なんとかラブコメに戻していくつもりなので…
みなさんのストレスにならない程度に昼ドラは抑えるので…
これも全部、井上敏樹って奴の仕業なんだ…!
(私は彼の脚本の大ファン)
冬の商店街に鐘の音が鳴り響いた。
福引。
買い物をしたら福引券をもらったので試しに引いてみたんだが…どうやら、それなりのものが当たったらしい。
鼻がむずむずしていたのでポケットティッシュが欲しかったのだが…
「こちら景品の水族館のペアチケットになります」
受付のおばさんから封筒を手渡される。
水族館のペアチケット…これで鼻水をかめばいいのか?
しかし、水族館か…
六班事務室。
流石にあれで鼻をかむわけにもいかないのでティッシュ配りのお姉さんを探して無事に鼻水は対処したのだが水族館のペアチケットはもて余してしまっていた。
そのため誰かに譲ろうと思って今日持ってきたのだが…
「いいからいいから」
「六堂さんが使ってください」
「どうしてあげようなんて思ったんデスか?馬鹿なんデスか?」
「水族館か。たまには行ってむごごっ!?」
「ダメですよ翼さん!あ、いらないみたいなので大丈夫ですよ!」
「末長く爆発してください」
などなど譲ろうとして断られてしまっている。
今も手元にあるこのチケット。
どうしたものか…
ペアチケットだしな…一人で使うのもあれだ。
そもそもなぜみんな断るんだ?
最近新しく出来たの水族館だというのに。
「そりゃあもちろん皆遠慮してっすよ。ペアチケットを班長から貰うなんてヤバいっすよ。殺されかねない」
いつもなら私一人の事務室。
しかし最近は真地が毎日この事務室で仕事している。
一体どういう心境の変化か…
「?殺されかねないとはどういう意味だ」
「そのまんまの意味っすよ。だって班長にはそのペアチケットを使うべき相手がいるじゃないすか」
私がこれを使う相手…
何故か、脳内でマリアの顔が浮かんでしまった。
これはきっと奴と一緒にいる時間が最近長かったせいだ。
「千鶴いるー?」
ドアの向こう側から聞こえてきたのはマリアの声。
「噂をすれば」
真地が何か呟いたようだが聞こえなかった。
いや、聞こえないふりをした。
「ああ、いるぞ」
返事をするとマリアが入ってきた。
今日はS.O.N.G. の制服ではなく私服だから芸能関係の仕事だったのだろう。
「お疲れ二人共。今日も缶詰めかしら?」
「ああ…今日も今日とて事務室に缶詰めだ」
「この時期は忙しいっすからねぇ」
部下の出してきた報告書やら今年度の六班の予算のことやら…
五年はやってきたことなのだが、この季節になるたび嫌になる。
「やっぱりそうよね…本部のみんな忙しそうだもの。戦闘員の私達は変わりないけど…はい、差し入れ」
真地と私のデスクに置かれた缶コーヒー。
正直、眠気との戦いでもあるから非常にありがたい。
「あ、マリアさん。水族館のペアチケットを班長が持ってるんすけどね。マリアさんいります?」
「なんでお前が聞く」
「いいじゃないすか。どうせ班長も聞く気だったんでしょう?」
まあ、そのつもりだったが…
「水族館ね…あまり行ったことないから興味あるかも」
「そうか…じゃあやる。自由に使え」
「ありがとう。それじゃあ…はい、あげる」
受け取った封筒から一枚チケットを引き抜いて私に手渡してくるマリア。
これは、その、つまり…
「一緒に行きましょ?」
思った通りお誘いだった。
「ひゅーひゅーだね熱い熱い。ひゅーひゅー」
真地が茶化してきたので、私はデスクにあった消しゴムを人差し指で弾いて飛ばし、真地の額に命中させた。
車を走らせること20分ほど。
マリアとの待ち合わせ場所である駅に向かっていた。
正確な待ち合わせ場所は駅前の噴水。
最初迎えに行くと言ったのだが「いいからここで待ち合わせ!」と押しきられてしまった。
マリアもわざわざこっちまで来る手間がかかるというのに…
いや、もしかしたら記者避けのためか。
あのときは鯉音がもみ消したとはいえ次はないやもしれない。
そう考えれば二人で水族館に行くなどスキャンダルネタを提供しているようなものではないか。
あんなことがあったというのに全く学習していなかった自分に腹が立ってきた。
自分に腹立っていると駅前の駐車場に着き、駐車。
ここから噴水まで歩いて五分とかからない。
腕時計で時間を確認するが待ち合わせの時間まであと10分あるから向こうに着く頃には5分前。
まあ、ちょうどいい時間だろう。
・
・
・
「遅いわよ」
噴水前。
髪を束ねて帽子を深めに被りメガネをかけたマリアが腕を組んで待っていた。
「待ち合わせ時間前、のはずだが…」
「だとしても遅いの!」
理不尽だ。
時間前に着いたというのに…
「まあいいけど…それにしても早くないかしら?8時集合って」
現在7時55分。
まあ、人と出かけるとなると早い。
相手にも早起きをさせなければいけないし。
だが、早いことに意味があるのだ。
チケット売り場に行列が出来るから?
