マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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しばらく放置していた…
ガイガンやら没ネタ供養やらに忙しかったんや…
新作がドシリアスなのでラブコメを書きに戻ってきたんや…
え?シンフォギアvsシンフォギア?
あれはエルフナイン自作ゲームシリーズの次回という意味だから…(苦しい言い訳)
こっちのが先に出来上がったので投下。

新作の仮面ライダーツルギもよろしくお願いします(ダイマ)


おくすりぱにっく

 本部のトレーニングルームで体を動かし、シャワールームで汗を流し終えて休憩室に向かっているとエルフナインに呼ばれてそのまま彼女の研究室へ。

 一体、何の用だというのだろう?

 

「マリアさん。最近、六堂さんとはどうですか?」

 

 机の上に山となっている資料を整理しながらエルフナインは私に問いかけてきた。

 最近、千鶴とは…

 

「そうね…前よりは確実に仲は深まったはず。だけど、そこから先が中々どうして…」

 

「やはりそうでしたか…いえ、分かっていたことです。そんなマリアさんにこれをプレゼントです」

 

 そういってエルフナインが渡してきたのは小さな小瓶。

 中には透明な液体が入っている。

 これは…?

 

「エルフナイン。これは…」

 

「惚れ薬です。ボクが作りました」

 

「へぇ惚れ薬…惚れ薬ッ!?」

 

 そんなものが実在していただなんて…

 それにエルフナインが作ったとは流石錬金術師ね。

 いやいや待て待て待ちなさい。

 今さら惚れ薬なんて使わなくとも千鶴が私に惚れているのは明白ッ!

 もはや周知の事実とも言えるというのになんで今更惚れ薬?

 

「多数の方からさっさとあの二人をくっつけろという声が出まして今のところゲームを通じてお二人をくっつけようとしていたのですが」

 

「ちょっと待って。知らない話が出てきたのだけど、え?この間のゲームってそういうことなの?」

 

「まあそんなところです。とにかくこれをお渡しします。使う使わないはマリアさんの自由ですが…」

 

 こうして私はエルフナイン特製の惚れ薬を入手したわけだが…

 休憩室で小瓶を掲げて見る。

 薬の力なんて借りなくたって千鶴は落としてみせる。

 そう意気込んだはいいものの今一つ決め手に欠けるのは事実。

 それに、本当にそんな相手を惚れさせるような力が果たしてあるのかというのも気になる。

 好奇心というか悪戯心というか…

 ちょっとだけ、ちょっとだけならいいわよね…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、千鶴の部屋。

 久しぶりに千鶴とご飯を食べてゆっくりしている。

 計画を実行に移すか…

 

「千鶴。なにか飲む?」

 

「ん…そうだな、水をもらえるか?」

 

「水ね…」

 

 南アルプスの天然水というパッケージの水をコップに注ぐ。

 私も少し喉が渇いていたので私の分も用意して…

 千鶴の分に惚れ薬を一滴垂らす。

 無味無臭だとエルフナインは言っていたので水でも大丈夫なはず。

 気付かれても飲んでしまった時にはもう手遅れ。

 もし、この惚れ薬の効能が本当だったら…

 

『マリアっ!私はお前のことが好きだ!』

 

『千鶴ッ!それじゃあこれにサインして!』つ婚姻届

 

『ああ!』

 

 ゴ ー ル イ ン

 

 今、私の勝利する未来が見えた(※妄想です)

 今夜は…勝てるッ!

 

「はいどうぞ」

 

「ああ、すまない」

 

 千鶴の目の前に惚れ薬入りの水が置かれる。

 私の分はその向かいに置いて…

 いざ、尋常に勝負よ千づ…

 突然、電話の着信音が響いた。

 これは…私の通信端末の着信音だ。

 

「ごめんなさい。ちょっと出てくるわ」

 

 そう言ってリビングを出て玄関入ってすぐの通路で電話に出る。

 そういえば、なんで電話に出るのに場所を移さなきゃいけないのだろう。

 相手は翼。

 特にやましい…常にやましくないが、やましいことがないのに移動するのはやましいことを話していますみたいにとられないだろうか?

