マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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うぉーうぉーうぉー(Unlimited beat並感)
今回オリジナル聖遺物なんてものを出してしまいました。
今回はXDにありそうな的な感じで書きました。



恋のキューピッド事件

「ただいま…って、どうしたマリア?」

 

「おかえりなさい千鶴…ひっく…」

 

 帰宅して早々、珍しい光景が目に入った。

 マリアが、酔っている。

 いや、それ自体はそこまで珍しくないのだが…ダウナーに酔っている。

 普段なら酒が入るとテンションが高くなってポンコツっぷりが増すというのに今日はなんだかテンション低めである。

 テーブルの上のビールやらなにやらの空き缶の数がいつもより多いのも気になる。

 

「どうしたマリア?何かあったか?」

 

「…千鶴は、私と結婚して後悔してない?」

 

 急にとんでもない質問が飛び出してきた。

 まさか、そんなことあるわけないだろう。

 

「俺はお前と結婚して後悔なんてしてないさ。なんだ?お前は俺と結婚したこと後悔してるのか?」

 

「そんなこと、ない…だけど、千鶴は私なんかといて良かったのかなって…」

 

 …急にどうしたんだマリアは。

 

「だって私、千鶴に薬盛って責任取らせたみたいなものだし、元テロリストだし…」

 

 なんだか、妙な罪悪感に駆られているな…

 まったく…

 

「そんなの関係ないさ…ほら、明日は任務だろう?酒はこれくらいにして風呂入って寝るぞ」

 

「うぅ…ん」

 

 ん?

 両手を俺に向かって突きだしている。

 

「ん!」

 

 そんなに、ん!言われてもな…

 しりとりしようにも続けられんぞ。

 

「お風呂、入れて?」

 

 …たまには誰かに甘えたくなる時もあるだろう。

 まったく…まったく。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、千鶴。昨日の夜のことなんだけど…」

 

 朝食のトーストを齧っているとマリアが沈んだ顔でそう話しかけてきた。

 たまにはトーストもいいな。

 

「本当に千鶴は私のこと好き?」

 

「当たり前だ。大体なんだ昨日から。いつもの自信はどうした」 

 

「時間が経って改めて考えたら私最低だなって昨日お酒飲んでて思って…」

 

「馬鹿なこと考えてないで早く飯を食え。今日は特別任務だ。余計なことを考えているとなにかミスをするかもしれないぞ」

 

「…うん」

 

 これで昨日の話は終わり。

 それにしても変なことを不安に思う奴だ。

 好きじゃなかったら結婚なんてしないだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋のキューピッドというと、他人の恋愛を後押しする人を言うが私達の場合はエルフナインがそれにあたる…あたってしまうのだろう。

 なぜそんな話をしているのかと言うと…現在とんでもない怪事件が発生しているからである。

 ことの始まりはほんの一時間ほど前…

 

 

 

 

 

 今日は少々特殊な任務でマリア、エルフナインと他の班の諜報員達で行われていた。

 その任務というのは…とある聖遺物の受領である。

 受領、移送そのものは終わり、今は本部の研究室に運び込まれているが。 

 珍しい、完全聖遺物。

 その名も「クピードーの弓」

 ローマ神話における愛の神クピードーの持っていた弓だとかなんとか。

 クピードーだとあまり馴染みはないが、クピードーを英語にするとキューピッドである。

 ほら途端に馴染み深い。

 

「つまりあれか?これで射られたら恋に落ちてしまうとかか?」

 

「さあ…けど、肝心の矢がないから大丈夫じゃない?」

 

 弓矢というものは両方がなければ意味がないものである。 

 この聖遺物は弓しかないので意味はないかもしれないが万が一に備えて管理しなければならない。

 特に聖遺物関係はいろんなところがうるさいので厳重にやらなければならない。

 エルフナインは移送用のアタッシュケースから弓を取り出し、保管用のケースへ移そうとするが…

 

「それにしても弓というと…こうやりたくなりますよね!」

 

 エルフナインが弓を引く真似をする。

 こらこら。

 そんなもので遊ぶんじゃありません。

 

「まあ気持ちは分かるけどね…」

 

「クリスさんの真似とか…チョセイ!チョセ…!?」

 

「エルフナインッ!?どうしたのッ!?」

 

「何かが、ボクの中に…」

 

 倒れたエルフナインに駆け寄るマリア。

 何か、嫌な予感がする…ッ!?

