生きてました、生きてましたとも。
ちょっと書く気が失くなっていたのですが復活です。
長い休暇でしたがどうぞこれからもよろしく。
今回は最後に過去編挟みますが別に続いたりしないのでご安心を。
次回からはラブコメに戻ります()
ふと、風を感じて目を覚ました。
目を開けると、そこには月明かりに照らされた母がいた。
寝ていた自分を覗き見るその瞳は暗い水底のようで、じっと見つめ続けていたら吸い込まれてしまいそう。
「母様……?」
どうしたのだろうかと不思議に思うと、母の大きな瞳から涙が零れ落ちた。
「母様?なんで泣いているの?」
母は静かに泣いていた。
声も上げず、ただ、涙を流していた。
そして……。
「千鶴……。ごめんね……」
そう言って母は、出刃包丁を手にした。
月明かりで銀色の刃が煌めいていたことを覚えている。
「ごめんね千鶴……。痛くないようにしますからね……。すぐに、母もそちらにいきますからね……」
母が何を言っているのか分からなかった。
だけど、すぐに意味を理解した。
「千鶴……死んで」
そう言って、母は包丁を振り下ろしてきた───。
……嫌な、夢だった。
ここ数年は見ていなかったが、やはり実家に来たことでスイッチが入ってしまったらしい。
というか、俺はいつの間に寝たのだろうか……?
布団に寝かせられているが、床についた記憶はない。
「千鶴、大丈夫?」
いつ寝たのか記憶を探っていると、マリアが俺を覗き込んできた。奇しくも、あの時の母と同じ構図であった。どうしても夢のせいであの事を意識してしまうので、目を逸らす。
「……別に、なんともない」
「魘されてたわよ」
「……なんでもない。いいから寝ろ。身体に障るぞ」
「なんでもなくない!……私達、夫婦でしょう?気遣ってくれるのは嬉しいけど、私は千鶴の妻なんだから。ね?」
優しく話すマリア。
その姿に、母の姿を幻視してしまった。
「縁側に出ましょう。外の風、気持ちいいから」
立ち上がったマリアがそう言って障子を開けた。
部屋に吹き込む風は確かに心地よい。
少し、風に当たるとするか……。
縁側に出ると風があり、涼しく過ごしやすい気温である。
腰掛けるマリアの隣に座り、月を眺める。
浮かぶ月は欠けて、崩れて。
かつてならば満月だったに違いないだろう。
「……なんとも、風情のない月になったな」
「そう、ね……」
月、か……。
マリアにとっては、あまり触れたくないものだったかもしれない。
「……疑問なんだが、いつの間に俺は寝たんだ?記憶がないんだが」
「あ、やっぱり覚えてないんだ。あの飲み会で無理矢理お酒飲まされて千鶴眠っちゃったのよ。鰐斗君が運んでくれたんだから後でお礼言うのよ?」
鰐斗(三男)が……。
というか、いつの間にそんな君付けするほど仲良くなったのか。
「あ、後で言っておく……。どおりで、なんとなく調子が悪いのか……」
「千鶴、お酒苦手だものね」
「分かっているなら止めてくれ……」
「ごめんなさい。けどおかげでいいもの撮れたから。それで、どうしたの?」
いきなり、本題を突きつけてきた。
まあ、そのためにこっちに来たわけだが……。
「昔の夢を見たんだ」
「どんな夢?」
「母親に殺されそうになった時の夢だ」
覚悟して語った。
マリアは目を見開いて、言葉を失くしていた。
まあ、そうなるだろうと思っていたが。
「な、なんで?どうして自分の息子を……」
「さあ、な。お袋とはそれ以来あまり話さなくなったし当の本人は十年以上前に死んだからな。真相は闇の中だ」
真相を知っている人物がいるとすれば恐らく美鶴さんだろう。
あの時、母から俺を救ったのは彼女で、そのあと母を連れて何処かへと行ったからだ。
もしかしたら理由を聞いたのかもしれない。
だと、すれば……。
「ごめんなさい。わがまま言って……そんなことがあったから実家には来たくなかったんでしょう?それを私が……」
「お前のせいじゃない。未だに過去に囚われている俺の責任だ。だから気にするな」
そうだ。自分で言って納得した。
いつまでもこんな幼少の頃の出来事を引き摺る自分がいけないのだ。
それならもうきっぱりと割り切って、過去にそういうことがあったということにすればいい。
だが……。
「そんな簡単に割り切れる話じゃないわ……。だって、自分の母親よ。血を分けた家族だというのに……」
マリアは家族の繋がりというものに拘る。
幼少期に家族を失ったからであろう。
だから、他の人にはそんな目にあってほしくないから家族との繋がりを大事にしろと言う。
