一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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1日‥だけ早かった。
そうだろう?()
オリジナル戦闘回です。


【15】二刀剣士と剣闘士

幼くして剣を取った自分の記憶はただ一つ。

剣を愉しむこと。

剣と剣が織り成す、血と骸の壇上で。

また、お会いしましょう。

 

********************

 

 

屋根の上だ。

一人、いる。

確実に敵だろう。

遠くからでも微かに感じ取れる殺気。

いつからこちらを見ていたのかはわからないが、少なくとも戦闘用に身体を整えた直後では気づかなかった。

 

ちらりと共に走るネギたちを見る千雨。

ネギたちは気がついた様子がない。

 

(‥昼間の妨害の様子から、そこまで厳しい相手じゃないって勝手に思ってたが‥‥あれはネギたちには無理だな)

 

刹那の実力はまだわからないが、簡単にあしらえる相手ではないだろう、と予測する。

遠くからこちらを見ていたのは戦力視察か、監視か。

どちらにせよ、ただ逃げるだけではなく、次の一手を模索するような侮れない相手だとは言える。

 

「あ、マズい!駅に逃げ込むぞ!?」

「っていうか何よあのデカいサルは!?着ぐるみ!?」

「恐らく関西呪術協会の呪符使いです!」

「じゃあ、アイツが昼間の騒動も!?」

 

サルの着ぐるみ女は何故か待機していた電車に乗り込んでいき、すぐに発車のベルが鳴り始める。

客も駅員も誰もいない。

千雨の目に先程刹那が貼っていたものと同じ、人払いの結界札が見えた途端、多少は無茶をしても問題ないと笑う。

 

「‥!ネギたちは電車に乗れ!わたしは上から行く!」

「上!?」

「長谷川さん‥!」

「気づいたか?」

「はい‥!‥接敵速度がかなりのものです‥いつの間に!?」

「ああ、すぐ近くまで来てる‥。アイツはわたしに任せろ!」

「え!?え!?」

 

ネギも明日菜も千雨と刹那の会話にキョロキョロし始めるが、千雨は二人の背中を押す。

近くに来ているからこそわかる。

アレは、今のネギたちに会わせて良い相手ではない。

 

「行け!お前らの手で近衛を守れ!」

「千雨さん!千雨さんはどうするんですか!?」

「わたしの仕事は知ってるだろ!!」

 

バッと跳び上がる千雨。

電車の屋根に飛び乗ろうとするが、更にその上から何者かが飛びかかってくるのが刹那の目は捉えていた。

 

「!!」

「わたしの役目は‥!」

「ああっ‥!美味しそうですなぁ♡」

「戦闘だ!!」

 

“気”と“気”がぶつかり合う。

その余波にネギたちはよろけながらも、何とか電車に乗り込む。

刹那はネギたちと共に着ぐるみ女に寄ろうとしながらも、千雨のことを気掛かりに感じていた。

 

(まずい‥!今の“気”。間違いなく、同門の‥!)

 

「桜咲さん!追い詰めたわよ!」

「!」

 

だが、まず第一は木乃香。

お嬢様を救い出すこと。

 

(‥すみません、長谷川さん!あとで必ず助けに参ります‥!どうかご無事で!!)

 

 

一方の千雨は電車に飛び乗ろうとしたものの、飛びかかってきた相手の刀を素手で受け、その衝撃で電車に乗り損ねてしまっていた。

駅構内の反対側のホームに着地し、舌打ちしながら立ち上がる。

既に電車は発車し、進行方向へと遠ざかっていた。

 

「‥後でまたマラソンかよ、めんどくせーな」

「走る必要はないかもしれまへんえー?ここでウチと‥剣を合わせてくれたら‥♡」

「てめーか粘っこい殺気を飛ばしてくれやがった奴は。おかげで電車乗れなかったじゃねーか」

「ふふふ‥‥でも、こうしてここに残ったということは‥‥ウチの誘いに乗ってくれたいうことでよろしいですか?」

 

現れたのは一人の少女だった。

四角い銀縁眼鏡をかけ、白を基調としたロリータ・ファッション。

そして、服装に似合わない二振りの小刀。

 

「‥‥‥お前、剣士なのか?」

「はい〜。月詠いいます〜。‥‥‥どうぞよしなに」

「‥またヘンテコな奴が出てきたな‥」

 

