一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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急ぎ足になりました。
ここから少しずつ千雨が成長していく‥予定です。
とりあえず話をうまくまとめていきます。


【12】跳躍し始める時

足跡を踏む。

自分の足跡の2倍はあろうその大きさに、心わずかな不安を覚えた。

ただ、抱き上げられた太い腕に。

たしかな親心も感じていた。

 

 

********************

 

 

エヴァンジェリンとの一戦から一夜明けて。

千雨は早朝、何故か風香と史伽、楓に連れられて商店街まで散歩に来ていた。

停電から何か変わった様子がないかパトロール、だそうだ。

「‥だからといってこんな朝早く来なくていいだろーがよ。まだホームルームの一時間前だぞ、お前ら」

「早起きは!」

「三文の得ですー♡」

「おい長瀬、お前こいつらと一緒の部屋で安眠妨害されてねーのか?」

「拙者の方が早起きでござるよ?」

「‥流石ジャパニーズ・ニンジャ。規則正しすぎるな」

「なんのことでござるかな〜」

 

明後日の方向を向きながら下手くそな口笛を吹く楓をジト目で見る千雨。

溜息をつきながらも、一応パトロールするフリをして周りを見渡す。

すると、ある旗が目についた。

少しヨレたその旗は、昨夜ネギが吸血鬼化した裕奈とまき絵を捕らえる為に咄嗟に使ったものだった。

 

結局あの後、千雨たちはネギが運動部4人の吸血鬼化を治療した後はその場で解散した。

ちなみに千雨は吸血鬼化の治療など出来はしない。

癒すという方向性に成長の志向を向けなかったからである。

 

「「‥あ!」」

「ん?」

「おろ」

「ぬ」

「おはようございます」

 

癒しの力なんて持ってねーしなーと耽る千雨の意識を、鳴滝姉妹の声が呼び戻す。

目の前にはエヴァンジェリンと茶々丸の二人が来ていた。

横を見ると喫茶店がある。

どうやらモーニングを済ましにきたらしい。

 

「‥朝強いのかよ、お前もよ」

「‥たまにはな。昨夜はよく眠ったしな」

「それだけ聞くとただのお子ちゃまだな」

「貴様、縊り殺してやろうか?」

「やれるもんならやってみろ、お子ちゃまエヴァンジェリン」

「千雨‥‥貴様とはいつかまたやり合わねばやらんようだな!!」

 

額に青筋を浮かべるエヴァンジェリンを見て嘲笑う千雨だが、不意に横の3人の視線に気づく。

どうやらエヴァンジェリンと会話していること自体が不思議でならないようだ。

 

「‥あー‥‥。長瀬、わたしはこいつらと話があるからチビ二人と先に行っててくれ」

「‥‥良いのでござるか?」

「何もねーよ、変なことは」

「判ったでござる」

「えー、なんでー!?」

「わたしたちもエヴァちゃんと茶々丸とお話するですー!」

「長瀬」

「あいあい。さあ、行くでござるよー」

 

楓が風香と史伽の背中を押して歩き始める。

二人はチラチラとこちらを見ていたが、楓が超包子に中華まんを食べに行こうと提案すると、押されるどころか喜び勇んで走って行った。

その後ろ姿を眺めていた千雨に、エヴァンジェリンが声をかける。

 

「‥長瀬楓は、貴様のことを知っているのか?」

「それは流石にないだろう。けど、あんな呑気な顔してめちゃくちゃ鋭いからな、あいつ。もしかしたら何かあるとは思われてるかもな」

「ふむ‥」

 

エヴァンジェリンが思案顔をするが、千雨は気にした様子はない。

喫茶店の方に歩き、紅茶のホットを注文する。

茶々丸もついてきてコーヒーのホットを頼んでいた。

エヴァンジェリンの為のものだろう。

 

「‥それで?話とはなんだ」

「ナギのことを話すわけじゃないけどな‥お前とは付き合いが長くなりそうだ。わたしの話をしよう」

「ほう。私に何をさせる気だ?」

「なあに、先人の知恵と経験を借りることだってあるだろ。‥ネギや神楽坂には話せないことを少しここでな」

「話せないこと?」

「ナギや紅き翼(アラ・ルブラ)のことをアイツらに言う気はねえよ。ネギはまだ幼すぎるし、神楽坂だってまだ従者になったばかり‥‥‥それも成り行きで、だ。絶対ロクなことにならん」

