マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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サブタイは某913の首の骨が折られた時のサブタイトルがモチーフ。
913ってあれだからね、ビッキーの誕生日じゃないよ!


散華、千鶴

 ゆうべはお楽しみでしたね。

 昔、某ゲームで宿屋がそんなこと言っていた気がするが…

 現実で聞くことになるなんて思わなかった。

 とりあえず全裸はまずいのでセレナに部屋から出てもらって床に散乱していた服を着る。

 マリアの服は…一応、畳んで置いておこう。

 改めて見るとすごい下着だ…

 見なかったことにしといてやろう。

 

 

 

 

 シャワーを浴びて遅めの朝食である目玉焼きを作ってトーストの上にのせて齧る。

 向かいの席に座るセレナが物欲しそうな目でこちらを見ている。

 トーストに目を奪われ、涎を垂らすセレナ。

 ふと我にかえり涎を拭いた彼女が話しかけてきた。

 

『結構落ち着いてますね。もっとあたふたすると思っていました』

 

「いろいろ思い出して考えた結果…慌ててもしょうがないという結論に達した」

 

 内心、まだ覚悟がついてない部分がたくさんあるが。

 表面上だけでも平静を保っておかないと慌てふためく大人二人というなんとも頼りない奴しかいなくなってしまう。

 

『思い出したというのは…』

 

「全部だ全部。昨晩、お前に裏切られてからのな」

 

『私は千鶴義兄さんを裏切ったつもりはないですよ?もともと私はマリア姉さんの味方なんですから。それに…楽しそうでしたよ?』

 

「うるさい…俺もあれは…どうかしていたと思うが…」

 

 あの時、最初は抵抗した。

 だが、いつの間にかマリアを求めるようになってしまって…

 

『多分最初のキッスで千鶴義兄さんの体内にもマリア姉さん経由で薬が入っていったんでしょう』

 

 俺の体に…マリアと同じ薬が。

 だからあんな…

 

『いやーそれにしてもかなり深くて、濃厚で、激しいキッスでしたね』

 

「言うな…自分の情事を他者から言われるのは結構くる…というかお前、見てたのか?」

 

『ちょっとだけ。最初の方だけです。千鶴義兄さんがキッスされながら押し倒されて、シャツのボタンを外され上半身が露になって、最初は抵抗したけどいつの間にか立場が逆転して千鶴義兄さんが姉さんを押し倒して絡み合い、お互い同時に果てるまで…』

 

「一部始終全部だろうそれは!?」

 

『あはは…それにしても凄かったですよ!獣のように本能が赴くままに互いに求め合って、愛し合って!だけど時折千鶴義兄さんの見せる優しさがですね…「痛くないか?」とかしっかり聞くあたり流石ですね。「マリア」とか「綺麗だ」とか囁くあたりももう…女性向けA○見てるみたいでした!』

 

「頼むからこれ以上言わないでくれ…あとお前、そんなもの見たことあるのか?」

 

『F.I.S.にいた時、ある子がどこからか入手してきてマムに見付からないように皆で回していました』

 

「男子中学生か」

 

 享年を考えるとそんなもんかと思うがしかしF.I.S.…

 それにしても今の話を改めて聞くと俺がマリアのことを求めているみたいじゃないか。

 …いや。

 俺は彼女を求めていた。

 ずっと前から。

 彼女と関わるうちに俺は彼女に惹かれていったんだ。 

 ようやく…自分の気持ちを受け止めることが出来た。

 深いため息が出る。

 この思いを受け入れるまでにこんなにかかってしまった。

 時間がかかった割にはすんなりと受け入れてしまったせいで肩透かしを食らったようだ。

 元々誤魔化して、隠していた感情だからだろうか。

 まさかこんなことで、一夜の過ちのせいで、彼女と交わることで、自覚してしまうなんて我ながら現金な奴だなと思う。

 深く項垂れると寝室からマリアのなんとも言われぬ声が響いた。

 声というより、空気が漏れたようなものだが…

 少し待つと服を着たマリアが顔を真っ赤にして寝室から出てきた。

 

「おはよう、マリア」

 

「お、おはよう…千鶴…」

 

 さあ、ここからが本当の戦いだ。

 

 

 

 

 

「おはよう、マリア」

 

 千鶴は何時ものように挨拶を送ってきた。

 何事も、なかったかのように。

 真っ直ぐに私を見つめてくる。

 

「お、おはよう…千鶴…」

 

「とりあえず、シャワー浴びてこい。結構汗かいたろ」

 

「え、ええ…シャワー、借りるわね…」

 

 ひとまず、シャワーを浴びながら今後のことを考えよう。

 火照った頭を冷やす時間を与えてくれたのだろう。この時間を有効に使わないと…

 

 

 

 

