一年の計は元旦にありと言うがそれなら一年中休ませてもらえないだろうかと思いながらぐうたらと寝正月を楽しもうと決め込みコタツに入ること数分。
俺の寝正月は早くもピンチを迎えていた。
「ねえパパ遊ぼう!」
娘のアリアが俺を揺すり遊びに誘ってきた。
しかし今ちょうどよく眠気の波が来ている。
「んー? ん~……」
「パパ遊ぼう遊ぼう!!」
ちょっとだけ眠気の波が引いてしまった。
子供は元気なものだ。
弟の千歳は俺と同じようにコタツで2号を枕にして寝ているから姉弟揃って昼寝をしていればいいのだ。
「んー。じゃあお昼寝ごっこでもするか。ほら、隣入れ」
「やだやだ! 外で遊ぶの!」
外で遊ぶなんてそんな恐ろしいことを。
日本を絶賛襲っている最強寒波のせいで今日はとても寒いのだ。
寒さばかりはどうにもならない。
寒い時に健康である方が難しいというか無理な話なのだ。
大人しく暖かくなるまでこたつに入っているべきなのだ娘よ。
「も~千鶴ったら、ゴロゴロばっかりしてちゃダメよ新年早々」
「マリア……。これは仕方ないことなんだ。人はこたつからは脱け出せない。この間、戦隊でもやってただろう」
「テレビと現実を一緒にしないの。ほら、お正月らしいことしましょ」
そうは言っても初詣は済ませたし雑煮も食べたしおせちも食べたしお年玉をあげたりしたしやることはやっただろう。
だからこたつでゴロゴロこそがお正月らしいことするということだ。
「あーもう寒いのは分かるけど身体動かせばあったかくなるわよ。ほら、出なさいこたつから……!」
マリアまで俺をこたつから引っ張り出そうとしてくる。
こうなったら意地でもこたつから出たくなくなる。
すかさずヤドカリのようにこたつの中へと潜り込んだ。
「もう猫じゃないんだから。えいっ」
えいっ?
「"コンセント"を抜いたわ。コンセントを挿すにはこたつから出なければいけないわよ」
「卑怯者め……!」
こうして俺はこたつから引き摺り出された。
歴史が物語っている通り、籠城戦は分が悪いのだ。
近所の公園。
風が冷たすぎる……。
「さむい……」
「寒いな……」
「ワン……」
六堂家の男達はみんな寒がりであった。
「まったくだらしないわよ。寒さなんて吹き飛ばせばいいだけなんだから」
そうは言っても寒いものは寒いのだ。
やはり家で暖かくしている方がいい。
見ろ、休みは家族連れで賑わうこの公園も今日は誰もいない。
みんな家でぬくぬくしているのだ。
俺達もぬくぬくしたい。
「……で、なんで羽根つきなんだ」
「お正月らしいし身体を動かせるからいいでしょう? さあ千鶴、勝負よ!」
羽根つき。
正月らしいと言えば正月らしいが実際にやっている人を俺はこの三十数年の人生の中で一度も見たことがない。
言ってしまえば和製バドミントンのようなもので羽根を落としてしまったら顔に落書きされてしまうというゲームである。
……しっかり筆と墨汁を用意しているな。
マリアめガチでやる気だな。
「いくわよ!」
「早速か!?」
来る!と身構えるがいや待てそれは羽根つきではなくテニスだそのレシーブは!
そして老けても元装者なマリアが放つそれは一般人のそれよりは鋭い。
羽根つきとは思えない速さで羽根が向かってくる。
「チィッ!」
こんな本気で身体を動かすことを想定していなかったがやむを得ない。
羽根の軌道を読み即座に駆け出し返球する。
……返球?
返羽根の方が正確か?
いや言いづらいので返球でいいだろう。
(流石千鶴、しっかりと対応してきたわね。けどこっちは千鶴がコタツに入っている間にウォーミングアップは済ませてあるの。既にコンディションは整えてあるッ!)
カコンッ!と羽根つきにしては強烈な音と共に羽根が襲いかかる。
リターンゲームは不利であるが……甘いな、マリア。
強烈な一球……一羽根?
どっちでもいいがとにかく返す。
羽根は緩やかな弧を描いて飛んでいく。
「チャンスボールね、次で決める……!」
羽根の落下地点を予測し既に打ち返す準備を整えているマリア。
だがマリア、それを打ち返せるか?
