一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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今更ですがネギま!を読み返して整理してます。
作者の推測もある程度入ります、ご容赦ください。


【2】描かれた平穏

「なんで?どうしていかなきゃいけないんだ!」

「あー?しゃーねーだろ。放っとくとなぁ。俺の友達を悪いことに利用しちまうんだよ」

「わるいことってなんだよ!」

「今のお前に説明してもわかんねーよ」

「ガキあつかいすんな!」

「お前はまだガキだ。よく鏡見ろよ5歳児。あと、言葉遣いどうにかしとけ」

「そんなのはおれのじゆうだ!」

「あーもー。とりあえず、“わたし”って言え、“わたし”って。お淑やかに育て」

「おしとやか‥?」

「わかんねえかまだ。ま‥そのうちな。えーっと‥」

「おい!なにごそごそしてんだ、むしすんな!」

「‥ま、そのうちわかるさ。お前が大きくなって、力を持つようになるとな‥」

 

 

「‥わかんねーよ。わからなかった。10年近く経ったけど、力も身につけたけど。自分を蔑ろにしてまでやることではねえだろ」

 

どうやら夢を見ていたようだ。

頭を上げると、2-Aの教室。

教室に残っているのは千雨ともう1人だけだ。

クラスのみんなは部活やサークルに行ったか、既に寮に帰ったか。

麻帆良学園は全寮制で、男女別学だ。

もちろんそれぞれ男子寮と女子寮がある。

それぞれ2人ないしは3人部屋なのだが、千雨は1人部屋だ。

相部屋相手のザジ・レイニーデイがなぜか自分が部屋を割り当てられた時——つまり転校時、既に部屋を出ていたのだ。

というか、始めから寮部屋を使ってないのか。

まあそれはさておき。

 

帰るか。

帰りのホームルーム中に寝てしまっていたらしい。

起こされなかったのは優しさだと思いたい。

 

「あ、起きたんだー」

「おはよー」

「鳴滝's」

 

扉がガラリと開き、2人のちびっ子が入ってくる。

鳴滝風香、鳴滝史伽。

2人とも小学生?と100人中が100人は言ってくるくらいに背が低い。

 

「もー!史伽!」

「風香だって!いつまで経っても名前呼ばないなー千雨は!」

「面倒なんだよ2人呼び分けるのは。お前らいつも一緒だし良いだろ」

「良くないー!」

「良くないぞ千雨!」

「よって部活練り歩きの刑だー!」

 

またか。

転校してから一年以上。

当初は部活紹介という形でさんぽ部と一緒に様々な部活やサークルを見学していたのだが、これと言った部活が見つからず、そのまま一年も続いているのだ。

結局、千雨はほとんどさんぽ部に所属しているようなものだった。

 

「では、今日はどこへ参ろうか」

「普段行かないとこがいい!」

「チア部この前行ったでしょー。水泳も行ったしさー」

「このクラスのみんながいるとこは全部行ったもんね‥」

 

楓の言葉に、史伽と風香がどこへ行こうかと話し合う。

長瀬楓。

181cmの長身。

龍宮と並んでクラスの二大巨頭だ。

椅子に座っている状態で彼女を見上げるとかなり身長差があるように見える。

鳴滝姉妹に至っては約2倍の身長差がある。

身体つきも14歳とは思えない。

この前朝倉が出していたスリーサイズランキングでも2位を獲得していた。

というか、あのジャーナリストはどうやって調べてるのだろうか。

カン?

尚、彼女の口癖は「ニンニン」であり、語尾は「ござる」だ。

‥一目見たとき思わず「ジャパニーズ・ニンジャ」と出た自分は悪くない。

 

「あ、一個行ってないとこある!」

「じゃあそこだー!!」

「そんなとこあったか?」

「む‥行っても良いのでござるか?」

「へ?」

 

楓が少し思案顔をするが、鳴滝'sはお構いなしだ。

既に何故か私の荷物をまとめて行く準備をしている。

 

「何かあるのか?」

「うむ。本人は来ないでほしいとは言っておったが」

 

じゃあ駄目だろうと振り向いたらもう2人はいなかった。

ついでに自分の荷物もない。

更に言えば『千雨のにもつはあずかった』という文が書かれたメモ用紙まで置いてある。

 

