一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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準備・伏線回です。
こういうのを定期的に入れないと、後々の展開に差し障ります多分。
そんなこんなを整理してたら遅れました‥。
ちょっと文字数多めです。


【16】渦巻く感情

契約をしてとせがんだ。

男は笑った。

人を馬鹿にするような笑み、と苛立つ少女。

そっぽを向いた彼女に、差し出された手は。

 

 

********************

 

 

目が潤んでいるネギ。

顔が赤く上気しているのがわかる。

それにたじろぎながらも向き合う千雨。

こちらも同様に顔が赤い。

 

なんだこれは。

なにしてんだわたしは。

早く何か言わないと。

戻らないと。

 

「‥いや、あの‥‥だな。その‥」

「は、はい‥‥」

「えっと‥‥か、覚悟はいいか?」

 

やべ、間違えた。

 

 

********************

 

 

修学旅行2日目の朝。

昨夜の木乃香誘拐騒動を終え、一息ついた3-A守護隊(ガーディアンエンジェルズ)(ネギ命名)。

ネギたちが巻き込まれた追跡劇など露知らず、泥酔組は頭痛に悩まされながらも起き上がることができた。

 

昨夜の騒動の後に話し合ったが、班編成の都合上千雨だけは木乃香の傍に居られなくなる。

明日菜・刹那・木乃香の五班と千雨が所属する三班とでは行き先が奈良と京都でそもそもの行動場所が違うのだ。

体調不良だと言って仮病を使い、ついていってやろうかと千雨が提案したが、刹那はそれを丁重に断った。

昨夜の襲撃からいきなりまた向かってくることはないでしょう、と刹那。

それに関しては千雨も同意見だった為に承諾。

 

今日は千雨だけは純粋に修学旅行を楽しむことになる。

 

‥が。

 

「なんでてめーがここにいるんだよ」

「ナハハハ、実は私たち二班も二条城行きでネ。どうせなら共に行こうト」

「おほほは、皆さん一緒の方が楽しいですわ♡」

「ネ?」

「‥‥」

 

千雨の横を歩くのは委員長と、それから超だ。

ほかの二班と三班の班員は三人の前を行っている。

 

「千雨さん、超さんとも仲が良いのですね?安心しました‥」

「安心って‥‥何がだよ?」

「クラスに編入してから二年弱‥‥クラスの行事には誘ったら参加してくれますし、そういう絆の築き方もあると思っていましたが‥やはり仲の良い友人はあるべきです」

「‥コイツが仲の良い友人ってのはぜってーいやだ」

「ムオ!?酷いネ最好的朋友!!」

「てめーの親友は古だろーが」

「親友など何人いても困りはしないヨ。ダロ?いいんちょ」

「ええ」

 

“いんちょー”と呼ぶ声がして、委員長は笑顔のまま残りの班員たちの方へ急ぎ足で歩いていく。

二条城へ入る為の受付で手続きをしなければいけないのだろう。

 

「‥アイツは、本当にお人好しだな」

「全くネ。雪広あやかという人間を見ていると、つくづく思うヨ。やはり、皆は協力して事に当たるべきだト」

「‥?」

「言語も通じる。姿も認識できる。だが、たった少しの目先の成果の為にそんな希少な相手を殺せてしまう。それが人間」

「超?」

「どうネ?千雨サン。貴女は殺さないことを選べるカ?協力し、人を死なさずに済ませられるカネ?」

「‥」

「‥‥ふ、聞くまでもなかたネ。だからこそ貴女は救世の英雄と呼ばれたのだから」

「‥あのな、そろそろその呼び方をやめろ」

 

既に何度も声に出している言葉だが、超はやめる様子はない。

寧ろさっきの委員長よりも良い顔で笑うだけだ。

素性が知れない危険人物だと思っていたが、何か普通の人間にはないおかしな事情も持っているようだ。

 

「‥それでなんでまたお前はわたしの横にいるんだよ。星に帰れ」

「ナハハ、星に帰れとはこれまた‥‥。なに、以前も言ったダロ?友好を深めようト。ただのクラスメイトから親しい手を取り合う友人になりたいのサ」

「わたしは話すことなんざねーよ」

「オオ、あれが唐門ダナ。古びた建造物だが趣があって良いネ。」

「お前そろそろ人の話聞けよ!?」

「何故そう邪険に扱うのカナ?」

「怪しーんだよお前。私の話してないことまで知ってるし、覗き魔だし」

「覗き魔というのは少々言い方が悪いナ。知的好奇心を抑えられないただの一介の科学者ヨ。話してないことと言うト‥‥裏の話ダロ?そこは観察してダナ‥‥」

「‥‥もう良い」

 

