バカな…早すぎる…
やっぱりみんなマリアさんが好きなんすねぇ。
私もマリアさんが一番好きです。
「ふん、ふふん!ふん、ふふん!ふふふふふふーん。ふん、ふふん…」
「…なんだか、とっても楽しそうね」
「あぁ…立花は一体どうしたというのだ?あんなに浮かれて」
休憩室。
翼と雑談していたところに立花響がやって来たのだが…
鼻歌を歌いながら珍しくファッション誌なんてものを読んでいる。
「え~分かります~?えへへ~」
「え、ええ…とっても楽しそうなことが伝わってくるわ…」
「いひひひ~そんな~♪あ、アメちゃんあげますよ~♪はい、どうぞ~♪」
「あ、あぁ…ありがとう…」
一体、彼女になにがあったのか?
こんなに嬉しそうにしているのだから余程のことがあったのだろう。
…気になる。
「なにかいいことでもあったの?」
「えへへ~実は~…彼氏が出来ました~!!!」
「な、なんですって!?」
「なにぃ!?」
翼と同時に声を荒げた。
驚愕だ。
まさか、立花響に恋人が、それも異性の恋人が出来るなんて思ってもみなかった。
だって立花響には、小日向未来が──
「未来も、私がそれでいいならいいって背中を押してくれて…晴れて付き合うことになりました~♪これで彼氏いない歴=年齢とはおさらばですッ!」
なんて、幸せそうな緩みきった顔──
よほど嬉しいのだろう。
それにしてもまさか、立花響にまで先を越されてしまうとは…
「そ、それで相手はどんな奴だ!?どこで出会った!?」
翼が珍しく食い気味に反応した。
私は剣なんて言っているが、なんやかんやこういう話題は好きなのだろう。
ましてや、あの立花響である。
恐らく同類とでも思っていたであろう存在に先を越されたことへの焦りも感じられる。
「いや~前に一緒に迷子を探してあげたことがあって~その時が初対面だったんですけど~私が人助けする現場で度々出会いまして~」
「なかなかロマンチックじゃない」
平静を保って言ったが内心、なんだかむずむずしてしょうがなかった。
恐らくは立花響から発せられる幸せオーラが原因だ。
このままこの空間に居続けるのはまずい。
しかし…気になる!
立花響と交際する男性という存在とどこまで行ったのかとかプロポーズはどっちからとかどうやって交際まで距離を詰めたのか…気になることでいっぱいだ。
速やかに聞き取り、この場を立ち去る。
それが私のミッション!
「で、どんな男なのだ!?歳は!?出身は!?身長は!?どっちから告白した!?当然男の方だろうな!?自分から行けぬような腑抜けなら私は認めんぞ!!!」
「翼落ち着いて。そんな矢継ぎ早に質問しても答えられるわけないじゃない」
翼を宥めてまずは冷静に物事を対処する必要が…
「すごく真面目で誠実な人で、歳はわたしと同い年で出身は神戸。身長は172センチで告白は…わたしからです」
バ、バカな…
あの立花響なのこれが?
翼の怒涛の質問に答えるなんて…
いつもなら「あわわ…」とか言ってパニくるのに…
これが恋の為せる技なの!?
「立花から告白しただと!?ダメだダメだ!自分から告白しないような輩では生涯を共に歩むなど無理だ!」
「いいじゃないですか好きになったんだから!相手から告白してくるの待ってたら取られちゃうかもしれないじゃないですかー!」
珍しく翼に反抗する立花響。
お互いの意見がぶつかりあっている。
こういう時に起こりがちなのが…
「マリアはどう思う!?」
「マリアさんはどう思いますか!?」
その場にいる第三者にどちらの主張が正しいか問う。
この場の第三者は私。
つまり私が判断しなければならない。
それも、波風立たせずに。
どちらの主張も分かる。
ただ、私は…
「私は…どちらかといえば告白されたいかな…」
「よし!」
「えー!?」
ただし。
「告白したいというのも分かるわ。ただ、個人的には…その、所有されたいというか…」
二人から「おー…」と感嘆の声が出る。
言っておいてかなり恥ずかしい…
自分の性癖を暴露してしまったようなものじゃない!?
「あ、そうだ!わたしマリアさんに相談したいことがあったんです!」
「私に?」
「はい!恋愛経験が豊富であろうマリアさんに!」
恋愛経験が豊富。
恋愛経験が豊富…?