「‥その部活ってどこだ?」

「美術部でござるな」

 

美術。

つまり絵や彫像を創作するアートの道。

絵と言われると思い浮かべるのは早乙女ハルナだろう。

だが、彼女は図書館探検部と漫画研究会の所属であり、彼女の絵もコミックに向けて描いている。

ちなみに、千雨は以前一度“初めてのコミケ”と称されて本の即売会みたいなのにハルナたち(というよりハルナ)に連れて行かれている。

 

「早乙女‥じゃないよな」

「うむ。行けばわかるでござるよ」

 

溜息をつきながらも先に教室を出た楓を追う。

部屋の戸に手をかけた時、教室に残った最後の1人を見る。

教室の隅の方にいたそれの顔は見えなかったが、目が合った気がした。

 

「‥来るなら来いよ。どうせ暇だろ?」

 

カタン、と音がした。

 

 

********************

 

 

千雨がそれに気がついたのは転校してから初めての夏。

教室にハカセからおすすめされたソフトウェアの媒体を忘れたことに気がついたのだ。

なお、ハカセとは葉加瀬聡美のことだ。

電子媒体という素晴らしい科学を教えてくれた、千雨にとってはありがたい人物である。

 

教室に入り、妙に肌寒いことに気がついた千雨。

季節は夏。

扇風機がまわっているわけでもないし、冷房などという立派なものが付いているクラスでも無い。

何より誰もいないのだ。

いないはずなのだ。

だが、誰もいないはずの教室から妙な気配があるのは感じていた。

 

千雨は身体のスイッチ(・・・・)を入れる。

途端に妙な気配が色濃く感じられた。

出所も、わかる——。

 

教室の左前。

ほとんどの椅子が机の下にしまわれているのに、その席だけ椅子が引かれていた。

まるで誰かが座っているかの様に。

妙な気配は、引かれた椅子から感じていた。

 

(‥違う。椅子じゃない)

 

「‥おい」

 

振り向かれた。

千雨の目線の先、誰もいない教室の隅。

だが、何かがいる。

 

「お前‥そこにいるんだろ。気づかなかったよ」

 

もう一年もいるのにな、と頭を掻く。

妙にオヤジ臭い仕草だったが、その得体の知れない気配は少し止んだ。

どうやら、警戒を解かれたか。

それとも、逃げたか。

 

「お前は何だ?」

 

実際、思い浮かべてみると感じる気配には覚えがあった。

いつでも教室にあった気配だったからか、今まで気付けなかったのだ。

 

‥返事はない。

けれど、目の前にいる。

恐らく、人外生命体。

それも実体は持ってないが精神体のみ存在する、特異例。

気体ですらない。

 

「返事をする気がないのか、それともできないのか。何にせよ、このクラスで妙なことする気なら容赦はないぜ」

 

脅しておきながら、恐らくそれはないだろうとどこか確信めいていた。

一年‥少なくとも自分が1-Aに転校してきてからずっといたのだ。

その間、不自然なことが起きたことなど何もない。

クラスメイトの妙なパワーで珍事に事欠かなかっただけだ。

色んなことがあったなぁと思い浮かべていると、気配が少し強く感じられるのが分かった。

どうやら感情の様なものは持ち合わせているらしい。

否定‥なのだろうか?

 

結局千雨はその得体の知れない何かに何もしなかった。

様子を見ることにしたのだ。

やったことといえば、時折気が向いた夜に話をしに行くくらいだ。

その甲斐あってか、その生命体の感情くらいならわかる様になってきた。

名前も姿形もわからない、奇妙なクラスの同居人だ。

 

 

********************

 

 

妙な気配を従え、楓の横を歩く。

美術室は向かいの棟の一階にあった。

しかし、美術部員とは誰だろうか?

帰宅部の自分はともかく、2-Aの生徒は大抵部活やサークルに入っている。

ちょっとサボり癖の酷いエヴァンジェリンとて茶道部と囲碁部に所属している。

無口無感情のザジ・レイニーデイでさえサーカス団だ。

誰か兼部でもしているのだろうか?

