聞き込み中
千鶴「協力ありがとうございました」
通行人「いえいえ」
千鶴(有力な情報を入手出来たな。すぐに報告だ)
緒川さん「六堂さん」
千鶴「緒川さん。どうかしましたか?」
緒川さん「今、誰と話してたんですか?」
千鶴「誰って通行人ですが…あ…」
緒川さん「どうかしました?」
千鶴(今の幽霊だったのか…)
三月も半ばに入り、少しずつ暖かくなってきた今日この頃。
先日まで怪しい動きを見せていた錬金術師達を検挙し再び平和が訪れた今日この頃。
今日も今日とて平和にデスクワーク…
「六堂さん!」
バァン!と勢いよく扉を開けてやって来たエルフナイン。
…なんだか嫌な予感がしてならない。
「自作ゲームが完成しました!さあやりましょう!」
…こうして、平和は過ぎ去っていった。
平和とはいつの世も虚しく、一瞬で崩れてしまうものなのである。
「前作の反省を踏まえて、ゲーム性を強化してきたんですよ!」
鼻息荒く、意気揚々と説明するエルフナイン。
今回もしっかりと司令からの許可を得て逃げ場を失くしてからやって来た用意周到さに頭が痛くなる。
「それで?今回は前作の強化版みたいなものだろう?」
「そうですね、かなりパワーアップして前作とは最早別物と言えるかもしれません」
かなり自信があるようで早くプレイしてくださいと急かされる。
しょうがないとパソコンを操作して『これだけであなたも恋愛マスター!装者編』を開く。
パソコンに接続されたコントローラーのボタンを適当に押してゲームを開始すると画面が暗転しヒロイン選択画面に…ならなかった。
「なんだ…これは…」
急に画面が一昔、いや、二昔ほど前の、いわゆるドットと呼ばれるもので表示された。
なにやら、オーバーオールのようなものを着て、帽子を被った謎の人物が現れて…
『SUPER MARIA BROS.』
©️2050 ELFNEIN
1 PLAYER GAME
2 PLAYER GAME
「スーパー…マリア…ブラザーズ…」
「はい!ボクの自信作です!」
えっへんと腰に手を当て、胸を張るエルフナイン。
それじゃあこのドットの人物はマリア、なのか?
確かにどことなくマリアっぽい。
しかし、かなり自信があるようだがこれは…
「エルフナイン、これは…」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃなくてだな。これは…パクリだろう」
「パクリ?なんのことですか?」
エルフナインは本当になんのことかさっぱりといった顔で首をかしげている。
え、本当に分かっていない?
「いや、これはどう見てもマリオだろう。スーパーマリオブラザーズだろう」
「マリオ?いや、マリオはあの赤い配管工じゃないですか」
「ああ、そうだが」
「で、こっちはマリア。マリアさんです」
?
ちょっと待て、頭が混乱してきた。
ん?エルフナインはマリオを知っている。
それで、このゲームのこれはマリアで…
なんというか別世界の人間と会話しているようだ。
こっちの常識が通じていないようなそんな感覚に襲われる。
…いやいや待て待て待ちなさい。
「…エルフナイン。ブラザーズということは弟がいるんだな?」
そうだ、マリオに対するルイージのような存在がいるはず。
「そうですね、弟ではなく妹ですが」
「えっ、じゃあなんでブラザーズ?姉妹ならシスターズだろう?」
「…しまった元ネタに引っ張られ過ぎました」
「おい、今なんて言った」
小声だったが元ネタがどうのとか聞こえてきたぞ。
やっぱりというかどう考えてもマリオだろう。
「とにかくやってみてください!もう素晴らしいゲームに仕上がっているので!」
エルフナインが無理矢理コントローラーを操作して始めてしまった、もとい始まってしまった。
大丈夫なのかこれ…
画面が暗転しドットのマリアが表示され横に×3となっている。
まあ、分かりきっているがこれが現在の残機だ。
「あっ、その×3っていうのは残機…コンティニュー出来る回数を表しています」
「いや、説明されるほどのことじゃないだろ。二十年前から知ってたぞ私は」
「二十年前!?まさか六堂さんは未来が見えていたんですか!?」
そんな驚くことじゃないだろう。
ちなみに何故、私がこのゲームの元ネタを知っているかというと子供時代に風鳴邸に行くと骨董品のようなファミコンで遊ぶのが風鳴家で流行しており司令と遊んでもらったからである。
あと、私にはそんな未来を見通す能力なんてない。
幽霊は見えてしまうが。
さて、早速だがステージ1ー1が始まってしまった。
細かいところは流石に忘れてしまったが、これ背景までパクっていないだろうか?
