なんか期間が空きましたね。
一ヶ月?
カシオペアでも使ったのかな?
‥‥ごめんなさいすぐに次の話投稿する予定なんで許してください。
目が覚めた。
手には得たばかりのカード。
すぐに使い方を知りたい、と人を探す。
探し求めた人は、今も尚見つかっていない。
********************
「‥あの、千雨ちゃん?」
「‥‥なんだよ」
「その‥‥そいつ、離してあげたら?」
ラブラブキッスイベントから一夜明けた修学旅行三日目。
旅館内の休憩コーナーに集まっているネギたち。
集まっているのは5人と1匹。
ネギ、カモ、明日菜、刹那、千雨の3-A
そしてそれに加わった(?)ジャーナリスト朝倉和美。
その中でも、カモから手渡された一枚のカードを弄びながら、千雨は不機嫌そうな顔を明日菜に見せていた。
ちなみに、そのカモは千雨の他方の手に掴まれて瀕死である。
「‥あ、あの‥姐さん」
「あ?」
「‥その‥ですね‥。‥か、勝手に契約して‥その‥」
「‥‥いや、それはもう良い。どうせ契約はするって話になったしな‥」
「え?じゃ、じゃあなんでキス‥‥」
「テメー挽肉にしてやろうか?」
「お命だけは勘弁してくんなせぇ」
即座に頭を下げるカモ。
自分の保身に対して余念がない。
今のカモの状況を鑑みると当然かもしれないが。
手に掴まれながらなんとか体を曲げて土下座しようとするという何とも奇妙な体勢だ。
舌打ちしてチラリとカードを見て、まあ良いかと天を仰ぐ千雨。
してしまったものは仕方がない。
何より流れ的にはまあなんというか悪くなかったんじゃないか、と寧ろ自分を納得させる方向で思考を図る。
そうでもしないとやってられないしネギと目を合わせられない。
今朝方の朝食で、ネギが近くに来た時は動揺したのか思わず持っていた味噌汁をぶちまけかけた。
同様にネギもご飯をひっくり返しかけた。
付け加えると味噌汁もご飯も千雨がお椀をすぐに掴んで中身を全て空中で拾った。
拍手が起きた。
「それよりも‥‥本屋のことだな。カードは渡しちまったんだな?」
「あ、あぁ。コピーカードの方を‥景品として」
「や、やっぱりまずいわよね?」
「うーん。敵方‥関西呪術協会に限らず、学園の連中にも魔法関係者だって思われちまう可能性があるが‥本屋がアーティファクトを使わなきゃ問題は起きねえはずだ」
「え‥‥魔法関係者ってバレたら何かあるの?本屋ちゃんが関わってなくても?」
「多分な。普通の一般生徒なら一般人と同様に魔法は秘匿されるだけだ。けど、アーティファクト持ちだとな、本人にその気があるにしろないにしろ、戦力として見られる。敵からは先に封じておこうと思われてもおかしくはないし‥味方からも戦力のアテにされても変じゃねえ」
「確かに‥有り得ます。特にアーティファクトは多種多様な能力があり‥中には伝説級と呼ばれるものまであります」
千雨の義父であり師匠でもあるラカンも、伝説級のアーティファクトを持っている。
本人は使い道があまりないと笑っていたが。
更にいうと、明日菜の持っているアーティファクトが一番強力な気がするんだよな、と明日菜を見る。
ネギをのどかとの契約についてなにやってんのよと睨みつけている明日菜。
本人に自覚は一切なさそうだ。
刹那の説明を受けて、明日菜は自分の心配よりものどかの心配に走る。
「いくら強力って言ったって‥封じるとか、そこまでするもんなの!?魔法使いって!!」
「それはそいつらの本気度合いや用心深さによるだろ。わたしならやる」
「私も‥強大な敵がいて、封じられるなら尽力しますね」
「‥‥ほ、本屋ちゃんからカード取ってきた方が良いかな?」
