マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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皆さん、私の活動報告読みました?
読んでない方はぜひ……
少し前にあげたやつですが特報(笑)ということで……


ペットは飼い主に似る

「パパ。犬飼いたい」

 

 休日の穏やかな午前中。

 マリアは仕事があるのでいないため娘と息子と自分だけ。

 しかし二人は子供部屋にいるので静かである。

 そんな静かなリビングのソファに背もたれ新聞に目を通していると急に娘のアリアが駆け寄ってきた。

 子供というものはいつも唐突である。

 

「パパ。犬飼いたい」

 

 何を言い出すかと思えば、これまた唐突であった。

 

「なんだ急に」

 

「友だちの陽子ちゃんの家で飼ってるんだよ」

 

「そうか」

 

 再び新聞に目を通すがろくなニュースがない。

 もっと俺好みの記事はないのか。

 

「ねえパパ!」

 

「……あのなぁ。そう簡単に飼いたいって言うがペットを飼うっていうのはその命を預かり責任を負うってことだぞ。ちゃんと面倒見て、健康に過ごさせる。それが飼い主の責任だ。今のアリアにそれが出来るのか?」

 

「出来るもん!」

 

 そうは言っても子供である。

 いずれペットの世話を親に丸投げする未来が誰にでも見えるというものだ。

 しかし単に否定してやるのもよくないのでここはひとつ。

 

「それじゃあ、五分間そこで動かずじっとして立ってろ。それが出来たらお前を大人として認めよう」

 

「本当!?じゃあやる!」

 

 そう言って気を付けの姿勢で動かないアリア。で、あるが……。

 

「……もう五分経った?」

 

「まだ三十秒しか経ってないぞ」

 

「五分経った?」

 

「五十秒」

 

「五分……」

 

「一分」

 

 そして一分が過ぎた頃……。

 何か、チラチラと目線を動かしている。

 

「ブゥーンw」

 

 なんだ、ハエか。

 新聞に挟まってたチラシの角を千切って、投げる。

 

「ブッ……」

 

 堕ちたか。

 真っ二つになったハエだったものが床に。

 これをティッシュで丸めてゴミ箱にポイと……。

 

「すごーい!どうやったの!」

 

「……お前も大人になれば出来るようになるさ。それより、まだ五分経ってないぞ」

 

「あっ……」

 

 こうして、アリアの五分チャレンジは失敗した。

 ふむ。

 もっと落ち着きというものを持ってほしいのでたまにああいうことをやっているんだが……。なかなか、上手くはいかないものだ。

 対照的に千歳は大人しすぎるので両極端なのだが……。

 

「お父さん」

 

 珍しく、千歳が子供部屋から出てキラキラとした目で話しかけてきた。

 おお、と内心感動するがそれはさておき。

 

「どうしたんだ千歳?」

 

「村正が欲しい」

 

「駄目だ」

 

 前言撤回。

 千歳も千歳でぶっ飛んでいた。

 まったくこの姉弟は……。

 駄目だと言われた千歳は大人しく引き下がり、リビングを去った。

 

『あはは……。いろんなものに興味を持たせようと私の方でも色々しているんですが……』

 

 ひょっこりと現れたセレナがそう言うが、俺とマリアもまた千歳の興味を引く刃物以外のものを探すのに頭を抱えていた。

 

「引き続き、協力を頼む……」

 

『了解です……』

 

 なんやかんや、一番千歳と一緒にいるのが長いのはセレナである。

 なんせ、幼稚園にまでついていくのだから。

 最初それを聞いた時はかなり引いたが、いや、今でも引いている。

 とにかく、千歳の刃物好きというか刃物しか好きにならない性分をなんとかせねば……。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 子供達は寝静まり、リビングで妻と二人。

 仕事の愚痴やらなにやらを聞いていると、急に顔色を変えて話まで変えてきた。

 

「そういえばアリア、愚痴ってたわよ。お風呂で」

 

「愚痴?」

 

「ええ。パパが犬飼うの駄目だ~って子供ながらに嘆いてたわよ」

 

「なんだそのことか……」

 

 まあ、愚痴ぐらいは子供でも言うというものだ。

 

「いいじゃない。ペットを飼うのって子供の教育にも良いし、貴方だって動物は好きでしょ?」

 

