マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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妊娠編?と言うとあれですがまあマリア妊娠後の千鶴メイン。
といっても仕事疲れた~みたいな話ですが。
そのうち育児本読んで父親教室みたいなのに行く千鶴さんの話をあげるやも。

あ、そういえば私の連載中の作品「仮面ライダーツルギ」なんですけどね?(唐突)
現在オリジナルライダー募集中なので詳しくはツルギ本編と活動報告読んでください。
皆さんの考案したオリジナルライダー待ってます!(ダイマ)


仕事 家庭

 暗く、細い階段を登っていく。

 傾斜は急で歩き難く、歩く度に響く軋む音が階段を踏み抜いてしまうんじゃないかと不安にさせる。

 が、これまでも大丈夫だったので大丈夫だろう。

 階段を上り終えると左右へ通じる廊下。

 これまた床が抜けてしまいそうで、あちこちに蜘蛛の巣が張っている。

 右へと曲がり、突き当たりの部屋のドアノブを回す。

 …相変わらず、建付けが悪い。

 

「時間通りだね」

 

 暗い部屋の奥から聞こえる女の声。

 二十年前から変わらない声。

 そして、二十年前から変わらない姿をした女…。

 古びた六畳一間には似合わない美女。

 腰まで伸ばした黒髪には白髪の一本もない。

 そんな女の足下に向かって黒いバッグを投げて壁に背をもたれた。

 

「頼まれていたものです」

 

 女はしゃがんでバッグを乱暴に開け、中のケースを開く。中には十本のメスが入っている。

 そのうちの一本を手に取り、押し入れを開けると、その中に入っていた()()()()の右腕を切り裂いた。

 

「ふむ…相変わらずいい腕だ。私は研ぐのは苦手だからね、こうして師匠を越えてくれて嬉しいよ」

 

「…それじゃあ、駄賃と次回分を頂きましょうか」

 

「相変わらず無愛想だねぇ。師匠でもあり、同じ血族である私ともう少し会話を楽しもうとは思わない?」

 

「…同じ血族だからこそ、貴女と長時間は関わりたくない」

 

 同じ血族。

 つまりは六堂の人間。

 六堂美鶴。

 俺の叔母にあたり、先代の六堂家当主候補。

 彼女もまた、家を出奔した身である。彼女の場合は俺とは理由がまったく異なるが…。

 

「ま、いいけどさ。ひとまず結婚おめでとう。嫁さんも妊娠したんだって?幸せ真っ盛りって感じ?」

 

「…貴女には教えていなかったはずですが?」

 

「私ぐらいになると視えちゃうものなんだよ。そういう君だって、視えてるんだろう?人とは違うなにかを」

 

「…ええ、貴女の身体に纏わりつく怨念が」

 

 これまで、彼女に死体を弄ばれたであろう者達の怨念が見えた。これだけの数がつけば常人なら影響がありそうなものをまるで意にもしていない。

 それらすらも背負って立っているようにすら見えた。

 

「はは、君もそこまできたか。目が変われば次はいよいよ衝動だ。強い、血と()に刻まれた殺人衝動が。…なあ、そろそろ私もどうにかなってしまいそうだ。死体だけでは物足りない。生きた、血が見たい…!」

 

 その場から彼女が消えた。

 そう錯覚してしまうほどの速さ。

 だが、俺は捉えていた。

 顔面に目掛けて突き出されたメスを袖に忍ばせていたサバイバルナイフで弾く。

 宙を舞い、畳にメスが突き刺さった。

 …折角研いだのに、あれはもう使い物にならない。

 

「ッ…!…また?」

 

 さっきまでとは違う気弱な声で問われた。

 そして、身体の力が一瞬で脱力し、俺に向かって倒れ込んだ。

 

「はは…前よりも、堪えがきかなくなっているんだ…。人を斬りたくて斬りたくて堪らない…」

 

「美鶴さん…」 

 

「…君もいずれこうなる。だが、君は私よりも我慢強い…。きっと、私のようにはならないよ…」

 

 …美鶴さん。

 容姿や技のキレは衰えていない。

 だが、精神がもう、もたなくなってきている。

 