それはとても大事なことであるし、自分も家族というものにある種の感慨を抱いているのでこうなって欲しくないと思うのだ。
それに……。
「なあ、マリア」
「なに?」
「俺は……お前と出会えて良かったと思う」
「なっ!?何よ急に……」
白い肌が赤くなる。
目を背けて、髪を弄りだす姿は彼女の照れ隠しの仕草である。
「お前がいなかったらこうしてここに帰って来ることもなかった。あの時のことをずっと忘れようと思っていたけど、それじゃあ駄目なことにも気付けた。もっと家族ってやつのことを考えようと思えた。だから……ありがとう」
真っ直ぐにマリアを見つめて感謝を伝えると、またマリアは優しい笑顔を浮かべた。
やはり、似ていると感じてしまう。
だけどそのことが嫌だとは思わない。
きっと、母親というものは皆同じ表情が出来るだろうから。
母もきっと……。
きっと……。
いや、そうだったのだろう。
「千鶴」
ふと、名前を呼ばれたことで現実に引き戻された。
するとマリアの顔がもう目と鼻の先にあって……唇が触れあった。
とても優しい……キスだった。
「なんだ、急に……」
「したくなったからしたのよ。悪い?」
「別に悪くはないが……驚いた」
普段から他の夫婦よりはキスの回数が多い自覚はあったが、急にされると驚くのだ。
「千鶴の驚いた時の顔が好きだからしちゃうの。……そろそろ寝ましょう?千鶴も眠いでしょう?」
「俺は別に。そういうお前の方が眠いんだろ?我慢してたのバレバレだったぞ」
「バレてたか」
そう言って舌を出すマリア。
歳を考えろ歳を。
……まあ、可愛いから良しとする。
先に立ち上がって、マリアの頭をぽんぽんと叩く。
なんてことはない。
そうしたくなっただけである。
立ち上がろうとするマリアに手を貸してあげると、本当にお腹が大きくなって、お腹の中の子供が成長しているんだなと実感する。
そして、気が付いたらマリアのお腹をさすっていた。
「そろそろ、男の子か女の子か分かるって先生が言ってたわ」
「そうか……。じゃあ、名前をそろそろ考えるか」
「そうねぇ、どんな名前が良いかしらねぇ……」
二人で頭を捻らせながら部屋へと戻る。
まあ、今すぐ決める必要はないので一旦中断して床に就いた。
「それじゃあ、おやすみ千鶴」
「ああ、おやすみ」
こちらを向いて寝るマリアにおやすみと返した。
お腹が大きくなって、仰向けで寝るのが少し苦しくなってきたと言っていたので左を向いて寝るようにしているため、必然的に俺の方を向いて寝るようになっている。
それにしても……。
眠れない。
頭が冴えてしまっている。
目がすっきりとしてしまって当分寝れそうにない。
こういう時はとにかく目を瞑って身体を横にするだけでもいいので実践する……。
「千鶴。眠れないの?」
ふと、そんな声が聞こえたのでマリアの方を向くとマリアが起きていた。
あんなに眠そうにしていたのに。いや、今も眠そうなのに。
「お前……寝たんじゃなかったのか?」
「なんとなく、千鶴が眠れなさそうな気がしたから」
「俺に構わず寝ろ。身体に障るぞ」
妊婦なんだから俺よりも子供の方を優先してほしいというものだ。
しかしマリアはまだ俺に用があるようだった。
マリアは左手を伸ばしてきた。
「手、繋いであげる。そうすれば眠れるでしょう?」
「そんな子供じゃあるまいし……」
「いいじゃない。それに、私がそうしたいの。だめ?」
まあ、そういうことなら……。
すうと、右手を伸ばしてマリアの手に重ねた。
マリアが俺の手を優しく握るととても暖かくて、不思議と眠くなってきて……。
朝。
俺達は母の墓前に立っていた。
屋敷の敷地内にあるためマリアも安心して連れて行ける。が……。
こうして、ちゃんと墓参りらしい墓参りをするのは初めてのことなのでもしかしたら母が化けて出るのではないかと思ったが、なんてことない静かな墓参りとなった。
二人で、手を合わせる────。
「……帰るか」
「……ええ、そうね」
手桶を持って、その場を後にした。
静かに二人寄り添って歩く。
ふと、風が吹いた。
優しい風だった。
足を止めて振り返る。
何故か、そうしなければならないと思った。
そして、そうして良かったと思った。
朝日差し込むその場所に、一人の女性が立っている。
懐かしい、優しい笑顔を浮かべた母が────。
何かを呟いたようだが、聞こえなかった。
それでも、伝わったよ……。
「千鶴?」
「ああ……行くぞ」
もう、そこに母はいなかった。