「確かに少々軽率だったかもしれんな。これで奴はぼーやに降りかかる面白可笑しいイベントにドンドン巻き込まれるわけだ」

「‥確かにその通りなんだけど、その原因となったお前が言うと釈然としねえな」

 

したり顔のエヴァンジェリンを今の明日菜が見ると、デコピンの一発くらいはカマすだろう。

実際決めたのはネギと明日菜とは言え、仮契約の必要性を生み出したのはエヴァンジェリンだ。

 

「神楽坂もどうなることやら‥」

「ふん、人生泥沼を歩く方が見てる分には楽しいさ」

「見てる分には、な!歩いてる方はたまったもんじゃねー」

「そういう貴様はどうなんだ?何不自由のない生活からわざわざ闘いの道へと進み始めた、貴様は」

「‥それを話すために長瀬たちを退かせたんだよ‥」

 

カップを持った二人が喫茶店のテーブルに着く。

茶々丸はテーブルに着かないものの、持っていた鞄から何かを取り出そうとしている。

なんだ?と千雨が首を傾げると、中からチャチャゼロを取り出した。

 

「ヨオ、イイ悪夢ハ見レタカ?」

「幸運なことに見れなかったよ。つーかなんでお前鞄の中で持ち歩かれてんだ?」

「ポンコツマスターガ魔力ヲ封ジラレテルカラナ。歩ケネーンダヨ」

「なんだ、エヴァンジェリンのせいか‥」

「貴様ら、魔力が戻ったら真っ先に八つ裂きにしてやる‥」

 

プルプル震えるエヴァンジェリンに寒いのか?なんて言ってからかってやろうかと思ったが、これ以上弄ると話ができなさそうだとやめる千雨。

カップを呷り、一口飲んでティーマットに置く。

 

「さて‥‥まず、わたしの身の上話から始めるか。わたしは長谷川千雨。本名は‥千雨・長谷川・ラカンってことになるな」

 

千雨が学園長に告げた言葉。

わたしは剣闘士の娘(エゴ・フィリィア・グラディエイトァズ)”とはただ事実を述べていたのだ。

 

「‥実子ではないな?」

「まあな。血は繋がっていない。わたしは赤ん坊の頃におっさん‥ジャック・ラカンに拾われたのさ」

「とんでもない男に拾われたな」

「それは否定しない。紅き翼(アラルブラ)がいたとは言え、よく育ったぜわたし‥‥自分のことながら」

 

どうせならせめて他の面子に拾われたかったと思うが、他の人で良さそうなのは二人くらいしかいない。

半分以上は千雨の中でヤバい奴認定されていた。

話を聞いていたエヴァンジェリンは千雨の発言に引っかかる。

 

「待て、貴様紅き翼(アラルブラ)といたのか!?」

「え?うん。途中まではな」

「ジャックだけではないのか!?」

「あのおっさんが一人で子育てできると思うか?千の刃のジャック・ラカンだぞ」

「‥納得した」

 

変態、酒好き、守銭奴、元お尋ね者。

とてもではないが親になりそうな人間の称号ではない。

それに加えて本人のテキトーさである。

ラカンに出会ったことがある人間なら、誰でも納得することだろう。

 

「なら、タカミチはどうなる。貴様ら‥まさか裏で通じ合っていたのか?」

 

2-Aの前担任、タカミチ・T・高畑。

彼は紅き翼(アラルブラ)と共に20年前の大戦を過ごし、紅き翼(アラルブラ)のNo.7とされている。

当時はまだ少年だったが、少年探偵団を結成したり、皇女や王女の傍で護衛に入ったりと中々活躍していた。

特にここ数年は目覚ましい活躍を遂げており、魔法使いのNGO団体、悠久の風(AAA)のエース的存在でもある。

 

「タカミチか‥。もちろん、子供の頃は一緒にいたんだけどな‥。実はわたしは子供の時、千雨って名前じゃなかったんだ」

「は?」

「ラカンのおっさんがアホのせいでな!!」

 

なんとも頭が痛む話だったが、エヴァンジェリンが理解した話は次のようになる。

 

まず、赤ん坊の千雨を見つけたのはラカンだ。

魔法世界の獣が騒ぎ立てているのを面白半分で見に行ったら、布に包まれた千雨が獣たちに囲まれていて、千雨を連れ出したという。

本来ならそこでどうするべきか悩む筈だが、特に気にした様子もなく連れ歩くラカン。

テキトーに世話をする内にいつのまにか5歳程度まで育っちまってた、というのが本人の談。

 

