16歳。Vault101の人間はこの年になると職業適性試験G.O.A.T.を受ける。鍛錬も休まず行い、父さんにも一本取れるようになり始めた。刀の扱いも上達してきているが、まだ体が追い付いてこない。未だに成長中のこの体に、モンドの技は少しきつい。6年の歳月を懸けた修練は確かな経験と力量を着けさせてくれているものの、まだまだあの本家の領域には達していない。実戦経験の少なさもあるだろうが。
しかし、このVaultという空間は常に監督官によってモニターされている。たとえ自室にいたとしてもだ。だから鍛錬できる場所は10歳の誕生日プレゼントで手に入れた射撃場のみになってしまう。そこは父さんとジョナスによって少し細工が施してあるため、監視映像に介入出来る。要はハッキングだ。そのおかげでハッキングの腕前も上がり、鍛錬も行えている。それでも制限がかかってしまっているのはどうしようもないんだがね。
だがこのVaultでのテーマは『純粋』。戦前からの純粋な人間の存続こそがテーマである。だから本当に純粋に体を鍛える場所なら施設があった。いろいろなシュミレーションもあるし、軍式の物も様々だ。ここで何とか監督官をだましだましやってきた。今では体も引き締まり、原作モンドに近い状態だ。少し背が低く、全体的にがっちりした体になってはいるが、あのハードボイルドオーラは変わらず保たれている。そして現在に至るというわけだ。
「私が見た限りだと、とても健康的な16歳の男子だな。つまり、授業に出て試験を受ける必要があるってことさ。さぁ、行っておいで。G.O.A.T.を受けるんだよ」
「……はぁ」
G.O.A.T.試験当日。俺はわざわざ父さんの診察室に寄っていた。面倒だったし、どうせ父さんの仕事を引き継いで医者になるだろうと思っていたので仮病を使ったがやっぱり速攻でバレた。というかこの健康な肉体で病気になるとかまずありえない。なので父さんも苦笑しながら一応の診察の形をとってくれたが、それで認めてくれるほど甘くはなかった。
「そんなに不貞腐れるな。それに、そんなにひどいもんじゃない。皆も受けるし、お前だって大丈夫さ」
「わかった……じゃあまた、父さん」
「気を付けていくんだぞ。頑張ってこい」
父さんに頭を小突かれて、仕方がなく試験場に向かう。見慣れた通路に馴染みある消毒液の匂い。いつもの日常だ。何も変わりない。相変わらずの狭苦しい毎日。
原作モンドを意識してかけ始めた黒縁の伊達メガネをかけ、途中でジョナスに挨拶しつつ歩いていると、自称最強のギャング『トンネルスネーク』を組織したブッチ、ワリー、ポールが通路の先で監督官の娘であり幼馴染のアマタに絡んでいるのを遠目に見かけた。試験場の殆ど入り口のそばでやっているものの、教官のMr.ブロッチは準備で忙しく、他の同年代の連中はブッチ達が怖くて避けているだけだ。もっとも、今周辺にいるのは女の子だけなので致し方ない事ではあるけども。
このトンネルスネーク、ちょっかいをかけることに関しては非常にウザさ百倍になる。同年代や年下には偉そうにして、年上の権力持ちには媚びへつらう。ただのチンピラ集団でしかない。しかも折りたたみナイフであるスイッチブレードも持っているので、一般のVault住民から見れば十分脅威である。だがそれは一般の住民に対してであって俺にではない。いつも対刃物戦闘の経験値になってもらっている。
「ねぇブッチ、ほっといてよ!」
「やってやれブッチ!」
「教えてやれブッチ!」
周りの二人がにやにやとしながらブッチを煽り、ブッチもブッチでそれで調子に乗る。こういうことは今日に限ったことではないが、相変わらずへらへらとしたクソガキ共だ。アマタが監督官の娘で父親を尊敬していると公言しているからと言ってファザコンと連呼する馬鹿。ならばアル中の母親大好きなお前は何だと言うのか。
「どうすんだよアマタ?」
「だからほっといてって言ってるでしょ!」
「へっ、親父が監督官だからって調子のるなよ!」
調子のっているのはどちらだ。それにわざわざ入り口でたむろってる必要がどこにあるのか。そんなに構ってほしいのかどうかは知らんが、距離も詰まってきたし、そろそろイライラが溜まり始めた。前世からこういうラッドローチのクソ以下の奴ほど嫌いな部類はいない。
「あ、モンド。ねぇ、あれ何とかならない?」
「いつもの事だがな……俺が処理する。皆を少し離れさせてくれ。今回は少しばかり、お灸を据えなければならないみたいだから」
女性陣を下がらせた後、髪をかき上げ、軽く肩を回しながら集団に近づく。いい加減ブッチの相手も飽きてきたが、連中しつこさだけは一級品だ。だが今日の試験をさっさと終わらせたい俺にとってはこいつらはストレスの原因でしかない。早急に排除しなければ。
アマタが俺に気づき、期待からか先程までしかめっ面だった顔を綻ばせる。俺はそれに小さく頷くと、メガネ越しにブッチを睨みつけながら声をかけた。
