1000件突破とかはじめてです!
それにしても1000…1000かぁ…
絶対にあれは言いませんからね。
1000%言いませんからね!(言っている)
ある雨の日──
街を脅かす異形の存在『ノイズ』が現れた。
どこからともなく、突然現れるそれらによって昼の街は大混乱となっていた。
「シェルターはこちらです!避難してください!」
声を張り、叫ぶ。
パニックとなった人達の悲鳴と怒号に負けないように。
特に今日は強い雨が降っている。
雨音で声が掻き消されてしまう。
装者はまだなのか?
早くしないと被害が拡大する一方だ…
自分が戦えればいいのに、それは出来ない。
ノイズは人類の天敵。
こちらから触れることは出来ない。
触れたら最後、炭素として砕け散るのみ…
だからこそシンフォギアが生まれ、シンフォギア装者が必要とされる。
しかしそのシンフォギア装者二人の内一人を先日亡くし、生き残った装者は悲しむ暇もなくノイズとの戦いに明け暮れている。
負担は彼女一人が背負っている。
戦えない自分という存在に腹が立つ。
「六堂…間違ってもノイズの群れに突っ込むんじゃねえぞ」
「そんなこと、しませんよ…」
「嘘つけ。ノイズ共をぶった斬ってやりたいって顔してるぜ」
「…中村さんには隠し事出来ませんね」
「お前さんが分かりやすいだけだ」
中村さんは俺の上司兼教育係。
元公安で司令からスカウトされて二課にやって来た人物で司令からの信頼も厚い。
俺はこの人から調査の仕方だとか捜査の流儀というものを学んだ。
「この辺りは避難も完了したな…よし、俺達も退くぞ。ノイズにやられちゃたまらんからな」
「分かりました…!?中村さん!あそこに子供がッ!」
「なに!?」
泣きながら、お母さん、お母さんと叫ぶ五歳くらいの女の子。
近くには既にノイズが迫っていて──
「六堂ッ!!!待てッ!!!」
中村さんの声を振り切り、俺は走り出した。
ノイズはあの子に狙いを定めている…
普段なら触れることの出来ない存在だが、例外的にこちらから触れることが出来る瞬間がある。
それは、人間に襲いかかる瞬間。
ノイズがこちら側の世界への存在比率を増した瞬間、攻撃すればいい。
愛用のサバイバルナイフをスーツの内ポケットから取り出し、ビルの壁を切り裂いた。
切り裂かれたコンクリート片は女の子に襲いかかるノイズに直撃し、女の子を守ることには成功した。
ノイズは一度距離を取り、こちらの様子を伺う。
その隙に女の子を抱き抱えてすぐに走り出す。
それをノイズが見逃すはずがなかった。
背後からミサイルのように飛来するノイズを回避し走り続ける。
「馬鹿野郎!勝手な行動を取るなッ!!!」
「すいません…」
「おら、行くぞ。全く…中年を走らせるな。もう若くないんだから」
ぼやく中村さん。
厳しい時は厳しいがそんなずっとガミガミとは言わないタイプなのだ。
本人曰く、怒るのは疲れるらしい。
若い頃、上司が毎日ガミガミガミガミと怒り散らしていたがよくそんな体力が持つよとも言っていた。
とにかく中村さんと一緒にノイズから逃げる。
しつこい奴等だ。まだ追ってくる。
装者が早く来てくれれば…
「六堂ッ!!!」
中村さんに名前を呼ばれると同時に、突き飛ばされた。
俺がいた場所には、巨大なコンクリートの塊が降って──
中村さんは、それの下敷きとなった。
「中村さんッ!!!」
叫ぶ。
俺を…庇って…
どこからこんなものが降ってきたのか見ると飛行型のノイズがその羽でビルを崩したらしい。
「六堂…その子を連れて早くシェルターまで逃げるんだ…」
「しかしこのままじゃ中村さんが…」
濡れたアスファルトの地面に広がる赤黒い液体。
血──
辺り一面を赤黒く染めていく。
「六堂…行けッ!!!俺達の仕事を忘れたかッ!!!」
俺達の…仕事…
人類守護…
例え、シンフォギアがなくとも一人でも多くの人命を救う。
それが俺達の仕事…
俺は、泣きそうになるのを堪えて中村さんに背を向け走り出した。
数日後
中村さんの葬式が執り行われた。
死因は出血多量。
ノイズに襲われることのなかった中村さんのご遺体は棺の中だ。
「…中村さんは運が良かったんだ。ノイズ災害に巻き込まれて遺体があるなんて奇跡に近い」
俺の隣にやって来た司令はそう声をかけてくれた。
だけど…
「俺が…俺があの時、気付いていれば中村さんだって助かったはずです…俺が殺したようなものですッ!!!中村さんを…中村さんを…」
そうだ…あの時、あの時に俺が気付いていれば…
「過ぎたことを悔やんでもしょうがない…それにお前はあの女の子を守ることが出来ただろう?中村さんも、そのことを喜んでくれるさ」
肩に手を置き、司令は立ち去った。
俺は、その場に立ち尽くした。
しばらくすると、棺が運び出されようとしていた。
霊柩車に乗せるため…もう、中村さんの肉体はこの世には残らない。
だが、運び出されようとする棺にしがみつく人がいた。
中村さんの奥さんだ。
泣き叫び、やめて、と。
しかし、逝かなければならない。
中村さんの奥さんは恐らく彼女の両親だろうか?
