マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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日間ランキング5位!
評価バーの色も赤くなった!
戦う覚悟が出来たからですかね…(クウガ脳)
本当にたくさんの方に読んでいただいて高評価もしてもらって感想もたくさんいただいて誤字報告もしてもらって…
気がついたらお気に入りもガイガンより増えて…
それからみなさん聞いてください。懺悔します。
最初、あらすじや1話で婚姻届のことを緑の紙って書いてたんですけど緑の紙は離婚届なんです。
私、勘違いしてました。
報告していただかなければ気づかずそのままだったでしょう。
ガチでピエロです。道化です。
…笑えよ、俺を。


五戦目はGAME

「次からは、ちゃんと連絡してから来い」

 

 こんなことを言ってしまったがためにマリアは遠慮することなく我が家を訪れ、居座るようになった。

 今日も今日とて仕事終わりにちゃんと連絡を入れてからやって来た。

 キッチンを我が領土と言って憚らず、私をリビングのソファへと追いやった彼女は夕食を作っている。

 今日は一体なにが出てくるやら…

 別に不味いわけではないし、むしろ美味しいから助かっているくらいだが後が怖い。

 こうして私の日常を侵食し、いつの間にか我が家に転がりこみ私を追い出す算段なのではないかという不安が襲う。

 

「出来たからお皿持ってって」

 

「あ、ああ。今運ぶ」

 

 ソファから腰をあげてキッチンカウンターの上に置かれたものを見ると…どうやら今日はカレイの煮付けらしい。

 それも丸々一匹。

 私は大丈夫だがマリアは食いきれるのか?

 いや、食うか。

 ばつ印の切り込みから見える白身はしっかりと火が通っていることを証明しているし、匂いも良い。

 醤油、みりん、酒という定番の調味料。

 これらを使って不味くなる方がおかしいと思う。

 カレイの煮付けを見ていると体は正直なもので胃袋がカレイを求めている。

 テーブルに二人分のご飯、味噌汁、カレイの煮付けを並べて二人同時に席についた。

 

「いただきます」

 

「はい、どうぞ♪」

 

 まずはカレイの煮付けから…身をほぐして一口サイズにして口に運ぶ。

 うまい。

 

「どう?美味しい?」

 

「ああ、カレイは冬が旬だからな。しっかり脂がのっている」

 

「それカレイが美味しいって話でしょう。料理としてはどうなの?」

 

 ふくれながら問うマリア。

 あまり褒めると調子に乗るからな…

 しかし、これは普通に美味しい。

 作ってくれたのだから褒めるべきか。

 

「身もパサついてないし味付けも濃すぎずちょうどいい。美味いよ」

 

 そういってもう一口。

 美味い。

 

「さすが私ね!練習した甲斐があったわ!」

 

 ほら、調子に乗った。

 それにしても練習とは…

 

「練習、したのか…」

 

「ええ、そうよ。千鶴のために」

 

 私のために…か。

 正直に言えば、嬉しい。

 自分のために料理を作ってくれる人なんて、そうはいないのだから。

 だが、私には…彼女に返せるものがない。

 私が彼女に出来ることは…

 

「千鶴。私、最近楽しいのよ」

 

 唐突に、彼女はそう言った。

 

「こうやって二人で料理を食べたり、二人で過ごしたり。料理の練習をしたり、色々調べものしたり…普通の日常が色づいてきたのよ」

 

 これまでのことを思い返すような顔をして語る。

 黙って、聞いていよう──

 

「ちょっと前まで、私の日常は繰り返しになってたのよ。楽しくないわけじゃないけれど、どこか平凡で同じことの繰り返し…だけど、料理の勉強したりとかどうやったら千鶴を落とせるかとか考えるようになったらすごく楽しくなったのよ。…だから、ありがとね。千鶴」

 

「そう、か──」

 

