ハロウィンですよハロウィン。
ハロウィンなんです。
ええ、ハロウィンですとも。
ハロウィン!ハロウィン!(別にやることない人の図)
ハロウィン!
「S.O.N.G.でハロウィンパーティーを開催するですって!?」
帰宅して早々、今日の会議で決まったことを伝えるとマリアは大声出して驚いた。
そんな大声出したらアリアが泣いて……。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「あ~ごめんなさいアリアちゃん。ほ~らいい子いい子~」
泣いてるアリアをあやすマリア。
そろそろ一歳になるアリアはすくすくと成長中だ。
「アリア。パパだぞー」
なかなか泣き止まないので加勢に入る。
餅のようなほっぺたを指でつつきながら話しかけるとアリアは泣き止み、笑みを浮かべた。
「良かったわね~。ほら、お父さん帰ってきたわよ~」
ただいまと言って再びほっぺたをつついてから寝室へ行き部屋着に着替える。
ちゃんと手を洗ってうがいしてから夕食をとるのである。
今日は秋刀魚か……。
旬である。
「それで、なにやるのハロウィンパーティーって」
「まあ、地域住民との交流をはかるみたいなイベントで……。あれだあれ、自衛隊の駐屯地祭りみたいな感じ」
正直、今ので伝わったかどうかは定かでないがそんなものである。
曰く、S.O.N.G. が国際的な活動をするようになり近年は特に主だった任務というと災害救助である。
それも、レスキュー隊とかでも難しいような。
俺達なんかは依然、パヴァリア残党の相手をしているが表立ってやっているわけではないので世間的には災害救助をしている国連組織。それがS.O.N.G.の世間からの印象というわけだ。
そんなこんなで旧二課とは違い知名度がある。
そのためイメージアップというか知名度向上というかも兼ねてのイベントである。
「ふぅん。まあ、お祭りだしいいじゃない。それで、千鶴はなんの仮装するの?」
「いや、俺は何の仮装もしないぞ。運営とか当日は警備にあたる予定だからな」
「えー!もったいないわよ!ハロウィンよ!みんな仮装するだろうに千鶴だけしないなんて無しよ無し!」
「そうは言ってもだな……。それに、仮装するのは子供だろう。ハロウィンなんだから」
そう言うとマリアはうぐっといった顔をして反論出来ずにいた。
まあ、仮装の中でスーツでいるというのもまた仮装みたいなものだろう。
しかし、この時の俺は知りもしなかった。
マリアの魔の手がじわじわと近付いていたことを……。
ハロウィンイベント一週間前。
いよいよ一週間前になり色々と慌ただしいS.O.N.G. であるが元々、二課の時代からお祭り好きな組織であるがここまで大きなイベントは初めてなので皆気合十分といった感じである。
私はというと当日の警備態勢の確認などで私も私で忙しくしていた。
していたのだが……。
バンッ!と事務所のドアが勢いよく開かれた。
「六堂さん!コスプレしないって本当ですか!?」
どこから聞いたのか分からない……いや、マリアから聞いたのだろう立花がそんなことを言いながら私のデスクへと詰めよってきた。
「立花……。ドアは静かに開けろ。それと、仮装はしないぞ。当日は一日警備にあたるからな」
「えー!もったいないですよー!折角のスタイルと顔してるんですから仮装しましょうよ~。仮装させがい……じゃなかった。仮装しがいありますよ~」
おい、仮装させがいとはなんだ。
私で何をする気だった!?
まあ、それは置いといて……。
「あのな、皆が安心して楽しめるように裏で真面目に働かなければならない時もあるんだ。今回は私が裏で頑張るから立花達は仮装なり仮装大賞するなりして楽しめ。来た人達を楽しませるんだ。そうやってそれぞれが役割を全うして……」
「言ってること!全然分かりませんッ!!!」
「いや分かれ。もう社会人なんだからこれぐらいは分かれ」
全くもうこいつは……。
「いいじゃないですかー!警備するにしてもほら!私服警官みたいな感じで周りに溶け込んで警備するのも大事ですよ!みんな仮装してるのに一人スーツでいたらそれこそ敵がいたらあれが警備かしめしめって分かりやすいですよー!」
ふむ……。
確かに一理あるな……。
「よし、では何名か仮装させて配置しよう」
「おー!じゃあコスプレするんですね!」
「いや、私はしないぞ。するのは部下だ」
そう言うと立花はそうじゃない!と叫んだ。
いやいやそうじゃないがそうじゃないんだが……。
「別に私が仮装する必要はないだろう」
「ありますよ!マリアさんが見たがっていましたよ!」
マリアが?