「はあ…君は父親になるんだろう?ああ…時間の流れは早いね…二十年より前に、母親に殺されそうになっていた少年が人の親になるのか…」

 

 …。

 

「ええ、美鶴さん。貴女に助けてもらった命が繋がれたんだ。生まれたら、貴女に子供の顔を見せるよ」

 

「ああ…私がついぞ手に入れることが出来なかったものを君は手にするんだね。…私も、子が為せる身体であったなら、或いは…」

 

 

 

 美鶴さんを寝かしつけて、彼女の住まいを離れた。

 あのボロアパートは丸々彼女のもので彼女と死体とたまに患者が住んでいる。

 …俺も、もしかしたら美鶴さんのようになってしまうのかもしれない。

 そうなったら、俺は…マリアとは…。

 

 

 

 

 

 

 午後。

 犬飼に本部の停泊している港の喫煙所に連れ出された。

 まったく何の用でこんなところに…。

 寒いし、副流煙とか吸いたくないんだが…。

 人を呼び出しておいて、呑気に紫煙を燻らせるとは…煙草の匂いがスーツについてしまう。

 

「それで、何の用だ」

 

「…今度、調査部長に就く奴のことは知っているか?」

 

「…国連からの出向だったな」

 

「あぁ…二課どころかS.O.N.G. にすらこれまで所属してこなかったような奴だ。たく、S.O.N.G. になって組織がでかくなってからどうにも色々と気に食わねぇ」

 

 気に食わない。

 そう言うだけならこいつはいつも色々と気に食わないことだらけなのだが、毎度のように何故気に食わないのかを言わない。

 ま、どうせ現場も知らないような奴が上に立つのが気に入らないとかそんな理由だろう。

 だが、一応気に食わない理由だけでも聞いてやるか。

 

「何が気に食わない」

 

「現場も知らないような奴が上に立つのが気に入らねぇ」

 

 ほらやっぱり。

 

「それと…妙な噂がありやがる」

 

「妙な噂?」

 

「ああ。そいつ、一時期パヴァリアとの繋がりが噂された野郎なんだとよ」

 

「噂、か。しかしこうしてS.O.N.G. の調査部長に任命されたんだ。根も葉もなかったんだろう」

 

「火のないところに煙は立たねえ。何を思ったのか、司令はそいつのことをいたく気に入ったらしいんだとよ。論客として素晴らしいとな」

 

 煙草を灰皿に押し付け、次の一本へ手をつける犬飼。

 …司令、弦十郎さんは昔から少々甘いところがある。

 それがいいところでもあり、悪いところでもあるのだが。

 

「それでだ、お前司令と親戚だろう?ちょっと話聞いてこい。本当にその新調査部長様が俺達の上に立つに相応しいかどうかな」

 

「アホらしい。何で私が…」

 

「親戚だからっつったろ。あと、俺みたいな平より班長さんであるお前の方が話聞いてもらえるだろうからなぁ?」

 

 最後はたっぷりの皮肉を籠められた。

 毎度のことなので慣れているが、やはり腹が立つ。

 

「…ま、お前の話は抜きにして、気になるから個人的に聞いてみよう。あくまで個人的に」

 

「けっ!……頼んだぞ」

 

 というわけで一刻も早く喫煙所から出た。

 最近のマリアは妊娠によって味覚や嗅覚が変わってきたので煙草の匂いなんて付けたくないのだ。戻ったら消臭せねば…。

 それにしてもだが、犬飼の気持ちは分からんでもない。

 二課時代からの職員は、身内の中に敵がいることを嫌う。

 故に、新たにS.O.N.G.に所属する者の調査は徹底して行うことになっているわけだが…。

 恐らく、新調査部長殿は既に念入りな経歴調査の末に選考されたはずなので、私が調べたところで埃も出てこないとは思うが…。

 

「…はあ、余計な仕事を引き受けてしまった」

 

 白い息を吐きながら、仕事に戻る。

 あまり残業はしたくないのだが…。

 最近はただでさえ嫌な報告書にばかり目を通しているというのに…。

 いかんいかん。

 集中せねば…!

