今回は閲覧注意です。
修羅場修羅場修羅場〜修羅場に入ると〜頭頭頭~頭が禿げるよ〜♪
今回の話はあくまでパラレルです。
────どうして、こんなことになってしまったのだろう。一体何がいけなかったのだろう。
誰に問うまでもなく、答えは一目瞭然だ。
「
何故なら騒動の中心は、俺だったのだから。
俺がいなければ、こんなことにはならなかったのに。
後悔は止まらない。俺の存在がこんなにもみんなを歪めてしまった。
こんなの間違っている。
狂っている。
俺のせいでこんな風になってしまうなら……やるべきことは一つだろう。
なーに、二度目なんだ。まるで怖くなくて笑えてきた。
今度は幕を上げるためじゃなくて、幕を下ろすために何もかも捨て去るのだ。
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何かが触れた感触で目を覚ました。
年をこし、節分を迎え、あの意味不明なクイズ大会を乗り越え、世の男児たちがこぞってカカオ豆から作られた甘いお菓子を狂おしいほどに渇望するバレンタインデーなる行事を終えた今日この頃、俺こと氷川暁斗は今日も元気に暮らしている。
今月のバイト代で宇田川家に立て替えてもらった制服代は完済だし、ここから1年間は高校卒業後に一人暮らしをするための軍資金を集めながら、進学に向けて日夜勉強に励むことになる。
…とそんな風にこれから先の未来に想いを馳せつつ、まずは今日一日頑張ろうとすると
「…またかよ」
ここ最近ほぼ毎日発生しているルーティンに出くわした。
すぅすぅと安らかな寝息を立て俺と同じベッドの上にいる薄浅葱色の髪をした少女。俺の姉こと氷川日菜が腕にしがみ付いている。
正直なことを言うとめちゃくちゃ心臓に悪いからやめてほしい。
身内贔屓も多少はあるが、オレの姉は紛うことなき美少女の類だ。伊達にアイドルをやってない。そんな女の子があどけない寝顔晒しながらひっついているんだ。もし身内じゃなかったら今頃ファンに刺されてるし俺自身が彼女の穴に棒を刺しかねない。
そもそも身内じゃなきゃこんな光景はお目にかかれないだろうから意味のない仮定ではあるのだが、それでも身内で良かったと心底思う。
とはいっても別に嫌な気はしない。日菜姉のことは嫌いじゃないし、日菜姉がそうしたいなら自由にすれば良いとさえ思っている。ちょっと狭くて寝苦しいぐらいどうということない。
けれど、そうもいかない事情がある。もう1人の姉の紗夜姉のことだ。
風紀委員を務めるだけあって彼女はルールに厳しい。当然俺たちにもルールや風紀を乱さぬよう口を酸っぱくして言ってくる。つまり、この光景が見つかると非常にまずい。間違いなく雷が落ちる。流石に朝っぱらから説教かまされるのは御免被る。故に……
「ごめんな、日菜姉……よいしょっと」
ひとまず拘束から抜け出す。その際に手から伝わるフニフニとした柔らかな触感は思考の外へ置く。きっと肉まんでも詰めていたのだろう。
そして起こさぬよう慎重に膝裏に手を入れ、日菜姉の手を勝手に俺の首に回して持ち上げる。早い話がお姫様抱っこと呼ばれるやつだ。
今のこの状況にはロマンのかけらもないし、こういうのは好きな人にされたいものだと、ひまりやつぐみが言っていたから日菜姉にはちょっと申し訳ないが、これが一番起こさずに運べるのだから許してほしい。
この一連の動作に淀みはない。ある時からほぼ毎日布団に潜り込んでいるのだから嫌でも慣れてしまった。日菜姉の柔らかい感触と、鼻腔をくすぐる甘い香りと腕にかかる重みが俺の朝を運んでくる。
もうこれがないと一日が始まった気がしない程度には毒されていた。
その後は何の問題もなく日菜姉の部屋に侵入した。
そういえば、あのクイズの後から部屋が少し綺麗になったような気がする。やっぱり不潔と言われたことを気にしているのだろうか?普段はぶっ飛んだこと言ったりやったりしてるけど意外と女の子らしいところもあっておじさんはびっくりだよ。何はともあれ部屋に入りやすくなったのはありがたいことだ。
そのまま静かに寝かせてミッションコンプリート。
「じゃあ、いってきます。日菜姉」
返事なんてあるわけないのに、挨拶をしてしまう。