話していないことは勿論裏の話に含まれているが、それもナギに関わる情報だった。

千雨がナギのことを知っているという事実をエヴァンジェリンに漏らしたのは恐らく超だろうと考えているのだ。

 

この事実を知っている人間は千雨以外で二人しかいない。

正確に言うと3人目がいるが、3人目の詠春は“千雨”を知らない。

よって二人だ。

一人は千雨の養父のラカンだ。

残るは一人、意地の悪い司書と呼ばれる男。

では、超はどちらかの差し金ということなのだろうか?

 

ラカンではないだろう。

アレはそんな回りくどい悪巧みが出来る人間ではない。

となると、残りは一人。

 

「‥‥あの変態イケメンヤロー、また今度あったら問いただした上で情報料ふんだくってやる」

「大体貴女の想像していることはわかるガ‥‥これは私が自ら調べて得た情報ネ。誰のせいでもないヨ」

「いや、それはお前無理だって」

 

超が普通の人間でないことは認めよう。

裏の事情を抜きにしても、明らかに超人と言える部類に入る。

だからと言って超にラカンやアルビレオをどうにか出来るとは思えない。

あの二人は次元が違う。

英雄としての経験値、精神の頑強さ。

たとえ直接戦わなくても、だ。

 

あの二人から情報を抜き取るくらいならまだ超の好きなものの一つ、世界征服の方がまだ簡単にことが進むだろう。

 

「 ‥マ、そのうちにわたしのコトはわかるヨ」

「害がないならそれでいいけどよ‥面倒ごとを起こされる気しかしないんだよお前」

「ハハハハハ。良いじゃないカ面倒ごとなんて。それがある限り世界はより良い方向へ進むことができると言う証拠サ」

「ふん、エリートの考え方だな。わたしはわたしの現実さえあれば良い。見もしない世界なんざ勝手に良くなっていってくれ、わたしの知らないところでな」

「私とてそうネ。ただ、世界が私の現実と密接に繋がっているだけのことサ」

「ん?じゃあ、お前が言っていた計画ってのはやっぱり‥‥」

 

核心に迫ろうとした千雨だが、千雨のポケットに入っていた携帯電話が着信音を鳴らす。

誰だこんな時に、と電話に出ようとする千雨。

画面の表示を見ると、なんとネギだった。

ハッと違和感に気がつく千雨。

昨夜の襲撃が頭に過ぎる。

 

「何かあったのか!?」

「ヌ、ネギ坊主と連絡先を交換したのカ?今までいいんちょ一人しか連絡先を持ってなかったのに」

「てめーは黙ってろストーカー!!‥もしもし、ネギ!?」

『‥』

「ネギ、ネギ!!どうした!?いまどこだ!!」

『‥‥ち、千雨さん‥』

「なんだ!?無事なのか!?」

『ぼ、ぼく‥‥僕‥‥』

「‥ネギ?」

『‥‥‥こ、告白を‥』

「‥‥‥‥は?」

 

大口を開けて固まる千雨。

告白?

告白ってアレか、人が人に告げる気持ちの確認みたいな‥。

いや待て、告白がなんだ?

 

「‥‥えーっと、告白が‥‥なんだ?」

『‥‥!‥ご、ごめんなさい!!!』

「へ?」

 

音声が途絶え、通話が終了されたことが画面に表示される。

茫然と携帯電話を見つめる千雨。

 

「‥おい、つまりどういうことだ?」

「流石にちょっとわからないネ。ネギ坊主に告白関連のイベントがあったことくらいダヨ。それとも‥‥」

「それとも‥?」

「‥実は今から千雨サンに告白しようとしていた、とかナ」

「‥‥‥いや、ないだろ」

 

とにかく、何か事件があったというわけではなさそうだ。

ネギ的には大事件だったのかも知れないが。

恋愛ごとに関しては、千雨は門外漢である。

修学旅行に来てからはそれらしいことを美砂に突っつかれたり和美にラブ臭が‥などと言われたりしているが。

 