 

「マリアッ!離れろッ!!!」

 

 マリアの肩を引き、エルフナインから離すと桃色の光が空を翔けた。

 

「うぐっ…」

 

 その光は矢だった。

 そしてその矢は諜報員の一人に突き刺さり、体内へと入っていって…

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 傷はないが…聖遺物の力だ、なにが起こるか分かったものではない。

 

「ぐ…あ、あぁ…ろ、六堂班長…」

 

 意識はあるようだ。

 すぐに医務室へ連れて行って症状を調べて…

 急に意識がはっきりとした彼は私を見ると、私の腕をがっしりと掴んで離さない。

 一体どうしたと…

 

「六堂班長!俺は六堂班長のことが好きです!」

 

「は?」

 

 急にこいつは何を言い出して…って、うおっ!?

 こいつ、力が強い…

 完全に組伏せられてしまい、諜報員の顔が私に迫って…

 

「人の旦那になにをするッ!?」

 

「ぐはっ!?」

 

 マリアが飛び膝蹴りを諜報員に食らわせ、私は助かったが…

 やり過ぎだぞ。

 

「私の千鶴に手を出した罰よ。それよりも一体なにが起こって…」

 

「おい、あれを見ろ」

 

 エルフナインが弓を引き光の矢が放たれる。

 そして矢に当たってしまった者は…

 

「佐藤君!私はずっと君のことが好きだったんだ!」

 

「や、やめてください主任!僕には妻子が…うわぁぁぁ!!!」

 

「もう離さないわ!私と結婚して!」

 

「せ、先輩!女同士でそんな…」

 

「鞄!もうずっと離さないぞ!」

 

 何かが、起こっている。

 最後の奴にいたっては人じゃなくて鞄に抱きついている。

 さっきから観察しているとどうやらあの矢に撃たれた者は最初に見たものを好きになってしまうらしい。

 まるで、鳥のすりこみのようだ…

 

「とにかく一旦この場を離れるぞ!」

 

「え、ええ!」

 

 

 

 

 

 本部発令所。 

 平和な世の中になったここも忙しくもあるが、穏やかな雰囲気に包まれていた。

 

「あおいさん。聞きましたよ。合コン遂に150敗だって。この調子で200敗まで…」

 

「うるさいわね…はあ、恋のキューピッドでも現れないかしら」

 

 こんな風に、談笑が出来るくらいには。

 だが、この平和は一本の警報により脅かされてしまう。

 

「これは…六堂君からのエマージェンシーコールッ!?」

 

 友里が通信を繋ぐとモニターにSOUND ONLYと出て音声が流れ、発令所全体に緊張感が走る。

 

「こちら六堂です、緊急事態発生。収容中のクピードーの弓が暴走。場所は研究区画。諜報員、研究員…それと、エルフナインが被害を受けました。現状、無事なのは私とマリアのみです」

 

「エルフナインちゃんまで!?一体なにが起こっているのか説明出来ますか?」

 

「エルフナインが弓に操られているようです。あれの矢に刺さると…刺さると…」

 

 急に歯切れ悪くなる千鶴。

 ここまで明瞭に説明してきただけにその変化は気になる。

 

「刺さると…刺さった人はどうなるんですか?」

 

「刺さった人は…その、刺さったあとに最初に見たものを好きになってしまうようです」

 

 室内が「は?」という空気に包まれた。

 普段真面目で口数少ない(という印象の)人物から出たその言葉を理解するのに数十秒かかった。

 クピードーの弓。

 分かりやすく言えばキューピッドの弓。

 そういうこともあるのかもしれないと非日常、非常識に関わってきた人物達だ。無理矢理納得したのである。

 それにしても…好きになる程度ならそんな大したことではないのではと思うオペレーター一同。

 だが、次の通信で彼等は恐怖することとなる。

 

