一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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はい、大遅刻です。
いえ、いつ更新するとか言ってないからいつ投稿するなんて自由なんですけどね‥。
でも、守りたいものはありますよねー。
はい、ごめんなさい。


【14】動き出したものは

情けない。

有事に力を出せずになにが剣客。

想いのみで拓けぬ道はなし。

力を求めて、無くした物は。

 

 

********************

 

 

ふわりと枝垂れたブロンドが、千雨の鼻をくすぐる。

 

バスに乗って旅館へ着いた3-A。

だが、クラスメイトの3分の1以上が酔い潰れている為にすぐに寛ぐというわけにはいかない。

同じ班の生徒を協力して運ぶ必要がある。

千雨が所属している3班も例外ではないが、委員長一人しか被害に遭っていない。

 

故に、他の班よりは楽なはず‥。

 

「‥だからと言ってわたしが楽できるとは限らないんだけどよ」

「ごめんなさいね〜、お願いしちゃって」

「いいよ、もう‥‥那波も委員長のカバン持ってるしよ‥」

「うぅん‥‥‥えんむしゅびぃ‥」

「はいはい、縁結びな」

「ネギしぇんしぇえと‥」

「‥もう結ぶ必要もないんじゃねえの、そこまで想ってる相手いるなら」

 

委員長に肩を貸して引き摺っているのは千雨だ。

体格的に千鶴が肩を貸すのが妥当だが、何故か千雨が委員長を連れている。

戦闘用のスイッチを切っている千雨の身体能力は、人並みにしかない。

人一人を背負うのも一苦労だ。

 

「ちょっと3班ー、誰か手伝ってー!」

 

助けを呼ぶ柿崎美砂の声に手隙になった3班の面々が近づき、千雨も近くに寄る。

柿崎の班の1班はチアリーディング部の三人と鳴滝姉妹だが、柿崎以外は音羽の滝で全滅している。

 

「大丈夫、美砂ちゃん」

「ありがとー夏美!悪いねー、私以外死んでてさー」

「お前だけなんで無事なんだ?」

「私彼氏いるし」

「ああ‥」

 

千雨は右方に委員長を抱え、左方に椎名桜子を抱える。

残りのメンバーは‥と見渡すと、ザジ・レイニーデイがいつの間にか鳴滝姉妹を抱えている。

ザジは無言で待機しているままだ。

優秀である。

ちなみに釘宮円は和美が抱えている。

 

「長谷川も飲んでないよねー。居るの?彼氏」

「千雨ちゃん、まさか‥!」

「いねーよそんなの。ていうか酔ってないやつ全員がそんなわけねーって」

「それに、うちのクラスの彼氏持ちなんて数えられるくらいしかいないし。最近だと柿崎だけじゃない?」

「毎度思うけど、あんたそういうのどこから調べてくるわけ?朝倉」

「ジャーナリズムは足と魂よ」

「なんだそりゃ‥」

 

恋人は千雨にはいないし、できたこともない。

できそうな相手も‥‥。

 

「‥長谷川?」

「ななななんだよ!?」

「どしたの?壊れかけのテープみたいになってるけど」

「‥直ったよ、もう」

「‥ん〜?」

「おいてめーやめろそのニヤケ顔」

「これは‥ラブ臭(パル直伝)って奴かな?」

「そんな匂いしねーよ!?大体わたしの周りに男なんていねー!!」

「ネギくんがいるじゃん」

「は?」

 

くわっとツッコミを入れるも呆気に取られる千雨。

ネギ?

あのガキが?

 

「‥いや、さすがにねえな」

「なんでー?クラスにもあの子を狙っている娘たくさんいるよ?」

「佐々木と委員長くらいだろ。あとは本屋か‥」

「‥みんなだいしゅきー‥ねぎくぅん‥」

「寝言で絡んでくるな椎名‥」

「そう!そのくらい魅力的に映ってるんじゃない?あの娘たちの目にはさ!」

「どこが魅力的なんだよ」

「私にはわからないもんねー、ネギくんのことが恋愛的に好きってわけじゃないし」

「‥」

 

確かに真面目だし、あの歳で勉学をよく修め、並の魔法使いくらいには魔法を使える。

顔貌もよく、誠実。

風呂嫌いという点を差し引いても男としては点数が高い。

 

‥だが、まだ10歳だ。

 

