一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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二話に分けるか迷いましたが勢いつけたれとそのままにしました。
‥この文量を1日で書いた自分が信じられません。
オリジナル戦闘回です。


【11】夜の血族と剣闘士

全て与えられるだけだった。

何もかもを失くされた自分が偶然恵まれただけのこと。

今度は自分が渡す番。

今度は自分が、助ける番———。

 

 

********************

 

 

「‥どうした、かかってこないのか?」

 

悠然と構える吸血鬼。

それに対し、一挙手一投足ですら見逃すまいと緊張の糸を張り詰める剣闘士。

既に優位性は傾いていた。

 

「流石にてめーみてーな魔物とやり合うのは初めてなんでな‥。ビビってんのさ」

「自分で言うところが貴様は可笑しいな」

「笑ってろ」

 

最後に勝つのがわたしならそれでいい。

 

「とはいえ、時間がないのも事実。30分だからな」

「なら、私から手を出してやろうか?」

「いやいや、それには及ばねえよ‥‥なあ!!」

 

千雨の脚が地面を砕き、拳がエヴァンジェリンに迫る。

それを余裕の表情で受け流すエヴァンジェリン。

 

「始まったぜ!!」

「千雨ちゃん、大丈夫なのかな‥」

 

「!!」

「どうした?簡単に無手で受け流されたのがそんなに意外か?」

 

受け流された拳は地面を大きく砕き、その反動で2人の身体が浮く。

舌打ちしながらエヴァンジェリンを下から蹴り上げる。

ガードするも空中へ打ち上げられるエヴァンジェリン。

 

「ぬ」

「器物損壊は良くねーからな」

 

何より橋を壊してしまえばネギたちに被害が行きかねない。

 

「ならばこうしてやろう。‥リク・ラク ラ・ラック ライラック」

 

エヴァンジェリンが空中で飛ばされながら始動キーを唱え始める。

 

始動キーを唱えることで魔法は為される。

始動キーなしでも高位の魔法使いは簡単な魔法を使えるが、始動キーありの方が魔法の威力や性能は高い。

つまり、今からエヴァンジェリンが使う魔法はそれなりに威力が高いのだ。

しかし、呪文詠唱には欠点がある。

呪文詠唱の際には通常、魔法使いは無防備になるのだ。

それを守る為に魔法使いに従者が必要となる。

 

「させるかよ!」

「来れ‥氷精」

 

通常なら、だが。

呪文詠唱を止める為にエヴァンジェリンに突っ込む千雨。

だが、瞬時に腕と顔、腹を狙ってきた千雨の拳撃を同様の速度で払い落とし、今度はエヴァンジェリンが千雨を蹴り飛ばす。

 

「がっ!」

「大気に満ちよ 白夜の国の 凍土と氷河を」

「!」

 

橋に着地した千雨だが、唱えられた呪文によって次に来る攻撃がわかってしまった。

すぐに大きく跳ね上がり、エヴァンジェリンと同じ高さまで上がる。

 

「いけません!」

「え?」

「うわっ!なにすんでい!」

 

茶々丸もネギと明日菜を抱えてカモを掴み、ジェットで急噴射して飛び上がる。

 

「こおる大地」

 

エヴァンジェリンの呪文詠唱が完了する途端に、橋の地面から巨大な氷柱が何本も生え始める。

氷柱は大きく橋を覆い、元の地面の上に被さる。

 

「これは‥‥足場か!?」

「冥府の氷柱」

 

エヴァンジェリンが続けて魔法を使い、今度は湖から橋を囲うように巨大な氷の円柱が数本突き出す。

茶々丸たちが離れて橋を見ると、氷の城が出来上がっていた。

 

「こ、これが‥魔法」

「す、すげえ魔法だ‥‥。兄貴とやり合ってた時は手加減してたのか。姉御、本当にあのエヴァンジェリンに勝つ気なのかよ‥」

「‥」

 

カモがネギを見ると、ネギは暗い顔で下を見ていた。

いや、下すら見ていなかっただろう。

彼が見ていたのは、虚空だ。

 

「これで存分に戦えるだろう。何も気にすることなくな」

「‥タコが。ナメてやがんな、てめー。‥‥‥一応聞いておくけど、今は不死なんだよな?マクダウェル」

「当然だ。確かに登校地獄の呪いは途絶えてないが、学園結界の方が吸血鬼の力を抑えていたからな‥」

「なら、いい」

 

ニヤリと笑う千雨。

ようやく、力が出せる。

流石にクラスメイトを殺めるのは気が引けたのだ。

 

「いくぜ、今度こそな!!」

 

“気”が千雨の身体からドッと溢れる。

その圧力を間近のエヴァンジェリンだけではなく、戦いの余波が届かないところまで離れたネギたちも受けていた。

 

「小手調べは終わりか」

「当然‥!」

 

片手を上げ、詠唱を行う。

 

武装(アルミス)召喚(コンボカーレ)!!」

 

挙げた千雨の手の傍に、魔法陣が出現する。

そこから、一本の刃が赤い西洋剣が出現し、千雨の手に収まる。

 

「何かと思えばたかが剣か」

「たかがかどうか試してみろよ!」

 

“気”を剣に行き渡らせ、エヴァンジェリンに飛びかかる千雨。

それを余裕綽々といった表情で氷楯を出し、剣撃を受け止めるエヴァンジェリン。

だが、剣が楯に触れた途端に楯が侵食されたような音を出し始め、楯が溶けて二つに切れる。

 

「な‥何!?」

「そらよ!!」

 

迫る剣をすんでのところで躱すエヴァンジェリン。

自分の顔すれすれに剣が横切る。

その際、剣が多量の熱を発していることに気づく。

 