 

妙に騒がしい美術室の戸を開けると、予想外の人物が鳴滝'sに絡まれていた。

 

「‥神楽坂」

「あ、長谷川!楓ちゃん!?ちょっとこの2人何とかしてよー!」

「いーじゃーん!」

「見せてよー!」

 

これこれと2人の襟首を掴んで明日菜から引き剥がす楓。

猫か。

 

神楽坂明日菜。

長めのツインテールをベルの髪留めでまとめているのが特徴的だ。

クラスの中でもどころか学校内でも屈指の運動神経の持ち主でもある。

ただしおバカ。

勉強ができなさすぎてバカレッドというあだ名まである。

ただ、明日菜はバイトに時間を割いているから仕方ないといえば仕方ないが。

ちなみに楓はバカブルーだ。

他にもバカブラック、バカイエロー、バカピンクがいる。

 

ついでに言うと千雨の成績はそれなりの部類に入る。

国語と社会は壊滅的だが、数学と理科は試験の点数は高く、英語は点数が取り放題‥と言うか設定上取らなければまずいので確実に満点だ。

総合すると成績は平均を何とか上回る。

 

「で、何言って困らせてたんだ?」

「明日菜の絵が見たかっただけだって!」

「見たかった?」

「見せてくれないんですー!」

「ふーん」

「二人とも、本人が嫌と言うものに無理言ってはいかんでござるよ」

「それはもっともなんだが‥本当に神楽坂が絵を描くのか?」

「どーゆー意味よそれ」

 

ジト目をしながら抱え込んでいた絵を額立てに置き、布をかぶせる。

勿論その間も身体で隠して絵は見せてくれない。

後ろの生命体の気配もそわそわしている様だ。

無理に見に行ってないのは、できないのかはたまた性根が良いのか。

 

「イメージからかけ離れすぎててなあ」

「ぼくたちも初めて知ったとき驚いたもんねー」

「ガサツな明日菜が絵だってーってね」

「ガサツ‥」

 

不満そうな顔だが反論はしてこない。

自覚があるのだろう。

細かな作業は苦手、よく物を壊してしまう、バカ力。

よく委員長‥雪広あやかとも喧嘩しているし、その点は分かっているようだ。

 

「ていうか、あんたたち何しにきたの?」

「面子見りゃわかるだろ‥」

「もー、また憎まれ口きいてー!部活動見学だよー」

「さんぽ部恒例千雨ちゃん案内ですー」

「あんた、もうさんぽ部でいいんじゃない」

「然り。拙者もそう思っているでござるよ」

「気が向いた時にぶらつくのがいいんだよ」

 

会話を続けながら、美術室に展示されている生徒たちの作品を見て周る。

どうやら美術室には神楽坂一人のようだ。

これなら多少騒いでも許してくれるだろう、神楽坂が。

絵など心得もないし興味もなかったが、中々どうして素人目の自分が見ても上手い絵が多い。

中学生が描いたものとは思えないほどだ。

その道に傾けば幾つの子供でもいくらでも上達する。

その言葉の体現をしているのが他ならぬ千雨本人ではあるのだが。

 

「そういえば知ってる?三学期に新しい先生が来るってさー」

「え、本当それ?」

「職員室で先生たちが話してるの聞いちゃったのさ!」

「しかもうちのクラスなんですー!」

「えぇ!?」

 

ただの驚きだけの声ではなさそうだ。

ちらりと見ると明日菜の顔は青ざめている。

さては‥。

 

「高畑先生と交代になるやも知れん、ということでござるかな」

「教師を好きになるとこういうことになるのか‥」

「ちょっとおおおおぉぉぉぉ!!あんたなんで知ってんのよはせがわあああぁぁぁ!!!」

「見てりゃわかるよ」

 

呆気にとられた顔をする明日菜とうんうんと頷く他3人。

‥違った、生命体も肯定してるっぽい。

4人だ。

ばればれというかそもそも隠す気がなかったんじゃないだろうかというくらいわかりやすかった。

高畑の授業とその他の先生の授業とでは授業態度が違うし、話し方もまるで違う。

いつも他の授業は頭を抱えつつも頑張ってノートをとっている程度だが、高畑の授業だけは積極的に発言し、だいたい間違えている。

間違えているのは余計か。

授業の居残りでも監督は高畑だ。

その時だけは高畑と一緒、ということもありかなり勉強を頑張っている‥らしい。

ちなみにこれは同じバカレンジャーのバカブラック情報。

 