ちらり、とネギを見遣る。

酔い潰れてしまったのどかをなんとか背負い、ウンウン言いながら旅館の入り口に向かって歩いている。

 

「‥‥ネギが、ねえ」

「そういえば千雨ちゃんってネギくんのこと呼び捨てだよね。いいの?」

「‥まあ、ネギにそれで何か言われたことはないし良いんじゃねえの?」

「え、特別な関係?」

「やめろマジで。委員長が起きてたらわたしが危ねえ。ついでにお前も危ねえ」

「ついでって酷いね!」

 

恋人なんてものが必要だと思ったことがなかった。

誰かを好きになることもなかった。

どこかの赤髪のアホ面が頭に過るが、アレだけは違うと頭を振る。

アレは恩義だ。

ただ、あの幸せな光景を取り戻す為だけに。

その為だけに、強くなった。

強くなることしかしなかった。

 

それは今も続いている。

ナギを助ける。

ただその為だけに‥。

 

これ以上残っていると朝倉に何を吹き込まれるかわからない、と足早に旅館に向かう千雨。

普段の腕力なら何でもない委員長たちの身体が、妙に重く感じた。

 

 

********************

 

 

「‥うーん、いいんちょ起きないね」

「ご飯も食べてないし、お風呂にも入ってないし‥でも、叩き起こそうにもねー。起きないし」

「普段酒なんて飲まねーからだろ。中学生だから当然だけど」

「仕方ないわね〜。そのままにしておきましょう、あやかだもの。大丈夫よ」

「那波‥どういう信頼の仕方だ?」

 

既に夕飯と入浴の時間は過ぎた3-A。

修学旅行では定番ともいえる夜のお遊びタイムの半分は既に過ぎていたが、昼間の音羽の滝における酒騒動のせいでムードメーカーたちは軒並みノックアウトされている。

その為、3-Aがいる旅館とは思えないほど静かな時間が旅館には流れていた。

 

しかし、千雨の耳に絹のような声が届く。

細く小さいが、2人分の声。

 

(‥遠いな。なんだ?)

 

「‥ちょっと出てくる」

「う、うん。いいんちょのことは任せて」

「いや、元々わたしが面倒見てるわけじゃないんだけど‥‥まあいい、頼む」

 

浴衣姿のまま、がらりと扉を開けて部屋を出て行く千雨。

残った3人は首を傾げていた。

 

「‥どう見てもいいんちょと千雨ちゃんって仲良しだよね?」

「いいんちょが積極的に面倒見て、長谷川はそれを嫌そうにしてるけど満更でもないのも確かだね」

「あやかったら、どうしても長谷川さんのことを面倒見たがるものね〜」

 

ザジですらもこくりと頷いていた。

 

 

 

部屋を出た千雨は、とりあえず下階へ向かう。

流石にどこで声が発生したかまではわからなかった。

消灯まであと一時間といったところか。

まだ時間に余裕はある。

 

「‥どこだ?つーか誰だ?ちょっと恥ずかしげな声だったくらいしかわかんねーぞ」

 

普段騒がしい3-Aたちも今夜ばかりは部屋でおとなしく過ごしているようだ。

今夜は静夜でも明日はどうかはわからないが。

 

いつもこうならいいのに、と廊下を歩く千雨。

だが、静かな廊下に足音が聞こえ始める。

足音が響く間隔はかなり早い。

走っているのが丸わかりだ。

 

「‥二個下だな。‥普通の人間じゃなさそうだ」

 

一階から響く足音に向かう千雨。

戦闘用のスイッチを入れる。

近くの階段に瞬動術で向かう。

階段を直接降りず、壁を蹴って下へ落ちるように進む。

 

5秒と経たずに一階へ着く千雨。

降り切った矢先に、誰かが目の前を通りゆく。

千雨の動きを察知したその人物と、千雨とが目を合わせる。

 

「桜咲?」

「は、長谷川さん!?」

「いやお前なんつー格好してんだ。服着ろ服」

「はっ!!お、お見苦しいところを‥!」

 

あせあせと手に持っていた浴衣を羽織るが、下着はまだ着けていない刹那。

流石にそこまで待つ気はないが。

何故か刀と衣類を持って裸で疾走していた刹那。

明らかにおかしい。

 