少し前まではそんなこと一切せずに家から抜け出していたのに、随分と変わったものだ。
「日菜ったら…本当にこんなことしているのね……」
聞こえてきた声にびくりと体を震わせる。
「…悪い、起こしちゃった?」
なんせ時間は朝の4時だ。まだ寝ていたかっただろうに。
「いえ、元々この時間に起きるつもりだったから大丈夫よ。それよりも……」
「あなたは毎日
「うん、まあ…俺の部屋で寝かせとくわけにもいかんでしょ。紗夜姉そういうのに厳しいし」
いくら日菜姉の自業自得とはいえ朝から紗夜姉のお説教を受けるのは流石に気の毒だ。そのぐらいの気遣いはするべきだと俺は思う。日菜姉を甘やかしていると言われたらちょっと否定できないのかもしれないけれど、正直この時間は嫌いではないから、日菜姉が辞めない限りはこちらから辞める気はない。
「そう…あの子には私から言っておくわ。暁斗はこれから山吹さんのところ?」
「うん。それじゃあいってきます」
「いってらっしゃい。失礼のないようにね」
「はーい」
驚くほどに普通の家族のような会話だ。正直無縁だと思っていたところがあるからどうにも照れ臭くなってしまう。
けれど、そんな日常がずっと続いていって欲しいと思っていた。
続いていくものだと、そう思っていた。
しかしこの世は諸行無常。そういうものこそすぐに終わってしまうのだとどうして理解できなかったのだろうか。
「日菜……いい加減にしなさいよ」
* * * * * *
2月も半ばを過ぎ、まだまだ寒いが清らかな梅の香りが漂い始め徐々に春の兆しを見せ始めていく頃だ。
既に花粉が飛び始め、花粉症の人にとっては地獄のような季節となるが、個人としては過ごしやすい季節だから来てくれると嬉しくなる。
沙綾の家までの道のりはこうした季節の移ろいを感じられるから実は結構好きだったりする。
そういえば、羽丘の合格発表がそろそろだったはずだが、六花ちゃんはちゃんと羽丘まで辿り着けるのだろうか?この間は学校まで案内したけど、今回もしてあげた方が良いのだろうか?あの子ならきっと合格だろうし、お祝いに何処かへ連れていってやるのもアリかもしれない。なんならポピパと感動のご対面とか用意してやっても良いやもしれぬ。
まあそれはそうといつも通りの朝の仕事だ。
「おはようございまーす」
「やあ暁斗君、今日も頼むよ」
「はい。じゃあいつものように……」
近頃は毎日というわけではなくなったけど、それでもかなりの頻度で厄介になっていることには変わりはない。せめてその対価に見合うぐらいの働きはせねばならない。
「…ん?暁斗君、首のそれはどうしたんだい?」
「え?何かついてますか?」
「…いや、気のせいだったよ。すまないね」
「…?そうですか」
よくわからないが、時間は有限である以上あまり悠長にはしていられない。後で聞けばいいと先送りにした。
* * * * * *
相変わらず、千紘さんの朝食は美味しい。最近は姉の分も用意するようになったこともあり、改めて彼女の手際の良さに気づいた。
味も勿論だが、時間と値段といったコストパフォーマンスもすごい。
態々一人分多く作って貰っているのだから感謝しかない。その分の労働力を提供はしているが釣り合ったギブアンドテイクになっているのか不安である
「ご馳走様でした。皿洗いますよ」
「えー?にーちゃん遊べよー」
「あーそーぼー」
「お前らだって今から学校と幼稚園だろ?」
「あらあら……暁斗君、私がやるから少し相手をしてもらえるかしら」
「わかりました……純、紗南ちょっとだけだぞ?」
「やったー!」
「その前にちゃんと着替えてこーい」
「「はーい」」
まあたまにはこんなのも有りかな。
子どもって本当に元気が有り余ってる。自分もこいつらぐらいの時は姉にべったりで元気いっぱいだったんだろうな。
「ねーにいちゃん、犬に噛まれた?」
「いや、そんなことないけど…なんで?」
「だって首に歯の跡ついてるもん」
「ねーねーどんなワンちゃん?」
言われて首を手でなぞる。確かにそれらしき凹凸が存在することに今更気がついた。
なるほど、さっきの亘史さんの微妙な態度はこれだったのか。
……あれ?ちょっと待て、これはいつ付いた歯跡なんだ?
