マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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マッテローヨ
…マッテローヨ!!!


月読調のお料理教室

 S.O.N.G. 食堂

 

「おべんと、おべんとデース!」

 

 切ちゃんが楽しそうにお弁当箱を開ける。

 おかずは卵焼きやタコさんウインナーにプチトマトなど。結婚してから本格的に料理をするようになった切ちゃん手製のお弁当。

 いつもおかずの交換をしているので切ちゃんの料理の腕が上達したことはよく知っている。

 それに比べて私は…。

 

「調のごま和えはいつも変わらず美味しいデス」

 

「…ありがとう、切ちゃん」

 

「どうかしたデスか調?具合でも悪いデスか?」

 

「大丈夫だよ切ちゃん」

 

 それでも心配する切ちゃんを宥めているとマリアがやって来た。

 食事時はいつも楽しそうなマリアだけど、今日は何時にも増して楽しそう。

 理由を聞くと、今日は六堂さんがお弁当を作ったからだとか。

 

「調も食べてみる?美味しいから♪」

 

 マリアに薦められて、唐揚げをひとつ頂いて口に運ぶ。

 口に入れた瞬間、身体に電気が走った。

 

 

 

 

 

 定時になり、事務室を出るとそこには…。

 

「じー」

 

 月読がいた。

 そして、何か言いたげな目で私を見つめてくる。

 

「…なんだ」

 

 正直、私は月読調という人間をよく分かっていない。

 どんな印象かと問われれば端的に「不思議ちゃん」と答えるだろう。

 マリアのことで関わりは増えたが、それ以外では全く関わらないのだ。そんな彼女が私になんの用だというのだろう…?

 

「私に…私に料理を教えてください」

 

 

 

 

 

 その後、なし崩し的に月読が家に着いてきた。

 今日はマリアは取材だかで帰りは8時頃になるので月読と二人きりである。

 

『私もいますよ~』

 

 …セレナもいるので三人だ。

 監視でもしようというのか?

 とりあえず、テーブルに座らせ茶を出す。

 

「それで、なんたって私に料理を教えてなんて言い出したんだ?」

 

「お昼にマリアからお弁当の唐揚げを貰って食べたら美味しくて…。私、料理の腕を上げたいんです!」

 

 料理の腕を上げたい…。

 前にマリアが月読はおさんどん担当だから料理上手だと言っていたが…。

 まあなんにせよ、向上心があるのはいいことだ。

 しかし私に教わろうとは…。

 

「料理を教わりたいなら料理教室なりなんなりに通ったらどうだ?こんな男に教わるより確実だと思うぞ」

 

「そういうのはお金かかるし…」

 

 そんなの気にしなくていいぐらい金持ってるだろ…。

 

「…今日、あの唐揚げを食べた時に私にはない物を感じたんです。それが何か分かれば、また一皮剥けるかなって…」

 

「…料理の腕を上げたいのは分かった。なら聞くが、何故腕を上げたい。既に料理上手と言われているんだろう?これからも続けていけば自然と腕は上がるものだ。他人に教わらなくてもいいだろう」

 

 私がそういうと月読は俯き、もじもじとして…顔を赤らめた。

 妙な色っぽさがあるが…。

 

「実は…料理を食べさせてあげたい人がいて…」 

 

「おお!やったじゃないか、これで地獄姉妹から解放だな。月読は若いんだからあんなのと一緒に病まなくたっていいと前々から思っていたんだ」

 

 これで地獄四姉妹も三姉妹か。

 この調子であのグループは解散してもらいたい。

 

「それより!料理、教えてくれるんですか?」

 

 恥ずかしさを振り切るように身を乗り出し迫ってきた。

 …ふむ。

 

「…まあ、俺流だがな」

 

 こうして、料理教室がスタートするに至った。

 

 

 

 

 

「それで、作りたいものとかは決まってるのか?」

 

「カツを使ったもの…トンカツ定食みたいなのでもいいですけどカツ丼とか」

 

 なるほど、カツか…。

 相手がどんな人か分からないが、何か験を担ぎたいのだろう。

 大会を控えてるスポーツマンとかだろうか?