「やぁブッチ。ずいぶんと面白そうな事やってるな」
「あ?何だ……げ、モンド!?」
突然の俺の登場に一変して固まりながら顔をひくつかせる三人。出来ればアマタを安全なところへ行かせたいが、ワリーが邪魔だ。丁度進行方向にいてアマタが動けない。壁を使って囲んでいるから逃げ場がない。
「お、お前ぇには関係ねぇだろ!トンネルスネークに刃向ったらどうなるかわかってんだろうな!」
「そ、そうだそうだ!」
「トンネルスネーク最強!」
「はぁ……進歩が無いな。お前たちは」
どもりながら言われてもまったくもって恐ろしくない。それに俺は何度もこいつらを潰しているから、今更刃向ったらどうなるとか言われても逆に困る。というか、こいつら毎回同じこと言っているのに気づかないのか。そんなのだから女の子にモテないんだ。
「う、うるせぇよ!今日こそお前に痛い目見せてやるぜ!おい!」
ブッチが苦し紛れにそう言うと、アマタを囲むのを止めて俺を三人で囲む。そしてそれぞれが懐からスイッチブレードを取り出してにやにやと笑いだした。周囲の女性陣は悲鳴を上げ、それにつられて試験会場の中の奴らも顔を覗かせているものの、特に何をするでもないオーディエンスだ。少ししてMr.ブロッチもようやく出てきたが、俺が相手だとわかると苦笑して様子見に移った。オフィサーには連絡済だといういつものハンドサインとして親指と小指を立てて左右に振ってきたのでこの後の心配もない。
「前は一本しかなかったからダメだったけど、今回は全員持ってるぜ!いくらお前でも三人同時だったらどうしようもないだろう!」
「全く、舐められたものだな」
そんなブッチの戯言を聞き流しながら、俺はメガネを外し、三人を睨み付ける。そしてメガネが壊れないように注意しながら真上に投げ、こちらから一気に仕掛ける。待ちからの攻撃でもいいが、それは前にやったので今回は自分から攻める。
「1人」
「ぐおっ!?」
まずは目の前にいるポールから。
突然投げたメガネに意識がいっていたポールに一気に近づき、ナイフを持つ右手を左手で軌道を逸らした後、勢いよくポールの顎先に腕をクロスさせるようにして掌底を顎先にくらわせ、昏倒させる。1人目。
「ぐえっ」
「2人」
するとそれを見たワリーが後ろからまた真っ直ぐに突っ込んできたのでそれを体を回転させながら横にずれる事で回避。そしてそのまま伸びきった腕を左手で掴み、回転速度を落とさぬまま右ストレートを勢いよく顔面に叩き込んだ。なんというか面白いぐらい綺麗に入った。2人目。
「この野郎!」
と、このまま続けていきたかったが、激昂したブッチがナイフを手首のスナップを効かせて使ってくる。突っ込んでくるだけだった前より上達しているのがムカつく。それでドヤ顔してきやがったので二度、三度避けた後に大振りとなった一瞬を突き、大きく蹴りを突き出すように鳩尾へ入れた。するとカエルが潰れたような声を出してうずくまろうとするブッチ。だがそれだけでは許さない。
「3人」
「ぐぼぇぇぇ!」
蹲って丁度いい位置に頭を下げてくれたブッチにそのまま大きく回し蹴りをプレゼントする。そしてそのまま飛ぶブッチに目もくれず、キュッと鳴る床で回転の勢いを殺しながら落ちてきたメガネを丁度目の前でキャッチ。乱れた髪をかき上げ、メガネをかけ直した。この間約5秒。
「「「きゃーーー!!」」」
「「「おおおー!!」」」
と同時に挙がる歓声。女性陣からは黄色い声を、男性陣からは称賛の声をそれぞれもらう。だが、そんなものよりも気になるのは幼馴染の安否だ。ゲーム内ではそんなに好きなキャラクターではなかったけど、10年も一緒に育てばそれも変わってくる。それにゲームより美人だし。
「大丈夫かい?アマタ」
「えぇ、私は大丈夫よ。いつもありがとう、モンド。こいつらったら本当に子どもなんだから……」
「[Lady Killer]いいさ。君が無事なら俺はそれで……君のきれいな肌が傷つくなんて、見たくない」
「[成功]はぁぁぁ……モンド……」
軽く手を握り、彼女のきめ細かい肌の頬に右手を寄せる。必然的に顔が近くなり、彼女のうっとりとした顔が間近にあるものの、こんなみんなが見てる前でどうこうするつもりはない。それにあの親馬鹿監督官が許さないし。とりあえず無言のモンドさんフェイスで好感度稼ぎを――――。
「あー、そろそろいいか?」
「「……」」
――――しようとしたところで割り込んでくるのはオフィサー・ゴメス。オフィサーの中でもとても信頼のおける人で、何かと俺を気にかけてくれるいい人だ。こんなに早く来た理由は、近くで巡回中だったらしい。
誕生日パーティにも来てくれるし、父さんも彼なら大丈夫だと言っていた。だが、この人毎回タイミングが悪い。俺が女の子といい感じになった時に大体現れるんだから、狙ってるんじゃないかと思いたくなる。
でも、この人は職務を忠実にやり遂げているだけなので何も言えない。お世話にもなっているし……しかし、もう少しだけ時間をくれてもいいんじゃないか?