バカである。

 

その際、ラカンは千雨のことをコレとか赤ん坊とか呼んでいた。

本当はラカンも名前をつけようとしたが、当時ラカンの周りにいた女性二人がラカンが出した名前候補に全部ダメ出しをした為に名前が決まらなかったのだ。

見つけ親のラカンが何も名付けなかったせいで、紅き翼(アラルブラ)や周りの人間はなんと呼ぶべきか悩んでいたが、とりあえず二世と呼ばれていることが多かった。

 

「‥‥二世?」

「ラカン二世だとよ。実際、2年前まで二世って呼ばれることが多かった」

「なんとも‥頭痛が止まらんな」

「全部おっさんが悪い」

「それがなんで今の名前になった?」

「実は、こっちの世界に旅立つ時に‥ラカンのおっさんに当時のわたしに使われていた布をもらってな?その布の中に紙が一枚入ってたんだよ。わたしの名前が書かれた紙がな」

「‥ラカンは、それをどうしてしまってたんだ?」

「読めないし調べるのもめんどーだし忘れてたってよ」

 

もちろん全力の“気”を込めて殴った。

その後、沈んだラカンを放って魔法世界の知人を訪ね、翻訳の魔法まで使ってもらってようやく名前が読めたのだ。

 

それが長谷川千雨。

使われている言語から、千雨が極東の国、日本という国の出身であることもわかった。

千雨は奇しくも、頼まれ事をするついでに故郷に戻ってきたということになる。

 

「タカミチとは、もう8年も会ってなかった。それが名前も変わって成長してメガネもつけてんだぜ?わかりゃしねーよ、タカミチの方は。面倒だし話す必要もないからな‥」

「ふん、そういうことか‥‥」

「まあ今後また話すことになるだろう、そのうち」

 

話したところで何が起きるわけでもないが、何かを協力してもらいたい時の為に話した方が良いだろう。

 

「では、他の連中はどうした。ナギと、ナギ以外の紅き翼(アラルブラ)は。奴ら、まだ生きているんだろう?もちろん詠春以外で、だ」

「‥あんた、何も知らないんだな」

「マア、15年モ隠居生活ダカラナ。シラネーコトノ方ガオオイゼ」

「隠居しとらんわ!!」

 

主従二人のコントを見ながら、思い返す千雨。

ナギは行方不明。

詠春は現在京都にいる。

アルビレオ・イマは‥。

 

「つってもなー。わたしもアルのおっさんの居場所は知らねーぞ」

「なに!?」

「アルのおっさんがいるってところに行ったんだけどさ。あの変態イケメンいなかったんだよ」

「場所‥どこだ!!?」

「ああ、そりゃお前‥‥」

 

『ダメですよ、今はまだ‥』

 

ゾワリと寒気がした。

途端に身体に戦闘用のスイッチが入る。

 

目の前の少女からいきなり溢れんばかりの闘気を感じ始めたエヴァンジェリンと茶々丸は、なんだと構える。

ちなみにチャチャゼロは動きたくても動けない。

 

「‥あの変態イケメン、覗いてやがんな?」

「なに!?近くにいるのか!?」

「‥‥気配が消えた。どーやらあんたには教えたくないらしいな、エヴァンジェリン」

「相変わらず悪趣味な奴だ‥!まさか、奴はこの学園内にいたのか!?」

「かもな。どうする?エヴァンジェリン。アルを探すのか?」

「‥いや、やめておこう」

「ん?」

「ケケケ、奴トハ出会イタクナイッテカ」

「‥‥正直なところ、会いたくはないというのが本音だな。大体、奴が本気で隠れようとしたらたとえ私に魔力があったとしても見つけられるものではない。奴の意地の悪さに敵うとは思えん。だが‥‥」

 

エヴァンジェリンは千雨を見る。

千雨はエヴァンジェリンと出会った。

出会うことができた。

その結果はどうあれ、アル———アルビレオ・イマはそれを止めなかった。

つまり、そこまではアルは良しとしたわけである。

 

「千雨からは情報を得て良いというということだろう。だが、その中でも教えたくないという情報があるということだ。‥‥奴の思惑に乗るのはシャクだがな」

「顔、汚ねえぞ」

「‥そんな苦い顔をしているか?」

「茶々丸、鏡」

「いや、良い‥」

 

