一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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一月?
しばらく?
なんか移動中にちょくちょく書いてたら出来ちゃいました。
でも流石にしばらく空く‥はず。多分。
詐欺かなんかだと思っていてください。


【20】夜に飛び込め

無情に過ぎた日々。

大好きな人たちはもういない。

忘れようも忘れられない、あの光景が。

今も脳裏に焼き付いて、彼女を追い立てる。

 

 

********************

 

 

関西呪術協会総本山。

千雨を除いた3-A守護隊(ガーディアンエンジェルス)は木乃香を誘拐しようと企む敵から彼女を守り切り、なんとか総本山———木乃香の実家———へと逃げ込んでいた。

途中、刹那が肩を射抜かれる大怪我を負うものの木乃香の潜在魔法力が発揮され、事なきを得る。

そのことを刹那は危惧していた。

魔法を木乃香から遠ざけていたのに、同じように裏の人間である自分が木乃香から離れていたのに。

これでは意味がない、と。

 

「話は聞きました、このかが力を使ったそうですね」

「ハイ。重傷のハズの私の傷を完全に治癒するほどのお力です」

「‥それで刹那君が大事に至らなかったのならむしろ幸いでした」

 

関西呪術協会会長、近衛詠春は告げる。

いずれこうなる日は来たのかもしれない。

詠春は一人娘である木乃香へありのままの事実を伝えるよう決断する。

木乃香が素晴らしいほどの魔力を持って生まれてきたこと。

刹那のこと。

そして、木乃香にこの先のことを考えるよう、全て。

 

話を終えようとした時、ネギがハッと思い出す。

親書は既に詠春に渡し終え、近衛右門から言い渡された任務は終わった。

だが、ここへ来る前に新しく従者となった千雨から一言伝言をまれていた。

 

「あ、あの!長さん!」

「ハイ?」

「その‥‥長さんに、千雨さん‥長谷川千雨さんから伝言です」

「はせがわちさめ‥?」

「あ、あれ?ご存知ないですか?」

「‥ええ。一体どのような?」

「二世が行く、と」

「!!」

 

途端に詠春の目に1人の幼い少女の姿が蘇る。

ラカンとナギにべったりくっついていたオレンジ髪の子。

よく修行中のラカンの横でラカンを真似したり、アルの持つ読めないであろう古書を眺めていたり。

そして今は亡きガトウにも、ネギの母にも懐いていた。

時々訪ねるだけの自分にすら臆せず言葉をかけてきた、その少女を。

 

「‥そう、ですか。ジャックめ、何も言わずに子だけを‥」

「え?」

「いえ、すみません。‥‥彼女はご壮健でしたか」

「はい!僕も何度も助けられてて‥」

「今回のお嬢様の護衛にもご助力を頂きました。長のお知り合いなのですか?」

「ええ。‥私たちの娘みたいなものです」

「へ?」

「ジャックのバカがあのまま預かることに一抹の不安‥‥いえ、多大な、の間違いですね。‥だが、よく育って‥そして日本へ来た。きっと彼女も、自らの道を選ぶ為に」

 

自らの道。

ネギも刹那も、それは既に選んだもの。

だからこそ魔法使いとして、木乃香の護衛としてここにいる。

だが、千雨が自らの道を選ぶ為に日本に来たということは。

まだ彼女は、何かになる手前の段階にあるということなのだろうか?

 

「彼女が魔法使いの従者(ミニストラ・マギ)であることは?」

「あ、知ってます。お父さんの‥‥そして、その‥‥‥ボクの」

「ほう!?それは‥なるほど。彼女がどのような人物に育っているかはわかりませんが、ネギくんの良きパートナーになってくれるのは間違いありません。彼女はその為に日本に来たと言っても過言ではないですから」

「え‥‥」

 

驚いたネギだが、カモはどこかでその事実に納得していた。

やはり千雨はネギがいずれ日本に来ることになると予見していたのだ。

しかも千雨だけではなく、詠春もそうなのだろう。

となると、学園長もそうである可能性は高い。

何故だろうか?