当たり前だが犬や猫に噛まれた覚えはない。じゃあこんなものどうやって……
「あー…ほら、魚屋の猫いるじゃん、そいつに噛まれた」
「ネコちゃん?」
「そうだよ」
まさか『人に噛まれたかも』なんて口が裂けてもこの二人に言えるわけがないからとりあえずは誤魔化しておかねば。
「あれ?兄ちゃん懐かれてたよね?お姉ちゃんが『暁斗ばっかりズルい』ってこの前言ってたよ?」
「甘噛みって奴だよ。特に痛みもないしな」
「もしかしてひt「純、紗南ーもうバスの時間よ?」あっ行かなきゃ!にーちゃんまたね!」
「いってらっしゃーい」
さて、俺もそろそろ出なきゃな。なんかすげー嫌な予感がするけどサボる訳にもいかないし…まあ、そのうち消えるだろうし気にすることもないか。
* * * * * *
「ふーん、香澄の妹が羽丘に……か」
確か、あっちゃん……明日香だっけ?花女の中等部だった筈だが、エスカレーターを蹴って羽丘の入試を受けたらしい。将来のことを考えて進学校に行くことを決めたのだろうか?前にあった時は香澄とは違い、生真面目そうな印象を受けたし、人生設計を考えていそうな子だったから多分そんなところだろう。
「うん、それで香澄がショック受けちゃって」
「あー、まあ確かに身内が学校にいるとな」
「やっぱそういうものなの?」
「恥ずかしいっていうか……結構複雑だよ。特に俺の姉さんはな……」
金の問題という止んごとなき事情で日菜姉の通う羽丘に行くことを選んだが、決めた当初はかなり嫌々だった。
アイドルになる前から日菜姉はちょっとした有名人だった。
テストは満点が当たり前、実技も完璧、さらには自分の心に素直すぎてルールガン無視の奇行をしだすけど創立以来屈指の天才で、容貌も良しで人を惹きつける人だった。
そんな身内がいるとなると肩身が狭いのは最早言うまでもない。
「やっぱ恥ずかしいものなんだね」
「あこぐらいおねーちゃん大好きっ子じゃないとキツいよ」
「暁斗も大概でしょ?」
「いやいや、あこほどじゃないから」
「……うっそだー。日菜さんと寝てるくせに」
「いや、あれはあの時も言ったけど日菜姉が勝手に入ってきてるだけだからな?」
「へー……じゃあ、首にあるそれは何なの?」
「あー、多分寝ぼけて噛んだだけでしょ」
「そもそも一緒に寝てることがおかしくない?」
「確かにそうかもな……でもうちの姉さんは距離感の取り方が下手なだけだと思うぞ?」
今まで冷えきった関係だったものが改善された。そこはいいのだが、いざ関わろうとするとどういう接し方をしていいのかわからなくなったのだろう。もしかしたら自分の言動が俺を傷つけたのだと及び腰になっていたというのも有るのかもしれない。
そこで日菜姉が選んだのは模倣だった。何事も上手い人の真似をすることから始めるのが上達の近道だし、そういう観点でいけば実に理にかなっている。
