まあ、深夜なんで読まれるのは朝になると思いますが…
世界が暗い。
真っ暗だ。
真っ暗の中、ぽつんと一人。
自分だけがいる。
身体が冷えていくのが分かった。
そして、悟った。
これが、死か。
あの少女は助けることが出来たが…自分のために誰かが死ぬなんていうのはトラウマものだ。
それを自分自身がよく分かっているのに他者にそれを経験させてしまうなんて…
どうか気にせず、その生を全うしてほしい。
折角助けた命なのだから、そうしてほしい。
ああ…マリア…
俺は…
「…しもーし。もしもーし!起きてください六堂千鶴さん!」
…甘ったるい、声が響いた。
なんだ、この暗い場所には似合わないものだな…
それにしても死者に起きろとは変わったことを言う奴もいるものだ。
試しに目を開けてみると真っ白な空間にいた。
「ようやく起きましたね六堂さん」
さっきと同じ甘ったるい声。
見れば、なんか羽が生えた女がいる。
えっ、コスプレ?
「コスプレではありません。これはしっかり私に生えているものです」
言葉に出してないのに女は私の考えを読んだ。
こいつは、一体…
「私は神です」
「あ、ああ…あのトヨタが出してた…」
「それはキャミですね」
「虫採る時に使う…」
「網ですね」
「植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したもの」
「紙ですね…ってそっちの紙じゃなくて神です神!I am GOD!女神です!」
神ときたか…
以前、神を相手にマリア達装者は戦っていたがこんなにアホっぽくはなかったと思うが…
それにしても神とは…この間から幽霊見えるようになったりオカルト方面に走りすぎではないだろうか俺。
「アホとは失礼ですね…それにしても六堂さん。あなた結構ボケ好きですよね!」
「…なんだろう。自分がしっかりしなくていいやと思うとつい。それで、神様がなんのようだ?」
「おっほん…えー六堂千鶴さん。あなたには転生していただこうと思います。今なら特典つきですよ~!」
転生…?
輪廻転生の転生?
するならせめて人でお願いしたいものだが…
ちょっと待て。
「なんだか、胡散臭いんだが」
「えっ!?えー?なんのことですか~?」
「そんなうまい話があるものかと思ってな…それと、何か隠している匂いがして仕方ない」
特典つきとか言われると胡散臭くてしょうがない。
というかこいつの存在が胡散臭くてしょうがない。
ほら、さっさと本当のこと言え。
「…じ、実は~私のミスで本来なら六堂さんが死ぬ予定ではないところで殺してしまいまして…」
「ミス?ミスで私は殺されたというのか!?」
「は、はいぃ~!!!だからその~次の人生は楽しくなれるような世界に転生させてあげます!更に人生を充実させる特典もつけてあげます!ね?悪い話じゃないで…げふっ!?」
思わず、怒りからこいつの顔を鷲掴みしていた。
らしくもなく激情してしまい、すぐに手は離したが。
「ふざけるな。お前のせいで殺された挙げ句、次の人生は楽しくなれるような世界に転生だと?そんなものはいらない。神なんだろう?元の世界に生き返らせるくらいできるだろう?」
「それは出来ません。一度死んだ人間を生き返らせるのは違反行為になってしまいます。それと…実はまだあなたの身体は死んだわけではありません」
「なに…?」
「六堂さんの身体は現在植物人間と言われる状態です。起きる見込みのない状態…だから、こうして次の生はいかがですかと紹介してるんですしなにより…あなた、死にたがっていたじゃありませんか」
俺が死にたがっていた…
確かに、そうだ。
罰をうけるために生きているような人生に心の何処かで疲れ、死にたがっていた。
こんな自分が生きるべきではないと。
自分ではなく中村さんこそ生きるべきだと。
「ねぇ?そんな重苦しいもの背負って生きてたってしょうがないじゃないですかぁ。次の人生は、楽しく生きましょ?」
女神の誘惑。
さっきまでのアホっぽさは鳴りを潜め、不気味な妖艶さを身に纏い蛇のようなしなやかさで俺の身体にしなだれかかってくる。
だが…
私はこの神を名乗る者を突き飛ばす。
「きゃっ!?なにするんですか~!」
「…確かに、少し前の私なら死にたがっていたさ。自分なんかが生きるべきではないと。だが…私が死んでしまったらあの少女は私のように一生罪の意識に囚われてしまう!それに…愛する者のために…マリアのために私は死ねないッ!」
「…はぁ。あなたはもう少し頭のいい人だと思っていたんですが…何度も言っている通りこのまま生き返らせることは出来ません。さっさと死んでくれないと困るんですよ…どうしても生き返りたいというなら私を殺すくらいのことしないと無理ですよ。最も、人間であるあなたと神である私では勝負にもなりませんが」
…急に、神らしい傲慢さが現れた。
だが、こいつは今なんと言った?
こいつを殺せば、生き返ることが出来る?