しかし驚きだと思う。

高畑とアスナが妙な関係になっていることもそうだが、アスナがまさか恋なんて。

高畑はある意味でアスナの親のようなものだ。

保護者というのが正しいのかもしれない。

かつては何人も保護者が神楽坂には居たはずだが、いまでは訳あって高畑と、あとは一時期預かってくれたという学園長くらいだろう。

そんな二人が、片方から片方へ恋煩い。

千雨は自分の親を思い浮かべる。

考えるまでもなく、あり得ないことだった。

あんな親父に恋するくらいなら委員長と同じように年端も行かぬ少年の方がまだマシだ。

委員長の趣味もあれはあれでどうなんだとは思うけど。

 

「ちょ、ちょっと!その‥バレてるのは置いといて‥、いや良くはないけど。高畑先生、本当に私たちの担任じゃなくなっちゃうの!?」

「うーん。ぼくたちも先生たちの話を盗み聞きしただけだからなー」

「高畑先生いい先生なのにー」

「副担任という手もあるでござる。何も悲観することはないでござるよ」

「けど、納得ではあるけどな。なんだかんだあのおっさん、何日もかかるような出張多いだろ。それなら担任からは外して不定期に仕事できるような役割の方が合ってるんじゃねえの」

 

その出張も本国絡みではあるだろうが、と推測する千雨。

恐らく、高畑が用があるのではなく、高畑でしかできない仕事だろう。

そして、高畑にしかできないことなど一つしかない。

魔法戦闘。

それも高畑クラスの実力が必要なレベル。

相手の組織・個人はいくつか思いつくが、絞り切ることはできない。

高畑にしろ“彼ら”にしろ、敵が多いのだ。

戦争が終わってから未だ20年。

“彼ら”は結局戦時中、戦争を行なっていた両陣営をどちらもボコボコにしてしまっている。

時々やりすぎちまったかなー、とはその一人の談。

正直それは勘弁してほしいというか、見境を持って欲しかった。

苦労するのはこっちなのだ。

 

だが、一番の大本命はやはり、かの創造主の残党たちか。

 

「‥まだ、何かいるのか?つい数年前、全滅したって聞いてたんだがな‥」

 

思案しながら、再び絵を見て周る。

作品の中に拙い絵を一枚見つけた。

描かれているのは高畑‥だろうか。

少し顔が崩れているが、メガネと顎髭、少し跳ねた前髪が特徴的だ。

横目で、どうしようどうしようと嘆いている明日菜を見遣る。

どうやら鳴滝'sに不安を煽られているらしい。

悪質だ。

 

‥バイトに明け暮れ、学校ではクラスメイトと共に笑い過ごし、授業も‥成績は芳しくないようだが、きちんと受けている。

部活だってこうして出ているのだ。

なんと気になる人だって出来ていたのだ。

おっさんが相手だけど。

千雨は、彼女のことがどうも眩しく見えていることに気がついた。

 

「ねーあすなー。それよりも絵を見せてよー」

「同じクラスになってから一回しか見てないですー」

「拙者も上達ぶりは気になるでござるなぁ」

「諦めなさいよそろそろ!それよりも高畑先生のことの方が重要よ!!」

「顔怖いぞあすな‥」

「‥まあ、見せられるくらい絵が上手くなったら見せてくれよ」

「‥」

「なんだ?」

「‥千雨ちゃん、笑うのね」

「はあ?」

「えー!!」

「見てなかったですー!!」

「いつも呆れたような、不満そうな表情しか見てないでござるなぁ」

「ふん‥」

 

あ、顔もどったーなどと宣う明日菜に目の前にあった絵を見せつける。

途端に明日菜が顔を真っ赤にして悲鳴を上げたので、鳴滝's——しかも風香の方——に絵を押し付け、早々に部屋を出た。

部屋の中から比喩表現でもなんでもなくドッタンバッタンという音と、何かが壊れる音、楓の笑い声、自分が連れてきた生命体のオロオロとした気配が聞こえる。

ザマアミロ、と呟きながら玄関へ向かい、校舎を出た。

 

後ろを向き、聞こえるはずもない声を出す。

 

幸せそうで何よりだ。

 

‥なお、自分の鞄を鳴滝'sから取り戻すのを忘れていた千雨が美術室に戻り、自分が起こした騒ぎを収める話は蛇足だろう。

 

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