‥赤髪が、脳裏に散らつく。

 

その髪が誰のものなのか、その追及もやめて、先に行った委員長たちの後を足早に追って行った。

何かから逃げ去るように、早く。

 

 

********************

 

 

夕方。

旅館に戻ってきた三班。

ネギを探し始めた千雨だが、見つけた時には何故かネギは委員長たちから逃げているところだった。

首を傾げてネギを追おうとするが、それよりも事情を知ってそうな人間に確かめるべきだ、と考え直す。

夕食後、三班や鳴滝姉妹の誘いから何とか逃げ切り、明日菜と刹那がいる五班の部屋にたどり着くことに成功していた。

部屋には木乃香に加えて明日菜と刹那がいるだけだった。

残りの三人は他の部屋に遊びに行っているらしい。

 

「邪魔するぞ」

「あやー、千雨ちゃんやー」

「ああ。おい、神楽坂。聞きたいことがある。ネギは‥」

「ね、ネギがどうかした?」

「‥お前、昼間になにがあったか知ってるな?」

「え゙」

「おいそこの逃げようとしている半デコ剣士。てめーもだ」

「そ、そのですね‥‥。ていうか、何故長谷川さんもそのことを?」

「ネギから電話があったんだよ。すぐに切られたから事情がわからん」

「あ、そういうことですか‥」

「うーん、仕方ないか‥」

 

明日菜が渋々と話し始める。

聞き終わるとなるほど、確かにおいそれと他人に話すような内容ではなかった。

 

「‥宮崎がねー‥。わかりやすくはあったけどさ、まさか告白まで行くとはな‥‥まだ出会って半年も経ってねーぞあの二人」

「カモは当然だぜ、みたいなこと言ってたけど‥」

「当然、ね‥。‥それでネギが逃げたのは‥‥」

「どうやら本人の中で気掛かりなことが増えすぎてしまっているようで‥」

「親書、近衛の護衛、関西呪術協会、そして宮崎の告白‥。確かに10歳のガキには荷が重くなってるな」

「どうにかしてあげたいけど、のどかちゃんのことはネギ本人の問題だからね‥どうしようもないのよ」

「なんだ、恋愛ごとに関しては物分かりがいいじゃねえか。高畑のヤローに横恋慕しようとしてるだけはあるな」

「横恋慕ってあんたねえ!!‥‥‥待って、高畑先生にその、お相手が‥」

 

待ってちょっと待ってよねえ、としつこく声をかけてくる明日菜を無視して、考えに耽る千雨。

ちなみに刹那は木乃香に捕まっている。

 

千雨は別にネギが好きというわけではない。

千雨にとってのネギは、英雄の、そしてマスターの息子。

庇護すべき対象。

将来が楽しみな少年。

また、英雄の卵。

 

ただひたむきに歩く、魔法使いの少年。

好印象といえば好印象だ。

 

恋愛対象になるかと言われれば恐らくなりはする。

千雨に一番近い恋愛対象の異性は間違いなくネギだ。

そこは和美の言う通りだったということだ。

 

だが、まだ10歳。

そして、かつてのマスターの子供。

憧れた女性の息子。

 

どことなく出てくる根拠のない背徳感が、千雨の感情に蓋をする。

 

「‥ネギが好き、か」

「へ?」

「いや、独り言。そういえば宮崎はどうなんだ、告白した側は」

「うーん、めちゃくちゃ緊張してたし恥ずかしがってたけど‥‥告白する時は立派だったわよ」

「どこから目線だお前は。キスしたことある奴は余裕があるな」

「は、はあ!!?何であんたそんなこと知ってんのよー!!」

「だって、ネギと仮契約するところ見てたしな」

「あ‥‥そっか。じゃなくて!!大体、き、キスしたならあんたもそうでしょ!?カモが言ってたわよ、仮契約にはキスが必要なんだって!!あんたもあの仮契約(パクティオー)カード持ってんの知ってるんだからね!?」

「‥‥仮契約ってキス以外にもやり方あるの知らないのか?」

「へ?」

 

千雨はナギとキスなどしていない。

それに難色を示したのはラカンもそうだったが、それよりもナギの妻だ。

彼女は幼い女の子をわざわざ毒牙にかけなくとも良い、と言っていたらしい。

ラカンに関しては珍しく苦い顔をしていた、と親しいヘラス人は言っていた。

単に娘と自分の友人が‥‥という話ではなく、嫌な事実が出来上がってしまうのじゃろうとは友人談。

何となく千雨も想像がつくがそこまで考えたら千雨は気持ち悪さで吐いてしまうだろう。

 

