大遅刻。
大‥‥ごめんなさい今後はなるべく更新します。
夜の帷と淡く光る満月。
少女の目の前には巨大な何か。
生きているのだろうか。
だがそれはまるで、横たわった大樹のようだった。
********************
木乃香をさらった一味を追いかけてきた刹那と明日菜。
足止めとして召喚された約150体の鬼・妖魔を刹那と明日菜が相手をし、杖に乗って高速で移動できるネギを先に行かせるというカモの作戦に乗り、いざ相手にしようとしていた。
ネギは間に合うのか。
そもそも自分たちはこの場を切り抜けられるのか。
それに明日菜は仮契約を済ませ、式神祓いの武具を持っているとはいえ一般人。
退魔士の自分がいると考えてもそう容易い話ではない。
いざとなったら一族の掟を破ってでもこの場を切り抜けるしか、と気合を入れ直して夕凪を構える。
行きましょう!と明日菜に声をかけようとしたその時、後方からなにかが一筋の直線を描いて飛来する。
鬼の眉間に飛んだそれが銃弾だと分かった時、すぐに長身色黒のクラスメイトの顔を思い出す。
まさかと後ろを向く間に、次々と数多の銃弾が明日菜の眼前に広がっていた鬼の群れに降りかかる。
「え!?」
「なんじゃあ!!?」
明日菜も鬼も驚く中、刹那だけがその銃弾の意味を理解していた。
「まさか‥!!」
「いけ古菲!!」
「お任せアルッ!!」
二人分の声が響き、刹那と明日菜の隣に一人の少女が着地する。
目を閉じ、右手を左拳に被せる様に両手を組む金髪ツインテール。
目を開け、両手がそれぞれ円弧を描くように開かれる。
気炎万丈。
「く、くーふぇ!」
「アスナ!これみんな本物アルか!?」
「古!まさかお前まで‥!さっきの銃弾は龍宮だな!?」
「もう1人いるアルヨ♡」
「もう1人!?」
「
半透明の剣が鬼の胸や大刀に突き刺さる。
反応が鈍い数十の鬼がただただ浮遊する剣の群れに貫かれ、露と消えていく。
「新手か!?」
「気ぃつけぇ!!この技はこの国のモンじゃあねえぞ!!」
「なら極東の業を見せてやるよ」
「!?」
拳を引く。
拳と拳が脊髄によって連動され、一本の線が伸ばされるように拳が突き出される。
一歩、踏みこむ。
我流気合武闘・一。
真っ直ぐに突き出された拳に一拍遅れて鬼たちの一角がまとめて吹き飛ばされた。
「正拳突き‥‥見様見真似だけどな」
「千雨ちゃん!!」
「千雨さん‥」
「神楽坂、桜咲!おっ始める前に間に合ってよかった‥!」
千雨が地面に刺してあった丸太と霧雨の王旗を持って三人の元へ駆け寄る。
「お、おなごが増えたぞ!?」
「見た目に騙されるな!ワシら以上の膂力を持っておるぞ!!」
「伏兵に備えいぃ!!姿が見えぬ狙撃手がおるそぉ!」
「おいおい、酷い言われようだな神楽坂。馬鹿力だってよ」
「いやどう考えてもアンタでしょ言われたの」
「そんなこと言ってる場合か?」
「言い出したのはアンタでしょー!?‥てゆーかなにその丸太」
「超に文句言え」
いくらラカン仕込みのパワーとはいえ怪物以上のパワーと、しかもその怪物に面とは言われたくない。
難しいお年頃だ。
「木乃香とネギ坊主はどこアルか!?」
「拐われたお嬢様を1人先行して追いかけている!!‥千雨さん、先へ行っていただけませんか!?」
「ネギ1人に行かせたのかよ!?‥わあーった、私が先に‥」
「!! 長谷川、刹那!!」
4人と鬼の群れの後方の森、樹々で姿を隠してながら次の標的に狙いを定めていた、スナイパーライフルを構えていた真名から警告が入る。
途端に鬼たちの頭上を通り、千雨たちに斬撃が放たれる。
すぐに反応して前に出る2人。
「オン」
「チッ!」
千雨は“気”を纏わせた霧雨の王旗で、刹那は札を翳した防御の構えでそれぞれ斬撃を防ぐ。
「きゃあああぁぁぁ!?」
「今のは‥!」
「斬空閃です!これを使える敵方は1人しかいない!」