故に極めて単純かつ有効な手だと言えるだろう。……真似たものが幼少期の姉にべったりだった頃の俺だっていうことに目を瞑ればの話だが。
そんなわけで日菜姉はここ最近俺にべったりになってしまった。
紗夜姉に対しても同じようなものだから、実は身内にはあれがデフォルトな可能性もあるが、性別が違うしその辺りは日菜姉とて知っているだろうと思いたい。
「いや、それはないでしょ」
俺のなけなしの力説は無情にも一刀両断されてしまった。
「え?なんでさ」
「……だって、これはあからさまなマーキングだもん」
「マーキングって、犬猫じゃないんだから」
「暁斗気付いてる?最近アロマの匂いが強くなってるんだよ」
「え?何だよ、それ……」
「まるで自分のものだって主張しているみたいだよね?」
「いや、そんなことないだろ…」
いくらなんでも俺たちは家族だしそんなことしたりしないしする必要なんかない…はずだ。
「本当、今更何のつもりなんだか。掌返して…ふざけてるの?」
「さ、沙綾…?」
「ううん、何でもないよ。それじゃあ、また明日」
「お、おう…また明日な」
今のは一体何だったんだ?普段の沙綾からは想像できないような、思わず目を背けたくなる顔をしていた。
正直今の沙綾は触れたくないというか、滅茶苦茶怖い。
けれど、本能的恐怖を抱くと同時に、今まであまり触れていなかった問題にとうとう向き合うべきなのかもしれないとは感じていた。
* * * * * *
「そっか、お姉さんとの接し方がわからなくなったんだ」
「そういうこと…おっ今日のコーヒー美味しいな」
「ほんと?ちょっとは上達したかな?」
「そうだな…ところでつぐから見たらどうなんだ?やっぱり変?」
ところ変わって羽沢珈琲店。その看板娘であり俺の友人の羽沢つぐみとの憩いの時間を味わっている。
中学生の時はほぼ毎日此処かやまぶきベーカリーか巴に商店街で引き摺り回されるか巴の家のどこかで過ごしていたけど、高校生になってからはバイトを始めた影響もあって、こうして過ごす時間は少なくなっていた。二人きりとなると、4月に一度あった以来なのだから本当に久しぶりだ。
「そうだね、やっぱり距離が近すぎると思うよ」
「どのくらい?」
「巴ちゃんのことを全く笑えないぐらいかな」
「それはヤバイな」
巴はあこにダダ甘なだけで近親相姦に走るとかそういう類ではないから実際のところはそこまでやばい訳ではないが、脳内がソイヤとあことAfterglowでできているあいつと同レベルとなると、ちょっとどうかと思ってしまう。
「それと……」
「ん?」
「あんまり良い言い方じゃないと思うけど、今更どの面下げて…って思っちゃうよ」
「つぐ?」
つぐってこんなこと言う奴だったか?