違う。
水族館とは…朝から晩まで楽しむものなのだ。
開館から閉館まで…一日かけて楽しむのが水族館というものだ。
それに水族館側も一日かけて客を楽しませようと様々な催し物を開催している。
それに展示されている生き物達も朝から晩までずっと同じ状態というわけではない。
昼間寝ているが閉館間際に起き出す夜行性の生き物なんていい例だ。
夜行性の生き物の所に昼間に行って寝てるじゃん!などと文句を言う輩は三流。
それに夜になって眠る魚やペンギン達という魅力もある。
…といった旨をマリアに説明する。
「そ、そうなのね…」
「ああ。というわけで行くぞ…水族館が待っている」
・
・
・
車を走らせること45分。
目的地である水族館に到着。
海に面しているため海風が吹き寒い。
開館は9時なのでペアチケットを入場券に引き換えるなりしていれば時間になるだろう。
土曜日だが開館待ちの列は少ない。
朝早い時間帯は静かに観賞が出来ていい。
チケット売り場は既に開いているのでチケットを引き換えてもらい行列へ。
あらかじめ予習はしてきたが一体どれほどのものか…
「ねえ千鶴」
水族館への楽しみに胸を踊らせているとマリアが声をかけてきた。
「水族館って…結構高いのね」
水族館は高い。
これもよく言われることだ。
動物園は安いのに…とよく動物園とも比較される。
しかしこれには理由がある。
「水族館は水を大量に扱っているからな。維持やらなにやらでかなり金がかかっている」
「なるほど…そう言われると確かにそうね…」
あと動物園と違って私営のところが多いというのも理由のひとつ。
動物園は県などの自治体が運営している場合が多いため安くなっているのだ。
こんな感じで水族館のレクチャーを行っていたらいつの間にか開館の時間に。
列が進み、いざ水族館の中へ。
エントランスはまず清潔感があり、明るい。
白を基調とした内装がよりそれを際立たせる。
「千鶴。順路はあっちみたいよ!早く行きましょ!」
「まあ待てマリア。まずはパンフレットだ」
パンフレットには館内のマップやイベントのスケジュールなどが載っている。
これを持たず水族館を歩くなど…愚の骨頂。
砂漠を水無しで行くようなものである。
パンフレットを二人分受け取って早速展示エリアへ。
暗い通路を抜けるとそこには──
「綺麗…」
幅20メートル近く、高さは10メートルあるかないか。
巨大な水槽が青い光を放っていた。
近海に生息する魚達が優雅に泳ぎ回っている。
イワシの大きな群れが列を乱さず動く様は圧巻。
「すごいわね…こんなに大きな水槽初めて見たわ」
「ああ…綺麗だ」
人は圧倒的なものを目にした時、言葉を失う。
普段から口下手な私だが、今はただ綺麗という言葉しか出てこなかった。
「千鶴、あの黒と白のしましまの魚は?」
「あれはイシダイだ。大人になると全身が黒くなる」
「そうなんだ…ずっとしましまならいいのに」
まあデザイン的な話だとそうなるかもしれないがイシダイは引きが強くて釣りをする人なら狙う魚の代表だ。
母方の祖父と釣りをした時に大物の真っ黒なイシダイを一緒に釣り上げたのは私の中でも珍しい少年時代のいい思い出。
「千鶴見て!エイの顔よ!」
思い出に浸っていたらマリアがはしゃいでいる。
水槽の正面にエイが張りついたようだ。
ちなみにあれは顔ではない。
確かに顔っぽいが顔ではないのだ。