「‥で、何してんだお前。不審者だぞ不審者」

「こ、これはその‥!‥‥いえ、そうですね。しかし、それは貴女もです。今の貴女の動きは、常人のそれではありませんでした」

「‥」

「誤魔化しはなしにしましょう、長谷川千雨さん。貴女は何者ですか?」

「‥あ?」

「以前から要注意人物として勧告が上がっていたのです。今までおかしな挙動はなかったですが、この目に映ったからには‥‥」

「いや、そうじゃなくて。お前学園長から聞いてなかったのか?」

「? 何を‥ですか?」

 

ここまで問答を繰り返して、ある事実に気が付く千雨。

 

(あのジジイ、何も話してねえ‥)

 

魔法戦闘者の情報を軽々と話していないのは当然と言えば当然だが、学園側のクラスメイトにも話していないのはどうなんだろうか。

話が拗れるに決まっている。

しかも先に要注意人物にしていたのに和解(?)した後の情報に刷新していないのは明らかにおかしいだろクソじじいめ。

 

「‥えーっとだな。お前は学園側の人間でいいんだよな?」

「質問に答えかねます」

「あーわかった!!わかったよめんどくせえ!わたしは今回学園に‥というか、近衛のジジイに雇われた戦闘員だ!」

「や、雇われた‥!?し、しかし!貴女の情報は何も‥」

「じゃあネギにでも聞いてこい!!」

「ネギ先生はご存知なのですか?」

「逆にお前は今回のネギの任務は知ってるのか?」

「はい。‥‥どうやら、味方ではあるようですね。しかし、まずはネギ先生に確認します。よろしいですね?」

「回りくどいけど確実だな。仕方ねーから行ってやるよ」

 

二人で歩き出す前に、とりあえず着替え終われと顎で示す千雨。

いくらなんでも布一枚の人間と一緒に歩く気にはなれない。

失礼しますと身を隠しながら下着を身につける刹那。

顔が赤い。

 

「‥ええと、では‥貴女は学園長に身の上話をしたと?」

「大まかにな」

 

二人で歩き始め、ネギを探す。

その最中に千雨は麻帆良に来てからの学園長とのやり取りを話していた。

最初は半信半疑だった刹那だが、細かい内容を聞いている内にそれなりに信用されたらしい。

自分の知っている内容と一致しているのだろう。

 

「アメリカからの転校というのも‥」

「嘘だ」

「何故そんなことを?」

「魔法世界から来たとか言えねーだろ。学園に協力したいと思ってなかったから、“魔法世界から来たけどとりあえず学園に入れてくれ”、なんて言えなかったしな」

「で、では何故今回は協力を申し出てくれたのですか?」

「わたしから言ったわけじゃないよ‥。‥ネギが関わってる。危険がある可能性もある。それでかな」

「ネギ先生が‥関わってると、ですか?」

「お前にはいないのか?守らなきゃいけない奴とかよ」

 

含みを持たせて放った言葉は、刹那に深く刺さったようだ。

少し顔を歪め、千雨の方に向いていた視線が前に移る。

刹那が誰かの護衛剣士だとは知っていた。

それが誰かということまでは知らなかったが。

何せ刹那は誰かのそばに常にいるという訳ではない。

護衛剣士という情報も、葉加瀬から教わったパソコンのハッキング技術で学園のデータベースに入った時に見ただけだ。

その情報も、刹那が誰かを守っているようには見えなかったので虚偽なのではないかと疑っていた。

しかし、どうやら護衛剣士ではあるようだ。

 

(‥訳ありか)

 

「‥わたしは」

 

「あ、千雨さん!」

「ん‥」

 

俯きながら切り出そうとした刹那の言葉を、ネギの声が遮ってしまう。

刹那の事情は後でも聴ける、とネギの方に向き直る。

明日菜とカモも一緒のようだ。

この二人と一匹、既にセットになってきてるなと千雨。

 

「あ、刹那さんも‥‥」

「‥先ほどは失礼しました、ネギ先生」

「い、いいえ。こちらこそ‥すみません。あの、お二人はお知り合いなんですか?」

「いや、さっき遭遇してな‥事情は話したつもりだ」

「‥ううむ、ちょっち絡み合ってきたな。情報交換といきてえところだ」

「では、すみませんがその前にやるべきことを終えたいのですが‥よろしいですか?」

 