「いや、そこまではしなくていいぜ。何せあのカード、使い方を知らなきゃただの綺麗なカードだ。恋する乙女にはなかなか嬉しいアイテムなんじゃねーの?好きな人とキスしたら自分の絵が入った鮮やかな装飾が入ったカードが来たからな」
「うんうん、確かに!木乃香とかすごい欲しそうにしてたよねー」
「おいコラ。テメーもこのエロガモの共犯なんだからな。忘れてんなよ」
「ハハハ、わかってるって」
軽く笑う和美は土下座したままだが、表情は明るい。
(ジャーナリストってのは情報得られるならそれでいーのかおい。テメーも結構危ない位置にいるかも知れねえ‥って言っても無駄か)
「それに宮崎のアーティファクトがそれほど強力かなんてわかんねーしな。検証もやる必要ねーよ、やったら証拠が残る。使い方教えなきゃいいんだ、そっとしとけ」
「そうかい?あのカード強力そうだったけどなー」
「じゃあ尚更やめとけ‥」
「あ、そういえば私もカードの使い方知らない‥」
「ん?一昨日ネギにはカモが説明してたけど‥お前はまだか。‥カモミール」
「おう!」
明日菜に向かってトテテと向き直るカモ。
先ほどまで半死だったのが嘘のようだ。
アーティファクトといえば、と昨日新たに手に入れた
ネギと自分との仮契約だ、おそらくアーティファクトは出る。
出るのだが‥。
「‥やっぱり確かめなきゃダメか。‥‥
眩い光と共に、千雨の手に魔法具が現れる。
光が収まった時、千雨の手にはニチアサに出てきそうな幼稚なステッキが収まっていた。
「おおー‥魔法っぽい!カモっちがタバコ捨ててきゃるんっみたいな顔して千雨ちゃんの肩に乗ったらマジで魔法少女に見えるかも」
「こんなエロオヤジを肩に乗せるとかありえねーだろ」
「ひでえ!酷すぎて‥あれ?前が‥。お、俺っち妖精だよな、兄貴」
「う、うん」
「‥‥で、なんだこれ」
「それが、ネギ先生とのアーティファクトですか?」
「力の王笏?っていうのか。‥見たことねえぞこんなアーティファクト。ビブリオンの新アイテムか?」
「び、ビブリオン?」
「いや、なんでもね。それと朝倉、写真は撮るなよ」
「ええー」
流石に刹那には通じなかった。
それはさておき、マジマジとステッキを観察する千雨。
今まで見てきたアーティファクトのどれにも類似しない、ポップなデザインのステッキだ。
ステッキというよりワンドに近いかもしれない。
「‥なんか、アーティファクト協会が所有してるものとは明らかに違うな。どっちかっていうと今の日本っぽい。これ作ったの誰だ?」
「誰だって、そんなことがわかるのですか?」
「全部わかるわけじゃねーよ。アーティファクトは昔見つかった所有権のない魔法具が大半だしな。ただ、ここまで現代的な造りだと多分作られたのは最近なんだろ。後でアーティファクト協会に問い合わせて使い方とか見るさ」
謎のステッキ———力の王笏———をカードに戻し、懐にしまう。
見た感じ後方支援系か強化系だろう。
あまり戦闘に使えるカードではないのかもしれない。
少し残念に思ったが、それでも何かしらの足しになることを期待する千雨。
この千雨の認識は、後々大きな間違いであったと改めるのはまた別の話。
「アーティファクト協会‥ですか?」
「もちろんまほネットを使う。それだけの為に魔法世界に戻るとかアホくせーだろ」
「まほネット‥‥?」
「‥ネギ、パソコンってわかるか?」
「あ、はい。何度か見たことはありますけど‥使い方まではちょっと」
「‥今度教えてやるよ」
魔法使いも情報をデータ化してやり取りできる日々が進んでいるのだ。
それに乗らない手はない。
