またもやTwitterで某イラストを見てフォロワーさんとお話してたら出来ました変な回ですよろしくお願いします。
もう何度もお世話になっているレコーディングスタジオ。既に収録は終わり、今回一緒に仕事をさせてもらった方と帰る前に少し話す。
50代くらいの、とある作品のプロデューサーをしている方でとても物腰柔らかな優しそうなおじさん……おじ様と言った方が似合いそうな方だ。
「いやーマリアさんこの度はありがとうございました。まさか劇場版うたずきんの主題歌を担当してくださるなんて。オファーを出すだけ出して断られるものだと思ってましたよ全員」
「いえそんな。娘がうたずきんの大ファンなので、私が構ってあげられないときはうたずきん見せればおとなしくなるので助かってます。なのでその恩返しのつもりです」
「あはは、そうでしたか。それでは娘さんに今後ともよろしくと。ああそれと今回のお礼ということでこちらどうぞ」
大きめの紙袋を受け取りお礼を言う。
中身が気になるがそれは帰ってからのお楽しみということで。
また少し談笑してからスタジオを後にした。
数時間後。
トウ映アニメーション本社。
「ん? なにこのお菓子。食べていいやつ?」
「え? それマリアさんに渡すはずのお菓子じゃないですか! 私が買ってきたんで間違いないですよ!」
「えぇ!? じゃあ僕違うの渡しちゃったよ。なに渡しちゃったんだ……」
「すいませーん。今度のイベントでコスプレイヤーの方に着てもらううたずきんの衣装が見当たらないんですが。あ、ちょうどそんな感じの紙袋に入ってました。誰か心当たりある人いませんか~」
その時、うたずきんのプロデューサーと部下は身体中から汗が吹き出た。
時間は巻き戻ってマリア視点。
このスタジオは家から近いので帰るのも楽チンでお気に入りのスタジオだったりする。
それにしても今日は絶好調ですぐに満足いく出来のものが録れた。おかげで帰りも早い。まだお昼で日が高い。
アリアと千歳のお迎えまでに収録を終えようと思っていたけれど時間に余裕が出来たので家で少しゆっくりしよう。
ただいまと人のいない我が家に帰宅。
おかえりという返事がないのはやはり寂しい。しかし最近では珍しい一人の時間。こういう時にしか出来ないことでもやろうかしらなど考えたけれどまずはいただいたお土産が何か気になるのでまずはそちらのご開帳。
お菓子かしら、お菓子がいいわ、ちょっと早めのおやつにしましょう。そんなことを思いながら紙袋から取り出したものは……。
「……え?」
服。
というより衣装。
それも、うたずきんの。
コスプレの。
てっきり子供のなりきり衣装かと思ったらサイズはしっかり大人用。
「……私でも着れそうね」
そう言って自分でいやいやとつっこむ。
着れそうなサイズではあるけどそんな……。
仕事で少し外に出ていたのだが昼食をまだ摂っていなかった。どこかで食べようかコンビニで済ませようかと考え、そうこうしている間に家の近くに来ていたので家で食べようと立ち寄る。
さくっと食べて仕事に戻ろう。
「着ちゃった……」
姿見の前でうたずきんとなった自分を見る。いま絶賛放送中のうたずきんGXは「ちょっぴり背伸びパワーアップ!」がキャッチコピーのようで衣装もこれまでと較べてセクシー系に。ギアインナー並みにピチピチ……だしフリフリしてるし……。
……少しきつかったのはきっと私より少し背が低い人向けに作られたものだからかもしれない。
決して産後太りだとか代謝が落ちてきたきたとかではない……はず。
「って、なにやってるんだろう私。まったくもういい歳なんだからこんな格好してるところを見られたら千鶴になんて言われるか……。え────」
ガチャリと扉が開く音がしたので目を向けるとそこには千鶴が立っていて……。
「……」
「……」
「待って千鶴誤解しないで!」
バタンと扉を閉めて、千鶴は何も言わず行ってしまった。
こんな格好してるところを見られたら何を言われるかと思ったが現実は何も言われず、目を背けられ立ち去られてしまう……。
私は一人、魔法少女の格好で取り残される。
現実に打ちのめされ、膝から崩れ落ちた……。
「というわけなのよ……」
「な、なるほど……」
調を緊急召集し、事の顛末を言いたくはないが調なら信頼出来ると打ち明けて今後の私の身の振り方を考えなければならない。
なんとかして千鶴の誤解を解かなければこれが原因で夫婦の間に亀裂が入るかもしれないし……。
「誤解も何もただマリアがその……コスプレしてたって事実はどうしようもないから……」
「それはそうだけど……。なんでコスプレしてたかってことに変な誤解をされたくはないじゃない。だからその千鶴が納得いく理由を千鶴に話さないといけないの!」
「納得いく理由って言ってもマリアがコスプレしちゃったのは興味本意でしょ? だったら正直に興味本意で着ちゃっただけって言えばいいとは思うけど……」
「それを千鶴が聞き入れてくれるか……」
二人で頭を悩ませる。
しばらく無言が続き、一度頭を休ませようと私は紅茶に手をつける。
調も紅茶を口に運ぶ。だが、その手は微かに震えていた。
「……ふっ……ふふっ……ぶふぅっ!」
「調!?」
紅茶を飲んだ調は盛大に紅茶を吹き出した。調がそんなことをするなんて!