千雨とネギたちが顔を見合わせ、とりあえず刹那の後ろを歩く。

刹那は旅館の出入り口や従業員入り口まで周り、扉の上に札を貼っていく。

 

「これ‥なに?紙なの?」

「これは、今日の昼間に見た式神の紙とは違いますね‥」

「けど、東洋魔術の呪術ではあるぜ。刹那‥って言ったか。あんたも魔法が使えるのか?」

「はい、剣術の補助程度ですが‥。この札は式神返しの結界を作るためのものです」

「なるほど。ちょっとした魔法剣士って奴だなつまり」

「そうなりますね」

「あのよ、ちょっと聞くけど‥魔力と“気”って同時に使えるか?」

「‥? あまりやろうとしたことがないですが、恐らく出来ません」

 

ついでに、と言った感じで尋ねるカモだが、予想通りの返答が来る。

その答えを受けて千雨を見るカモ。

やはり貴重な‥というより、希少な技術なのだと確信した。

 

「‥桜咲さん、カモが喋っても驚かないわね」

「裏の世界だと生き物の形してりゃ大抵喋るんだよ」

「うーん、慣れないわ」

「慣れなくていいよお前は。バカのままで」

「なんですって〜?」

 

ぐぬぬとした顔の明日菜だが、千雨は本当のところはバカかどうかなどではなく、あまり魔法に関わって欲しくないというだけだ。

 

「あ‥神楽坂さんには話しても?」

「ハ、ハイ。大丈夫です」

「もう思いっ切り巻き込まれてるわよ」

 

ふむ、と頷く刹那。

よく飲み込めるもんだ、と感心する千雨。

普通の魔法使いなら即座に記憶消去の措置を取るところだ。

既に手遅れだと言えるくらい魔法が関わった記憶が作られているが。

 

「‥敵のいやがらせがかなりエスカレートしてきました。このままではこのかお嬢様にも被害が及びかねません、それなりの対策を講じなくては‥‥」

「ああ、お前近衛の護衛剣士か」

「‥はい」

「んん?じゃあ、さっきの裸はなんだよ」

「敵の妨害に、お嬢様が巻き込まれました。私の力が至らぬせいで、お嬢様に‥!」

「じゃあやっぱりあんたは味方‥‥!」

「ええ。そう言ったでしょう‥」

 

傍目でネギとカモが刹那に何やら謝っているのを見ながらなるほど、と頷く千雨。

よく考えれば麻帆良学園に所属している刹那は京都神鳴流の剣士で、木乃香は京都出身で関東魔法協会理事の近衛近衛右門の孫娘だ。

確かに関連性はあった。

だが、二人が接しているところなど見たことがない、と思い返す。

公的には隠していたのだろうか?

 

「あの‥ネギ先生。長谷川さんは‥」

「あ、ご紹介します。彼女は長谷川千雨さん。僕たちに味方してくれる剣闘士さんです」

「剣闘士?」

「知らねーか流石に。日本にはない職業だしな」

「‥裏稼業の人間‥ですね?」

「おいおい、千雨の姐さんはめちゃくちゃつえーからな、刹那の姐さん。あまり諍い起こすようなことは‥」

「やめとけカモミール。素性が知れない人間を疑うのは当然だ。‥‥桜咲、わたしは魔法世界の出身だとは言ったな?‥わたしはネギを見守りに来たんだ。それだけさ」

「‥ネギ先生を‥そうですか」

「おい、それで終わりでいーのかお前」

 

今度は千雨が懐疑的な視線を送る。

あまりにも理解が早すぎたのだ。

だが、刹那は一つ頷いてそれに応えた。

 

「誰かを守る。貴女は先ほどそう仰いましたね、長谷川さん。私もそうです。だからこそ、貴女の気持ちも理解できる」

「‥お前が近衛を護ってる様には見えなかったけどな」

「‥‥近くに居れば情が湧きます。情は剣を鈍らせる。‥‥私には、お嬢様を守る力だけが必要なんです」

「‥」

 

何となく納得した様な顔を見せる千雨。

刹那のスタンスが正しいかどうかともかく、刹那自身が納得していれば問題はない、といったところか。

だが、その問答を横で見ていた明日菜は少し眉を顰めている。

 

