響「翼さん!今日飲みに行きませんか?」
翼「そうだな…久しぶりに行くか」
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響「それで彼が~えへへ~」
翼「…」
響「今度一緒に行こうってなってですね…」
翼「…」
響「あの、翼さん少し飲み過ぎじゃないですか?」
翼「いやなに…立花の惚気話を聞きながら飲む酒が旨くてな。そろそろ店を変えようか」
響「えっ…いや、もう今日は遅いので…」
翼「店 を 変 え る ぞ」
響「は、はい…」
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翼「しょうやって男にうつつを抜かしているといくしゃばで…」
響「す、すいません…」
響(どうしよう翼さん変なスイッチ入っちゃった…あれ、この辺りはマリアさんちの近く…よし)
響「翼さんごめんなさいわたしこの辺で!!あとはマリアさんが相手してくれますから!!!」
翼「たちばにゃ!!!うぅまあ、まりあが相手してくりぇる…おおここからかなり近いじゃないか!」
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マリア「どうしたの翼。こんな時間に…って酒くさッ!?」
翼「たちばにゃが帰ったからまりあと飲もうと思って来たぞ!!!」
マリア(立花響ぃ!!!)
そして前話へと続く…
キーボードを打つ手を止める。
どうにも、集中出来ないからだ。
あの日の夜…マリアにキスされてから。
『あ、えっと、これはその…ごめんなさいッ!!!』
『マリアッ!!!』
これが、マリアとの最後の会話。
あれから三日、マリアとは会っていない。
本部に来てはいるようだがタイミングが合わない。
SNSなら顔を合わせることもないから話しやすいと思ったが文章が浮かばない。
どうにもこうにもいかない。
どうしたら、いいんだろうか…
会って、どうする気だ?
彼女となにを話す?
何も分からないまま彼女と会ってどうする?
そもそも私はどうしたい?
分からない…
頭を抱える。
今まで生きてきてこんなことがなかったからどうしたらいいか分からない。
「どうしたんですか班長~?恋の悩みですかぁ~?」
珍しく、ほぼ私しかいない事務室で声がした。
そうだ、今日はこいつがいたんだった…
真地夏蓮。
六班のエージェント…ではなくオペレーター。
荒事を任されることの多い六班のために特別に配属された…といえば聞こえはいいが人間性や勤務態度等に問題ありと見なされ六班に飛ばされてきたのだ。
腰まで伸ばした茶色い髪はボサボサ、化粧も薄くしてるのかどうかも見分けがつかない。やけに大きな黒縁の眼鏡をかけていてS.O.N.G.の制服の上に羽織った紺色のカーディガンが野暮ったい。
全体的に野暮ったい印象の女性。
私のすぐ左目の前のデスクが彼女のポジション。
猫背になり、かなりPCの画面に顔を近づけながら仕事している。
「…恋の悩みというのは、どういう意味だ?」
「そのままの意味っすよ。班長、週刊誌にすっぱ抜かれたじゃないですかぁ。マリアさんと」
PCの画面から目を離さずに喋る真地。
仕事をちゃんとしているなら私は文句は言わない主義だが…
そういえば、あれ以来はじめて部下と会ったんだったな。
その話題になるのも当然か…
「真地…あれはだな…」
「分かってます分かってます。いつかこうなるって分かってましたからぁ。これで男っ気女っ気ないブラザーズも解散ですね班長ぉ。私だけおいていくなんて罪な男すっねぇ~」
「男っ気女っ気ないブラザーズなんてものに所属した覚えはない。それにお前は全く分かっていない。私とマリアはそういう関係では…」
言ってる途中であることに気づいた。
そういえば、今回のことは報道されていない。
先日、スキャンダルを報じられた芸能人の家の近くなんてイワシの群れを狙うウミドリの如くマスコミが辺り一面に蔓延っていてもおかしくないというのに…
「いやぁそれにしてもなぁ。やっぱり班長はマリアさんかぁ。私は班長ホモ説推してたんだけどなぁ」
「…ちょっと待て。なんだその聞いたこともない学説は」
