とりあえず話が複雑に絡み合ってるネギまの構想に今更ながら脱帽しています。
そして、お気に入りの数やしおりの数を見て、この小説を待ち望んでいる方がたくさんいると知ってやる気が出てきてます作者です。
【13】騒めく古都にて
数々の剣客が出歩いた町。
そこに降りたるは異国の剣闘士。
神が鳴らすのは福音か、警鐘か。
ただ、剣に問うのみ———。
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千雨は新幹線を見ながら、この表世界の倫理観はどうなってるんだと疑問に思っていた。
魔法世界に新幹線や飛行機といった公共交通機関はない。
あったとしてもタクシーのような小型航空船しかないのだ。
何故か?
単純である、人がひとつどころに集まると良からぬことを考える人間が出てくるからだ。
しかもそれが一人で建物を崩せたり船を叩き落とせたりする場合が多い。
だから公共交通機関など作らない。
テロの元だからである。
こちらの世界は人が力を持たない分、平和なんだなとしみじみ思う千雨。
「千雨さん、どうかしましたの?」
「‥いや、新幹線ってすごいなって」
「アメリカには高速鉄道はほとんどございませんものねえ」
ちなみに表向きには、千雨はアメリカからの転校生ということになっている。
「えーっと、まあ専ら車だな」
「なら存分に楽しんでくださいね♡」
「う、うん」
相変わらず千雨は委員長のぐいぐい来る好意が苦手である。
大半のクラスメイトたちもそうだが、パワフルすぎるのだ。
戦闘用のスイッチをOFFにしている時、千雨はどちらかというとローな気分だ。
放っておいて欲しいともすこし思ってしまう。
「千雨さん、いいんちょさん、おはようございます!」
「あらネギ先生!!」
「うわ」
ネギだ。
その声が聞こえた途端にぐるりと身体を急回転させる委員長。
軽くホラーだ。
どうやら今からネギと委員長で点呼を取るらしい。
駅の中を見渡すと、おおよその生徒たちが集まってきているようだ。
現在千雨たち3-Aは、他の学級もいくつか合わせて大宮駅に集まっていた。
今日から京都・奈良へ修学旅行である。
しかも、面倒な任務と使命まで背負って。
溜息を吐くのが最近癖になりかけてる千雨は、溜息をやめながら先週のことを思い出していた。
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「失礼します‥‥‥ん?」
「あ、千雨さん!?」
「来てくれたかの」
放課後。
千雨は源しずなから、学園長より呼び出しがかかったと言伝されて学園長室へとやって来ていた。
扉を開けると、学園長よりも先にネギが目に入る。
ネギの向こう側、定位置と思われる椅子に学園長・近衛右門が座っていた。
「‥何の用だ?」
「先日言っていた件をオヌシに頼もうと思っての」
「先日‥‥‥修学旅行の親書か。本気でネギに頼む気かよ」
「親書って‥先ほどの関西呪術協会に出すんですか?」
「うむ。改めて告げようかの」
机に置かれていた一枚の封筒を取り上げる近衛右門。
「この親書を関西呪術協会の長に渡してほしい。この正式な和解の親書が先方の長に渡れば、関東魔法協会は関西呪術協会に和解の意を示したということになる」
「そんくらい電話しとけよ‥」
「フォフォフォ、現代っ子らしい考えじゃの。電話では偽装の恐れがあるしの、証拠も残らん。手紙を出すのもの‥恐らく妨害されるの。儂の正式な署名を確実に関東魔法協会の人間で渡すのが一番確実じゃの」
「妨害‥ですか?」
「それ、ネギが親書を持っていっても話同じじゃねーか?」
千雨の言葉にネギも同意するように頷く。
近衛右門も話の意図が通じて満足そうだ。
然り、と頷く。
「すまんがそうなるの。‥先方の妨害が入るやもしれん」
「な、なんで仲良くしようとされる方から妨害が入るんですか?」
「その関西呪術協会も一枚岩じゃねーってことだろ」
「大半は今の長に与しておるのでの、一枚岩ではないとまでは言わんが‥末端の人間や一部の幹部には今回の和解は面白くないと思っておる者もおるかもしれん」
「そんなことが!?」
「くだらねープライドだよどうせ」
問題はそこではない。
ネギは遺恨や軋轢の解決に走ろうとするかもしれないが、4日間という短い修学旅行の間にそんなことまでやってられない。
大体、それは関西呪術協会の人間の仕事だ。
外部の人間の介入があっては余計事態を混乱させるだけだ。
「でも、双方のすれ違いを終わらせることがその親書を届けることでできるってことなんですよね?なら僕、がんばります!」
「フォフォフォ、力強い言葉じゃのう。新学期に入ってなにかあったかの?」
「い、いえぇ何でもありませんよ!」