 シャワーを浴びて終えて千鶴の待つリビングへと戻る。

 いろんなことを考えたが…結局何も纏まらなかった。

 出来る限り平静を装い千鶴の向かいに座る。

 しかし私は彼を…真っ直ぐ見れなかった。

 昨晩の記憶が脳裏に過る。

 

『綺麗だ、マリア』

 

 耳元で囁かれた。

 彼の熱を感じながら聞いた言葉に私は溶けてしまいそうだった。

 他にも色々…

 とにかく昨晩の恥ずかしさのせいで顔が燃えているかのように熱いのに…なんで千鶴は涼しい顔でコーヒーを啜っているのか。

 行為の時も妙に手慣れていた。 

 なんというか、私一人が舞い上がっているようで少し腹立たしい。

 とりあえず千鶴の向かい側に座る。

 ポーカーフェイス。

 あくまでポーカーフェイスで。

 平静を装うんだ。

 

「マリア。昨日のことなんだが…」

 

 早速ぶっこんできたッ!?

 まだしっかりと心の準備とか出来てないのにッ!

 しかしここで慌てふためくようでは恐らく…

 

『なんだマリア?いい歳してたかだか一夜、関係を持っただけでそんなに舞い上がるとは…流石この歳まで処女貫いてきただけあるな』

 

 こんなことを言われるに違いない!

 絶対にからかわれる!

 

「そ、そんなに大事かしら?大人なら稀によくあることでしょう?」

 

 あくまで大人ならそういうこともあるよねみたいな方向に話を進める。

 稀によくあるって矛盾しているがニュアンスは伝わってくれているだろう。

 

「…そうか。お前の中ではよくあることなんだな。こういうことが」

 

 えーーーーーーッ!!!!!

 想定していた千鶴じゃなかった!

 からかい上手な千鶴じゃなくて優しい千鶴の方だった!

 言葉を変な風に受け取られたッ!?

 違うのそういう意味じゃないの!

 それじゃあまるで私が誰とでも関係を持つような女みたいじゃない!

 違うわ!昨日の夜が初めてよ!そういうことは!

 

「ち、違うのそういう意味じゃないの。私はあくまで好きな人とだけしたいし、なんならあれが初めてだし…」

 

 さらっと処女宣言してしまった。

 ま、まあ?これまで好きな人のために純潔を貫いてきたという証明になるし?むしろ男は処女が好きって言うし?問題無しよ無し。

 

「…とにかく、こうなってしまったのはこの薬のせいなわけだが」

 

 そう言って千鶴はテーブルの上にあの小瓶を置いた。

 あっ…隠すの忘れてた…

 というかバレてる…

 

「その…ごめんなさいッ!エルフナインから貰って、好奇心でどうなるかなって思って…本当にごめんなさい!」

 

 嫌われただろうな。

 薬を盛るなんてことをしでかして、結局自分がその薬を飲んで暴走して、千鶴に迷惑かけて…

 私って、馬鹿だ。

 

「頭を上げろ。確かにこの薬のせいでもあるが、私達自身のせいでもある」

 

「私…達…?」

 

 私だけじゃ、なくて?

 

「…あの薬は、理性を奪うらしいな。奪って、本能赴くままに相手を求める…お前は私を求めたが、私も…俺も、君を…マリア・カデンツァヴナ・イヴを求めた」

 

「求めたって…えっ…えぇっ!?」

 

 驚きのあまり大きな声が出た。

 求めたって…だって今まで千鶴からそんなこと言われたことなくて…  

 求めたということはつまり千鶴は私のことを…

 

「結婚はしないという信条とは別として俺は君のことが好きだ。愛している」

 

「ちょ…ま、待って。頭の整理が追いつかないの。少し時間をちょうだい」

 

 短く「分かった」とだけ返した千鶴は再びコーヒーに口をつける。

 いつものように淡々と且つ冷静に言葉を発していたが彼もなかなか緊張していたように見受けられる。

 それにしても「愛している」か…

 まさか、こんな時に聞くことになるなんて。

 薬を盛ったなんて嫌われてもおかしくないのに、千鶴はこんな私を愛していると言ってくれた。

 求めていたものが、ここにある。

 だけど…

 

「千鶴…私はこれまで何度も言ってきたように、貴方のことを愛しているわ。だけど…私は貴方を嵌めようとしたのよ。パパラッチにわざと撮られたり、薬を盛ったり…」

 

 こんな私が、彼に愛されていいのだろうか?