「知らないんすかぁ?マリアさんから迫られても全く手を出さず、それでいて他の女の影が全くない…ね?ホモでしょ?」
「ホモでしょ?じゃない。私は同性愛者ではない」
「私的にはホモだと熱いんですけど。司令×班長、緒川さん×班長のカップリング好きですよ。もちろん班長が受けで…」
「もうその話はいいッ!!!寒気がしてくる…」
「他にも班長女の子説が…」
「もういいと言っているだろうッ!!!誰だそんなふざけた妄想を垂れ流しているのは…」
「私です」
「お前か」
「えへへへへ~」
「えへへへへ~じゃない!まったくお前はそんなんだから六班に配属されるんだぞ…」
全く呆れる…
仕事は出来るのにこんなんだから飛ばされて…
それは皆に言えることなんだが…
あっ、頭痛がしてきた…
「千鶴。今いいか?」
頭痛と格闘していると部屋の外から司令の声が。
司令が来たからには頭痛は無視する。
「今開けます…真地」
「ハイハイ…人使い荒いなぁ」
デスクから立ち上がり扉を開ける真地。
扉が開くと司令が入って…いや、司令だけじゃない。
パンツスタイルのスーツに低いヒールを履いた…OLというには雰囲気が鋭い。
絹のような黒髪が真っ直ぐ背中まで伸びて…
それにこの顔つきは…
「悪いな忙しい時に。お前にお客さんだぞ」
司令の後ろに控えていた女性が一歩前に出る。
まさか…
「お久しぶりです兄さん…鯉音です」
「鯉音、なのか…どうしてここに…」
「S.O.N.G.の視察です。内閣情報官としての仕事で」
内閣情報官…
鯉音が?
あの泣き虫で甘えん坊だった鯉音が?
「まあ、積もる話もあるだろうから兄妹水入らず話でもしたらどうだ?」
「私からもお願いします。積もりに積もった話がたくさんあるんですよ」
「じゃあ私は終わるまで失礼しますねぇ」
司令と真地は私が混乱している隙に部屋から出ていってしまった。
部屋で、妹と二人きり。
十年近く会っていなかった妹との再会。
こんなに、大きくなって…
私が家を出た時には中学生だったか。
「本当に、久しぶりだな」
「はい。兄さんが元気そうでなによりです」
「ああ…体調管理も仕事の内だから…」
「そうではなく」
鯉音は私の言葉を遮った。
その声音はどこか冷たく、鋭かった。
この雰囲気は…婆さんの雰囲気に似ている。
「お婆様に似ていると思われましたか?」
考えまで読まれる。
本当に…あの婆さんそっくりだ。
「兄さんが家を出たあと、私の教育はお婆様が直接行いました。似ていると思うならそういうことです」
…最悪だ。
「婆さんの人形になったのか?」
「いいえ。お婆様は隠居なされました。心臓を患ったので…今は私が六堂家当主代理として六堂家をまとめています」
「当主代理?亀助はどうした?あいつが当主じゃないのか?」
「亀助兄さんは…当主の器ではなかったということですよ」
「なに?」
「兄さん家に戻ってください。あの老害はもう口を出すこともありません。兄さんの邪魔をする者はいません」
頭を下げる鯉音。
まさか、鯉音から老害なんて言葉が出るとは思ってもみなかったが…そんなことよりも。
「…わざわざ、そんなことを言いに来たのか?」
「それだけじゃありません。兄さんとお話したかったですし…それから忠告をしようと」
「忠告?」
「はい。──あまり派手に遊ばないでください。揉み消すのだって簡単じゃないんですよ?」
鯉音がポケットから取り出したのは…三日前の、車内での写真。
「どこでそれを…それに、揉み消すって…」
「そのままの意味です。こんなものを載せられては兄さんに迷惑がかかると思いまして色々とやらせていただきました」
一瞬、ゾクリと背筋に寒気が走った。
おぞましい…何故か、妹からそんな気配がしたのだ。
「それでは今日は時間がありませんので、また後日会いましょう兄さん」
「あ、ああ…また、な」
失礼しますと言って鯉音は部屋を出た。
あれが…鯉音、なのか…
昔の泣き虫で甘えん坊だった頃の影もない。
婆さんの教育の賜物か…
いや、婆さんもあいつに謀られたのだろう。
直感だが分かる。
鯉音は…まずい。
自身の椅子に力なく座り込む。
まさか、あんな風に変わってしまうなんて…
分かっていたはずだ。
私がいなくなったらどうなるか。
当主の座を弟に譲れば済むなんて甘い考えだった。
だが、どうすればいい?