まだ10歳のネギだが、どうせすぐに使えるようになるだろう。
子供の吸収は早く、何よりネギ自身が勉強が好きそうだ。
「それで?今日は親書を届けにいくんだよな?」
「はい。僕とアスナさんで行きます」
「悪いが、昨日言った通り私はついていかないぜ。いいな?」
「はい!しっかり届けてきます!」
「一昨日は親書を無視して近衛を狙ってきたからな‥‥たぶん近衛の方が優先度が高いとは思うが、親書を届ける任務に邪魔が入るならもう今日しかねえ」
「関西呪術協会の本山に行く前に、邪魔が入る可能性が高いってことですよね‥」
「しかし敵の人数はさほど多くはないはず。今まで姿を見せたのはたったの2人です。これ以上増えるとしても5人程度かと」
「こっちも戦力的には‥ネギと神楽坂を含めると4人しかいねえ。わたしは基本揉め事が起きてから手を出すよう話がついてるしな、初期戦力は3人だ。わたしは予備か何かだと思え」
「お互いの戦力を考えると二手に分けられる数ですね‥。用心しておいてください、ネギ先生」
「は、はい」
ネギがごくりと唾を飲み込みながらも、ゆっくり自分の足で立って明日菜とカモのそばに寄る。
横目でその様子を見ながら、千雨に声をかける刹那。
「長谷川さん。三班はシネマ村に‥」
「ああ。お前も近衛を連れてさっさとこっちに来たほうがいい。いざって時にわたしが動きやすいからな。もしかしたら図書館組の三人も近衛と行動を共にするかもしれないが‥その時は面倒を見てやるからよ」
「はい。では、後ほど」
「何もなければそれでいいんだけどな‥」
刹那も沈痛な顔持ちで頷き、木乃香を迎えにその場を離れる。
千雨も和美に一声かけ、三班の集合場所に向かい始めた。
何もなければ、と自分に言い聞かせるように言った千雨だが、また確実に月詠と戦うことになるだろうとどこか確信めいていた。
********************
「貸衣装って‥なんでそんなもの着るんだ?」
「まあまあ、雰囲気を楽しもうよ雰囲気を」
「ホホホ、千雨さんの衣装は私が見立てますわ」
「‥なるべく動きやすそうなので頼む」
「本当にいいんちょに弱いねちうちゃん」
「その呼び方はやめろ‥」
シネマ村。
古い建物が多い京都の中でも、また一つ昔の時代の村を現したアミューズメントパークだ。
こちらは古くなってしまった京の街並みとは違い、わざと古く見せているからだが。
ここでは、貸衣装を着てシネマ村の住人になったかのような気分を味わえる。
主に江戸から明治にかけての服装がメインのようだ。
甲冑もあれば明治初期の洋装もある。
3-Aのおっとりお姉さんである千鶴も洋装を選んだようで、るんるんとシルクハットも手にとって更衣室へ歩いていった。
反対に修学旅行でもピエロメイクを欠かさないザジ・レイニーデイはお殿様の格好である。
ザジは麻帆良サークルのナイトメア・サーカス所属なのでピエロをやるのはおかしくないのだがなぜ今もメイクをしている必要があるのか、と疑問が過ぎる。
クラスきっての不思議ちゃんだからな、と千雨もツッコミはしないしツッコンだところでロクな答えが返ってこないだろう。
そんな千雨だが、今は委員長に服を取っ替え引っ替えされつつ合わせられている真っ最中だ。
早く終われ、と軽く現実逃避していた。
「ではこちらなどはいかがでしょう。商家の娘という‥」
「いや、そんな煌びやかなのはだな‥」
「ではこちらは‥」
「まんまサムライじゃねーか目立つぞこれ」
「ならばいっそ大殿の娘ですわ!」
「酷くなってる事に気づけ!!」
委員長を着付けの係員に押しつけ、千雨自身は町娘の貸衣装を手に取る。