 不安が心を塗り潰す。

 ぎゅっと締め付けられるような感覚が胸を襲う。

 本当に、自分が嫌になる。

 だけど彼は…

 

「そうまでして、俺を欲してくれていたんだろう?愛されている証拠というやつだろう」

 

「うっ…そ、そうだけど…」

 

「それにしてもお前は本当に悪いことが出来ない奴だな。自分が仕込んだ薬を自分で飲む羽目になるなんて。神様って奴はちゃんと見てるようだ」

 

「うっ、うるさいわね!余計なお世話よ!」

 

「ふん…調子が出てきたようだな」

 

 言われてみれば、緊張がいつの間にか消えていた。

 私の緊張を解すために…

 あ、あと多分自分の緊張を解すというのもあるのだろう。

 千鶴自身、表情が柔らかくなった気がする。

 だけど、またすぐに表情が固くなり…いや、暗くなった。

 

「何回も言ってきたように俺は結婚はしないつもりだったが…」

 

 だったが…ということはつまり…

 

「ッ!?気が変わったの!?」

 

「変わりかけてる、というところだ。今まで意固地になって掲げてきた信条だったが…マリア」

 

 言葉を区切った千鶴は姿勢を正して、私を真っ直ぐ見つめた。 

 

「今日、答えを出す。絶対に。だから、少し待っててくれ」

 

 嘘のない言葉。

 正に覚悟を決めた者の言葉だった。

 そして、私はそれを受け入れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 車を走らせる。

 走らせると言っても住宅街の中だから速度を抑えてだが。

 もう目的地がすぐそこ。

 住宅街の中で一際広い土地。

 歴史がそれなりに古く、近隣住民からも親しまれているとある寺。

 狭い駐車場に車を止めて、助手席に置いていた買い物袋と手桶、柄杓を持ち墓地へ。

 お彼岸前の墓掃除をしているところがちらほらと見えるくらいで人は少ない。

 そうしてある墓の前に立つ。

 俺の恩人である…中村さんの墓だ。

 月命日には出来る限り来ている。

 そして今日は…霊感を手に入れてから初めての墓参りなのだが…

 

「いない、か…」

 

 みんながみんな幽霊になっているわけではないか…

 もし、会えたのなら話がしたかった。

 こんな自分が幸せに手を伸ばしていいのか。

 あなたに救ってもらった命を、どう使えばいいのか。

 あの時死ぬはずだった自分がどう生きるべきなのか。

 中村さんが亡くなってから十年近く、自分が生きている理由は罰であるとしてきたことは正しかったのか。

 それを聞きたかった。

 だけどそれも叶わずか…

 マリアに今日中に答えを出すなんて言ったのに宛がなくなってしまった。

 …もし、今の言葉を中村さんが聞いていたなら『手前の頭で考えろ』と言われていたに違いない。 

 自分の、頭で…

 墓石に水をかけ、花と中村さんの好きだった缶ビールを供える。

 しゃがんで手を合わせる。

 目を開けるが…そこにはやはり中村さんの姿はない。

 合掌すれば出てきたりしないかなと思ったりしたが、そんなことはないか…

 やはり、他力本願は駄目だ。

 自分の頭で考えないと。

 現在午後1時。

 今日が終わるまであと11時間。

 しかしだからといって深夜に呼び出してマリアに答えを言うなんていうのは非常識なので…8時までとしようか。

 8時までに答えを見つける。

 あと7時間のうちに答えを出そう。

 缶ビールを回収して墓地を出る。

 長いようで、短い時間で答えを出さなければいけない。

 どこか静かで、一人になれる場所で考えよう。

 家だと…昨晩のことを思い出して集中出来なさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 どこへ向かうというわけでもなく車を走らせる。

 自分が出そうとしている答えのように行き先がまるで見えない。

 あれから一時間程走ったわけだが答えが出るどころかちょっとした睡魔と空腹に襲われたのでコンビニでコーヒーとジャムパンを買って店を出た。

 目の前の信号を小学校低学年くらいの女の子がしっかり手を挙げて信号を渡っている。

 交通ルールをしっかり守って偉いな。

 世のルールを守らない奴等に見せてやりたいものだ。

 友達のところにでも遊びに行くのだろうか、楽しげに歩を進めている。

 あんな風にみんなが幸せに生きることが出来る世の中を守る。

 それが俺の仕事…中村さんからの受け売りであるが。

 缶コーヒーに口をつけようとしてあるものが目に入った。

 蛇行を繰り返すトラック。

 信号が赤だというのに止まる気配がない…

 このままじゃあの女の子が危ない…!

 ジャムパンの入った袋と缶コーヒーを投げ捨てて駆け出す。

 しかし既にトラックは女の子の目前に迫り、それに気づいた女の子は恐怖のせいか身動きが取れずにいる。

 間に合うか…?

 いや、間に合わせる。

 女の子だけでも…助ける。

 身動きの取れずにいた少女を助けるには、突き飛ばすしかなかった。

 そして、身体を襲う強い衝撃。

 一瞬が、永遠に引き延ばされて───




次回「鶴は飛び立った」

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