 なんと、返せばいいのだろう。

 いい言葉が見当たらない。

 語彙はある方だと思うが、頭の中で最適な返事が出てこない。

 いや、見つかってはいるんだろう。

 ただ、それを言う勇気がない。

 言ってしまったら、何かが崩れてしまいそうな気がして──

 最低な男だと、自分でも思う。

 こんなに彼女から求められているのに、応えることはせず保留しているだけ。

 この保留してきた時間があれば、いくらでも自分より出来た男を探すことが出来たであろうに。

 いたずらに彼女の時間を浪費させている。

 真に彼女を思うなら嫌われる覚悟で彼女を突き放せばいいのに、今の関係、環境が心地いいからとそれを継続している。

 こんな自分が嫌になる。

 私は──俺は──彼女に何が出来るのだろう。

 

「すまない、マリア…もう少しだけ、時間をくれ…」

 

「ええ…いくらでも待つわ」

 

 結局、保留。

 こうして後へ後へと引き延ばすことしか出来ない。

 彼女の優しさに甘えることしか出来ない男なのだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べ終わり、皿洗いを終えるとマリアはリビングのソファの上でぐでーんと横になりテレビのチャンネルを回していた。

 どうやら、彼女のお眼鏡にかなう番組がないらしい。

 やがてテレビを消して通信端末を眺めるがそちらにも彼女が求めるものはなかったらしい。

 やがて彼女は体を起こし、顔をこちらに向けてこう言った。

 

「千鶴、暇」

 

「そうか、なら帰れ。お前の求める娯楽はここにはない」

 

「千鶴、暇」

 

「我が家にはお前が楽しめるようなものはないぞ」

 

「千鶴」

 

「ブラックジャックでも読むか?私のバイブルだ」

 

「あとで読む。…ねえ、千鶴」

 

 暇。

 彼女はそう言った。

 暇。

 暇か…

 暇な時はどうすればいいんだ?

 うーむ…

 

「マリア、最近働き詰めだろうからたまにはなにもしないというのも…」

 

「暇」

 

 暇しか言えないのかこいつは。

 しかしマリアが暇を潰せるようなものなど家にはない。

 

「そうだ、ゲームしましょうゲーム」

 

「ゲーム?悪いが家には…」

 

「そういうゲームじゃなくて、なにも使わないゲームよ。しりとりとか」

 

 なるほど…

 確かにそれならここでも出来るが…

 

「二人のしりとりは地獄だぞ?大人数でやるのが楽しいものだしな」

 

「安心しなさい。私達二人が楽しめるゲームを友里さんから教えてもらったわ」

 

 何故だろう。

 常識人の友里さんが教えたという普通なら信頼できる言葉なのに今に限って不安しかない。

 嫌な予感がする…

 

「その名も!愛してるゲームよッ!」

 

「やらん。帰れ」

 

 ゲーム名を聞いた瞬間、拒絶の言葉が口から出た。

 

 

 

 説明しようッ!愛してるゲームとはッ!

 主に合コンなどで用いられるゲームで隣の人に愛してるという旨の言葉を言って相手を照れさせたり、笑わせるなどすれば勝ち。

 逆に愛してると言われた時に聞き返すことで発言者を照れさせる、笑わせるなどのカウンターもOK。

 そのままスルーして次の人に愛してると言ってもいい。

 しかし、この場合は千鶴とマリアの二人のみ。

 とにかく二人で愛してると言い合わなければいけないのだッ!

 

 

 

 

「嫌よ。やらないと帰ってあげないんだから」

 

 強情な奴…!

 こうなったら絶対帰らないだろう。

 やるしかないか…

 

「分かった…やってやるからちゃんと帰れよ」

 

「やった。それじゃあ負けた方が勝った人のお願いをひとつ、なんでも聞くということで。それじゃあ早速私か…」

 

「待て。それを後から言うのは無しだろう」

 

「ふん!いいじゃない。千鶴は勝って私に帰れって言えばいいんだから」

 

 拗ねはじめたマリア。

 こうなるとめんどくさい。

 

「しょうがない…乗ってやろう」

 

 そう言うとマリアは一瞬で機嫌を直し、すごいやる気を見せた。 

 さっさと終わらせるか…

 

「それじゃあ、私から…愛してるわ、千鶴」

 

「…」

 

 耐えたッ!