ネギの父親が関係しているのだろうか?

麻帆良学園にはナギも寄ったことがあるようだし、ナギに封印されているエヴァンジェリンもいる。

 

(兄貴は何か‥‥とてつもない陰謀にでも‥‥いやそれとも、運命って奴なのか‥‥?)

 

卒業証書に決められたネギの来日、そして修行期間。

そんなことを予見できるほど、決定的な何かが麻帆良にはある。

 

「‥それと。二世‥いえ、千雨嬢から聞いているとは思いますが、私とあのバカ(ナギ)は‥‥かつて、二十年以上の友でした。ナギに関する情報も持っています」

「!!」

「明日、貴方たちをお見送りする際に‥‥ナギの情報がある場所へお連れしましょう。魔法使いとしての任務をこなしたネギ君へのご褒美として‥ですね」

「あ、ありがとうございます!!‥ボクは、千雨さんから‥その‥父さんが生きていることを聞きました。‥あの、父さんが今どこにいるかというのは‥その‥」

「‥なるほど。お嬢はそこまで話しましたか‥‥。‥いえ、私はそこまでは知りません。ですが、明日きみに見せるものは‥それ以上の成果に繋がるかもしれません」

「‥!」

 

「‥その、カモさん。ネギ先生のお父さんというのは‥‥」

「おお。サウザンドマスターって知ってるか?」

「え、ええ。20年ほど前、世界大戦を終わらせた立役者‥‥。‥‥が、なのですか?」

「そうなんだよ。千雨の姐御もそのサウザンドマスターの従者らしくてな。親子二代の従者になってるんだよな」

「‥なるほど。そして長は‥そのナギさんの友‥親友、なのですか」

 

ネギも千雨も、サウザンドマスターという人を追っているのだろうか。

サウザンドマスターの話はどんな裏の人間からでも聞けた話だったが、その後にほぼ必ず既に死んだとも聞いた。

だが、今のネギの言葉通りならまだ生きているという。

 

ネギを見ると、今も長に熱心に話を聞いている最中。

わずか10歳の少年が、世界で活躍していた亡き父を追う。

懸命な姿を喜ばしいと思う。

だが、刹那は気づいてしまっていた。

長の表情が、いつもの難件にあたる時の顔にどことなく似ていると。

 

 

********************

 

 

「‥‥何がどうしたらついていかなきゃ行けなくなるんだよ正直に言え正直に。知的好奇心が抑えられなかった?面白そうだから?‥‥まあそっちは多分大丈夫だろうけどな、それでもあまり大人数で押し掛けんのは‥‥。は?寛いでる?あ、おい朝倉!」

「どうダ?」

「‥‥浮かれてやがんなあのアマ」

 

修学旅行三日目の夜。

委員長たち三班と共に旅館に戻ってきていた千雨は、超の班である四班の部屋で三日間のお土産を持って超と茶を飲んでいた。

部屋には二人だけ。

 

旅館に戻ってきてからネギたちが戻ってきた、と聞いて出迎えにいくとなんと偽者。

しかも式神が模したものでは、と楓の指摘が入ったために急いで電話をかけてみると宴会中ときた。

更に追い打ちで和美の浮かれ具合を浴びた千雨はこれでもかとげんなりした顔を見せた。

わたしの心配を返せ、とぶつぶつ文句を言いながら電話を切る。

恐らく、おもてなしなんぞよりも未知の文化に触れることの方が遥かに垂涎ものだろうが。

 

「だが何かするわけでも、戻って来いとも言わないんだナ」

「そりゃ、大丈夫だと思ってるからだろ。一番強そうな奴倒したし、関西呪術協会が本当に近衛ともども守ってくれるならわたしが行かなくてもいいさ。それに、まず間違いなくわたしよりも適任の役者がいるんだ。働かなくていいなら働かねーよめんどくせえ」

「貴女にそこまで言わせるとは実に興味深いネ。今度会わせてくれないカ?」

「お前に会わせたら毒にしかならねえし寧ろわたしが会わせてほしいってんだよ」

「‥どういう関係ダ?」

 