 それにしてもこんな時にどうしたんだろう翼は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリアが通話している最中、水を飲もうとコップを手に取るとあることに気付いた。

 これはマリアが使っているほうだ。

 特に変わったことのない普通のコップではあるが、私が使っているのはコップの縁が小さくだが欠けているものなのだ。

 特にこだわりがあるわけではないが、あの欠けで唇を怪我でもされたら顔を出す商売をしている彼女には申し訳ない。

 どちらも同じ水で且つどちらもまだ手をつけていないので交換しても問題ないだろう。

 コップを交換して水を飲む。

 うん、うまい。

 

 

 

 

 

 

 

 全く翼はまたあんなに酔っぱらって…

 面倒を見切れるなんてものじゃない。

 こんな時に限って緒川さんはまた遠方に出かけているみたいだし…

 とりあえずクリスに連絡して翼を任せた。

 さて、千鶴はどうなったかしら…

 

「ん、終わったか」

 

 リビングに戻ると…千鶴は既に水を飲み干しているッ!

 惚れ薬入りの水をッ!

 しかし変化は見られない。

 後から来るのだろうか?

 それじゃあ千鶴に薬が効き始めるまで待つとしますか…

 いや、もしかしたら薬は効いているのだけれど千鶴お得意の忍耐で耐えているのかもしれない。

 だけど、いつまで持つかしらね?

 ふふ…確実に仕留める。

 貴方は堕ちるのよ。今日ッ!ここでッ!

 千鶴の向かいに座り、落ち着きついでに水を飲む…

 ッ!?

 な、なにかしら…体が、急に熱くなって…

 ま、まさか…こっちが惚れ薬入りッ!?

 確実に千鶴のほうに惚れ薬入りの水を置いたはずなのに!?

 千鶴は、まさか気付いていた?

 私が、薬を盛ったことを…

 

「ち、千鶴?あの、もしかして…コップを入れ換えるとかした?」

 

「ん?察しがいいな。お前が私に出したコップが普段、お前に出しているほうだったからな。私が使ってるのは縁が欠けてるやつでな…ほら、ここ欠けているだろう」

 

 コップの縁の…欠け?

 えっ、小さ…

 

「小さな欠けだが、お前に怪我でもされたらあれだからな…」

 

 優しさが嬉しいッ!

 そんなに気を使ってくれていただなんて…

 ちょっと恥ずかしそうにそっぽを向きながら話すのもポイント高い。

 感動のあまり抱きしめたくなるが、今はタイミングが悪すぎる…

 まさか、こんな時にそんな優しさが…

 ちょっと…薬盛ろうとか考えていた浅ましい自分が嫌になる。

 そして…そんな千鶴への思いが破裂してしまいそうだ。

 

「どうしたマリア?顔が赤いが…熱でもあるのか?」

 

「ひゃうッ!?」

 

 千鶴が私に近づき、手が額に当てられる。

 ひんやりと冷たくて、火照る体に気持ちいい…

 なにより、千鶴から触られて気持ちいい…

 

「うん…少し熱っぽいな。送っていくから今日は早く帰って寝たほうがいい」

 

 え…?

 いやだ、帰りたくない…

 

「いやだ。帰りたくない…」

 

 千鶴に抱きついて、胸に顔を埋める。

 千鶴の匂い…

 

「おい、変なものでも食べたのか?普段のシャキッとしたお前はどこへ行った」

 

「そんなの知らないもん」

 

「もんってな…キャラまでおかしくなってる。これは本格的にやばいかもな…ほら、行くぞ」

 

「いやだいやだいやだー!千鶴の家に泊まるもん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本部 エルフナインの研究室。

 惚れ薬についてのデータが映し出されているPCを操作するエルフナイン。

 エルフナインは、思考の海に溺れていた。

 