「そうかの?」
エヴァンジェリンとの一件はネギを精神面で強くしてくれたようだ。
ネギの顔に少し自信が出てきている。
魔法使いらしい顔をするようになった。
そこに気付いて何かあったと思う近衛右門も流石だが‥‥。
ネギはエヴァンジェリンとの一件を近衛右門に報告するつもりはないようだが、近衛右門は恐らくエヴァンジェリンと何かあったのか気付いているだろう。
そしてそれが既に済んだことだとも。
そこまで言及する気はないらしい。
近衛右門はエヴァンジェリンを疎ましく思っているというわけではないのだろうか。
「じゃあわたしが今日呼ばれたのは‥」
「うむ。前も言ったように、ネギくんのサポートをお願いしたいのじゃ」
「そりゃ魔法戦闘が起きる可能性があるってことか?」
「戦闘は恐らくないじゃろう。妨害する者がおったとして、今回の件がたとえ為されても肩身が狭くなる程度にしかならん。そこまでする必要があるとは思えんのう」
「肩身ね‥。ていうか、揉め事が起きないなら私は手を貸さねーぞ?」
「ぬ?」
「え」
「わたしなんてネギよりも余程部外者だぜ?魔法協会にも入ってないしな‥。下手に手を出すとわたしは不審者扱いだ。寧ろネギ一人の方が話がスムーズに進むさ」
「‥どういった心境の変化かの?」
暗に仕事をくれるな、ネギ一人でやれと言った千雨。
ネギもそれなりにショックを受けたが、驚いたのは近衛右門である。
先日、図書館島で千雨はネギに対してどんなサポートをすべきか、どこまで手を出せばいいかと悩んでいたのに対し、たった2ヶ月でこの変わりようはどうしたことか。
「‥‥ふん。このガキンチョを見ていたいだけなんだよわたしは‥‥」
エヴァンジェリンとネギとの戦い。
あの時ネギはエヴァンジェリンという巨大で強大な敵に一人で立ち向かった。
勝ち目はほぼない、勝ったところでエヴァンジェリンが諦めるとは限らない。
それでも一人の教師としての顔と、魔法使いとしての手段を以てエヴァンジェリンと戦い抜いた。
そんなネギを千雨は子供とはいえ、一人の魔法使いでもあると認識するようになったのだ。
一人の男が歩む道に横槍を入れるほど、千雨は出来た人間ではない。
‥もちろんそんなことは顔に出さないし言わなかったが。
「‥けど、もしネギに危害を加えるような奴が出たり、クラスメイトたちに手を出すバカが出たら何とかしてやるよ。わたし以外の奴らもやりそうだけどな」
「フォフォフォ、保険はこれで成ったかの?」
「顎で使われてる気がしてシャクだってのを忘れんな」
「もちろん報酬は払おう。オヌシは魔法協会雇われの戦闘員といった立ち位置で頼むぞい」
「よし」
「千雨さん‥学園長先生。ありがとうございます‥」
「基本わたしは手を出さねえ。というか出せねえ。それを忘れるな」
「はい!」
ネギが力強い返事を残す。
近衛右門も満足そうに頷いた。
千雨がネギに対し良きにも悪きにもどのような影響を及ぼすかは不安だった。
だが、これならどうだ。
魔法戦闘者としてのノウハウを出せ、ネギより一歩引いた後ろから見守る今の彼女なら。
ネギは千雨の元で、自分の足で歩いていく魔法使いになるだろう。
それで良い。
英雄の息子という肩書とどう向き合うかなどその後だ。
「そうそう、京都といえば孫のこのかの生家があるんじゃが‥。このかに魔法のことはバレておらんじゃろな」
「え‥‥たぶん」
そういえばこのか‥近衛木乃香は学園長・近衛近衛右門の孫娘だったことを思い出した千雨。
木乃香は魔法のことなど露とも知らず、気づいたそぶりもない。
一度エヴァンジェリンとネギとの騒動に遭遇しかけていたのに、運がいいのか悪いのか気づいてはいないのだ。
‥あの天然っぷりでは仕方がないかもしれない、と図太いともいえる木乃香の神経に感嘆する。
「ワシはいいんじゃがアレの親の方針でな。魔法のことはなるべくバレないように頼む」
「は、はい。わかりました」
「近衛本人のおかげでバレそうにはないな‥。ネギのバレやすさがあってどっこいどっこいな気もするけど」
「あうう」
ネギも自覚しているようだが、この魔法の隠蔽能力の低さはどうにかしなければならない。
魔法などバレようがバレまいが普段は気にしていないが、ネギが原因で魔法バレし、オコジョにされて収容所に強制帰還などされてしまったら明日菜とネギは離れ離れになるしネギの成長は止まるしと踏んだり蹴ったりだ。
それは避けたい。
「では、これで失礼します」
「わたしも‥」
「すまんが千雨くんは残ってくれんか」
「‥‥セクハラしたらネギに言うぞ」
「そんなことしたらワシ、一瞬で消されそうじゃのう」
「あんたが抵抗しなきゃな」
ネギは千雨と近衛右門のやりとりに目を丸くしている。
(‥この二人、仲が悪いのかな?)