 シーズン的に受験生とか?

 それはさておき。

 

「それなら簡単だ」

 

「本当ですか!」

 

「ああ、まずトンカツを買ってきてだな」

 

「そういうことじゃないんです」

 

 むう。

 

「何故だ。揚げ物は面倒だから買った方が楽だぞ」

 

「あの、料理教えるって言っておいて、料理買えっていうのは違います」

 

 …前に俺が見た料理番組の先生も言っていたのだが駄目なのか?料理家が言うんだから間違いはないはず…。

 

「一から、手作りしたいんです」

 

「…だがなぁ、揚げ物は面倒だぞ」

 

「それは、まあ。私も揚げ物はスーパーのお惣菜コーナーで買いますし…」

 

 ほらみろ。

 

「けど!作ってあげたいんです!自分の手で!」

 

 …ふむ。

 

「よし、今日の晩飯はコロッケとする」

 

「…?」

 

「材料がないからトンカツではないが揚げ物の練習になる。月読も手伝え」

 

「わ、分かりました」

 

 月読は思い知ることとなる。

 揚げ物の辛さを…。

 

 

 

 月読は作った。

 コロッケを。

 三人分のコロッケを。

 明日の朝と弁当に入れる分も含めて作った。

 ジャガイモの皮を剥き、茹で。

 玉ねぎをみじん切りにしてあめ色に炒め、ひき肉と合わせ。

 茹でたジャガイモとそれらを混ぜ合わせ、小判型に形成し170度の油で揚げる。

 口で言うだけなら簡単だ。

 だが、手を動かせば分かる手間。

 失われる時間。

 そして、なにより…。

 

「ただいま…って、なんで調が家に?」

 

「六堂さんから料理を教わってたの。ほら、このコロッケ私が作ったんだよ」

 

「いい匂いがすると思ったらコロッケだったのね。ちょっと待ってて。手、洗ったりしてくるから」

 

 数分後…。

 

「いただきます。じゃあまず調が作ったコロッケから…。うん!美味しいわ、箸が止まらないって感じね」

 

 マリアはみるみるコロッケを食し、完食。

 その様を見た月読は…。

 

「…コロッケ、私が作ったコロッケが…」

 

 涙を流した。

 我が子も同然の手塩をかけて作ったコロッケが一瞬で食い尽くされたことに月読はショックを受けた。

 

「調ッ!?どうしたの?具合でも悪い?」

 

「あんなに手間暇かけて作ったコロッケが…うっ、うぅ…」

 

「コロッケ…?」

 

 …そろそろ口を挟むか。

 

「月読」

 

 呼び掛けると、力無く首を動かし俺を見る月読。

 …絶望しきっている。

 ここで折れればそれまでだぞ。

 

「分かったか?揚げ物は手間の割には一瞬で食されてしまうものだ。作った者の労力など考える暇もなくな。…それでもお前は作るか?」

 

 俯く月読。

 悩み、苦しみ、悲しみ…。

 彼女は、顔を上げた。

 涙を振り切ってみせた。

 

「私…作ります!私の料理を食べさせてあげたい人のために!だから見ててください!私の…お料理!」

 

「よく言った月読…!」

 

「え、なに?どういうこと?誰か説明して…」

 

『かくかくしかじかなんだよマリア姉さん』

 

 

 

 

 食後。

 洗い物をしていると月読が手伝うと言い出したので洗った皿を拭くのを頼んだ。

 

「そういえば、今日のマリアのお弁当に唐揚げ入ってましたけど朝作ったんですか?」

 

「…まあ、な。コロッケよりは断然楽だし問題ない」

 

「でも朝からあんなに作れるなんてすごいです。どうしてですか?」

 

 …それは。

 

「…惚気になるが、聞くか?」

 

「…なんとなく、分かった気がします。ごちそうさまです」

 

 いえいえ。

 まあ、伝えたいことは伝えたし月読も分かったようなのでいいだろう。

 

『ヒューヒューですよ~。熱い熱い!ヒューヒュー!』

 

「お前は静かにしていろ」

 

「?」

 

 全くセレナは人を茶化して…。

 

「そうしているとなんだか二人は兄妹みたいね」

 

 ダイニングカウンターから身を乗り出したマリアがそう言った。

 変な冗談は止めてもらいたい。

 

「これ以上変な妹を増やさないでくれ頼むから…」

 

『変な妹とはなんですか変な妹とは!』

 

 こいつ…普段は人がいない時しか話しかけないのに今日はやけに話しかけてくる…!