ちょっと待って。
どこから私がそんな恋愛経験豊富だなんてことになってるの!?
私全然そんなじゃないんだけれど!?
マリアのこれまで人生は恋愛とはほぼ無関係であった。
幼少期を難民として過ごし、F.I.Sに拾われ施設(ほぼ女子)で育ちそれからは戦いの日々…
恋愛なんてやっている場合ではなかったのだ。
だから、覚えているかぎり千鶴が初恋の相手。
恋愛の経験がないからこそいきなり求婚などという暴挙にまで出た。
「あ、あの勘違いしているようだけど私はそんな…」
「マリアさん大人だからな~きっといろんな恋愛を経験してきたんでしょ~?そんなマリアさんの知識と経験を是非わたくしめにご教授ください!」
純粋な目。
大人はみんな素晴らしい人なんだと信じていた子供の時のような目。
やめて、そんな目で私を見ないで…
あなたの方が恋愛経験が私より上なの!
今まで彼氏なんて出来たことないんだから!
自分から告白して彼氏ゲットするあなたの方が私の何百倍もすごいの!
だけど…そんな目で見られたら…
「ま、任せておきなさいッ!私の持てる知識、経験を持ってしてあなたの恋愛をサポートするわッ!!!」
世界の歌姫やらなにやらと表に立つことが多いマリアであるが本質はどちらかというと裏方お母さん系。
サポート、手助けしてくれという願いは聞かずにはいられなかった。
「マリア…大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まっているでしょう!?だって私なのだからッ!!!」
もう無茶苦茶だった。
本人も暴走していることは重々承知。
だけど、暴走しなきゃやってられなかった。
六堂班、略称六班の面々が集まる部屋…と言っても普段は班長である千鶴くらいしか在室していない。
デスクが六つ並べられ、それぞれ業務用のPCが設置されている…のだが、千鶴の席以外使われることはほぼない。
他の面々は揃って「こんな狭いとこにいるのは嫌だ」と言って各々諜報の任務と言って各地に飛び出した。
実際、怪しい動きのある地域に飛んでしっかりと諜報活動自体はしているようなので文句は言えない。
…私も現場に出たいと常々思っているが「あのメンバーをまとめあげられるのはお前だけだから、この報告書の解読よろしく」と言われ、この部屋に閉じ込められている。
なにもこれだけが仕事ではないが…最近は事件も起きずほぼデスクワーク。
「…体を動かしたい」
パソコンのキーボードを打つ手を止めて、ぼそっと呟く。
こんな座ってばかりではいけない。
日々のトレーニングは欠かしていないが、なんというかこう…暴れたい。
実戦形式の訓練をしたい。
今晩マリアが暇なら相手してもらおう。
そうと決まれば定時で仕事を終わらせておかなければ。
一度伸びをしてから、再びパソコンと向かい合った。
休憩室。
そこは今、恋愛初心者が恋愛初心者に恋愛を指導するという混沌に包まれていた。
ちなみに翼は仕事の時間なので緒川さんと一緒に行ってしまった。
「マリアさんッ!次の質問です!バレンタインが近いんですがなにをあげればいいでしょうかッ!?やっぱりチョコですか!?ハンカチとか小物系がいいですか!?」
「彼が好きなものをあげるといいわッ!」
「分かりましたッ!マシュマロにしますッ!」
ちなみにバレンタインにマシュマロはNGである。
どういうわけか知らないがバレンタインにマシュマロをあげると「あなたが嫌いです」という意味になるらしい。
ちなみにマシュマロの中にチョコが入っているタイプはOKらしい。
ややこしいったらありゃしない。
「マリアさん!彼は一人暮らしなんですがお家デートは何回目で行うものなんでしょうかッ!?」
「まずは外のデートで彼が真に信頼出来ると思ったら家に行っても、い、い…」
マリアは最近の自身の振舞いを思い出した。
あれ、私いきなり彼の家に行ってる…
いやでも私の場合は仕事で長い付き合いがあるから大丈夫なはず…
「マリアさん?どうかしました?」
「い、いえ!なんでもないわ!次の質問に移りましょう!」
「は、はい!あ、あの…マリアさん…その…」
もじもじと質問を躊躇う響。
マリアはどうしたの?早く言ってみなさい?というが変わらず躊躇している。
響はやがて意を決し「よしっ」と気合いを入れた。
「マリアさん。あの、耳を貸してください」
そう言われて左耳にかかっている髪をどかすと響はマリアの耳に手を当て周りに聞こえないようにこそこそと話し始めた。
そして…
「えぇぇぇ!?せっ…むぐっ!」
「マリアさん!声が大きいです!聞かれたらどうするんですか!?」
口を押さえられるマリア。
響の質問内容はこんな午前中に出てくるものなのかと驚愕のあまり大声を出してしまったのだ。
ようやく落ち着くと響はマリアの口を押さえていた手を離した。
「その…そういう経験ないからわたし分からなくて…」
「えーと、彼に誘われたの?」
「そうではないんですけど…もし、そうなったらと思うとどうしたらいいか不安で…」
何事も初めてのことには不安が付き物。
かくいう私も…もし、千鶴とそういうことになったら…
そういえば千鶴はそういう経験あるのだろうか?