「‥本当は‥もう少し様子見する予定だったんです〜。けど、おじょーさまを追って行ったのは魔法使い君1人‥。それも足止めが。‥なら、好きにしてもよろしいですね〜」
「月詠‥」
土煙が一閃によって切り払われ、現れたゴスロリ少女。
一昨日千雨が見たときと何ら変わりない、穏やかな顔だ。
だか、手には見覚えのない黒い刀が添えられていた。
「待って!いま、足止めって‥!」
「‥当然だな。今のところこの鬼ども以外じゃあ敵は4人。1人2人がネギの足止めに使われてもおかしくはねえ‥」
「じゃあ早く助けに行かないと!」
「それもわかってる!!古菲、この鬼どもはどうにか出来そうか!?」
「問題ないアル!稀に見る実戦、無駄にはしないアルヨ!」
「いやそこじゃなくてだな‥‥まあいいか。‥龍宮!任せるぞ!?」
「ああ」
古菲が無茶をしても真名がいれば大丈夫だろうと頷く千雨。
真名のことは一度調べただけだが、かなり有名な殺し屋のようだ。
この中でも1,2を争うほどの戦闘経験があるはず。
悪いようにはならないだろう。
それを確認し、残る問題はと月詠を見る。
月詠は余所見もせずに千雨だけを見つめていた。
「‥穴空きそうだぜ」
「ふふ‥この熱を‥‥受け取って、いただけますか?」
「‥おい、桜咲‥」
「‥」
「‥‥桜咲?」
「バカな‥‥有り得ない!その刀は‥!!」
「流石に御目が高いですなぁ、センパイ♡」
え、そういう関係なの?と明日菜が刹那と月詠を見る。
刹那に月詠の相手を任せようとしていた千雨も、何かおかしいと月詠を見る。
月詠は強者である。
それは間違いない。
だが、何故か今はその月詠よりも月詠が持つ黒い刀の方に目が惹きつけられるのだ。
「妖刀ひな!!何故その刀を貴様が持っている!?月詠!!」
「ふふふ‥‥今足りない力を補ってでも‥もう一度貴女様と立ち合う。その為に、フェイトはんの力も借りてまで拝借してきましたえ」
「‥フェイト?」
「あら、まだ名乗ってへんかった?」
首を傾げる千雨だが、月詠の言葉を鵜呑みにするなら千雨が会った人物なのだろう。
恐らく、昼間に戦った白髪の少年の名前。
「‥刀一本がなんだってんだ?確かに妙な感じがする刀だがな、魔法具ってわけでもねーだろそれ」
「ふふ‥‥♡では、とくと御覧じろ」
月詠の身体が掻き消え、千雨の眼前に鋒が迫っていた。
反射で顔を逸らした千雨だが、次いで迫る掌を防ぐことはできなかった。
凄まじい勢いで吹き飛ばされる千雨。
森の木々に何本もぶつかるが、千雨の身体が全てへし折っていく。
その一部始終を見ていた刹那と真名は驚愕の表情を見せる。
特に刹那だ。
ただ刹那はそのスピードよりも、目の前の少女が妖刀ひなを持ったまま直線の動きができていることに驚いていた。
手にした者は心を奪われ、妖刀の思うがままにその者が持つ能力以上の力を引き出され、刀の赴くままに暴れてしまう。
刹那の師匠も刹那への説明の為とはいえ、一時妖刀に取り憑かれてしまい、騒動の鎮圧に神鳴流総出で掛かった過去があった。
だが、目の前の月詠はどうだ。
元々戦闘狂いのような面があったが、そこに変化はなさそうだ。
変わったのはスピードとパワーだけのように見える。
つまり。
「月詠‥‥貴様‥‥!?呑まれていないのか!?」
「うふふふ‥‥♡どうやらこの刀とウチは‥相性バッチリやったみたいですなぁ。‥‥センパイともヤリたいですが‥‥今は、あの方との逢瀬の刻を楽しまさせていただきますぅ」
「なに!?」
「気色悪い言い方してんじゃねーぞ色欲魔」
「ち、千雨ちゃん!!」
いつの間にか森から出てきていた千雨に明日菜が駆け寄る。
明日菜の目には、千雨の浴衣には枝や葉が突き刺さり、千雨の身体からは所々血が出ているように映り、痛々しいとまで言えるほど。
だが、足取りはしっかりしており、千雨自身もまだまだ戦えると自覚していた。
「‥桜咲」