家を出た私が鯉音に口を出せるはずもなく、ましてや九年もの隔たりがある。
変わっていて、当然だ。
あぁ…どうして、こうなった…
新しい問題という壁が目の前に立ち塞がり、頭痛の種が増えたのであった…
食堂。
千鶴は…いない。
いないのがいいのか、いてくれたほうがいいのか。
今の私にはさっぱり分からなかった。
彼と全く顔も合わせないこと三日。
SNSなら大丈夫だと思ったけれど文章が浮かばない。
彼と会いたい。
彼と話したい。
だけど…
時間的にも昼食には少し遅く、人がまばらな食堂で適当に席につくと一人、私に声をかける者がいた。
「マリアさんどうもお久しぶりっす~」
六班のオペレーター。カレンが向かい側の席に来ていた。
「あらカレン。珍しいわね本部にいるなんて」
カレンは海外で諜報などは行わず、こちらでの勤務となっていたが普段は隠れて仕事をしているために顔は出さない。
「今日はこっちじゃないと出来ない作業があったので…それよりマリアさん見ましたか?」
「見たって、なにを?」
「班長の妹さんです」
「千鶴の、妹…って!?来てるのッ!?」
思わずテーブルから身を乗りだしカレンに顔を近づける。
それほどまでに驚愕な情報だった。
「は、はい…今頃事務室で班長とお話中っす…って、マリアさん!?どこ行くんすかぁ!?」
「すぐ戻るから私のランチ見ててッ!!!」
即座に駆け出し、六班の事務室に向かう。
見たい。
千鶴の妹さんを見てみたい!
後ろから私を呼ぶ声がするけど…ちょっと見てくるだけだから待ってて!
六班の事務室前につくとちょうど見慣れないスーツ姿の女性が廊下を歩いている。
あの!と声をかけると彼女はこちらに気づき、近づいてきた。
似ている…
遠くからでも分かる。
雰囲気が似ている…けど少しこちらの方が冷たい感じがする。
やがて彼女は私の目の前までやって来て、立ち止まった。
近くで見ると余計に似ている。
目は千鶴に似ていないが、顔のパーツが兄妹らしく似ている。
整った、人形のような顔──
「マリア・カデンツァヴナ・イヴさん…ですね」
「ええ、そうよ」
もし、千鶴と結婚したらこの子が私の義妹に…
しっかり挨拶を…
「私は、貴女を認めない」
拒絶。
彼女から発せられた言葉と威圧感。
彼女は私のことを拒絶していた。
唐突な拒絶に思考がストップしていると、彼女は踵を返し去っていった。
まさか、初対面の相手にあそこまで拒絶されてしまうなんて…
たった今起きたことに茫然とし立ち尽くしていると、扉を開けて千鶴が出てきて…
「「あ…」」
お互い、口を開いた。
長いような一瞬、彼と目が合っていたがすぐに目を逸らしてこの場を立ち去ろうとして…
「待て」
一言、私をひき止める言葉。
そして、私の左手を掴む彼の右手。
硬く、ゴツゴツとした男性らしい手…強く握られたわけでもないのに私にはこの手を振り払うことなんて出来なかった。
「話を、しよう」
「そう、ね…」
そのまま手を引かれ、私は千鶴と共に六班の事務室へと入った。
千鶴が出したお茶もすっかり湯気が消え、冷めてしまった。
お茶が冷めるまでの間、無言。
千鶴も何も言わず、マリアも何も言わず。
無言。
静寂がこの場を支配していた。
しかし二人の脳内、心境は静かではなかった。
(私から話しかけるべきなのか?しかし私の場合余計なことを言いかねん。ここは相手の出方を見るべき…いや、話をしようと言ったのは私の方だ。私から話しかけるのが道理か…)
(話をしようと言ったのは千鶴じゃない…とは思うんだけど先にやらかしたのは私だし…ここは私から…)
「ねえ」
「なあ」
被った。
二人の声がこの事務室の静寂を破った。
同時に。
(千鶴も意を決して話しかけてくれたようだけどタイミングが同じってどういうこと!?嬉しくないわけじゃないけどやりづらいじゃないの!?けど折角千鶴から話しかけてくれたなら…)
(何故被る!?くそ、どうしたらいい。私から話すべきなのか?だが、まずはマリアの言い分というものを聞くべきか…)
「…千鶴から、話していいわよ」
「いや、レディファーストだ。お前から話せ」
(なんでこんな時に限って紳士ぶるの!?折角人が譲ってあげてるのに!!!)
(何故人が譲っているのに断る!?お前はそんな奥ゆかしい奴じゃないだろう!!!)