ひとしきりあれはなんだとかそういった質問の類いを答えて次のエリアに。
ここからは小さい水槽が並ぶ通路。
日本の魚達がメインのエリアらしく見覚えのある魚が多い。
「ちっ、千鶴…あのへばりついてるのって…」
「ああ、タコだな」
水槽正面にへばりつくタコ。
これはミズダコか。
吸盤の並びが綺麗なのでメスのようだ。
「食べるのはいいけど実物は恐ろしいわ…」
「英語じゃデビルフィッシュとも言うし海外じゃ食わない国も多いから馴染みはそんなにないか」
日本人的感覚だと美味そうと思うのだが…
これも異文化交流か。
「ところで千鶴」
「なんだ」
「やけに水族館や魚に詳しいけど、好きなの?」
「ああ、好きだ」
水族館、魚に限らず動物園も好きだし基本動物全般好きだ。
少年期、母方の実家に遊びに行くのがなによりも楽しみで、海や山のある自然豊かなあの土地が好きだ。
定年後、隠居するならあそこと決めている。
「私のこともそれくらい素直に好きだって言ってくれればいいのに」
「それとこれとは話は別…いや、アイナメの次くらいに好きだぞ」
「アイナメってさっきの大きな水槽のところにいた魚よね!?私の好感度って魚より低いの!?」
「静かにしろ。水族館のマナーだ」
「ご、ごめんなさい…」
まったく…
アイナメは美味いんだぞ。
特に今の時期が旬であら汁が個人的には好き。
さて、次の水槽に移るか…
日本の海エリアを抜けると今度は川の魚。
個人的に一番好きな魚達である。
川の中をイメージしたレイアウトによく映える銀色の魚達…
この派手すぎない色、流線形の体型が好みに合う。
恐らく、どことなく刃物のような感じが惹かれるのだろう。
「千鶴…千鶴ッ!」
「な、なんだマリア…」
「むう」
一体なんだというんだ…
頬を膨らませて…
「ふふっ…まあいいわ」
本当になんだというんだ…
不機嫌になったり笑ったり…
女の機嫌は秋の空模様並に変わりやすいというがコロコロと変わりすぎだ。
「有料プログラムなんてのもあるのね…」
パンフレットを見たマリアが呟いた。
マリアが広げたパンフレットを覗くと思っていたよりも種類があった。
「ああ。バックヤードツアーにペンギンツアー、魚やペンギン、カピバラへのエサやりなんてのもあるのか」
「…!千鶴!イルカと一緒に写真が撮れるわッ!」
パンフレットにある「イルカと記念撮影」の文字を指差したマリア。
「…やりたいのか?」
「やりたい」
「そうか…」
「なによ?」
「私はお前ほど写真慣れしていない」
「いいじゃない」
「…今日は撮られてやる」
「やった」
喜ぶマリア。
まあ、イルカと撮れるならいいか…
「それで、これは何時からだ?」
「えーと…10時半からね」
10時半…
イルカショーが10時からだから終わってすぐくらいか。
今は9時45分。
今から受付してイルカショーのステージに行っても間に合うか。
特にこの有料プログラムの案内を見ると参加人数に限りがあると注意書きがあるので一応早めに受付しておくか。
受付を終えてイルカショーのステージへ。
まだ早い時間帯なので観客も少なく、いい席に座れた。
しかし屋外なので少々寒い。
春の陽気が近づき段々と気温が上がってはいるのだが風がまだ冬の寒さを残していた。
そして軽快なBGMと共にイルカとトレーナーさんによるパフォーマンスが始まった。