「は、はい」
「お前にソイツ任せようと思ったがやめた。お前は‥神楽坂と一緒にネギを追え」
「!? し、しかし‥‥」
「わかってんだろ?今の月詠はお前の手に余るよ」
「それはわかっています!しかし、今の此奴は明らかに普通ではない!私も手伝いますから、2人でかかるべきです!!」
2人でという点に月詠がピクリと反応する。
月詠の脳裏に浮かんだのは百合に囲まれた刹那と千雨がこちらに手を伸ばす様子。
両手に花。
いや、この場合は白く洗練された美しい刀と荒い造りに紅い大剣か。
どちらにせよ、鼻血が出そうだ。
「桜咲、お前がその刀をいやに警戒してるのは何か知ってるからだろう。だが、そうじゃねえよ。目的を履き違えてねえか?最終的な目標は近衛の奪還・保護だ。大体、お前はなんだ?」
「え?なんだ、とは‥‥」
「訊き直してやる。‥桜咲刹那。お前は何者だ?」
「何者‥」
何者と言われたら。
神鳴流の剣士で。
‥3-Aのクラスメイト、魔法生徒で。
退魔師でもあり、誰にも言ってないけど烏族の半妖でもあって。
‥‥。
「‥‥お嬢様の護衛剣士。‥このちゃんの‥」
「そうだ‥。そんなお前がなんでここにいる?寧ろスピードあるからってネギに先行かせた方が驚きだぜ」
適材適所と言えば正しいけどな、と頷く千雨。
そうだ。
でも、わたしは。
私みたいな化け物が、お嬢様に近づくこと自体がそもそも。
私は烏族。
それもハーフでありながら、一族からも見放される白の烏。
「わた、しは‥‥」
「‥‥わたしもな、ネギ目当てで日本に来た。ネギを勝手に見守って、アイツが魔法使いとして一人前になるまで、アイツがデカくなるまで、守ろうって決めて来た。半ばネギには押し付ける形でな」
それも、ナギの情報で釣った。
だが、形振りなど構ってはいられなかった。
早く一人前にさせたい、ナギの息子を見守りたい。
‥だが、千雨の予想とは違う意味でネギは期待を裏切り始めた。
10歳とは言えナギの息子。
その才覚を既に彼は発揮し始めている。
エヴァンジェリンとの戦いがきっかけになったか。
エヴァンジェリンに競り勝ち、この修学旅行でも先頭に立って生徒を守っている。
このまま成長を続ければ、彼はきっとそう遠くない未来に真実に辿り着く。
それは、千雨が辿り着いて欲しくない真実。
その手前で良かった。
ネギのナギに対する執着心は相当のものだろう。
それまでに、自分は‥。
けど、今は違う話だと首を振る。
「良いじゃねえか嫌われても。好きになってもらえる努力をしろよ。お前が何を遠慮してんだか恐れてんだか知らねえけどな、嫌われても危険な目に合わせても、それを全部お前が何とかしてやりゃいい話だろうが。それを今日この場で、お前が証明してやれよ」
「‥‥」
「‥もう一度訊くぞ。お前は何だ?」
「木乃香お嬢様の護衛剣士。そして、このちゃんの‥友達です」
「そうか」
「長谷川千雨殿」
夕凪を鞘に納め、佇まいを直す刹那。
はっきりとした口調で声が響いた。
明日菜が刹那の顔を改めて見ると、先ほどまで鬼と戦おうと、ネギに先に行ってくれと言った時とは顔つきがまるで違う。
ぶれず、迷いのない目。
「敵はまがりなりにも神鳴流を修めし者。本来、その技を知る私が相手をすべきところ。そこを恥を忍んでお頼み申し上げます。月詠を‥止めてください」
「‥ああ、任せな」
「恩に着ます」
千雨が霧雨の王旗を空間系の魔法陣にしまい、丸太をポイと放り出す。
「それに、神鳴流の技ならわたしも知ってる」
「え?」
徐に千雨が大光の両刃剣を振り抜く。
振り抜かれた赤い刀身から飛び出た
月詠も呆気に取られながらも反射でそれを叩き斬っていた。
「斬空せ‥‥!!?」
「チッ、やっぱりその神鳴流剣士が使ってる刀じゃないと上手くいかねえのか?うまく速く飛ばねえな。流石にバカ親父も神鳴流の刀は持ってなかったからな」
