これも二つに分けるくらい文量あります、なんでかなあ。
修学旅行編は多分あと二話くらいです。
君の笑顔を最後に見たのはいつだったかな。
ねえ、待って。
強くなんてならなくていいの。
ただ、傍にいてほしかっただけなのに。
********************
すぐに龍樹の芽鱗杖を魔法空間にしまい、一先ず古菲と真名がいる戦場に戻り始める千雨。
飛行用の杖———超特製の丸太を回収する為だ。
龍樹によって生み出された杖を飛行用に使うなど用途からして有り得ないというより、おっかなくて持ちたくないというのが本音である。
「神楽坂と桜咲は‥‥もうネギくらいには追いついている頃か!ケータイで連絡取って‥」
走りながら再度携帯電話を取り出し、明日菜に電話をかける千雨。
だが今度も繋がらない。
まさか、また何かあったのか。
電話にも出られないような切迫した状況なのか。
それとも‥‥。
「くそ、急がねーと!!」
最悪の状況が頭に浮かび上がったのを無視し、さらに勢いを増して走る。
千雨によって枯らした森を抜け、すぐに戦塵騒めく開けた場所に出た。
すぐに鬼たちの群れとそれに囲まれた1人の少女が目に見える。
「古菲!!」
「お、千雨!」
古菲の方を向くと丁度古菲の二倍くらいの体格の鬼を拳撃一発で吹き飛ばしてるところだった。
ポカンと呆気に取られる千雨。
(‥あれ?古菲って表の人間だよな?)
「勝ったアルか!?」
「あ、うん」
「じゃあこれアルな!ちゃんと取っておいたアル!」
「あ、ああ。悪いな」
ズッシリと重そうにしながらもしっかりとした足取りで丸太を持ち運ぶ古菲。
千雨に丸太を渡した途端、すぐに振り返って鬼の群れに飛び込む古菲。
割と善戦しているどころか寧ろ古菲の方が押してるようだ。
「‥アイツにゃ恐れってもんがねーのか」
龍宮はどこだと周囲を見ると、こちらは鬼たちに距離を詰められてガン=カタで応戦してるところだった。
真名もいつもの表情を崩さず、余裕そうだ。
一体一体を落ち着いて撃破しつつある状況だが、銃を文字通り振るう間にも千雨の方を見てきた。
目と目が合い、意思を通じ合わせる。
この状況なら、千雨がここに手を貸す必要はないだろう。
楓には夕映を回収したら合流してくれ、と伝えてあったがそれも要らないかもしれない。
流石である。
すぐに踵を返し、丸太に乗る千雨。
だが、浮かび始める前に携帯電話を見る。
もし今、電話に出れないほど切迫した状況‥なら、まだ良い。
だが、もう電話に出られないのだったら?
もしくは、それに至る直前だったら。
「‥使いたくねーとか、言ってる場合じゃあねえな」
取り出したのは、一度しまった龍樹の芽鱗杖。
まだ先程大地から吸収した魔力が残っている。
「初めて使うが、やるしかねえか‥!!」
********************
先行して木乃香の救出に向かっていたネギは、昼間戦った少年———犬上小太郎にその足を止められ、挑発に乗せられていた。
逃げるのか、と。
少年ネギ・スプリングフィールド。
彼の同年代で友と呼べる人物は幼馴染のアンナ・ココロウァのみ。
幼年期を1人で過ごし、ある事件が起きて麻帆良学園に教師業を命じられるまでの6年間は取り憑かれた様に魔法の勉強に打ち込んだ。
故に。
同年代で、同性で。
少年ネギに真正面から向き合った初めての人物。
それが犬上小太郎という、後のネギのライバルに至る少年。
ネギにとっては、初めて負けたくないと思った人物でもある。
少年期特有のライバル心から、カモの説得にも耳を貸さずに戦い始めるその時。
無粋とも言える横槍を、一投げ入れる少女が1人。
「え!?」
「何!?」
飛んできたのは人の丈ほどもある十字手裏剣。
少年2人からすると手と足を止めざるを得ない程の大きさだ。