普通のジャンプに空中で一回転するジャンプ。
ひとしきりイルカが技を終えるとトレーナーさんがプールの中に飛び込んだ。
「寒くないのかしら…」
「プロ根性ってやつじゃないか?」
それからトレーナーさんが寒くないのか気になりながらイルカショーを見る。
イルカとトレーナーさんの息のあったコンビネーションは日々の練習の積み重ね。
どの技もしっかりと成功させている。
そしてトレーナーさんがプールからあがると今度はアシカ達がステージに現れた。
アシカ達も様々な芸を披露してくれる。
「アシカさん拍手してるわ!」
マリアはすっかりアシカにはまったらしい。
人間のような動きをするアシカは擬人化出来て感情移入がしやすい。
ショーも終盤。
イルカが4頭登場して息のあった技を繰り出す。
4頭同時にジャンプすると飛沫がすごく最前列の席に座っていたら少しかかっていただろう。
夏場ならちょうどいいだろうけれど。
イルカショーを見終えるとそのままこのステージでイルカとの記念撮影が始まった。
飼育員さんによる注意事項の説明をしっかりと聞いていよいよ記念撮影。
プールからあがって待機するイルカ。
肺呼吸なので陸にあがっても大丈夫…肌が濡れていなければならないが。
イルカに触ることも出来るのでマリアと一緒にしゃがんでイルカの背中を触る。
「あ、意外と熱い」
「ああ、確か人間の体温と同じくらいだったかそれより高いかくらいのはず」
それにしてもこう…この触った感触はなんというか…
「濡れたなすびみたい」
「ああそれだ」
イルカに触れるのを終えていざ撮影。
カメラを持ったスタッフが構えるが…
「お姉さん帽子取らなくて大丈夫ですか?」
…帽子を取ったらまずい。
大変なことになる。
まさか取らないよな…?
「あ、大丈夫です…メガネくらいは取るか」
目深に被った帽子を少しあげてメガネを外したマリア。
まあ、それくらいなら大丈夫か。
「それじゃあ撮りまーす。あ、彼氏さんもっと彼女さんに寄ってくださ~い」
「誰が彼氏d…」
「まったくもうシャイなんだから~」
マリアに口を押さえられマリアの方から寄ってきた。
それを見たスタッフさんが彼女さん大胆なんて言っている。
腕を組んできたマリア。
どうやらこの状態で撮られる気らしい。
早く撮ってくれ、精神衛生上よろしくない。
「はいそれじゃあ撮りまーす。はいチーズ…はいオッケーでーす。ありがとうございます」
「意外と一瞬…いえ、こんなものか写真撮影だけなら。もう少しこうしていたかったのだけど」
「冗談言うな。ずっとこの状態なんて悪い夢だ」
腕に当たっていたあれはよろしくない。
私だって男なのだから。
イルカショーのステージから二階の屋内へ。
入ってすぐのここは…爬虫類ゾーンらしい。
早速、まだ子供の小さい手のひらに乗るサイズのコーンスネークがお出迎えしてくれた。
小さくてペットとして人気だが普通に大きくなるのでずっとこのままの大きさだとは思わないでほしい。
「私ヘビ苦手なのよね…」
「まあヘビが苦手な人は多いからな…なにもヘビだけいるわけでもないしガラスの向こう側にいるんだから襲ってはこないさ」
そうして爬虫類ゾーンを歩きいろんなヘビやトカゲを見ているとマリアがある場所で足を止めた。
「千鶴。ここなにもいないわ」
縦長のガラスの向こう、木と葉っぱしかない。
そもそもこれはなんの展示だ?