(恋とは性欲から生まれるもの。優秀な遺伝子を欲する…それが恋。しかし、恋の前には理性の壁が立ちはだかる。この理性が恥ずかしいだとか色々理屈を捏ねて結婚しない理由を生み出す…ならば、理性を奪い本能のままにマリアさんを求めるように仕向ければいい。普段、理性的な人ほどこの薬は効果抜群。簡単に言ってしまえばアホになる!誰かが言っていました、恋とはアホになってするものだと。今頃二人は愛を育んでいるのでしょう…頑張ってくださいマリアさん!)

 

 しかし、エルフナインの思惑とは全く異なる道を二人は進んでいたのである…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええい!離れろマリアッ!自分がなにをしているのか分からないのかッ!?」

 

「えー?千鶴の服を脱がそうとしてる?」

 

「正解だ…って違う!分かっててなんでこんなことをしようとする!?シャツが伸びる…というよりもセクハラのほうが問題だッ!世界の歌姫がセクハラなんてして…!」

 

「世界の歌姫じゃないもん…ただのマリアだもん…」

 

 駄目だこいつ、アホになっている…

 どうしたものか…

 

「月読か暁でも呼んで運んでってもらうか…んぐっ!?」

 

「他の女の名前なんて出さないで」

 

 他の女ってお前、仲間だろうに。

 それよりもこの口を塞ぐ手をどけてくれないだろうか。

 

「んー!んんんっ!んーーー!!!」

 

「えっ、なあに?私と、結婚したい?いいわよ、しましょう!」

 

 超解釈された!?

 えへへーと変な笑いを浮かべながら胸に顔を擦り付けるマリアに恐怖を感じられずにはいられない。

 前回、酔っ払いマリアの対処はしたがこれは酔っ払いとは違う。

 これは…アホになっている。

 アホマリアの誕生だ。

 さて、この事態をどう終息させるか。

 まず、今の状況を確認しよう。

 私は床に押し倒され、マリアに馬乗りされている。

 そして、そのマリアによって服を脱がされそうになり若干シャツがはだけてしまっている。

 直そうと思ってもマリアが胸板に顔を擦り付けてすーはーすーはー言っている。

 身動きはマリアを無理矢理引き剥がせば出来るだろうが…

 あまり乱暴なことはしたくない。

 あくまでも穏便に済ませるんだ。

 

「マリア…犬じゃないんだからやめなさい」

 

「じゃあ犬になるワン!」

 

 お前はどちらかと言えば猫だろう。

 あーもうどうしたらいいんだ…

 

「千鶴~」

 

「なんだ」

 

「好き~」

 

 …

 

「千鶴~」

 

「なんだ」

 

「好き~」

 

 …さて、どうしたものか。

 このアホマリアをうまくコントロールすればいいのだが…

 …腰と背中が痛くなってきたな。

 床に直に押し倒されているからフローリングの床が固くて固くて…

 

「マリア…背中が痛い」

 

「じゃあベッドに行く?」

 

「行かない」

 

「話はベッドで聞かせてもらうッ!」

 

「ここで聞いてくれ…それと、風鳴の真似はしてやるな。あのあとそういう解釈もあるということを知って黒歴史になってしまっているんだ」

 

 人は誰しも黒歴史があるものだ。

 てがみとかおきてがみとか…

 

「ベッドは駄目だからそこのソファで頼む…」

 

「ソファデートということね…望むところだッ!!!」

 

「違う。ほら、どけ。起きれないだろう」

 

 しっしっとジェスチャーしてマリアをどかして上半身を起こす。

 ようやく軽くなった…

 いや、マリアが重いというわけではないんだ。

 別の意味では重いが。

 はだけてしまったシャツを直してソファへ…

 行かない!

