というわけで怪盗時空です!
摩天楼が建ち並ぶ夜の街は、けたたましいサイレン音とパトカーのパトランプの赤い光に包まれていた。
パトカーの群れは新都美術館の駐車場を出て都心へと向かって駆ける。
警察がこのように街を疾駆する理由はひとつしかない。
事件である。
大勢のパトカーが目指す新都美術館では古代シュメール展なる催しが行われていた。日本に運び込まれた考古学的にも貴重な展示物。なかでも目玉となっていたのが女神ザババの武器、イガリマとシュルシャガナ。
そんなイガリマとシュルシャガナを狙うと予告する時代錯誤も甚だしい怪盗が現れた。
最近、巷を賑わす怪盗姉妹「ファントムシスターズ」である。
一ヶ月前に初めての犯行を行い「アメノハバキリ」、「イチイバル」、「ガングニール」の三点がこの数週間のうちにこの姉妹に盗まれた。
予告を出されたとあっては警察としても警備に出ざるを得ない。それに警察はファントムシスターズに連敗中。警察の威信をかけて、なんとしても逮捕しなければならなかった。
万全の警備態勢を整えて臨んだ犯行予告時刻。
警察はまたしても敗北した。
捜査チームを率いる友里あおい警部は唇を噛んだ。
だが、まだ敗北が決まったわけではない。
すぐに追跡して確保する!
そう意気込んだ警官達がパトカーに乗り込んでアクセルを吹かす。
何台ものパトカーが街を駆け抜ける。
しかし、急に前のパトカーが停止した。運転する藤尭君が急ブレーキを踏みなんとか衝突は防げたが一体…?
車を降りて様子を見るとなにやら人だかりが出来ている。
前の連中はなにをしている。こちらは追跡中だから民衆に道を開けるように呼び掛けろと言ったというのに……。
直接文句を言ってやろうと思ったが、警官達は空を見上げている。
まさか……!
警官や民衆達と同じ方向に目線を向ける。
奴等はビルの屋上、満月をバックに地上を見下ろしていた。
そして毎度の如く名乗りをあげる。
「鮮やかに、華麗にッ!」
「神出鬼没にして正体不明ッ!」
「夜空より音もなく舞い降りる…2輪の花ッ!」
「狙った獲物は逃がさない───」
「「私達は、怪盗ファントムシスターズッ!」」
民衆は熱狂する。
現代に現れた義賊に。
この光景に友里は激怒した。
挑発的なパフォーマンス。警察を嘲笑っているかのようだ。
絶対に……絶対に逮捕してみせる。
友里はファントムシスターズを睨み付け、数度目の誓いをたてたのである。
民衆が熱狂する中、男は一人背を向け人混みから去った。
ここにいる民衆のような熱狂は男にはなかった。
ただ、静かに男はその場を去ったのである。
そして、男は夜の街に消えていく。
あるひとつの思いを胸に抱きながら───。
(あの歳であの格好。恥ずかしくないのかマリアは?)
大通りに面した、昔ながらの純喫茶「喫茶カデンツァ」は以前のマスターが足腰を悪くしてから、そのマスターの娘分である姉妹が営んでいた。
そして、その店の一番奥のテーブル席が俺の指定席である。
「怪盗ファントムシスターズ。古代シュメールの秘宝を華麗に奪い去る、か…」
どこの新聞も一面は昨夜の怪盗騒ぎで持ちきりだ。もう少し世間は別の話題にも目を向けるべきだ。例えば、最近研究で明らかになったヘビに睨まれたカエルは臆して動かないのではなく、先に動くと不利になるから相手が先に動くのを待っているという研究結果とか……。
世間はみんなが思っているより不思議と発見に満ちている。分かりやすい話題にばかり食いついて全くけしからん。もっと知る喜びというものを知るべきではないだろうか日本国民よ。
これでは国民総ミーハーだ。
もっと生命の神秘というものを感じろ。
「へ~カエルってすごいのね~。で、注文は?」
「モーニングセット」
「はいはい。毎度毎度モーニングばっかりで飽きないの?」
「飽きないな。旨いから」