「だ、誰か助けて欲しいデースッ!?」

 

「切歌ちゃん!?どうしたの!?」

 

「食堂が!食堂がー!!!」

 

「切ちゃん?誰と話してるの?私以外の人とお話なんて駄目だよ切ちゃん」

 

「月読…なぜ私を見てくれないんだ!?私はこんなにも愛しているというのにッ!?」

 

「ご飯さん。その、わたし…ご飯さんのことが好きです!付き合ってください!」

 

「先輩もバカもどうしちまったんだぁ!?おい!エルフナインの動きを何とかして止めるぞッ!」

 

「そんなこと言われたって調に抱きつかれてるデスし調に抱きつく翼さんの分の重さもあって無理デスよ!」

 

「クリスちゃんのおっぱいクリスちゃんのおっぱいクリスちゃんのおっぱい…」

 

「な、なんだお前は…こっちに来るなぁ!?」

 

 他にも遠くだが「炊飯器ちゃーん!好きだー!」だとか、「レンジ…電子レンジ君…(うっとり)」なんて声がたくさん聞こえてくる。

 これは予想以上にまずいかもしれない…

 

 

 

 

 

 

 私とマリアは倉庫に身を隠していた。

 あのあと、少々手荒だがエルフナインを正気に戻し、弓を奪還しようと戦いを挑んだのだが撤退せざるを得なかった。

 

「どうするの?エルフナインが研究室から出てしまった今、このままじゃみんなあの矢の餌食に…」

 

「ああ…だが、さっきやりあって分かったろう?今のエルフナインはあの弓の影響か身体能力にブーストがかかっている。それも司令並だ」

 

 そう。

 あの司令並の身体能力を今のエルフナインは有している。

 幸いなことにその身体能力を持って襲いかかるなんてことはないが、実力を行使しての弓の奪還は厳しい。

 そして恐ろしいことだが…彼女がその司令並の身体能力を使う度に彼女の体をバックファイアが襲うのだ。

 彼女の体で司令並の身体能力を使うのだ、当然の代償と言える。

 そのため、このまま彼女の体が操られ続ければ彼女の体にダメージが。

 それも、かなりの。

 だからさっきの戦いも戦闘を長引かせてはならないと撤退したのだ。

 早く彼女からあの弓を奪還しなければならない。

 しかしそれは難しい…

 だが、

 

「何か、策があるの?」

 

「ああ。Let them fight だ」

 

「Let them fight って…千鶴、まさか」

 

 大体察しがついたようだ。

 そう、私の作戦は…

 

 

 

 

 

 

「司令、聞こえますか?六堂です」

 

 友里の報告を受け、発令所で状況の把握、区画の封鎖等を指示していると千鶴から連絡が入った。

 

「俺だ。何かあったか」

 

「はい。先程、エルフナインから弓を奪還しようとしたのですが抵抗されました。そして、その時分かったのですが今の彼女は司令並の身体能力を有しています。恐らく、聖遺物の影響でしょうが…このまま、彼女が無理矢理その力を行使すれば彼女の体は…」

 

「…なるほど、分かった。俺が出よう」

 

 通信を切り、エルフナイン君の現在位置を確認してから発令所を出る。

 俺並の身体能力、そして弓の能力。

 相手にとって、不足はない───

 だが、彼女のためにも一瞬でケリをつけなければならない。

 まったく…難しいことを頼んでくる親戚兼弟子だ。

 

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なの?もし仮に司令が撃たれたら…」

 

 心配そうな顔を向けるマリア。

 まさか、私が他になにも考えていないとでも?