「これは‥魔法具(マジックアイテム)か!?」

「古代遺跡から見つけてきた大光の両刃剣だ!言っとくが、そんじょそこらの魔法具(マジックアイテム)と一緒にしてくれんなよ!?」

「小賢しい物を出しおって!!」

 

小賢しいとは言ったが、エヴァンジェリンの氷楯を簡単に切り裂くほどの技だ。

魔法具(マジックアイテム)の性能と千雨の“気”が合わさって、エヴァンジェリンの天敵となっている事は間違い無い。

すぐに戦い方を切り替え、断罪の剣を出すエヴァンジェリン。

大光の両刃剣と断罪の剣が高い異音を出し、互いに合わさる。

 

「なんだ‥溶けねえ!」

「断罪の剣は気体に転換して作られた物だ‥。溶けようがないぞ!」

「へっ、それがどうした!?」

 

剣の効果が効かないなら直接叩き斬るまで。

千雨は“気”によって強化された身体能力を遺憾なく発揮し、エヴァンジェリンを弾き飛ばす。

 

「何という馬鹿力だ!!スピードだけではないということか‥!」

「まだまだぁ!!武装(アルミス)召喚(コンボカーレ)!!」

 

再び武装(アルミス)召喚(コンボカーレ)を唱え、今度は大きな軍旗を取り出す千雨。

旗は古びた水色の布だったが、淡く青い光を発しているように見えた。

 

「今度は何だ!?」

「霧雨の王旗‥‥撃て(ヴィルガ)!!」

 

霧雨の王旗を千雨が振るうと、千雨の周囲に王旗の魔力によって作られた剣が百本近く生成され、エヴァンジェリン目掛けて一斉に飛ぶ。

速い。

だが、エヴァンジェリンは対応を間違えない。

 

「氷瀑」

 

剣の群れの中心に氷瀑を打ち込み、剣を魔力の塵と霧散させる。

霧が晴れると、千雨が大光の両刃剣を両手で持ち、上段の構えを取っていた。

 

「!!」

「我流・気合武闘 壱光」

 

エヴァンジェリンも片手を翳し、無詠唱で魔法を発動させる。

 

「光束一刀!!」

「氷瀑!!」

 

光が貫き、吹雪が踊る。

千雨は技の余波から抜け出していたが、エヴァンジェリンはその場に留まり、千雨を観察していた。

攻撃面では申し分のない火力、手数を出せるようだ。

武装(アルミス)召喚(コンボカーレ)で多数の魔法具(マジックアイテム)が出せる分、種類も多い。

霧雨の王旗を使えば手数などいくらでも出せる。

どこでこれだけの魔法具(マジックアイテム)を揃えたのかはわからないが、どれも発見されたら魔法界の王室や貴族に献上されるほどには貴重な品々だろう。

そしてそれを使いこなしている。

更に本人は“気”の扱いがあり、魔力もあるときた。

別段魔法の才能があったわけではないエヴァンジェリンからすると、中々反則じみている。

 

「‥‥天才、か」

「そういうお前は秀才か?」

「ふん、600年だぞ。その大半を戦いに駆られれば強くもなる」

「駆られる、ね」

 

自ら戦いたかったわけではない。

そう聞こえた。

この戦いも、実はやりたくなかったのかもしれない。

今の千雨には関係のない話だったが。

既に火蓋は切られたのだ。

 

「‥‥剣闘士ってのはな。様々な武具を用い、これまた様々な敵と戦うのが仕事だった。生きる為に、な。戦って金を稼ぎ、命を削って明日の命を得る」

「‥?」

「だが、わたしはちょっと話が違う。わたしは生きるのに何不自由なかった。けど、わたしは剣闘士の世界に飛び込んだ‥」

「‥何故だ?聞いてやろう」

「強くなるには、一番の近道だったからだよ!!」

「!!」

 

千雨が剣を捨て、大光の両刃剣はふっと消える。

代わりに、千雨が長年愛用した武具を出す。

それは、千雨が贈られた四つの品の一つ。

 

一つは師に。

二つは別の師に。

三つは姉のような人に。

四つは憧れの人に。

 

これは、師から送られた初めての武具。

 

武装(アルミス)召喚(コンボカーレ)‥‥‥始雲のガントレット」

 

千雨の両手に白銀でできたガントレットが出現する。

長年愛用している割には新品のように綺麗だったが、使い込まれているガントレットは千雨の手によく馴染んでいた。

 

「‥また魔法具(マジックアイテム)か。今度はどんな手品を見せてくれるのだ?」

「手品じゃねーよ。これの効果は一つしかない」

「なに?」

「雲は‥‥全ての始まりなんだ」

 

雲は雨を生んで水を作る。

雲は栄養を吸い込んで降り注ぎ、土を育てる。

雲は雷を作り出し、降り注いで火を興す。

雲は氷雪を降らせ、風を吹かせる。

雲があることで闇が在り、退くことで光が生まれる。

 

「だからこそこのガントレットから始まるのさ‥」

「‥まさか」

「いくぜエヴァンジェリン。出し惜しみはなしだ。お前も、わたしもな」

 

全身に“気”を巡らせ、エヴァンジェリンに襲いかかる千雨。

拳や蹴りはかなり重い一撃だったが、吸血鬼の魔力をエンチャントしたエヴァンジェリンならば受けきれないものではない。

しかしこのままでは、いつ押し切られるかわからない。

やはり距離を取って手管で絡め取り、そのまま大火力で押し切ったほうがよさそうだ。

しかしそこで、すっと息を吸い込み、千雨(・・)が唱え始める。

 

「‥プラ・クテ ビギ・ナル!来れ火精 闇の精!」

「なっ‥‥なんだと!?」

 

エヴァンジェリンは驚きながらも千雨の魔法に反応し、自らの魔力を練り始める。

エヴァンジェリンが自分と同種の魔法を使おうとしているのを見て、笑う千雨。

魔力が違えどもわざわざ同威力の魔法を使い、違いを見せつける気なのか。

 

対してエヴァンジェリンは今日一番の衝撃を内心受けていた。

 

(なんだこいつは‥‥!!本当になんなんだ!?“気”と魔力を同時に使う剣闘士!?)

