考える輩と一緒にしないで!」
そういう彼女の目は真剣そのもの。
詐欺なんて嘘をつく人間の目ではなかった。
だが…
「そんな急に結婚と言われてもな…私と君はそんな仲ではないだろう?」
「そんなッ!?これまでの五年…いえ、六年は遊びだったというの!?」
裏切られたと言わんばかりに目を見開くマリア。
しかしだな…
「いや、遊びもなにも休日に君と会うのは今日が初めてだろう?仕事以外で君とは顔を合わせていないしな。そもそも、どうして私の家を知っている?プライベートな話などしなかったはずだが」
「それは、その…ちょーっとあなたの後ろを歩いていたのよ」
「ストーキングか、通報だ」
1、1、ゼ…
「いやいや待て待て待ちなさい!ストーキングなら被害がない限り警察は動かないわ!だから大丈夫よ!」
「なにが大丈夫だと言うんだこの奇跡的な馬鹿者が」
ダイヤルを押す右腕を掴まれる。
なかなかの力だ。見た目からは想像できないが彼女は日々のトレーニングを欠かしていないのは知っている。
それにしてもここまでくると果たして目の前にいるのがあの「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」かどうかも怪しい。
しかし、どうにも仕草や癖や言動などを見る限りは本物としかいいようがない。
本物だとするならば何故こんな愚行に走っているのか?
まずはこの行動の理由から解明すべきだと結論付け、対象の事情聴取を開始する。
「一応、理由を聞こうじゃないか。一連の愚行と君の結婚願望の理由を」
「聞いたら結婚してくれる?」
「…理由次第ではな」
そう答えると私の腕を離して、彼女は席につき語り始めた…
事の発端はそう、一ヶ月前の切歌の結婚式。
貴方は出席…していなかったわね。当直を自ら買ってでていたものね。
切歌の旦那さんは初対面の印象はとにかくチャラいなって感じだったんだけど、とにかく切歌の事を第一に考えてくれていて見た目からは想像出来ないほど誠実な青年だったの。
そして、結婚式…私はあの戦いを目撃してしまったの…
『ブーケを取るのは…わたしだぁぁぁぁ!!!!!彼氏いない歴=年齢の呪縛から解き放たれるんだッ!!!』
『ダメ響!響はこっち側の人間でしょう!?』
『未来…ごめん。わたしは普通の幸せを掴みたいんだ…だから、最速で最短で、真っ直ぐに!一直線にッ!!!ブーケをぉぉぉぉ!!!!!』
『切ちゃんが人妻に…こうなったら私も人妻になってママ友として切ちゃんの隣に…!』
『ここはボクが取ります!キャロルの分も幸せになると決めたんです!』
『あ、あたしは別に全然興味ねえけどぉ(棒読み)折角だから取ってやるかぁ(棒読み)』
『まったく…みんなはしゃぎすぎよ。そんながっついたら幸せが逃げるわよ』
ちょっとヒートアップしていたけどブーケトスは行われようとしていた…
だけど…
ちょんちょんと翼に肩を叩かれた。
『なに翼?やっぱりあなたも参加するの?』
『いや、違うんだマリア』
『なによ?』
『お前はこっち側だろう?』
そこは──地獄だった。
クレイジーサイコレズ 小日向未来
奇跡の合コン100連敗 友里あおい
家事壊滅防人系女子 風鳴翼
およそ、結婚出来そうにない人物達が座る席。
そこには一席空きがあって──
私は逃げた。
あそこは私の場所ではない。
あんなところにいたら幸せが吸収されてしまう。
私はすぐにブーケトスに参加しようとした。
あの、謎の重力が発生しているテーブルを振り切ろうと…
運良く、私の目の前にブーケが落ちてきてこれで逃げられる。
そう思った。
しかし──
『えっ…』
私は姿勢を大きく崩した。
ヒールが折れたのだ。
かつて、世界に宣戦布告をしたあのステージの翼のように…
そして──
『やった!やりました!キャロル、ブーケを取ったのはボクです!』
『嘘、そんな…』
『マリア!』
『き、切歌…』
『お先するデス!』
『ほらマリア。お前は私達と同類だ』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』
「と、いった具合よ!さあ結婚しましょう!」
長い回想が終わり、マリアは婚姻届をバンと叩いた。
「いや、結婚はしないぞ」
「な、なぜッ!?実はもう恋人が…」
「違う」
「なら、どうして…」
「…結婚願望がないんだ」
そう、俺には結婚願望がない。
今の生活に満足しているからだ。
あと、実家から煩く急かされていたからというのもあるかもしれない。
それに、自分の父と母を思い出すとどうにも結婚というものが明るいものには思えなかった。
「…なるほど、分かった。じゃあこうしましょう」
「?」
「私が貴方に結婚願望を持たせることが出来たら私と結婚しましょう」
「結婚願望を持たせるは分かるが君と結婚は…」
「嫌なの?」
そう聞かれると答えにつまる。
仮に私に結婚願望があったとして、マリア・カデンツァヴナ・イヴから求婚なんてされようものなら二つ返事で了承しかねない。
きっとそれは私だけでなくこの世の男ならそうだろう。
それに、結婚願望を持つというのは…
「なら決まりね。私と貴方、戦いましょうか」
「勝手にしろ」
こうして、「結婚したい女」対「結婚願望のない男」の戦いが始まったのである──
「ところで、その箱はなんだ?」
「指輪よ。サイズはあってるはず」
「なぜ、私の指のサイズを知っている?」
「…」
「よし、通報だ」
「いやいや待て待て待ちry」