「‥それで?敵は見たのか?妨害してきたってやつは」

「いえ、姿は見えなかったです。お猿さんがたくさんきて‥」

「さる?」

「式神です」

「あの‥式神って、なに?紙になった猿の奴らのこと?」

「命を持たない操り人形ってところだろうな。しかも遠隔操作・自動操作可能」

「大体その様な認識で間違いないかと‥。敵はおそらく関西呪術協会の一部勢力で陰陽道の“呪符使い”。そしてそれが使う式神です」

「‥陰陽師って奴か」

「あ、漫画とかで見たことある奴ね」

 

こくり、と頷く刹那。

更に続けて呪符使いに付く護衛として式神の善鬼、護鬼を挙げ、関西呪術協会と深い関わりのある京都神鳴流の剣士が護衛につく可能性を示唆する。

敵の戦力の多さに危機感を感じ始める明日菜。

ただ、そこにネギがストップをかける。

敵に神鳴流がいるかもしれず、更に神鳴流剣士の刹那が味方だという違和感に気がついたのだ。

 

「私は言わば“裏切り者”。でも私の望みはこのかお嬢様をお守りすることです。仕方ありません」

「‥」

「私は‥‥お嬢様を守れれば満足なんです」

「刹那さん‥」

 

刹那の意志はただ一つ。

木乃香を守ること。

その決意の程を見たネギと明日菜、カモ、そして千雨。

皆の心は既に決まっていた。

 

「よーし!わかったよ桜咲さん!!」

「わ」

「あんたが木乃香のことを嫌ってなくて良かった、それがわかれば十分!!友達の友達は友達だからね、私達も協力するわよ!」

「か、神楽坂さん‥‥」

「わたしは別に近衛の友達ってわけじゃないが‥うちのクラスメイトに手を出そうってんなら敵だ。手ェ貸してやるよ」

「よし、じゃあ決定ですね!」

「ん?」

 

意気込んで皆の輪の前に手を出すネギ。

キラキラと目を輝かせている。

なんだこれ?と千雨が首を傾げていると、明日菜もうん、と手を出してネギの手の甲の上に重ねる。

刹那もおずおずとだが同様に手を出してまた重ねた。

そういうことか、と千雨も右手を差し出し、刹那の手の上に重ねる。

更にカモが4人の手の上に乗る。

 

「3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルズ)結成ですよ!!関西呪術協会からクラスのみんなを守りましょう!!」

「えー!?なにその名前‥」

 

こういうところは子どもらしくて何よりだ、と安堵する千雨。

少し可笑しくも感じている。

 

「敵はまた今夜来るかもしれませんね!早速僕外の見回りに行ってきます!」

「おい、はりきりすぎても‥」

「ちょっとネギー!?」

「いえ、いいですよ。私たちは部屋の守りにつきましょう」

「‥なら、わたしはネギを追うか‥。一晩中見回るわけにもいかねえし、ある程度おかしなところがないか見たら、あとは近衛の周りをガッチリ固めたほうが良い」

「はい、そのように‥」

「ネギをお願いね、千雨ちゃん!」

「そっちも気をつけろ。近衛が拐われかけたそうだな‥。親書だけが狙いってわけじゃねえみたいだ」

 

千雨は外に出たネギをゆっくり追いかける。

前から歩いてきた掃除婦とすれ違うが、おかしな点はなさそうだと前を向く。

自動ドアを潜り、ネギの後ろ姿を追いかける。

ネギとカモがカードを一枚取り出し、なにやら話し込んでいる。

 

「ネギ、カモ」

「千雨さん」

「それは‥パクティオーカードか」

「ああ。兄貴にも使い方を教えておこうと思ってな」

「ん‥しかもちゃんとアーティファクトカードか。流石だな」

「アーティファクトカード?」

「わたしが使ってただろ?これだよ」

 

来れ(アデアット)と唱え、カードから鍛造神の小瓶を出す。

 

「これがアーティファクトだ。仮契約(パクティオー)を済ませた魔法使いの従者‥‥中でも選ばれた従者は、専用の魔法具を得る。それがアーティファクト」

「え、じゃあ明日菜さんも‥」

「使えるはずだ。‥何が出るかはわからないけどな」

 

明日菜の生い立ちやネギの境遇・素質を考えるとアーティファクトが出るのは当然とも言える。

そして、明日菜に魔法無効化能力を持っていることを考えると、何となく出るアーティファクトは予想がつく。

 