 テーブルの上のスマホを手に取り、寝室へダッシュ。

 今まで一度も使われることのなかった鍵をかけて、ベッドを動かしバリケードを作る。

 籠城だ。

 ゾンビ映画ではよく作られているが、まさか現実に作ることになろうとは。

 ということはあれか、マリアはゾンビか。

 冗談を思いつけるぐらいには落ち着けたな…

 

「千鶴ー!出てきなさーい!!!」

 

 部屋の外にはゾン…マリアがいる。

 籠城戦とはすなわち我慢比べだ。

 どちらかが根負けするまで続く。

 現在私の装備は…スマホと財布とベッドの下の刃物コレクション。

 備蓄は災害用の乾パン、飲料水がそれなりの数。

 これは…勝てる。

 寝てる時に地震が起きたら大変だと寝室に避難グッズを置いておいたのがよかった。

 部屋の外からはマリアの声とドアを叩く音が続いている。

 状況だけ書き残しているとホラーだがマリアの声がアホっぽいので全然怖くない。

 さて、救援要請を出すか。

 マリアと仲がいい暁か月読あたりを呼び出すか…

 …

 ……

 ………

 ない。

 連絡先の欄に暁のあの字も月読のつの字もない。

 あれ?

 連絡先がない。

 六年も同じ職場でわりと一緒に働いているのに連絡先を知らないなんてことがあるだろうか。

 あっ…

 これプライベート用のスマホだ…

 仕事用のスマホは…リビングだ…

 どうする!?こちらのスマホにはほとんど連絡先なんて入っていないんだぞ!?

 言ってて自分のプライベート及び人間関係が充実していないことに悲しくなってきた。

 くそ、どうすれば…

 

『こんばんはー千鶴義兄さん~』

 

 救いの手が、現れた。

 壁から。

 

「いいところに来てくれたセレナ!」

 

『ひゃっ!?どど、どうしたんですか!?』

 

「頼む、助けてくれ!マリアがアホになっているんだ!」

 

『マリア姉さんが…?』

 

 首をかしげるセレナ。

 なんのこっちゃといった感じだがドアの向こうから聞こえてくるマリアのアホっぽい声で大体察したようだ。

 

『まったく…一体なにをどうすればこうなるんですか?』

 

「分からん…いつも通りのマリアだったんだが急にああなってな…」

 

 本当に急だった。

 ああなる前は至って普通のマリアだったのだが…

 

『何か思いあたる事とかないんですか?ああなる前に何かしたとか』

 

「いや、変わったことは何も…あんなになる前にしたことも食事をして水を飲んで…水?そういえば、あいつコップを入れ替えたことをなにか気にしていたようだったが…」

 

『水…私、向こう見てきますね』

 

 そう言って壁をすり抜けセレナはリビングへと向かった。

 幽霊って、便利だな…

 食事が出来ないというのが難点だが。

 待つこと三分。セレナは戻ってきた。

 何かを見つけてきたようだ。

 

『何か液体の入った小瓶がキッチンで見つかりました。透明で匂いも特にありませんでした。化粧品の類いでも香水でもなさそうですし…千鶴義兄さんは心当たりありますか?』

 

「いや、ないな」

 

 その謎の液体が原因とするならば、恐らく先程の水にその液体を混入させてマリアは私に飲ませようとした。しかし私がその水を入れ替えてしまったためマリアがその液体入りの水を飲む羽目になりああなった…

 ただの憶測に過ぎないがコップを入れ替えたことをやけに気にしていたマリアの様子を見ると恐らくこれであっているはず。

 あとは…

 

「セレナ。少し頼まれてくれるか?」

 

『まあ、いいですけど…』

 

「すまないがあるところに行って来てほしいんだ。お前の知り合いを連れてな」

 

『私の…知り合い?ああ、そういうことですか』

 

「ああ、そういうことだ。上手くいけば、犯人が自白してくれるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルフナインの研究室

 S.O.N.G.の中でも眠らない部署と呼ばれるだけあって日を跨いでも彼女の研究室からは明かりが漏れていた。

 