「暁斗君は今までずっと頑張ってきて、その上で諦めたのに…あの人達は今でも…「つぐ!」…あ…ごめん」
「いや、気にしなくていい。わかったから」
…俺はもう諦めたんだ。あんな風にはなれない。どう頑張ったって、天地がひっくり返ったって俺は俺でしかないんだから、俺を認められるようにどうにかやっていくしかないんだって悟ったんだ。
でも、俺を此処まで追い込んだ人達には何の罰もない。
俺から言わせたら姉は何も悪くない。大好きだしこれからも仲良くやっていきたいと思っている、
親たちとて苛立ちはするが理解できない訳ではないからさほど怒るようなことでもないと思っている。それに日菜姉が動いてくれているみたいだし、爺ちゃんも大学の費用を出してくれる上に土地やら財産やらを生前贈与するつもりらしい。近いうちに勝手に溜飲が下がるだろうから正直どうでもいい。
だから今のままで問題はない。そう思っていた。
「でも、やっぱり複雑だよ…私たちからしてみれば、あの人達は加害者にしか思えない」
でも…
「悪いけど、暁斗君のことは私や沙綾ちゃんの方がずっとよく知ってる。今頃姉として…なんてやっぱり虫が良すぎるかなって」
俺のそばにいてくれた人たちからすると、どうやら大問題らしい。
巴は暁斗が良いならそれでいいだろってスタンスだし、あこやはぐみや花音さんは兄弟は仲が良いのが1番というノリで応援してたし、燐さんも止めはしなかった。
けれど、この2人は違う。巴は例外として、俺とダントツで一緒にいる時間が長かったこの2人は、どうやら納得できないらしい。
普段温厚でもはや天使だとまで言われるつぐみがここまで怒りを露わにすることはそうそう無い。ここまで思ってくれていることを喜べばいいのか、或いは暴走する前に止めるべきなのか。
こういった人間関係のトラブルって初めての経験だから、どうすればいいのか皆目見当がつかない。
果たして一体全体どうすれば丸く収まるのだろうか?こういう時に香澄やこころの無駄にあるカリスマが羨ましくなる。
「ねえ暁斗君、やっぱ縁切ろうよ。このままだと辛いだけだよ?」
「やだ」
それは嫌だ。この先辛い事ばかりなのは百も承知だが、それだけは捨てられない。そもそも俺にはそれしかなかったんだから。
「そっか…ぽっと出のくせに邪魔ばっかりしないでよ……」
「つぐ?」
なんかヤバイ。何がどうとか説明できないけど、ただただヤバイ。
「暁斗君を守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ」
「ひっ……
「ねえ暁斗君、こっちに引っ越そうよ…そうしたらクソみたいな両親もいないし優秀すぎるお姉さんもいないよ?」
まさかつぐの口から『クソみたい』なんて言葉が出るとは、おじちゃん悲しいよ…悲しすぎてカナブンになったわね…なんて冗談かましている場合じゃない。
最早恐怖だ。俺の知ってるつぐは一体何処へ行ってしまったのか。
「ねえ、ずっとここに居てよ。なんでもしてあげるから…」
このずっとは文字通り死ぬまでここから外に出さないってことなんだろうなー…一体何がどうしてこうなったんだろう?
「いや、俺は……」
「何がダメなの?おっぱいなら暁斗君が揉めばきっと大きくなるよ?
「いや、慎ましいお胸は慎ましいなりに楽しみ方があってだな…感度とか密着度はスレンダーな方が高くて良いという意見も無きにしもあらずんばというか…って何言わせんだ恥ずかしい」
「なんでもいいよ。とりあえず大人しく言うこと聞いてよ、ね?」
ハイライトさんが定時上がりしちゃってらっしゃる。瞳孔が開いたままにじり寄ってくる様は最早ゾンビの類と形容する他ない。
「なにこれホラー?とりあえず落ち着けって…うわ、力強…ッ!」
そのまま壁に追いやられた。
…まさかつぐに壁ドンされる日が来るとは夢にも思わなかった。
よくある壁ドンというか、壁にドンって感じだけど…
さっきからどうも思考があやふやで変なことしか考えられない。
「えへへ、捕まえた♡」
あー、これは終わっちゃいましたね。来世はもうちょっと楽に生きたいかなー
なんて、割と安っぽい俺の人生にグッバイしようとしたら刹那──
「つぐ、暁斗いるー?」
突如扉を開けて乱入してきたのは沙綾だった。
「チッ…いらっしゃい沙綾ちゃん。暁斗君は来てるよ」
し、舌打ちしたよこの娘…今日は一体何だっていうんだ?