「‥‥どうやら、ウチの目に狂いはなかったようですぅ」
「ああ、見る目あるよお前。‥‥だが、お前の方は万全じゃあないみたいだな?」
千雨の目はひなを持つ月詠の右手ではなく、左手に向いていた。
手隙の左手は、所在無さげにゆらゆら動かされている。
懐に入っているであろう小刀を何故か出さない。
「小刀は所詮素手の延長。無くともウチの戦い方に変わりはありませんえ」
「‥だといいがね。神楽坂、お前も桜咲についてけ。それと、伝言を頼む」
「へ?伝言って、ネギに?」
「いや。古菲、お前はこっちに近づかずに鬼どもと遊んでろ!」
「私も手を出したらダメアルか?」
「やめとけ、“気”も思い通りに使えないお前にはまだ早い。まず見とけ」
ウズウズとしてるのが目に見てわかったので釘を刺しておく。
なお遊んでおけと言われた鬼たちは微妙な顔だ。
ワシら、一応仕事としてきてるんじゃが。
明日菜が伝言って何よ?みたいな顔をしながら近づいてきたので小さな声で明日菜の耳元に内容を告げた。
え?と意味がわからないという表情の明日菜にすぐに行くように顎で示すと、刹那と一緒にその場を離れていった。
「‥‥ふふ、ようやく‥その気になってくれはった、いうことでよろしいですかー?」
「悪いが、お前のペースに付き合う気はねえ」
「?」
手にした大光の両刃剣の魔力が迸る。
赤熱の籠る分厚い刃が横に構えられ、千雨の細い身体と合わさってまるで大鎌のようだ。
首を刈り取る。
そう告げられたかのように錯覚した月詠は、えも言われぬ心地良い気分に陥る。
周りの鬼や娘など関係ない。
今、貴方様の御目には私しか映っていない。
貴方様の瞳に私独りが、ただ在るだけ。
「神鳴流、月詠」
「長谷川千雨‥‥“
「アハッ♡」
月詠が瞬動術による撹乱を開始する。
いきなり姿を消した月詠に、とりあえず離れなければと古菲の方を見てから走り出す千雨。
真名の居場所はわからないが、なんとかなる‥というより何とかするだろう。
鬼たちもその場を後にしようとする千雨を追っては来なかった。
流石に力量が違う相手だと気づいたか。
古菲と瞬く間を取り、森へと入る千雨。
周りの木々によって出来ている千雨の死角で“入り”と“抜き”を行い、千雨の目からは月詠がどこを移動しているかはまるで見えない。
そんな月詠を千雨は冷静である、と判断していた。
刹那の口振りからすると月詠が持っていた黒い刀は曰く付きのブツのようだが、月詠はそれに呑み込まれていないとも言っていた。
単純にパワー・スピードが一昨日とは別人のように発揮している。
ただ、今の月詠は一刀のみ。
二刀が一刀になったところで、と本人は言っていたが、そもそも神鳴流は大刀一本の流派。
それなのに月詠は小刀と脇差の二刀を見事に操る神鳴流剣士だった。
そして、その流儀を自分から捨ててしまった今の月詠。
「なら、付け入る隙はいくらでもあるってこった‥」
まずは神速ともいえる今の月詠を止めなければ。
瞬動の連発なんてすぐにスタミナ切れで止まって仕掛けてくるとタカを括っていたが、その認識が誤りであるとすぐに気がつく。
「‥スタミナも増してんのか?」
瞬動の音と、少し離れた戦場からの鬼の悲鳴が響く森。
月詠の位置を探っていた千雨のこめかみ目掛けて黒い何かが飛来し、それを見ずに手掴みする。
手を開いてみると棒状の短剣‥棒手裏剣と呼べる暗剣が千雨の掌に収まっていた。
次々と飛んでくる棒手裏剣を手に持った同じもので弾き飛ばしながら、棒手裏剣が飛んできた方向をそれぞれ確認する。
だが、どの方向を向いても木々はない。というより隠れる木々とは程遠い。
まさか、とあらぬ方向を見やる千雨。
その瞬間、何もない空間から棒手裏剣が現れて飛んでくる一部始終が千雨の目に映った。
何て奴だ、と棒手裏剣を弾き飛ばす。
(月詠の野郎‥‥瞬動の途中で棒手裏剣を投げてやがる‥!!)