超の微妙な顔という珍しい物を目にした千雨はなんだかしてやった気分になり、紅茶の風味もどことなく心地良いものに感じていた。

 

以前は超がラカンかアルと関係があるのではと懐疑していたが、詠春のことは知らないらしい。

実はラカンたちのことも知らないのか?と首を捻るが、それでは千雨の事をどう詳しく知ったかがわからない。

対象の情報を詳細に得られるアーティファクトやユニーク・アビリティでも持っているのだろうか。

 

「それで、話トハ?」

「ああ、これなんだけどよ」

 

差し出された一枚のカード。

去年の学園イベントでのアイドルのような服を着ている千雨が映っているが、仮契約(パクティオー)カードに映っているものだからかギリギリ恥ずかしくない。

 

「ほう!これはアーティファクトカードネ、直に見るのは久しぶりヨ」

「このアーティファクトのことでちょっとな。これ、調べてみたんだがどうやら電子情報通信網操作及び魔力術式への介入みたいなことができるアーティファクトなんだよ」

「ほう?随分近代的ダナ。ふむ‥‥出してもらってモ?」

「ああ。来れ(アデアット)

 

千雨の言葉とともにポップなステッキ——力の王笏が現れる。

ホホウ、とマジマジ見る超に力の王笏を手渡し、本題に入ろうと言葉を継ぐ。

 

「それ、パソコンみたいな使い方ができるらしくてよ」

「‥それはまたヘンテコネ。パソコンがあればできるようなことをできるト?」

「いや、何かよくわかんねーけどあとは変な電脳空間に飛べるってさ」

「電脳空間‥‥肉体ごとカ?」

「身体はその場に置いて精神だけ電脳空間に飛ばすらしい」

「‥‥中々ヤバそうなアーティファクトダナ、コレは。つまり精神をデータ化できるということカ?」

「データ化って言っていいのかはわからねえが、0と1に変換できるみたいだな」

「‥‥無茶苦茶ネ、話には聞いてたガ」

「話?」

「いや、なんでもないヨ。それで、私に頼みとは何ネ」

「精神をデータ化できる‥‥なら、試したいことがある。それを手伝ってくれ」

「ム?」

「多分、このアーティファクトは本来ならただの便利なパソコンとか魔力術式介入改ざんとかそんな程度だろ?けど、強化次第で戦闘でも使えることがあると思うんだ」

「いや、魔力術式の介入・改ざんで十分すぎるダロ‥。何をする気ダ?そして、私の腕を借りるとなると高いヨ?」

「‥」

 

一息ついてカップを傾ける千雨。

超は微動だにしない。

彼女は言葉を待っている。

何故か千雨から持ち込んできてくれた話の返事を。

そう、持ち込んできたのではない。

持ち込んできてくれたのだ。

超はずっと千雨のその言葉を待っていた。

彼女がいれば、自らの計画の後詰は磐石のものとなるのだから。

 

「‥お前の計画とやらを聞かせろ。まず話は聞いてやる」

「‥どういた心境の変化カナ?」

「今日会った敵。正直、随分強かったぜ。私が直接会ってたら、どうなっていたかわからなかったくらいにはな」

「だが倒した。そうダロ?」

「‥ま、それはそうなんだけどよ。一対一としては反則みたいな‥というより、わたしはラッキーだっただけだ。さらに強く、っていう思いはやっぱり出てくるもんなのさ。それに、もう一つ理由があってな」

「‥」

「お前の計画のことはそのうち調べるつもりだった。けど、それを内側から調べてやろうってな」

「普通それを調べようとする相手にさらりと言うカ?」

「お前に隠し事してもどうせ無駄だろ」

「まあナ、ちうちゃん」

「言っとくけどそれやんねーからな!?」

「これのことカ?勿論やてもらうことになるヨ」

 

千雨のカードをひらひらさせてニコリと笑う超。

去年のイベントの時と服装が酷似しているため、千雨の羞恥心が掻き立てられる。

絶句しながら早まったか?と後悔しかける千雨。

だが、超はニコニコと嬉しそうだ。

 