 

魔法を練り上げている千雨だが、迫る拳には“気”が込められている。

威力も魔法を唱え始める前から衰えてなどいない。

千雨の体内では魔力と“気”が同時に練り上げられている。

それをできる人間を何人か見たことがあったが、エヴァンジェリンの長い生で何人か、である。

千雨は数少ないそれが可能な人間となったわけだ。

 

「闇を従え 焼き尽くせ 常夜の炎火」

「おのれっ!!」

 

魔法の余波を避ける為に、距離を取ろうとするエヴァンジェリンだったが、ストレートのように繰り出した拳を開き、エヴァンジェリンの肩を掴む千雨。

 

離れられない。

そして、始雲のガントレットが淡く光り、魔力が迸る。

始雲のガントレットは何の変哲もないただの武具だ。

魔法発動体であるという、ただ一つの特徴を除けば。

 

「闇の猛火!!」

「闇の吹雪!!」

 

互いの掌から放たれた上位魔法は、お互いの懐でぶつかりあい、爆発する。

火と氷という相反対する属性が、激しい温度差を作り出し、通常よりも大きい爆発が発生する。

いつの間にか肩を放され、エヴァンジェリンは吹き飛ばされ、先ほど作り出した氷の城に打ちつけられる。

身体は至近距離で爆発を受けた為に傷だらけだが、すぐに塞ぎ始める。

本来ならエヴァンジェリンが無意識に展開している魔法障壁が反応する筈だが、距離が近すぎた為、爆発は魔法障壁の内側で起きていたのだ。

千雨の狙いはそれだった。

 

(だが、それは奴も同じこと‥。大体奴は魔法障壁は展開していなかった。私と違って人間だ、それなりに怪我をした筈‥!)

 

しかし、エヴァンジェリンの予想は見事に裏切られる。

煙が晴れる前に魔法の射手を打ち込んでやろうと構えたエヴァンジェリンの後ろに現れる千雨。

すぐにエヴァンジェリンの五感が感知し、振り向き様に魔法の射手・氷の一矢を打ち込む。

 

「甘えよ」

「ぬうっ!!」

 

ガントレットで氷の矢を防ぎ、そのまま至近距離でエヴァンジェリンの腹に気弾を撃ち込む千雨。

再び吹き飛ばされるエヴァンジェリンだが、吹き飛ばされながらも千雨の身体に目が向いていた。

 

(無傷‥!?)

 

「どうした真祖。何を惚けてんだ!?もうやる気失くしたかよ!?」

「くっ‥たわけが!余程死にたいようだな!!」

 

そうか、と合点がいったエヴァンジェリンが舌打ちをする。

“気”が使えるのだ。

千雨はただ“気”を纏って全身を防御しただけに過ぎない。

魔法障壁の代用に“気”の防御が出来れば、防御・競り合いを“気”で行い、攻撃・搦手を魔力で行える。

魔力と“気”を使う人間はいたが、ここまで戦闘に魔力と“気”を使い分けている人間はいなかった。

片方を主体に他方を補佐、又は“気と魔力の合一”に二つを合わせて使うか程度だった。

 

つまり千雨にダメージを与える為に、千雨の“気”を上回る威力の魔法を撃ち込むか、千雨の“気”を使い果たさせるくらい消耗させるかが主な戦法になるだろう。

ただ、高威力の魔法といっても上位魔法二つ分以上の魔法となる。

 

「ふん、どうやら貴様と魔法一つでやりあうには手数が足りないようだな‥‥忌々しいことだが」

「はっ、情けないことの間違いじゃねえの?それでも600歳の吸血鬼かよ!」

「‥認めよう。貴様はまともにやるなら面倒な相手だとな。正真正銘、吸血鬼の真祖の魔力があれば話は別だがな。真正面からゴリ押すだけだ」

 

傷が瞬く間に消えたエヴァンジェリンが立ち上がり、上に向いた掌を前に出す。

指を曲げ、糸を引くような仕草をする。

途端に千雨は妙な悪寒を感じた。

周囲から、何か見られている気がしたのだ。

すぐに周りを見遣ると、影という影に魔法陣が出来上がっていた。

 

「な、なんだ‥召喚魔法陣か!?」

「出でよ我が人形(ドール)たちよ!我が敵を捕らえよ!」

 

エヴァンジェリンの声とともに、魔法陣から恭しく礼をしたままの召使いが出てくる。

召使いはみなメイド服を身にまとい、それぞれ武器や杖を持っている。

エヴァンジェリンが普段は別荘という幻想空間に置いている人形たちだ。

そして、全ての人形(ドール)たちはみなエヴァンジェリンと人形(ドール)契約を結んでいる魔法使いの従者である。

 

「何人いるんだよこれ!!」

「さあ、かつて一国を攻め落とした軍勢相手にどう凌ぐ!?」

 

エヴァンジェリンが勢いつけて手を振り下ろし、人形たちが一斉に面を上げる。

“気”を充填させて構える千雨だが、すぐに数十体の人形が千雨に肉薄する。

 

