Vault101のジゴロ   作:神山

6 / 11
Vault6

モイラの店から出た俺は今日の宿を確保するべく、保安官から聞いたモリアティの酒場へと向かう。そこは酒場と宿屋も兼ねているそうで、父の情報収集と共に宿も確保するつもりだ。

 

だが、その前に建物の影でアーマーを外してスーツに着替える。酒場に入るのにアーマーなんか着ていられないし、これじゃ宿も貸してくれないだろう。重さでぶっ壊れるんじゃないかと言われたら終わりだ。とりあえず月光とミステリアスマグナムは装備しておく。

 

「おやおやおや、メガトンとキャラバンの救世主サマのご到着ですか。でっかいアーマーも脱ぎ捨てて、こんな場末の酒場に何用で?」

 

酒場を前にして扉前の柵に寄りかかった男に止められる。くすんだ白髪のオールバックに口元に蓄えた髭、胡散臭い悪人顔の男と、保安官から聞いたモリアティの外見だ。おそらくこの男がそうなのだろう。

 

「随分な言い方ですね、モリアティ。これから客になろうという相手に対しての対応とは思えない。接客業のなんたるかを学び直した方が良いのでは?」

 

「はっ!いつの話だってんだ!んなもんここじゃ必要ないし、敬意を払うだけ無駄ってもんだ。まぁ、キャップを払っている間はきちんとサービスは受けられるから安心しろ」

 

そう言って笑うモリアティの横に同じようにもたれかかる。少し話しただけでも分かるキャップ至上主義。典型的な小悪党だ。金を払う限り最低限のサービスはするが、それ以上はありえない。なにかしら弱みでも握られれば、一生強請られることだろう。しかしそれは、金さえ払えば何かを得られることと同義だ。

 

「さて、俺の事は知っているみたいだが、改めて名乗らせてもらおう。俺はコリン・モリアティ。ここは俺の酒場で、俺の家だ。辺境の小さな町の、ちょっとした天国さ。キャップがあるなら椅子に座って楽しんでくれ。宿だってなら、中にいるノヴァに頼めばいい。彼女ならあっちの処理もお手の物さ」

 

「私はモンド。この間ここに訪れたであろうジェームスの息子です。父を探しに来ました。何か情報は?」

 

「まさか……お前か。あの時の小さな子が大きくなったな。あの鉄面皮のガキだろう?今も変わらないようだがな。久しぶりじゃないか」

 

正直、ここは驚くべきところなんだろう。自分がVault101の外の住人と知り合いなはずはないし、父もまたそのはずだ。しかし俺は知っている。大まかだがすべてを。

 

「確かにお前の親父はここを通った。だが、もういない。欲しいものを手に入れて去っていった。お前もそうなんだろう?」

 

「似たようなものですよ。しかし、父とはどういった経緯で知り合いに?」

 

「お前が生まれた後、お前の親父がVaultに連れて行ったのさ。お前の安全のためにな。よく覚えてるよ、俺も隣にいたからな。それにしても、驚かないんだな。自分がVaultの外に知り合いがいることに」

 

「……正直、自分があそこの住人とは根本的に違うことは分かっていましたよ。本質が違う。それに、父さんは、その、少し抜けているところがあるというか」

 

「わははははっ!そうだな!あいつは根っこからの偽善者で秘密を守りたがるが、すぐにボロが出る。お前さんの前でもそれは変わらなかったようだな。何を言われた?」

 

「明らかにVaultにいないシュミレーターの敵の名前。各組織のこと、他にも外の情報をぽろぽろと」

 

「ブハッ!全然隠せてないじゃないか!ボロが出るにもほどがあるってんだ!」

 

高らかに笑うモリアティに、少し気恥ずかしくなる。あれでも父親だし、前世のことは言えないから嘘とはいえ、自分で言っておいて何だが恥ずかしい。しかもあながち間違っていない。ちょこちょこ口に出して誤魔化しているんだから手に負えないんだよ。

 

「いやいや、笑わせてもらったよ。じゃあそろそろ本題に入ろうか。親父の居場所を知りたいんだろう?」

 

「はい。すぐに動くに動けないので、仕事をこなしながら向かうことになるでしょう。で、いくらです?」

 

「ほう、わかってるじゃないか。Vaultで育ったから、タダでくれるんじゃないのか!って喚き倒すと思っていたんだがな」

 

「情報は力であり金ですよ、Mr.モリアティ。それはあなたがよくご存じのはずだ」

 

