マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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お待たせしました!(闇)
いや、書いてたんやで?
他の作品に集中してたってのもあって…
あとツイキャスとか始めちゃったりしてね!
もうTwitter芸人みたいになってる(なってない)けど書いてる時間の方が長いはずだから!
あともう時期的に過ぎてるネタの話だしもうマジ許してつかあさい。



帰省

 竹林の中の石畳の道を歩く。

 ここを歩くのは十年ぶり以上で妙な緊張感を覚えた。

 

「空気が澄んでて気持ちいいわね…。ちょうど木陰にもなって涼しくて散歩にちょうどいいわ」

 

「まあ、そうだな…」

 

 上辺ではマリアの言葉に賛同したが、自分にとってこの場所というのはひどく嫌な思い出の象徴でもある。

 来る者は拒み、去る者は逃がさない。

 それが、ようやく見えてきた六堂邸の印象である。

 

「前に翼の実家に行った時も思ったけど、やっぱり不思議な感じね…。違和感じゃないけど、別の世界に来たみたいな」

 

「ま、今時こんな屋敷なんてそうないからな」

 

 古めかしい屋敷。

 とはいえ清掃は行き届いているので綺麗ではある。

 

「入るぞ…」

 

 門を押すと存外簡単に、というかやけに軽い。

 というか、勢いよく門が開かれた。

 そして、呆気にとられる。

 

「「「お帰りなさいませ!千鶴様!!!」」」

 

 使用人達が恐らく総出で、ずらりと並び出迎えていた。

 …こんなことをするような家だったろうか?

 

「兄さんお帰りなさい。そしてマリア義姉様はようこそおいでくださいました。最上級のもてなしをさせていただきます」

 

 妹の鯉音が丁寧に礼をする。

 鯉音の仕業か…。

 

「なにもこんな出迎えしなくても…」

 

「なに言ってるんですか!兄さんが十一年ぶりに帰ってきたんですよ!それにその子を身籠るマリア義姉様まで連れて!六堂家はじまって以来の晴れの日です!こんなにめでたいことはありません!」

 

 鼻息荒くというと女性には失礼だろうが実際にそうなので言わせてもらう。

 鼻息荒くした鯉音がそう詰め寄ると使用人達が俺達の荷物を預かり屋敷の中へと運び込んでいった。

 まさか、帰省したらこんなことになるなんて…。

 そもそも帰省することになったのには理由がある。

 それは遡ること一週間前…。

 

「そろそろお盆休みね」

 

 晩飯の素麺を啜ると唐突にマリアがそう切り出した。

 

「ああ。ま、別にやることはないが」

 

 そうは言うが墓参りなどはしなければならない。

 だがそれも早朝なのでそれ以降は特にやることはない。

 

「ねえ、千鶴は帰省しないの?」

 

 これまた唐突にマリアは帰省なんて言葉を口にした。

 

「……マリア。前にも言ったと思うが俺は実家とは縁を切った身だ。帰る家はここだけだ」

 

 そう、俺は実家との縁を切った。

 そんな自分がどんな顔して今更帰るなんてことが出来ようか。

 

「そうは言っても家族との繋がりって大事なものよ。それに、前に話してくれたお婆さんはもういないんでしょう?鯉音ともそれなりにやり取りするようになったんだし、もういいんじゃない?」

 

「…時効、ということか?」

 

「ええ、時効よ。それに…千鶴が育った家っていうのも見てみたいし」

 

 そう言っていたずらっぽい笑みをマリアは浮かべた。

 恐らく、そっちが本命なのだろう。

 もう安定期に入ったし、どこかへ出かけるというのも気分転換になっていいか…。

 

「一応、鯉音に聞いてみる」

 

「本当?多分是非来てって言うと思うけど」

 

 そう上手くいくものかと思いつつ素麺を平らげると早速、鯉音に連絡を取った。

 

『いつでも来てください!なんなら今からでも!』

 

「今からは無理に決まってるだろう…」

 

 …こうして、帰省することになったのである。

 

 

 

 

「風通しが良くて涼しい…畳がひんやりして気持ちいい…」

 