「……俺は幸せだよ、母さん」
「何か言った?」
「いや、なんでもない……」
清々しい空の下、二人で歩く。
いずれ三人。
四人になるかもしれないし五人になるかもしれない。
それでも隣には彼女がいる。
彼女とずっと、二人で歩いていくさ。
どんな時も……。
「何故、自分の息子を殺そうとした」
蝋燭の灯りだけが爛々と揺らめく部屋で、私は義姉に問い詰められていた。
喉元に、妖しく煌めく刃を突きつけられながら。
「自分が腹痛めて生んだ子だろう。そいつを殺そうとするってのはどういうわけなんだ?え?私に教えてくれよ」
この人は子を為すことの出来ない身体とされてしまったのだ。
だから……。
だからこそ……。
「あの子は……」
「あ?」
「千鶴は……優しい子なんです……」
「そんな子を何故殺す」
「優しいから……あなたのようになって欲しくない。この家の呪縛に囚われて、心を壊されて、人を殺すことをなんとも思わないような人間になるくらいならいっそ……。千鶴を殺した後は、私も死ぬつもりでした……」
もう、殺されるのだろう。
跡取りを殺そうとしたのだ、だけど私が死んだら千鶴を守ることなんて……。
しかし、私の予想に反して彼女は短刀を鞘に納めた。
「……あんた、他にも子がいるだろう。千鶴だけに構うのはどうなんだ?」
「それ、は……」
確かに亀助と、まだ幼い鯉音もいる。
そうだけれど……。
「まあ、亀助の方は才能無しと見なされたのだろう?鯉音は幼いし私の見立てだとあれにも才能は無い。今回は才能があるのが千鶴だけだがその分千鶴の才は私以上。いや、歴代の中でもいささかあり過ぎる。風鳴に下克上を企む連中にとっては正に希望の星だろうさ」
「そんな……」
それでは、このまま千鶴は人らしさを捨てる。
ただの凶器とされてしまう。
そんなことは……。
「だから、千鶴は私が貰う」
全く、予想もしていなかった言葉が彼女の口から飛び出した。
彼女が、千鶴を……?
「何を、する気ですか」
「なに、単に子育てというものをしてみたくなっただけさ。それに、本家の連中が教育しても千鶴は伸びない。同じ存在である私こそ千鶴に相応しい」
「そんな……!」
「そんなも何もない。お前は息子を殺そうとした。千鶴にとってみれば恐怖以外の何者でもないよ。そんな奴が近くにいるなんて嫌だろうさ。……安心しろ。あの子はちゃんと導く。それにいつか、あんたの真意に気付けるようになった時にでも説明してやるさ」
そして、彼女は蝋燭の火を消すと部屋から出た。
この時から、私は千鶴の母ではなくなった。
そして、言葉を交わすこともなく……。
怖かった。
なんで、どうして。
どうして母様は僕を殺そうとしたのか。
そんなことで頭がいっぱいで。
次に眠ったら、今度こそ殺されてしまうのではないかと思うと眠れなくて、だけど母様は涙を流していて……。
「……大丈夫か」
いつからそこにいたのか、目の前にさっき僕を助けてくれた女の人がいた。
「眠れないのか?」
そう質問されたので、首を縦に振った。
「寝てしまったら、また殺されそうになるんじゃないかと思って……」
「……そう、か。じゃあこれを持って寝ろ」
そう言って、女の人が手渡してきたのは刀というには短いものだった。
鞘から少し抜いて刃を見ると、本物であることが分かった。
「それを持って寝ていれば、いつ襲われても大丈夫だろう?だから、今日はもう寝るんだ」
女の人は有無を言わさないと僕を無理矢理寝かせると、布団をかけて優しい顔を見せた。
「あなたは、誰?」
僕はこの人を知らなかった。
だけど、知っているような気がしていた。
知っているというより、僕と同じような気がしたのだ。
「……私は六堂美鶴。君の……師匠になる奴かな」
それだけ言って、美鶴さんは部屋から出た。
そして次の晩から、皆から隠れての修行が始まったのだ。
千鶴兄弟前回登場させるかと思ったら構成の関係でバッサリカットだよ!
しょうがないね!
可愛いマリアさんが書きたかったんだよ!!!
さて、実は私Twitterやってるのですがツイキャスにまで手を出してしまいもう大変なことに。
雪音クリスがやってきたのカッキーさんにメビウスのヒーローアカデミアのMakさんにハーメルンから旅立たれたあの人とのコラボとか貴重なお話ばかりです。
ガイガン誕生秘話や本作品の誕生秘話も語らせていただきました。
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