「折角いい顔とスタイルしてるのに仮装しないなんてもったいないって言ってましたよ?ここはひとつマリアさんの……奥さんのためにも、やりましょう。コスプレ!」
奥さんのため、か……。
「……しょうがない、やってやろう。ただし、有事の際に動きやすいような格好。これが条件だ、いいな?」
「分っかりました!立花響!これより準備に入りますッ!」
そういうと猛ダッシュで部屋を出ていった立花。
相変わらず、騒がしい奴……。
……警備の人員、全員コスプレさせよっと。
そしてハロウィン当日。
「皆、準備は万端のようだな!」
各部署、会場を見回るS.O.N.G. 司令の風鳴弦十郎は今日のイベントは大丈夫だろうと内心で評した。
ちなみにこのあと、フランケンシュタインの怪物のコスプレをする予定なのですぐに戻らないといけないのだが……とある集団を見つけてしまった。
全員コスプレをしているが、綺麗に隊列を組み待機している。
あれは何係だと気になり様子を見に行くと彼等の前に彼等を指揮する長が現れたがあれは……。
仮面を被り、黒いマントを翻して登場したあれは……。
「今日、地域の方々が安心してイベントに参加するには我々が裏で任務を全うしなければならない。イベントの性質上、皆には仮装してもらったが羽目を外し過ぎないように。周囲に溶け込みつつも各々の任務を意識し全うするように。以上。それぞれ持ち場につけ」
指揮長が命令すると各員それぞれの配置へと移動を開始して……。
お化けの群れがあちこちに……。
それより……。
「……千鶴。お前、その格好はなんだ」
「司令……。私も出来れば仮装なぞしたくはなかったのですが……。まあ、色々と察してください……」
仮面を取った千鶴の顔は色々と諦めた表情になっていた。
「そう、か……。ところで、それは何のコスプレなんだ?」
「マリア曰く、オペラ座の怪人だそうです……」
オペラ座の怪人……。
昔見た映画ではとても醜い容姿をしていたが千鶴は美形も美形。
オペラ座の怪人というのは合わないような気もするがまあいい。
「それにしても、やけに気合いの入った衣装だな!こう、コスプレ感がないというか……」
「マリアがスタイリストに作らせたそうです……。一応、謝りに行ったんですがむしろ作ってて興奮してましたよ……」
いや、本当に怖かった。
試着した時とかもう鼻息荒くて怖かった。
しかし、私の要望通り見た目とは裏腹にすごい動きやすいし、暗器を忍ばせる携帯能力にも優れている。
あれが一流の仕事というやつか……。
「まあ、とにかく今日は頼むぞ。こういう時を敵は狙ってくるからな」
「了解しました。それでは、私はこれで」
千鶴も自分の持ち場へと向かったが、まあなんというかあいつも変わったものだ。
前なら仮装なんてするわけがなかったのにな。
これもまた結婚して、子供を授かって父親になり成長したということか……。
「おいおっさん!いつまで待たせてんだ!」
感慨に耽っていると、後ろから唐突にそんなことを言われた。
「あ、ああ、すまない。少し話し込んでしまってな。今から向かおうとしていたところなんだ」
「ったく、やっぱり様子見に来て正解だった。ほら、行くぞ」
相変わらず、口調が荒い。
しかし、それにはもう慣れている。
行くぞと言った時に振った薬指の指輪を見ると顔が緩んでしまうが……。
「なあ、そのおっさんというのはそろそろだな……」
「別にいいだろ!そういうおっさんこそあたしのことずっとクリス君呼びして……。直せってんだ」
どうにも、それは難しい。
