マリアさんは結婚したい   作:大ちゃんネオ

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マリアさんの誕生日2021

 蒸し暑い帰宅途中。

 家の近くの掲示板に貼られたポスターに目がいった。

 

「夏祭り、か」

 

 近所の神社で行っている毎年恒例の祭り。

 開催日は7日と8日。

 7日はマリアの誕生日でもある。

 みんなで祭りに行くのもありかもしれない。

 あまりない機会だろうし。

 

 

 

 

 

「ママ~。浴衣ほーしーいー!」 

 

 家に帰るとすぐ、絶賛アリアが夕飯の支度をしているマリアに浴衣をねだっていた。

 

「浴衣?」

「うん。今度夏祭りあるから浴衣着て行きたいの!」

 

 なんてタイムリー。

 この流れでマリアも~と誘えればことはスムーズなのだが。

 

「浴衣ねぇ。どうせお祭りの時しか着ないんだから。それに来年になったらアリアも成長して買った浴衣も入らなくなっちゃうかもでしょ。もったいないわ。だからダメ」

「えー!」

 

 えー。

 そんな、俺の何倍も稼いでるんだからそんな気にせず買ってあげたらどうなんだ。

 子供の一夏の思い出を悲しい思い出にするつもりなのか?

 こういうのは一生尾を引くぞ。

 まあ、節約するとか無駄を減らすというのは大事な考えではあるが。

 

「パパ~! 浴衣買って~!」

「あ、こら! パパに言ってもダメ!」

 

 抱きついてくる娘、キッチンから鋭い眼差しを向ける妻。

 

「パパ……」

 

 上目遣いで甘えてくるアリア。

 

「千鶴? 分かってるわよね?」

 

 笑顔だが目が笑っていないマリア。

 

 究極の選択。

 しかし、今の俺は……!

 

「まあそうカッカしなくていいだろう。折角の夏休みだしな。思い出作りだ。明日、買いに行くか」

「本当! やったー!」

 

 嬉しくて小躍りする娘にホッコリすると同時に妻の厳しい視線が突き刺さる。

 

「ち~づ~る~。また甘やかして!」

「たまにはいいだろう」

「全っ然たまにはじゃないの千鶴は! お菓子とかおもちゃとかいっつも買って!」

 

 そうだろうか?

 ほどよく平均的な、甘やかしの部類には入らないと思うが(※千鶴基準)

 そこから数時間、マリアの鋭い視線に切り刻まれることになる。

 アリアと千歳が寝て、夫婦二人の時間。

 冷房をつけていなければ嫌な暑さを感じる熱帯夜に包まれていたであろう。

 

「本当に千鶴はすぐ甘やかすんだから」

「まあそう言うな。子供の時の思い出というものは大人になってから大事になる……らしい」

 

 自分もマリアも一般的な幼少期というものを過ごしていない。

 そういう経験のせいか自分の子供達には他の子供達と変わらない生活をさせたいという思いがある。

 

「……確かにうちはお金の心配はないけど、だからこそ金銭感覚とか大事にしたいのよ」

「お前の考えも大事なものだし俺もそう思う。けどまあ、今だからこそ出来ることというのも大事にしたくてな。そのうち歳を取ってくるとやりたいと思ってたことも出来なくなってしまうかもしれない。だからまだお互いに体力があるうちに、な?」

 

 マリアは視線をテーブルに向けている。

 少し考えてから目を俺に合わせると、小さく笑みを浮かべた。

 

「そうね、お互い体力があるうちにね」

「ああ。若いうちにな」

「老けたって言いたいの?」

 

 むう、と抗議を訴える目だが全くそんなつもりで言ったわけではない。

 同年代と比べたら、というか比べるまでもなくマリアの見た目年齢は若い。

 いや、見た目年齢だけでなく血液やら何やらとかそういう年齢も若いのだろう。

 そんな感じのことを伝えるとマリアも機嫌が良くなったようで話を戻した。

 