 

「司令はあくまでも囮だ。気を引いてくれればいい。機を見て、私が弓を奪う。まあ、司令が映画みたいに華麗に弓を奪ってくれればそれが一番なんだが…」

 

 保険として、私が詰めればそれでいい。

 確実性を上げるためだ。

 

「千鶴。仮にもあなたの上司で親戚でお師匠さんでしょう。利用するみたいじゃない。そういうのは良くないわ」

 

「立ってるものは親でも使えってな。それにこれがS.O.N.G.だけじゃなく民間にまで被害が出れば責任を問われるのは司令だ。だが、S.O.N.G.内で事を終息させればある程度は隠蔽出来る。それに、司令だって早期解決を目指している。私が言わなくても、いずれ出てきていたはずだ」

 

 ここは心を鬼にして…

 最悪の場合は私が…

 

 

 

 

 

 

 

 封鎖区画内に侵入し、食堂方面に向かって歩いていると…いた。

 

「エルフナイン君を返してもらおうか」

 

「…嫌だなぁ。邪魔しないでよ。僕が何か悪いことでもしてる?いい具合にカップリングして愛と幸せを提供しているだけなのにさ」

 

「そんな押し売りされた幸せなど、本当の愛でも幸せでもないッ!はあッ!!!」

 

 床を思い切り蹴り、一瞬で距離を詰めて拳を突きだし…

 

「ボクを殴るんですか?」

 

「ッ!?」

 

「引っかかった。くらえ」

 

 至近距離で弓を引くエルフナイン。いや、クピードー。

 普通なら回避出来ないような至近距離の矢を体を捻って回避する。

 まさに、超人───

 

「今の避けるとは…すごいなぁ。けど、これはどうかな」

 

 再び弓を引くクピードー。

 だが、クピードーは突然俺に背を向け…

 

「な、何かこっちから大きな音が聞こえたはずデス…」

 

「切ちゃん切ちゃん…」

 

「月読月読…」

 

「もっと静かに歩け馬鹿!もしエルフナインにバレたら…って言ってるそばかよッ!?」

 

「お前達ッ!!!」

 

 しかし、既に遅い。

 矢は放たれ真っ直ぐに進み…

 

「デェス!?」

 

「切歌君ッ!」

 

 突き刺さった矢は切歌君の体に侵入し…

 

「ん…はぁぁぁ!!!翼さん!私と結婚してほしいデス!」

 

「ええい離れろ!私が用があるのは月読だ!」

 

「切ちゃん駄目!そんな防人なんかじゃなくて私と!」

 

「ああもう!お前らいい加減にしろッ!」

 

 突然始まる三角関係。

 クリス君が引き剥がそうとするが強力な磁石のように離れない。

 奴はこんなことをしてなにを…

 

「純愛もいいけど憎愛もいいよねぇ。ね?好きでしょ?昔っから人間はこういう話大好きだもんね。むしろ憎愛の方が好きなくらい。そうでしょ?」

 

「お前は、なにを言って…」

 

「だからぁ…そんな人間のためにエンターテイメントを提供するのが僕なのさ」

 

「娯楽のための聖遺物、だと…」

 

「そ。だから女っ気なさそうな君にも娯楽を提供しよう。最上級の…ねッ!」

 

 そして再びクピードーは矢をつがえ、次なる狙いは…

 

「クリス君ッ!!!」

 

「しまっ…」

 

 もう遅い。

 クリス君までクピードーの術中に…

 

「さあ、あの男を見ろッ!!!」

 

「っ…あ、ああ…」

 

 クリス君は、俺を見て…

 頬を紅潮させたクリス君がゆっくりと歩み寄って来る。

 

「おっさん…あたし、あたし…!」

 

「待ってくれクリス君…君は奴の術に嵌まって…」

 

「そんなの関係ない!あたしは、あの時からずっと…」

 

 クリス君が背中に手を回し、体が密着して…

 女性らしい、柔らかい肉体と熱が服越しに感じられる。

 彼女から発せられる芳香が鼻腔をくすぐる。

 これは、いけない…!

 

「ふふふ…楽しんでるねぇ。そこの君達も出てきて見守ろうじゃないか。この愛の行く末を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ…司令の優しさをつけ狙ったか…!」

 

 天井裏から様子を見ていたがああなってしまっては司令は振り払えないだろう。

 

「そうね…クリスは前から司令じゃないかって噂だったもの」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、そうよ。知らなかったの?」

 

 知らなかった。

 そういう話題はまったく興味がなかったからな…

 うん、しょうがない。

 いや、そもそもあの弓のせいだろう。別に噂とか関係ないはず…ないよな?