 

 

 

 

 

「ただいま…」

 

 仕事を終えて帰宅。

 …少々、遅くなってしまった。

 マリアは…。

 

「千鶴…おかえりなさい…」

 

 寝室で寝ていた。

 妊娠初期のつわりが中々重く、寝て過ごすことも多くなった。

 

「大丈夫か?」

 

「うん…ちょっと今日は辛くて…。けど、今日は調と切歌が来てくれたから…」

 

「そうか、後でお礼しないとな…。食事は出来そうか?」

 

「うん。千鶴が帰ってきたら、少し良くなった気がする」

 

 それでマリアの体調が良くなるなら仕事を休んでずっと家にいるが…。

 

「だーめ。千鶴はS.O.N.G.に必要なんだから、ちゃんと働いて。…育休は取ってほしいけど」

 

「育休については弦十郎さんに相談中だ。特になにもなければ大丈夫だろうが…」

 

「…何かあるの?」

 

 しまった。

 マリアを不安にさせてしまった…。

 

「いや、特に何かあるわけじゃないさ。ただ、いつ何があるか分からないという意味でな」

 

「…そうね。こんな仕事してる以上、そうよね…」

 

 誤魔化そうとして、結局マリアを不安にさせてしまった。

 ベッドに腰掛け、マリアを抱き寄せ頭を撫でた。

 

「大丈夫さ。お前達のおかげで平和になった世界だ。もう私達の仕事も後始末ぐらいしか残ってないんだ。そう不安になるな」

 

「でも…」

 

「腹が減っているからそう悪い方向に考えがちなんだ。お腹の子のためにも腹に何か入れとけ。それと、クッキーを買ってきた。枕元に置いて、低血糖になるのを防いでくれるぞ」

 

 マリアは初産だし、家でも一人きりなので少々不安になりやすくなっているのだろう。

 出来る限り、安心させてやりたい。

 

「…キスして?」

 

 マリアにねだられ、口付ける。

 すぐに離れると、マリアが物欲しそうな顔で見つめてきたのでもう一度口付けた。

 

「…やっぱり、千鶴がいると安心する」

 

 俺に身体を預けたマリアが呟いた。

 そういう風に思ってくれるのは嬉しいことで、ずっとマリアに寄り添ってあげたくなる。

 

「今度の休みは一日中ずっと傍にいて」

 

「ああ、そのつもりでいた」

 

「本当?それじゃあ、楽しみにしてる」

 

 ようやく、嬉しそうに微笑むマリアを見ることが出来た。

 この笑顔を見ることが出来れば、疲れだとかストレスなんてものは何処かへと消えてしまう。

 我ながら単純ではあるが…まあ、そういうものだろう。

 ひとまず、今日やるべきことをやって明日へと備えよう。




六堂美鶴
千鶴の叔母にあたる、先代の六堂家当主候補。
身体能力、卓越した暗殺術を持ち初代六堂家当主の再来とまで謂われたが、強すぎる殺人衝動を抑えられず当主としては不適とされその後六堂家を出奔。
ある夜、自身に似たものを感じ六堂家へ忍び込むとそこには母親に包丁を向けられている幼少の千鶴の姿があった…。
千鶴を助けて以降は隠れて夜な夜な千鶴に刃物の扱いや暗殺術を仕込む。弦十郎が身体能力、精神の師匠なら彼女は千鶴の暗殺の師匠である。
出奔後は闇医者として生計をたて、そんな自分を利用する者達から情報を集め千鶴に流していた。その代わり千鶴は彼女の使うメス等の手入れを行っている。ついでに駄賃と称してそれなりの額を千鶴はカツアゲしている。
「あんたみたいなのがこんな大金持っててもろくなことに使わないだろう」という理由で巻き上げられた金は寄付等に使われ社会貢献。そのこと自体は彼女も別に悪い気はしないからいいとか。
六堂家の調整により、不要な機能として女を捨て去られてしまった。
年齢のわりに全く老けず、千鶴は妖怪と彼女を評している。

とかいう新キャラの設定。
兄弟は美鶴(長女)千鶴父(長男)その他みたいな感じ。

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