「…いいだろう。お前を殺す」
スーツの内ポケットの中から一番の愛刀である短刀を抜く。
手入れ以外で抜くのは久しぶりだ…
「さっきの話聞いてなかったんですか?人間と神じゃ勝負にもならな──!?」
奴の科白を無視して、斬りかかる。
あの女神は間一髪飛び退いて回避するが…鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
いい気味だ。
「いきなり斬りかかるなんて…危ない人」
「誤って人の命を奪うような奴に言われたくないな…お前は私を殺したんだ。一回くらい私に殺されても問題ないだろう」
「だぁかぁらぁ!神と人間じゃあ勝負にもならないって言ってるでしょう!あなたは私を殺すことなんて出来ないッ!」
「───生きているのなら、神様だって殺してみせる」
(それ他所様のセリフゥー!!!)
女神の胸の内の言葉は、千鶴には届かなかった。
病室で眠る彼の手を握る。
医者曰く「身体にはまるでダメージがない。なんとか衝撃を殺して、完璧な受け身を取ったとしか思えない。しかし、その分脳へのダメージが大きい。彼が目覚めることは…」
少女を助けるために、彼は自身を投げ出したのだ。
なんて、優しい人───
だけど彼は意地悪だ。
今日、答えを出すと言ったのに寝たきりで、もうそろそろ明日を迎えようとしているのに…
彼の手を両手で包み、額の前まで持ってくる。
力ないその手は、当然ながら動くことはない。
「千鶴…」
涙が溢れて仕方ない。
だって、折角通じあえると思えたのに…
こんな残酷は…ない…
「起きなさい…起きなさいよ…千鶴…!答えを出してくれるんでしょう…?今日中に、絶対にって約束したじゃない…千鶴…千鶴…!」
涙は渇れることを知らず止めどなく落ちていく。
起きてという私の願いは虚空に溶けて──
「え…?」
一瞬、千鶴の指が動いた気がした。
気のせいかと思ったが、今度はしっかり私の手を掴んだ。
そして、彼の熱を感じた。
「マリ、ア…」
「千鶴ッ!?」
彼が、目を開いた。
そして、私の名を呼んでくれた。
そんな…こんな奇跡…
「マリア…ははっ、死神を、斬り殺して戻ってきたぞ…ところで今は、何月何日の何時だ…?」
「え…えっと、3月18日の夜中の11時55分よ…!」
「そうか…まだ、約束は…守れるな…」
「そんなことより今先生を…」
「マリア…約束を…守らせてくれないか…?」
…彼が、そういうなら。
「…それで、私と…結婚、してくれる?それとも…結婚しない…?」
涙がどんどん溢れて止まらない。
今の顔は人に見せられるものじゃない。
言葉も詰まった。
そんな私を見て、千鶴は優しく微笑んだ。
そして、千鶴が出した答えを私は聞いたのだ。
「そんな顔で、聞かれたら…結婚しないなんて、言えないだろう…」
そう言って、彼は目を閉じた。
おやすみ千鶴…
ゆっくり、休んで…
暗い坂道を登って行く。
頂上の、小さな光を目指して。
傷だらけで、歩くのもままならない。
だけど…歩かなくてはならない。
約束を守るために。
辛い、戦いだった。
百回戦えば、九十九回殺されていた。
だが、俺は…唯一奴を殺すことが出来る一回を拾うことが出来た。
こんな奇跡…そう起こせるものではない。
だが、彼女のためならこれくらいの奇跡、安いもの。
それなのに…足がどんどん動かなくなっていく。
足元が覚束ない。
まるで、足が石になっていくかのよう。
足だけじゃない、身体全てが石になっていく。
そして、倒れた。
動け、動け、俺の身体。
心はこんなにも活動しているのに、なんで身体が動かない。
想いを伝えるには、心だけでも、身体だけでも駄目なんだ。
両方が無くては、彼女に想いを伝えることなんて出来ない。
だから、動いてくれ…!
すると、身体が急に引き起こされた。
そして、誰かが肩を貸してくれた。
誰、だ?
何故かぼやけてその姿が見えない。
その誰かは俺を連れて歩き出した。
大きく、強く地面を踏みしめて。
すると、あんなに小さかった光が大きく輝き出して…
「六堂、生きろ。彼女さんと、幸せにな───」
誰かは俺の背中を叩いて光の中へと送り出した。
その声は…
待ってくださいと叫ぼうとして、やめた。
そんなことを叫べば、きっと怒られてしまうから。
だから俺は、振り向かず光の中へ進んで行った。
彼女と再び会うために。
約束を果たすために。
こうして、一羽の鶴が飛び立った。
呪縛を振り切り、光の中へと───
これにて、本編完結とさせていただきます(唐突)
え?シンフォギアVSシンフォギア?
やるに決まってるじゃないですか!私は約束を破らない人間ですよ!多分…
どこでシンフォギアVSシンフォギアをやるかって?
そりゃあもちろん…
新章「人妻マリアさん編」
近日投稿。
略してヒトヅマリアさん編。
こっちでそのまま続けるか別作品となるかはちょっと考え中。
皆さんの意見いただけたらいいなと思ってます(他力本願)
というわけで楽しみに待っててくれたらいいなと思ってますのでよろしくお願いします!