「では早速修学旅行が終わり次第取り掛かロウ。クラスメイト依頼の研究は久しぶりネ、腕が鳴るヨ」

「おい、まだ話を聞くだけでいいぞ?わたしがお前を手伝うとは限らねーだろ、ついでに邪魔するかもしれねぇし」

「心配いらないヨ。貴女は邪魔をしないし、寧ろ喜んで手伝うダロウ。なに、大掛かりなことをやってもらうことはないからナ。安心して身をまかせてくれヨ。まずはビラ配りからダナ」

「なに地元アイドル育てるノリでいこうとしてんだ!?やんねーからな!?」

「冗談冗談。ビラ配りじゃなくてまずは衣装を着て人前に出る練習ダナ、スマンスマン」

「‥‥冗談、だよな?」

 

え?やるのそれやんねーよなマジかよと悶えている千雨に、超は思案を始める。

このタイミングで千雨が自分に接触してくるとは思ってなかった。

もう少し後、超が動きを見せてからのことだと思っていたのだ。

未だに信頼関係やお互いを知る、などもまだだったし交渉材料も用意していなかったが、千雨が乗り気だったのは幸運だったと言える。

エヴァンジェリン戦の時に手を貸しておいてよかった、と過去の自分を褒める超。

 

だが。

吸血鬼の真祖にすら勝利した剣闘士の少女が苦戦した。

千雨は既に倒したと言っていたものの、そんな存在が歴史の裏にいたとは。

 

「‥ついでに訊くが、昼間の敵とは何者ダ?西洋魔法使いと言ていたガ」

「あ?あーとだな、名前は知らねえ。風来坊みたいな恰好してたな」

「風来坊?」

「いや、あれは仮装か?全体的に白いガキだ、白けた面が小生意気な。石化や大地の魔法を使う、ガキの癖に接近戦もできる。魔法障壁の数だけなら今まで見てきた中で一番だったぜ」

 

白くて大地の魔法を使い、接近戦ができる子供。

超の脳裏には1人の少年が思い浮かばれる。

少年と言ってもそれは外見だけで、その実は不老の使徒。

最終的にはネギ側についたものの、ネギの少年時代最大の敵にしてライバルだった男。

まさか。

 

「‥‥この京都にもいた‥ノカ!?」

「は?」

「千雨サン、今から朝倉サンに電話してみてクレ。ネギ坊主でも明日菜サンでも良いヨ」

「なに?‥まさか!?」

「奴は恐らくまだ生きている」

「知ってるのか?」

「話に聞いたことがあるだけサ。今は急いで連絡ヲ!」

「チッ‥‥お前、後でぜってー問い詰めるからな色々!」

 

すぐにまた携帯電話を取り出し、また和美にかける。

コール音が鳴り始めると思ったが、何故か電波不通の音声が流れ始める。

 

「‥?」

 

アドレス帳からかけたから電話番号の間違いはない。

もう一度かけてみるがやはりつながらない。

悪い予感がひしひしと千雨の中で警鐘となってきた。

今度はネギにかける。

だが、なんと電話中だと音声が返ってきた。

 

「‥朝倉にはつながらねえ。ネギは電話中だと?どうなってんだ」

「む。ならばネギ坊主は無事ネ」

「朝倉のは電源切れてるだけじゃないのか!?」

「どうしタ?エヴァンジェリン戦とはえらい違いヨ。事前にあそこまで準備して、ネギ坊主の安全をこれでもかと確認していたあの時の千雨サンはどこ行たネ?」

「‥詠春さんがいる。あの人がどうにかされてやられるなんざ想像ができねえのさ」

「サムライマスター近衛詠春。確かに最強クラスの人物ヨ。だが数か月前、弱体化しているとはいえ貴女も最強クラスを一人倒してるのも事実ヨ」

「!」

 