「そっかそっか…まあ、知ってたんだけどね」
「え?俺沙綾に今日の予定話したっけ?」
「んー…女の勘かな?それにしても、ナイスなタイミングで来たみたいだね、私は」
そうでしょ、つぐ?と尋ねる沙綾は悪戯心に満ちていた。
普段ならハハハこやつめと笑って受け入れてやりたいところだが…
「沙綾ちゃん…折角いいところだったのに、どうして」
「いいところだったからだよ?あんまり調子に乗らないでくれる?」
「ふざけないで!」
「こっちの台詞かな」
なんでこんなギスギスしてるんだろうか?俺は今のままで大丈夫だから2人が喧嘩する必要なんてないだろうに。
「私の方がスタイルいいし…」
「むむ、その分ご奉仕するもん」
「いーや、つぐはちんちくりんだから暁斗も興奮しないって」
「そんなことないから!朝一緒なだけで、放課後は私の方が一緒にいたもん」
「でも文化祭の時告白してくれたもーん。つぐは一度お見舞いされただけで放置じゃん」
「あれは違うでしょ?あの両親よりはマシって言ってただけだよね?随分都合のいい改変をするポンコツな脳味噌だね(笑)」
「あ?」
「ん?」
「ちょっと2人とも落ち着けって……」
「「暁斗(君)は黙ってて!」」
男って辛い。この空間から今すぐ逃げ出したい。なんか2人とも滅茶苦茶殺気立ってて居心地悪いし、2人の言い合いがヒートアップしているうちに此処から抜け出してしまおう。
「なら暁斗に選んでもらおっか」
「そうだね、それが一番丸く収まるかな」
畜生、なんで俺を自由にさせてくれないんだ!?振り返りたくない。振り返ったら地獄に引き摺り下ろされるとか俺はエウリュディケかオルフェウスか何かか?生憎と琴は弾けないので退出させて頂きたい!
「逃げないでよ!」
「ねえ、選んでよ…私と沙綾ちゃんのどっちが好き?」
「それは……」
「「どっち!?」」
血走った眼でこっちを見ないでください。今後の2人の印象と付き合い方がガラリと変わっちゃうから…
「えーっと、2人とも好きだよ?友人として」
逃げの解答。俺は2人とも愛してる!なんて声高々に宣言できるほど甲斐性があるわけでもないし、ぶっちゃけ2人をそういう目で見たことなんて一度もなかったからわからないというのが本音だ。
沙綾は美人と言えるし、つぐは可愛いと思える。どっちも健気だしすごく良いお嫁さんになると思う。つぐは裏で密かに人気があるらしいし、沙綾にちょくちょくモーションかけようとしているやつがいることも知っている。
だからといって恋愛的な感情はまるで湧いてこない。多分距離が近すぎて、一緒にいることがある種の自然体になっているからだろう。だからいざそういう質問をされると困ってしまうし、あまり形にしたくない。
変化させたくない。壊したくない、今のままでいて欲しい。
「だから、その…どっちも選ばないというか選べないというか…友達として仲良くやっていきたいかなやっぱ」
「…そう言うと思ったよ」
「うん、そんな気はしてた」
よかった、これで解決ですね…よし、今日はこのまま帰ろう。
「じゃあ、俺はこれで…」
やっと解放される。今日は厄日だったし早く寝よう。明日になればきっと元通りなはずだから
「ダメだよ」
「そうは問屋が卸さない」
「えー…」
「ごめんね、今回だけは譲れないの」
「暁斗に選んで欲しいなー?」
「えーっ……と、その…」
誰か助けてください、神でも悪魔でもいいから誰かこの流れを変えてください…
「暁斗ー!迎えに来たよー!一緒に帰ろうね」
「暁斗、もう夕飯の時間よ。今日は親もいないし、ゆっくり
「姉さん…!」
なんて神がかったタイミングなんだろう。2人から後光が見えてきた。
「あれー?今どんな状況?」
「何やら剣呑な雰囲気だったようですが一体どうなされたんですか?」
「…別に……」
「何でもないですよ……」
どうやら鎮静化したらしい。今回は助かった…
「そうですか…ではこれで失礼します。暁斗、一緒に帰りましょう」
「
「そうね、私たちは
「うんうん、おねーちゃんの言う通り。暁斗、今日はおねーちゃんが作ってくれるんだってー、早く帰ろうよー」
前言撤回。この人たちなんでか知らないけど臨戦態勢だ。しかも会話を聞いていたとしか思えないような言動…さてはさっきの沙綾同様出てくるタイミングを図ったな?