年老いた夫婦に引き剥がされて、中村さんのご遺体は霊柩車へと運ばれていった──
久しぶりに、この夢を見た。
未だに拭いきれない過去、後悔。
なぜ自分が生き残って、中村さんが死ななければならなかったのか。
俺は家族との縁も切り、孤独の身。
しかし、中村さんには家族がいた。
大切な、家族が──
死ぬならば、誰も悲しまない自分が死ぬべきだった。
ああ──どうして自分は…
こんなにも、生きているんだろう──
死を望んでいても、体は生を求める。
生への活力のためにまずは食えと体が命じる。
午前九時。
非番だからなんの問題もない時間だ。
ベッドから体を起こし、充電していた通信端末を手に取ると俺がこの時間に起きて、これを手にすることを読んでいたかのように着信が鳴った。
相手は…マリア。
まあ、俺に連絡を寄越すのはマリアくらいのものなのだが。
「私だ。こんな時間になんだ?」
『おはよう千鶴。今日非番でしょう?私も非番なの』
「…だからどうした」
『今から行くから。じゃあ』
言葉を返す間も与えず、マリアは通話を切った。
…今から行くからということは、つまり家に来るということ。
そして、マリアも非番だと言っていた。
まさか、一日中我が家に居座る気ではないだろうな?
いや、マリアも折角の休み。ただ私の家に居座るだけではないだろう。
適当に茶でも飲めば帰って買い物なりなんなり自分の用に出かけるだろう。
…しかしこれは希望的観測に過ぎなかったのである。
午前十時前。
マリアは我が家にやって来た。
…なにやら、買い物袋を大量に抱えて。
「これは…なんだ?」
「いろいろよ。いろいろ」
彼女が持っている荷物を受け取りひとまずリビングへ。
中身は…食材。
今日も料理する気か。
「お互い非番なんて滅多にないんだから、一日ゆっくりしましょう」
「…ゆっくりするなら一人でも出来るだろう」
「私は千鶴とゆっくりしたいの。…ダメ?」
そういう言い方をされると弱い。
特に今は…
「…どうかしたの?いつもなら何か言い返すのに黙っちゃって。言葉の切れ味が悪いわ」
「いや、なんでもない。なんでもないんだ…」
「本当にどうしたの?具合でも悪いの?」
そういって彼女は私の額に手を当てた。
自分の額の温度と比べている彼女の顔は本当に心配してくれているようで…
「うーん…熱はないみたいね…風邪のひきはじめとか?体がだるいとかはない?喉は?鼻は?」
矢継ぎ早に質問してくるマリア。
本当に母親みたいな奴…
「大丈夫だ…まだ少し寝ぼけているらしい…」
「ホントに?寝ててもいいのよ?」
「いや客が来てるのにそれはダメだろう」
「客じゃないわ。通い妻よ」
通い、妻?