あれは、エヴァンジェリンが思うように力がだせなかったから。

そう言い返そうとしたが、言葉が出ない。

超の主張は既に分かっている。

詠春とて躓くことなどある。

過去にはラカンが瞬殺(本人談)したこともあるし、20年前の大戦でもラカンも詠春も大怪我を負って途中で戦線離脱したという。

 

「‥ああ、わかってるよクソ!まずは事実確認をする。あと連絡入れてねえのは神楽坂だけ‥‥!?」

「どうしタ?」

 

アドレス帳から明日菜の連絡先を探そうとした時、画面が勝手に切り替わる。

非通知設定という文字が表示され、電話はコール音を鳴らし始めた。

このタイミングでかけてくるということは、とすぐに出ようとするが、超に腕を掴まれる。

超を睨みつける千雨だが、すぐにテキパキと何かの機械を取り出して準備し始める超。

 

「なんだよ‥ていうかなんだそれ」

「周波数逆探知して位置を調べるネ。相手が何かしら敵意を持つ人間なら居場所くらいは知っておきたいダロ?」

「‥‥敵の可能性が高いと?」

「貴女もそう思ってる筈」

「まあな」

「準備完了。出てクレ」

「‥」

 

緊張した顔持ちで通話ボタンを押す。

超も自動で表示された座標位置を確認する。

だが、すぐに眉をしかめる超。

 

「‥‥ム?この位置は‥」

「もしもし‥‥」

「麻帆良?」

「は?」

『おお、お主は無事じゃったか』

 

電話から聞こえた声は近衛右門の物だった。

なんだよと少し肩を落とすが、何にせよ日も暮れてから数時間、そんな時に電話をかけてくるなど普通ではない。

超もとりあえず通話を聞くことにしたようだ。

 

「‥何でわたしの電話番号知ってんだ?」

『すまんの、そこは秘密にしておいておくれ』

「あとでぜってー電話番号変えてやる」

『無駄じゃよ、お主が契約している会社から聞いたものじゃからの』

 

何なんだよこのジジイ!と憤慨しかけたが、恐らく通信事業会社に魔法使いがいるんだろうな、と推測する千雨。

有事の際は何かしらの情報が得られるようになっている可能性が高い。

つまり。

 

「‥何があったんだ?」

『お主はいま泊まっている旅館にいるんじゃな?』

「質問に答えろ。なんとなく見当はついてる。‥近衛はどうなった」

『‥木乃香はまだわからん。じゃが、木乃香がおった関西呪術協会総本山は攻勢にあっているのじゃ。お主のクラスメイトも、婿殿‥‥詠春殿も石像となって発見された』

「‥!!」

 

拳をゴキリと鳴らす千雨。

強く握りすぎて拳の骨がどうにかなってしまいそうだ。

甘かった。

詠春を心の底から信じて自分は動かなかったのも、トドメをキチンと刺さなかったのも。

石化。

それをできる人間は、つい今日に会ったばかり。

超の危惧する通り、白の少年はまだ生きている。

 

「あんたは‥それをどうして知った!?」

『ネギくんと刹那くんは無事だったようじゃ。今は木乃香の保護に当たっておる筈』

「それで電話中だったわけか‥!あんたは動けないのか!?」

『うむ。今すぐにそちらへ移動できるような術はないのう。増援も見込めぬ。魔法先生たちはそれぞれの修学旅行先に行っておるし‥タカミチは海外に出ておる』

「‥チッ、今すぐに向かう!」

『すまんの、何事もないと思っておったが‥‥反現体制派がここまでの強硬姿勢に出るとは思わなんだ。見通しが甘かったとしか言えぬわい』

 

それは自分もだと、強く憤る千雨。

電話を切り、浴衣のまま部屋を出ようとする。

 

「行くのダナ?」

「お前はどうすんだ」

「今の私が行っても役に立たんネ。ただ、ここからでもやることはあるからナ」

「なんだそりゃ‥?‥ん?」

 

千雨が部屋の出入り口の扉を開ける前に扉が開く。

立っていたのは長身の少女。

 