「くくくっ、ちょっと前に出てきたVaultのやつとはえらい違いだな。よくわかってる。そうだな……75キャップ。笑わせてくれた分割引だ。すぐに出せるか?」

 

俺はPip-Boyから75キャップ取り出し、モリアティに手渡す。彼はそれを満足そうに見た後、懐に収めて話を切り出した。

 

「毎度。親父は南東の街に向かったよ。放送局にいる過激な連中が持っている情報が必要らしいな。ギャラクシーニュースラジオのことだよ」

 

ギャラクシーニュースラジオ(GNR)は首都の廃墟にあるやかましいラジオのことだ。DJはスリードックという男で、毎日録音放送にて自称正義の戦いについて話している。他にも音楽やドラマを流しているので、地元住民からはわりと人気な放送だろう。ただのBOSによるプロパガンダだという見方もあるが、モリアティ曰く、おかしな連中の王様によるやかましい放送だそうだ。

 

「ウェイストランドで何が起きているか知りたいのなら、そこに行くべきだろうな。首都にある分多くの情報が渦巻いている。だが、D.C.の廃墟に突っ込んでいくのは自殺行為だ。お前さんなら大丈夫なのかもしれんが、そこら中にミュータント共がうろついているし、レイダーや傭兵集団のタロン社までいやがる。それに、GNRへは崩壊したメトロトンネルを通って行かなきゃならん。長い旅になるぞ」

 

「ご忠告ありがとうございます。全部こいつで斬り捨てて、生きて帰ってきますよ。何なら俺の後についてきて一時的に安全な商業ルートを確保しますか?」

 

背を預けていた柵から離れ、酒場の扉に向かいながら冗談を言ってみる。モリアティはそれに鼻で笑い、持っていたビールを一口飲んでから口を開いた。

 

「はっ!そいつはありがたいね。だがそれはまたの機会にするよ。俺はお前ほど死に急ぎ野郎じゃないんでな……ところで、なんでそんなに親父を追いたがるんだ?Vaultを出てもお前には自立できる能力があるし、わざわざ危険に突っ込まなくても暮らしていけるだろう?」

 

彼にとって、親を追うためにわざわざD.C.まで突っ込んでいく俺は大馬鹿者だろう。死に急ぎ野郎と言われても納得できる。実際、何も知らないなら父さんを追いかけてvaultを出た真実を知ることにそれほど意欲を出すことはなかっただろう。俺は自立できる能力と装備を手に入れたし、働き口なんて腐るほどある。

 

だが俺は真実を知っているし、父さんを見捨てることはできそうにない。だから、俺は彼に背を向けながらこう言った。

 

「馬鹿な親父を、一発殴るためですよ」

 

そのまま扉を開け、アルコール臭い中へと入る。後ろでは呆気にとられた後、大笑いするモリアティだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒場の中は昼過ぎということもあって人も疎らであった。カウンターにも客はおらず、奥のテーブル席に数人酒飲みがいる程度だ。

 

カウンターには従業員らしいグールの男と赤毛の女性が話し込んでおり、話を聞くにラジオがうまく流れないらしい。叩いても治らず、彼女が言うにはGNRのものだけ電波から駄目になっているとか。もう一つのエンクレイブという組織の局は満足に聞けるそうなので、ラジオ自体の故障でない事は確かだ。

 

ちなみにグールというのは、放射能によって変異してしまった人間のことだ。皮膚はずるずるのケロイド状になり、わずかに髪の毛が残っている程度だ。正直言って夜に近くにいてほしくない見た目であるし、普通の人間からは怖がられる。ただ彼らは寿命によってそうそう死ぬことが無い。戦前のグールなんてザラにいるし、彼らの多くは自我を保っている。

 

彼らが理性を持てなくなった個体をフェラルグールと呼ぶ。彼らは人を襲うし、何でも食べるために忌み嫌われているのだ。こいつらのせいでいつグールの理性が保てなくなるかと言われ、フェラルと扱いを変えない連中もいる。人間もそう変わらないので、俺はそうそう気にしないが。

 

「このボロラジオめ!クソ!電波拾えよ!拾え!拾って……ください!」

 

とうとう敬語になってラジオに頼み始めた彼を前にするようにカウンターに座ると、ようやく俺を認識したらしいグールの男から少し喧嘩腰に話しかけられた。

 

「何かいるかい?酒か?他にもあるぞ。何でもいいから、何かありゃいいな?」

 

「ん?あぁ、すまない。まだ決まってないんだ。メニューはあるか?」

 