なに馬鹿なことを言っているんだこいつは。
「寝言は寝て言え。お前を通い妻にした覚えはないぞ」
「通い妻はね、なるものじゃないの。なってるものなのよ」
「何を馬鹿なことを…」
「ふふ…ようやく調子が出てきたみたいね」
ん…確かに…
少しはいつもの調子が出てきたか。
それにしても、マリアにこう…見透かされてる感じがして少し悔しい。
「千鶴の調子が整ったところで、今日はなにする?」
「なにする?って、訪ねて来ておいてそれはないだろう」
「結婚する?」
「しない」
「いけず」
「そうだな」
「堅物」
「そうだな」
「愛してる」
「そうだな」
「愛してくれてるの!?」
「そうだ…ちょっと待て」
いやいや待て待て。
危なくこいつの策略に乗せられるところだった。
「なによ。千鶴が言ったのよ?」
「言った覚えはないぞ」
「この間の夜のことは全部冗談だったの!?」
「あれはゲームだ」
むうとふくれるマリア。
真実なのだからふくれたってどうにもならんぞ。
「それじゃあ千鶴。この間はお隣さんにご迷惑をかけちゃったから今日は静かなゲーム…将棋で勝負を…」
「やらん」
「なッ!?どうして!?」
「将棋はお前の特技だ。それで負けたら命令に従えとか言うんだろう?わざわざ相手の土俵では戦わんよ」
マリアはどういうわけか知らんが将棋が得意なのだ。
人は見かけによらないとはこのことだと私は思っている。
「私の特技…覚えててくれたんだ…なんやかんや言ってやっぱり千鶴は私のことが好きなのね」
「どこからその自信が湧いてくるのか私に教えてくれ」
腕を組んでうんうんと頷くマリア。
一体どういう脳の構造をしていればそういうことになるのか…
そんなこんなで駄弁ること一時間。
他愛もない会話だったが、意外と早く時間は過ぎていたようだ。
よく、楽しいことをしていると時間が過ぎるのが早いというが…マリアとの会話、いやマリアと一緒にいることは俺にとって…
「あら、もうこんな時間ね。お昼作るから待ってて」
「ん…今日はなにを作る気だ?」
すっかり恒例となったマリア飯(個人的にそう呼んでいる)
慣れてしまったが故に、悠長になにを作るのかなんてことを聞いてしまっている。
胃袋を掴まれた。なんてことを認めたくはない。
認めてしまったら、自分の気持ちまで認めてしまうことになる──
「今日はウクライナ料理にするつもりよ。たまにはいいんでしょう?」
「あ、ああ…そういえば、そんなこと言ったか…」
うん。言った。
毎日食べたいと聞かれて、そういうプロポーズ的な意味だと思い食べたくないと言った。
料理をするマリアを眺める。
我が家のキッチンのことを大体把握しているマリアはスムーズに作業を進める。
狭いキッチンでてきぱきと動く姿が様になっている。
こうして見ると本当に母親のような奴だ。
以前、歌姫なんて柄じゃないと言っていたが、確かにこうやって料理を作って、少し忙しそうにしている姿の方が様になっているし、なによりそんな彼女の方が…
「千鶴飲んでるぅ~?ヒック」
何がどうしてこうなった。
あれから昼食を食べて、皿洗いを終えると小気味いい炭酸の抜ける音がリビングから聞こえた。
今日は休みだからお昼から飲んでもいいのよ。ほら、千鶴も飲みなさい。なんてことを言ったマリアは次々と缶を開けて飲み干していった。
そして、その結果がこれだ。
「千鶴~千鶴~千鶴~♪」
すっかり出来上がっている。
この酔っぱらい、どうしたらいいのだろうか?
男の酔っぱらいなら遠慮なく対処出来るが相手はマリア。
女性の酔っぱらいの対処法なんて私は知らない。
こんな時のための通信端末。
女性 酔っぱらい 対処法で検索をかけるが…
通信端末は私になにも言ってはくれなかった。
「千鶴顔が赤いわ。かわいい…」
「マリア…元の優しいマリアに戻ってくれ…」
俺の願いも届かずマリアの暴走は止まらない。
無理矢理酒を飲まされて、動きを封じられる。
背後からしなだれかかるマリア。
椅子の背もたれがなければ、彼女の女性特有の双丘が背中に密着していただろう。
どうすればいい…どうすればこの状況を打開できる!?
酔いで回らない頭を回してとにかく打開策を模索するが、事態は最悪の方向へと進もうとしていた。
「千鶴~眠いわ~ベッド行きましょう?」
私の耳元でマリアが囁いた。
なんと、言った?
今、この女はベッドに行こうなんて言ったのか?