 

「ふふふ…楽しんでるねぇ。そこの君達も出てきて見守ろうじゃないか。この愛の行く末を」

 

 !?

 バレていたのか…

 バレていたのなら仕方ない。 

 天井裏から降りて、クピードーと対峙する。

 

「見てよ、あれ。一世一代の告白の瞬間だよ。ロマンチックじゃないか」

 

「何がロマンチックだ。矢の能力で言わせているだけだろう!」

 

 クピードーの背後では何故か司令は雪音に押し倒されている。

 司令を押し倒すとは…雪音もなかなかやるな…

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

 

「それもそうだな…」

 

 しかしこうして睨み合うが…

 近くでは昼ドラしている馬鹿三人。

 目の前のクピードーとその背後で籠絡し、された雪音と司令。

 そしてこの狭い通路…

 狭いところで戦うのは慣れているが、どうにも障害物が多い。

 人質を取られてしまいやすい状況…いや、既に人質にされているのか。

 そもそもエルフナインの体が人質だ。

 くそ、なかなかどうして難しい。

 

「そういえば…君達は夫婦なんだね。この体の記憶を覗いて見たんだけど」

 

「…それがどうした」

 

「いやぁ、君達って()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 こいつ、何を言って…

 

「奥さんの方はこの体の子が作った薬を盛ってそこの彼を落として手に入れた。違うかい?」

 

「そ、それは…」 

 

「いやぁひどい女だ…彼の責任感を利用して手に入れた愛なんて真実の愛じゃなかろうに。僕は男も女もいける口でね。そこの君は僕好みのイケメンだ。僕が真実の愛を教えてあげよう」

 

 さっきから好き勝手言いやがって…

 大体お前だって弓で好き放題やってるだろう!

 

「千鶴…私…」

 

「奴の戯れ言に耳を貸すな」

 

 マリアの精神を揺さぶるのが目的か?

 なんにせよ…

 

「マリア、ここは私がやる。お前は、潰す…!」

 

「おぉ怖い怖い。けど、怒った顔もまた素敵。惚れ惚れしちゃう…よっ!」

 

 放たれた矢が戦いの合図となった。

 懐から取り出したサバイバルナイフを逆手に持ち矢を払い、そのままクピードーに向け駆け出す。

 

「せやぁぁぁ!!!」

 

 壁を蹴り、勢いをつけてクピードーに斬りかかるが斬れたのは白衣の袖のみ。

 避けられたか…

 

「ッ!?き、君ッ!?本気で斬るつもりだったのかい!?この体ごと!?」

 

「ああ。最悪の事態となる前に止める。…私は、司令ほど甘くはないぞ」

 

 放たれた矢を避けながら間合いを詰め、奴の懐に入り鳩尾に掌底を捩じ込む。

 女性がしてはいけない顔をさせてしまうが、仕方ない。

 

「千鶴ッ!」

 

「悪いとは思っている。が、これ以上面倒を起こされてはたまらないからな」

 

 手早く済ませるためにも少しばかりは仕方ない。

 それにしても今ので沈まないとはなかなかタフな奴のようだ。

 

「少し暴力的に過ぎるね…僕好みになるように射止めて調教してあげないと!」

 

「やれるものならやって…」

 

 唐突にざっざっざっという足音が聞こえてきた。

 それも大量に。

 そして、現れる諜報員達。だが、様子がおかしい。

 これは…

 

「これ、僕の親衛隊。囲まれちゃったねぇ。さあどうする?言うこと聞かないと君の奥さん、ひどい目に合わせるよ」

 

 前も後ろもこいつのファンってことか…

 マリアも仲間には手荒な真似が出来ず、取り押さえられてしまった。丁寧にペンダントまで取り上げるか…

 

「さあ、どうする?」

 

「千鶴ッ!私のことは気にせずエルフナインをッ!」

 

 どうする…

 私は…

 俺は…

 