「ここであったか。千雨殿、話があるでござる」

「‥長瀬‥お前、知ってたのか?」

「ぬ?千雨殿も?」

「わたしは今連絡をもらったとこだ」

「拙者もリーダーから電話が来た次第にござる」

 

楓がリーダーと呼ぶ人間は一人しかいない。

バカレンジャーブラック、綾瀬夕映。

総本山にいたクラスメイトたちは石化された、という話を聞いたが、夕映だけは無事だったのか。

今総本山で動いているのはネギ、刹那、夕映。

明日菜も恐らく石化はしていない。

問題は木乃香だ。

 

「来てくれるか!?今は人手が要るんだ!」

「うむ。他の二人も準備はできたようでござるよ」

「二人って‥」

「千雨もいくアルか!?」

 

楓の後ろからひょこりと古菲が顔を出す。

更にその後ろでは、楓と同じほどの長身の少女が壁にもたれてこちらを見ていた。

 

「古‥‥龍宮!」

「こういった事態でお前と関わるのは初めてだな、長谷川千雨。期待しているよ、ウナ・アラ」

「‥その名前がわたしのことだってわかんのかよ?そんな有名じゃねーんだけどな」

「腕が立つ同世代の少女の噂だ、嫌でも記憶に残るさ。それにウナ・アラが消えたと噂が立った時期と、お前が転校してきた時期は被っていた。ある程度調べ、確信は超からもらったんだよ」

「‥おい」

「ナハハハ、悪いナ」

 

またお前か!?というジト目で超を見るが、超は笑って何やら長い棒のようなものを取り出して指差している。

いつの間にこんなの出しやがった、と近づく千雨。

これは‥‥。

 

「‥なんだ?この杖の寸法比そのままでかくしたみたいな丸太は」

「大人数移動用の杖ネ。でっかくしてみたヨ。10人くらいまではいけるナ」

「お前バカだろ!?どうせならもうちょい乗りやすくしろよ!!足場増やすとかあんだろ!?」

「発想はまず基礎から単純に、ネ。そして思いついたならやってみるのがサガヨ」

「‥マッドサイエンティストって言葉がまんま当てはまるなテメー」

 

何とも不格好な移動手段だが、足は手に入った。

流石に千雨も4人で移動できるような魔法具は持っていない。

ちなみに古菲と楓はそれぞれ感動・感心しているものの真名は乾いた顔だ。

こんなバカでかい人間用の杖は見たことがない、と。

ちなみに人間よりも大きな種族は魔法世界にいるものの、大抵杖など使わず自前で飛ぶ。

魔族なんかがそうだ。

 

戦闘用のスイッチを入れる。

千雨も近づいて手に持ってみるものの、魔法使いが持つには普通に重く、そして太い。

ちょっとした木の幹である。

 

「‥乗れなさそうってことはねえな。ここはありがたく使わせてもらうぜ」

「おお、“気”も使わずに軽々ト」

「こんなくだらねーとこで使わせんなそんなもん」

「‥長谷川は自分の杖はないのか?半分魔法使いだと聞いているが」

「‥誰から?」

「もちろんそこにいる中華の‥」

「もういいよ、もう。‥‥一応持ってるけどよ、移動用で出したくねーんだよあんな杖」

「?」

「では今度は一人用の杖を一本送るヨ。楽しみにしていてクレ」

「‥‥頼むから普通の奴にしてくれ」

「千雨殿、急がなければ‥」

「わかってるよクソ!!」

 

こんな天才(アホ)にかまっている場合ではない。

急いで巨大な杖を持って部屋の窓側へと向かう。

杖の向きを変えるのも壁や天井に当てぬよう一苦労だ。

窓の縁へと立て掛け、乗れと3人に目線を送る。

千雨の前に古菲が、後ろに楓、真名と位置につく。

 

「これでどうするアルか?窓から飛び降りるネ?」

「‥古、未知の体験を前にして先頭出るとか度胸あるなお前」

「楽しみアル!」

「ま、いいか‥‥行くぞ。浮遊(レウォターティオー)!」

 