茶々丸が取り出そうとした鏡を止めるエヴァンジェリン。

額を掴んで揉んでいる。

その気持ちがわかる千雨はちょっと同情していた。

 

「あとは‥ラカンのおっさんか?あれは魔法世界で隠居してるぞ」

「だろうな。奴が死ぬとは思えん」

「ま、魔法世界どころかこの学園すら出られねえあんたには関係のない話だな。んで‥‥残ってるのはタカミチとクルトって人か。タカミチは良いだろう‥。あとはクルトだな」

「クルト‥‥確か、詠春の弟子だな。奴は魔法世界で政治家をやってるんだったか?奴は良い。奴は20年前に紅き翼(アラルブラ)を離れたと聞いている。私が聞きたいのは10年前の話だ‥」

 

10年前。

当時のことを、千雨はよく覚えていた。

自分の周りの人間が皆一斉に消えた、あの時。

帰ってきたラカンの顔を見て、千雨は少し安堵したものの、ラカンの周りには誰もいなかった。

みんな‥みんな、消えてしまった。

 

「‥」

「10年前‥ 紅き翼(アラルブラ)が不倶戴天の敵を倒したことは知っている。そこだ。その時‥‥ナギは、本当に死んだんだな?」

「‥‥多分、タブーだなそれは。またアルに止められるよ」

「チッ、古本め。‥‥つまり、まだ何かしらの形でこの世に残ってるんだな?」

「‥まあ、な」

 

やはり、という顔をするエヴァンジェリン。

ならば望みはある。

ナギが生きている可能性はまだあるのだ。

まだ、エヴァンジェリンが解放される可能性は。

 

「‥父さんが」

「げ」

 

ポツリと出てしまったという言葉が聞こえた。

振り向くと、ネギと明日菜。

ついでにカモもいる。

 

「‥‥千雨さん、エヴァンジェリンさん」

「あーっとだな。‥‥おはようネギ。よく眠れたか?紅茶でも奢ってやろうか」

「お、おはようございます‥‥‥じゃなくて!!」

「チッ」

 

誤魔化し切れないか。

 

「千雨さん、やっぱり父さんのことを知ってるんですよね!?」

「はいはい、また今度なそれは」

「教えてください!父さんは、父さんは今どこにいるんですか!?」

「いやそれはわたしも知らない。知ってたらわたしが真っ先に行くよ」

「なに?貴様、知らんのか!?」

 

それなら私と貴様が戦った意味は!?という顔をしているエヴァンジェリンに、千雨が補足を入れる。

 

「何もナギの居場所を教えるとは言ってねーだろ。ちゃんとあんたが勝ってたら教えてたよ、別のことをな」

「ぐっ!!大体昨夜は時間切れで勝っただけだろう貴様!!」

「あんたが無様にぶっ飛んでる時に停電終わったんだよな」

 

今度こそ口を閉じるエヴァンジェリン。

エヴァンジェリンが静かになっても次はネギが喧しい。

どうにか千雨からナギの情報を引き出そうとしている。

 

「あー、神楽坂!どうにかしてくれ、無理だわたしには」

「はいはい、ネギ!あんた千雨ちゃん困らせちゃダメでしょ、落ち着きなさい!」

 

千雨からネギを引き剥がす明日菜の姿は正しく姉である。

ネギには一人従姉がいるときいているが、もう一人姉が出来たようだ。

 

「で、でも!やっぱり父さんは、生きてるんですよね!?」

「なに?」

「僕、会ったんです!6年前のあの雪の日に、父さんと!」

「6年前‥?」

「‥ナギは‥」

 

やはり、生きている。

そうでないにしろ、何らかの形で残っている。

それを確信したエヴァンジェリン。

 

だが、反対に困惑しているのは千雨だ。

6年前?

ナギは10年前から動けない筈。

場所を知らないのは事実だったが、それ以外は全て知っていた。

知っていた、筈だった。

 

「‥‥まだ、抗ってたんだな」

「なんだ?」

「いや、別に」

 

とりあえず落ち着いたネギと明日菜をテーブルに着かせる。

カモもチャチャゼロと共にテーブルの上に腰を下ろした。

四人と一台、一体と一匹。

 

「あーっと、どういう説明から入るかな」

「あ、じゃあ聞いていい?千雨ちゃんって何者?なんであんなに強いの?」

 