小太郎が手裏剣の出所を探る間もなく、目の前に長身の人影が現れる。
胸に手を当てられ、掌底一撃。
すぐにネギから10mほど突き放される小太郎。
「がっ‥‥残像!?分身攻撃!?なっ‥何者や!?」
ネギも一息遅れて小太郎に掌底を入れた者が消える実体だと気がつく。
今消えた後ろ姿には見覚えがあった。
エヴァンジェリンとのことで悩んでいた時、何も言わずに悩むネギを受け入れてくれたのほほん忍者。
どこに!?と周りを見渡すと、木の上に1人の影。
木の上から1人の人物‥いや、長身の少女に小柄な少女が抱えられている為、2人の人物が地面に降り立つ。
「な、長瀬さん!!夕映さん!?」
「あ、あんたは!?」
「熱くなって我を忘れ大局を見誤るとは‥‥精進が足りぬでござるよネギ坊主」
千雨たちから離れて行動していた楓と、その楓に保護された夕映である。
関西呪術協会総本山に現れた脅威から逃れた夕映は、楓に連絡を入れて助けを求めたのだ。
「な、長瀬さん‥‥な、何でここに‥?」
「何や姉ちゃん達は!!」
声を荒げて威嚇しながらも、油断なく構える小太郎。
強敵だと認識するくらいには、楓のことを認めていた。
「さ、ネギ坊主。ここは拙者に任せて行くでござる。急ぐのでござろう?」
「で、でも!え?あのっ‥」
「待ってくれ!アンタ、1人で来たわけじゃないよな!?」
「おお、オコジョ殿。直接話すのは初めてでござるな」
あたふた混乱するネギに、横からカモがさっと質問を投げかける。
だがカモが言葉を解し駆使しても、特に驚く様子はない。
つまり、普段からネギやカモのことがバレている‥というより目敏く気付く人物。
逆に夕映はオコジョが喋った‥と口にはしないが少し目を輝かせていた。
事実は小説よりも空想論学よりも奇なり。
「うむ。古菲、真名、千雨殿。その3人が何やら騒がしく争っていた方へと赴いたでござる。拙者は夕映殿と合流を図った所」
「ど、どうもです」
「‥多分、おれっちたちが離れたとこだ!明日菜の姐さんたちは大丈夫だぜ、兄貴!」
「‥う、うん」
明日菜たちと合流出来たであろう。
それは良かった。
明日菜たちの無事が確保されるから。
でも、その分生徒が3人、危険に晒されるかもしれない。
特に、また千雨が戦場に立ってしまった。
ネギの顔に翳りが見える。
「なら、少し話が変わるな‥‥よし」
カモの小さな頭脳が回転する。
恐らく、5人もあの鬼たちの相手は要るまい。
5人のうち2、3人か。
鬼の相手はそれで十分だろう。
ならば
木乃香をネギ1人で掻っ攫えなかった時に保険として手を考える必要があるのだ。
「‥よっしゃ!!先を急ぐぜぃ、兄貴!!」
「ま、待って!まだ小太郎くんが‥」
「そうや、俺との勝負を‥!!」
「ニン」
楓が軽く腕を振るうと苦無が2本、小太郎の足元に刺さる。
邪魔をしてはならぬ。
楓は小太郎に睨みつけられたまま、小太郎の方を向いてネギの前に立ちはだかった。
「行け、ネギ坊主。オヌシの成すべき大事を忘れるな」
「‥!」
「大丈夫でござる。拙者もオヌシが心配する
そう、今やるべきは木乃香を助け出すこと。
ネギ側の陣営で一番木乃香に近い戦場は恐らくこの場であろうことはネギでもわかっていた。
だからこそ、足を止めるべきではないことを。
意を決した顔で杖に跨り、カモに声をかける。
「すいません、長瀬さん!‥乗って、カモくん!!」
「おうよっ!のっぽの姉ちゃん頼んだぜ!!」
「承知」
すぐに浮かび上がるネギとカモ。
それに待ったをかけようとした小太郎だが、また楓から苦無が飛ぶ。
楓からしてみたら小太郎もネギとは変わらない歳の少年である、くらいにしか思わない。
ただ、良い目をしている、とも評価していた。
ネギとは違って好戦的。
今の様子からしてネギの少年心も引き出した様だ。