…なるほど、カメレオンか。
となれば隠れて…いた。
高めの位置、葉っぱの緑に紛れていた。
「ほら、いたぞ」
「え、どこ?」
「あそこだ」
「えーどれ~?」
「だから…あそこだ」
どうにも見えていないようだったので肩を抱き寄せ屈んでマリアと同じ目線の高さに。
そこからだと…うん見える。
「ほら、あれだ。ここからだと見えるだろう」
「え、あ、そ、その、千鶴…」
なにをしているんだこいつは。
折角人が指差して教えているのに。
顔を俯けていたら見えるものも見えないだろう。
「千鶴…その、分かってる?」
「分かってるってなにがだ?カメレオンの位置ならよく分かっているが…」
「そうじゃなくて…うぅ///」
ここでようやく気がついた。
バッとマリアから離れて距離を取る。
「あっ…」
「その、すまなかった…」
つい童心に帰って…
「…えいっ」
「なっ…!?」
なにを思ったのかマリアは俺の左腕に抱きついてきた。
「マリア…離れろ」
「いいじゃない。千鶴から抱き寄せてきたんだし」
しばらく睨みあう。
だが、マリアが折れることもなく…
「離れろ」
「嫌よ」
「もう一度言う。離れろ」
「イヤ」
「もし撮られたらどうするつもりだ」
「妹さんが揉み消してくれるんでしょう?」
「妹の話は出すな…私から謝っただろう…」
「まったく…とにかく離れないから」
向こうは折れる気がないらしい。
もう、私はこの言い争いに疲れた…
「もう、好きにしろ…」
「やった」
好きにさせておけば煩くないだろうし…
もういいだろ…
ハリネズミのふれあいがあり参加中。
「ねえ、ここ水族館よね?」
「水族館だが…」
「水族館にハリネズミ…それにヘビとかトカゲとか哺乳類まで…水に関係ない動物もいるのね」
「まあ、水族館も今時魚だけじゃやっていけないんだろう」
日本は水族館大国。
この狭い国土に百を越える水族館があるのだ。
他の水族館との競合とかそういうのもあるのだろう。
ペンギン。
ペンギンである。
「どうしてこうペンギンって可愛らしいのかしら」
「ペンギンだからだろう」
「ペンギンってなんで飛べないの?」
「ペンギンだからだろう」
「…私とペンギンどっちが好き?」
「ペンギン。ぐはぁッ!!?」
二の腕をつねられた痛みに驚きマリアを見ると、マリアは私を睨み付けていた。
「…どうやらペンギンが私のライバルのようね」
「おい、ペンギンになにかするようなら私が黙っていないぞ」
ちなみに一番好きなペンギンはケープペンギン。
あの愛らしさに敵うものはないだろう。
それからはアシカショーやらペンギンショーやらいろんなイベントを見て、もう一周見て歩いたりして気づけば夕方。
閉館間際に水族館をあとにした。
近くの海辺の公園で二人きり。
2月の風が冷たい。
それでもだいぶ日が長くなり徐々にだが春が近づいているのだと思わせる。
「今日は歩き回って疲れたわ」
マリアが柵のない、落ちたら海に直撃コースな道の縁ギリギリを歩きながらそう呟いた。
「そうだな、一万歩以上歩いたらしい」
通信端末の万歩計アプリがそう告げていた。
それにしてもマリア、そこは危ないと思う。
「けど、それ以上に楽しかったわ。魚もイルカもペンギンもみんな可愛かったしなにより…」
言葉を区切るマリア。
歩みを止めて私と向き合いその先の言葉を続けた。
「千鶴。貴方と一緒に出かけられただけで私にとって今日は最高の一日よ。ありがとう、千鶴」
そう言って笑ったマリア
「千鶴?どうかした?」
「あ、ああ──いや、なんでもない」
「本当に?どこか具合でも悪いんじゃ…」
心配そうな顔で私に近寄ってくるマリアだが、途中地面の浮き出たタイルに躓き転びそうになって…
「マリアッ!!!」
思わず、彼女の体を抱き寄せていた。
「無事、か…?」
「え、ええ…ありがとう…」
しばらく、そのままだった。
何故か、早く離れろという言葉が口から出なかった。
頭の中に浮かんでは霧散した。
「暖かい…」
彼女が呟いた。
そうだ、暖かいのだ。
彼女の温もりからどうにも離れがたくて。
彼女を抱く手をほどくことが出来なかった。
本日の勝敗…………………
千鶴の人間関係
友里さん。職場の先輩。いつも温かいものありがとうございます。けど実は猫舌なのでちょっと冷ましてから飲んでますごめんなさい。
藤尭さん。職場の先輩。たまに飲みに行く。あまり酒に強くないので烏龍茶ばかり頼んでも何も言ってこないいい人。
エルフナイン。そんなに関わりがない。けどいつも顔色が悪そうなので心配。レバーがいいぞレバーが。