「やってらんねえなおい!!」

 

“気”をまとって巻き上げるように拳を振るい、周りの人形たちを吹き飛ばす千雨。

ダメージを受けた人形は出現した時と同じように魔法陣へと消えゆく。

消えた後は魔法陣が散って魔力の塵とつもるだけだ。

すぐに飛び上がって人形たちを見下ろすが、その数は数百体は下らない。

千雨目掛けて飛んでくる人形が半分、千雨に向けて杖やら弓矢やらを構えているのが半分といったところか。

更にその下ではエヴァンジェリンが魔法を唱えていた。

 

「魔法の射手・連弾・氷の499矢」

 

氷の矢は人形たちを器用に避け、千雨に人形たちよりも早く到達する。

全て叩き落とさんと拳や肘で合わせるが、全弾着弾する前に人形たちも襲いかかり始める。

 

「ちっ‥‥プラ・クテ ビギ・ナル!来れ水精 光の精!」

 

「ほう。光と水も使うのか」

 

氷の矢と人形を叩き落としつつ、呪文の詠唱も始める千雨。

エヴァンジェリンは砕かれた氷片と魔力の塵の中で踊る千雨を眺め、その技量をよく観察していた。

そのすぐ横に一体の人形(ドール)がやってくる。

 

「ヨォ、ゴ主人。中々機嫌ガヨサソウジャネエカ」

「やはり来たか、チャチャゼロ」

「ソリャコンナチャンス滅多ニネエカラナ。‥‥ンデ、アイツナニ?」

「‥それを今、確かめている最中だ」

「オホッ、珍シイジャネエカ。ソンナニ興味ガ湧ク奴カヨ?」

「ああ‥‥そうだな」

 

チャチャゼロの言葉に、エヴァンジェリンは自覚する。

確かに、千雨に勝てばナギの情報が手に入る。

それは間違いない。

だが、いつの間にか勝つための見極めではなく、千雨という人間の見極め方を始めてしまっていることに気づくエヴァンジェリン。

 

「光を従え 水面に揺蕩え 泡沫の残光」

 

何故強くなる必要があるのか。

何故剣闘士なのか。

何故“気”だけではなく魔法を使うのか。

何故貴重な魔法具をいくつも持っているのか。

何故そこまで‥。

 

「‥妙な奴だ。奴は元々何不自由のない生活から自ら戦いに踏み入れたと言っていた。かつての私とは正反対だ‥」

「‥羨マシイノカヨ、ゴ主人?」

「まさか。闇の一族として、ここまで来てしまったんだ‥‥。今更悔いはない。だが‥‥」

 

今一度千雨を見る。

 

「光の溢水!!」

 

千雨の掌から眩い光を帯びた水が溢れ出し、洪水が人形を押し戻していく。

水に飲み込まれた人形たちは、破壊の光を受けて瞬く間に強制帰還されていく。

 

「水使イカヨ!?久シブリニ見タゼ!」

「さっきは闇と火も使っていた。“気”も使うぞ。寧ろ“気”の方がメインのようだが‥‥」

「オイオイナンダソリャ。アレガ噂ノハイブリッドッテ奴カ」

「‥どこで噂になっているんだそれは‥‥」

 

というか、サラブレッドの間違いじゃないかとはツッコミを入れなかった。

教えたのはエヴァンジェリンか茶々丸の可能性が高い。

それかテレビで間違った知識を得たのだろう。

エヴァンジェリン邸には暇を潰せるようなものなどそれしかなく、普段エヴァンジェリンの魔力が封印されているせいで、科学の力でも動く茶々丸以外の人形(ドール)は一切動けないのだ。

テレビくらいしか見ようがない。

チャチャゼロもエヴァンジェリンズリゾートに入れば動けるが、チャチャゼロは何故か一人では別荘に入らない。

 

「‥‥デ、ナンダッケカ?」

「‥もういい。お前も行け、チャチャゼロ」

「オホホッ、ソコマデ許可ガ出ルトハ思ワナカッタゼ!!ヤリスギテモトメンナヨ、ゴ主人!!」

「心配いらん、死ぬようなら吸血鬼にして我が配下に加えてやるさ」

 

「ジャア胴体ト顔ハヤメトイテヤルカ‥!!ケケケケケ!!」

 

「!!」

 

千雨は光の溢水を撃ち切り、粗方の人形たちを片付けた。

次に備えようとすると、妙に小さい人形が迫ってくるのに気がつく。

しかし小さいながらもその人形もメイド服を着ている。

‥エヴァンジェリンの趣味なのか?

 

「なんだこの小さいの‥‥!?」

「ケケーッ!!」

 

小さな人形は自らの身長の優に三倍はあるナイフを取り出し、千雨に躍りかかる。

形状は刃先が大きく、刃の方へ少し刃が膨らんで整えられている。

 

「ククリナイフ‥‥いや、マチェテナイフか!?他の奴とはちょっと違うみてえだな!」

「オオヨ!オレハチャチャゼロ、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)ノ第一ノ従者!繰リ人形ダ!!」

「絡繰人形が勝手に動いて喋ってんじゃねーよ!!」

 

ガントレットとマチェテナイフが合わさり、甲高い鍔迫り合いの音が鳴る。

エヴァンジェリンの魔力を受けているチャチャゼロは、魔力を木製の身体にエンチャントして戦う。

人間の剣士が“気”を用いるのと同じで、“気”が魔力に変わっただけに過ぎない。

それに加えてまとっているのは吸血鬼の真祖の魔力だ。

並大抵の剣士ではない。

 

「くっ、ちょこまかと‥‥ていうか速いんだよお前!」

「ケケケ、ダロウナ!逆ニテメェハ的ガデカクテ当テヤスイゼ!」

 

千雨とチャチャゼロの体格差は三倍以上だ。

しかしチャチャゼロが持っているマチェテナイフは普通の人間が持つ剣と同じサイズ。

拳撃で戦う千雨はやりにくくて仕方がない。

 

(魔法で捕らえるか!?いや、それすら当たってくれねえぞこいつ‥!大体まだエヴァンジェリンが!!)