ネギと変わらぬ、前途有望な少年。
だからこそ、今は手を出さぬ様。
口上を述べて立ち塞がるは極東の兵、忍である。
‥バトル漫画さながらの展開に、空気を読んでおトイレに行った夕映は蛇足である。
心中で楓に礼を言いながら、すぐにまた光の柱に向かって高速で飛び始めるネギ。
飛びながらカモと2人で作戦会議だ。
「明日菜の姐さんたち2人に加勢が行った!ってぇなら‥何人か戦力を分けてこちらへ向けてくれてるはずだ!それを確認してえ!兄貴、
「うん!」
そうである。
千雨はそのことを失念していた。
普段ノートパソコンは有線で扱っているからか、携帯電話の通信方式が無線であることを忘れていたのだ。
単純に電話が繋がらなかったのは、圏外だったからである。
まだまだ不慣れと言えた。
「アスナさん、アスナさん!」
『もしもし!ネギ!?いまどこ!?』
すぐに
2日目にちゃんと
「兄貴、繋げてくれ!‥姐さんか!?まずは状況を教えてくれ!」
ネギは手に乗ったカモに意識伝達の魔法を使い、飛びながらすぐに戦う準備を始める。
相手は強敵。
一つ考える必要がある。
勝てなくても良い。
少し隙を作ってその間に木乃香を攫えば良いのだ。
「‥千雨の姐さんは向かって来てねえのか!?」
『な、なんかすごい強そうな奴が来て!』
「戦力は3人‥!アスナの姐さんと刹那の姉さんだから2人ともすぐに兄貴の元に呼べるが‥!」
いくら3人とはいえ、あの白髪の少年が出て来ては勝ち目がない。
サウザンドマスターの盟友とも言える詠春が負けた相手だ。
直接戦闘は避けたいところ。
3人とも戦闘の場に出るのはネギ1人で木乃香を攫えなかったという最悪の場合の話である。
「ぐうっ‥どうする!!?ネギの兄貴1人じゃああの少年の相手は無理だ!ありゃ相当やべえ!!」
「大丈夫!まずは僕がやる!」
「兄貴!?」
『何言ってんのバカネギ!!』
念話の内容は刹那には伝わっていなかったが、明日菜の様子からネギが無茶なことを言い出したのだろう、と走りながら自分の
『ネギ先生』
「わっ、刹那さん!?えーと、えーと」
「兄貴、刹那の姉さんのマスターカードだって」
「あ、うん。‥も、もしもし。カモくんにも繋げますね」
『ネギ先生。お嬢様を救いたいのは私も‥いえ。その想いに優劣を着けるのはあるまじきことだと承知していますが、それでも私もお嬢様をお救いしたい。きっと、この中の誰よりもそう思っています。私も命を賭します。貴方1人で危ない橋を渡る理由などないんです、ネギ先生』
「刹那さん‥」
「兄貴、スピードがある兄貴1人で突っ込むのは良いけどよ、やっぱり失敗した時の代案がいるって!明日菜の姐さん、刹那の姉さん!その時には2人で来てくんねえか!?
『うん!私たちだけ大事な時に待機してるなんてそんなこと‥‥』
『カモさん、お待ちください。私1人だけなら恐らく今よりも速いスピードで移動できます。それを使えないでしょうか?』
「なに!?どういうこったそりゃあ!!」
『空から行きます!』
「空ぁ!?‥なるほど、待てよ?ならいくつか手は出てくるぜぇ!!‥よし!」
カモから作戦が伝えられる。
なるほど、それならイケるかもしれない。
だが。
「で、でもそれはアスナさんが!!」
『何言ってんのよ、木乃香のピンチなのよ!?私もやるの!!なんとかなるって!!』
「分が悪い賭けなのは間違いねえ。っていうか明日菜の姐さんの負担が大きいのも間違いねえ。けど多分出てくんのは白髪の少年と‥あの呪符師の猿女だ。それが適任なんだ!兄貴だって危ねえ橋渡んのは変わんねえぞ!?」
『ネギ先生。皆が皆、自分で納得してこの場に来てるんです!』
先程楓は何故あんなことを言った?
千雨は何故エヴァンジェリンに戦いを挑んだ?
明日菜は何故ネギとエヴァンジェリンとの戦いに手を貸してくれた?