「マリアには、手を出さないんだな?」

 

「もちろん。君が約束を守るならね」

 

「ダメ!千鶴!」

 

 …すまない、マリア。

 こうするしかない。

 サバイバルナイフを床に落として、両手を広げる。

 

「さあ、撃て」

 

「いいねぇ…念のため、取り押さえておくよ」

 

 クピードーが二人の諜報員に指示し、私の腕を掴む。

 万力のような力強さ…

 特に屈強な奴を選んだらしい。

 

「千鶴…やめて…」

 

 マリア…

 

「動かないでよ~。あと、ちゃんと僕のことを見ているんだよ~。はい、それじゃあドーン!」

 

 矢が放たれる。

 真っ直ぐと突き進む矢は俺の胸に刺さって…

 

 

 

「千鶴ッ!?」

 

「刺さった!刺さったぞ!しっかり僕を見て…刺さったぁ!」

 

 そんな…千鶴…

 

「君達はいいよ。もう彼を離して。それじゃあ千鶴…上、脱いで見せてよ。なかなかいい体してそうだし」

 

「なッ!?」

 

 千鶴はジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイも捨てやがてシャツまで…

 

「お~眼福眼福!ミケランジェロの彫刻のようだよ…それじゃあこっちに来て僕を抱きしめてくれよ!」

 

 そう言いながらクピードーは両腕を広げて、抱きしめろとジェスチャーする。

 いや…

 やめて…

 私の願いとは裏腹に千鶴はクピードーに歩み寄っていき抱きしめようとして…

 嫌だ、見たくないと目を伏せた。

 すると…

 

「ぐふっ!?な、なんで…」

 

「悪いな、サービスはここまでだ」

 

 

 

 

 

 

「なんで…なんでなんでなんで!なんで意識を保っていられる!?確かに君は矢に撃たれて、僕を見ていたはずだろう!?」

 

 おうおう。

 頬を鷲掴みにされながらよく喋る。

 

「悪いな…この目には一人の女しか写っていなくてな。端からお前なんか見ちゃいない」

 

「なっ!?そんな…そんなことが…もういいッ!やれッ!」

 

 クピードーが親衛隊員達に指示すると隊員達が一斉に襲いかかってきた。

 しょうがない。

 やってやる。

 まずは手前の奴等を蹴り飛ばし、背後から迫る奴には肘打ちで弾き飛ばす。

 正拳突き、掌底、背負い投げ…

 とにかく技を繰り出す。

 だいぶ数は減ったな…

 

「お前さっきマリアに薬盛って落としたとかなんとか言ってたな。悪いが私はな…とっくの昔にマリアに落とされてたんだ。薬盛ろうが盛られまいが遅かれ早かれ結婚していたんだよッ!」

 

 言い終えると同時にクピードーの弓を蹴り上げ、落下してきたところを手刀で両断した。

 

「な、なんて…や、つ…」

 

 クピードーは倒れた。  

 これで、全てが終わっていればいいのだが…

 

「あれ、アタシはなんで翼さんに抱きついてるデス?」

 

「私は何故月読に?」

 

「切ちゃん、切ちゃん」

 

「ん?あれ、あたしなにして…お、おっさん!?ああああ…あたしなにして!?」

 

「あ、いや、その…なんだ…クリス君落ち着いて…」

 

「いいから忘れろ!いいな!絶対だからな!」

 

 どうやら治ったらしい。

 一部治っていないような気がするが他の面子も治ったようだし、無事に解決したと見ていいだろう。

 

「こちら六堂。状況終了…」

 

 発令所に通信を入れてあとは事後処理。

 これが一番面倒なんだよな…

 

「みんな~どこ~…あ、どうしたのみんなで集まって。って六堂さん!?なんで上裸なんですかッ!?」

 

「立花…上裸だけで喚くな。プールの授業でもそんなに喚いてたのかお前は」

 

 まったく全裸じゃないんだから別にいいだろうっ…て、背広をかけられた。

 

「早く着なさい。人によってはセクハラに当たるかもしれないのよ。それに…他の人には見せたくないし…」

 