座った瞬間にそう言われても困る。俺はメニューを見てゆっくり決めたい派なんだ。宿を早く取らないといけないけど、さっきのモリアティとの話で遺伝の如くいつボロが出るかと冷や冷やしたので、何か飲みたいんだよ。

 

と、メニューを待っていると二人が驚いたような顔をしていた。

 

「どうした?俺が何か失礼をしたかな」

 

「い、いや、お前……俺はグールだぞ?」

 

「だからどうした?俺は見た目なんて気にしないし、グールも人間だと思っている。まぁ、夜に隣にいてほしいとまでは言わないが」

 

「ははっ、そりゃそうだ。だが、ありがとうよ。この町の人間たちからはいつもひどい扱いを受けてるんだ。見た目が醜いって理由でな……お前みたいな考え方の人間には初めて会ったよ。人間にもまだ良い奴がいるっていう事だな」

 

そう言って彼は穏やかに笑う――皮膚が引きつっていて少し怖いが――と、カウンター下からメニューを取り出した。俺はヌカコーラを選んでキャップを払い、彼を待つ。

 

彼が持ってくるのを待っている間に、さっきからこちらを覗き込んでいる女性の相手をすることにする。赤毛で色香漂う女性だ。おそらくここの娼婦だろう。モリアティの言っていたノヴァかもしれない。

 

「どうしたんだ?俺の顔をじっと見て」

 

「あら、ごめんなさい。ゴブ……あぁ、あのグールの彼ね。そのゴブを全く気にしないって人を見たのは初めてだったからつい、ね。あとは、あなたのダンディな横顔に見惚れていただけ」

 

俺にしなだれかかりつつもその豊かな胸を押し付け、上目使いで吐息を漏らすように甘えた声を出す。典型的な客引きだが、だからこそ効果もある。男っていうのは単純な生き物だからな。エロいお姉さんにこんなことされたらテンションが自動的に上がるものなのだよ。

 

まぁ、今回は普通に宿も取る気だったからいいんだけど。

 

「[Lady Killer]それは光栄だ。でも、出来ればもっと近くでキミに見てほしい。俺もキミの綺麗な瞳をずっと見つめていたい……二人っきりになれる場所で、お互い、ゆっくりと」

 

「ぁ……」

 

サングラスを外し、ぐっと彼女の腰を椅子ごと引き寄せる。そして彼女の頬を左手で撫でながら、モンドフェイスを超至近距離で発動。要は真面目な顔してじっと見つめるだけなんだが、大抵の女性にはスキルも相まって効果がある。Vault101で実験済みだから効果は保障しよう。

 

相手は本職の娼婦なため多少効果は薄れると思うが、彼女の顔はほんのり赤くなって瞳が潤んでいるのを見れば成功のようだ。まぁ、こんなことばかりしてるからオフィサー共の反感を買ったわけだけども。

 

「あー、そろそろいいか?」

 

そんなことをしていると、戻ってきたゴブがヌカコーラとグラスを手に居心地悪そうにしていた。ノヴァは邪魔されたと少し不機嫌になったので少し頭を撫でておく。ゴブへのフォローも入れておいたので何かされることもないだろう。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はモンド。Vault101から出てきたばかりの新人だ」

 

「俺はゴブ。アンダーワールド出身のグールだ。行くことがあれば寄ってみてくれ。グールに偏見を持たないお前なら、あそこの住人も悪いようにはしないさ。俺の名前を出してもいい。それにしても、Vaultか。ってこの間も……あー、いや、忘れてくれ」

 

「まったく、勝手にしゃべるとモリアティに殺されるわよ?あ、私はノヴァ。部屋を取るなら私に言ってね?あと他の女の子の手配もね……でもハニー。まずは私とさっきの続き、しましょ?」

 

最後に耳元でささやくように言ってくるノヴァに抱き寄せることで答えると、途端に上機嫌になった。そんな彼女に呆れた様な目を向けるゴブだが、それが彼女の仕事なので何も言わない。

 

聞けば120キャップで一晩借りられるそうだ。家もないし、快適なベッドと女性がいるならそれくらいどうということはない。下に降りればすぐに飯も食えるし。

 

なにはともあれ、これで宿は取れた。今日は夜にやることがあるし、ゆっくりしておこう。




ノヴァさんへの効果はあまり高くありません。娼婦を本職にしている彼女へは感じよくて気分を乗らせてくれる人という程度です。今までにいないようなダンディモンドさんなので珍しがってるだけになりますね。証拠にゴブが出てきた時にすぐ正気に戻りました。

まぁモンドもそれはわかって楽しんでますが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。