完全に余談だが、千雨は腐ってはいないがそういう世界の理解はある。

 

「カモだろう、お前らの仮契約を執り行ったのは。キスが一番手っ取り早くはあるからな。あの時は緊急事態だったってこともあるし‥」

「うううう、なんかショック‥‥私のファーストキスが。ていうかやっぱり、エヴァンジェリンと戦ってる時に見てたのね?千雨ちゃん‥」

「じゃねーとあんなにタイミング良く出て行かねーよ。あと、そろそろ近衛に聞かれないように声量落とせよ‥」

「大丈夫よ、あの二人昼間からあんな感じだし」

 

二人して木乃香と刹那の方を見るが、確かに二人はべったりだ。

というより、木乃香が刹那を離そうとしない。

刹那は刹那で木乃香を振り解けていない。

刹那は時々こちらを恥ずかしそうに見ている。

 

「‥助けてほしいけど今この時が続くのは至福‥けれど護衛としての使命を果たすには‥みたいな顔をし続けているな」

「うん、放ってあげましょ」

「宮崎もあれくらい積極的ならネギだって応えてくれるかもしれねーのにな。アイツどうせ返事とかしてねーだろ」

「そうだけど、本屋ちゃんが返事はしなくていいって自分から言ってたわよ?」

「‥さっさとケリ着けてほしいが、まあ無理だろうな。悩みながら歩いていくしかないわけだ」

「悩みながら‥?めんどくさそーね」

「お前は悩みなんて無縁そうだから関係のない話だよ」

「私さっきからバカにされてない?」

 

う〜、と唸る明日菜。

キスやら告白やら、自分の周りが妙にピンク色になってきていると実感する千雨。

今でも目の前にいわゆるラブ臭(パル直伝)がしている。

本人たちにその気はないかもしれないが。

 

千雨も感化されているわけではないが、ネギには真っ直ぐ歩いてほしいと思う反面、女の子たちとキチンと向き合ってほしいとは思う。

先程は委員長たちから逃げてしまっていた。

アレは仕方のないことかもしれないが、のどかは正面から想いを告げた。

それに対し、ネギはどういう答えを出すのか。

 

「‥にしても、父親に似てやっぱり女たらしになりそうだなアイツ」

「ネギの父親‥ナギって人だっけ?女たらしだったの?」

「本人にその気はないんだけどよ。あの顔で出鱈目につえーからな。魔法世界にはファンクラブがあるくらいだ、しかも世界規模の」

「世界規模!?アイドル‥じゃないわよね?」

「いねーよそんな奴、向こうの世界には」

 

どちらかというと千雨の方がアイドルだっただろう。

実際に、千雨もファンクラブが存在する。

華々しく活躍する美少女(?)剣闘士として、だ。

世界規模ではなかったが騒がれ方は狂乱的だった。

 

黒歴史を思い出して身悶えるのを必死に堪える千雨を、奇妙な動きをしてるわね、と不安そうに見つめる明日菜。

そんな二人とまだくっついている二人がいる部屋に大きな泣き声が届く。

 

千雨も刹那もすぐにピタリと動きが止まり、臨戦態勢に入る。

明日菜たちも何事だ、と廊下に出ようとしていた。

 

「‥桜咲!」

「はい!私はお嬢様とここに!」

「よし。神楽坂、行くぞ!」

「ち、千雨ちゃん!今の声って‥」

「ネギだ!何かあったのかもしれねえ!」

「うん!!」

 

すぐに部屋を飛び出し、騒ぎの中心となっていた風呂場へと駆け込む明日菜と千雨。

千雨たちと同様に様子を見に行こうとしていた委員長たちと風呂場前で合流し、すぐさま大浴場へと突入する。

 

‥‥が、千雨の心配は杞憂に終わる。

 

風呂場にいたのは、裸のネギと和美だったからだ。

 

「‥なんだ、なにもねえじゃねえか」

「何が何もないのですか!?目の前に事件があるでしょう!!」

「‥まあ、確かに年端も行かない少年に女が襲い掛かってるようにしか見えないけどよ。一応生徒と教師だし‥。‥裸のネギと‥‥‥朝倉‥‥‥あれ、もしかしてダメなのかアレ」