「ちなみに千雨の姐さんのアーティファクトはどんな効果なんだい?」

「わたしのは‥この小瓶の中身の液体だ。この液体を水溜りや炎に投げ込むことで、そこを鍛造神の鍛造場にする」

「鍛造場?」

「鍛造場に武具を入れることで、その武具は完璧に修復されるんだ。普通の道具とかも直ることは直るが‥‥材質にもよるな。金属が含まれてないと武具は無理だ。逆に言えば少しでも金属が入っていると問答無用で修復される」

「それは‥姐さんには最適ともいえる、また強力なアーティファクトだな!」

「千雨さんに最適って‥‥あの魔法具(マジックアイテム)の数々のこと?」

「そうだけど‥‥どちらかというとアーティファクトにわたしが戦闘スタイルを合わせているんだ。魔法戦闘者として鍛え始める前にアーティファクトを手に入れたからな」

「あ、そうなんですか?」

 

ネギはほへーと感心するだけで終わったが、カモは訝しんでいた。

本来、魔法使いの従者に選ばれるのは優秀な戦士や素質のある魔法使いなどだが、主人となる魔法使いたちはその実力をみて決めているはずだ。

だが、千雨の言い分を鵜呑みにすると、千雨は強さを手に入れる前に魔法使いの従者になったということになる。

一体、千雨のマスターはなにを考えて千雨を従者にしたのだろうか?

 

「‥千雨の姐さん、カードを見せてもらってもいいか?」

「セクハラだな」

「ええっ、ちょっとくらい良いじゃねえかよ!」

「今、セクハラが社会問題として世間で騒がれているのを知らねえのか?オコジョオヤジ。ほら、それよりもネギに説明してやれ」

「あ、あぁ」

 

セクシャル・ハラスメントに関してはこの前ブログで記事を書いたばかりだからいくらでも言葉を並べられるぞ、と千雨。

首を傾げながらネギに向き直り、仮契約(パクティオー)カードの説明を始めるカモ。

去れ(アベアット)と唱え、鍛造神の小瓶をカードに戻し、裏面を見る。

マスターの名前をネギたちに見せるわけにはいかない。

まだ彼らは早すぎるのだ。

例え知ったところでどうにもできないほどに、弱い。

 

(‥今回の修学旅行で成長してくれたり、強さへの渇望なんてものが生まれてくれたら良いんだが‥そんな状況に陥るのはないな。敵の妨害も易しいものだし)

 

「へー、なるほど‥。このカードでパートナーと念話・パートナーの呼び出し・パートナーの能力強化までできるんだ‥。そしてさっき千雨さんが言ってた、アーティファクト‥」

「そればっかりは明日菜の姐さんに一度使ってもらう必要があるな。どんなやつか確かめねーと。それ以外なら兄貴も使えるぜ、試してみろよ!このミラクルな便利機能をよ!」

「よーし!じゃ、じゃあアスナさんと念話してみるね!」

「念話か‥」

「‥そういえば千雨の姐さんは、兄貴と仮契約(パクティオー)しないのか?」

「ああ!!?なっ‥‥なんでわたしが!?」

「え‥いや、聞いてみただけだけど‥」

 

あれ?とまた首を傾げるカモ。

ネギと千雨との仮契約の話は以前一度上がっている。

エヴァンジェリンとの戦いの前に、カモが提案した物だ。

だが、それはネギ本人が難色を示した為話は立ち消えになった。

その時の千雨の反応は、どうしようかな〜みたいなどちらでも良さげな反応だった筈だ。

しかし、妙に過剰な反応ではないか?

 

「いや、だってお前‥まだガキだし、そもそも必要がねえし‥」

「ほら、兄貴と姐さんなら確実にアーティファクト出るし‥念話や召喚も使えて便利だぜ?」

「まあ、アーティファクトはともかく‥念話は電話でいいだろ!?召喚だっていいよ、わたしが走るから‥」

「ええ‥」

 

走るのか?走ったほうが早いのか?などと逆に混乱しかけるカモだが、これは単純に恥ずかしがっているだけなのでは?とカモの中で悪くて下世話なカモミールが起き始める。

ちなみに流石に千雨が走るよりも召喚で転移された方が早い。

 

