マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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現実逃避のため投稿。
たくさんの感想、評価ありがとうございます。
一瞬だけバーが赤くなり、自分史上初めてだったので感動しました。
…今はオレンジになってますが。
まあ、評価バーの色のために書いてるんじゃないですし気にはするけど気にしないスタンスなので笑


二戦目はランチの途中で

『週刊誌』と聞くと現代人のイメージは芸能人のスキャンダル、私生活を暴くだとかヘアヌードを載せたりだとかとあまりいいものではないだろうと私は思っている。

 購入意欲を沸かせるために誇大だったり過激だったりする見出しはコンビニや駅などで見かけるが私はその手の物に一切興味がなかったし自分とは縁遠いものだと思っていた。

 しかし、まさか私が週刊誌に載ってしまうとは……

 

『世界の歌姫お家デート!?』

 

 表紙に一番大きく書かれたその文字。

 中身を開けば、マンションを出た私とマリアの写真が掲載されている。

 幸いなことに私の顔にはモザイクがされて全国に晒されることはなかった。

 だが、顔が載らなかったからよかったなんてこともなく──

 

「まさかこんなスキャンダルを撮られるとはな…」

 

「弁明のしようもございません…」

 

 普段、あまり使われない会議室。

 広い部屋に二人。

 椅子に腰掛け、週刊誌を丸めて握る風鳴司令に深く頭を下げる。

 自身を信頼して二課に誘っていただいた風鳴司令に見せる顔がない。

 こんな不祥事を起こしてしまうなど…

 スーツの胸ポケットには辞表を用意している。

 こんなもので責任が取れるとも思えないが…

 しかし、司令の次の言葉は自分の予想外のものだった。

 

「それにしても、ようやく千鶴にも春が来たか…」

 

「…は?」

 

 春?

 まだ二月。  

 今季最強の寒波が襲来し厳しい寒さが日本を覆っているというのに…

 などという現実逃避はやめてだ。

 

「あの、司令。今の言葉は一体どういう意味のものでしょうか…?」

 

「ん?意味もなにもそういう意味だろう。いやぁ俺の目に間違いはなかった。お前をマリアの教育係にした時から薄々こうなるんじゃないかと楽しみにしてたんだ」

 

「ちょっと待ってください!私は彼女とは一切そういう関係では…」

 

 風鳴司令はとんでもない勘違いをしている。

 私と彼女はただの同僚。

 仕事仲間である。

 他の装者と比べると圧倒的に交流はあるがそんな関係ではない。

 …先日、求婚されたが一切そんな関係ではないのだ。

 

「まあ、俺からはバレないように…というのは難しいだろうから節度を持って、羽目を外しすぎないようにとだけ言っておく」

 

 そう言って席を立ち、会議室を後にしようとする風鳴司令を引き留めようとしたが──ダメだった。

 全く私の言葉に耳を貸すことなく、風鳴司令は会議室を去ったのだ──

 

 

 

 

 

「マリアッ!!!これはどういうことデスか!?」

 

 休憩室で新婚旅行から帰ってきた切歌が私に詰め寄った。

 今日の週刊誌を右手に握りながら。

 

「どうもこうもないわ。…まあ、そこに書いてあるような恋人とかでは()()ないけど」

 

 そう、まだ。

 先日は少々急ぎすぎて求婚までしてしまったけれど、こうなれば後は詰将棋。

 焦らず、確実にかつ最短に結婚までのルートを切り開く。

 そのための次の一手は──

 

「切歌。私もね、自分の幸せを追いたくなったのよ。切歌みたいに素敵な男性と結ばれたいと──」

 

「そ、そんなぁ♪アタシの旦那様は確かに素敵デスけど///」

 

 体をくねらせる切歌。

 砂糖を吐きたくなるのを堪える。

 いつか自分もこうなるのだと。

 そのために今は──

 

「切歌。あなたは私の恋、応援してくれる?」

 

「当然デスッ!アタシと調はマリアの味方デスよ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「その、マリアが好きになった人が真剣にマリアのことを思って、マリアを幸せにしてくれるような人であればデスが…」