きっと、それは全て同じ理由。
「‥わかりました。でも、最初に仕掛けるのは僕です。僕があの少年を惹きつけます。
「兄貴、そりゃあ‥!?」
「カモくん、見えてきたよ!」
前方には巨大な湖。
光の柱も伸びたままだ。
もう時間がない。
「ぐうっ‥仕方がねえ!明日菜の姐さん、タイミング見て呼ぶぞ!?」
『オッケー!』
「刹那の姉さんは‥」
『問題ありません、既に別行動で移動を開始しています!湖も見えてきました!』
「よし!」
「カモくん、行くよ!!」
森を抜けて湖に出た途端、ネギが乗った杖が加速して光の柱に一直線に進んでいく。
相手も既にネギに気付いていた。
「‥来たかい、ネギ・スプリングフィールド」
「何やと!?」
儀式召喚魔法を続けていた今回の事件首謀者、天ヶ崎千草。
手は動かしつつも目線を水上の彼方へと遣る。
飛行の勢いで水を後ろに分けつつ、確かに杖に乗った少年が高速で此方へ向かってきていた。
「ぐうっ‥ここまできて!頼みますえ!」
「うん」
まずは小手調べだ、とでも言わんばかりに白髪の少年が召喚魔・ルビカンテをネギに寄越す。
今日の昼間に刹那を射た相手だ。
カモはあんな奴がまだいやがった!という苦悶の表情を浮かべるが、ネギは全身に魔力を充てる。
「契約執行 1秒間 ネギ・スプリングフィールド」
「うおお兄貴!?」
ぎょっと顔を顰めるカモ。
自分が乗る少年の身体が、ネギが乗る杖が更に速度を上げている。
「最大 加速」
勢いそのままに、エンチャントパンチが剣を持ったルビカンテを貫き、ネギの身体がルビカンテを突き破る。
ネギは昼間に小太郎とボコボコになるまで戦っている。
蓄積したダメージと魔力の使い過ぎで一度倒れているほどだ。
夜になってからも風陣結界と雷の暴風、明日菜への魔力供給、杖による移動と、その魔力消費量は並以上に達していた。
なのに、自分への契約執行。
しかも魔力の消費を抑えるために僅か1秒、タイミングが少しでもズレたら通用などするはずもない。
昼間の小太郎戦でも使っていたが、土壇場でのこの戦いのセンスと魔力消費量は何なのか。
やはり、自分の主人は非凡。
この事実に誇らしく思いつつも、不安が拭えないカモ。
このままでは大事なところで取り返しのつかないような事態に至ってしまいそうだ。
戦闘は避けたい。
「‥
「ラス・テル マ・スキル マギステル 吹け 一陣の風!!」
「!」
「風花 風塵乱舞!!」
大量の風が水上に送り込まれ、巻き上がった水が霧へと変わる。
目眩しのつもりだろうとすぐに看破するフェイト。
そんなことに意味はない。
己の反応速度と魔法障壁なら、何をされようと自らの身体を傷つけることなど出来はしないのだ。
それに
水煙から出てこようネギに、掌を向けるフェイト。
そのまま捕まえて至近距離で石の息吹を使えば終わりだ。
呆気ない。
「‥!?」
水煙から出て来たのは、フェイトの予想を外れた———杖。
ネギが乗っていたものだが、肝心のネギがいない。
水煙の途中で降りた?
トッ、という音が背後で鳴った。
自分の後ろには、灯籠しかない筈。
「ああああぁぁぁぁ!!!」
ルビカンテを破った時と同様に身体強化してフェイトの後ろから突っ込むネギ。
至近距離によるエンチャントパンチ。
それを、フェイトの背後に予め構築されていた魔法障壁が無情に止める。
「なっ‥!兄貴の渾身の一撃を魔法障壁だけで!?」
「だから‥ムダだと言ったのに」
「‥へへへ」
笑った。
この土壇場で。
虚勢ではない、何かがある。
なんだと考えつく前に、ネギの口から一言だけが零れる。
「
ネギの掌から予め収束されていた魔力が迸る。
捕縛属性を持つ魔法の射手で、一番基礎の攻撃魔法だが、ちゃんと当たれば効果は大きい。
フェイトの身体は、風の戒めを受けて立ったまま床に縫い付けられた。
「なるほど‥。これはやられたね」
「なーにスカしてんだ思いっきりハマっといて!!このバーカバーカ!!」
「
「え?」
この少年も自分の父を知っている。
思わず尋ねたくなったが、今は木乃香を優先しなければ。
だが、カモは何かがおかしいとフェイトを見ていた。
この余裕は何だ?