簡単な紺の着物一枚だけだ。
他の班員に比べて早々に着替え終わり、すぐに店を出る千雨。
携帯を取り出して確認するが新着メッセージも着信もない。
遅い。
「‥何かあったな」
本山に向かっているネギたちはともかく刹那からも連絡が来ないとは。
そもそもネギたちももう本山に着いていてもおかしくないくらい時間が経っている。
せめて木乃香と一緒にいる筈の刹那とは連絡を取りたい。
「‥‥仕方ねえな」
携帯電話を操作し、操作方法を思い出しながら通話のボタンを押す千雨。
自分から電話をかけるのは初めてだった。
電話帳に登録されているのはたったの4人、と確認していたが昨日の昼間にどさくさに紛れて超に勝手に登録された為、5件の連絡先が登録されていた。
「桜咲‥‥これか」
電話をかけながら、いつのまにか着替えを終えて店から出てきていたザジがすぐ横に控えている事に気が付いたが、携帯電話を耳に当てているところを見せるとすぐに店の前に戻っていった。
ピエロメイクのお殿様という凄まじいアンバランスさだが、ギャップというものか中々似合っている。
無表情なのが良いのかもしれない。
『あ、千雨さん!?』
「も、もしもし‥か?」
『へ?』
「いや、なんでもねえ。おい、お前今どこにいるんだ?」
『今そちらに向かっています!同行者はお嬢様と早乙女さん、綾瀬さんです!』
「? 宮崎はどうした」
『み、宮崎さんはその‥‥ネギ先生たちと一緒に』
「はあ!!?」
何がどうしたら関西呪術協会の本部に向かっているネギたちにのどかが着いていくのか。
思わず頭を抱えそうになるが、なんとか誤魔化してもらうしかない。
「‥いや、もう手遅れか‥?」
『ご、ごめんなさい。その‥‥アーティファクトを使ってました』
「アーティファクトって‥どういうことだ?」
『は、はい。‥』
********************
「つまり、ネギと神楽坂が敵の結界にハマって‥‥それについてきてた宮崎が巻き込まれたってことか?」
『敵は獣人の少年一人と式神を一体。宮崎さんの協力でなんとか抜け出せた様です。追撃の可能性は低いかと』
「もう突っ込むところしかねえが‥とりあえずネギたちは無事なんだな?」
『はい。今は敵を振り切って安全なところで休んでます』
「あーあー、もういいぜそれで」
面倒ごとは知らんと言いたげな千雨に、刹那は少し同情する。
昨夜契約したばかりのマスターが、翌日にアーティファクトを持っているとはいえ無自覚だった一般人に魔法がバレたのだ。
しかも2日連続で2人。
溜息をつきたくもなるだろう。
魔法使いと従者は基本的に
「それでそっちはどうなんだ。‥‥なんで走ってるんだ?」
『敵の攻撃に遭っています』
「‥簡潔に説明してるが、どこにいるんだお前」
『シネマ村から離れて1km付近と言ったところです』
街中で攻撃されている、と少し息が早い刹那の返事。
だが、一般人を巻き込むような攻撃を受けているわけではないらしい。
「‥わかった。今からそっちにいく」
『お願いします!』
「‥‥これはどうやって切りゃいいんだ?」
『へ?』
「ここ押すんだよ」
「ああそうか、電源切るとこが電話切るとこか‥‥っておい朝倉てめー」
指先のボタンを言われるがまま押してから、いつの間にか後ろにいた和美を睨みつける。
和美も動きやすそうな和装だ。
「んでどうしたの?」
「あ?ただの電話だよ」
「そう?千雨ちゃんが電話とか珍しいじゃん。何かあったんでしょ?」
「‥あったとして、お前には‥‥‥。‥まさか」
「昨日の話、忘れてないよね?」
にひっと笑いながらメモ帳とカメラを取り出す和美。
