少し未来の話を今回は覗き見ということで……
ある日の六堂家。
「少し出てくる。何か買うものとかあるか?」
昼食後、食器を洗っていると千鶴が車のキーを手にそう訊ねてきた。
何か買ってきてほしいもの……。
「あ、入浴剤が切れそうだからお願い」
「分かった。それじゃあ行ってくる」
「ええ。いってらっしゃい」
千鶴の背中を見送っていたが、ただでは千鶴は外出出来なかった。
我が家のお転婆が自分を残しての買い物など許さないからだ。
「どこ行くのパパ!」
五歳を迎えたばかりのアリアが千鶴の行く手を遮った。
「ちょっと外にな」
「アリアも行く!」
アリアは外に出たがる。
元気いっぱいなのは良いことだけど、行く先々でお菓子やおもちゃをねだるので困った娘なのだ。
「行ってもつまらないぞ。千歳なら面白がるだろうけど」
多分千鶴は千歳を連れて行こうと思ったけど千歳はお昼寝の真っ最中なので止めたのだろう。
同じ男同士、千鶴と千歳はよく似て三才とは思えないほどクールで刃物好き。遺伝っていうのは面白いものだと思わされる。
「なんで
「それは……これから行くところが刃物屋だから……」
ほらやっぱり。
「むう……けどアリアも行く!」
「行ってもすぐ帰ってくるぞ。お母さんとお留守番してるんだ」
「やだ!お父さんとお外行く!」
アリアがごね始めた。
こうなると大変。
しかし千鶴にかかれば簡単な相手である。
「よいしょっと……」
「わあ!」
アリアを抱き上げた千鶴はソファにアリアを座らせるとどこからともなくグミを取り出してアリアに渡して頭をぽんぽんと撫でた。
うらやましい。
「お母さんとちゃんとお留守番出来たらご褒美あげるから。ちゃんとお留守番してるんだぞ?」
「はーい!約束だからね!」
「ああ。それじゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃ~い」
そうしてようやく千鶴は外出。
私の洗い物も完了。
それじゃあ次はお掃除……。
「アリア。お掃除手伝ってくれる?」
「えー。今から歌ずきん見るところだったんだけど~」
「録画でしょう?いつでも見れるんだからお母さんを手伝って?一人じゃ大変なんだから。それに、お手伝いやらないとお父さんからのご褒美無しになっちゃうかもよ?」
「も~しょうがないな~」
何故か上から目線なアリアにはもう慣れたものだけど余所ではやらないように教育しないといけない。
厳しくしてるつもりなんだけど……。
まあ、今はいいとしてお掃除お掃除っと。
「お風呂場を綺麗にするわよー!」
「おー!」
二人でやれば早いものでお風呂掃除は千鶴が帰ってくるよりも早く終わった。
というか千鶴が帰ってくるのが遅い。
連絡しても出ないし……何かあったのではないかと不安になるけど多分、お店の人と話し込んでるとかだろう。
『これで決める!……ちょせい!!!』
「ちょせい!」
録画していた『快傑歌ずきんXV』も終わりが近づき、歌ずきんが敵にトドメを刺すシーン。
もう何度もアリアから見させられているのだけれど、これのモチーフ、クリスじゃないかしら……?