「十字キーでマリアさんを操作してください。横のキーが移動で上のキーがジャンプです…って、早速使いこなしてますね。流石六堂さん!」
「いや、流石とかじゃなくマリオやったことある人なら普通だと思うんだが」
「あ、あと六堂さん。これは六堂さんも驚くと思うんですが…」
「なんだ」
ようやくオリジナル要素の登場か…
全てをパクるなんてエルフナインがするわけないだろうし、技術の進歩した現代ならなにか新しいアクションを仕込めて…
「なんとですね…移動中にBボタンを押すとですね…ダッシュが出来るんですッ!」
「おーすごいじゃないか…ってなるか!そんな当たり前のことを…私が作りました!みたいに言うなこのパクリ魔」
おっとつい怒りが…
落ち着け…まだ時じゃない。
きっとまだ救いがあるはず…
…そういえば、このBGM。
「これ微妙に音外してるけどかなりパクっているだろう!」
「え?なんのことですか?これはボクが初めて作曲した曲でして…」
「謝れ、作曲家に謝れ。いやもうマリオに携わった全ての人に謝れ」
まじでこれどうしたらいいんだ…
著作権とかで訴えられないだろうか?
しかしエルフナインはこんなんだがS.O.N.G.にとって重要な人物…
失うわけにもいかないのが厄介だ。
こうなったら私がパクリはいけないことだと教育しなければならない。
エルフナインはまだまだ世間のことを知らなければならないのだ。
「エルフナイン。パクリは駄目だ。なにかから影響を受けて新しいものを作るというのはいいことだが、元の物から何も進化も昇華もさせずに停滞させたままではパクリ…悪いことになってしまうんだ。分かるか?」
「六堂さん、時間!時間が!早くしないとゲームオーバーになってしまいます!」
「人の話を聞け!」
まだ時間はたっぷりあるし1ー1なら余裕でクリア出来るだろう。
それにしたってエルフナインが人の話を聞いてくれない…
どうしたらいいんだ…
「ゲームをプレイしてくれたら話を聞きます」
ふんっ!とそっぽを向いたエルフナインはそう言った。
…これを、やらなければならないのか?
こんなパクリゲーを…
いや、もしかしたらステージやアイテムはエルフナインのオリジナルのものかもしれない。
…最初から否定しては駄目だ。
折角、彼女が作ってくれたゲームだ。
それに司令から仕事として認められている。
きっと大丈夫なはずだ。
まずは信じてあげることから始めよう。
「そうだな…やってみるか」
そういうとエルフナインは機嫌を直し、ぱあっと笑顔になった。
「さあ、それじゃあ早速プレイしていきましょう!」
「あ、ああ…」
マリアを操作してステージを進むと…あっ、これ1ー1まんまだ…
「そのキノコのような敵キャラ…グリボーって言うんですけどに気をつけてください」
「ん?クリボーじゃなくて?」
「クリボーじゃありません。グリボーです。濁点をつけてください」
怒られてしまった。
やはり、これパクリだろう…
せめて敵キャラはノイズにするとか出来たろうに…
いや、まだ信じてみよう。
あっ、ここのブロックの中に…
「あっ!そのキノコをとってください!」
言われるがままに取る。
まあ、取ったらどうなるか予想はつくが。
キノコを取ったマリアは巨大化してスーパーマリオならぬスーパーマリアになった。
…かわいいな。
「どうですか!これはスーパーマリアです!ブロックを破壊することも出来るんです!」
「へーそうなのかー(棒読み)」
昔から知ってたことをこうも新しいことのように自信満々に言われるともしかしたらそうなのかもと思ってしまう。
「そういえばこのマリアはなんのために何と戦っているんだ?」