間違いなく首を突っ込む気だ。
ネギの秘密を守る、又はネギたちに協力する。
その見返りにネギたちに入る情報は和美にも伝える。
千雨のジト目が和美を目の上のたんこぶだと語っているが、和美は気づかないフリをしたままニコニコと笑みを浮かべているだけだ。
和美どころか貸衣装屋まで離れたザジにも聞こえるくらい大きな舌打ちをしつつ、千雨は和美に向き直る。
「‥いいか。絶対にわたしより前に出んな。わたしのすぐ後ろにいろ、何かあった時に対処できない。もしわたしがやられた時は素直に降伏しろ、無駄に抵抗すんな。誘拐までしてくるような奴らだが、言い換えれば殺す気はねえってことだ」
「ちゃんと守ってやるから大人しくついて来いってことね?りょーかいりょーかい♡」
「調子に乗って下手こくんじゃねーぞ」
「だいじょぶだいじょぶ!私だって危ないのは怖いし痛いのはやだよ」
けど、特ダネを前にして退く程性格は良くない。
そんな大人しい人間だったらネギのことを知った上でネギたちの前に出てくるなんてことはできていなかっただろう。
とめどない探究心で未知を掴み、自らの分別で情報を精査し、世の中に発信する。
朝倉和美は、ジャーナリストなのだ。
「‥期待してるようなことが起きなくても文句言うなよ。桜咲と合流する」
「おっけー!」
「あら、桜咲さんも来てらっしゃるんですの?」
「ああ、そうだ‥」
「ちょ、千雨ちゃん?それ言っていいの?」
「‥‥あ」
********************
「今は入り口の方に?」
「‥‥」
「み、みたいだね!」
「桜咲さんたちもシネマ村に来る予定だったなら、旅館からご一緒するようお誘いすれば良かったですわ」
「桜咲さんも映画やドラマの撮影に興味あるのかなー?いつも剣道の竹刀?みたいなの持ってるし、殺陣とかに興味ありそうだよね」
「なら夏美ちゃん、演劇部にも誘ってみたらどうかしら。きっとカッコいいと思うわ♡」
「‥迂闊だった、としか言いようがねえ」
「まあまあ、刹那さんと合流するって聞かれた時点でダメだったって」
「‥‥やっぱ集団で連むのは面倒が多いな」
だが、それを悪くないと思っているのも事実。
横目で委員長の方を見る。
委員長が借りた衣装は花魁のようだ。
京都の街を歩く花魁は皆白粉を塗っているが、彼女は何もつけていない。
だが肌が白く整った顔立ちの彼女は、絢爛な髪飾りがかけられた黒髪のかつらを被り、その身に着物をまとっただけでどこからどうみても京の花魁そのものだ。
そんな彼女に、刹那も来ているなら迎えに行って一緒にシネマ村を見て回ろう、と提案されては首を横に振ることができなかった。
「桜咲さんだけですの?」
「いんや、木乃香もいるらしーよ」
「まあ、珍しいお二人ですわね。そういえば昨日の朝もご一緒だったかしら?」
「確かに、修学旅行に来てから二人とも一緒にいるよねー。でも二人だけなの?他に来てないの朝倉ー」
「‥どうなの?」
「‥‥こっちに振るんじゃねーよ」
情報通である筈の和美が千雨に物を尋ねる。
奇妙な光景に夏美はん?と首を捻った。
昨夜のイベントで、千雨があの武闘派と称される古菲と枕による鍔迫り合いを演じていたのを目にしたばかり。
普段武芸に達者であるという面など一切見せず、いつでもしかめっ面を見せていた彼女が、どこか楽しそうに古菲とは闘っていた。
和美とも関わりが多少はあったかもしれないが、それも和美が一方的に絡んでいただけだ。
先程あやかが千雨に声をかける前、千雨と和美は何やら話し込んでいた。
ここ最近大きな変化を見せてきた意外なクラスメイトに、自分だけではなくクラスのみんなが注目しているのかな、と横の千鶴を見る。