「それとこれとは話は別だ。生き物を飼うのには責任が伴う。それに犬を飼うとなると世話はどうする。昼間は俺はいないしお前だっていつもいるわけじゃない。何かあってもすぐにどうこうも出来んし散歩だって満足に出来んぞ。まだ小さいアリア達に任せるわけにもいかないし……」

 

「はいはい。貴方が真面目に考えてるのは分かったから」

 

 マリアに制され話を止められてしまった。

 真面目な話をしていたのに。

 

「貴方の言うとおり昼間は私もいないこともあるし最近は特に忙しかったけど、今後しばらくはあんまり仕事入れないようにしてるし大丈夫よ」

 

「そうなのか?確かに最近は仕事増やしていたようだが、その分の休みか?」

 

「まあ、それも含めてなんだけどちょっとお金が欲しくてね」

 

 なんて奴だ。

 この俺の何十倍も稼いでいるというのにまだ金を欲するのか。

 一体何をしようというのか。

 金持ちの考えることは分からん。

 

「実はね……」

 

 このあと、俺はかなり驚かされることになるわけだが一家の大黒柱がそう言うなら従おう。

 そして、その第一歩というわけではないが……。

 

 

 

 

 

「パパ~。今日はどこにドライブするの?」

 

「まあ、そんなに遠い場所ってわけじゃないが……。とにかく、着けば分かる」

 

 後ろの席に座っているアリアが顔を寄せて訊ねてきたが、なんとなくはぐらかした。

 サプライズ精神というやつだろう。

 それはそれとしてちゃんとシートベルトしなさい。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでやって来たのは犬の譲渡会である。

 保健所に引き取られた犬などの里親を探すための会であり、例えば理由あって飼育出来なくなってしまった犬だとかブリーダーが廃業、規模縮小のために保健所に引き取ってもらって犬などが対象となる。  

 あとは保護団体が主催してるやつとか。

 あと、ただで犬を求めるような会ではないということも理解してもらいたい。

 皆が引き取れるかといったらそうではなく、審査を通る必要があるのだ。

 犬との相性とか家庭環境が犬を飼育出来る環境かどうかとか。

 なので今回は言わばお見合いで相性のいい犬と出会うための場なのである。

 

「ワンちゃんがいっぱいね~。子犬から結構大きい子まで」

 

 ケージの中で元気に動き回ったり、寝たりしている犬達を見ながらマリアが言った。

 

「まあ、引き取られた犬とかもいるからな。それにしても犬も色々いるな……。これは二人も悩むんじゃないか?」

 

 非情なことであるが、ここで引き取られなかった犬達は殺処分の可能性が待っている。

 年間、多くの犬や猫がそうして命を終わるのだ。

 年々、数は減っているとはいえほとんどが動物愛護団体による引き取り。

 しかしそれにも限界はある。

 そんなんだから日本はペット消費国なんて言われるわけだ。

 

「パパー!ママー!来てー!」

 

 そんな重苦しいことを考えているとアリアの声が。

 なんだ、気になる犬が見つかったのか?

 言われた通りに来てみるとそこにいたのはケージの中に一匹だけいる子犬のシベリアンハスキー……なのだが。

 なんだろう。

 自分の弟を見ている時のような……というか、鏡を見ているようだ。

 

「あら可愛いわね~。貴方に似て」

 

「……これのどこに可愛げがある」

 

「あるわよ~。貴方に似てるんだもの」

 

「パパそっくりだよ」

 

 だからどこがだ。

 

「昔から思ってたのよね~。千鶴は犬だって」

 

 色々誤解を招きそうだからその言い方はやめてもらいたい。

 もう一度このハスキーを見るが……。

 

「……」

 

「……」

 

「あら~見つめあっちゃって。可愛いわね~」

 

 別にそんなではないが……。

 

「こんにちはー」

 

「ワン」

 

 アリアが挨拶すると犬はワンと返した。

 意外と愛想が良い。

 

「あら~この子が人に興味を示すなんて~」

 

 譲渡会のスタッフのおばさんが話しかけてきたが、どうやら曰く付きの犬らしいなこいつ。

 

「あまり人には懐いていなかったんですか?」

 

「ええ、まあ……。いつもポツンと一匹でいてご飯の時ぐらいしか人間に用はない!みたいな感じで」

 

 ふん。

 やっぱり子犬のくせに可愛げがない。

 だが、まあ……。

 

「パパ!この子がいい!」

 

「ワン」

 

 既に打ち解けたっぽいな……。

 

「すいませんが、いいですか?」

 