流石にそんな奴は見たことがなかった。
ラカンやナギですら出来ない‥というよりやろうとしないだろう。
確かに足は瞬動の動きをする為制限されるから何かするなら腕しかない。
だが、瞬動はその人知を超えた動きから、瞬動の速度を保ったまま別ベクトルの動きをしようものなら身体にかかる負担は半端ではない。
しかも月詠の恐ろしいところは、瞬動の速度の世界で正確に狙いを定めている。
何故戦闘狂の月詠がすぐに飛びかかってこないかようやく理解した。
今はまだ月詠は瞬動の世界で動く慣らしをしているだけだ。
慣れて仕舞えば、千雨の横を通り過ぎる瞬動を行い、その瞬動とともに千雨を斬り捨てればそれで終わりだからだ。
時間を与えれば与えるほど千雨にとっては不都合であり、更に月詠は強くなる。
これ以上思考に割く時間すら惜しい。
「クソ‥‥刀一本捨てた理由がわかったぜ。だが、それでもお前は間違ってるとは思うがな」
「ふふふ♡かも、しれまへんなぁ‥‥。‥けれど」
月詠の声が森中を反響する。
「それでも‥ウチは貴女様と立ち合いたかった」
「悪いが、まだ力不足だ!!」
声と共に大光の両刃剣を振り上げる。
何を、と木々の陰にぴたりと止まった月詠だが、すぐに千雨の狙いを看破する。
まずい。
彼女の狙いは、周囲の木々だ。
大光の両刃剣を勢いよく地面に叩きつけ、岩盤ごと地面を砕く。
振動が大きく大地を揺らし、その余波は隣の戦場の古菲や鬼たちはおろか、既にその場から300mほど離れた明日菜と刹那にも届いていた。
「わ、揺れてる!揺れてるよねこれ刹那さん!!」
「‥‥地震の揺れ方ではありません。何かあったのでしょう。しかし‥」
「うん、わかってる!後ろは気にしちゃダメ、大丈夫!くーふぇも龍宮さんもすごいんでしょ!?千雨ちゃんだってすごく強いし、何とかなる!!」
「はい!!‥!?」
木々の向こう、ネギが飛んでいった方向へ走り続けていた二人。
その先から光の柱が天へと昇るのが見えた。
何か大掛かりなことをしている、と判断する刹那。
「明日菜さん、急ぎましょう!!」
「なにアレ!!?」
********************
夜空を一直線に切り裂いていく青い光。
杖にまたがったネギだ。
その肩にはカモも乗っている。
「明日菜さん、刹那さん‥」
「後ろを見てる場合じゃねえよアニキ!刹那の姐さんがいるんだ、アスナの姐さんも大丈夫に決まってる!それよりもアニキの方がよっぽど危険な役だぜ!?」
「‥うん」
関西呪術協会総本山で対峙した白い髪の少年。
詠春はその少年に不意を突かれて石化されてしまった。
刹那もわずかな攻防で吹き飛ばされてしまった。
明日菜もえっちな(?)ことをされたらしい。
最後はともかく、明らかな強敵。
「戦うわけじゃないにしろ‥
「‥大丈夫、わかってる!絶対に助けるよ!」
「それに‥後方はなんとかなる筈だ!学園長のじーさんに連絡したんなら‥千雨の姐さんにも通ったはず!あの人が来てくれりゃあ百人力だぜ!もう非常事態なんてとっくになってるしな!!」
「‥そう、だね」
千雨への電話は通じなかった。
誰かと通話中だったようだ、おそらく学園長と連絡を取っていたんだろう。
確かに千雨が来てくれれば頼りになる。
エヴァンジェリンとの戦いでも大いに頼りになった。
けど。
脳裏に浮かぶのは吹雪や刃が迫る中で苦し気な表情を浮かべる千雨。
あんな千雨をもう一度見てしまうのか。
「‥アニキ!?」
「え?」
「なにボーっとしてんだよ、何かみえてきたぜ!!」
「あっ!?アレは‥‥!」
ネギとカモの目に映った、森や山に囲まれた巨大な湖。
湖から真上に伸びる大きな光。
光の根元に複数の人影と、横たわる少女が一人。
「木乃香さん!!」
「こ、この強力な魔力は‥!儀式召喚魔法だ!!何かでけえもんを呼び出す気だぜ!!!急げアニキ‥!?」
「!?」
湖めがけて急行しようとしたネギの後方から、黒い