何せロリータ・ファッションだ。

エヴァンジェリンも黒のゴシックロリータだったが、アレは吸血鬼の真祖だったからある程度許容できた。

単純に似合っていたのだ。

だが、月詠は剣士だと言う。

日本の剣士といえば侍が思いつくが、それとは似ても似つかない。

 

頭を掻いて面倒臭そうな顔をする千雨。

ネギたちの手前「任せろ」なんて言ったが、こんなチグハグな相手ではやる気が出ない。

 

(‥けど、さっき感じた殺意‥)

 

あの殺意が実力を伴っていれば、それだけでただ脅威だ。

そしてそれを、今から確かめる。

 

「‥お前の目的は?」

「依頼人の守護ですえ〜」

「ん?じゃあさっさと守りに行けよ」

「それと‥敵戦力の低下」

「!」

 

先刻、遠方から感じた濃厚な殺気。

千雨の身体にまとわりつくように伸びてくる。

小刀を抜き、翳す。

小刀を見ると、刹那が持っていた大刀と鞘や柄の造りが似ていた。

日本刀とは明らかな違いを持つ倭刀だ。

全体的に白く、抜いた刃すらも白い。

その刀を持つ流派を、千雨は知っていた。

 

「‥お前、神鳴流か」

「! あら‥ご存知ですか〜?」

「剣士でありながら、退魔師‥‥‥さっき桜咲が言っていたが、呪符使いと連むのが普通なのか?お前らは」

「そうですね〜。確かに、今回の裏切り者はあの神鳴流の綺麗な黒髪お姉さんの方ですね〜」

「‥アイツはそれをわかってたみたいだぜ」

「ふふふ‥‥それはそれは♡覚悟を決めた剣客との仕合は垂涎ものですからね〜‥是非とも、あのお姉さんとは斬り合いたいですえ‥♡」

「お前がアイツと(まみ)えることはねえよ」

「‥?」

「ここで退場だ」

 

千雨が浴衣の下で首から垂らしていた、ネックレスの先の指輪。

以前エヴァンジェリンと戦った時、彼女の従者であるチャチャゼロに斬られたものだったが、千雨のアーティファクトを使えば問題なく修理できた。

魔法発動体である指輪が淡く光る。

 

武装(アルミス)‥」

「!」

「‥召喚(コンボカーレ)!」

「‥‥旗?」

 

千雨が召喚したのは霧雨の王旗。

これもエヴァンジェリン戦で一度使ったものだった。

だが、この旗の性能はほとんど使わなかった。

吸血鬼であり魔法使いであるエヴァンジェリン相手ではほとんど意味がなかったからだ。

 

「なにやら妙な力を感じますが‥‥旗でウチの剣を受けるおつもりですか?」

「前口上なら聞いてやるが、つまらん御託なら聞いてやらねえぞ。わたしをお前の常識で測れると思うなよ?」

「‥!」

 

月詠がぽかんと口を開けて呆気に取られる。

なんだ?と訝しむ千雨。

何かおかしなことを言っただろうか、と首を傾げる千雨。

 

「‥‥‥ふふふふふ!あはははははははは!そうです‥そうですなぁ!あぁ‥あぁぁっ!!」

「は?」

「常識‥!ウチの、常識!?‥ふふふっ、そんなん言われたん初めてや!!」

「‥おい?」

「ああ‥‥これで残るは‥‥貴女のお力を‥お見せくださいな♡」

「‥よくわからんけど、やる気出たならさっさとやるぞ」

「あい♡」

 

小刀を二本とも抜き、一刀を前に、一刀を身体の後ろに隠す月詠。

霧雨の王旗を片手に持ち、空の手は前へ掌底の形に出す千雨。

 

「我流神鳴琉‥月詠」

「我流気合武闘、長谷川千雨」

 

「ほな」

「じゃあ」

 

「遠慮なく!!」

「ぶちのめさせてもらおうか!!」

 

剣鬼と戦士は、お互いを打ち始めた。

 

 

********************

 

 