自分が捕縛されて身動きが取れない筈なのに。
何かがある。
「あ、兄貴急げ!何かヤバ‥‥」
「‥え」
カモに促されて木乃香の方を向くネギ。
だが、何故木乃香も木乃香に対して何か儀式をしていた呪符師の女もいない。
しかし、それよりも驚くべき人物が何故かネギの背後に立っていた。
「‥だから、言ったのに。無駄だって‥」
「う、そ‥‥!?」
もう1人のフェイトが、ネギに掌を向けて立っていた。
既に魔力を掌に収束させている。
「終わりだよ、ネギくん」
「‥‥!!!」
「兄貴、逃げ—!!」
「斬岩剣!!!」
もうダメかと思われたその時、上空から降りてきた剣撃がもう1人のフェイトを襲う。
やはり魔法障壁が防いでしまうが、フェイトの動きは止まる。
「‥君か、護衛剣士」
「空を飛べたのかい。
「せ、刹那さん!?」
「先生!!」
すぐにネギを攫って離脱する翼を伴った刹那。
白い翼にネギが驚くが、空を飛べるとはこういうことかと合点はいった。
橋板に着地し、フェイト2人に対峙するような構図へと移る。
「これは一体‥!すみませんネギ先生、お嬢様のところへ向かう筈でしたが‥!貴方の努力を無碍にするようなことを」
「何言ってんだ、謝る必要なんてねえって!!」
「そ、そうですよ!ありがとうございます、刹那さん」
「‥しかし‥‥どういうことですか、何故奴が2人!?」
分身ではない。
今の魔法障壁は明らかに2人目のフェイトが作ったものだ。
魔法を使う分身など聞いたことがない。
では、一体何なのか。
「これかい?これは僕の研究の副産物さ」
ネギの戒めの風矢が解除され、2人のフェイトがネギたちの方へと向き直る。
1人目のフェイトが取り出したのは、何も書かれていない無地のカード。
「水の
昼間のシネマ村では、千雨という不確定要素を発見したフェイトが2人目のフェイトを作り、ぶつけた。
お互いに分身だったが、分身同士の単純な勝負ならフェイトに軍配が上がったということになる。
「今回も保険をかけておいたというわけさ。もっとも、その保険の相手は今月詠さんにつかまってるようだから、やる必要はなかったのかもしれないね」
「‥!」
千雨という強力な戦力が、更に敵に罠を張らせることになってしまった。
千雨という存在が裏目に出てしまったのだ。
だが、そのことで千雨を責めるなどできるはずもない。
「さて‥手詰まりかい?」
「くっ‥!」
「こんなヤベェのが、2人‥!!」
「‥! 2人とも、アレ!!」
湖の中心から巨大な水飛沫が吹き上がる。
何かが着水したようだ。
その全容は直ぐに見えた。
それは、顔を二つ持っていた。
それは、腕を四つ持っていた。
それは、背の丈が十間はあった。
両面宿儺。
神と恐れられた伝説の怪物が、目を覚ました瞬間だった。
両面宿儺の顔の側に、宙に浮いた呪符師・千草と、囚われの木乃香が見えた。
儀式召喚魔法が成功しちまったのか、と小さな口を噛み締めるカモ。
目の前には格上の強敵が何故か2人に分身して、更にどデカい怪物、ついでにそれを操る呪符師。
こちらは刹那、魔力を使い果たしかけのネギ、
状況は絶望的であった。
「‥刹那の姉さんなら、木乃香の姉さんのところまではいけるよな?」
「はい。しかし、ここをネギ先生1人に任せるわけには‥!」
「明日菜の姐さんをここに喚んでも、2対2だ。単なる2-2じゃあ勝ち目がねえ!」
「くっ‥!」
『ネギ!ネギ!無事なのアンタ!?』
「あ、アスナさん‥!」
明日菜の
痺れを切らして声をかけてきたのだ。
本来の役目が来るまで待つ筈だったのだが、そう気が長い方でもない。
『このかは!?』
「ご、ごめんなさい、失敗しました‥しかも、白髪の少年が2人に増えて!」
『ええっ!!?‥ネギ、私を今すぐそっちにいかせなさい!!』
「あ、姐さん何言ってんだよ!?姐さんはいざって時の奇襲役だって話ついたじゃねーか!!」
ネギが特攻をかけ、何とか白髪の少年の気を引き、その隙に別方向から空を飛べる刹那が木乃香を攫って脱出。
明日菜はネギが失敗・苦戦した時の緊急召喚要員だった。
『今がそのいざって時でしょ!?ここを逃してネギや刹那さんが大変なことになるなんて、私には無理!!』
「け、けど‥」
『大丈夫!!なんとかなる!!』
全く根拠はない。
だが、ここで何もせずに自分だけが見てるだけなどごめんだ、と明日菜。
そして、そのどこにも保証のない言葉を、心のどこかで信じてしまう自分がいる。
ネギは、
「‥‥
「さあ、やるわよ‥!!‥‥げぇ、ホントに2人いる!?」
「‥君か」
「騒々しいね」
「ってぎゃあああぁぁぁ!!!何あのデカいの!!?」
「お、落ち着け姐さん!!」
「あ、このか!?」
「‥本当に騒々しいね」
「だが、君が来たのはある意味好都合とも言える」
考える暇もない、と構える明日菜、刹那、そしてネギ。
「いくよ」
「来ます!!」
「アスナさん!‥契約執行 30秒間 神楽坂 明日菜!」
「やぁぁぁぁぁ!!!」
気合一声、すぐに突っ込む明日菜。
ネギも刹那も続く。
威勢だけは良い、と感心しながら放たれた石の息吹に明日菜は呑み込まれてしまう。
「あ‥!」
「石の息吹!!コイツ、西洋魔術師か!?」
「そんな‥明日菜さん!!!」
「こんのおおおぉぉぉ!!」
煙の中で振われたハマノツルギが、石の息吹を一振りで吹き飛ばしてしまった。
これにはフェイト2人もネギたちも驚く。
「木乃香を!!返しなさいこのガキンチョ!!!」
石の息吹を吹き飛ばした明日菜が、強化された身体能力を遺憾なく発揮する。
向かって行ったのは本物のフェイトの方だ。
しかも刹那はともかく、後方のネギを置いてけぼりにするほどの速度である。
「まさかこっちを無視するとはね」
明日菜はどちらが本物かなど見ていないのでわからない筈だが、本能で選んだとでも言うのだろうか?