去年はなんとなく翼っぽかったけど……。まさか来年は私に似てたりして……。
「ねえ、ママ」
「なぁに?」
「私も歌ずきんと同じ髪型にして~」
歌ずきんと同じ……ツインテールでいいのかしら。
そういえばツインテールはしたことがなかった。
アリアの髪も伸びてきたし、いい感じに出来るかもしれない。
「いいわよ。リボンと櫛取ってきて?」
「はーい」
軽い足取りで寝室に向かい、すぐにと櫛を取って戻ってきた。
アリアからそれらを受け取ってアリアの髪をツインテールに……。
櫛で髪をといて、結って、結んで……。
「はい、完成!」
テーブルに置いていた鏡をアリアに見せると、ぱあっと明るい満面の笑みを浮かべて……謎の踊りを踊り始めた。
子供特有のものである。
「すごーい!えへへ~」
……やはり、子供の笑顔を見るのは良いことだ。
こんなに可愛い存在は世界にふたつとしてない。
「ねえ!ママもやろう!」
「え~?私はいいわよ」
「いいからやるの!お母さんの分のリボンも持ってきたから!」
そういって見せてきたのはアリア用のリボンで……。
子供の願いは全て叶えてあげたいけれど、この歳でツインテールは……。
「ママ……」
駄目……そんな目で見られたら……。
「出来た~!」
五分後。
少々手こずりはしたようだけれど特に問題なく完成した。
「ママとお揃い~」
「ふふ、そうね~お揃いね~」
膝の上に乗ったアリアを抱きしめながら子供との時間を楽しむ。
最近、また少しずつ仕事が増えてきて家族との時間が取れなくなっていたのでこの時間は貴重だ。
「トイレ行ってくる~」
「あっ……」
親の心子知らずと言うが、その通りだろう。
折角の時間だがトイレによってその時間を邪魔されてしまった。
一人リビングに取り残され、再び手鏡で見てみる。
やっぱり……恥ずかしい……。
家だし、子供しかいないから良いけれど千鶴にはとても見せられないし外を出歩くなんて顔から火が噴き出そうだ。
本当に、千鶴がいなくてよかった……。
「ただいま。すまない少し遅くなっ……た……」
千鶴が、帰ってきてしまった……。
「マリア……お前……」
「ち、違うのよ千鶴!別にこれは自分からやったわけじゃなくて!」
「いや、いいんだ。髪型は人の自由だ。ツインテールなんて子供の髪型だと思っていた自分が悪かった。すまない……」
「ちょ!変なこと言わないで!あとお願いだからこっちを見て!」
「パパおかえり~!見て見て!ママとお揃いなんだよ!」
「……そうだな、お揃いだな。よかったな、アリア」
「えへへ~」
アリアの頭を撫でながら、私をちらりと見た千鶴は優しく微笑んで……。
……微笑んだのだろうか?
嘲笑われたの間違いではないわよね?
いや、微笑んだのだろう。
「あ、トイレ行ったから手洗わなきゃ~」
トテトテと手を洗いに行ったアリア。
再び千鶴と二人きりになって……。
「な、何よ……どうせ変な髪型だと思ってるんでしょう?」
「いや?可愛いと思うぞ。……ふっ……ふふっ……」
「ちょっ!笑わないでよ!」
「笑って、ない、ぞ……ふふっ……」
「もう!千鶴なんて知らない!」
「悪かった……ほら」
「ちょっと……」
拗ねた私を千鶴は抱き寄せて、頭を撫で始めて……。
「……もう、これだけなの?」
「何されたいんだ?」
「千鶴の意地悪。んっ……」
目を閉じて、キスをせがむ。
千鶴の顔が近付いてくるのが分かる。
そして、唇と唇が触れあ……。
「ん……はもの……」
一瞬で千鶴と距離が生まれた。
千歳が起きて、そういう瞬間を見られるのを照れた千鶴がその身体能力を無駄遣いしたのだ。
むう。
照れることなんてないと思うのだけど。
「起きたのか。ほら、包丁だぞ~」
「ほうちょう!ほうちょう!」
「本当に千鶴に似て刃物好きなんだから……」
千歳が刃物以外でテンションが上がったところを見たことがない。
感情の起伏がないというか……。
人見知りな性格ではあるけど刃物に対しては心開くというかなんというか……。
「あ!ちい起きた~!見て見て、ママとおそろい~」
「……そう」
「もう!かわいいとかないの!?」
姉弟喧嘩、とは言わない。
いつもアリアがわーわー言って千歳はそれを聞いているだけである。
それを千鶴と二人で眺める。
それが現在。
それが日常。
平和で、平穏で、明るくて、楽しくて。
とても……幸せな日常……。
「ところでお前はいつまでその髪型なんだ?」
「べ、別にいいでしょ!」
「へへ~おそろい~」
「……ほうちょう」キラン