 

「チャチャゼロ!」

「アイヨゴ主人!」

「!?」

 

チャチャゼロが千雨のガントレットを基点に、ナイフを使ってテコの原理で大きく千雨の後方に跳ねる。

チャチャゼロに目が追ってしまうが、それよりもエヴァンジェリンが恐らくヤバい。

バッとエヴァンジェリンの方を向くと、エヴァンジェリンはすでに魔法の詠唱を終えていた。

 

「氷神の戦鎚!!」

「ぐっ!気合ぼ」

 

上から落ちる氷塊を、千雨は正面から受ける。

氷が軋む異音が間近に耳に入るが、そんなことは気にしていられない。

チャチャゼロが千雨相手に時間稼ぎをしている間、魔力をたっぷり練って撃ち込んだのだろう。

先ほどの闇の吹雪などよりも圧倒的に魔法として完成度が高い。

 

「ぐくっ‥‥!!」

 

千雨の足場の氷にヒビが入り、氷の城全体が悲鳴を上げる。

だが、エヴァンジェリンはそれを見るだけに留めない。

 

「貴様の厄介な強みは魔法具の召喚などではない。“気”と魔力を同時に扱うことだ‥‥」

「エヴァンジェリン‥!!」

「“気”は生命力をエネルギーに転換したもの。その放出を防ぐことはできん。ならば、貴様の魔力‥魔法を止めれば良いだけのこと」

「!! 氷が‥!」

 

氷神の戦鎚からガントレットに氷が伝い始める。

瞬く間にガントレットは氷で覆われ、千雨の肌にも行き着いていた。

“気”を纏った千雨の身体に凍傷は起きていなかったが、ガントレットは完全に氷で閉ざされていた。

 

「こ、これは‥また別種の魔法か!?」

「凍てつく氷柩だ。封印の魔法さ‥」

「封印‥!?チッ!!」

 

ガントレットから無理やり手を引き抜き、迫る戦鎚からいなくなるように離脱する千雨。

“気”を使った瞬動術だ。

 

「やはり瞬動くらいは使えるか‥」

「余裕こきやがって‥!」

「‥チャチャゼロ、首元だ」

「オオヨ!」

「!?」

 

マチェテナイフを振りかざしたチャチャゼロが千雨の頭上に迫っていた。

ナイフの行く先は千雨の頭だ。

何とか首を逸らし、刃の軌道から避ける。

だが、刃は胸元をかすめ、レザーコートの胸元がチャックが開くように少し切れてしまう。

胸元からこぼれたのは、ネックレスのように首から下げられた指輪だった。

 

「それがもう一つの魔法発動体か?‥‥だが、それも無くなったな」

「‥みたいだな」

 

指輪に真っ直ぐな一本の亀裂が入り、そのままパキンと軽い音がして二つに割れてしまう。

二つに割れて落ちる指輪を掴み、断面を観察する千雨。

断面はもともとそのように作られたかのように平面で、指輪を斬ったチャチャゼロの腕前がよくわかる。

チャチャゼロは千雨の頭でもレザーコートでもなく、武装(アルミス)召喚(コンボカーレ)を可能にしていた指輪を狙っていたのだった。

 

指輪とネックレスをポケットにしまい、エヴァンジェリンとチャチャゼロを睨む千雨。

小柄ながら卓越した剣技を持つチャチャゼロ。

大火力を有し近接格闘で自衛もできるエヴァンジェリン。

 

否応なしに強敵だと言える。

 

戦いの様子を離れて見ていた明日菜たちも、戦いの結末を素人ながら予想し始めていた。

 

「“気”も魔力も使えるなんざ反則じゃねえかって思ってたが‥‥ありゃ勝負ついちまったんじゃねえか!?」

「ちょっとカモ、何言ってんのよ!!」

「だ、だってよ。魔法が使えないとなると攻防を“気”だけで行うことになるんだぜ。普通だったらそれでも十分戦えるけど、相手はあのエヴァンジェリンだ。使える手が半分‥いや、それ以下になったら、いくら姐御がつええって言ってもよ‥‥」

「魔法とか“き”とか言われてもわたしにはわかんないわよ‥‥!」

 

明日菜は頭を悩ませながらネギを見る。

助けにいきたい。

千雨とエヴァンジェリンはネギたちどころか茶々丸すら戦いには関与させないと言っていたが、千雨が、友達が危ない目に遭うのはいやだと明日菜は思う。

 

けれど。

 

ネギは、目を伏せていた。

 

明日菜の頭に、血が昇る。

 

気づけばネギの胸倉を掴んでいた。

 

「あ」

「あ、姐さん!?」

 

茶々丸とカモが呆気に取られるが、明日菜はお構いなしだ。

ネギも、虚ながら明日菜の顔を見る。

 

「なにを‥‥なにを諦めてんのよ!!このバカ!!!」

「え、いや、諦めるって姐さん‥」

「千雨ちゃんが助けてほしくないって言ったからなに!?生徒として戦うわけじゃないからってなに!?あんた、そんなちっちゃいことで教師投げ出すの!?」

「‥アスナさん」

「あんたはなんで今日ここに来たのよ!?エヴァンジェリンを止める為でしょ!?わたしはなんでここに来たのよ!!あんたを、ネギを助ける為でしょ!!」

「‥」

 

明日菜の目には涙が浮かんでいた。

ネギはその涙を見て、何故彼女が泣いているかを朧げながら考え始めていた。

ネギに思考が戻り始める。

 

「‥千雨ちゃんは、なんでここに来たのよ」

 

何故?