「あの、千雨ちゃん?混乱してるわよ、絶対おかしいって」

「へ?」

 

ダメだ、役に立たない。

珍しく明日菜が千雨に持った感想である。

千雨の予想を270度翻った光景は、千雨の脳内をかき乱すのに十分だったということだ。

明日菜がネギを脱衣所へ押し込み、和美は委員長たちによって説教(物理)されてことなきを得た。

 

千雨も落ち着いた夕食後。

事情をネギから聞くと、なんと和美に魔法がバレたらしい。

明日菜と刹那はこれはダメだな、という風に他人事のように考えたが、千雨は違った。

 

「じゃあ今すぐ記憶消去の魔法かけてこいよ。使えるだろ?」

「ええっ!!‥や、やっぱりそうしなきゃいけないでしょうか‥」

旧世界(ウェテレース)だとそうするべきって話を聞いてるけどな?」

「‥そういえば、ネギと初めて会った日も、ネギが記憶消去の魔法をかけてこようとしたわね」

「え‥神楽坂さん、なぜそのことを覚えているのですか?」

「よくわかんないけど魔法失敗したみたいよ?‥おかげで恥ずかしい思いをさせられたけどね!!」

「あうう〜‥」

 

ネギは涙目で明日菜にたじろぐ。

明日菜にかけられた忘却の魔法が失敗したのは、もちろん明日菜の魔法無効化能力のせいだ。

これはネギの未熟さによるものではない。

そんなことはおくびにも出さない千雨だが。

 

「早くかけてこい。じゃねーと消さなきゃいけない記憶がどんどん増えるぞ」

「? 増えるって‥どういうこと?」

「単純な話だ。魔法に関わる記憶を消そうとすると、魔法を知ってから考えた思考や行動の記憶まで消す必要が出てくる。時間が経てば経つほど、それらの記憶も増える。魔法を知られたらさっさと他の事を省みる暇もなく忘却させろっていうのが魔法使いたちの常識なのはそういうわけだ」

「それって‥!」

「そうです。早く消してあげないと、その人の空白の時間が多くなり過ぎてしまう。気づけば1日経っていた、その間の記憶はないという処置で済めばまだ良い方なんですよ」

「ま、まずいじゃない!‥‥まずい、けど‥」

「‥‥僕、は‥」

「‥」

 

ネギの考えていることはわかる。

和美の記憶を消したくないんだろう。

更に言うと、自分の教え子相手に後ろめたい事をしたくないのだ。

初日はまだ良かった。

まだ知り合って間もなかったから。

だが、半年の間にネギは教え子たちを好きになっているのだ。

元々の良心も相まって、ネギには忘却の魔法の使用なんて出来そうにもない。

 

「‥‥わかった。わたしが消してきてやる」

「ええ!?」

「長谷川さん、魔法を使えるんですか?」

「戦闘用以外の魔法はあんちょこ見ながら、なんとかな。あまり上手くはないし、ネギも自分のケツは自分で拭くべきだが‥‥。‥‥この見習い魔法使いの修行は、簡単に見えてその実残酷なのかもしれねーな」

 

すくっと立ち上がった千雨。

良い気分ではなかった。

だが、和美の安全とネギの今後を考えたら放置して良くないに決まっている。

やり方は簡単だ。

 

(朝倉に適当に当て身して、人気のないところへ連れ込んでゆっくり魔法を使えば良い。丁寧にやれば失敗なんてしねーだろ、初めて使う魔法だけど)

 

そうと決まれば、と動き出そうとした千雨。

だが、浴衣の袖が動かない。

ちらと見ると、幼い手がしっかりと千雨の浴衣の袖を掴んでいた。

 

「‥‥あのな。お前、じゃあどうするんだよ?」

「‥せ、説得します」

「説得って‥‥三度の飯よりもスクープが好きとか言う変人だぞ?アイツ」

「折れてくれるまで説得します」

「‥気持ちはわかるけどよ。でも、朝倉が折れるかどうかわかんねえだろ?」

「‥!」

 

下を向いていた顔を上げる。

先ほどまでえんえんと泣いていた子供の顔などではない。

視線を真っ直ぐと千雨に合わせ、逸らさない。

ふるふると震えていた身体も今はピタリと止まって立っていた。

子供の顔だが、凛々しく整った良い顔だ。

 