 

 ああ…なんて自分は幸せ者なんだろう。

 こんなにも私を心配してくれる人がいるなんて…

 切歌や調のためにもこの恋、成就させてみせる。

 

「それで、この人はどんな人デスか?ちゃんと定職に就いてるんデスよね?もしプーさんとか言おうものなら…」

 

「ちゃんと安定した職に就いてるわよ。それに、あなたも知ってる人よ」

 

 アタシも知ってる?と切歌は自身の記憶にある共通の知り合いである男性を思い描く。

 うーん、うーんと唸りながらもパッと電球が光ったかのような顔の切歌。

 どうやら分かったようね、さすが切…

 

「マリアは司令のことが──」

 

「違うわ」

 

 すかさず否定。

 やっぱり切歌は切歌だった。

 

「それじゃあ緒川さ──」

 

「人のマネージャーに手は出しません」

 

 切歌はえー!?と驚愕の声をあげ、頭を抱える。

 どうして出てこないかな…切歌も関わりあるはず…

 

「大穴で藤尭さん…?」

 

「絶対にありえないわ」

 

 それじゃあ一体誰デス…と答えを求め彷徨い出した切歌にしょうがない教えてあげるかとため息をつく。

 

「六堂千鶴よ。六班の」

 

 六班のと言えば伝わるはず。

 地獄の六班の異名は装者達にも轟いているし任務も一緒に行うし伝わるはず。

 

「あぁ──あのアタシの結婚式に出席しなかった男デスねッ!!!」

 

 …あれ?

 お、怒ってる…?

 

「折角アタシが女っ気のないワーカーホリックに幸せのお裾分けをしようと思ったのにあの堅物…!そのまま一生独身でいるデェェェェスッ!!!!!」

 

 そう言いながら週刊誌を破る切歌。

 その姿はまさに狂戦士…

 というかこの怒り、それだけの理由でこれだけ怒るはずがない。

 もっと積もり積もったものがあるはず。

 しかし、切歌と千鶴にそこまでの関係はなかったはず…

 

「あんの男ォ!今でも忘れませン!S .O .N .G. に編入したばかりの頃の訓練!!!あんなにしごきやがって…!!!」

 

 あ、あぁー…

 S .O .N .G. に編入したばかりの頃、私はそのままエージェントとしても所属することになり、その時の教育係が千鶴だった。

 それは切歌も調もだったと聞いた。

 二人はまだ学生だから加減して訓練したと言っていたけど切歌のこの様子だと加減しきれてなかったのだろう。

 実際、彼の訓練は厳しい。

 しかしそれは戦場で生き残れるようにという彼なりの優しさでもある。

 …まあ、そのことに気づける人は少ないのだけど。

 

「ハァ…ハァ…マリアッ!絶対あの男はダメデスよ!絶対DVしてくるデスよ!絶対、絶対、ぜーーーーーーったいダメデスよ!!!」

 

 まさか、協力してもらおうと思ったらとんでもない障害が生まれてしまった。

 一体、切歌になにをしたというの千鶴。

 あの切歌がここまで根に持つなんて相当よ。

 だけど…好きな人のことを否定されるのはいい気分ではない。

 

「切歌、千鶴はそんな悪い人ではないわ。訓練は厳しいかもしれないけど、それはどんな苦難にも打ち勝ってほしいという彼なりの優しさが…」

 

「それはDV被害者のセリフデスよ!目を覚ますデス!まさか、既にDVされてたデスか!?」

 

「されてなんかないわ!切歌、あなた彼を誤解して…」

 

「かくなる上は…デェスッ!」

 

 駆け出す切歌。

 嫌な予感がする。

 早く切歌を止めないと…!