月詠の持つ小刀は二振りあるが、その大きさから刃長まで違う。

どちらも神鳴琉の剣士が握る為に鍛えられた刀だ。

だが、刃長が違う二振りの刀は当然違う役割を持っていた。

刹那の持つ刀を大太刀と呼ぶなら、月詠が持つものは脇差と短刀といったところか。

打ち合うための脇差と、攻め入る為の短刀。

何故月詠が鬼や妖魔といった怪異を斬る大刀ではなく、小さな刀を持ったか。

それは、斬る目的が違うから。

ただそれだけのことだった。

 

「ふふふふふふ!!」

「表情変えずに笑ってんじゃねーよ気持ち悪い!!」

 

月詠が攻める。

月詠の小さな身体は、相手の懐に潜り込むのに向いていた。

相手の間合い、その奥に進んで脇差と短刀を振るえばなるほど、確かに潜り込まれた方は堪ったものではない。

相手の武器や体格が大きければ大きいほど、月詠の相手は苦戦する。

 

だが、その日の相手は妙な旗を武器にする少女だった。

旗なんて“気”で強化したとしても、殺傷能力など棒や杖と大差ない筈。

大体、千雨と名乗った少女の身体と同じくらいも大きいあの旗が、自分の脅威となり得るとは思えない。

美味しそうだと思ったが、妙な相手になってしまった。

 

‥そう思っていた打ち合う前の自分を一刀で斬り伏せたい。

 

「ウチの剣撃を手一つで受ける〜〜ふふふふふ!面白いお人ですなぁ!!」

「手だけじゃねーよ!!」

 

脇差を掌で払った千雨に対し、払われた勢いを利用して短刀を振る月詠。

だが、後ろに翳した旗を振り抜き、短刀を旗で止めてしまう千雨。

“気”で強化された刀は、刃に触れずとも刀身の腹に触れるだけで傷つける殺傷力を持っている。

だが、それを同様に“気”で強化したならば素手や布ですら受け切る。

 

「斬岩け」

「うぜぇ!!」

「!?」

 

月詠が必殺の剣を放つ前に“気”がこもった王旗で吹き飛ばす千雨。

そのまま霧雨の王旗を翳す。

 

撃て(ヴィルガ)!!」

「ほ‥」

 

月詠の至近距離で解放された剣の雨は月詠を襲うが、月詠は手にしている二刀で迎え撃つ。

だが、剣は剣士を逃さない。

 

「何という数!」

「まだまだ増やしてやるよ!」

 

受けきれなかった剣が月詠を襲う中、千雨は次々に軍旗を振るう。

振るう度に剣の群れが現れ、月詠へ殺到する。

千雨が振るった分だけ攻撃してくる剣の群れをさばきながらも、月詠は霧雨の王旗について大体の理解が出来ていた。

 

(成る程。これは便利な武具かもしれへんなぁ‥)

 

一つ、一度に出現する剣はおよそ百本まで。

一つ、剣の進む速度や軌道は千雨が振るった旗の速度や方向による。

一つ、旗を翳した場合は直線で速く(・・)飛ぶ。

一つ、その他わかりやすい制約は恐らくない。

 

制約がない、のかどうかは月詠が見ることができないところであるのかもしれないが、剣の群れの出現にはインターバルがない。

それだけでもかなり厄介、と月詠は結論づける。

現に、千雨が霧雨の王旗を振い始めてから月詠は千雨に近づけていない。

懐にさえ潜り込めれば、霧雨の王旗を振るっている暇などない筈だ。

そして、何よりあの武具で恐ろしいことは。

千雨が軍旗を振るう速度が上がれば、それに霧雨の王旗は応えてしまうかもしれないと言うこと。

剣の速度に上限がないとすれば、達人が振るえば魔法使いに匹敵する火力が出せるかもしれない。

 

「なに企んでんだ!?」

「!!」

「まだまだいくぞ!」

 

千雨が旗を払う度に百剣が現れ、それを受けようと二刀を振るっているだけでは埒があかない。

あまり趣味ではないが、こちらも遠距離攻撃を放つ必要がある、と更に距離を取る月詠。

千雨の間合いから一度外れたのだ。

 

「!?」

「神鳴流奥義‥‥!斬鉄閃!!」

 

脇差から放たれたのは螺旋状に進む斬撃。

空中を駆けて千雨に向かって飛んでいく。

チッ、と舌打ちをして右足を後ろに下げ、半身で構える千雨。

霧雨の王旗は片手で持ち、肩にかけたままだ。

月詠が放った斬鉄閃は、恐らく剣の群れでは止められない。

一本一本の威力は高くないのだ。

 