 

「こら。鯉音のことそんな悪く言うんじゃないの」

 

「いや、あいつは…って、お前いま鯉音って呼び捨てにしたか?」

 

「ええ。この間たまたま会って和解して仲良くなったわ。おかげで今日もほら、千鶴の昔の写真がこんなに」

 

 スマホの画面を見せられると某SNSアプリで…。

 

「マリア姉様へ!今日は高校の体育祭の時の写真がにゅうsy…出てきました!しかもたくさんです!今から送りますね!畄⌒ヾ(・ω-。)♪」

 

 な、なんだこれは…。

 見覚えのない写真だが…鯉音これ入手って言いかけてるよな。なにしたんだあいつ…。

 というかマリア姉様って…。

 

「前々から思ってたけど、千鶴には血の繋がった家族がいるんだから、家族の繋がりは大事にしなきゃ」

 

 それはそうかもしれないが…。

 いや、とりあえず。

 

「マリア。月読の前だ、この話は後に」

 

 月読を盾にこの話は逃げ切った。

 …と、もうこんな時間か。

 

「遅いから送っていくぞ」 

 

「そうね、私もついていくわ」

 

「ありがとうございます」

 

「千鶴に敬語は使わなくていいわよ。私の夫なら調の義理の兄みたいなものなんだから」

 

 勝手に決めないでいただけないだろうか。

 まあ、別に構いはしないが。

 

「それもそうかもね。それじゃあ、ありがとう…お義兄ちゃん」

 

 ッ!?

 

「なに?照れてるの?」

 

「いや、可愛かった頃の鯉音を思い出して…」

 

 少々、目頭が熱くなってきた…。

 早く月読を送っていこう。

 

『おかしいな~私が千鶴義兄さんって呼んだ時はそうはならなかったのにおかしいな~』

 

「魔力炉オン」

 

『嘘です!冗談です!だから止めてください!』

 

 

 

 

 数日後。

 六班事務室。

 

「たたた、大変デース!!!調にこ、恋人が出来たデース!!!」

 

「知ってる」

 

「え?切歌は知らなかったの?」

 

「知ってたデスか!?というかなんでアタシより先に六堂さんが知ってるデス!?」

 

 なぜってそれは本人が言ってたから。

 むしろ暁がついさっきまで知らなかったことのほうが個人的には驚きだが…。

 

「まあ、いいことじゃない。調が選んだ人なら大丈夫でしょう」

 

 マリアの言葉には同意だな。

 あの慎重派の月読が付き合っても大丈夫だと決めたなら大丈夫だろう。

 

「それがそうも言ってられないのデス…」

 

 そう言いながらスマホを見せつける暁。

 月読から送られてきたであろうその画像は…。

 

「こ、これはッ!?」

 

「……なるほど。暁が危惧する理由は分かった」

 

「デース…。そこでお願いなのデスが、二人に協力してほしいのデス。本当に…本当に調の恋人に相応しいかどうか一緒に確かめてほしいのデスッ!!!」

 

 果たして、調の恋人とは一体どのような人物なのか!?

 切歌の不安は的中するのか!?

 それは、次回のお話…。




次回!マリアさんは結婚したい!

調「この人がお付き合いさせてもらっている人…」

マリア「あなたに本当に調を幸せにする覚悟があるか…見せてもらうッ!!!」

切歌「戻ってくるデス!調!調ぇぇぇぇ!!!」

セレナ『引き裂かれる二人…月と太陽、つがわれていた二人の絆が試される…』

千鶴「いや、そんな重苦しい話ではないぞ」

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