もう勘弁してください。胃に穴が空きそう……
「は?ついこの間までろくに会話すらできなかったのに今更しゃしゃり出てこないでもらえます?」
「悪気がなくても暁斗君を苦しめていたくせに今更姉気取りとか片腹痛いですよ?見苦しい」
「でも暁斗はずっと私たちを追いかけてくれてたもーん。ただのお友達風情が家族を気取らないでもらえるかな?」
「たしかに悪いことをしたのは事実だから、これからは一生かけてでも贖っていくつもりです。」
「結局諦められてるじゃないですか笑可哀想に…」
「自分が許されたいからって理由で暁斗をずっと縛り付けるつもりですか?暁斗の良心に漬け込んで束縛するとか最低ですね」
ああ、どうしてこうなったのだろうか…俺のせいなんだろうか。
「「「「暁斗(君)は誰を選ぶの?」」」」
本当にもう勘べ………ん、し……………て…
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「…ハッ…!ここは、どこだ?」
見慣れない天井。いや、部屋そのものに見覚えがない。
色合いや置いてある物から判断すると多分女の子の部屋だ。
どういう経緯でここに来たのか、自分が何をしていたのか直前のことを思い出そうとすると、激しい頭痛に襲われた。
「あ、目が覚めたんだね。体は大丈夫?」
「奥沢さん?どうして…」
「訳は知らないけど家の目の前で倒れてたから」
「そっか…看病ありがとう」
「ところで、何があったか聞いていい?」
記憶をできる限り辿っていこうとする…ダメだ。頭が痛くてうまく思い出せない
「あー、ごめん。無理に思い出さなくていいよ。手、震えてるじゃん」
「え…」
「なんか怖い目にでも遭った?通り魔とかヤンキーに襲われたとか」
「いや、そんな覚えはないけど…特に怪我もしてないみたいだし」
「んー…あっ、お姉さんたち絡み…ってどうしたの!?凄い顔青くなってるけど」
「え…あれ?…なんでだろ…震えが」
頭が割れそうなぐらい痛い。まるでその先を思い出すなと言っているみたいだ。
「専門家じゃないからはっきりとは言えないけど、ひょっとしてトラウマになってるんじゃ?」
わからないわからないわからないそんな訳ない。俺がおねーちゃんのことを嫌いになるはずがない。でも、思い出そうとすると震えが止まらない。動悸が激しくなって頭がガンガンと痛み出す。
体がそれを拒否している。
「うわー…これは本当に酷いよ。ほら、大丈夫だから落ち着いて深呼吸して…」
奥沢さんが背中をささってくれているおかげでどうにか息も元通りになってきた。
「…ありがとう、奥沢さん。迷惑かけてごめん」
「ううん、気にしないでいいよ。放っておいたら寝覚めが悪くなるからやっただけだから」
「それじゃあ俺帰るよ」
「いや、そんな状態で家に帰るのは無理でしょ」
「でも…」
「少しの間ならうちで面倒見てあげられるし、とりあえずはここにいなよ」
「…いいの?」
「ダメなら初めから言わないよ」
「ごめん。ありがとう……」
「夕飯できたら呼ぶから、それまで休んでていいからね?」
「うん、わかった」
* * * * * *
それは本当に偶然だった。家のすぐそばで人が倒れていたのに気がついた時はパニックになってしまった。何をどうとち狂ったのか部屋の中に運び込んでしまった。これが知り合いだったからよかったものの、もし見ず知らずの人だったらゾッとする。
氷川暁斗…あの紗夜さんと日菜さんの弟だ。はぐみや花音さんからは優しいし頼りになるけどちょっと意地悪な人と聞いていた。