これまで交際経験があるのだろうか?
何人と付き合ってきたのだろうか?
生まれた時から結婚願望がなかったわけではないだろうからこれまで異性と付き合った経験があってもおかしくない。
だけど…
知りたいような知りたくないような…
知って、どうするんだろう。
もし、千鶴と付き合っていた女性がいたとするなら…私はその女性に嫉妬してしまう。
すごい、モヤモヤとしてしまう。
「あの、マリアさん?」
「あぁ…ごめんなさい。少し考え事していたの。そうね、その質問の答えはお家デートと一緒よ。信頼出来ると思ったら好きにしなさい」
「信頼…」
「ふふ、自分から告白出来るあなたなら彼を襲っちゃうかもしれないわね。それじゃあ私、用事を思い出したから行くわね」
後ろで私の名前を呼んでいる声がするけど…
今は無性に、彼に会いたい。
もうお昼に近い時間、食堂にでも彼を誘おう。
足早に六班に向かって歩く。
この時間帯なら部屋にいるはず…
六班の事務室の前に着き、ノックをすると返事があった。
彼の声だ。
嬉しくて、顔が綻んでしまうが表情筋をキリッと戻してドアを開けて部屋へと入った。
「お疲れ千鶴。今から一緒にランチでもどう?」
「マリアか…そうか、もうそんな時間か…」
朝からずっとパソコンに張りついていたのだろう。
彼は目頭を抑え、伸びをした。
「そうだマリア。夜暇か?」
「ええ、今日は暇だけど」
わざわざ彼の方から予定を聞いてくるなんて…
先日のお宅訪問が効いたようね、うん。
「そうか。なら今晩、(トレーニングの)相手を頼む」
今晩、相手。
それって、それって…
「え、えぇぇぇ!?」
普段ならトレーニングのことね。となるマリアだが、先程の会話のせいでそういう風にしか聞こえなかった。
「どうした?そんな大声をあげて。いつもやっているだろう」
「いつも!?いつもやってないわよ!?」
「やっているだろう。いろんな相手と。立花や風鳴、雪音に暁、月読に司令や緒川さんと…」
「やってないわよ!?それにほとんど私と同性じゃない!?」
「?同性なのは当たり前だろう(装者なのだから)」
「当たり前じゃないわよ!それに私…は、はじめてだし…」
「…すまないマリア。どうやらお前は疲れているようだから今日は早く帰れ。相手は別の相手に頼む…」
「別の相手!?千鶴は相手が誰でもいいの!?」
「あ、ああ…誰とでも出来るからな。今日は緒川さんか司令あたりを誘うか」
「男!?ちょっと待って!?あなただから結婚願望がないなんて言っているわけ!?」
「いやトレーニングと結婚願望は全く関係ないだろう」
「トレー、ニング…?」
「ああ…逆にお前はなんだと思って…」
「千鶴の…バカァ!!!」
そう叫んで、マリアは部屋から飛び出した。
あまりの恥ずかしさに泣きたい、というか泣いている。
泣きながら部屋を飛び出したマリアは多数の職員に目撃されS .O .N .G. 内でスキャンダルとしてしばらく語られた。
そして千鶴は切歌と調の二名から襲われるのであるが無事撃退するのであった。
本日の勝敗
マリアの負け 敗因 自爆