「僕は、朝倉さんの先生です!先生として、生徒にイヤなことは出来ません!先生として、一人の魔法使いとして!朝倉さんを説得してみせます!」

「‥」

 

「‥なんかコイツ、最近先生っぽくなってきたなって顔ね」

「おい、人の心を読むんじゃねーよお前は」

「わかりやすかったわよ。ねえ?」

「え、ええ。お二人の関係性が分かった気がしました‥」

「‥ふん。‥ネギ」

「は、はい」

「‥‥どうやら向こうから来てくれたみたいだぜ」

「へ?」

 

千雨の言葉に、ネギたちが振り向く。

そこには、カモを肩に乗せた和美が歩いてきていた。

 

「おーい、ネギ先生ー」

「ここにいたか兄貴ー♪」

「‥なんか、余計なのがついてるな」

「あ、朝倉さん!」

「ちょっと朝倉、あんまり子供イジメんじゃないわよー」

「イジメ?何言ってんのよ、てゆーかあんたの方がガキ嫌いなんじゃなかったっけ?」

「え、そうなんですか?」

「うーん、ちょっとね‥」

 

刹那の純粋な疑問に明日菜は答えにくそうだ。

確か五月蝿いからなんとかと言っていた気がする。

 

「そうそう、このブンヤの姉さんは俺らの味方なんだぜ」

「お前、話をややこしくしてねーだろーな」

「ふふふ、寧ろ仕事をしたんだよ‥」

「‥仕事?」

「み、味方って‥?」

 

キョトンとした顔のネギに、怪訝な顔の千雨。

正直なところ、カモが絡んで良い結果になったとは思えないと千雨。

だが、次の朝倉の言葉に驚く。

 

「報道部突撃班朝倉和美。カモっちの熱意にほだされて‥‥ネギ先生の秘密を守るエージェントとして協力していくことにしたよ、よろしくね♡」

「へ‥」

「え‥‥え〜〜!?本当ですか!?」

 

さっきの決意に満ちた顔はどこへやら、ネギは喜色満面だ。

朝倉から証拠写真とやらも渡されて、問題が一つ減ったと嬉し泣きしている。

 

(せっかく少し成長してくれたと思ったのによ‥)

 

仕方がないと言えば仕方がないが。

とりあえずほんの少しは精神的に男らしくなったと思おう。

ただ。

 

「‥んで、何を交換条件に飲んでくれたんだ?」

「へ?」

「ああ、わかる?今後のネギ先生たちの情報は全てこちらに入ってきて、それを独占できるってことになったわ」

「‥たち?」

「千雨ちゃんもそうらしいねー」

「おい」

「ひぃっ!?」

 

脱兎の如く逃げ出したカモを、瞬動で踏みつける千雨。

潰れないような足加減がミソだ。

 

「なーにを勝手に決めてくれてんだてめーは!煮物にして食うぞてめぇ!!」

「おおおおお助けぇ!」

「これじゃわたしがネギに助け舟を出したのと大してかわんねーだろうが!!」

「え、そこなの‥?」

「まあまあ、口外はしないからさ♡ここは一つ穏便にいこうよー」

「くそっ、なんか損した気分だ‥‥。おい朝倉、余計なことするなよ!?力もない一般人にうろちょろされるとわたしたちどころか敵にすら迷惑がられるぞ!!」

「‥敵?なんかあるの?」

「お前そこは話せよわたしのことまで言ってんなら!!」

「ぎゃああああ!!すんません!!すんませんんんー!!」

 

これは千雨とカモの連携ミスといったところか。

カモはまだ関西呪術協会については和美に話していなかったのだ。

カモが独断先行している為連携もクソもないし、本当にネギたちについてくる気ならそのうち話さなければいけないことだったが、一般人が戦いに入ってきてしまうとそれを庇わなければならなくなる。

 

(朝倉には戦いの時は一般人のフリをしてもらって、後で情報を話すように約束づけておかないとな‥)

 

刹那ですら溜息をついてしまっているが、途中で委員長たちが来てしまった為に話を中断。

明日菜と刹那はパトロールに、和美とカモは二人して妙な笑いをしてどこかへ。

千雨は部屋に戻る前に、ネギと共に教師部屋に向かっていた。

 