「まあ折角だ。家族全員で浴衣着て行くというのはどうだ?」

「いいわね! けど着付けは……」

「一人で出来ないというわけでもない。帯ぐらいは結んでやるさ」

 

 そういう感じで明日は浴衣を買いに行くので早く寝ようということになり就寝。

 翌日、浴衣を買いに行ったのだが……。

 以前にも言ったと思うが女性の買い物は長いものだ。

 あれやこれやと選ぶのにかなりの時間を要した。

 店員さんと話も盛り上がっていたし。

 それがマリアだけならいいがアリアもマリアに似て買い物が長いこと長いこと。

 なんなら俺と千歳の分まで二人が選び出したので大変だった。

 千歳とは趣味が合うのか似たようなというかサイズが大人か子供かという違いしかないシンプルな無地の黒いものにした。

 マリア達が選ぶやつはこう、スーパー時代劇みたいなので好かんのだ。

 

「似合うのに」

「似合うのに~!」

 

 まあ、その、なんだ。

 似合ってるかもしれんがその派手な色と柄のを着て歩く勇気が俺にはないのだ。

 

「ぼくにも、ない」

「息子よ、お前だけだ理解者は」

 

 男二人、疲れ果てて帰った買い物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして夏祭り当日。

 浴衣姿の人達も大勢いるがその中でもマリアはやはり目立っている。

 変装しなくていいのかと訊ねたら、「そんなの気にせず楽しみたいし、みんなお祭りに夢中でしょ?」とのこと。

 いや、普通に目立ってるんだが。

 

「それにしても……」 

 

 白地に朝顔の柄の浴衣姿という普段とは違う姿はやはり見惚れるものがある。

 髪型もポニーテールにしていて、その、なんというか、語彙がなくて申し訳ないが美しい。

 身内褒めではなく、本当に。

 

「なぁに千鶴? もしかして見惚れてたの?」

 

 悪戯な笑みを向けるマリア。

 からかうつもりなのだろう。

 だけど俺は常にそういう点ではお前の上を行くのだ。

 

「ああ。見惚れてた。綺麗だ、マリア」

「……もうっ!」

 

 照れるマリアもまた良いものだ。

 夏の夜、出店の照明に照らされるマリアの姿は幻想的とも言える。

 

「さて、照れるマリアも拝んだことだし出店で何か買うか」

「そんなもの拝むな! ……まあ、それには賛成だけど」

 

 そうと決まれば早速何か一食、夏祭りらしいものを食べたい。  

 友達を見つけたアリアは千歳を連れてそちらに行ってしまった。

 迷子にならないか怖いし心配なので目につく範囲にいるようにしている。

 仕事で培った技術がこんなところで役に立つとは思わなかった。

 

「それで、何がいい?」

「ちょっと待って、今本当に悩んでるから……。たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、りんご飴、わたあめ、チョコバナナ……」

 

 真剣に悩んでいる。

 マリアの食に対する執着は本当に強いのでこれはしばらく悩むだろう。

 

「別になんでもいいぞ?」

「そうだけど! 体型維持とかのこと考えると大変なのよ」

「折角の祭りでそんなこと気にするな。それに、祭りは食べることだけじゃないしな」

 

 目に付いたのは金魚すくい。

 これも祭りの定番である。

 金魚すくいの金魚はすぐ死ぬからとか家じゃ飼えないからダメと言われることも多いと聞くが金魚すぐ死ぬ問題については色々と物申したいことがあるが今はいいだろう。

 

「金魚すくいやりたい!」

 

 金魚すくいをやる気配を感じたのかアリアと千歳が戻ってきた。

 こういう時の勘はいいのだ。

 折角だし俺もやるか。

 出店の主人に四人分の代金を渡してポイと金魚を入れるカップを受け取る。

 そうして金魚すくいの上手なやり方を教える。

 

「ポイはゆっくりと動かす。網のところを上に向けたまま並行移動して……こう」

 

 見事一匹、金魚を掬えた。

 説明した手前、掬えなかったら恥ずかしかったので面目躍如である。

 

「すくえた!」

「すくえた」

 