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を取るため食堂にやって来た。

 午前中は行く先々でスキャンダルのことを言われた。

 その度に誤解を解くために説明し、仕事どころではなかった。

 午後は集中してやろう。

 部下からの報告書の体をなしていない報告書に目を通さなければならない。

 報告書を書けと言っているのに旅行記を書いたり、その土地で出会った女性との逢瀬を書いたり、解読困難な文字で書いてきたり、絵日記だったり…それを報告書として纏めるのが私に与えられた余計な仕事のひとつだ。

 辛うじて、大事なことは書かれているのでそれを元に報告書を完成させることが出来るのが幸いだ。

 さて、今日の献立は…カレーか。

 お盆を取り、その上にサラダやスープ、デザートのリンゴを乗せてカレーを受け取ろうとしたのだが…

 

「すいません。これ、赤飯ですよ」

 

「ツルちゃんにだけ特別よ。いやぁ、めでたいめでたい!」

 

 食堂のおばちゃんは私が二課に配属された時から食堂を切り盛りしているリーダーである。

 当時、周りより若い私をツルちゃんと名付けてからかってきたのだ。

 いや、それは今もか…

 食堂のおばちゃんまで週刊誌を読んだのか…

 それにしたって赤飯炊くのはちょっと…

 それに、赤飯よりカレーが食べたい。

 

「え?カレーも食べたい?ほらこれ、持ってって!」

 

 そう言って渡されたのは山盛り…というにはちょっと、いや、かなり量が多すぎる。

 山は山でもエベレストだろう。

 それにカレーがかけられているのは白飯ではない。

 赤飯だ。

 そこまでして赤飯を食べさせたいのか。

 この量で且つ腹持ち良すぎる赤飯なんてとてもじゃないが食べきれるものではない。

 

「いいからいいから。二人で食べな」

 

「いや、二人でもこの量は…」

 

「じゃあみんなで食べな」

 

 そのまま押しきられる形でこのエベレスト赤飯カレーは私の元にやって来た。

 さて、どうしようか…

 

「あっ教官!お疲れさま…って、なんですかそのカレーは」

 

 立花響──

 ガングニールの装者で以前、訓練教官を担当したことがある。

 それ以来私のことを教官と呼んで度々トレーニングに付き合わされる。

 最近、デスクワークが増えたので丁度よかったのでありがたい。

 明るく、親しみやすい彼女はよく食べる。

 この状況を打破するのに適していた。

 

「立花か…すまないが、助けてくれないか?君(の胃袋の力)が必要だ」

 

「そ、そんなぁ…ダメですよ。教官にはマリアさんがいるんですから」

 

「お前まであれを読んだのか…私とマリアはそんな関係では…」

 

「ダウトです教官。嘘はいけませんよ~教官は人を呼ぶ時、名字で呼ぶのにマリアさんだけマリアって下の名前で呼び捨てじゃないですか~。これは親しい間柄としか見えませんよ~」

 

 嫌な笑顔を浮かべ、私をからかう立花。

 歳上をからかうとはいい度胸だ。

 

「単純に奴の名字が長いだけだ。毎度毎度カデンツァヴナ・イヴって言ってみろ。カデンツァヴナ・イヴだぞ。どんな名アナウンサーでも五回に三回は噛む」

 

 カデンツァヴナ・イヴだぞ。

 ツァって日本語にないだろう。

 ヴだって日本語にない。

 日本人殺しの名字だ。

 名字で呼び続けたらきっと舌が絡まるに違いない。

 

「うーん…じゃあそういうことにしておきますね」

 

「そういうこともなにもそういうことだ。それより、このカレーを食べるのを手伝ってくれ。一人じゃ一日かけても無理だ」

 

 はい!と元気よく了承してくれたはいいものの…果たして二人でも食いきれるかどうか…

 席につき、エベレスト赤飯カレーをテーブルの中央に置き向かいに座る立花とシェアする。

 味はもちろん問題なくうまい。

 おばちゃん達が作った料理だ、なにも疑いはしない。

 だがこの量はなぁ…

 

「教官!手を止めちゃダメです!こういうのはなにも考えずにとにかく手を進めてしっかり味わうんです!」

 

「そうは言ってもだな…」

 

「はい!つべこべ言わない!」

 

「うぐっ!?」

 