「我流気合武闘‥三!」

 

月詠は訝しむ。

軍旗を使う様子がない。

素手で月詠の斬撃を受け切る気だとはわかるが、刀を直接受けるのとは訳が違う。

技を受け切れても、余波で身体が傷つくはずだ。

 

「三薙脚突・昇!!」

 

刺突のような形で足による気弾を撃ち出す千雨。

気弾を足で撃ち出したのにまず驚く月詠。

 

魔法戦闘は、足を使った攻撃を行う者はそういない。

何故か?

簡単である、必要がないからだ。

 

足は移動の基本である。

“気”の運用者の瞬動術は足で行われ、基本上位の魔法使いは浮遊(レウォターティア)で移動するもののそもそも体技など使わない。

更に言うと、足は確かに腕よりも力が強い。

だが、“気”で強化すれば十分な膂力が確保できるのだ。

 

それに対し、千雨は違った。

彼女が鍛え始めたとき、重点的に鍛えたのは足技だった。

師の教えに従うと、まずは防御。

小さな体躯だった千雨は一度でも攻撃をまともに喰らえばそれだけで致命傷なのだ。

そして、隙を見つけて火力の高い攻撃を一撃打ち込む。

その為の足技だった。

 

「何と‥!?」

 

斬鉄閃と薙脚の気弾がぶつかる。

斬鉄閃が気弾を弾くが、月詠の目には更に二つの気弾が映る。

気弾三つが重なるように飛んでいたのだ。

前へと跳び、今度は距離を詰めようとする月詠。

わかっていたことだがやはり遠距離勝負は不利だ。

 

千雨が続け様に二回軍旗を振るう。

一度に二百本弱の剣が現れて百本ずつに分かれ、月詠がいる地点と、月詠の少し後方地点を目掛けて飛ぶ。

その場で受ければ単に受け切れない剣に刻まれ、後方に下がれば二手目の剣が襲う。

 

前に誘われている。

 

「何の真似かはわかりまへんが、乗らしていただきやすえ!!」

 

攻め込んでいた時は月詠が優勢だったが、距離を取って戦っていた時は明らかに千雨が有利だった筈。

それを接近戦に持ち込ませようとはどういうことなのか?

分からないが、遠くから攻められて近づけないのはお預けを食らったような気分で良くはない、と笑う月詠。

足に“気”を集中させ、大地から跳ぶ。

瞬動術だ。

 

「しゃあ!!」

「ふん‥」

 

今度は掌で受け流すなどということはしない。

拳をつくり、瞬動で突っ込んできた月詠を受けるのではなく迎え撃つ。

鈍い音が響き、刀と素手の鍔迫り合いが起きる。

月詠は既に片手ではなく両手の刀で千雨と競り合っている。

力では敵わないことが一度吹き飛ばされて分かっていたのだ。

だが、千雨は旗を持った片手が自由に使える。

 

霧雨の王旗をくるくると器用に片手のみで回し始め、王旗が円を成していく。

次第に、円の上方に穂先に刃のある巨大な戦斧が出現し始める。

 

「ハルバード‥!?」

「潰れとけ」

 

現れたハルバードは、千雨や月詠が握って振るえるような大きさではなかった。

魔力によって生成されている武器の為、そもそも人が持って振るうことを想定していないのだが。

しかも、そのハルバードも千雨の“気”を纏っていた。

霧雨の王旗を介しさえすれば、千雨の身体強化に使われる魔力や“気”は生成される剣やハルバードに伝えられるのだ。

魔力と“気”は本来相反するが、魔力で形成されている魔力体が“気”を纏うという一見奇妙な現象が生じているのは、千雨ならではの技と言える。

 

有り得ない、と零しかける月詠。

あんなものを受ければ身体など簡単に二つに分かれる。

二刀で受けても刀ごと割られる。

早く逃げなければ。

 

「‥あら!?」

「逃さねーよ」

「刀が‥!」

 

二刀と拳の鍔迫り合いが続いていたのに、拳がいつの間にか開いて二刀を掴んでいた。

ハルバードが生成され始め、月詠がその様子を見上げたあの時だろう。

抜け目のない、と毒吐く暇もない。

 