そう返すと、どこか上機嫌になったこの店のマスター『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』はキッチンへと消えていった。
まあ、機嫌がいいに越したことはない。
さて、モーニングセットが来るまでの間にちゃちゃっと昨日の報告書作っておくか……。
「おはようございます千鶴さん」
PCに集中しようとした瞬間、聞き慣れた声が挨拶してきた。
マリアの妹のセレナだ。
「ああ、おはよう」
「何してるんですか?」
作業に取りかかろうとしていたPCの画面を覗きこむセレナ。彼女は俺の仕事に興味があるようでよくあれこれ聞きに来たり、あわよくば仕事に同行しようとする。それは流石に断っているので話ぐらいはしてやるのだ。
「昨日解決した件の報告書作り。まあ、そんな書くことはないんだがな」
「昨日解決した件って確か……猫ちゃん探しでしたよね!」
「ああ。猫探しは歩き回って疲れる……」
まあ、その猫の行動パターンさえ知れば絞り込みなど出来るのでなんとかなると言えばなるが。
ふと、腕時計に目をやるとあることに気付いた。
「セレナ。そろそろ学校に行った方がいいぞ」
「えっ?あ、もうこんな時間……。いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
キッチンから顔を出したマリアがセレナを見送る。
俺も軽く手を振って見送る。
元気に学校に行く姿には自分にもそんな時期があったなぁなんて思わされる。
「いや、千鶴はいつも面倒くさそうに学校行ってたじゃない」
モーニングセットを運んできたマリアがそんなことを言う。
いやいや、俺も年並に元気に学校に行って……。
「……そうだったかもな」
記憶を探ってみたが元気に学校へ行った記憶がなかったので恐らくマリアの言う通りなのだろう。
なんやかんや小中高と一緒に登校していたので間違いはないはずだ。
「ところで千鶴。今日は仕事入ってるの?」
やけにいい笑顔を浮かべたマリアがそう訊ねてきた。
こういう時は大体決まっているのだ。
「……今のところは何も入っていない」
「そっか。じゃあ、お店手伝って♪」
……いつものことであるので別にいいが。
朝食を食べて、報告書を作成したら手伝ってやろう。
開店からのモーニングの時間が過ぎると今度は昼まで暇な時間帯となる。
まあ、ぼちぼちと客は入るが少し休むとかコーヒーだけ頼んでお喋りに興じる奥様方とかそんなもんである。
そして、今は……閑古鳥が鳴いている。
あとは適当につけたテレビのワイドショーの音。
そんな暇だからといって何もしていないわけではない。
こうして今も包丁を研いでいる。
まったく包丁の手入れを怠るとは……。
「千鶴が手入れし過ぎなのよ……。おかげでよく切れて助かるけど」
ちゃんと手入れすればいいだけである。
まったく……。
『次の話題はこちら!昨今世間を賑わす怪盗姉妹ファントムシスターズが昨日も現れたということで……』
ふと、気になる話題だったのでチラリと目線を移した。テレビの画面には大きくファントムシスターズの写真が。……どこで撮ったんだ?いや、パフォーマンス好きな奴等だからテレビ局に写真を送り付けたのかもな……。
そして更に目線を移す。
「ん?なに?」
マリアはそう言ってテレビのことなんて全く知らぬような顔を向ける。
うーん……。
こいつがファントムシスターズの姉の方なんだよなぁ……。
少し、鎌をかけてみるか。
「昨日も出たんだな、ファントムシスターズ」
まあ、よくある会話の入りである。
ファントムシスターズは正に世間の話題となっているファントムシスターズなのだから会話にはあがるだろう。
まあ、当の本人に話題を振るのはどうかと思うが……。
「ファッ、ファッ、ファッ!ファントムゥ、シ、シスターズがな、なんですって!?」
めちゃくちゃテンパってる……!