紅茶はなんの変哲もない味だったはずなのに一体これは……?
「ご、ごめんなさいマリア……。しょ、正直ね、ずっと、笑いをこ、堪えてて……ふふっ……」
信じていたはずの調に裏切られた。
調だけは真面目に聞いてくれると思っていたのに……。
「もう調ぇ!!!!」
家に帰れずにいた。
気持ちが落ち着くまでデスクワークしてやろうと思ったがそれも終わってしまい手持ち無沙汰となっている。
このまま職場に残り続けてもいいがそれでは部下達が帰りづらいだろう。いい加減ここから出るか……。そのあとは、そのあとは……。
「俺はどこに帰ればいいんだ……」
独白は誰の耳にも届かないと思っていた。
「そんなの、家に帰ればいいに決まってるじゃないデスか」
俺の独り言は暁の耳に入っていた。
家に帰ればいい。ああ、そうだろうとも。
だが……。
「……マリアに合わせる顔がないんだ」
「なんデスか、夫婦喧嘩デスか。マリアを泣かせるんじゃないデスよ!」
「いや、喧嘩ではないんだ。夫婦仲は至って良好だ昨晩も子供を寝かしつけたあと……」
「あー惚気はいいデスから! なにがあったか言うデスよ」
救いの手が差し出されたと思った。その手を取れば楽になると、手を伸ばす。だが、ここで話してしまってもいいのだろうか。
少なくともマリアはあの瞬間恥ずかしかったはずだしあんなことをしているマリアを見たのは初めてだ。俺以外の人間にも隠してやっていることなのかもしれない。ならばそれを隠す方がいいのだろう……。
「いや、やっぱりいい。帰る」
「自分だけで悩みを解決する気デスか! それで本当に解決出来ると思ってるんデスか!」
……それは。
それは、分からない。
一人で考えても答えが出る保証はない。ならばせめて二人で考えればいいのかもしれない。だがマリアのあれを他人に広めるわけには……。
……いや、暁はマリアとの付き合いなら俺よりも長い。マリアを大事に思ってくれているからきっと悪いようにはならないはずだ。
ひとまず、なにがあったかは濁して相談するのはありだろう。
「……実は昼間、家に立ち寄った時にだな、マリアが一人でその……
「
「ああ、まさかマリアがそんなことをしているなんて思ってもみなかった……。あまりのことに俺は何も言わず立ち去ってしまった。だから、マリアにどんな顔して会えばいいのか分からないし逃げ出してしまった自分が何より許せない……!」
暁はただ静かに俺の話を聞いてくれていた。
そして俺を叱咤するかのように強い語気で彼女なりの解答を口にしたのだった。
「いいデスか! もしも自分の妻が一人でそんなことしてたらそれは寂しいからデス!」
「寂しいから……」
「そうデス! 男は自分は家族サービスやらなにやらよくやってると思いがちデスが女は隠れて静かに悲しんでるんデス!」
そう、だったのか……。
俺はしっかりマリアとの時間を作れていると思っていたが本当は寂しい思いをさせていたのか……。だからあんな奇行に走って……。
「暁、そんな時に出会してしまったら男はどうしてやればいいんだ!」
答えを求める。
マリアと同じ女性である暁ならその答えを持っているはず……!