「あの‥千雨さん?どうして部屋に‥」

「近衛の周りには今生徒が沢山いる。とりあえずは大丈夫だろ。明日、関西呪術協会本山に行くんだろ?ちょっとその時のことをな‥」

「は、はい」

 

「む。長谷川」

「あ、新田先生」

(わわわ!新田先生だ、どうしよう‥)

 

先程も生徒たちが新田先生に叱られたばかりだった、と思い返すネギ。

新田先生は麻帆良学園女子中等部三年の学年主任だ。

最も手を煩わされるであろう3-Aがいる旅館に来たのも、学年主任の責務と自覚してのことらしい。

夜の時間帯に、生徒である千雨が廊下をうろついているのはまずいことなのではないか。

だが。

 

「こんばんは、ちょっとネギ先生に相談がありまして。ね?」

「え、あ、はい。そ、そうなんです‥」

「なんだ、そうだったか。偉いですぞ先生、生徒の細かな悩みでも悩みは悩み。真摯に立ち向かい、共に乗り越えるのです」

「! 悩み‥‥は、はい!」

「では」

「うむ。あまり遅くなるんじゃないぞ」

 

ネギに何か思い当たる節があったのか。

大方、のどかのことだろうと当たりをつける。

このタイミングで生徒の悩みと言ったらそれくらいしか思いつかない。

考え込むネギを尻目に、新田先生に会釈をして、スタスタと立ち去る千雨。

ネギも慌てて礼をし、千雨を追う。

ちらりと老齢の教師を振り向くが、怪しむ様子などなく歩き去ってしまう。

 

「‥意外か?」

「え‥」

「あの人はただ厳格なだけさ。‥まあ、うちのガキンチョどもがめちゃくちゃ騒がしい部類に入るのも間違いないけどな‥」

「そ、そうかもしれませんね‥」

 

教師部屋に着き、二人して座布団に座る。

お茶を飲んで一息ついているネギを見て、千雨は感慨に耽る。

 

(‥遂にここまで来たんだな)

 

明日、総本山へ向かう。

関西呪術協会という名は聞いたことがなかったが、修学旅行出発前にエヴァンジェリンと話して確信を持った。

関西呪術協会には恐らく詠春がいる。

戦いの後にジャパンのキョウトに行くと言っていた。

いなくとも、神鳴流剣士として、ある程度のつながりがあるんだろう。

本山に行けば、なにかしらの接触があるはずだ。

 

「‥ネギ。明日の確認だ。わたしは明日の本山にはついていけない」

「は、はい。いいんちょさん達の三班は、自由行動で映画村に行くと‥」

「ああ。一応約束もしちまったしな‥いざとなれば動ける方法もなくはないが。なら、それも役立たせれば良い。桜咲に近衛を連れて映画村へ来て貰えば、わたしも護衛に加われる」

「その間に僕は、アスナさんと一緒に関西呪術協会の総本山へ向かいます」

「ああ。しっかり親書を届けてこい。連絡手段は携帯でな」

「はい!」

 

さて、と区切りをつける。

ここからが本題だ。

 

「‥ネギ。総本山に行く時だが‥」

「また、妨害が入るかもしれないってことですよね‥‥」

「‥それもあるが、ちょっと違う。総本山に行った後だ」

「行った後?」

「‥詠春って人がいるはずだ。その人に会ったら、詳しく話を聞け」

「話って‥なにをですか?」

「‥‥お前の父親の話だ。エヴァンジェリンから聞いていただろ?お前の親父の家があるって」

「あ‥」

 

どうやら忘れていたらしい。

修学旅行に来てからネギはずっと働きっぱなしだ。

無理もない。

 

「お前の親父の足跡を辿れ。その為にも京都に来たんだろ」

「そ、そうです!」

「よし。あと、詠春さんにまた後日会いに行くって言っておいてくれ」

「お、お知り合いなんですか?」

「まあな。できれば会って確かめたいことがあるんだけど‥しゃあねえからな。せっかく日本に来たんだし、時間はある。ああ、それと」

「はい?」

「“二世が会いに行く”って、これだけで良いよ」

「にせい?」

 

にせいとは何のことかと首を傾げるネギだが、とりあえず了承しておく。

うん、と頷く千雨。

更に続けて言葉を発する。

 