昼間に見たばかりの、黒い犬の形をした精霊。
「狗神!!」
障壁を展開するも杖ごと撃ち落されるネギ。
「うわああぁぁぁ!!?」
衝撃に耐えながら、落下していることにすぐに対処しようと魔法を行使しようとするネギ。
重力の向かう先の森に人影が見えた。
昼間の狗神使いの少年が、こちらを見上げていた。
********************
天へ昇る光は千雨たちからも見えていた。
だが、千雨も月詠も一切そちらの方を向かない。
今、相手への集中力を欠くことは敗北を意味するだろう。
地盤が砕かれ、大きな岩塊や根本から吹き飛んだ樹木が空を舞う。
その一つの樹木に月詠は乗っていた。
月詠も千雨の打撃の余波によって宙へと投げ出されている形になる。
「けれど‥やることは変わりまへん‥‥!?」
そろそろ瞬動の世界の反動も慣れてきた、とひなを構えた月詠。
だが、眼下の千雨が更に大剣を振り回そうとしているのが目に映る。
しかも、狙いは上。
更に何故か地面の方から熱気を感じる。
千雨の目論見は簡単である。
面倒臭い動きをする速い相手。
隠れられては瞬動の隙も突けない。
なら。
「隠れるところから無くしてやる!!」
我流気合武闘・一光。
下から周囲の空気ごと巻き上げながら、大剣が唸る。
「四天炎上!!」
大光の両刃剣は光と炎の両方の特徴を持つ。
光は破壊。
炎は燃焼。
千雨が持つ魔法具の中でも使い勝手が良い大振りの武器だ。
広範囲の炎が空へと燃え上がり、樹木は一瞬にして燃え去り、岩塊も熱されたことによりひび割れ砕け散る。
だが、上空への攻撃を察知していた月詠は既に千雨の後方へ瞬動で退避していた。
千雨との距離、約20m。
月詠なら二歩で届く距離。
トンと地面を蹴る。
一歩、千雨との距離が半分に迫る。
千雨がこちらを振り向きながら片手を振り抜こうとしているのが見えた。
遅い。
二歩。
既にひなを抜き、振っていた。
千雨が片手の掌を此方へ向けているのはわかった。
だが、刹那の刻で刀を振るえる今の月詠には、千雨がなにをしようとその手ごと両断できる自信があった。
そして、それは瞬動の“抜き”とともに終えられる。
居合抜き。
しかも瞬動の最中に行われた正しく刹那の居合い。
反応できる人間などいる筈もない。
なのに。
趣味と実益を兼ねて行っていた人斬り。
いつもあったその感覚が、ひなを介して月詠の手には伝わらなかった。
手応えはあった。
だが、妖刀の刃はただ千雨の掌をなぞっただけ。
いや、掌すら触れていない。
今の感触は。
「‥刃、返し?」
「だから言ってるだろ。お前、そもそもわたしとやり合うのがまだ早いんだよ」
腰と上半身全体に衝撃が走り、がくんと膝をつく月詠。
瞬動で無理をしたツケが来たようだ。
しかし、そんなことなど意にも介さず千雨に信じられないようなものを見るかのような目を向ける。
そんなことがあり得るのか。
刃返し。
それは“武術家や拳法家が使う、気”を用いた防御の極み。
魔法使いが障壁を使うように、武道家や前衛をこなす剣士は“気”で防御できるもの。
だが、刃物を跳ね返すとなると相当のレベルになる。
それを彼女が使うのは別に驚かない。
何せ一昨日戦った時も使ったのだ。
しかし、今の月詠の斬撃は確実に一昨日よりも
妖刀と月詠は酷く相性が良い。
だが、防がれた。
そして、それよりももっと月詠の自信を崩壊させるようなことを、今の千雨はやった。
「‥‥いま、貴女様‥‥ウチが瞬動を行う
「そうじゃねえと間に合わねーだろ」
「‥‥」
信じられないと口が塞がらない月詠。
そんな月詠を見ながら、千雨は師であるラカンのことを思い出していた。
3秒でフルパワーが出せるラカン。
何をしてもダメージにならないラカン。
つーかあのおっさん剣刺さんねーんだけどマジでとか言われるラカン。
頷く千雨。
「‥心配すんな、わたしよりも信じられねーような化け物なんてまだまだいるぞ。いくらでもいるとは言わねーけど」