「あれ‥カモくん。これってアスナさんからは声は聞こえないの?」

「ま、まあな」

「それって‥ケータイの方が良くない?」

「うっ」

 

ネギも千雨もケータイや電話で良いという。

涙が出てきた。

悪いカモよりも時代に置いていかれかけている年寄りのようなカモが勝ってきたようだ。

煙で目が染みているようにも見える。

そんなカモを尻目に千雨は顔を押さえて赤みを引かせる。

 

(そんなわけがない。昼間のアホどもの言葉が引いてるだけだ‥‥いや、わたしが男に慣れてないだけだ!だって、こいつはまだ子供‥なんだ)

 

千雨の中に、後々悩まされることになる葛藤が生まれた。

この問題は度々千雨の道を阻むことになる。

 

「え〜〜〜!!?」

「ん?」

「兄貴、どうしたんだ?‥‥ムッ、兄貴、姐さん!あれは!?」

「!?」

 

念話をしていたはずのネギが、いつのまにか電話をしている。

そのネギが大声を上げたのでなんだ、と見遣る千雨とカモ。

その二人と一匹の頭上を高速で越える一人‥‥いや、一体と一人の影。

思わずネギたちは身構える。

ズシャン、と着地したのは大きな猿だった。

 

「‥おさる!?」

「でかっ!!」

「いや、よく見ろ!着ぐるみだ!」

「ていうかこのかさん!?」

「あら‥さっきはおーきに、カワイイ魔法使いさん」

 

猿の着ぐるみを着た眼鏡の京女。

木乃香を抱えて、急いで飛んできた。

この時点で、ネギの中でも千雨の中でも既に彼女は敵になっていた。

 

「待ちなさいお猿さん!!」

「それは見逃せねーなてめえ!!」

 

ネギは始動キーを唱え始め、千雨は身体を戦闘用に切り替える。

しかしすぐさまネギと千雨の身体に猿たちが飛びついてくる。

着ぐるみ女と比べるとずいぶん小さいが、数が多い。

ネギなどは既に口が塞がれてしまっている。

 

「もが!?」

「ばっ、この‥‥変なとこ触ってんじゃねえ!!」

 

乙女の拳が炸裂する。

全身から“気”を発生させて、拳のみならず身体全体で猿たちを弾き飛ばす千雨。

続いてネギから猿たちを剥がしにかかる。

 

「これがさっき言ってた奴か!?」

「あ、ああ!こんにゃろ‥てめえオラッ!」

「ぶはっ!ち、千雨さん!このかさんが!!」

「わかってる!!」

 

猿たちを放り投げ、京女の方へと向く。

既に京女は去ってしまっていた。

なかなかの速度である。

 

「追いかけるぞ!!」

「ネギーー!千雨ちゃーーん!!」

「アスナさん、刹那さん!!」

「ご無事ですか!?」

 

すぐに着ぐるみ女を追いかけようとする千雨たちの後ろに明日菜と刹那が追いつく。

千雨は無言で前方を指差し、三人と一匹はその意図を把握して頷く。

 

夜の追跡劇が始まった。

 

 

それを遠くの屋根から見下ろす、一人の影。

 

「‥ふふふ♡西洋魔法使い君に‥そのパートナーが一人。神鳴流のおねーさんは外せないですなぁ‥♡」

 

京訛りの口調が、その者を物語る。

その者はちらり、と残った最後の一人を見つめる。

 

「そして‥‥ただの一般人かと思いきや、これは中々‥いえ、もしや一番の当たりはあの人やろか‥」

 

食指が動く。

殺気が漏れ出る。

だが、次の瞬間にはピタリと止まってしまう。

 

オレンジの髪を一括りにした眼鏡の少女。

目が合った気がした。

 

(この距離を‥気づかれた?)

 

距離にして1kmは離れている。

気づかれる筈がない。

こちらは望遠鏡を使って見ていたというのに。

 

「‥気まぐれで受けた仕事やけど‥久しぶりの大当たりですなぁ‥♡」

 

狂気が牙を剥く。




着ぐるみ女と狂気女の違いを口調で出さないと‥。
実はわたし京都出身なのでそこはアドリブでなんとかする‥予定。
着ぐるみ女の方が京言葉がキツい感じで捉えてます。

次話、戦闘回です。

また、千雨の心境に少しずつ変化が起きています。
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