ずっとそう呼んできたからというのもあるが、他の呼び方で呼ぶというのはなんとも気恥ずかしいもので……。
あとで、千鶴に相談してみよう。
そんなことを思いながら小さな愛しい手に引っ張られ歩いていった。
さて、初めてのイベントということもあってか想定以上の客入りで会場が混雑してきた。
こちらの想定以上となった場合のマニュアルも作っていたのでそう混乱は起きてはいないが……。
とにかく、人が多い。
実は私は人混みが苦手なのだ。
人酔いするというかなんというか。
こうも人が多いとな……色々と大変である。
例えば……。
「すいませ~ん!写真いいですか?」
「あ、ええ。大丈夫ですよ。カメラは……」
「あー大丈夫です私が撮るんで。それじゃあお兄さんまずは普通の立ち姿お願いします」
また、このパターンか。
こうなると一気に群がってくるんだよな……。
写真OKなんだと思った人達が次々と押し寄せてくる。
それが気付いた時には周囲をカメラで構えた人ばかりになっていて……。
「お兄さん衣装すごいですね。コス趣味?え?これが初めて?マジかぁ……いや実は私こういうものなんですけど、一緒にコスしません?」
「あのこのあと個撮いいですか?朝まで近くのホテルで」
「あなたのそのスタイルは全レイヤーが羨むものよ!オマケに輪郭と雰囲気から分かるイケメン臭!ちょっとこっちの衣装も着て……」
あわわ……。
これでは仕事どころではない。
くそ、部下にはちゃんとしろと言いつつ自分が出来ていないなんて……。
『あーもしもし班長。休憩入ってくださーい』
ここでようやく救いの手が現れた。
それではお言葉に甘えて休憩に入るとしよう。
「すいません用があるのでこの辺で……」
バッと駆け出してなんとか逃げた。
やはり、衆目に晒されるのは苦手だ。
事務室に戻ると真地の他に二人のオペレーターがエージェントからの情報を受けていた。
ちなみに彼女らも仮装しているが……。
「真地。お前それは仮装なのか?マスクしてるだけだう」
「いや、マスクしてるだけじゃないっすよ。見てください班長。私、綺麗?」
そう言いながらマスクを外すと、マスクの下は素人ではないレベルの特殊メイクが施され、大きく口が裂けていた。
ご存じ口裂け女である。
「これなら服持ってない私でも出来るっすからね~」
その特殊メイクの実力があるならそういう仕事についた方がいいのではないかと内心思う。
というか、普段のメイクからは想像つかないレベルである。
なんて思っているとスマホに通知が……マリアからか。
「今どこ?」と来たので事務室とだけ返すと「じゃあそっちに行く」と返ってきたが……。
ここじゃあなんだしなと思い、休憩室で合流しようと返事して、弁当を持って休憩室へ。
休憩室に着くともうマリアが来ていた。
イベント中ということもあってか普段は人のいる休憩室も俺達だけである。
「お疲れ様。似合ってるわよ」
「ありがとう?」
「なんで疑問系なのよ」
まあ、なんとなくである。
それはそれとしてアリアを見れて嬉しいというやつである。
元気出た。
「アリアが大きくなれば仮装して遊ぶのかしらね~」
「まあ、それが本来のハロウィンってやつだろう。あ、そうだ」
「なに?」
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」
「千鶴は大人だから駄目。というか、いつも持ち歩いてるでしょう」
むう。
それとこれとはまた違うというものである。
「あ!マリアさん!」
この声は立花と思い振り返ると小日向もいて二人はそれぞれ仮装……えーと、なんだ?ねこ娘?