実際には一度殴り合った(手合わせをした)おかげで少し内情を理解しあっただけで寧ろ逆であるが。
「け、喧嘩はダメですよ千雨さん!」
「その前に70越えたじじいと花の中学生の間に険悪な仲が成立しそうって状況にツッコめ」
「フォフォフォ、大丈夫じゃ。儂からしたら手癖の悪い孫みたいなもんじゃわい。心配はないからの、そろそろホームルームの時間じゃぞ?」
「あ、そうでした!‥千雨さんも、終わったら早く戻ってきてくださいね!」
「はいはい」
ひらひらと手を振ってネギを追い立てる。
パタンとドアが閉まってからの千雨の表情は、とても苦々しいものに変わっていた。
「‥んで、なんだよ。言っとくけど、余計なことはしてねーぞ多分」
「オヌシの名についてじゃ」
「‥名前?」
「ウナ・アラと言っておったじゃろ」
「ああ、図書館島で言ったやつな」
「‥一枚の羽根という意味じゃな。その名を調べていくうちに、魔法世界の闘技場へと行き着いた。それは、一人の少女の名じゃった」
そこまで調べられたか。
既にエヴァンジェリンには大方の情報はバラしたし、隠すつもりがあることはあるが、それもネギと明日菜に対して、だ。
ネギと明日菜に色々喋ってしまいそうな人間、つまりクラスメイトたち以外にはいくらバレても構わない。
「名もなき少女だった彼女は、闘技場で育っていった。そこで名を得て、技を得て、名誉と栄光を得た。その間僅か5年。様々な通り名を得た少女は2年前、忽然と姿を消したという。多くの噂を残して」
「‥」
「‥‥その中でも有名な噂が一つ。彼女は、二十年前の英雄たちが残した遺児だと‥言われておった」
「遺児なんかじゃない。そんな大層なもんじゃないよ、わたしは‥」
「‥このことをタカミチに伝えても構わんの?」
「寧ろ知らせてくれるなら手間が省ける。話すタイミングがわかんなくなっちゃってさ‥」
少し問題が解決した。
タカミチと話が通じるようになれば、アルビレオとも会えるかもしれない。
詠春にもそうだが、タカミチにもアルビレオにも見てもらいたいことがある、と拳を見る千雨。
「うむ。では、オヌシがこの学園に来た理由は、もしや」
「あんたの想像通りさ。‥本物の英雄の遺児と、新しくなった姫様を見守りに来た」
「‥新しいとは、辛辣じゃの」
「そうかよ。‥まあ、既に魔法に触れてしまったとは思わなかったけど」
「‥ネギくんと関わってしまったのが運のツキかの」
「止めろよ」
「なんとかなるじゃろ」
「放任主義め」
フォフォフォと笑う近衛右門に溜息をつく千雨。
この放任主義は今までの経験からでも来ているのか。
運否天賦ということなのかもしれない。
「‥まだネギたちには言ってない話だ、黙っておいてくれよ。ネギには段階的に父親の足跡を追っていってもらいたい。間違っても、今のまま魔法世界に行くだの父親を捜すだのとは言わせねえ。あのガキはまだ弱すぎるし、事実を知るには幼すぎる」
「幼い?確かにそうかも知れんが、魔法使いとしては見習いにはなったぞい」
「そういう問題じゃねえ。アイツは、危ういんだ」
「危うい、とは?」
「‥‥先日、アイツはエヴァンジェリンと戦った」
「!! ‥やはり動きおったか」
「その時、アイツは先生と生徒だからって一人でエヴァンジェリンに挑んだんだぜ?周りの奴に散々一人で戦うなんて無理だ無謀だって言われて。負けたら死んでたかもしれないのによ‥」
死んだら終わりだ。
それはたとえ誰であろうと変わらない真理。
ネギは教師としての責任を負うために生徒のエヴァンジェリンと一人で戦おうとした。
それがそもそもの間違いと千雨は思う。
確かに本来なら教師として生徒を補導するのは普通だ。
だが、相手は両世界でも三指に入る魔法使い。
敵うはずもない。
