それは、ある日の昼休み。
「ほんと、マリアはなんでも美味しそうに食べるデスよね」
千鶴の作ってくれたお弁当を食べていると、一緒に昼食を摂っていた切歌がそう言った。
事実、料理上手な千鶴が作る料理は美味しい。
「見た目も美味しそうだし、栄養バランスも良さそう」
「そうでしょ。体型の維持は大事だろうって気遣ってくれてるのよ」
「まーた惚気てるデスよ!…けどマリア、気を付けるデスよ」
急に真面目な顔になった切歌。
一体何に気を付けろというのか、斜め向かいの調と顔を見合せると切歌は言葉を続けた。
「どんなに気を付けても、あれが少しずつ迫るのデス…」
「あれって、なによ?」
勿体ぶらず言いなさいと促すと、切歌は恐ろしいことを言い出したのだった。
「…幸せ太りデス」
風呂上がり。
昼間のことを思い出すが…自分は大丈夫。
いつもトレーニングは欠かしていないし、栄養バランスの取れた食事。
健康そのもの。
太るなんて要素なし。
まさに…完璧。
…ちら、と体重計が目に入った。
万が一、心配はないと思うが…
ここ数日体重を測っていなかったから測ってみましょう。
大丈夫、大丈夫と余裕を持ちながら恐る恐る体重計に乗って…
私は、声にならない悲鳴をあげた。
「千鶴、ご飯少なめでいいから…」
ご飯をよそう千鶴にそう伝えると千鶴は怪訝そうな顔をした。
「あ、ああ…分かったが、どうかしたのか?具合が悪いのか?」
「具合は大丈夫…あと、自分の分のお弁当は自分で用意するから…」
「そう、か…」
やめて千鶴その切なそうな顔でよそったご飯を炊飯器に戻すのは!
違うから千鶴!
本当に違うから!
決して千鶴のご飯が美味しくないとかじゃないから!
これは私の問題だから!
本当に…本当にごめんなさい千鶴…
痩せたらいっぱい千鶴のご飯食べるから!
それまで我慢。我慢よ!私ッ!!!
次の日
「マリアさんすごい気合い入ってますね!」
「ええ…絶対に負けられないのよッ!」
響にミットを持ってもらってとにかく打ち込む。
痩せるにはまず脂肪を燃焼させることが最優先である。
はいワンツー!ワンツー!
ワン、グ~…
「あっ…」
「お腹空きましたね!もうお昼近いですしお昼ご飯にしましょう!」
まったくこの子は人の気も知らないで…
お腹の音聞かれるの恥ずかしいって知らないのかしらまったく…
「え!?マリアさんのお弁当小さッ!?どうしたんですか!?まさか、ダイエッ…むぐっ!?」
「シーッ!声が大きいッ!」
食堂で私の出したお弁当を見た瞬間、響が大声でダイエットと叫びそうになったので口を塞いだ。
まったくデリカシーというものはないのかしら。
「なに?マリアがダイエットだと?」
デリカシーない子来ちゃった~…
もうばっちり聞いてるし…
「まったく日々の鍛練を怠るからそのようなことになるのだぞ。やれやれこれだから…」
くっ…
この剣可愛くない…!
「それにしても、それだけで足りますか?タッパー一個だなんて…わたしのトンカツ定食分けましょうか?」
思わず、トンカツ定食が目に入った。
くっ…ダメよ!誘惑に負けてはダメ!
「でもマリアさんダイエットなんて必要ないと思うんだけどなぁ…」
「侮ってはダメよ!実際に見るのと、テレビで見るのは違うのよ。テレビだと少し体重が増えただけで丸く見えちゃうんだから」
「へぇ~流石芸能人ストイックだな~。けどマリアさんならすぐ痩せますよ。午前中あんなに動いたんですし、大丈夫ですよ」
ありがとう響…
その言葉が励みになるわ…
「しかし歳をとると代謝も落ちて体重が落ちづらくなるというが…」
「なに翼?私が歳をとってるとでも?」
「まあ他の装者に比べたらな。もうアラサーだし色々と気をつけないと…」
「翼ァッ!!!!!」
このあと、めちゃくちゃ説教した。
「なんで痩せてないのッ!?」
体重計の数字は昨日と変わらず。
なんで!?
どうして!?
あんなに動いたのに!?
「ど、どうしたマリア?大きな声を出して…?」
「な、なんでもないわ!」
ドア越しに千鶴が声をかけてくれたが体重が増えたことは恥ずかしくて言えないので誤魔化す。
くっ…やはりダイエットは一朝一夕では出来ないということね!
それから、マリアのダイエットは熾烈を極めた。
徹底的な脂質、糖質の制限。
脂肪を燃焼するための運動。
その結果、マリアは…
「おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ…」
「とてもそうは見えないが…」
「ほんと、大丈夫だから。ごちそうさま。行ってくる」
なんだか、ギクシャクしていた。
マリアはあまり生気がなく、どこかイライラしている様子。
夫婦間での会話も少なく、千鶴もいろいろ気遣うがそれも無駄に終わっていた。
「というわけなんだが、何か知らないだろうか?」
本部の廊下を歩いている暁と月読を捕まえて最近のマリアの様子について訊ねた。
親交の深い二人なら何か知っているだろうと踏んでのことだったが…
「うーん確かに最近のマリアは様子がおかしいデス」
「私達もいろいろ聞いてるんですけど…」
ふむ…
この二人でも分からないとなると難しいな。
とりあえず他の装者にも訊ねてみるか…
ん?仕事用のスマホが鳴っている。
緒川さんから…なにかあっただろうか?