とにかく、立花が白いねこ娘で小日向が黒いねこ娘だった。
「響それに未来も似合ってるわよ」
「少し恥ずかしいですけど……。お二人は今何されてたんですか?」
小日向の質問に俺が答えた。
「マリアに菓子をねだったら断られた」
「そうなんですか?じゃあ、私からこれあげます」
小日向は手にしたバケットからクッキー入りの袋を俺とマリアに手渡してくれた。
ありがたい。
「ありがとう。大事にいただく」
「はい。自信作なのでぜひ。それじゃあ、家族水入らずを邪魔しちゃ悪いので私達はこれで」
そう言って小日向は立花を連れていった。
ふむ。それじゃあ早速クッキーをひとつ。
うまい。
「……美味しいの?」
「ああ」
白い猫でも黒い猫でも菓子をくれるのはいい猫である。
「ふーん……」
なんでそんなジト目で見てくるんだ……。
しかしマリアは唐突に何か思い出したようでアリアを見ていてと言って休憩室を出ていった。
そんなこんなでアリアの遊び相手になること十分弱……。
「どうッ!似合うッ!?」
なにやら、着替えてきたようで白いドレスに身を包んできたマリア。
まあ、マリアに似合わない服なんてそうそうないわけで……。
「似合ってるぞ」
普通にそう言うとマリアは顔を赤くした。
自分から聞いたくせに。
あ、弁当食べないと……。昼休みが終わってしまう。
「……もう。午後は私も一緒に回るからそのつもりでいてね」
急にそんなことを言われたので思わずご飯が喉につっかえたので急いでお茶を飲んだ。
なにを言い出してるんだ……。
「お前、有名人が急に現れたらパニックになるだろう。それにアリアはどうする」
「大丈夫よ。私が連れて歩くから。それに……これ付けて歩けばバレないわよ」
そう言いながら取り出したのは目元を隠すような仮面で……。
「これで家族仮面舞踏会ね!」
アリアの分の小さい仮面を付けるとアリアは喜んでいるみたいだった。
いや、それにしたってそんなんじゃバレるだろう……。
あと、オペラ座の怪人どこいった。
「キャー!イケメンと美女よ!」
「ちょっと赤ちゃんいるんだから静かにしなさい!」
「フラッシュは止めましょうね~」
どうしてこうなった。
おかしい。
私の仕事は写真を撮られることではないはず……。
「ほら千鶴今度はあっち!」
「あ、ああ……」
そんなこんなで頭に疑問符を浮かべながら時間が過ぎ去っていった。
特に異常らしい異常もなく、無事にイベントは終了。
家に帰るとどっと疲れが押し寄せて、夕飯と風呂を済ませたらすぐにベッドで横になった。
やはり慣れないことはしない方がいい。
マリアからもゆっくり休んでと言われたのでそうしよう。
明日は休みだし、たくさん寝よう……。
ふと、腹に何かがのし掛かっている気がした。
特別重いとかではないが、なんだろうか。セレナの悪戯か?
とりあえず目を開けて確認するとそこには……えーと、なんだ。その、仮装したマリアがいた。
これは……何のコスプレだ?
耳があって、手には肉球がついていて……。
狼人間?
人狼というべき?
というか露出が多い。
寒くないのか?
「が、がお~……。お菓子をくれなきゃイタズラするわよ……」
「……可愛いな」
「可愛いじゃなくて怖がりなさい!」
頬を赤く染めたマリアがそんなことを言うが怖い要素が微塵もないので怖いと思えない。
それに昼間仮装した時は恥ずかしがっていなかったのに今は恥ずかしがっているのが面白い。
とりあえず、腹の上から退いてもらって俺も身体を起こした。
「それで、その衣装はどうしたんだ?」
「前にハロウィンで着たやつがあったから、その……」
「そうか。それで、菓子をよこせだったか。ほら、これやる」
袖からアメを取り出してマリアに渡す。
「え。あ、ありがとう……」
「それじゃあ、もう夜遅いから寝るぞ」
「え、ええ……おやすみなさい……」
……。
「そういえば……」
「え?ちょっ!」
マリアを押し倒して、逆に今度は俺がマリアを上から見下ろす。
ああ、そういえば大事なことを忘れていた。
「お前、昼間に菓子をくれなかっただろう。その分の悪戯をしないとな」
「え……ち、千鶴。その……優しく、してね?」
まさか、狼から優しくしてなんて言われるとは思わなかったが……。
「善処する。が、保証は出来ない」
よく男は狼なんて言うが、まさしくそうだろう。
仮装と男の本性。どちらが勝つかは明白な気がする。
だって相手はマリアだから。
まあ、夜中にこんな格好で仕掛けてきたマリアもマリアなので大目に見てほしいというものだ。
というわけでガブリと……。
こうして生まれたのが千歳です()
ハッピーハロウィン!
(なお、作者にハロウィンらしいイベントは何もない)