千鶴さんの容姿イメージは盛り上がりました笑
昼休み。
事務室で弁当を広げ、テレビをつけるとお昼のバラエティ番組が流れた。普段ならそこまで注目しないが、今日はわけが違った。
『えー今日のゲストは新婚ほやほや!世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴさんです!』
番組MCの男性芸人がそう紹介すると、マリアが登場。よろしくお願いしますと会釈してフリートークが始まる。
新婚ほやほやだなんて恥ずかしい。
「なんか、最近マリアさんよくバラエティ出てるっすよね。昨日の夜もなんか出てたし…前はあんまりテレビに出ませんでしたよね?」
同じく昼食中の真地がテレビを見ながらそう呟いた。
確かにマリアは最近、テレビ露出が増えた。
前までは出ても歌番組ぐらいのものだったが…
「まあ、さっき紹介された通り新婚ほやほや。注目度高いっすからねぇ。…注目度と言えば」
「なんだ?」
「いやぁ、あの世界の歌姫を落とした一般男性っていうのも世間からしたら注目の的だろうなって」
ニヤニヤとした顔で真地はそんなことを言うが、別にそんなことないだろう。
報道では私は一般男性としか言われていない。だって一般男性なのだから。
一般男性に注目するほど世間は暇ではないだろう。
『旦那さんとはどうですか?もうラブラブでしょう?』
『はい、もうラブラブしてます♪』
『うわ~この人今日惚気に来てますよこれ!』
…ま、まさかそんなわけないだろう。
新曲の宣伝とかだろ?頼むからそうであってくれ…
『今日は…はい、惚気に来ました』
『うわ~やっぱり!』
「班長…」
憐れみの目を向けるな真地。
頼むから。
よし、テレビを消そう。
リモコンに手を伸ばそうとしたら、真地がリモコンを奪った。
「ダメっすよ班長~。奥さんがテレビに出てるんですから見てあげないと~」
すごいニヤニヤとした顔で言われた。
こいつ…
『休みは出かけたり、家でゆっくりしたり…夫は私の膝枕好きなんですよ~!』
『マリアさんの膝枕とか世の男達が羨むようなことを…旦那さん羨まし!僕もしてもらっても…』
『ダメです♪』
『即答!?』
「へぇ~班長。マリアさんの膝枕好きなんすね~」
………真地の奴、上司をからかうとは。
「真地。あまり私をからかうなよ」
「も、もちろんっすよ…」
袖から出したバターナイフを見せて真地は黙らせた。
リモコンを真地から奪ってテレビを消す。
あとは帰ったらマリアとは少しお話だ。
仕事を片付け本部から出る寸前。
今日は、というより最近は今日もだがマリアは仕事で少し遅くなるとのこと。なので必然的に俺が家事をすることになる。
今日の夕食は…ちょっと遅めだが、夏野菜カレーにでもするか。帰りにスーパー寄って…
「あ、六堂さん!」
「む、立花か」
立花とは意外と関係は良好だ。
私と同じく司令に弟子入りした立花は私の弟…いや、妹弟子にあたる。なのでたまに組手や彼女の特訓に付き合ってあげている。
「今帰りですか?」
「ああ」
「帰ったらマリアさんとイチャイチャするんですか?」
なに?