個人としての第一印象は、拍子抜けだったというのが正直なところだったのは覚えている。あの2人の弟というには似ていないしパッとしない。どこにでもいそうな普通という印象を受けた。
何事も程々を信条としている私としては、目立たない、普遍的であるというのはある意味で心惹かれる在り方で、もしかしたらずっと前から興味があったのかもしれない。
そして、ついこの間の訳の分からないあの200問のクイズ。控えめに言ってドン引きした。
────この人は頭がおかしい。絶対値で見れば多分こころ並にぶっ飛んでいる。
過去の境遇、現在の状況と外面がまるでちぐはぐな人。クイズだけでもかなり悲惨な生活を送っているのに、歪むことがなく、寧ろ好青年ともいえるような人格者になっているという、別の意味での歪さが有る。
むしろ外側でプラス、内面と境遇でマイナス、合わせてプラマイゼロって感じで訳がわからないと言った方が正しいのかもしれない。
高過ぎる理想と悲惨すぎる現実で釣り合いが取れるという意味不明な論理。“いい夢を見れているのだから現実は辛くて当たり前だろう”という最早狂人としか言いようがないその理屈は聞いた時には開いた口が塞がらなかった。
けれど多分突き詰めれば何も間違ってはいない。
何故なら人は理想と現実とのギャップで苦しむ生き物だから。その差が小さいならきっと不幸とは思わないし、幅があれば辛く感じるのが普通なのだから、潔くそれを受け入れて生きていけばいい。自身を見極め程よい理想で妥協して、それを達成できれば御の字。
ある意味で人類のハイエンドとも言える完成形。清濁併せ持った上でブレることのない中庸の思想。
平凡で、ありきたりな幸せが欲しい私としてはここまで割り切るのは怖いと感じながらもどこかで羨ましいとも思っていたし憧れてもいた。
でも、今彼はこうして何かに怯えている。
酷く落胆したと同時に安堵した。ああこの人も人間なんだなって…当たり前のように苦しんだりするんだなってそう思うとなんだか物凄く親近感が湧いてくる。
とりあえず、お姉さんに連絡して暫く預からせてもらおう。どの道帰らせるのは危険なのだ。あの2人に文句は言わせないしそもそも言っていい立場じゃないだろう。
────かくして役者は揃った。これから先は血で血を洗う悍しくも愛に満ちた絶滅闘争となるだろう。
なんの変哲もない少年が少女達に波紋を投げかけ大きな崩壊を招いてしまった。
少年は心が強かった。弱さや醜さを受け入れて許すことができたが故に、義憤に駆られた者よりも遥かに冷めていたが故に、その温度差で彼らの繋がりが割れてしまった。
これはただそれだけの話
本編とは無関係です。これ以上続けるとマジで血を見ることになるので勝者は皆さんの心の中…ということで
一応今後の予定の説明をば。番外編はもう言うことはない。割とこんなノリ。
・新ルート
誰に焦点を当てるかは決まってからTwitterで募集かけることになります。
一体誰のルートになるんだろう?一応RAS含めた六バンドやオーナー、ホモぐらいは想定しているけど、どうなるのかわかりませんね。
ちなみに本編は『つぐみルートの予定だったけど約束イベで軌道修正してその後に百人一首イベでオチを潰された結果変質した沙綾ルート』
とさいったところです。
・本編の続編(言うなれば2ndシーズン的なやつ)
チュチュは友希那にそっくり(友希那談)
暁斗は友希那に似ている(友希那談)
ならばチュチュは暁斗に似ている…?
まあそんなノリでいこうかなって思っています。