4人を乗せた丸太のような杖がふわりと浮く。

古菲と楓の驚く声が上がりつつ、ふわふわとそのまま杖は窓の外へ出た。

関西呪術協会総本山の場所を超から教えてもらい、すぐにそちらの方向へと向く。

 

「着くのに20分くらいか‥!」

「公共交通機関と比べればよほど早い。気にすることはない、さっさと行こう」

「な、なんアルかこれ!なんで浮いてるアルか!?」

「まさか、千雨殿もその‥‥魔法使いなのでござるか?」

「も?長瀬は‥違うよな」

「うむ、誰とは言えんが心当たりがあるでござる」

「‥‥あのガキ、どこまでバレてんだよ」

 

千雨には言えない、つまり千雨が知っている誰か。

完全にネギだろう。

 

「言っとくけどわたしは魔法使いじゃないぞ」

「なに?違うのか?」

「噂の内容まではちゃんと調べなかったみてえだな。わたしは魔法も“気”も使うんだよ」

「それはまた‥おかしな奴だな」

「ほっとけ。超、先生たちへの言い訳は頼むぞ」

「それは多分私がやらなくても何とかなるヨ」

「? ‥まあいいや、いくぞ!」

 

杖に魔力がこめられる。

その見た目に違わぬ質量の杖が先ほどよりも俊敏に移動を始める。

結構魔力を持っていかれるかも、と少し先が思いやられる気分の千雨だったが、それでもこめられるだけの魔力をこめて最高速度で旅館から離れていった。

 

やはり良い出来ネ、とその様子を部屋から見届けた超。

 

「さて、まずは連絡と‥‥根回しダナ」

 

 

********************

 

 

「でけー図体の割に良く飛ぶじゃねーか!」

「おおお、すごいスピード出てるのに風をあまり感じないアル!」

「杖や箒は飛ぶ際に快適に飛べるように色々魔法で仕様が弄られているものが多い。これも超製のものなだけはあるよ」

「魔法とは便利なものでござるなぁ。拙者が走るよりも早いやもしれん」

「競争するアルか!?」

「んな呑気なこと抜かしてる場合か!降りんじゃねーぞ!」

 

ギャーギャー騒いでるうちにすぐに総本山が見えてきた。

桜の木が何十本も咲き誇り、桜に囲まれるように大きな屋敷が立っている。

一度委員長の家に行ったことがあるがそれ並みの大きさだ。

上からの眺めはこんな状況でなければ絶景と言える。

 

「詠春さん、出世してるな‥」

「ここアルか?」

「降りなくていい。‥長瀬!どうだ?」

「‥うむ。生物の気配がこれほどないとは‥‥。少なくとも、動ける人間はいなさそうでござる」

「‥綾瀬は確か既に本山から出てるんだよな?」

「どこかは分からぬが山を降りている途中とは言っておったでござるな」

「よし、長瀬はとりあえず綾瀬を探しに行ってくれ。保護したらそのままこっちに来てくれ」

「承知」

「おい、長谷川」

 

楓が杖から飛び降りるのを見届けつつ、真名の方を振り向く。

真名が指差す方向に気づき、今一度顔をそちらに向けると、かなり遠くの方だが小さな竜巻が起きているのが目に見えた。

 

「あれは‥!竜巻‥‥ネギか!」

「間違い無いだろう」

「わかった、いくぜ!しっかり捕まってろ、振り落とされるんじゃねえぞ!?5分もせずに着く!」

 

二人の了承を得ずに杖を急発進させて現場へ直行する。

敵は月詠か、白の少年か。

後者だった場合、嫌でも全力を出さなければ勝てない相手だと分かっている。

 

「無事でいてくれ‥!」

 

だからこそ、今出せる全力で守りに行く。

ネギを、木乃香を、クラスメイトたちを。

そして、自ら生きると決めた現実を。

どうか、どうか。

今度こそは、力になれるようにと祈りながら。




次回からガチ☆バトル!‥です。
多分長くて3話。
多分。
‥自分の多分はあまり信用ならないので気にせずお待ちください。
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