「アイツはまだわかっていない。自分の命の大切さと、それと天秤にかけるべき物を。父親の影を追い求めてるみたいだが、あれじゃあ父親の足跡を追う途中で確実に死ぬ。ナギを追うのは魔法世界の真理に迫ることと同義だ。最悪の場合、あの敵勢力が出てきて殺される」
「‥」
「そこまでして父親のことを知る必要もねえ。この学園で、普通の魔法使いとして、神楽坂たちと暮らす道の方がよほど幸せさ」
「‥‥じゃが、それはネギくんが決めることじゃ。その道で斃れ逝くのもその者の決めること」
「‥意見の不一致だ。わたしは止めるぞ、あのガキを‥‥」
だが、もしネギがそれでも魔法世界に行くと言うのなら。
真実を知る覚悟を、死ぬよりも恐ろしいことが無知であると言い切る覚悟を、千雨に見せてくれるなら。
(‥わたしは‥‥‥)
どうするべき、だろうか‥‥。
********************
「‥‥浮かない顔ネ」
「‥超」
既に京都行きの新幹線は発車していた。
千雨の横には超が座っている。
いつの間にか差し出されていた超包子特製中華まんをまじまじと見て、礼を言いながら受け取る。
「ちょっと、面倒なことを思い出してな‥」
「ほほう。貴女ほどの強さを持っていても面倒なことなどあるのカナ?」
「強さなんて私生活には何の役にも立たねーよ」
「確かに600年来の吸血鬼を叩きのめす強さなんて何の役にも立ちそうにないネ」
「‥アイツ、言っとくけどまだ全力ではなかったぜ?」
「知てるヨ。それでも貴女が示した強さは私にとて有用ネ」
「‥お前、この世界でわたしの強さが必要ってのは何でだ?要らねーだろこんなの。自分の腕を過大評価しているわけではないけどよ、過剰戦力も良いとこだぞ」
目的やその場所によってはもちろん千雨の活躍の場所はある。
だが、ここは
魔法使いの人口など2%か3%程度で、表立って魔法戦闘も出来ない。
強さなど人間社会に溶け込む中では寧ろ邪魔。
「ハハハ、普通に生活するならそうかもしれないナ。だが———私の計画の為には必要なのサ。是非一考してもらいたいネ」
「‥だからお前、その内容をだな‥」
「それも今後話そう。まずは友好を深めるところから始めようではないカ」
「‥お前、わたしは胡散臭いですって言ってるぞ、顔が」
「おやおや、中々良い読みネ。よく言われるヨ」
中華まんを食べ終えた千雨の前に差し出される水筒。
訝しげな顔を隠さずもそれを受け取る。
確かに胡散臭いが、自分が差し出す飲食物に超が何かを仕込んだことはない。
二年間の付き合いで、そこは信頼する千雨。
何を企んでやがるんだこの中国人、と水筒を開ける。
(どうせロクでもない‥‥‥‥‥‥。‥‥‥‥)
「は?」
「どしたネ?」
「‥お前がこんなことはしないだろうって水筒受け取った30秒前のわたしを殴りたいんだけど」
「?」
本気でわからなそうな超に、水筒の中身を見せる。
超の目には、今朝方淹れた祁門紅茶ではなく、それよりも濃い緑色をした蛙が見えた。
「‥‥カエル?」
「あん?」
「これは驚いた。どうやったら開けてもない水筒の中で紅茶がカエルに変わるネ?」
「なに?お前がやったんじゃ‥‥」
「キャーーー!!!?」
「!?」
お互いがはてなを頭に浮かべていると、黄色い悲鳴が二人を呼ぶ。
なんだと声の方を見ようとすると、そこらを跳ねまくるたくさんの蛙が目につく。
蛙は皆お菓子箱や水筒から飛び出していた。
クラスメイトたちはそれに追われててんやわんやである。
「なんだこりゃ!?」
「どうやらみな同じ状況のようネ」
「おいこれ、魔法だよな?」
「うむ。どれどれ‥」
超が手に持っていた水筒からカエルを出し、顔の間近に持っていって観察する。
千雨も見るが、どうにも生きた感じがしない。