「‥」
「結局、“気”をつかう剣士だの何だの物理攻撃を仕掛けてくる野郎は、わたしの“気”の防御を貫くほどの攻撃できねーとそもそも土俵に立てねえんだよ。お前はそこに達してない。更にいうと、まだ一昨日の懐に入ってガンガン攻めてくるお前の方が怖かったぜ?」
懐に入られた近距離での戦闘は
いくらなんでも、必殺の一撃を防げるような“気”をずっと全身にかけたまま動けるわけがない。
そして、そういう意味では月詠の二刀流は最適解と言える。
瞬動の最中に無理矢理動くとかいうわけわからねえ技術だけは褒めてやってもいいかな、と思うが口にはしない。
それを極められるととんでもない剣士が誕生してしまうだろう。
それこそ、伝説と呼ばれるような英雄たちと同列の。
今のところは身体への負担でほとんど動けなくなってしまうようだが。
「ま、もう一度その妖刀使った状態でも二刀流出来る様に修行し直してから来いよ。今日のわたしは忙しいんだ」
「‥寛大な御心に感謝すべきところでしょうね〜‥。しかし」
ざっと立つ月詠。
目からは狂気と闘志は失われていなかった。
最早痛みなど脳は伝えておらず、ただ目の前の達人にだけ全集中力が注がれる。
「まだ、ウチが満足出来るほどの‥結びには至らない」
「良いのか?このまま続けたら間違いなく先にお前が死ぬぞ。わたし手加減苦手だし」
「無論。想い人との逢瀬で死ねるは本望です」
「‥そうかい。だが、オメーに付き合う時間はねえんだよ。
魔法陣が千雨の手元に現れ、一本の枝が出てくる。
いや、枝ではないと月詠が認識を改める。
杖だ。
だが、枝と見間違える程に杖として形が整えられていない。
枝葉も枝分かれもある、一本の杖。
「フェイトはんの話には半信半疑でしたが‥‥その腕前で魔法使い!」
「不服か?」
「いえ、ウチの目は正しかったと思うばかり」
「‥そうか?わたしよりも桜咲に目をつけたのは良いと思うがな。今日の昼間にやり合ったって?」
「ええ。あの方も貴女様も、ウチが頂くまで!!」
ドンと音を立てて地を蹴る月詠。
ひなを構えて斬岩剣の構えを取る。
たとえ命を散らしても良い。
この方に終わらせられるのなら、それで。
千雨は間違いなく同世代では最強の使い手。
かつて月詠に教えた師よりも強く、未だ相見えたことのない“気”と魔法の使い手。
これほどの御人ならば。
そんな彼女に対し、千雨は勿体無いと思っていた。
かつて体を痛めつけるような過酷な修行を自主的に行ってた千雨が言えたことではないが、どうしてこう死にたがりなのか。
一つの物事に集中し過ぎだ。
だが、それも今は捨て置くしかない。
今の千雨がすべきことは、少しでも早くネギたちの加勢に行くことだ。
慣れた手つきで枝のような杖を地面に突き立てる。
先程の大光の両刃剣の時とは違い、サクッと軽く刺しただけだ。
そして、
「
大地が鳴動し、月詠と千雨の目の前に巨大な根っこの一部が現れる。
物が燃えた匂いに一気に土の匂いが混ざり、月詠の鼻に障る。
「何かと思えばただの木とは!」
拍子抜けも良いところや、と軽くひなを振るって斬岩剣を放つ。
だが、岩をも斬り捨てる筈の豪剣が、木の根の表面に少し食い込んだ程度で何故か止まる。
「へ」
「ナメんなよ、この土壇場で出すモノがたかが木なわけねーだろ!」
すぐに刃を返そうとひなを抜くが、月詠の足元から新しい木が勢いよく生え始めた。
木々に追われて上へ逃げる月詠を眺めながら、千雨は魔法世界を離れる前日、世話になった人々への礼をすべく方々を訪ねた時のことを思い出していた。
義理の父はいても、母がいないのでは寂しかろうと何度もお忍びで足を運んでくれた人。
まだ自分も少女だったのに、千雨のことをいつも心配してくれた人。
修行でボロボロになった千雨を見て、いつもラカンに突っかかっていたのを思い出す。
その人がくれた贈り物。
木が為した伝説の龍、帝都守護聖獣が一匹。