流石に素通りさせる訳にはいかないと
「させん!!」
「神鳴流剣士‥3人の中では1番マシだけど、まだ君は程遠いよ」
「実力など関係ない!今この場で剣を振るえねば、私の人生に意味などない!!」
刹那は既に空中に位置している。
地上戦では大地の魔法使いには分が悪いと判断したのだ。
明日菜が吹き飛ばしてしまったが、無詠唱呪文にしては石の息吹の範囲は大きかった。
肉弾戦だけではなく、魔法の腕も並外れなのだろう。
ただでさえ実力に差がある相手に対して不利な条件で戦う必要はない。
「参る!!」
「ふう」
「面倒だね‥」
「ぐっ!?」
刹那と2人目のフェイトが戦闘に入る少しの間に、フェイトと明日菜の形勢は逆転していた。
ネギも明日菜の援護を、と魔法の射手を撃とうとしたが、フェイトのただの体術に明日菜との二人がかりでも押され、手も足も出ない状況である。
フェイトの独特な動きによる拳撃は二人を橋板に叩きつけ、大きく態勢を崩させる。
「つ、つええっ!ハンパなく!!」
「一撃一撃が重い‥!」
「ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の王よ」
「!!」
「や、やばい!詠唱呪文だ!」
空中に浮いたフェイトをすぐに止める術がない。
明日菜はバッとネギを庇う。
「明日菜さん!!」
「ネギ、ダメ!!」
「その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ」
『ぼーや、雷の暴風の準備だ』
「え」
明日菜を盾になんてできないと明日菜の前に出ようとするが、ネギにどこからか声が響く。
その声は、ネギを手繰り寄せた明日菜にもカモにも聞こえていた。
「石化の邪眼!」
『急げ!!』
「ラス・テル マ・スキル マギステル!!」
石化の邪眼が明日菜ごと橋板を一直線に一薙する。
だが、ぴしりと石化してヒビが入ったのは明日菜の服と橋板のみ。
石化の光線が当たらなかったネギは勿論のこと、着ていた服が石化によって崩れてしまったものの明日菜も無事だ。
フェイトは結論づける。
まさか、
こんな極東の地でお目にかかれようとは。
もしかすると、彼女こそが我々が探していた鍵なのか。
まずは捕らえよう、と一気に降下して頭からネギたちに突っ込むフェイト。
ここしかない。
ここでしか、魔法は当たらない。
「来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の風!!」
「雷の暴風かい?そんな物が効くと‥!?」
「斬空閃!!」
横から放たれた斬撃によって魔法障壁が起動。
一時的にフェイトの動きも止まる。
フェイトの一瞬の隙を生み出したのは少し離れた所で偽フェイトと戦っていた刹那だ。
だが、戦いの最中に余所見をしてしまった者に容赦はなく、拳が刹那の腹に打ち込まれる。
「がはっ‥」
「雷の暴風!!」
「!」
吹き飛ぶ木片と水飛沫を横目に、ネギが詠唱を終える。
至近距離で十数メートルにも及ぶ雷風がフェイトの魔法障壁にぶつかり、干渉し合う。
余波でカモどころかネギも吹き飛ばされそうになるが、フェイトは涼しい顔で空中に留まったまま雷の暴風を受け切るつもりだった。
そう、雷と暴風が吹き荒れる中、その中心を進める大馬鹿者さえいなければ。
「さあ!いたずらの過ぎるガキにはお仕置きよ!!」
「!?」
大剣ほどもあるハリセンを振るう明日菜。
フェイトの魔法障壁は対魔だけではなく対物も性能は高い。
先程もネギのエンチャントパンチと雷の暴風、刹那の斬空閃を防いだばかりだが、まだ障壁に余裕はあった。
なのに。
パキン、と軽い音が鳴ってフェイトの障壁が全て割れてしまった。
「‥
「
至近距離での魔法の射手。
選択肢は一つだった。
「わああああぁぁぁぁ!!!」
「っ!石化の邪眼!!」
左腕に無意識に練り込まれた破壊の矢。
後のネギの十八番となる技の誕生だった。