「はい、六堂です」
「もしもし緒川です。すいません六堂さん。実はマリアさんなんですが…」
「マリアが?はい…はい…分かりました。すぐに向かいます。すいませんわざわざ。はい…では失礼します」
通話終了…
「マリアがどうかしたんですか?」
「ああ。レッスン中に足を挫いたらしい」
「ええ!?」
「マリアがデスか!?」
二人の驚きはまあ分かる。
あいつはレッスンなんかで怪我するようなたまじゃない。
「私はマリアを迎えに行ってくる。軽く捻ったくらいだからそう心配する必要はないだろう」
というわけでマリアを迎えに行こう。
急ぎの仕事もないから半休入れて病院に連れていこう。
痛む左足を見ると少し腫れている。
はあ…怪我なんて久しぶりだ。
「まったくお前らしくもない」
翼にこう言われるのも当然だ。
なんだか最近いろいろと上手くいっていないけど、はあ…怪我なんて…
「マリアさん。六堂さんが迎えに来ましたよ」
「えっ!千鶴が!?」
緒川さんが控室に入ってくると、後に続いて千鶴まで入ってきた。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だけど…千鶴、仕事は?」
「急ぎの仕事はないから半休入れた。ほら、病院行くぞ」
そう言うと千鶴は私の背中と膝裏に手を回して抱き上げて…
「おお…」
「ちょっ!?ち、千鶴これは…」
お姫様抱っこ…
まさかこの歳でされるなんてというかはじめてというか……
というか翼が見てるから!
すごい目で見てるから!
「こら、暴れるな。それじゃあすいません緒川さん。ご迷惑おかけしました」
「いえ、仕事ですから。それより早く連れていってあげてください。マリアさん恥ずかしがってますから」
緒川さんの言葉を聞いた千鶴は私を一瞥する。
緒川さんの言ってる通りだと睨み付けるが千鶴はなんともなさそうなので効果がないらしい。
「失礼します」
そうして私は千鶴に連れられて控室を出たのだけれど…
途中の廊下ですれ違う人達に見られてすごい恥ずかしかった。
「よかったな。二、三日おとなしくしとけば治るくらいの軽い捻挫で」
車を運転する千鶴が後部座席に座る私に向かって呟いた。
「…それで、最近どうしたんだ?」
「え…?」
「最近のお前はらしくない。食事もほとんど摂らないし、ずっとイライラしてるしな…何かあったのか?」
言わなきゃ、ダメかな…
言いたくないけど、ここまで心配かけてしまったからには言わなきゃいけないのだろう。
「実は…太ったのよ」
「そうなのか?そうは見えないが…」
「本当よ!家の体重計で測ったら増えててご飯減らしたり運動したりしても全然落ちなくて…」
やっぱり翼の言うように歳のせいで…
だとしたらもう立ち直れそうにない…
「家の体重計…あ」
「? どうかしたの千鶴?」
「いや、その…なんだ。あの体重計なんだがな…壊れてたんだ」
「は?…はあ!?」
壊れてたって、え?
ええ!?
「すまない…俺は普段あまり使わないから壊れたのをそのままにしてたんだ。捨てようと思ってすっかり忘れていた」
「その…じゃあ体重増えてたのも…」
「ああ…そのせいだろう。…体重計、買って帰るか」
「うん…」
家に帰って、少々足が痛むが体重計に乗ると…
「や、痩せてる…」
若干、痩せすぎなくらいである。
「どうだ?痩せてはいるだろうが…」
「ええ…ちょっと痩せすぎたくら…」
ぐ~…
「…夕飯、何がいい?」
「えっと…お肉メインでお願い」
「了解」
そして夕食…
「いただきます♪」
炊きたて艶々の白米にわかめと豆腐の味噌汁、メインは豚肉のしょうが焼き。
ん~美味しい~♪
「…やっぱりお前はそうやって食べてる方が似合う」
「…むう」
思わず恥ずかしくなって箸が止まる。
それを見た千鶴はため息をついて箸を置いた。
「そうやって我慢してるからストレスも溜まるし、集中力も落ちて怪我なんてするんだぞ」
うっ…
「…ごめんなさい」
「まったくお前は…食べるということは大切なことなんだぞ。大事なエネルギー源だし、健康のためにもな。それに俺は…食べるお前を見るのが好きなんだ」
「もう///…じゃあ、これ食べたら千鶴も食べちゃうわ」
「馬鹿なこと言ってないで食え」
このあと、めちゃくちゃおかわりした。
千鶴が何かの間違いでULTRAMANコラボに混じったら
諸星「そこの君は女達よりは話が通じそうだな」
千鶴「…確かに、被害が出ているのだから殺処分するというのはよくある話だ」
諸星「なら…」
千鶴「だが、そちらの言い分に賛同は出来ないな」
諸星「なに?」
千鶴「私はイフロ星人をモフりたいからな(なにか原因があるかもしれない。それに私は…マリアの言うことを信じたい)」
マリア「逆ゥー!」