それが幼な子を護る為に生み出す鱗。
「龍樹の芽鱗杖———。たかが杖だと甘く見てくれんなよ、わたしが持ってる魔法具の中でも一、二を争うほど格が高いぜ?」
刃が通らない。
千雨の刃返しとはまた違う感触、と迫り来る木々を妖刀で押しやって何とか逃れようとする月詠。
刃返しは“気”による弾力があった。
だが、この樹木たちは表面は斬れる。
その表面の下にまるで木が数百本集まったかのような感触で刀が止められてしまうのだ。
しかも、ここは森。
もうそこらに生えている木は足場として信頼できない、とちらりと周囲の木々を見ると、何故か先ほどまであった森の木々が次々と枯れていっている。
「!? 周囲の生命を‥!」
「心配すんな、吸ってるのは木と大地の栄養と水だけだ。当然だろ?草木は根や葉を介して食事や呼吸をする。龍樹は昔、そうやって生まれたそうだぜ」
千雨は既に動いていない。
余裕綽々ですなぁ?と声をかけようとする月詠だが、千雨の身体の一部が淡い緑光を放っていることに気がつく。
身体の一部とは正確ではないか。
月詠が一度千雨を吹き飛ばしてボロボロにした浴衣。
その浴衣の下に何かを着ているのだろうが、その服の紋様のような物が光っているようだ。
まるで、踊り狂う木々に呼応するかのように。
「何を仕込んでるのやら!楽しみですなぁ!!」
「お前に見せるためのもんじゃねーよ‥」
千雨の浴衣、その内側の服が一際大きく光り、千雨の足元の大地がボコリと隆起する。
そのまま千雨が龍樹の芽鱗杖を持って飛び上がるのと同時に、大地を突き破って巨大な腕を模した木が月詠目掛けて襲いかかった。
「龍樹に捕食されときな」
「ややわぁ!御免被りますぅ!!」
空中では避けようがないなら、全身全霊の“気”で防ぐのみ。
突き出された龍樹の腕と妖刀ひなの鍔迫り合い。
パワーでは完全に負けているのでそのまま上空へと押し出され、森の高さを抜ける。
早々に抜け出したくても動けない。
閉じ込めようとする腕の握力に抗うのが精一杯で、脱出が出来ないのだ。
「こ‥‥のま、ま!!時間稼ぎのおつもり‥‥なら!!イケズやわぁ‥!!!」
月詠の声が地上に着地した千雨に届く。
だが、もう用はないとくるりと背く千雨。
逃げる気。
そんな、まだ足りない。
どちらかの血で刃が濡れるその時まで。
死が骸へと変えてくれるまで。
「まだ!!終ワ‥レ!!」
ひなが一際妖しく光る。
月詠の視界が一瞬暗転しかける。
そして更に増した月詠の膂力が、龍樹の腕をこじ開けようとしたその時。
月詠は、約200mほどの距離を飛んできた銃弾に被弾した。
その銃弾が突き刺さったのはひなを持つ月詠の右手。
だが、何故かびくんと月詠の身体が跳ね、そのまま急に動きを止めてしまう。
その様子を遠方から確認していた千雨は、狙撃手———真名に問いただしたくなった。
「あのアマ‥なんの弾持ってんだ?こえー奴だな」
明日菜に頼んだ伝言。
それはネギやカモにではなく真名に伝えて欲しかった物。
『隙を見て何とかしてくれ。かかった費用は払う』
こんな適当な伝言なので明日菜は困惑してたが、最適なアシストをこなした真名は流石である。
いつ出来るかわからない“隙”とやらを逃さず、木々に文字通り囲まれた月詠を正確に撃った真名。
今放たれた弾は効果からして中々高級そうだったが、それとは別に報酬も払おうと決めた千雨。
優秀な戦力とのコネを持っておくのは悪くない。
ぱかりと携帯電話を開き、かかった時間を確認する。
およそ5分。
及第点だな、とすぐに走り始める。
天に伸びる光の柱。
その下に居るはずのクラスメイトを助けに行く為に。
実は話の細かい展開に悩んで色々今までの話にも手を加えるかもしれませんが、大まかなところは変えません。
細かいそんなとこまで気にするのかみたいなところ変えます。
多分。
チャキチャキ書く(予定)ですので期待せずにお待ちください。