「‥ナギに近づけるのは間違い無い。だが、ナギに近づくにはそれ相応の危険があることを知っておけ」

「危険って‥父さんは、何か危ないことに巻き込まれたんですか!?」

「そこも含めて詠春さんに聞いてこい。詠春さんに教えられたこと以上のことはお前に教えてやれねえ。それがお前の親父の仲間たちの間での取り決めだ」

「!? ど、どうして父さんの仲間が、僕と関わりが‥!?」

「多分そこは聞けると思うぜ。お前はお前の足で、ナギに近づいているからな」

 

あたふたし始めたネギ。

こういうところだけ見ると本当に子供にしか見えない。

だが、先ほどの男らしい顔。

木乃香を取り返す時は先頭に立って猿女に立ち向かったと聞いた。

一人前の魔法使いまであと少しだ。

 

「‥ネギ。忘れてたけど、宮崎の件もちゃんと考えとけよ」

「!!」

「早めに答えを出せとは言わねえよ。イエスでもノーでも、そのどちらでもない答えでも」

「はいかいいえ以外の答え‥ですか?そんなのがあるんですか!?」

「ちゃんと真摯に、そして紳士的に考えたら思いつく筈だぜ?それにこういうことには慣れておいた方がいい。お前はモテるらしいからな」

「も、モテる!?だ、誰がそんなことを!?」

「朝倉。信憑性ありそうだろ」

「ううっ、たしかに‥」

 

何せ魔法使いの秘密を暴かれた直後だ。

一般のクラスメイトだが、明らかに情報に関してはその扱いが卓越している。

 

「で、でもそんな相手いませんよ。のどかさんはともかく‥」

「‥気付いてないのか。あの金色の溢れすぎてる愛に‥」

「へ?」

「いや。‥それに、身近なところに相手がいるかもしれないぜ?」

「え‥」

 

身近なところ。

真っ先に思いついたのは明日菜だ。

ネギが麻帆良に来てから顔を見ない日はないし、エヴァンジェリン戦の時もずっと助けてくれた。

姉のような存在になっている。

少し乱暴者だし、喧嘩もするが‥。

 

あとは?

他には、最近になっていつでもそばにいる‥。

 

「‥‥ネギ?」

「え!!?」

「うわ、なんだお前」

「なななななんでもありませぇん!!」

「‥そうか?まあいいや。わたしは寝る。お前も見回りに行くなら早いうちに行って、おかしなところがないかだけ確かめとけ。その間の近衛の守りは任せろ」

「は、はい。ありがとうございます、千雨さん‥」

 

顔が真っ赤になったネギを置いて、部屋を出る千雨。

あの顔。

千雨が覗くともっと赤くなっていた。

まさか、と思う千雨。

それとも、異性に免疫がないだけか。

 

「‥4月も終わるってのに、暑いな‥」

 

千雨は鏡を見なくて幸運だったと言えるだろう。

今鏡を見て自分の顔を確認すると、きっと千雨は気付いてしまう。

そんな感情を、持てるはずもないのに。

相手は、主人(マスター)の息子なのだ。

 

「‥あり得るはずがない、そんなこと‥さ」

「見つけましたわよ千雨さん!!!」

 

熱が冷めてきた、と千雨たち三班の部屋に入ろうとした矢先にかけられた言葉。

何事だと振り向くと、浴衣姿の委員長が枕を4つも持って仁王立ちしていた。

 

「‥委員長‥‥なんだ?てゆーかわたしもう寝たいんだけど。‥おい村上、なんでわたしを押しやるんだ」

「え、えへへー」

「おい部屋に入れろ。嫌な予感がひしひしとしてきた。那波‥ザジてめーピエロ野郎」

「あらあらうふふ」

「‥」

「あらあらうふふとか声に出すなええい押すな!わかった!!話聞くからとりあえず部屋に」

「“ネギ先生とラブラブキッス大作戦♡”ですわ!!いきますわよ、千雨さん!!!」

「‥‥勘弁してくれ」

 

修学旅行二日目の夜。

仁義なき女の戦いが始まる。




さーて、次回はお楽しみ回です(多分。
今回で二日目終わる予定だったんですけどねー。
その分三日目四日目がスムーズに行くように練られた筈。
修学旅行編はあと5,6話続く予定です。
長いって?
元々の物語が完成度高すぎるんですよ無理ゲーです。
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