 部屋に通されたマリアは早速暑さで溶けたかのように畳に倒れた。

 今日は最高気温が35度を越え、マリアは移動中ずっと暑い暑いと溢していた。

 夏が好きなマリアではあるが流石に堪えるらしい。

 

「失礼します。麦茶をお持ちしました」

 

 使用人が丁寧に襖を開けてそう告げた。

 これはありがたい。

 暑い日の冷たい麦茶ほど美味いものはない。

 

「すまないな」

 

「いえ、仕事ですから」

 

 なんとも淡白な口調でこの使用人はそう答えた。

 実に俺好みの答えだった。

 若い、まだ少女と言ってもいいような彼女は「失礼します」と機械的に部屋を後にした。

 

「ほら、マリア。麦茶が来たぞ…どうした?」

 

「だら~としてるとこ見られた…」

 

 恥ずかしそうに座卓に伏せるマリア。

 そんなに恥ずかしいだろうか?

 

「まあ、自分の家だと思ってゆっくり休め」

 

「う…そうする…」

 

 恥ずかしそうにするマリアを見て和む。

 冷たい麦茶を一気に飲み干し、身体がビシッとしたところで立ち上がった。

 

「とりあえずまずは…ご先祖様に挨拶だな」

 

 若干というか、大分皮肉を込めたつもりだがマリアには通じていないだろう。

 俺がこの家に抱く感情というものを、マリアには知られたくはないのであまり六堂家というものについて話してはこなかった。

 だからこの帰省自体あまり乗り気ではなかったが、マリアに家族のことを言われるとどうにも弱いのだ。

 

 

 

 仏間の大きな仏壇に線香をあげ、形だけ合掌した。

 マリアも日本の生活が長いのでこの辺りのことは説明しなくてもよかった。

 

「この匂いを嗅ぐと、やはり盆という感じがするな」

 

「ん…ちょっとキツイ匂いかも…こんなだったかしら?」

 

「妊娠してるから鼻が敏感になってるんだろ。…戻るぞ」

 

「え、ええ…」

 

 マリアが少し訝しむような顔をした。

 少々、ここにいたくないという気持ちを察せられてしまったか?

 まあ、その時はその時だ。

 

 部屋に戻る最中、なにやら使用人達が忙しなく働く様子が伺えた。

 盆だからだろうか?

 鯉音も使用人に帰省させてあげればいいのに。

 

「私達が来て忙しいのかしら?」

 

「いや、客人二人程度でここまで…」

 

 ここまで使用人の皆さんが忙しいのは…親戚一同が集合する時であるがそんな機会はあまりない。 

 盆だからといって集まるわけではないしな…。

 

「ねえ、そういえば千鶴の部屋ってどこなの?」

 

「俺の部屋?別に面白いものはないぞ。それに、今はどうなってるか分からん」

 

 なんせ十年以上部屋の主は帰っていないのである。

 家を出る前に片付けはしたのでちょうどいい物置になっているやもしれない。

 

「とりあえず行ってみましょうよ。もしかしたら部屋そのままにされてるかもしれないし」

 

 そんな馬鹿な。

 そんなこと出来るのは八紘おじさんくらいのものだ。

 恐らくマリアも、風鳴邸に行った時のことを思い出してそんなことを言ったのだろう。

 だがまあ、自分の古巣がどうなっているかというのはそれなりに気になることでもある。

 

「ちょっと、行ってみるか」

 

「ええ!」

 

 

 

 

 俺の部屋は兄弟の中でも一番広い部屋を宛がわれていた。長男だから、というよりも俺に対する仕打ちへの免罪符のようにも感じられた。

 

「綺麗な庭ね」

 

 外の様子を見たマリアが静かに呟いた。

 そうだ、唯一俺がこの家で好きな場所。

 それがこの庭だった。

 白い石と岩、そして池。

 幼少の頃、池の錦鯉をずっと眺めていた記憶がある。

 

「ここだ。本当に面白いものはないぞ?」

 

「面白い面白くないは私が決めるわ。ほら、早く開けて」

 

 わくわくとした様子のマリアに少し和む。

 本当になにもないのだが…。

 そう思いながら襖を開けると、あの頃と変わらない質素な部屋のままだった。

 

「シンプルな部屋ね」

 

「まあ、座卓と本棚と布団や服の入ってる収納程度しかないからな」

 