世の男が聞きたいであろうセリフ。
それを私は聞いてしまったのだ。
据え膳食わぬはなんとやらと言うが生憎、恥と感じない性分なものでな。
これまでも何度か危ない場面もあったし、なんなら付き合っていない女性と我が家で二人きりなどという状況でこれまで手を出してきたことなどないのだ。
本能と欲に打ち勝ってきた私の理性を褒めてほしい。
しかし、今の状況はまずい。
酒の入った体、(酒のせいで)妖艶なマリア、男として、生物としての欲求。
これらが大波となって押し寄せる。
今の私の理性は砂浜に作られた砂の城。
大波が押し寄せれば、容易く崩れ去ってしまうものだ。
なんとかしてこの砂の城を鉄壁の要塞へと作り替えなければならない。
鉄壁の要塞を作るには…萎えればいい。
思い出せ、現実を。あの私の記憶に暗い影を刺す学生時代を──
高校から帰宅すること早々。
父と母の口論が聞こえる。
毎日毎日飽きもせずによくやるものだ。
「お兄ちゃんおかえり…」
妹の
まだ小学生の鯉音にとって、両親が連日口論しているなど辛い環境だろう。
「鯉音…ただいま。あとで一緒に勉強しような?」
「うん!」
屋敷の長い廊下を歩き、自分の部屋へ向かう。
家にいるときは大抵自室か道場にしかいない。
あとは外に出て弦十郎さんのところに行くくらいしかない。
自分の生活範囲というものはひどく小さいものだ。
部屋に着けばまず制服を脱いで、ジャージに着替える。
あとは鯉音と一緒に夕飯を食べて鯉音の宿題を見て──
「千鶴。話があります」
ノックもなし…いや、襖だからノックなんて出来ないか。声もかけずに勝手に入ってきたのは婆さんだ。
後ろには下女を侍らせている。
「…なんですか?」
「高校を卒業したあとの進路についてです」
「まだ高校入学したばかりですが?」
俺の言葉などはじめからなかったかのように、婆さんは話を続けた。
「貴方には鎌倉の風鳴本邸に行き、風鳴訃堂の付き人として働いてもらいます。いいですね」
いいですね。などと確認を取っているようだがこれはただ私に従えという強制の言葉である。
拒否権は俺にはない。
俺の未来は暗く、袋小路でしかない──
「千鶴~一緒に寝ましょう~」
現実に引き戻される。
酔いもすっかりと覚め、思考もクリアだ。
やるべきことは、ひとつ──
「…そうだな、一緒に寝ようか」
「やった」
「ベッドまで運ぼう」
「えっ///お、お姫様抱っこだなんて…千鶴の癖に…」
マリアをお姫様抱っこで寝室のベッドまで運ぶ。
ベッドに寝かせ、布団をかけて…
「千鶴…一緒に寝ないの?」
「ん?いや、一緒に寝るさ。だから、目を閉じていろ」
「ん…」
素直に目を閉じるマリア。
普段もこれくらい素直なら可愛げがあるのに。
酔っぱらいは目を閉じさせてしまえば楽だ。
すぐに睡魔がやってくる。
さて、今のうちに…
タンスの中から使っていない毛布を出して、これを丸めてマリアの隣に投入。
「んっ…千鶴…」
マリアは丸めた毛布を俺だと思っている。
よし、作戦成功。
疲れた…
錬金術師の相手をするより疲れた…
今朝見た夢といい、欲望、本能、自身の過去を思い出したり…
なんというか今日は自分自身との戦いだった気がする。
これが戦いなら、自分は勝てたのだろうか?
…勝ったということにしておこう。
そうとでも思わないと徒労に終わる。
それにしても疲れた…喉が潤いを求めている。
リビングに戻り、テーブルの上に広がる酒を見下ろす。
幾何か考えたあと、キッチンに向かい冷蔵庫を開けて1Lの牛乳パックを手に取りらっぱ飲みする。
──千鶴は、酒が飲めなかった。
「あれ…私…頭痛ぁ…えーっと、千鶴とご飯食べてそれから──」
マリアは全て思い出した。
今日の作戦は酒の力に頼ろう作戦。
酒が入ればいくら千鶴でも本能のままに行動するはず…
しかし、本能のままに行動したのは自分の方だった。
酒は飲んでも飲まれるな。
まさに、至言である──
本日の勝敗 千鶴 勝利 自分に打ち勝ったため
マリア敗北 酒に飲まれたため