朝。
我が家の家事は当番制である。まあ、マリアは仕事が忙しいので比率的には俺の方が家事をしている。
別に苦ではないのでいいが。
というわけで朝食を作ってマリアを起こす。
「ほら、マリア起きろ。朝だぞ」
「ん~…あと少し…」
「あと少しじゃない。起きろ」
「ん…キスしてくれたら起きる…」
まったくこいつは…
本当に起きる様子がないので仕方なくキスする。
最近になってこうなのだ。前はこんなじゃなかったというのに。
「ふふ…おはよう…」
寝惚け眼のマリアはそう言って今度は自分からキスしてきた。
まったく…
まったく。
それからも…
「ね~千鶴~キスしましょ~」
「行ってきますのキスは?」
「おかえりなさいのキスよ」
「千鶴こっち向いて~」
「お風呂中失礼ッ!」
「おやすみなさいのキスは?」
「寝てる時も…」
数日後
ダメだ…またマリアの頭に花が咲いてる…
アホの花が…
一体なにがどうなっているというんだ…
「千鶴。キス、しましょう」
「朝起きてからもう三回目なんだが」
「いいじゃない。何回したって。…もしかして、嫌なの?」
「いや、決してそんなことは…」
「それじゃあ…ンッ」
なんやかんや、求められること自体は悪く思っていないからいいのだがあまり多いとな…
「それじゃあ俺は行く。お前は午前、取材だったな」
「ええ、午後には本部に行くから。いってらっしゃい」
そして四回目のキス。
もう、朝からこんな…
まったく…
さて、なぜマリアがこんな風…俗に言うキス魔のようになってしまったのには理由がある。
それは以前、マリアは仕事中だというのに事務室で千鶴にキスをした。
この、シチュエーションがいけなかった。
仕事中、それも事務室。
二人きりとはいえ、誰かに見られたらまずい。
そんななかでするキス…通称、デンジャラスキスの快感にハマってしまったマリアはとにかくキスという行為を求めるようになってしまったのだッ!
そんなマリアだから仕事中ももう…
(隙を見つけて千鶴とキスがしたいッ!)
こんなことを考えるようになってしまった!
仕事中にも関わらずである。
しかし…
(流石は千鶴…隙がないッ!)
先程から仕事中の千鶴の様子を窺うが隙がない。
千鶴は先日のあの一件から職務中にあんなことがないようにと決意したのだ。
公私混同はしない千鶴である。当然のことだ。
普通なら自分の旦那が真面目に働いていることを喜ぶべきなのだが今のマリアにとってはよろしくないのだ。
(まったく千鶴ったら…もう少し不真面目にやりなさい!だらけて隙だらけになりなさいよもう!それとカレンも空気読んでちょっと外に出るなりしなさいよ!)
本人にそのつもりはないが、自然と態度に出るものだ。千鶴を睨むような形になってしまっている。
そんなものだから千鶴にも怪しまれる。
飽くまで書類に淡々とハンコを押している千鶴だが、ばっちり気付いていた。
(なんなんだあのマリアの目は…私はなにかしただろうか…?)
気にしない風を装うが、ものすごく気になっている。
なにか実はマリアを怒らせるようなことをしただろうかと考えずにはいられない。
そして、まったく関係のない第三者にも被害が及んでいた!
(なんなんすかさっきからマリアさんは…あれすか?夫婦喧嘩でもしたんすか?でもそのわりには昼休み普通に会話してたっすよ?まさか…まさか、夫婦二人きりの空間に邪魔者がいるんじゃないとか思われて…いやぁまさか真面目なマリアさんに限ってそれはないか)
そのまさかである。
(とにかくまずは邪魔者を排除することを考えないと…)
(くそ、仕事が手につかん…)
(もうやだこの部屋から早く出たい。けど今日中に班長にあげなきゃいけない書類が…)
三者の思いが交錯する。
だが、ここで千鶴はある行動を取った。
「気分転換に少し体を動かしてくる」
体を動かす。
つまりトレーニングである。
千鶴を含むエージェントならばこれも仕事のひとつ。この緊迫とした室内にいるのが嫌になった千鶴は逃げることにした。
(班長!?いやけど班長がトレーニングルームに行くならマリアさんも恐らくついていくはず…まさか、そのために…さっすが班長!略してさす班!)
「それじゃあ私も付き合うわ」
「ん」
こうしてとりあえず真地は助かったのである。
真地は。
(トレーニングルームなら広いし、いつも人がたくさんいるというわけではないからチャンスもきっと出来るはず…絶対キスしてみせるッ!)