生物になら何にでもある気配がしないのだ。
「‥これ、魔法生物‥いや、簡易ゴーレムか?」
「式神ダナ」
「式神‥‥東洋の魔法の呪術ってやつか‥」
そこまで考えてすぐに結論が出る。
これは恐らく攻撃。
しかも、呪術といえば直近の情報は一つしかない。
関西呪術協会。
「早速仕掛けてきやがったな‥しかも、こんな大胆に」
「何か心当たりがあるのカ?」
「わたしがメインじゃねーけどな」
「ふむ。‥‥害はなさそうネ」
「とっとと捕まえよう。‥長瀬にも手伝わせるか」
立ち上がって自分の前の席に座っている楓の席を覗く千雨。
蛙を頭に乗せている楓に声をかけようとして、違和感に気づく。
(‥‥こいつ、動かねえぞ?)
蛙が楓の頭でゲコゲコと鳴いている。
のにもかかわらず、動こうとしない楓。
おかしい。
いくらなんでも頭に乗っている蛙くらい取るだろう。
「‥おい?」
「‥」
「‥龍宮、どうなってんだこいつ」
「ふむ、気絶してるな」
「‥‥そういえばこいつ、カエルが苦手だったな‥」
楓の隣に座っていた龍宮真名は冷静に蛙を捕まえながら至極当然のように答える。
気絶しているクラスメイトを放って蛙のみに集中するのもどうなんだ、と思いつつ席に座る千雨。
平常のクラスでは頼りになりそうな頼みの綱がいとも簡単に千切れた。
「しゃーねー、この周りはわたしらだけでどうにか‥」
するか、と言おうとした時に、通路側の超の後ろを素早く飛び抜ける何かを見た。
常人からすると何か見極めできないスピードだったが、非戦闘時とはいえ、魔法戦闘者である千雨の動体視力にはそれがはっきりと正体を見極められた。
「ン?何かが今後ろを通って行ったナ」
「燕だな、あれ」
「車内に燕とはこれは如何ニ。この後は雨カナ」
「わかりにくいボケをすんな。式神だな、あれも。しかもカエルの陽動とは違う、明らかに速いって呼べる速度だったぜ」
「‥何か狙いがあるト?」
「間違いねえな。‥ネギが追って行ったみたいだ。とりあえず放っておくか」
「いいのカ?ネギ坊主の補佐を頼まれたのでハ?」
「お前、どこまで知ってんだよ‥」
出刃亀趣味め。
「そこまで事情を知っているなら巻き込まれても文句は言えないよな?」
「いやいやいや、もちろん注文をつけて文句を言うトモ。貴女に貸しを作れるように、タップリとネ」
「‥やっぱりお前に仕事を振るくらいならわたしが面倒を被ってやる」
それに、と付け足す千雨。
「今のところまだ手を出す必要がねえ。人的被害が出そうにないし、何よりまだ敵本人が出てきていない。下手に暴れて仕留めきれないと、向こうも戦力を出してきて、それこそネギの手には負えなくなる」
「あくまでもネギ坊主にやらせる気だな」
「わかってるだろ?わたしはアイツに、魔法使いの修行を積んでもらいたいだけさ」
「学園アイドル・ちうから魔法使いプロデューサー・長谷川千雨と役が広いネ」
「てめーはそれ以上喋ると地獄を見るぞ」
何でどいつもこいつも余計なことを知ってるんだ。
去年の学園祭のイベントを多くの人々が目にしていたのはわかっていたが、目敏く気付く人間が多すぎた。
普段のメガネで適当に髪をまとめただけの姿の自分とあの煌びやかな衣装の自分とを結びつけるとは。
うちのクラスはこの完璧超人を含めて侮れない人間が多い。
今後の魔法戦闘をする際も多少なりとは気をつけなければ、と心に刻む千雨だった。
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京都観光が始まった3-A。
千雨は千雨なりに京都を楽しんでいた。
初めての京都観光だが、ナギや詠春から話には聞いていた為、何となく想像がついていた。
古い家屋で碁盤のように整えられた街並み。