「そらよ!!」

「くっ!!」

 

咄嗟の判断で二刀を捨て、瞬動術でその場を離れる月詠。

凄まじい勢いで下ろされたハルバードは、駅ホームの屋根にぶつかる前に消える。

月詠に当たらねば意味はないし、わざわざ建物を壊して痕跡を残すこともない。

 

「‥どうした、手詰まりか?」

「一見‥」

「一見?」

「その旗に目が行きがちやけど‥‥恐ろしいのは貴女、ですね〜。貴女はその旗を使って戦いを有利に、そして安全に進めているだけ。旗すら捨てて、ある程度リスクを以って“気”だけでウチに肉迫すれば‥‥それだけで貴女はウチを倒せるんとちゃいます?」

「‥てめーがどんな手を持っているか分からなかったからな。リスクの少ない戦い方を選ぶのが当然だろ」

 

言葉を発しながら、月詠が放した二刀を月詠に投げ返す千雨。

眉を顰めながらも、月詠は愛刀を受け取る。

 

「何の真似ですか〜?」

「てめーに今逃げられたら困るんでな。流石に武器をなくしたら逃げるだろ」

 

どうやら戦闘狂の気があるようだが、得物がなくなれば後退せざるを得ないだろう。

安全な地まで逃げて、武器を調達して再び参戦———しかもネギたちの戦場に行かれてはたまったものではない。

ここで逃さずに月詠を叩きのめし、早急にネギ達の元へ向かって木乃香を助ける手伝いをする。

それが今現在千雨が取れる一番の手だろう。

 

「‥‥そこまで」

「ん?」

 

パチン、と脇差を鞘に納める月詠。

続いて短刀も納めてしまう。

 

「そこまで読まれて‥ここまで情けをかけられたら、ウチに戦う気概は起きまへん」

「あ?」

「ウチの負けです。今日は手をだしまへん」

「‥意外だな。死ぬまで殺し合おう、とか言うと思ってたよ。こちらとしては助かるが‥」

「‥ふふふ、ウチはまだ甘かった。ウチと同世代でここまで実力差があるお人がおるとは‥‥まだまだ、ウチは剣の腕が甘い‥。それがわかっただけでも良かった」

 

ニコッ、と笑う月詠。

剣を嬉々として振るう、戦う時の表情とは少し違う。

まるで子供の様に、ただ嬉しいと。

 

「ウチはまだまだ強くなれる」

「‥悪いが、それはわたしもだよ。お前が目指す強さはなんだ?」

「‥どんな相手とでも、血と闘争を巻き起こせる様に。貴女様は?」

「様‥‥」

 

なんだそりゃ、と月詠の少々の態度の変化にたじろぐ千雨。

だが、強さを問われたら返答は決まっている。

 

「世界最強の魔法使いをぶっ倒して、世界最強の剣闘士になる。それだけだ」

「最強‥」

 

全身の毛が際立ったような感覚を持つ月詠。

目の前の人間は、冗談など言ってはいない。

千雨の目は、ただ真っ直ぐに月詠を見つめていた。

彼女は将来、確実に最強へと手を伸ばす人間だ。

 

月詠は世界最強の魔法使いが誰かまでは知らなかったが、ありとあらゆる魔法使いに打ち勝つということと相違はない。

それを言い切る心胆、“気”の扱い、取り出された霧雨の王旗。

強い女の子が大好きと公言する月詠にとって、千雨は格好の獲物と言えた。

 

「‥‥ならウチも、貴女様に置いて行かれぬよう只々剣を求むるのみ、ですえ」

「やれるもんならやり切ってみろ。だが、次に敵対するときは確実にてめーを仕留めるぜ、わたしは」

「ふふふふふ、情熱的ですなぁ♡‥‥‥では、また‥次は、その身に刃を立ててみせますえ♡」

 

足に力を込め、跳びあがる月詠。

闇夜の方に身体を向けながら、顔は千雨の方に向ける。

この場から離れようとしている月詠に対し、油断なく構えていた。

 

駄目だ。

どうしても頰が緩む。

今回の依頼に感謝しよう。

こんな人と、この先ずっと殺し合える。

次で死ぬかもしれない。

次で殺せてしまうかもしれない。

 