ここはもう少し攻めてみるか。
もっと面白い反応が見れそうだ。
「ファントムシスターズの姉の方って多分俺達と同じぐらいの歳だと思うんだがあの格好恥ずかしいとか思わないのかね。それにあんな口上まで……」
「べ、別に恥ずかしくなんてないんじゃないかしら?セセ、センスは人それぞれだしぃ?」
なんとか誤魔化しながら洗い物をするマリア。
しかし、皿でスポンジをこすっているぞ。
逆だぞ逆。
「昨日は新都美術館からシュメール展の目玉が盗まれたんだってな。それでそのあと大体的に名乗りを上げて……。昨日はちょうど近くにいたから見たよ。すごい熱狂だっ……」
「あ"っ/////」
バシャッと、食器を洗っていたマリアの顔に水がかかった。
何をどうしたらそうなるんだ……。
変な声も出てたし……。
とりあえずタオルを棚から取り出してマリアに渡す。
「あ、ありがとう……」
タオルを受け取ったマリアの顔は真っ赤であった。
それも耳まで。
「おい、顔がやけに赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」
「だ、誰のせいよ!」
顔を拭いたタオルを俺に向かって投げつけたマリア。
そのまま店の奥へと走っていって……。
やれやれ……あれで本当に怪盗が務まるのかね……。
さて、代わりに洗い物をしてやるか……。
「でしょ~!それで三角さんったらびっくりしてぎっくり腰しちゃって!」
「まあ~大変!それでどうなったの!」
急にお客さんが来たので慌ててホールへ出ていらっしゃいませと挨拶……。
なんだなんだこの団体は。
ざっと見ただけで十人以上いるぞ……。
とんでもない主婦集団がやって来た……!
「あ、お兄さん。注文なんだけどね。水島さんがコーヒーセットでケーキがチョコレートケーキで戸山さんが抹茶オレで吉岡さんが……」
あわわ……。
待て待て待ちなさい。
流石にこの人数の注文を一度には聞けないし、一人ではさばけないぞ!
「しょ、少々お待ちください……」
下手くそな愛想笑いを浮かべてキッチンを通り過ぎ、階段を登って住居エリアへ。
わりと真面目な救援要請を出すのだ。
マリアの部屋の前で助けを請う。
「おいマリア!お客さんだぞ!俺一人だと厳しいから来てくれ!なぁ!さっきのは俺が悪かったから!」
いや、さっきのは俺が悪かったか?
あいつが勝手にテンパっただけではないだろうか?
しかしこんなことをマリアの前で言ったら怒らせて余計に出てこなくなる。
というわけで下手に出よう。
「頼む!お前が必要なんだ!だから、出てきてくれ……」
精一杯頼み込む。
すると、ドアがゆっくりと開いて……。
「しょ、しょうがないわね……。行ってあげるわよ……」
頬を赤くしたマリアが恥ずかしげにそう言った。
チョロいな……。
将来が心配になるレベルでチョロいぞ。
しかし厨房、ホールに立つマリアほど頼りになる者はいない。
伊達に小さい時から店を手伝っているわけではないのだ。
それに、ナスターシャさんが足を悪くしてから後を継いでしっかり店を切り盛りしているのだから本当にマリアはすごい。
まあ、マリア目当ての男性客が多いからなのだが……。
少し、腹がたってきた。
俺の前を歩くマリアの頭を掴んでわさわさと乱暴に撫で回す。
「ちょっ……!何するの!」
「別に、なんでもない」
「なに拗ねてるの」
「なんでもないったらなんでもない」
髪を直しながらホールへ向かうマリアを見て少しホッとする。
やはり、マリアには元気に笑顔を振りまいてもらいたいのである。
怪盗に関しては……なんのためにしているかは分からないが早いところ足を洗ってほしいものだ。
今はなんとか上手くいっているがここから先はどうなるか分からない。
それに……。
好きな人が逮捕されるところなんて見たくないのだ。
全然怪盗してねえじゃねえかということで続きそうな怪盗時空。
設定はとりあえず
・千鶴とマリアさん幼馴染みで同級生。
・シンフォギアとかノイズは出ない。
・なんか悪の組織が聖遺物悪用しようとしてるから聖遺物を取り戻している。
・マリアさんとセレナの歳の差が結構離れてる(多分8歳差くらい)
的な感じ。
喫茶店はもうあれよね。
某猫の目から。
オマケ
客のおばさん「ねえ、さっきのお兄さんは?」
マリア「彼はキッチン担当なので……」
おばさん「あ~らそうなの?彼から接客されたかったわ~」
おばさん2「戸山さんここはあれよ!イケメンの手料理が食べられると思えばいいのよ!」
おばさん「それもいいわね!おほほほほ!」
マリア「……」
マリア「千鶴!あなたは何もしなくていいわッ!私が全部やるッ!!!」
千鶴「いやいや待て待て。時間かかるだろう」