「とりあえずブッチ達は拘束しておくよ。モンドだから何とかなったものの、スイッチブレードを持ち出して一人を囲むとは、なんて馬鹿な事をしてくれたんだこの子達は!」
「それじゃあ後はお願いします。僕達はこれから試験ですので」
「あぁ、任されたよ。いつも悪いね、モンド。じゃあG.O.A.T.頑張っておいで!」
うめいているブッチ達に手錠をかけていくブッチ達を背にして、俺は未だ惚けているアマタの腰を抱いて中までエスコートする。その少しの間だけでも、オーディエンスと化していたメンツから声をかけられた。いつもの事だが、人に褒められて称賛されるのは気分がいい。増徴するつもりはないが、人間としてこの感情は致し方ないんじゃないだろうか。
「やぁ、モンド。早速やらかしてくれたね」
「すみませんMr.ブロッチ。試験開始前から騒がしてしまって……」
「いやいや、下手に私が介入するよりよっぽど彼らにお灸が据えられましたよ。あんな大勢の前であっけなく負かされたんだから、少しの間は静かになるでしょうし」
そう言って笑ったMr.ブロッチはアマタを起こしておくように言って準備を始めた。席に着き、声をかけるもどうしても起きなかったため軽く尻を叩くとようやく覚醒してくれた。まぁそのことで少し怒られたが、さっきのお礼ということで。
「さぁ皆席について!試験を始めるよ。私語は厳禁。いいね?なら、まずは問題1――――」
それから10分から20分の間心理テストのようなわけのわからない質問に答えて試験を終える。正直な話、これで何をどう見るのかがさっぱりわからない。だがMr.ブロッチ曰く、中々どうして丸っきり外れではないらしい。
しかし、親父に対する嫌がらせをどうするかで何の適正がわかるというのか……。
「やったわモンド!私監督官コースだって!」
「おめでとうアマタ。俺はやっぱり医者だったよ。受ける必要があったのか……」
「様式美よ。大人になって仕事を任されるまでの儀式みたいなものなんだから、我慢しなさい。でも、やっぱりモンドは医者かぁ……医務室に行く子が増えそうね」
答案用紙からの裁定での進路について互いに話しながら試験会場を後にする。アマタは監督官、俺は医者と、それぞれ別の道を進むことになる。だがそれも、ここを出なくてはならなくなる3年後までだ。その正確な日付はわからないし、きっと父さんも教えてくれないだろう。ということは、ジョナスの事もどうしようもない。俺に出来ることは自分を鍛えて生き抜いていくことだけだ。
そんなことを考えながら、彼女が楽しそうにお互い頑張ろうと声をかけてくるのにささやかな癒しを覚える。こうして平和な日々が続くことがどれだけ尊いことか。それは実際に外を体験していない俺にはまだ完全に理解できていない。覚悟は決めたつもりでいるけど、彼女や周りを見て過ごしていると、それも少し緩んでしまう。
しかし、こうして今だけでもこのひと時をお互いに笑って過ごしていきたいと思ってしまう事を、どうか許してほしい。
まぁ、モテモテモンドスペックを手に入れたらだれだってこうなるさ。ジェームズだって色々怪しいわけだし、熟女好きだし(笑)
アマタはこの作品内では可愛い設定。恋する女は綺麗になるのです。