「‥ああ‥‥!ウチは‥幸せ(もん)ですなぁ‥♡」

 

この平和な世に、最強を目指す修羅がいた。

この出会いに、感謝を。

 

剣士を闇夜が飲み込んでいった。

 

 

********************

 

 

月詠の気配が完全に消えたのを確認した後、千雨はすぐに京都の家屋の間を目にも止まらぬ速度で駆け抜けていた。

月詠を仕留めきれなかった‥‥というより見逃したという形になるが、まずかったかもしれない、と溜息を吐く。

確かに今一番の目的は木乃香の奪還及びネギたちの援護だが、あれほどの戦闘狂を野放しにしたのはどう考えてもマイナスだ。

 

だが、同世代で千雨の攻撃を凌ぐほど戦える人間を初めて見た千雨。

魔法世界では皆戦う相手は歳上だった。

物珍しさ故に見逃した、とも言える。

 

結局は今回は手を出さない、と言う月詠の言葉を信用しただけだ。

なるようにしかならない。

 

「それよりも‥‥近衛だな。アイツら無事なんだろうな!」

 

線路沿いを走り、すぐに一つ先の駅に着く。

駅構内に入るが、やはり人は一切いない。

ホームは何故か水浸しで、電車が一台乗降ドアが開いたままで放置されていた。

電車内も水浸しだ。

 

「‥間違いなく魔術による水。どこに行ったんだアイツら‥」

 

行方がわからない。

こんなことになるならネギか明日菜辺りと連絡先を交換しておけばよかった、と後悔する千雨。

こんな無様なタイムロスでもし木乃香が誘拐されて逃げ切られてしまったら間抜けにも程がある。

 

残念ながら人探しや物探しの魔法具(マジックアイテム)など持っていない。

どうしたものか、と悩む前に動く千雨。

駅を出ようと改札から出ると、大きな風切り音が鳴る。

駅の反対側だ。

 

「まだ戦ってるのか!?」

 

直ぐに瞬動術でその場を離れ、音源であろう駅の反対出口に向かう。

すると、1人の黒い影が宙を舞っていた。

なんだと目を凝らすが、とりあえずネギたちでも木乃香でもない。

長い黒髪の女が全裸で吹っ飛んでいた。

 

「‥‥痴女かー‥。いや、違うな。違うに決まってる。間抜け過ぎるけど戦いの結果だって信じてる」

 

よく見ると、それを吹き飛ばしたらしい人影が下方の階段にいた。

ネギたちだ。

刹那が木乃香を抱えていた。

無事に取り返したらしい。

 

とりあえず一安心といったところか。

ふう、と息を吐いて人影たちに近づいていく。

吹き飛ばされた黒髪の女は、と目をやると大きなぬいぐるみみたいな猿に抱えられて逃げていったのが見えた。

諦めたのか。

ネギたちも追撃する気はないらしい。

 

「お前らー‥」

「あ、千雨ちゃん!?」

「千雨さん!よかった‥!あの!怪我とかないですか!?」

「ねーよそんなもん。どっちかというとお前らのほうが危なかったんだぞ、近衛に近かったんだし‥」

「‥長谷川さん‥‥先ほど現れた刺客はどうしたんですか?」

「逃げられた。悪いな」

「い、いえ!逃げられたどころか、神鳴流の剣士を追い詰めたことの方が驚きです‥」

「まあ、それはだな‥‥。それよりも近衛は?」

「はっ!お嬢様!?お嬢様、しっかり!」

 

焦りながらも優しく木乃香を揺する刹那。

こうして見ると確かにお姫様とその護衛剣士だ。

今まで全く気がつかなかったが。

 

ネギも明日菜も不安げに木乃香を見守っている。

少しして、木乃香がうっすらと目を開ける。

刹那は安堵した表情を見せ、ネギたちもわあっと声を上げる。

 

「お嬢様!!」

「‥ん‥‥‥あれ、せっちゃん‥‥?」

「どうやら何かされたわけではなさそうだな」

「なんだ?それ」

「いや、あの猿女がそれっぽいこと言ってたからよ‥」

 

カモの言葉にバッと木乃香を見るが、特におかしな様子はない。

今までの騒動は夢だと思っていたらしく、夢現つに刹那にその様子を告げている。

 