 なんと、まさか掬えるとは。

 飲み込みが早くて鼻が高いぞ父さん。

 

「……せいッ!」

 

 ばしゃっと、波に襲われた。

 突然のことで俺も固まってしまった。

 

「あ、あら?」

 

 気まずそうな顔を浮かべるマリア。

 俺は食らった水が滴っている。

 

「何をどうしたらそうなるんだ……」

「いや、その、あの子が可愛いなぁと思って掬おうと思ったらつい力が入って……」

 

 なるほどそういうことかと金魚すくいのご主人から借りたタオルで顔を拭く。

 流石元装者、ひどい目にあった。

 そして当然だがマリアのポイは破けている。

 ポイが破けたら金魚すくいは終了であるが俺のポイは未だに無傷。

 ……ふむ。

 

「どの子だ」

「あの子」

 

 指を差したのは琉金という種類の金魚で丸い身体にヒラヒラと広がる尾鰭が特徴の金魚。

 泳ぐのは遅いので狙われがちだがその体型故にポイ殺しだったりする。

 

「俺が掬おう」

 

 一度使ったポイということで不安はあるが果たして。

 精神を研ぎ澄まし……。

 ぽいっと。

 

「ほら、掬ったぞ」

 

 ポイは破けてしまったのでもう終了であるが、なかなか面白かった。

 ご主人に渡して袋に入れ替えてもらい受け取る。

 

「はいこれ。奥さん美人だからサービスね!」

「あら、お上手ね」

 

 祭りというとこういうところも確かにあるなと思う風景である。

 美人は得するんだなぁ。

 

 

 

 

「次はチョコバナナよ!」

 

 金魚すくいから吹っ切れたのかマリアは全力でお祭りモードに。

 体重がどうの言っていたのも忘れ、出店で出ている料理をコンプリートする勢いだ。

 

「待て、俺も買う」

 

 二人で並んでチョコバナナを買う。

 アリア達は再び友達のところへ行ってしまった。

 向こうの親御さんがいるので万が一にはならないだろう。

 そうして二人で並んで少し歩いていると、マリアが静かな口調で言った。

 

「少し疲れちゃった。ちょっと休まない?」

 

 そうか、と静かな境内の方に向かう。

 明るい喧騒から静かな夜の優しい暗がりへ。

 二人で適当に腰掛ける。

 そこから沈黙。

 もう、この沈黙すらも心地いい。

 しかし、言わなければならないことがある。

 

「マリア。誕生日おめでとう」

「あ、そうだった。お祭りで忘れてたわ」

 

 てへと小さく舌を出す。  

 祭りの気分にあてられたようだが仕方ない。

 それだけ楽しんでいたということだ。

 

「ほら、プレゼントだ」

 

 ありがとうと受け取り、開けていいかと問われたので問題ないと答える。

 箱の中には簪。

 

「まあ、あまり使うことはないと思うが……」

「その言い方は何か意味がありそうね」

 

 こういう時に限って、勘がいい。

 まったく……。

 

「昔から、簪は……プロポーズの時に送るものだそうだ。あなたを守りますとか、そういう意味があるらしい」

「ふぅん。ふふ、嬉しいわ。ありがとう千鶴。ねえ、知ってる? 浴衣の柄にも意味があるのよ」

 

 浴衣の柄に意味が?

 それは初耳である。

 

「店員さんに教えてもらったんだけどこの柄、朝顔はね、固い絆と……愛情」

 

 耳元で、ここにはマリアと俺しかいないがマリアは俺にしか、俺にだけ聞こえるように言葉を紡いだ。

 

「いつもありがとう。愛してる、千鶴」

 

 ああ、全く、敵わない。

 マリアを見る。

 少し、潤んだ瞳といつもと違う姿のマリアに心がざわつく。

 そして、静かに口付けた。

 

 




オマケ

「……そういえば金魚どうするの? 水槽とかないわよね?」

「……買って帰るか」

 閉店間際のホームセンターに駆け込んで水槽等を買い揃えた。
 金魚の飼育セットみたいな感じで売られていたので助かった。
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