 最後の方はよく聞こえなかったが、まあ人に裸を見せる趣味はないのでマリアから手渡されたシャツと背広に袖を通す。

 とりあえず、この件は一件落着ということにしたいが…

 

「救護班。エルフナインとその他大勢を頼む。少々派手にやったからな」

 

「了解しました」

 

 さて…あとは報告書でも書くか。

 

「あぁ六堂。すまないな。結局お前に全部やらせてしまった…」

 

「いえ、問題ありません。風鳴と六堂はこういう関係じゃないですか…まあ離縁した私が言えたことじゃありませんが。それよりも司令、女一人に迫られたくらいでダウンしないでください」

 

「うっ…それは、まあ…善処する」

 

 それでは失礼しますとこの場を離れようとすると再び司令から呼び止められた。

 今度はなんだ…?

 

「報告書、頼むぞ。これのな」

 

 そう言って司令は真っ二つとなったクピードーの弓を持ち上げて見せた。

 …了解しました。

 大丈夫だ、報告書作りには慣れている。

 それに、始末書じゃないだけマシだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告書の作成、提出を終えて家に帰る頃には日を跨いでいた。

 完全聖遺物であるクピードーの弓の破損…

 仕方ないだろう。

 あのままあれを外に放っては大変なことになっていただろうしな。

 あんな厄介な物、使えるような状態にある方が後々めんどくさいことになるだろう。

 俺は事態の収束だけでなく、未来の平和も守ったのだ。

 うん、そういうことにしておこう。

 それにしても何故クピードーの弓は起動したのだろうか?

 聖遺物の起動には歌が必要だというのに、あれが起動した時は歌なんて誰も歌っていなかった。

 一体何故…

 やめよう。  

 俺なんかが考えても答えには辿り着かないだろうし、こういうのを考えるのは学者の仕事だ。

 俺はなにも気にせずあとは眠りにつくだけ…

 考えて脳が活性化したら眠れなくなってしまう。

 さて横になって寝よう…すy…

 

「ねえ、千鶴」

 

「…なんだ?」

  

 もう眠りに就こうとしていたところ、隣のマリアが俺の名前を呼んだ。

 

「あの時、言っていたことって本当?」

 

「あの時、言っていたこと?」

 

「あれよ、あの…クピードーの弓を壊す前に言ってた」

 

 弓を壊す前…

 弓を壊す前…

 えーっと、俺はなんと言ったかな…

 

『お前さっきマリアに薬盛って落としたとかなんとか言ってたな。悪いが私はな…とっくの昔にマリアに落とされてたんだ。薬盛ろうが盛られまいが遅かれ早かれ結婚していたんだよッ!』

 

 思い出した。

 

「ねえ、あれって…本当?」

 

 それは、まあ…

 うん…

 ああ…

 

「本当じゃなきゃ、咄嗟にあんな言葉は出んよ…」

 

「そう。ふふっ」

 

 マリアは体を起こすと俺に覆い被さってきて…

 

「千鶴。今日は少し夜更かししない?」

 

「…少し、だぞ」

 

 そう言うとマリアは俺の体に乗ってキスしてきて…

 まあ、あとは…なにも言わん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう!なんで失敗するの!?」

 

「だからやめとけって言ったのに」

 

 謎の空間。

 二人の女が一部始終を見終え、一人は怒り、一人は呆れていた。

 

「大体、一回殺されたくらいで復讐しようだなんて…神のくせに器が小さい。同じ神として恥ずかしいわ~」

 

「一回も殺されたのよ!おかげであいつは甦ったの!ああもう!くそ!結婚までして幸せになりやがって…こうなったら呪ってやる…」

 

「うーわ器ちっさ」

 

「ふん!分かったわよ!彼にはもう手を出さないわよ!…精々、幸せになるといいわ。私を殺して甦ったんだからすぐにこっちに来たら許さないわよ…」

 

 千鶴は 女神の加護 を受けた。




キャロル「寝てた」



マリア(よかった…)
ここ最近で一番良かった模様。
(なにが、とは言わない)

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