原作じゃクッパに拐われたピーチ姫を助けに行くだったが…
てか前作もだがこいつはマリアをなんだと思っているんだ。
「そうですね、ストーリーとしてはマリアさんと六堂さんの結婚式の途中、六堂さんがグッパに拐われたので六堂さんを助けに行くというストーリーです」
「グッパ?クッパだろう」
「クッパ?なんですかそれは。グッパです。さっきから六堂さんの言ってることがよく分からないですね」
あくまでもパクリではないと主張するどころかこっちが本家だと言わんばかり。
私がおかしいことを言っていると言われるが…
くそ、なんで今日に限って真地は非番なんだ。
あいつがいれば一緒につっこんでくれたのに。
というか私がピーチ姫ポジションなのか…
いや、なんで私がマリアと結婚している。
「もともとこのゲームは六堂さんとマリアさんがくっつくためのゲームですから」
「いやその名残が設定にしか反映されてないだろう。説明聞くまでしらなかったぞそんな事実。というか最早恋愛関係ないゲームだろうこれ!恋愛シミュレーションじゃないから!横スクロールアクションだから!」
ジャンルが変わりすぎてもう何がなにやら。
司令、なんでこんなゲームにGOサインを出した。
あっ、ここ1UPあるところ。
「察しがいいですね六堂さん!まるで最初からそこにあるかのように取りましたね!」
「いやマリオだからな。ここに隠していることくらい、さっきも言ったが二十年前から知ってたぞ」
アイテムある位置が全部一緒なんだよな…
それにしても私もよく覚えているものだ。
さて、あとはゴールまで向かって…
すると事務室のドアが開いた。
「おはよう千鶴。あら?エルフナインがいるなんて珍しいわね」
マリアが入ってきたのを見てエルフナインはスーパーマリアを一瞬で閉じた。
「お、おはようございますマリアさん!」
「おはよう…どうしたの?なにか焦っているようだけど…」
「ああ、今エルフナインが作ってきたマリアが主役のゲー…むぐぐ!!!」
マリアにさっきまでのことを説明しようとしたらエルフナインから口を塞がれてしまった。
やっぱりこいつ自分がやってることがまずいことだと分かっているだろう。
「そ、それじゃあボクは失礼しますね…」
「エルフナイン」
笑顔でエルフナインの名前を呼ぶマリアだが、その声音は少々迫力があった。
「少し、お話しましょうか」
終わったな、エルフナイン…
事務室内で始まったマリアによるエルフナインへの尋問。
私の時は話してくれなかったのにマリア相手だと素直に話している。
これからエルフナインがパクリゲーを作ってきたらすぐにマリアに通報すればいいのか。
またひとつ賢くなった。
「まったく…そういうのはしっかりと本人に許可を取らないといけないでしょう!それに司令から許可をもらったからって仕事中にゲームをさせるなんて司令もだけどなにを考えているのかしら…」
さっき尋問と言ったがもう説教である。
それにしても…似合ってるな。
いけないことをした娘を叱る母親にしか見えない。
「ごめんなさい…ボク、マリアさんが六堂さんと結婚出来るようにと思って…」
エルフナインも素直に謝罪した。
私の時は一切なにも認めなかったというのに。
これはあれか、母性を持つ者と持たない者の差か。
「えっ、そうなの?じゃあ仕方ないわね!」
あれ、様子がおかしい。
マリアの奴、絆されてないか?
「千鶴!一緒にプレイするわよ!」
あれー。
おかしい。
さっきまで叱っていたはずなのに。
ミイラ取りがミイラになったぞ。
(ニヤァ)
エルフナインが嫌な笑みを浮かべている。
あいつこれを狙って…!