「そんなの決まってるデス! 抱いて愛を囁けばいいんデスよ!!!」
おお……。
なんだか今日は暁が大きな存在に見える……。
「……ありがとう、暁。俺は、行くよ」
「行ってくるデスよ、マリアのもとへ。今夜は長いデスよ!」
暁に背中を押され、家路につく。
そうだ、そもそもあの格好も次のライブ衣装だったのかもしれない。いやきっとそうだろう。なにをコスプレなどと思っていたのだ俺は。単にマリアは仕事を家でしていたのだ、そのトップアーティストたらんとするマリアに敬意しかない。帰ったら似合っていたと伝えよう。
答えは得た────。
待ってろマリアいま行くぞ!
「あ、そうだったんですね~。私はてっきり娘が大きくなったら着る用とかなのかと思って……。ああ、いえいえそんな! 私がそちらに伺いますので、ええ、今度近くで仕事があるので、ええ、ええ。大丈夫です。はい、はい……。それでは後日お伺いしますので~。ええ、それでは失礼します……」
あの後、一度アリア達のお迎えに行って帰ってくるとほぼ同時にトウ映アニメーションのプロデューサーから電話がかかってきて、あの衣装はイベントでコスプレイヤーさんに着てもらう用のもので間違えてお渡ししてしまったとのこと。
「向こうが間違わなければこんなことには……」
「けどそれを着るのは流石にマリアが……ぷっ……」
「調?」
「な、なんでもない」
あの呪われた衣装のせいで全てが狂ってしまった。そうあれのせいにしたいけれど私が興味本意で着たりなんかしなければ……。
「ママ~。今日のご飯は~」
「あっ……。そうね、今日は調が来てるからお寿司でも取りましょうか」
「お寿司!」
「夕飯になったら呼ぶからアリアは千歳と遊んでて。ママは調お姉さんと大事なお話があるから」
「わかった! お寿司! お寿司!」
アリアが聞き分けのいい子で良かった……。こんな話、子供に聞かれたら……。
「大事な話……ふふっ……」
「調~?」
「ご、ごめんなさい……。けどもうツボに入っちゃって……あ、あとお寿司ご馳走さまです」
「まあ、相談にのってくれたお礼ということでね」
さて、話し合いを続けようと居直ると玄関の方から音が。アリアの「パパおかえり!」という声もした。
「千鶴……帰ってきちゃった……」
「帰ってきちゃったね……」
心の準備をしようとしても玄関からリビングまで目と鼻の先である。そんな暇はなく……。
「帰ったぞ」
「あ、え、お、おかえりなさい。ほ、本日ぅはお日柄も良く~」
「なに言ってるんだマリア。それより……」
千鶴がずんずんと近付いてくる。至極、真面目な顔で。きっとあの件について追求されるんだ捕縛した敵への尋問並みの厳しさで追求されるのだ千鶴の一人称がプライベートの「俺」から仕事モードの「私」に変わるんだ。
そして千鶴は私の目の前に立つと……ぐっと、抱き寄せられた。
「ふぇ……え……?」
「すまないマリア。あの時、何も言えず逃げ出してしまった俺を許してくれ」
「あ、あの、千鶴?」
「本当に駄目な男だ俺は。お前の気持ちにも気付けず……。お前から見限られても仕方ない。だが、マリア。俺はお前を愛している」
身体の温度が急上昇した。
きっと今頃、顔は真っ赤になっている。
だって、そんな急にこんなこと言われたら……。
それに調も見てるし……。
「まっ……! だ、だめ千鶴……調が見てるから……」
「誰よりも、誰よりも愛している。何度だって言おう。愛してる」
「~~~~っ!?!?!!?!!」
「それと、だ。……あの格好、次のライブ衣装だろうか? ……似合っていたぞ」
「──────────」
「だ、だめ千鶴さん! マリアが嬉しさと羞恥心が入り混じってショートしちゃったからもうそれ以上は!」
このあと、私と千鶴の二人で話し合った。
真実を打ち明けると千鶴は深いため息をついたあと、意地の悪い顔をしてこう言ったのだ。
「似合っていたぞ」
本当に意地悪。
けど千鶴の本心も聞けたのでまあ、良かった……のかな。
いつか、この日の出来事を思い出して笑い話に出来るかと言われたら今の私はNoと答えよう……。
切歌「え! 恥ずかしいことってそういうことじゃないんデスか!?」
調「切ちゃん……」