 あの世界の歌姫の愛の言葉を耐えてみせた!

 これが日々の精神統一の成果だッ!

 

「むう、つまんないの」

 

「ふん…あの程度で私がリアクションするとでも思ったか?それでは私の番だ。…愛し──」

 

 言葉が止まった。

 待て、待ってくれ。

 私は、こんな歯が浮きそうな言葉を言わなければならないのか?

 精神統一だ、落ち着け。

 そう、ただ口を動かすだけ。

 愛してるの五文字を発すればいいんだ。

 何をそんな躊躇う。

 しかし──

 彼女に愛してるなんて言ったら──

 

「千鶴~?早くしなさいよ~?」

 

 マリアは俺から愛してるの言葉を引き出そうとする。

 言え、言うんだ。

 それだけで済む話だ。

 だから、言え──!

 

「愛し…てる…」

 

 言った!

 言えたz…

 

「千鶴~?今、なんて言ったのかしら?」

 

 聞き返し(カウンター)

 これを言われたら最後、もう一度愛してると言わなければならない…

 そして…

 

「愛し…/てる…//」

 

「はい私の勝ち~!」

 

「ち、違…」

 

「違うとか今の無しとか言わないでよね?あなたは敗者で私は勝者。覆しようのない結果よ」

 

 くっ…

 足掻いてもどうしようもない。

 マリアの言葉のとおり今の自分は敗者。

 勝者の言うことを聞かなければならない…

 

「そうね~何がいいかしら…ねぇ、そういえば」

 

「なんだ…」

 

 急に楽しそうな声音から、冷たい声音に変わった。

 一体どうしたというのか?

 

「私、このゲームの説明してないんだけど千鶴はルール知ってたわね。どうしてかしら?」

 

「それは前に合コンでやったから…」

 

「合コン?結婚願望のない貴方が?」

 

「…まだ結婚願望があった時の話だ」

 

 二課に入ってすぐの頃、先輩に連れられていった合コンでやった記憶がある。

 なかなか盛り上がっていた。

 

「なるほど…それじゃあ私の命令は、このゲームが終わった後、千鶴の昔の話を聞かせてもらう」

 

「別に面白い話はないぞ…ちょっと待て。まだ続けるのか?」

 

「ええ。まだ色々とやりたいことがあるから」

 

 この女はまだこの地獄の遊戯を行おうと言うのか。

 これ以上続けては婚姻届に名前を書いてまで言われてしまいそうだ。

 もし、そうなったら──

 いや、勝てばいい。  

 勝てばいいのだ。

 このゲームに勝ち、これ以上の横暴を許さなければいいのだ──

 

「それじゃあ今度は負けた千鶴が先攻でいいわよ」

 

「そうか…それじゃあ、始めるぞ」

 

 ぐっとマリアに近づき、マリアを見つめる。

 するとすぐに反応があった。

 

「ちょっ…千鶴…その、近いわ…」

 

 勝った──

 

「マリア、愛してる」

 

「ッ/////////」

 

 完全勝利。

 搦め手なし。

 正々堂々と正面から突破した。

 見たか、これが六堂千鶴だ。

 地獄の六班長、六堂千鶴だッ!

 

「今度は私が勝者だな、マリア」

 

「くっ…好きに命令しなさいよ…」

 

「ふん…そうだな…では、さっきの命令をなかったことにしろ」

 

「そっ…!そんなッ!?」

 

「敗者が勝者に口応えするのか?ん?」

 ↑勝ってテンションがおかしい

 

「このままじゃ終われないッ!次の勝負で全てを決めるッ!!!」

 

「いいだろう。望むところだ…」

 

 第三戦──

 いざ、尋常に勝負ッ!!!