 

エヴァンジェリンさんと、戦う為‥。

 

「違うでしょ!!?あんたを!守るためじゃない!!その約束をエヴァンジェリンとしたなら、その義理を果たすためじゃない!!」

 

‥!

 

「千雨ちゃんに断られたからってなに!?わたしは一人で突っ走ったあんたを助けに来たわよ!!あんたはもっと自分勝手に動いていいの!!あんたの本当にしたいようにしていいのよ!!!」

 

僕の‥‥したいこと。

僕の、やりたいように、自分勝手に。

 

「‥‥ごめんなさい、アスナさん‥。‥僕、言われた通りにしか‥‥してなかったですね」

 

それは今もそうかもしれない。

明日菜に言われたから動くだけなのかもしれない。

けれど。

 

千雨を助けるというその気持ちは、本物だ。

 

「茶々丸さん、ごめんなさい。‥行かせてください」

「‥!」

「僕‥僕‥なにができるかわからないし、足手まといになるかもしれないけど‥‥‥千雨さんを助けにいきます」

「もちろん、わたしもいくからね!!」

「ふ、ふたりとも正気かよ!?あの魔法の嵐の中に入るつもりか!?」

 

カモの言葉にネギと明日菜が千雨たちの方を見る。

氷雪が吹き荒れ、闇が空を覆わんとする中、“気”のみで戦う千雨とチャチャゼロが踊る。

魔法が使えなくなったが“気”とその身一つで戦う千雨も、小さな木製の体躯でナイフを二本振り回して千雨と競り合うチャチャゼロも、一撃でノックアウトできる大火力の魔法を連発するエヴァンジェリンも、今のネギたちが及ぶレベルではない。

 

「兄貴はただでさえ魔力がもう尽きかけてるんだ!!箒で飛ぶのが精一杯だろ!?明日菜の姐さんだって、兄貴からの魔力供給がなくなるんだ!そうなるとただの素人だぜ!?」

「‥カモくん。カモくんが僕たちのことを心配してくれてるのはわかってる。けど、それでも僕は‥‥僕たちは、千雨さんを助けたいんだ」

「あ、兄貴‥」

「‥お二人に、提案があります」

 

今まで黙って成り行きを見ていた茶々丸が口を開く。

主の命令に背くことになるかもしれない。

だが、ネギと接してAIに微妙な変化を起こしつつあった茶々丸には、その考えが何故か浮かばなかった。

 

 

「どうした!防戦一方か、剣闘士!」

「ちぃっ!!」

「ケケケケ、五寸刻ミガ楽シミダナ!!」

「てめーを逆に解体してやるよマッドマーダー!!」

 

空中での攻防が続く。

魔法を使えなくなってしまったが、戦えないわけではない。

だが、エヴァンジェリンの猛攻とチャチャゼロの剣撃を凌ぐのは簡単ではなかった。

それにチャチャゼロがかなりやりにくい。

戦う相手としては小さすぎるのだ。

どちらか一方をなんとかすれば勝機が見えてくるだろうが‥。

出し惜しみをしている場合ではないのかもしれない。

 

仕方がないと諦めかけたその時、エヴァンジェリンに影が差し掛かったことに気がつく。

エヴァンジェリンもハッとして頭上を仰ぐ。

明日菜が、エヴァンジェリンの上に迫っていた。

 

「なっ‥バカかお前は!?」

「神楽坂明日菜!!」

「やあーー!!!」

 

エヴァンジェリンは突然現れた明日菜に驚くが、咄嗟に氷瀑を放つ。

明日菜は氷瀑が直撃するも‥。

 

「いっけぇ!!」

「へ‥‥へぶぅ!?」

 

すぐに氷煙から姿を現し、エヴァンジェリンに本日2度目の顔面キックをお見舞いする。

エヴァンジェリンはそのまま吹っ飛び、明日菜は近くの氷の足場に着地していた。

 

「あ‥そうか」

 

そうだった。

明日菜は魔法無効化能力者だ。

魔法に真正面から突っ込んでも損なうのは服くらいだ。

それを自覚しているとは思わなかったが。

明日菜は千雨が思った以上に、魔法に近付いているのか。

 

「オイオイ、イーカンジニヤラレテンジャネエカ。魔法障壁、ヌカレタノカ?」

「ラス・テル マ・スキル マギステル!!」

「ア?」

 

今度は箒に乗ったネギがチャチャゼロに飛びかかる。

チャチャゼロは抵抗せず、そのままネギに抱きしめられる形で捕まっていた。

一切殺気がなかったから避けなかったのだ。

 

「テメーモナンダ。斬リ刻マレテーノカ?」

「風花・武装解除!」

「ゲ」

 

至近距離で撃たれた武装解除に、マチェテナイフが2本ともチャチャゼロの手から離れて落ちていく。

ヤッテクレタと内心思うチャチャゼロだが、すぐに違和感を感じる。

自分がネギごと落下し始めていることに気が付いたのだ。

 

「テメー!人ヲ抱エルナラシッカリ飛ビヤガレ!!ツーカ離セ!!」

「なにしてんだお前らは!!」

 