はい、と手を挙げた明日菜が問いを投げかける。

質問に答えようとする千雨だが、あまりネギや明日菜に情報を渡しても仕方がない。

まだネギは弱く、ナギに近づいても危険から自分の身を守るには早すぎる。

明日菜は保護者たちの意向で真実に近づけるのはもう少し成長してからとなっている。

言葉は慎重に選ばなければ。

 

「まあ、そこからだな。‥わたしは元は魔法世界で剣闘士をやってた。名前も地元じゃ1,2を争うくらいには有名だったぜ。賭け試合にならないって」

「賭け‥ですか?」

「向こうじゃ剣闘士や魔法使いが試合形式で戦ってな、そこに金を乗せるのさ。どっちが勝つか、何分持たせられるかとかな。わたしは強すぎて、賭け試合の賭博剣闘士としてじゃなくて興行剣闘士として試合に出ることが多かったな」

「え、それいくつの頃?千雨ちゃんがこの学園に来たのって2年前よね?」

「もう10歳頃には賭博剣闘士としては出られなくなったな」

 

絶句するネギサイド。

特にネギは自分と同じ歳の頃にはそこまで強かったのかと畏怖するような目だ。

エヴァンジェリンサイドも変なものを見たような顔をしている。

 

「あとは剣闘士以外にトレジャーハンターみたいな感じに遺跡で宝探しやってたぜ」

「宝探し?金が必要だったんスか?」

「いや、金じゃなくて必要だったのは強力な魔法具(マジックアイテム)だな。女のわたしが手っ取り早く強くなる為には魔法具(マジックアイテム)を使いこなす方が良かったんだよ。もちろん“気”の修練と魔法の修行もしてたけど」

「おい、千雨」

「言っておくけど解呪の魔法具(マジックアイテム)は持ってねーぞ」

「チッ、使えん奴め」

「こいつ、もう一発喰らわせてやろうか‥」

 

大体、ナギによってその莫大な魔力を込められた呪いがそう簡単にその辺の魔法具(マジックアイテム)で解呪出来るとは思えない。

というか、ナギですら解呪など出来るかがわからない。

呪いはかけるよりも解く方がよほど大変なのだ。

物事は直す方が難しい。

その道理である。

 

「トレジャーハンターって‥‥儲かるの?」

「宝を見つけられればな?‥そういや神楽坂は学費借りてるんだっけか?」

「う、うん」

「確かに、数十人分くらいの学費は賄えるけど‥」

「え、ええっ!!?‥‥わたし、魔法世界に行って宝探ししようかしら」

「その分危険も盛り沢山だぞ。大体、わたしが稼いだのは剣闘士として、だ。基本的に魔法具(マジックアイテム)は売ってないしな」

 

一応諫めたがそれでも明日菜はどうにか魔法世界に渡れないか考えているようだ。

失言だったかもしれないと自分の落ち度を認める千雨。

彼女の真実に近づかれるのも困るが、こんなテキトーな理由で魔法世界に行かれても困る。

 

「じゃあ、おれからもいいッスか」

「いいけどその口調やめろ三下っぽいし」

「お、ありがてえ。‥何で今回、ネギの兄貴を助けてくれたんだい?それが一番疑問でよ」

 

「‥当然の疑問だな。端的に言うと、ネギがナギの息子だからさ‥」

「‥‥貴女は、父さんとどういう関係なんですか?」

「わたしにとっては親父の親友‥ってとこかな。色々面倒見てもらったり世話してもらったりしたしな‥。‥わたしがこっちの世界に来たのはお前に会う為でもあるんだよ、ネギ。そのくらいお前の父とは親密な関係にはあった」

 

かつて父親と共に時を過ごした少女。

ネギにとっては父を知っている人に初めて自力で出会ったということになる。

タカミチもそうだが、タカミチは何も教えてはくれなかった。

なら、彼女は。

 

「‥千雨さん。父さんのことを」

「何度も言うが居場所は知らないぞ。行方不明ってことには変わらない」

「では、父さんのことを教えてくださいませんか?どんな人柄とか‥」

「バカだな」

「ええ?」

「喧嘩っ早いしデリカシーはないし、イケメンだったが男としてはねーな」

「ええ‥‥」

「‥けど、アホみてーに強かったぜ。間違いなく最強の魔法使いだよ」

「さ、最強‥!」

 

自分の父が、最強の魔法使い。

名に違わぬ実力を持つことと自分の想像通りだったことに喜ぶネギ。

その様子を見ながら、ちらりと明日菜を見る千雨。

特に変わった様子はない。

そう簡単に明日菜がかつてのアスナのことを思い出すとは思えないが、可能性を捨てずに考える千雨。

場合によってはネギから離さなければならなくなる。

それも本人がネギを手伝うと言ってしまったが‥。

 