立花までニヤニヤと…
「テレビ見ましたよ~。六堂さん結構甘えたりするんで…痛たたたたた!!!!!ろ、六堂さん!?」
「立花…私はからかわれるのが嫌いだ」
「わ、分かりました!あ、謝りますからどうかこの手をぉ!?指が食い込む…!!?脳が!脳が破裂するぅ!?」
「新しい脳みそと交換するいい機会じゃないか。そういうのが得意な医者とは知り合いだ。紹介しよう」
「ひえっ…ほんと、謝るのでどうかこの手を離してはいただけないでしょうか…!二度とからかわないので…」
「本当だな?」
「ほ、本当ですぅ!」
ならばよしと頭を鷲掴みにした右手を離してやる。
まったく。
「ひどいですよ六堂さん!女の子の頭を鷲掴みにするなんて!」
「司令の弟子だからこれくらい余裕だろう。私は昔これを司令からやられたぞ。それに比べたらマシと思え」
「師匠からって…六堂さんなにしたんですか?」
「まあ…ちょっとな」
あれは私が司令に弟子入りしたばかりの頃にちょっとばかし喧嘩に巻き込まれてしまって…
まあ、この話はいいだろう。
「それより、これからスーパーに行って夕食を作らねばならんのだ。私は帰る」
「おぉ…それはそれは失礼いたしました。ちなみに、今日の献立は?」
冗談めかして聞いてくる立花。
まったく元気な奴。
さっきまで痛がっていたのはどこへやら。
「夏野菜カレー」
「えー!いいないいな!わたしもご相伴しても…」
「駄目だ」
「あはは冗談ですよ冗談…だからその右手は下ろしていただけると助かるかな~って…」
はあ…
まあいいだろうと手を下ろして、お疲れとだけ言って立花とは別れた。
まったく困った妹弟子だ。
まったく。
さて、そろそろマリアが帰ってくる頃合いかと、カレーを温めて盛り付ける。その上にカボチャ、ズッキーニ、パプリカ、オクラを盛り付けて、と…
あとはサラダとスープを…
「ただいま~。あ、やっぱりカレーだわ」
「おかえり、マリア。食べる前には手洗いうがいだぞ」
「分かってるわよ。私はそんな食べ物にすぐ食い付くような女じゃないわ。ところで千鶴。その、ちょっと話があるんだけど…」
言葉の切れが悪い。
ということはつまり言いづらい話をするつもりだろう。
だが話してもらわなければ分からないというものだ。
「なんだ」
「そのぉ…番組の企画で、ちょっと私達の生活の様子を撮りたいんだけど…」
「駄目だ」
「即答!?」
駄目だ駄目だ。
それはいけない。
「俺はテレビに映る趣味はない」
「そこをなんとか!晩ごはんの様子だけでも…」
「駄目だ」
「ケチ」
「なんとでも言え」
「千鶴のケチ」
もうちょい語彙力はないのか…
「大体お前。前はバラエティとか出なかっただろう。どういう風の吹き回しだ?」
「それは…その…」
言い淀むマリア。
だが、あまり待たずにその真意を聞くことが出来た。
「その…幸せのお裾分け♪的な?」
いい笑顔でマリアはそう言い放った。
…頭が、痛くなった。
マリアの頭にピンク色の花が咲いているのが見えた気がする。
こいつは…こいつは…
「お前、こんなアホだったか…?」
「アホ!?」
頭を抑える。
おかしい…もうちょっと、もうちょっとだけ頭は良さそうだった気がしたが…
「最近、翼とか調に結婚ってこんなに素敵よ~って話をしようとするとすぐにどっか行っちゃうから、こうなったらテレビで翼達だけじゃなく皆に伝えようと思って♪あ、Y○uTubeで公式チャンネルも開設したのよ♪あとSNSもはじめて…これで世界中に幸せをお裾分け出来るわね♪」
…マリアの頭に咲いてる花の幻覚がどんどん本数を増やしていく。
ポンポンポンポンとどんどん咲いてマリアの頭どころか周囲に拡がり…
お、俺にまで咲いてきた…!?
なんだこれなんだこれ…
「ね~千鶴お願い!私達の新婚生活をみんなに届けましょう!」
思わず、「うんいいよ」なんて言いそうになった。
マリアのアホがうつったようだ…
ふん!と俺の頭に咲いた花を抜いて…
「…顔を隠してなら」
「分かったわ!ありがとう!千鶴!」
この時の俺は少しだけ、アホが抜けきれていなかったようだ。
数日後
『え~いま、夜の九時ですが家に帰ってきました…ただいま~!』抱きっ。
『…おかえり』
『今日はカレーね。美味しそう!』
「うわ、なんすかこの画面から伝わってくる幸せオーラ。それにしても意外っすね、顔を隠してるとはいえ班長がテレビに出るなんて。私はテレビに映る趣味はない!とか言いそうなのに…班長?」
「もう絶対にやらんもう絶対にやらんもう絶対にやらん…」
「は、班長…」
もう絶対に、やらん…
千鶴「もう絶対にないからな。本当だからな」
つづく