対してフェイトが咄嗟に選んだのは一番使い慣れた速い呪文。
フェイトと石化の邪眼、ネギの左ストレートが直線上に重なる。
石化の邪眼が明日菜の横を通り過ぎ、ネギの左拳に当たった。
「ネ‥!」
「!?」
止まらない。
ネギの抗魔耐性の高さがネギを守ったのだ。
石化は始まっていたが、この機を逃すことはなかった。
フェイトの脳裏に十数年前の光景が蘇る。
後ろには先に生まれた使徒。
前には不敵な顔をして笑う赤毛の男。
十数年前も同様に、あの男の拳をこうやって受け止めて———。
両手でネギの拳を掴み、少年同士の拳と掌のぶつかり合いとは思えないほどの轟音が鳴る。
止められた!と驚愕するカモ。
いくら障壁が割れていても攻撃が当たらないのでは意味はない。
だからこそ、当てるまで動き続ける。
ネギは右手を既に振りかぶっていた。
イメージは彼女。
広域殲滅呪文のせめぎ合いの中、追撃に撃ち込んだ“気”の砲弾。
(力を貸してください———千雨さん!!)
あの時と同じ様に右ストレートが放たれる。
勿論“気”を使えるわけではないのでラカンインパクトが出るなんてことはなかったが——。
両手の塞がったフェイトの顔を打ち飛ばすには充分だった。
それを上から見ていた千草。
フェイトは新入りであったが、一人で関西呪術協会総本山に侵入し、どうやったかはわからないがサムライマスター・近衛詠春が守る中木乃香をものの数分で攫ってくるほどの実力者。
それが押されている?
「ガキどもが‥!いちびりおって!!スクナ!」
封印から目覚めてすぐは反応が鈍い様だが、それでも両面宿儺は千草の呼びかけに応じて意を汲み取った。
前の顔と後ろの顔の4つの目でギョロリとネギを見る。
右の上腕を動かし、ゆっくり振りかぶろうとしていた。
スクナの狙いの先、生まれて初めて拳を打ち込まれたフェイト。
それはナギですら適わなかったこと。
それを、僅か十歳の少年が?
いや、歳などどうでもいい。
どこの誰が出来たのかもだ。
だが、それをやってくれた少年には、それ相応の報いを与えよう。
「‥ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト」
さあ、永遠の眠りを。
更に、橋板に身体を打ち込まれるように叩きつけられた刹那。
ネギたちを助ける為に作ってしまった隙の代償は大きかった。
まだ動けない。
「君も‥この実力差で善戦したよ。あの少年然り、君然り‥人間とは侮れないね」
「‥な‥‥に‥‥?」
「だが、終わりだ。殺しはしないけど‥もう僕たちの邪魔は出来ないね」
「く‥」
「‥おやすみ」
「‥‥‥ただの時間稼ぎ程度になれば良いと言ってやっただけだったが‥ぼーや、お前の非才さには驚かされるよ」
「!!」
どこからか現れた細く小さな腕が、魔力を籠めようとしていたフェイトの右腕を掴んでいた。
見ると、ネギの影から金髪碧眼の幼い少女が、身体の半身を出しているところだったのだ。
「え‥」
「うちのぼーやが世話になったな、若造」
だが、身の程を知るが良い。
ただの掌底がフェイトに打ち込まれると、湖の彼方に飛ぶ勢いでフェイトが吹き飛ばされた。
余りの勢いにフェイトの少し後ろに位置していた明日菜まで余波を喰らうところだ。
「え、エ‥‥」
「エヴァンジェリンさん!!」
「これで一つ貸しだな、ぼーや♡」
「なに!?なんやあの小娘は!?」
「Lock on」
「は!?」
いきなり現れた誰かに新入りが吹き飛ばされてしまった。
驚くのも束の間、合成音声が千草の更に上空から聞こえる。
エヴァンジェリンの従者、絡繰茶々丸(Full Set Up)。
巨大な
腕を振り下ろす前の両面宿儺に照準を合わせた。
「Fire!」
「にゃああああぁぁぁぁ!!?」
放たれた銃弾は結界弾。
麻帆良学園で千雨とネギに使った結界魔法符と同種のものだが、規模が違う。
振り上げた腕もそのままに、両面宿儺の動きが止まる。