 

「千鶴ッ!!!世界中の誰よりも貴方のことを愛しているわッ!!!」

 

「…ふっ」

 

「笑ったッ!笑ったわねッ!!!」

 

「しまった…勢いについ…」

 

「それでは私の願いは国土の割譲…じゃなくて。このマンションの一室ッ!私の物を置いてもいいこととするッ!」

 

「なにッ!?」

 

 やはり我が家を奪おうとする算段だったか…

 しかし、この家の家主は私だッ!!!

 

「私の番だ…マリア…」

 

「…ッ」

 

「愛してる」

 

 耳元で囁く。

 そして──

 

「み、耳はダメ…/////」

 

 勝った。

 望みは当然。

 

「先程の願いも無しだ。ここは──私の家だ」

 

「くっ…いつの間にか同棲計画がこれではおじゃんに…」

 

 マリアに勝った。

 しかし、これで終わりではない。

 次のマリアのターンで私が負ければまた新たな命令が来る。

 そして、次の私のターンで勝って命令を打ち消す。

 これではジリ貧だ。

 このゲームを終わらせるには、私が連勝しなくてはならない。

 次の戦いを乗り切り、私はマリアに勝ってみせるッ!

 

「マイターンッ!!!…六年前から、ずっと貴方のことが好きでした」

 

「え…」

 

「反応したわねッ!!!」

 

「しまったッ!?マイターンからの落差のせいで…!」

 

「ふふ…どうしましょうか…そうだッ!私と結婚しな──」

 

 ピンポン。

 夜分なのに呼び鈴が鳴った。

 郵便?

 

「マリア、ちょっと待ってろ」

 

「え、ええ…」

 

 マリアをリビングで待機させ玄関へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 千鶴を待つこと五分。

 郵便…にしては遅い。

 一体なんだろうか?

 そう思い、こそっと玄関の様子をチラと覗くと…

 

「彼女とイチャつくのはいいけどね、時間帯と声の大きさってのを考えてほしいわけ。わかる?愛してる愛してる愛してるって…今時そんなイチャラブ流行んないのよぉ!!!こちとら三十代独身で彼氏もいないのに隣から愛してる愛してる愛してるって…なに?私への当て付けのつもり?幸せのお裾分け~とか言うやつ?いらないのよそんなものぉぉぉ!!!寄越すなら男寄越しなさいよ男をぉぉぉぉ!!!!!」

 

「本当に申し訳ありません…」

 

 え…さっきのあれ全部聞こえてたの…

 ちょっ…ええ…

 顔が熱くなる。

 鏡で見たらきっと真っ赤だろう。

 やがて、クレームを言いに来た女性は去り頭を下げていた千鶴がふらっと頭を上げた。

 

「千鶴…その…」

 

「言うな…なにも…」

 

 私のほうを見ないでそう言う彼の耳は真っ赤だった。

 彼も、私と一緒で恥ずかしかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、また…」

 

「ああ…また…」

 

 あの後、微妙な雰囲気で言葉もあまり交わさずにいつもの大通りでタクシーをひろって千鶴と別れた。

 今日のことはきっと、二人の間で黒歴史になるだろう。

 お互いに傷つきあったのだから…

 この傷を慰めるべく、私はイヤホンをつけて通信端末の音楽アプリを起動させる。

 

 

 

 

 

 

本日の勝敗

 

 

 

 

 

 

 

『マリア、愛してる』

 

 鼓膜を震わす彼の声。

 あのゲームの時にこっそりと録音していたのだ。

 命令は出来なかったけど、これがゲット出来ただけ良しとしよう。

 彼の声を何度もリピートしながら、タクシーの車窓を流れる夜の街を私は眺めていた──




本日の勝敗 マリアの勝利 千鶴のレア音声ゲット!

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