「いいから千鶴から話なさいよ。こういう時は男性からよ」
「いいや、マリアから話せ。まず女性の話を聞くのは男として当然のことだ」
(だからなんで急に紳士なのよッ!?いつもみたいに雑に扱いなさいよッ!!!)
(いつからお前はそんな淑女になったんだ!?いいから言え!お前から話せ!!!)
「折角譲ってるんだから素直に受け取りなさいよ…!」
「譲ってるのは私だ。そっちこそ素直に受け取れ」
睨み合う二人。
火花が飛び散っていてもおかしくない。
まさに一触即発。
いつ戦闘になってもおかしくない雰囲気だった。
「…あまり意固地になっても仕方ない。ここはじゃんけんで決めよう」
「ええ、そうしましょう。勝った方が先に話す。それでいい?」
「ああ」
二人は立ち上がり、向かい合う。
西部劇の早撃ち勝負のように、勝負の瞬間を待ち…
「「最初はグーッ!じゃんけん、ぽんッ!!!」」
結果は…あいこ。
どちらもチョキだった。
「「あいこぉでぇ…しょっ!!!」」
あいこ。
どちらもパーだった。
「「あいこでしょっ!!!」」
あいこ。
どちらもグーだった。
「「あいこでしょっ!!!」」
あいこ。
どちらもチョキだった。
「「あいこでしょっ!!!」」
「「あいこでしょっ!!!」」
「「あいこでしょっ!!!」」
「「あいこでしょっ!!!」」
「「あいこでしょっ!!!」」
・
・
・
「「なんで同じ手を出す(の)ッ!!!?!?!」」
二人の思考回路は…一緒だった。
そのままじゃんけんを続けていたら恐らく千日手になっていただろう。
二人は終わらない戦いによって疲弊し、肩で息をしていた。
「はあ…はあ…もう…なんでこんなことになったのよ…」
「それは…お前が、キ、キスしてきたからだろう…」
「だ、だって…したくなったんだもの…しょうがないわ…」
「…キスしたくなるってどんな心境だ?」
「それは…その…相手のことが、こう…好き!って感じの…///」
「そう、か」
再び沈黙。
マリアは内心、こんな恥ずかしいこと言わせといて何も言わないのかと憤慨するが千鶴ならいつものことかと一人納得した。
しかし、マリアの予想に反して意外にも早く千鶴は言葉を紡いだ。
「まあ、その、なんだ」
「なによ?」
「お前にキスをされたが…別に、なんだ、悪い気は…しなかった」
「え…それって…」
「今言った通り。それだけだ」
「ふぅん?それってつまり私のこと好きってことでしょう?そういうことでしょう?ねえねえそうでしょう!」
「うるさいそれと喧しい鬱陶しい」
さっきまでの疲れはどこへやら。
マリアはパッと花が咲いたような明るい表情になり千鶴に詰め寄った。
「…なんか、もう普通に話せるわね」
「そうだな…何をあんな気にしてたんだか」
そう言ってお互い安堵から少し表情が緩んだ。
それから再び沈黙。
しかし先程のような緊張感はなく、部屋の中は穏やかな空気に満ちていた。
「そういえば、何か忘れているような…」
「?」
「あっそういえば、さっき妹さんに会ったんだけど…」
食堂。
もう昼食という時間帯でもないため人がいなく…なってはいなかった。
「マリアさんまだすかねぇ…」
マリアの帰りを待つ真地が食堂で一人呟いた。
今回の勝敗
千鶴、マリアの勝利 無事話せるようになったため
オマケ
千鶴の人間関係
マリア→狙われている。一番関係の深い装者。
司令→親戚。中高生の時に修行をつけてもらった。あんな家庭環境でグレなかったのは司令のおかげ。就職出来たのも司令のおかげ。司令には頭が上がらない。
響→響から見ると兄弟子にあたる。トレーニングによく付き合ってくれるので好印象。
翼→親戚。翼が小さい時に遊んであげた。時間の流れとは残酷なものだ。
クリス→そんな関わりない。口が悪い。
切歌→(命を)狙われている。
調→マリアを通じて話すがそれ以外で関わりがない。 多分不思議ちゃん。
緒川さん→先輩。忍びの技を教えてもらったけどどうにも才能がないらしく忍び足と気配消すくらいしか修得出来なかった。
追記
次回からラブコメらしくするから…なんでもするから…