 本棚の本も当時から何も変わっていない。

 少年期の愛読書達がそのまま、特に傷んでいる様子もない。

 

「子供の時の千鶴はここで暮らしてたのね…なんだか不思議。アルバムとかないの?」

 

「そういう写真とかは撮ってこなかったからな…。アルバムなんてものがこの家にあるかどうか…」

 

「それならご心配ありません千鶴様」

 

 急に、俺でもマリアでもない第三者の声が響いた。

 

「な!?何奴!?」

 

 マリアが構えるが、身重な身体で無茶はやめてもらいたい。

 

「別に隠れる必要はないぞ。ま、気配は感じていたがな」

 

「はっ…それでは失礼して」

 

 天井の板がずれると、そこから一人の女がストンと床に着地した。

 

「えーっと、貴女は…?」

 

「お初にお目にかかります。私は鯉音様の付き人の山吹友恵と申します。以後、お見知りおきを」

 

「…それで、天井裏に隠れていた理由はなんだ?」

 

「鯉音様からお二人に何も起きないようにと警護を命じられていました。それと、雑事を任されていましたのでこうして出てきた次第です」

 

 別に警護なんて必要ないのだがな…。

 山吹の実力は知っているが、余計な仕事だ。

 鯉音もあまり付き人に仕事を増やすものじゃない。

 それにしても雑事、か。

 

「それで、なんの雑事だ」

 

「はい。マリア様がこちらのものをご所望でしたので」

 

 どこからともなく取り出したそれは…。

 

「アルバム!なんだあるんじゃない!」

 

 俺が知らないものだった。

 そんなものがいつの間にあったのか。

 

「それでは、あとはごゆっくりお楽しみください」

 

「ありがとう!友恵!」

 

「いえ、仕事ですから。それでは警護に…」

 

「警護はいい」

 

「しかし…」

 

「俺がいいと言ったんだ。鯉音にもそれで通せ。それから、余計な仕事は部下に与えるなと伝えておいてくれ」

 

「分かりました。では、その通りに。…はあ、私も千鶴様の下で働きたい…」

 

 そう愚痴を溢しながら山吹は部屋を去っていった。

 その背中に、疲労や悲哀を背負いながら…。

 哀れ山吹。

 もし鯉音の付き人をやめたら六班で雇ってやるからな。

 

「ねえ!早く見ましょう!アルバム!」

 

「見るなら勝手にしてくれていいが…こんなものがあったとは…」

 

 自分でも知らないうちに撮られていたのだろうか?

 使用人の誰かが記録用に撮っていたのかもしれない。

 というわけで早速ご開帳。

 

「あ!小さい時の千鶴!かわいいわね~!」

 

 …幼少の。

 恐らくまだ小学校にも入っていない頃だろう。

 これはいつの写真だろうか?

 背景を見るにそこの庭だろうが覚えがない。

 それにしても…。

 

「可愛いか?こんな無表情な子供」

 

「かわいいわよ。ちっちゃい千鶴ってだけで可愛い」

 

 むう。

 何も言い返せないではないか…。

 その後は楽しげにページを捲るマリアの様子を観察していた。

 そういえば、今まで俺はこういった昔の話をマリアにはしてこなかった。

 マリアからはその半生を聞かされはしたが、俺自身のことは何も話してはいない。

 マリアから直接聞かれたことはない。

 だが、人生を共に歩む者としてやはり言うべきなのだろうか。

 縁を切ったつもりでいたが、どうしようもなく血は流れている。

 どうした、ものか…。

 

「あ、この千鶴は楽しそうよ」

 

 そう言って、マリアが指を差した写真には学校指定のジャージで頭に白い鉢巻を巻いた自分に友人達が一斉に駆け寄ってきている光景が写されていた。

 …これも無表情だと言うのによく楽しそうだと言ったな。

 

「これはなんの写真?」

 

 そう質問されたので記憶を呼び覚ますと、意外とすんなり記憶の再生が出来た。

 

「それは高二の時の体育祭だな。リレーでアンカーにされて、ビリだったけどなんとか逆転したんだ」

 

「へえ…だからこんなに楽しそうなんだ。ねえ、この人は友達?」

 