 ぐっと立花がカレーを掬ったスプーンを私の口に押し入れる。

 

「はい!もっと行きましょう!このままじゃお昼休みが終わっちゃいますよ!」

 

「むぐっ!?」

 

 さらにカレーを押し込まれる。

 なんで私が立花にカレーを食べさせてもらっているのか。

 カレーくらい自分で食べれ──

 

「なにを…しているのかしら」

 

 背後から聞こえる声。

 一瞬、背筋だけ南極に転移したのではないかと言うほどの寒気が襲った。

 

「マ、マリアさん…」

 

「立花響」

 

「は、はいぃ!」

 

「そのカレーは一人で食べなさい」

 

「えぇ!?いくらなんでも一人ではちょっと…」

 

「食べなさい」

 

 マリアの迫力に気圧され、立花は一人でカレーをがっつきはじめた。

 そして、俺は──

 

「ねえ千鶴。私というものがいながら他の若い女の子にカレーを食べさせてもらえて嬉しい?」

 

「マリア。やっぱりこの男は最低な奴デスよ!DV野郎で浮気者なんて…人間性を疑うデス!」

 

 どうやらイガリマの装者「暁切歌」もいるらしい。

 前々からどうにも暁は私のことを嫌っているようだったがここまでオープンに嫌われるとは…

 それなりにショックではある。

 

「切歌は黙ってて…千鶴、ちょっと来なさい」

 

 これは…あとが面倒だ。

 付いていくしかない…

 マリアを追って、食堂を出た。

 

 

 

 

 

 

 マリアと共にやって来たのは本日二回目の会議室。

 人はいない。

 二人きり。

 ドアを閉めたマリアは俯き、顔が見えない。

 怒らせて、しまった。

 女性を怒らせるなんて妹ぐらいしか経験がない。

 ましてや他人であるマリアを怒らせたとなるとどう対処していいか分からない。

 

「あの、マリア…その、悪かった…」

 

 まずは謝罪。

 私が原因で怒っているならまずは謝罪だ。

 さて、どうなる──

 

「謝らないで千鶴…悪いのは私のほうよ」

 

 予想外の言葉だった。

 まさかマリアが謝罪するなどを一体どういうことだ…?

 

「私、あなたがあの子とお昼食べてるの見たらなんだかもやもやしちゃって…気がついたら爆発しちゃってて…嫌よね、こんな女。この間だって無理矢理パパラッチに撮られるような真似して…私なんて嫌われて当然よ…」

 

 俯いたまま、そう語るマリア。

 その頬には光る一筋の線が──

 それを見たら、勝手に口が動いていた。

 

「確かに、スキャンダルみたいに騒ぎたてられるのは気分が悪い。外堀を埋めて逃げ場をなくすような真似は…任務以外では嫌いだ」

 

「そうよね…私なんて…」

 

「だが、そこまでする私への思いと覚悟は理解した。だから──やるなら正々堂々とこい。そんな搦め手を使わずにな」

 

「え…?」

 

 ここでようやくマリアは顔を上げた。

 やっぱり泣いていた。

 女の涙は苦手だ。 

 出来れば、二度と見たくないもののひとつだ。

 あと見たくないものと言えば口論の現場とお化け。

 

「結婚、する気はないんじゃなかったの?」

 

「今はな。その結婚願望のない男に結婚願望持たせると言ったのは君だろう?なら、やってみせろ。私はテコでも結婚する気は無いがな」

 

「…分かったわ。絶対に貴方を落としてみせるッ!」

 

 涙を拭い、いつものキリッとした表情でマリアはそう宣言した。

 いつもの調子を取り戻したらしい。

 さて、マリアを元気づけるためにあんなこと言ったが本当に結婚願望を持ったらどうしようか…

 別に悪いことはないのだろうが…今更信条を変えられるものでもない。

 これまでの人生を元に持った信条なのだから変わるには相応の時間が必要だろう。

 だからきっと変わりはしない。

 余程、自分にとって大きな出来事がない限りは…




二戦目 六堂千鶴の勝利
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