「いただ……なっ!?」
打ち返そうと羽根が羽子板に触れた瞬間、マリアはその羽根の重さに敗北した。
羽子板と羽根が地面に墜ちる。
「これ、は……」
「前に、イタリアの特殊部隊と共同任務に当たってな。その時に仲良くなったイタリア人から教わった、『回転』の技術だ」
「は、羽根がまだ回転しているッ!?」
地面に墜ちた羽根はコマのようにまだ回転を続けている。
久しぶりにやってみたが案外上手くいくものだな。
「どうしてこんな技術を……」
「旧二課時代、テニスが流行ったことがあってな。それも生半可なテニスではなかった。司令の五感を奪ってくるテニスや緒川さんの一人ダブルス……強敵達と戦う中で俺も『技』を身に付けるしかなかった。それがこの『回転』だ」
「なに、二課ってそんな暇だったの?」
「馬鹿にするな。あの多忙な毎日の中でも余暇を楽しむぐらいのことをしなければやっていけなかっただけだ」
ちなみに緒川さんはテニスボールで影縫いしてきたこともあった。
忍者怖い。
「さて、マリア。覚悟はいいな」
「くっ……私が千鶴の顔に落書きするはずだったのに……」
やはりそんな目論見があったのか。
だが残念だったな、俺はそう容易く崩せんよ。
「ほら、描きなさいよ……」
さて、なんて書いてやろうか……。
……落書き待ちをするマリアが目を瞑った。
俺が落書きしやすいように顔を上に向けてくれたが……。
やはり、綺麗な顔をしている。
睫毛なっが。
……。
落書きなんてしたらバチが当たりそうだ。
「……なによ、早く描いてよ……」
……ふむ。
………………。
「書いたぞ」
「やけに長かったけどなんて描いたの?」
そう訊ねてきたマリアの顔の写真を撮って見せる。
マリアの左頬に「六堂マリア」と書いたのだ。
「ふふっなんで名前書いたのよ」
「……いいのが他に思い付かなかった」
「ふーん」
「なんだニヤニヤして」
「名前書くって独占欲強いみたいだな~って思って」
「馬鹿。独占するなら自分の名前を書いている」
「わざわざ六堂って書くあたり充分強いと思うけど?」
……まあ、否めない。
「次は千鶴に描いてあげるから覚悟なさい! あと回転禁止!」
望むところだと続けること10分後。
「流石にもう書くとこがないぞ」
「うう……どうして私だけ……」
あれからマリアの顔に落書きをしまくっていた。
流石にここまで来ると罪悪感が生まれる。
ちなみにアリアと千歳は顔面真っ黒である。
子供は互いに容赦がない。
「そろそろ終わりにして帰るか」
「ダメよ! 千鶴に落書きしないと気が済まないわ!」
そんな別にいいではないか俺に落書きなんてしなくたって。
しかしマリアはやる気のようなので仕方ない。
「これで最後にするぞ」
「……! いいわ、絶対千鶴に勝つ!」
始まる最後の一戦。
小気味よい音を立てて羽根が行ったり来たり。
ラリーが続いていく、が……。
羽根を打ち返そうと思った瞬間、突風が吹いた。
思わぬ冷たい風に顔を背けてしまい、羽根を打ち返すことは出来なかった。
「あ……」
「……ふふ、落としたわね。羽根を」
「待て、今のはノーカンだ。あんな風吹いたら羽根つきどころじゃないだろう」
「運を味方につけた私の勝ちよ。さあ観念なさい」
……もうこれは何を言っても無駄だろう。
大人しく描かれてやった方が面倒くさくならないだろう。
「……ほら、描け」
「やった。描くから屈んで」
マリアの目線に合わせて屈む。
さあ、どこへでも好きなように描け。
「……」
「描かないのか?」
「あ……描く、描くわよ」
(顔に見惚れちゃった。睫毛長いし肌綺麗だし……。なんのケアもしてないのに羨ましい)
またしばらく考え込むマリアであったが何か思い付いたとよく分かるリアクションをして右の頬に何かしら描いて写真を撮った。
一体なんと描いたのやら。
写真を見せられる。
右頬に「マリアの夫です」と書かれていた。
「意趣返しか」
「まあね」
まったく……。
「わたしもパパに描きたい!」
「落書きしたい」
アリアと千歳までやってきたがこれは対戦していたママの特権でだな……。
「いいわよ、二人もパパに落書きしましょう」
何故マリアに決定権が?
まあ、大人しく描かれてやるが。
マリアがアリアを持ち上げる。
次は千歳。
アリアは右頬に「パパ」と、千歳は左頬に十字傷をそれぞれ描いてくれた。
十字傷なんてどこのるろうにだ。
「じゃあ最後にみんなで写真撮りましょ」
落書きだらけの顔で記念撮影。
新年早々こんなことをしてたら今年一年は顔に落書きされまくるかもしれない。
四人と一匹で固まり自撮り。
ああ、これは忘れられない元日になりそうだ。