(マリアさんを幸せにするためです。マリオをパクったのもこのために…!)
「千鶴!どちらがこのゲームを先にクリア出来るか勝負しましょう!貴方が勝ったらそのまま仕事、私が勝ったら結婚してもらうわ!男ならばこの勝負。受けざるを得まい!」
「いや、やらんぞ」
「なんで!?」
いや、なんでと言われても。
「そんなゲームで人生を左右されてたまるか」
「くっ、正論ッ!」
「大体そんなもので私と結婚して嬉しいか?」
「正論の切れ味が鋭い…」
もう馬鹿なんじゃないのかこいつら。
いや、知ってたけど。
「それじゃあ仕事終わり!普通に私と遊びましょう!協力プレイでクッパを」
「グッパです」
「グッパを倒すわよ!」
普通に遊びましょうと来たか。
まあいいが…
「仕事終わりならいいが…それをやるのか…」
「いいじゃない折角エルフナインが作ってくれたんだし」
「それなら普通にマリオやった方がいいだろう…」
パクリよりは本家の方が楽しめるだろうし…
そういえば一緒にプレイすると言ってもスーパーマリオブラザースだと確か…
「エルフナイン。パクリ元のことを考えるとあれだろう。二人協力じゃなくて交互にプレイする感じだろう?」
「えっ。協力プレイないの?」
確か1Pがミスると2Pに交代する感じだったと思うが…
「あっ…元ネタに寄せすぎて協力プレイ実装を忘れてました…」
そうだと思った。
…マリアを見ると肩を震わせている。
これは…
「エルフナイン」
「は、はい…」
「今すぐ作り直してきなさい!」
「はいぃ!!!」
走って事務室を出たエルフナイン。
…大丈夫だろうか?
「わざわざ作り直せなんて酷じゃないか?」
「だって二人で遊びたかったんだもの。隣でゲームをプレイしているのを見るほど悲しいことはないわ」
まあ確かに。
ゲームはやって楽しむものだからな。
「それに協力プレイって共同作業とも言えるでしょう?私と千鶴の初めての共同作業ってね」
「ゲームでそんな風に思うのはお前だけだ。大体ゲームで初めての共同作業なんて嫌だろう」
「それじゃあ、リアルでしてくれるの?」
「馬鹿言え」
私は結婚しない。
結婚なんて…
「千鶴」
唐突に名前を呼ばれた。
「なんだ」
パソコンから目を離さずに返事した。
「諦めないから」
ちらと画面から目を離してマリアを見ると真っ直ぐに私を見ていた。
真剣な、目…
ここまで思ってくれる人がいるのに私は…
「マリア。今日の予定は?」
「今日は待機よ。だから、ここにいさせてもらうわね」
そういいながらコーヒーを淹れるマリア。
カップは二つ。
私のカップにも淹れている。
居座る気か…
「好きにしろ…」
なにを言っても立ち退きはしないだろうから諦めてここにいることを許可する。
諦めて。
諦めてだ。
「そう。じゃあ、好きにするわ」
私のデスクにカップを置きながらマリアはそう言った。
どこか、イタズラな笑みを浮かべながら。
今日は久しぶりに真地もいない。
二人きりの事務室で、静かに、ゆっくりと時間が過ぎていった。
勝敗 エルフナインの負け
無駄な残業が増えた。
次回 エルフナインの(パクリ)自作ゲームシリーズ
「アメノハバキリ!私に勝利を見せてくれ!」
「死ぬデェス!アタシの姿を見た奴は皆死んじまうデェス!」
「切ちゃんだけを殺す機械…」
「トゥ!ヘヤァ!」
「モウヤメルンダ!」
「チョセイ!」
「セレナ…私に、力を…」
「わたしが一番ガングニールを上手く使えるんだ…!」
次回 シンフォギアVSシンフォギア
「前作からパワーアップ!二人で協力プレイですよ六堂さん!」
「いや、前作からパワーアップどころじゃないだろう!?」
いつになるか、未定。