(なんだ?急にテンションが上がったようだが…まあ、機嫌が悪いよりはいいが)
さて、トレーニングルーム。
トレーニングルームなのだが…
「あ、マリアさん」
「む、マリアか」
柔軟をする立花響と風鳴翼。
「はあ…はあ…マ、マリアも来たのか…」
なんかやけに疲れてる雪音クリス。
「マリア~!一緒に走るデース!」
「き、切ちゃん…あんまり速すぎるとすぐバテちゃう…」
ランニングマシンで走る切調コンビ。
「おお…装者勢揃いだな」
まさかのシンフォギア装者勢揃い。
最近はなかなかなかった光景に千鶴は感嘆の声を漏らす。
(なんで…なんでこんな時に限ってみんないるのよ!?空気読みなさいよ!千鶴とキスさせなさいよ!)
(また不機嫌になった…まあ体動かせば忘れるだろう)
というわけでしっかりウォーミングアップをしてからトレーニングを始める二人。
だが…
(くっ…どうすればキス出来る…考えるのよ…障害は多い。だけど、壁が高いほど…燃えるッ!)
きっとこの状況のキスは情熱的で背徳的だろうと想像を膨らませるマリア。
だが自身が言ったように壁は高い。
周囲にはいつ絡んでくるか分からない仲間達。
そして千鶴はランニングマシンに勤しんでいる。
夢中になってるのならそれはそれで奇襲キス。通称キシュが出来るからいいとして…
見られるのは、まずい。
あくまでも他人がいるなかでバレずにするキスを求めているのだ。
「六堂さん!このあと組手の相手してしてもらっていいです…ひぇっ!?」
マリアの殺意に溢れた視線が立花響を襲った。
フィーネを演じていた時よりも悪人顔である。
(組手ですって?あなた彼氏持ちの癖に人の男と組手だなんて…軽薄ッ!尻軽ッ!恥を知りなさいッ!)
「組手か?構わないぞ」
「あ…いえ、やっぱりやめます…殺されそうなので」
「?」
(なんとか千鶴の独占は阻止したわ…さて、また作戦を練るわy…)
「それでは、私の相手をしてもらおうか」
(翼!?あなたまで千鶴を…!)
「どうしたマリア?まさか…そんなに私と組手がしたいのか?」
「そう、ね…あなたと私、戦いましょうか」
(ボッコボコにしてやるわ!)
「はあ…はあ…よもや、ここまでとは…」
「翼こそ、やるじゃない…」
互いに肩で息をしている。
それだけの激闘があったというわけだ。
見ていた他の装者達も息を呑むほどである。
(な、なんとか千鶴の独占は死守したわ…それより千鶴は私の頑張りを見てくれて…)
「あ、あら?千鶴はどこに…」
「六堂さんなら緊急の会議だって招集かけられて行きましたよ」
「な、なんですって!?」
その後、夜遅くまで会議は続くとのことで晩ごはんを作りに帰宅。
一人寂しく、千鶴の帰りを待つ。
結局、キス出来なかったな…
徒労感だけが残る一日。
疲労から来る眠気が頭をぼうとさせ、自然と体は寝ようとテーブルに突っ伏して…
「ただいま…って、なんだこんなところで寝ようとして。寝るならベッドに行けベッドへ」
千鶴…?
千鶴だ。
音もなく入ってくるものだから内心すごいびっくりしている。体を起こして実は夢ではないかと目をこするが現実のようだ。
私ったらこんなところで寝ようとして…
「千鶴…おかえりなさい。いま、晩ごはん用意するか…」
唇に、軟らかいものが触れた。
暖かくて、ずっとこのままでいたくなってしまうがそれはすぐに離れてしまった。
私、千鶴にキスされて…
「なんだ?いつもしてくるのにされるのはダメなのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
なんだろう…こう…
焦らされるのも、いいかも…
マリアは、なにかに目覚めた。
オマケ
マリアセブン
史上最大の告白後編
「千鶴。私は…私はね、人間じゃないの。M87星雲から来たマリアセブンなのよッ!」
例のBGM
例の背景
「びっくりしたでしょう?」
「いや…人間であろうと、宇宙人であろうとマリアはマリアに変わりないじゃないか。たとえ、マリアセブンでも」
「ありがとう千鶴。好きよ…けど私いま体調悪いから一回星に帰んないといけないんだけど…」
「そんなこと言ってないで怪獣と戦ってこい。藤尭隊員がピンチなんだよ。ほら、早くいけ」
「扱いがひどい!?」
登場怪獣
双髪怪獣改造アンパンドン
前編で倒されたアンパンドンだがチョセイ星人により改造を施され復活。実力自体はそれほどでもないがマリアセブンが不調のところを痛めつけた。
見た目は赤いトンカツのような体にアンパンっぽい頭が二つついている。
鳴き声はチョセイ。チョセイ、チョセイ。
最後はマリアセブンのMARIA†SLUGGERで頭部を切り落とされた。
倒されたあと星に帰ったマリアは体調を万全にして地球に帰り千鶴と結婚。ゼロという名の娘が出来た。