「ふう…もうこんな時間ですか。あと少し。あと少しだけ…」

 

 そう言って彼女はどんどん自分の勤務時間を延ばしている。

 一度伸びをしてから再びパソコンの画面に向き合うと…いきなり、全ての電気が消えた。

 

「えぇっ!?て、停電ですか!?そんな…ここが停電するなんてありえないのに…」

 

 まったく周りが見えなくなったエルフナインは手探りでまずは明かりとなるものを探す。

 しかしそんなもの用意していたわけでもなく見つからず。

 そんな暗闇の中、自動ドアが開く音がした。

 誰か来てくれたのかと思ったが様子がおかしい。

 ぴちゃ、ぴちゃ…と水の滴るような音。

 それが徐々に迫ってくる。

 

「だ、誰ですか…?当直の方ですか…?」

 

 エルフナインは自分に迫る者に訊ねた。

 しかし、返答はない。

 あるのはただ水音のみ。

 やがて、自分の目の前までやって来た音の主。

 だが、急にその音は消えた。

 その何者かの気配も消えてしまった。

 一体、今のはなんだったのか。

 エルフナインはあらゆる推測をするが答えは出ず。

 思考を廻らせているとパソコンの画面が光った。

 停電が直ったのか?

 だとしたらパソコンだけつくなんておかしい。

 恐る恐るパソコンの画面を見るとそこには一文。

 

『Look behind』

 

 後ろを見ろ。

 この言葉がなにを意味するのか、錬金術師である彼女は持ち前の好奇心から振り返った。

 そこにいたのは、茶髪の少女。

 俯き、顔は見えない。

 暗闇の中、パソコンから発せられる青白い光に照らされた少女は一歩、エルフナインへと近づき彼女の顔を両手で掴んだ。

 

「ひっ…!?」

 

『あなたが…やったんですか…?』

 

「え…?な、なんのことですか…?」

 

『あなたが…謎の液体をマリア姉さんに渡したんですか!!!!!!!!』

 

「ひいぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 茶髪の少女は叫ぶと同時に顔を上げた。

 血の涙を流し、その目を見開き大きな、虚ろな目でエルフナインを見つめ、捕らえて離さない。

 

『どうなんですか…!あなたがやったんですか…!?』

 

「は、はい…!ボクがマリアさんに対六堂さん用惚れ薬を渡しました!」

 

『お前か…お前のせいで…!』

 

「ひえぇぇぅぇえぇえお!!!!?!!?!」

 

 S.O.N.G.本部に、エルフナインの絶叫が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千鶴…開けてよ…」

 

 マリアの声が響く。 

 疲れてきたのか声に覇気がない。

 正直なところ心が痛むが、心を鬼にして私はセレナを待たなければいけない。

 私の推理が正しければ、きっと解決策を持って帰ってきてくれるはず。

 かれこれ一時間程経つが…

 

『千鶴義兄さん!お待たせしました!』

 

 壁をすり抜けセレナが帰ってきた。

 顔に驚かせ用の血が垂れたままだが今はそんなことは重要ではない。

 

「戻ったか。で、どうだった?」

 

『ビンゴです!千鶴義兄さんの推理通りでした!』

 

「そうか…それで、この状況を打破する方法なんだが…」

 

『それなんですが千鶴義兄さん…すいません!みなさんお願いしまーす!』

 

 セレナが突然大声でそう言うと壁をすり抜けてなにやら屈強な男達が現れた。

 彼等は一体…?

 

『あの人達は私の知り合いでして。とある大学のラグビー部で遠征に行くバスが事故を起こしてしまい若くしてその命を失くしてしまった人達なんです』

 

「なるほど…それで、彼等がなんとかしてくれるのか?」

 

『いえ、なんとかするのは千鶴義兄さん自身です。ラグビーのお兄さん達はそのちょっとした手助けです』

 

 手助け?

 私自身がなんとかする?