「ん?ああ、そいつは水氣。オタクでムッツリだがいい奴だよ。ペンギン好きの同士だ」

 

「この人は?」

 

「そいつは中野。医者の息子で金持ちで魚と爬虫類が好きな奴で…ああ、こいつの影響で水族館とか行くようになったんだな。病弱な奴だから色々と気を使ったよ」

 

「じゃあこの人」

 

「御剣か…地味っぽいがこれでなかなかモテていたんだ。本人は弓道部の先輩一筋だったがな」

 

「次この人」

 

「山本か…ふざけた奴だが根は真面目な奴でテスト前は勉強をよく一緒にした」

 

「次」

 

「日下部…俺様な奴だが、そう振る舞える実力がしっかり備わってる奴だ。色々と奴とは勝負したな…」

 

「それじゃあ次…この綺麗な女の子は誰かしら?」

 

 急に、声が低いトーンになりなにやら迫力が増したようだった。

 …気圧されないようにしなければ。

 そしてよりによってそいつとは…。

 

「…そいつは坂上。生徒会長で、俺は副会長をやらされた」

 

「ふーん…他には何かないの?」

 

「ない」

 

 きっぱりと言うとマリアはゴゴゴゴゴ…みたいな感じのオーラを消した。

 

「それじゃあ次、この小さい子は?」

 

「それは米澤。チビだ」

 

「そう…なんだか、千鶴の交友関係が意外と広くてびっくりしちゃった」

 

 意外で悪かったな…。

 

「拗ねないでよ。悪い意味じゃないから。それに、安心してるのよ私。千鶴のことが知れて」

 

 まあ、話してこなかったことは悪いと思っていたが…。

 丁度いい機会だ。

 この際、色々とぶちまけてしまった方が楽かもしれない…。

 そう思い、口を開こうとした瞬間。再び第三者の声が割って入った。

 

「失礼します。ご夕食の準備が出来ました」

 

 先ほど、麦茶を運んできた使用人がそう告げた。

 いつの間に時間が過ぎていたのか、もう空は茜から紫がかり夜になろうとしていた。 

 ヒグラシの声が寂しく響く。

 

「ありがとうございます。それじゃあアルバム鑑賞は夕飯の続きということにして行きましょう?」

 

「あ、ああ…そうだな」

 

 折角踏ん切りがついたというのに、なんと間の悪い。

 こうなると決意が鈍ってまた決意し直さなければならなくなって嫌なのだ。

 しかし嘆いてもしょうがないと、使用人とマリアの後に続いた。

 

 

 

 廊下を歩き続ける。

 俺は違和感を感じていた。

 

「…質問だが、どこで夕食を摂らせるつもりだ?こっちは座敷だろう」

 

 座敷は大人数の来客が来た時用の場所である。

 わざわざ二人のために使わないはずだが…。

 

「いえ、こちらであっています。何故なら…」

 

 静かに、襖を少し開いた使用人。

 中の様子を見るように言われ、見てみるとそこには目を疑う光景が広がっていた。

 

「千鶴兄様はまだかしら…」

 

「けっ!どの面下げて帰ってきたのやら…」

 

「十年以上帰らず縁は切ったと聞くが…」

 

「しかしそれが帰ってきたというのだ。それも、妻を連れてな」

 

「もし本当なら安泰ですな。風鳴の家が力を失くした今なら好きなように出来る」

 

「…おい、なんだあれは」

 

「千鶴様のご兄弟。そして、六堂家傘下のお歴々です」

 

「それは分かっている。それが何故ここにいる…!」

 

「それはもちろん、兄さんが帰ってきたからです」

 

 鯉のあしらわれた着物姿の鯉音が使用人の代わりに質問に答えた。

 

「鯉音…お前…」

 

「当然でしょう…だって…」

 

 こいつ、まだ俺を当主にしようだなんてことを考えて…。

 

「だって!…千鶴兄さんが帰ってきたんだからぁ!!!」

 

 …ん?

 んん?

 

「…ねえ、千鶴」

 

「なんだ…」

 

「何が起こってるの…?何が始まるの…?」

 

「…さあな」

 

「祭りが、始まる…!」




次回 兄弟、親戚大集合編
お盆と言えばね!(大遅刻)
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