千雨がすぐに瞬動でネギの傍に近づき、チャチャゼロを抱えたネギの襟首とネギの杖を掴む。

ネギを見るともう魔力が尽きたようだった。

ほとんど動かない。

 

「‥‥わたしを、助ける為か‥。無茶しやがる」

「フツー魔力尽キルノワカッテテ魔法使ウカヨ?」

「ごめんなさい、姉さん‥。二人を止められませんでした」

「オオ、妹。オレノナイフハ?」

「回収しました」

 

茶々丸が二振りのマチェテナイフを持って近寄ってくる。

肩にはちゃっかりカモも乗っていた。

千雨は素知らぬ顔をしている茶々丸を睨むが、溜息をついてチャチャゼロごとネギを茶々丸に押し付けた。

 

「‥何も聞かないでおいてやるよ、ロボ子」

「申し訳ありません、千雨さん」

「オイ眼鏡、マダツヅキヤルゾ」

「お前の相手はまた今度じっくりしてやるよ」

「オ、言ッタナ?数少ナイ楽シミダ、覚エテオクゼ」

「ふん」

「兄貴、兄貴!」

 

カモがネギの顔を揺さぶっていた。

千雨はネギの頭をガシリと掴み、無理やり上げさせる。

 

「‥‥ちさめ、さん。‥大丈夫、ですか?」

「カッコつけやがって‥。‥今夜は見てろ。見せてやるよ、お前の目指す先にいる人間をな」

「目指す、さき?」

「‥サウザンド・マスターに会いたいんだろ」

「え」

 

「‥それと、助かったよ」

 

くるりと背中を向け、エヴァンジェリンを見る。

千雨もネギもお互いの顔を見えなかったが、それで良かったかもしれない。

千雨は顔を赤くしていたし、ネギは破顔していた。

お互いの顔を見てしまっていたら、戦いという雰囲気ではなくなっていただろう。

 

「ええい神楽坂明日菜!なんなのだお前は!?魔法障壁を簡単に2度もぶち抜きおって!!」

「知らないわよそんなこと!!これ以上千雨ちゃんに酷いことするならわたしが相手よ!」

「貴様‥魔法が効かないようだが、魔法などなくともいくらでも貴様なぞ縊り殺せるぞ!!」

 

「神楽坂!」

「あ、千雨ちゃん!大丈夫!?ネギは!?」

「お前も悪かったな。情けないところ見せてよ‥。ネギは茶々丸にちゃんと預けた。あの木製人形も一緒にな」

「なに!?‥チャチャゼロめ」

 

「お前も下がれ、神楽坂。‥お互い情けないところを見せたが、ケリつけようぜ。エヴァンジェリン‥」

 

「‥ふん、外野にせっつかれてようやく本気か。そろそろナギの情報でも吐くかと思ったがな」

「‥“気”だけで戦うのが、憚られた理由は一つだけだ」

「理由だと?」

 

明日菜が茶々丸の方へと渡ったのを確認した千雨。

戦闘用に入れられていたスイッチを、更に切り替える。

漠然とした戦闘用ではなく、“気”の剣闘士として。

途端に先刻までとは比にならない“気”が溢れ出る。

 

エヴァンジェリンはその“気”の量に驚いたが、それだけではなく、その質に違和感を感じていた。

その場を全て覆ってしまうかのような、大気のような“気”を、どこかで感じたことがあったからだ。

 

「‥この感覚で戦うと、どうにもバカな師匠に似てしまうんでな。あまり好きじゃねえんだよ、これ」

「師匠‥だと?」

「構えろよエヴァンジェリン。さもないとお前、一発でノックアウトだぜ」

 

右腕を引き、腰を捻り、左手を右拳に被せる。

その時、エヴァンジェリンの目には千雨が褐色肌の大男に見えた。

バカな。

そんなまさか、だが。

ナギの関係者ということは。

 

「羅漢流・気合武闘‥一」

「貴様‥貴様!!ナギの関係者ではなく、紅き翼(アラルブラ)の!!!」

 

千雨の身体が前を向き、右腕が身体に引っ張られるように上がってくる。

ストレートを打つような拳が、大量の“気”を以て光った。

 

ラカンインパクト。

 

それはかつて、ナギの仲間であるジャック・ラカンというヘラス族の剣闘士が使っていた大技。

3秒で全身の“気”をチャージし、ありとあらゆるものを芥子粒にする破壊の光。

 

それを間近で見たことのあったエヴァンジェリンは、全力で魔法障壁を展開しながら確信していた。

 

本物だ、と。

 

20枚以上の魔法陣が前方に貼られていたが、瞬く間に半分以下になり、手前にあった一番高度な魔法障壁もヒビが入る。

持たないと判断したエヴァンジェリンは、ラカンインパクトの勢いそのままに下方へと瞬動で逃れる。

 

そこにあった魔法障壁は全て壊れ、破壊し尽くした光はなお真っ直ぐ飛び、遠くの山頂を抉った。

 

「化物め‥!!師匠譲りの破壊力というわけか!?」

「そうでもねえよ」

「!?」

 

ぎょっと声のした方を見ると、千雨がエヴァンジェリンのすぐ後ろについていた。

落下する速度そのままで並行している。

しかも何故か先程の氷神の戦鎚を片手で振り回し、エヴァンジェリンに叩きつけてきた。

 

「ガハッ!!」

 

戦鎚と共に落下するエヴァンジェリン。

千雨は速度を緩め、片手を懐に入れる。

取り出したのは、一枚のカード。

 

「げっ、まさかあれは!?姐御もカード持ちかよ!?」

「え、カード?」

「アア、間違イネエナ。ゴ主人、負ケルンジャネエカ?」

 