「はーい。ちょっと待ってくださいね」

 

 ケージを開けて、ハスキーを取り出すスタッフだが「こんなに大人しいなんて珍しいわね~」なんて言っていたので今は猫を被っているらしい。

 犬なのに。

 地面に置かれたハスキーはすぐにアリアに近付いて、尻尾を振っている。

 本当に懐いてるらしいな……。

 

「よしよし。お手!」

 

 頭を撫でるアリアは犬であれば誰でも出来ると思っているのかお手をするがそんなこの間まで人に懐いてこなかったやつがするわけ……。

 

「ワン」

 

「えらいえらい!」

 

「あら~初めて見たわこの子がお手するところなんて」

 

 ……。

 

「手懐けられたみたいよ、千鶴二号」

 

「なんだ千鶴二号って」

 

「あの子の仮名」

 

 なんて酷い仮名だ。 

 

「いいじゃない。ペットは飼い主に似るって言うし」

 

「いや、まだ飼い主でもなんでもないんだが……」

 

 ……ん?

 千歳も興味を示したのか犬に近付いていって……。

 

『すごいですよ千鶴義兄さん!千歳君が刃物以外のものに興味を示しています!』

 

 ああ、そうだな……って、来てたのか……。

 それにしても、千歳は犬に近付いて何をする気だ?

 撫でるのか?撫でるのか?

 貴重な瞬間だからカメラを起動しておこう。

 スマホのカメラを起動して構える。

 しかし、俺達の予想の斜め上を千歳は行くのだ。

 

「……ちんちん!」

 

「ワン!」

 

 マリアは盛大に吹き出した。

 千歳と犬の初交流を映すはずのムービーが、大笑いするマリアのムービーになってしまった……。

 まあ、これはこれでいいか……。

 

 

 

 一週間後。

 あの譲渡会を開いていた団体のスタッフさんが訪れて訪問調査ということで、家はちゃんと犬を飼えるかどうかを調べに来た。

 家はペット可のマンションだしそれなりに広いので飼育環境についてはOK。

 あと、ちゃんと世話出来るかどうかだがマリアが昼間は一応いるので(マリアは前ほど仕事を入れていない)これもOK。

 というわけで……。

 

 

 

 数日後。

 

「ワン!」

 

「来たぁ!よしよし」

 

 我が家に新たな家族が……。

 

「よかったわねアリア」

 

「うん!」

 

 いい笑顔を浮かべるアリア。

 さて、犬が来た記念の写真を……。

 

「そういえば、名前はどうする?もう考えたのか?」

 

「決めたよ~!」

 

 いい名前考えたとぐっと親指をたてるアリア。

 自信満々のようだ。

 

「ほう。なんて名前だ」

 

「ふふーん。この子の名前は……二号!お父さんそっくりだからお父さん二号の二号!」

 

「……は、はは……。そうか、いい名前だな……」

 

「でしょ~」

 

「ワン!」 

 

 おい、お前はそれでいいのかと犬……二号に視線を飛ばす。

 すると二号も視線を俺に向けてきて「諦めた」と言ってきたような気がする……。

 

「……どうやら、お前とアリアの名付けのセンスは一緒らしいな」

 

「べ、別にいいでしょ!それに私は仮でそう呼んでただけだし!」

 

「じゃあお前ならなんて名付ける?」

 

「ええと、そうね……ゴルバチョフとか……?」

 

「ママ……。それはない」

 

「なんでよ~!強そうじゃないゴルバチョフ!」

 

「やだ!可愛くないもん!」

 

 母と娘の口論が始まってしまったがまあ平和なものだから止めはしない。

 思う存分言い合えばいいだろう。

 二号もきっと同じことを思っている。

 

「ねーお父さん」

 

「ん?なんだ千歳」

 

「お姉ちゃんは犬プレゼントされたから今度はぼくの村正……」

 

「いけません!」




 
六堂家 に 新たな 仲間 が 加わった !

オマケ

エルフナイン「どうしたんですか六堂さん?こんな時間に電話なんて」 

千鶴『……何か、村正っぽいものはないか』

エルフナイン「それならいま丁度いいものを開発したところです!ぜひ六堂さんにも試してほしくてですね。装○悪○村正っていうタイトルなんですけど……」

千鶴『やっぱりお前は一回捕まった方がいいと思う』

次回?というかいつになるか未定だけど予告!

「マリアさん家を買う」

お楽しみに!

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