なるほど、このような均整の取れた古都は確かに美しい。
‥のだが、なぜかその美しい風景に泥酔したクラスメイト達が映っている。
「‥なんでだ?つーかなにしてんだまじで」
「あ、千雨さん!」
「‥ネギ‥‥今度はなんだ」
新幹線ではネギは燕の式神に親書を一時奪われたという。
それを桜咲刹那が渡してくれた‥そうなのだが。
ちなみにカモは刹那を敵ではないかと疑っている。
更に先程は委員長とまき絵が落とし穴にハマって、底にたくさんいた蛙の被害を被っていた。
そして今度はクラスメイトたちの泥酔。
もう嫌な予感しかしない。
「それが、音羽の滝にお酒が仕込まれてて!」
「‥音羽の滝ってのはよくわからないけど、人為的な仕掛けがあったんだな?」
「‥はい」
「酒か‥‥。‥酒だけか?」
「そ、そうですね」
千雨が流れ落ちる水流に近寄り、手を出して触れる。
匂いを嗅ぎ、味を確かめるが確かに酒だ。
「‥度数は30前後ってとこかな」
「そこですか!?」
「薬物もない、魔法もかかってない。普通の酒だ、ちょっとアルコール度数が高いだけの」
「ちょっとネギ、千雨ちゃん!どういうことなの、これ!?」
クラスメイトたちをバスに押し込み終えた明日菜が駆け寄ってくる。
地主神社からバスまでかなり距離があったが、比較的体力のある連中が被害に遭ってなくて助かったと言えるだろう。
「誰がお酒なんて‥何かのイベントってわけじゃないわよね?」
「こんなイベントあってたまるか!」
「そ、そうよね‥」
「じ、実は‥関西呪術協会から、妨害行為がされているかもしれないんです」
「か、関西‥なに?」
「え、えーっとですねー‥」
ネギから親書の依頼を聴く明日菜。
聴き終えた明日菜の顔は、また厄介ごとか‥という言葉がありありと浮かんでいる。
「す、すみません、明日菜さん。皆さんに迷惑を‥」
「学園長先生も、こんなガキンチョになにを期待してるのかしら?」
「将来性に期待してるのさ。それに、この程度のおつかいなら見習い魔法使いには妥当だよ」
「ふーん‥‥でも、攻撃するつもりはないってことよね?」
「今んところは仕掛けてきてるのはカエルと酒だけだ。まだ攻撃ってレベルではないが‥」
明日菜の言葉に頷く千雨。
だが、妨害の意思はある。
今度は明日菜が頷く。
「うん、わかった。どうせ助けてほしいって言うんでしょ?少しくらいなら力貸してあげるわよ」
「あ、ありがとうございます!明日菜さん!」
「‥けどなあ。敵意はなくとも、甘く見るべき相手じゃねえ。学生が修学旅行中に飲酒なんて、停学もんの話だ。そして、それを相手は分かっている。日本のことをよく理解してる連中だ」
「けど、僕たちを攻撃してくる気がないんじゃ‥」
「甘いな、ネギ。どんな手合いかまではまだわからないが‥。わからないってことは、どう変化するか予想がつかねえってことだ」
「‥相手が、強硬手段をとってくる可能性があるってことですか?」
「そういうことだな。用心はしとけ。‥親書を届かせない方法なんていくらでもあるぞ」
ごくり、と息を飲む明日菜。
ネギも少しずつ状況が飲み込めてきたようだ。
手を出すか出さないか、なんて相手次第で、こちらからはどうしようも無い。
思ったよりも早く、しかも確実に、自分の出番は迫っているようだ。
京都の風景を見下ろす千雨。
雅な都が、戦火に呑まれないか。
その不安は、現実のものとなる。
ちょっと少なめ。
‥いや、9000も十分多いんですけど。
この京都では、ちうさまはどのように変化を起こしていくのか。
不変の者に生きがいはなく、逆境を行く者こそ面白い。
エヴァンジェリンはまさしくそれですね。
【追記】
違和感を覚えたので少々文を手直ししました。
すんませんほんと。