‥いつも通りあらあらうふふと笑っているだけだった。
「‥」
「あら?ザジさんどうかしまして?」
「‥」
「まあ、そうなんですの?ほ、本当に?」
「‥‥‥ねえ、委員長はザジちゃんから何を感じ取ってるの?」
「‥クラスを律して愛する委員長パワーで聞き取ってんだろ多分」
「ていうか千雨ちゃん、刹那さんとこいくのどんどん遅れてるよ。いいの?」
「それは問題ねえよ。わたしはもう先にいってる」
「ん?」
********************
「‥どこ行ったんだアイツら‥」
ちょうどその頃。
別の千雨は一人、シネマ村の入り口まで戻ってきていた。
刹那たちを迎えにきたのだ。
‥が、見つかったのは何故か夕映とハルナの二人だけ。
電話では刹那が木乃香と二人を引き連れている筈だったが、刹那も木乃香も姿が見当たらない。
刹那がいないと夕映たちに声をかけて取り次ぐのは面倒だ、と二人には声をかけず、そのままシネマ村に入っていくのを見届けた千雨。
(シネマ村に入っていくってことは‥既に桜咲たちはシネマ村に入ったってことか?)
刹那に電話をすればすぐに済む話だが、今はできない。
もう一人の自分に連絡を入れるべきだな、と人の少ない路地裏に入っていく。
幾人かとすれ違い、人の目が届かない場所を探す。
ここなら‥と辺りを見渡した時、奇妙な違和感に気がつく。
何故かつい今し方すれ違った人間が、いない。
前を向くと、千雨が来た方へ向かって歩いていた男性も姿が見えなくなっていた。
何かが起きている。
「‥」
もう一度振り向くと、大路地から細い通路に入ってきた筈だが、何故かその大路地が50m以上離れていた。
明らかに空間が歪んでいる。
こんな裏道など10m程度しかなかった筈だ。
再度前を向くと、千雨の後方と同様に空間が歪んでいた。
細かったはずの道も麻帆良の通学路並みに広くなっている。
そして、道の真ん中に立つ小さな風来坊の装いをした人間が一人。
背格好はネギと同じくらいか。
「‥おいガキ、これはテメーの仕業か?」
「だとしたら?」
「何の用だ?‥いや、このタイミングで仕掛けてくる野郎なんて大体話は読めるけどな、一応聞いてやるよ。勘違いはイヤだろ?」
「ふうん‥」
羽織に仕舞われていた腕が初めて見えた。
白い。
血色が薄過ぎて逆に不健康に見えてしまっていた。
「‥旗の強者、長谷川千雨。君を確かめ‥そして止めにきたよ」
「旗の強者‥?」
またわけわかんねー名前で呼びやがって、と眉を顰める。
だが、どうやらやる気らしい。
ここまでお膳立てされて乗らないということもないか、と構える千雨。
幸いにして今の
「まあ良いか。ここで戦力減らせるなら減らしとくべきだしな」
「大した自信だね。自分が負けると一切思っていない顔だ」
「自信たっぷりに不敵に笑うのがわたしが追いかけるバカどもの癖でな。移った」
「‥奇遇だね。僕もそんな人たちに覚えがあるよ」
「そうかい。多分、考えてる連中は一緒だろうぜ」
あれだけの有名人たちだ。
寧ろ知られていない方が不思議だからなと納得しつつ警戒を続ける千雨。
「では、始めよう」
「ああ」
一手指そうか。
そんな響きが篭った少年の言葉に、軽く賛同する千雨。
穏やかな声色とは別に、その地には張り付いた空間が出来上がっていた。
しゅるり、と笠を下ろす少年に、拳を握る千雨。
シネマ村の細道で、強者たちの競演が始まろうとしていた。
次回、血塗れ回。
皆さんこの少年が誰かお分かりですよねー。
ちなみにこの少年は結構好みです。
わかりやすい被造物の苦悩が、好物です。