カモが目敏く気づく。

明日菜もネギもカードと言われると思いつくのは一つしかない。

つい先程、手に入れたばかりなのだから。

 

「出血大サービスだ!!見せてやるぜ!」

 

取り出した一枚のカード。

そのカードには、一人の少女が描かれていた。

少女は眼鏡をしておらず、いまの千雨よりも幾分か幼かったが。

それは、紛れもなくチサメだった。

 

来れ(アデアット)!!」

 

「ぐっ‥‥ここに来てアーティファクトか!!」

「鍛造神の小瓶!」

 

千雨がカードから取り出したのは、小さな小瓶。

掌に収まるサイズの小瓶には、半分程度透明な液体が入っている。

 

戦鎚を砕きながら思考を始めるエヴァンジェリン。

凍ったままのガントレットや氷塊が湖に落ち、エヴァンジェリンは水面に立つ。

 

(水‥。水が持つ属性は、流動・治癒か‥!!)

 

千雨は小瓶を片手に持ち、なんとそのまま割ってしまう。

 

「なに!?」

「そらよ!!」

 

そしてそのまま湖に投げ入れた。

 

「なっ‥‥なんの真似だ!?」

「へっ‥」

 

小瓶に入った液体が湖に振り撒かれる。

液体が触れた地点から湯気が出始め、広がって湖全体が湯立ち始めた。

100C°を超える熱に、エヴァンジェリンは慌てて上空へ逃れる。

 

「何だというのだ‥!湖でどうする気だ!?」

「‥もう終わったよ」

「!?」

 

水面に降り立った千雨は、熱などまるで気にならないようだ。

アーティファクトの持ち主だからか。

千雨の目の前の水面に泡が出始める。

泡を凝視していると、今度こそエヴァンジェリンは驚愕する。

出てきたのは、封印した筈の始雲のガントレットだったからだ。

氷など一切ついておらず、輝きを携えたまま千雨の両腕に収まっていく。

 

「‥バカな!!それがアーティファクトの効果か!?」

「湖を戦いの場に選んでくれて助かったぜ。わたしのアーティファクトが使える場所をな‥」

 

再び始雲のガントレットが光り始める。

千雨の魔力が注ぎ込まれているのだ。

 

「さあ、幕引きだ!!」

 

「‥いいだろう!貴様には聞きたいことが山程あるのだ、ここで降してやる!!」

 

「アア、ヤベエナアリャ。妹ヨ、モウスコシ離レルゼ」

「はい、姉さん」

 

え、そっちが姉なの?という顔をした明日菜と既に動かなくなってしまったネギを抱え、茶々丸とチャチャゼロは後退する。

カモはチャチャゼロの頭に乗っている。

 

「プラ・クテ ビギ・ナル!!契約に従い我に従え 大海の王!!」

「リク・ラク ラ・ラック ライラック!!契約に従い我に従え 氷の女王!!」

 

「あ、ありゃあ広域殲滅魔法か!?しかも姐御まで使えんのかよ!!」

「ケケッ、ツクヅク反則クセエ奴ダナ」

「‥千雨さん」

 

ネギはギュッと両手を合わせて組み、祈る。

どうか、皆無事で終わりますようにと。

千雨だけではなく、エヴァンジェリンも。

 

「来れ 崩壊の海嘯 渦巻く三叉槍」

「来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが」

 

エヴァンジェリンは氷の城がある橋の下に。

千雨は大量の水がある湖の上に。

お互いに地の利がある。

条件は五分だと言えた。

 

「支配せしめん 大陸を沈めし 荒ぶる海洋 傲慢なる者に 天雷の罰を」

「全ての 命ある者に 等しき死を 其れは 安らぎ也」

 

湖が膨らみ、踊り狂って津波となる。

氷が降り、吹雪が空間ごと絶対零度を引き起こす。

 

エヴァンジェリンと付き合いが長いチャチャゼロは気づく。

エヴァンジェリンは、手加減なしに千雨を殺してしまうかもしれない。

えいえんのひょうがは敵を凍りつかせる魔法だが、それに留まらず砕け散る魔法まで繋いでいる。

もちろん後者の方が威力が高く、そこまでするほどに千雨のことを認めているとわかるものだった。

 

「呑みこむ四海!!!」

「おわるせかい!!!」

 

放たれた二つの魔法は、ネギたちの視界を水と氷で覆ってしまうほど巨大な魔法だった。

水が氷を圧して砕き、氷は触れた水を凍らせていく。

互いの魔法を喰い合いながら、エヴァンジェリンと千雨はお互いから目を離さなかった。

 

「っ‥!!ああああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおお!!!」

 

魔法から手を離せず、気づけば水と氷がそれぞれエヴァンジェリンと千雨に到達していた。

エヴァンジェリンは魔法障壁で、千雨は師匠譲りの“気”で身を守る。

 

これは、決着が着かんか。

エヴァンジェリンの内心で生まれた言葉に、千雨が反応したかのように。

千雨の左腕に特大の“気”が宿る。

 

まさか。

そんなことまでできてしまったら。

 

「‥貴様‥‥本物の‥‥!!」

 

 

「ラカン!!インパクトォッ!!!」

 

水と氷をまとめて押しつぶす光が生まれ、エヴァンジェリン諸共撃ち抜いた。

空を飛び、夜天が視界に入るエヴァンジェリン。

砕け散って舞う氷の花びらが、終わりを告げているように思えた。




魔法はオリジナルです。
本家に出てきたら更新しますが、恐らく出ないでしょう。
魔法考えてたらしきスタッフいないでしょうし。
エヴァンジェリン編は次話で終わる予定。
‥とりあえず、ちと満足。
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