「あー、せっちゃん‥‥。ウチ、夢見たえ‥変なおサルにさらわれて‥‥‥でも‥せっちゃんやネギくんやアスナが‥助けてくれるんや‥」

「‥千雨の姐さんの名前が出てこねえけど‥」

「ほら、わたしは近衛の前に出てないしよ‥」

 

なんでコイツ声を潜めてんだ?と思いながらもカモの疑問に返答する千雨。

よく考えたら学園長に木乃香には魔法の事情をばらさないで欲しい、と頼まれていたのを思い出した。

カモがその言葉を守っているのか空気を読んでいるかは分からないが。

恐らく両方だろう。

 

「‥‥よかった、もう大丈夫です。お嬢様‥‥」

「‥‥!」

「‥お嬢様?」

「よかったー‥‥せっちゃん、ウチのこと嫌ってる訳やなかったんやなー‥‥」

 

木乃香の目に涙が浮かぶも、笑う。

よほど嬉しかったのだろう、こちらに気づいた様子もない。

刹那しか目に入ってないようだ。

 

「えっ‥‥‥そりゃ私かてこのちゃんと話し‥‥‥ハッ!?」

 

顔を赤くして咄嗟に言葉が出てしまった、といったところだろうか。

 

(しかし、確かにコイツは近衛から離れてた方が腕はともかく志は鈍らねーだろうな‥)

 

ジト目で刹那を見る千雨。

悪いとは思わないが、刹那が決めた木乃香から離れて木乃香を守るという決め事を守れるとは思わなかった。

こんな顔をするような奴が木乃香から離れられると思えない。

その視線に気づいたか、それとも単に我に帰ったか。

凄まじい動きで木乃香の前で跪く刹那。

護衛としての口上を早口で述べ、そのまま「御免!」とか言って急いでこの場を離れようとしている。

‥離れていく姿は素早さも何もない、ドタバタと逃げようとする間抜けなものだったが。

落ち着け。

 

「刹那さん、いきなり仲良くしろって言っても難しいかな‥」

「‥アイツはポンコツな予感がするな‥」

「え、そうですか?すごい強くて頼もしかったですけど‥」

「なんていうか、お前と似てるぞ‥‥ネギ」

「そ、そうでしょうか‥」

 

似てるかな?と首を傾げるネギだが、暗に今「お前もポンコツ」と言われたことに気がついていない。

可愛いもんだ、と嘆息する千雨。

ちらりと刹那を見遣ると、明日菜が刹那に声を掛けて明日の約束を取り付けたところだった。

明日は班行動の時間だったはずだ。

 

「うちの三班は明日二条城だったかな‥」

「あ、良いですねー」

「ネギは?あと五班」

「僕はどこかの班と一緒に行動する予定ですけど‥まだ決めてないんです」

「私たちは奈良ね!東大寺とか観にいくのよ」

「せやなー。‥‥あれ、ここどこー?なんでウチこんな格好しとるんやろ」

 

ギクリ、と強張る三人(と一匹)。

めんどくせーことになったと千雨。

 

「え、えーっとね‥」

「‥散歩だよ、散歩。そろそろ旅館に戻ろうぜ」

「そ、そうね!」

「あ!僕、壊しちゃったところを戻しに行かないと‥!」

「色々あったわねー、今日‥。これでまだ初日の夜なんて‥どうなっちゃうのよこの修学旅行は〜〜」

「ん〜?」

「とりあえず解散だ解散。面倒なことになりそうだけどな‥」

 

木乃香の天然な性格で助かった、と何とか誤魔化せた三人。

この修学旅行では木乃香に魔法のことを気づかせず、木乃香と親書を守らなければいけなくなったのだ。

中々面倒が嵩むだろうが、仕方がないと覚悟を決めた千雨であった。

ヤバそうなら刹那に丸投げしてやる。

 

 

「‥あ、ちょっとまて神楽坂」

「どうしたの?千雨ちゃん」

「‥‥連絡先教えてくれ‥」

「へ?」




月詠と千草、それから木乃香の口調に困ってます。
何となく京口調への浸かり具合で判断してるんですが‥。
ちなみに千草>木乃香>月詠です。
まあ木乃香は丁寧語使わないので簡単ですが。
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