「しかし、千雨がナギの居場所を知らんとなると‥‥ナギの情報を新しく手に入れる必要があるな」

「諦めないのか?」

「生きている可能性があるのだろう?あのアホ顔を一発殴る可能性が」

「‥‥再会した時に喧嘩するなら誰もいないとこでやれよ。頼むから」

「ケケケ、俺モ奴ニトバッチリ喰ウノハゴメンダゼ。15年モ動ケナクナルトカナ」

「お前それでも私の従者か!!?」

「え、エヴァンジェリンさん。父さんの情報って‥」

「む。‥千雨、貴様は京都については?」

「京都?詠春さんがいるとかってくらいしか知らねーぞ」

 

うむ、と頷くエヴァンジェリン。

目を光らせ、まだ望みがありそうだなと呟く。

 

「確かに近衛詠春がいるな。奴にも会ってこい。ただ、もう一つある。ナギがかつて使用していた家だ。そこへ行けばナギの痕跡を探せるかもしれん」

「家、ですか?」

「家‥‥。日本に行く時は何日か滞在してたけど、詠春さんの家にいると思ってたが‥」

 

そんなところがあるなら、千雨にも行く価値がある。

それに、千雨としては久しぶりに詠春さんにも会っておきたかった。

試してみたいことがあるのだ。

 

「きょ、京都ですか‥。どうしようかな、いつ行こう!授業がない日曜日に‥‥ああでも、新幹線のお金もないし!」

「アホ、落ち着け」

「そうよ、ネギ。京都ならうってつけのいいイベントがあるじゃない」

「はい。来週は修学旅行です」

「修学旅行‥‥?確か、職員会議で言ってた‥」

「学生が遠隔地へと赴き、現地文化の学習・遠隔地での宿泊を通して様々な経験を得る学校行事です。行き先は京都・奈良、ハワイ、北海道の三つですが、それはクラスの総意によって決まります。例年のデータを確認すると、7割がハワイとなっておりますが‥」

「うちのクラスは何かと留学生が多いからな。もう京都・奈良に決まってんだよ。この前のホームルームで決めてただろ」

 

あ、と大口を開けて呆気にとられるネギ。

どうやら思い出したらしい。

最近はエヴァンジェリンとの確執もあって、それどころじゃなかったか。

 

「わ、渡りに船ですね!!」

「よかったな、兄貴!」

「うん!早速修学旅行の準備しなきゃ!!」

「おい、まだ来週‥」

「ちょっとネギー!?」

 

いきなり立ち上がり、10歳の子供とは思えないような速度で走り去ってしまうネギ。

慌てて明日菜とカモが追いかける。

忙しない奴らだ、とコーヒーを飲み終わり、エヴァンジェリンも立ち上がる。

 

「‥聞きたいことはもういいのか?」

「アルが見張っている以上、踏み入った話は聞けんのだろう。時間の無駄だ」

「多分ネギのせいだけどな」

「なに?」

「ネギはまだ未熟なのさ。アイツが一人前の男になるまでは父親と母親のことは話さない。それがわたしたちの間での取り決めだよ」

「‥回りくどいことだ。ならばぼーやには一刻も早く強くなってもらわねばな」

「お手柔らかに頼むぜ」

「ふん‥」

 

少しの希望を見出し始めたエヴァンジェリンは颯爽と歩き去っていく。

茶々丸もチャチャゼロを丁寧に鞄にしまい、付き添っていく。

 

残された千雨は、一枚のカードを取り出した。

パクティオーカード。

齢5歳程度の千雨の絵が写っている。

 

「‥ネギには、話せない。アスナも、今はまだ。それが紅き翼(わたしたち)での取り決め‥‥。‥‥これでいいんだよな、ナギ‥‥」

 

パクティオーカードの裏には、ある名前が記されていた。

従者の名前は本人の絵が描かれている下に記されているが、主人の名前は裏面に描かれた魔法陣の下に記されていた。

 

Nagi Springfieldという名前が、銀色に光った。

 




‥ここ2日3日のUAアクセスが恐ろしいことになってるんですが、どういうことでしょうか。
自分新規投稿してないんですが‥。
反響はありがたいです、ありがとうございます。
励みとしてモチベーションになります。
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