 話が掴めないが…

 て、ちょっと待て。 

 

「お、おい!何故彼等はバリケードを解体している!どういうことだセレナ!?」

 

『千鶴義兄さん…あの小瓶の中身の正体は惚れ薬だそうです』

 

「惚れ薬…?」

 

『はい。そして、その効果を消すようなものはないんですが一番手っ取り早い方法があるんです。それは…』

 

 言葉を溜めるセレナ。

 そして、気がつけばバリケードは解体されラグビー部により鍵が回され…

 

「はあ…はあ…千鶴…ようやく開けてくれたわね…!」

 

「マ、マリア…」

 

 呼吸の荒いマリアが部屋へと侵入する。

 一体なにをどうしろというんだ!?

 

『…その欲望を解放するしか、あの薬の効果を打ち消すことは出来ないそうです。というわけで千鶴義兄さん。…ゆっくり、楽しんでください』

 

「な、なにをだ!?」

 

『なにってその…言わせないでください。セクハラですよ。とにかく千鶴義兄さんが生贄になれば済むんです。それに、前に言いましたよね?私はマリア姉さんの味方だって…というわけで、お楽しみにッ!!!!!』

 

 セレナとラグビー部達は壁をすり抜け去ってしまった。

 マリアは寝室の扉を閉めて、鍵をかけた。

 密室…

 

「ようやく…二人きりね…」

 

「待て、早まるなマリア…!」

 

「早まるな?それは無理な相談ねッ!」

 

 迫るマリア。

 私の体は何故か動かなかった。

 足を見たら先程のラグビー部らしき腕が床をすり抜けて私の足を掴んでいる。

 手助けって、そういうことか…!

 

「千鶴…今夜は寝かさないわ」

 

 それが、私が覚えているあの夜の最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと既に太陽は空高く。

 時刻を見れば昼近い。

 体が…痛い。

 主に腰。

 というかなんで私は裸なんだ…?

 寝間着を寝ている最中に脱ぎ捨てた?

 今までそんなこと一度もなかったのだが…

 ベッドの上を探すが見当たらず、布団をめくって探そうとして…

 すぐに布団を戻した。

 なにか、幻を見てしまったようだ。

 どうやら疲れが取れていないらしい。

 一度深呼吸して再び布団をめくると…

 

「すう…すう…」

 

 幸せそうな寝顔のマリアが、寝息を立てていた。

 生まれたままの姿で。

 うん、これは幻だ。

 もう一度布団を戻して、もう一度布団をめくる。

 幻のはずのマリアは未だに寝息を立てている。

 いやいや待て待て待ちなさい。

 これは幻。

 触ればきっと透けたりするんだろう…

 マリアの頬に触れる。

 

「んっ…」

 

 あ、温かい…

 幻…じゃない?

 え、だとすると今のこの状況は…

 そういうことか!?

 そういうことなのか!?

 いやいやきっと添い寝だ。

 添い寝でストップしているはずだ。

 裸なのはお互い寝相が悪くて寝間着が脱げてしまったのだろう。

 だってこんなにシーツやら布団やらが乱れて…

 

『千鶴義兄さん』

 

「うわっ…なんだセレナか…ちょっと今何故か裸だからこっちを見るんじゃない」

 

『何故か裸って覚えてないんですか?』

 

「お、覚えてないってなにをだ…?」

 

『千鶴義兄さん…現実逃避はやめましょう』

 

「げ、現実逃避…だと?い、一体なんのことだ…?」

 

 今の言葉を聞いたセレナはため息をついた。

 そして、笑顔のようでいて少し微妙な表情を浮かべたセレナは俺を現実に引き戻す魔法の言葉を言い放った。

 

『ゆうべはお楽しみでしたね』

 

 …

 ……

 やっ、やっちまったぁぁぁぁぁ!!!!!




千鶴さんキャラ崩壊。
遂に一線を越えてしまった二人の関係は如何に!?
次回「散華、千鶴」

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