両面宿儺の質量を考えると効果時間はおよそ10秒ほどだが、時間を助っ人たちに作ったのだ。
自分の本体が吹き飛ばされ、スクナも動きを止められ、予想外の戦力の介入に思わず2人目のフェイトも刹那へのトドメの手を止める。
「あれは‥
「え、エヴァンジェリンさん‥?」
「‥ふむ。これは君に構っている場合ではなさそうだ」
スッとエヴァンジェリンに向き直る。
エヴァンジェリンも奴が分身か、と魔力を手に集めようとし、すぐにその必要のないことに気がつく。
夜の血族、吸血鬼の真相。
身体能力は人間とは比べ物にならず、視力も例外ではない。
その驚異的な視力が、漆黒の空を飛ぶ因縁の相手を捉えたのだ。
「‥随分速いな。杖に乗ってるわけでもない。アレも魔法具の効果か?」
「?」
「良いのか?私の方を向いていて」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
その場の全員が、人ならざる叫声に戦慄する。
叫声どころか、これは最早咆哮だ。
「来るぞ」
獲物を捉えた空飛ぶ獣。
白髪の頭が、此方を見ている。
ああ、やっぱり生きてやがった。
超の言葉は正しかったわけだ。
「最大 防護!!!」
『おせーよ白タコ!!!』
迅速な障壁構築も、飛来する獣の剛腕には間に合わなかった。
樹皮で覆われた腕が2人目のフェイトの頭を貫き、その人間よりも少し大きい体躯がフェイトの身体をのしかかる様に水面に叩きつけた。
2人目のフェイトの身体が水へと分解され、湖に溶けていく。
水面から立ち上がったその獣、正しく龍と言えよう。
但し、魔法世界に生存する本来の竜たちに比べて大きくはない。
立ち上がった姿は170cm程度。
全身を樹皮で覆われており、特に腕と脚はほとんど木の枝が四肢の形を成しているようなものだ。
頭部からは後ろに流れる様に角が2本生えているが、これもまた樹木。
背中の翼も枝の様な造りで、尾も大樹だった。
樹木の龍。
しかも人型だ。
すわ新手の敵かと身構える明日菜たち。
刹那も何とか起き上がり、並大抵の相手ではないと鯉口を切ろうとする。
『ん!?これは‥んだよ
「大層な見た目だな」
『あ、エヴァンジェリン。遅い出席だな。こりゃ修学旅行の単位はねえな』
「そんなもの元々いらぬわ!!」
修学旅行に単位なんてありません。
「え、えっと‥‥千雨さん?」
「え!?」
『! ネギ!』
緊張感のないエヴァンジェリンと樹龍の会話に少し呆気に取られていた面々だが、ネギの言葉に驚愕する。
暗闇で見えにくかったが、確かによく見ると千雨だ。
両面宿儺の光が明かりとなり、腕部分から伸びた樹皮が顔の外側まで覆われた千雨の顔を照らし出していた。
『‥なんだよ、近衛はあそこで‥全員無事じゃねえか。焦って損した』
少し恥ずかしそうに龍樹の芽鱗杖を取り出して、
徐々に千雨の顔や指先から樹皮や大樹が引いていき、千雨のレザーコートの腕やスカートの樹木の紋様部分に収まっていく。
エヴァンジェリン戦の時にも着ていたレザーコートとスカート。
千雨の決戦服でもある。
樹木が首元から引いていった後に現れた三つのエンブレムに、やはりなと頷くエヴァンジェリン。
「貴様‥帝国ゆかりの者か。ラカンの養子だから不思議ではないが‥」
「へっ、今更かよ?‥いや、この話はあとだな」
バキン、と大きな音を立てて両面宿儺が雄たけびを上げる。
どうやら完全に目が覚めたようで、先程よりも動きや反応が俊敏だ。
「お‥嬢、さ‥ま‥!」
「立てるか、桜咲。正念場だぜ?」
「は、はい‥!」
千雨の手を借りながらなんとか立ち上がり、夕凪を杖にする刹那。
ガードには腕一本だけでは足りなかったようだ。
だが、今は自分の身体などどうでも良い。
見上げた先には光る巨大な鬼神。
その肩には、未だ意識のない大切な人。
「エヴァンジェリン、手ぇ貸せ。桜咲を立たせてやる」
「何?バカを言うな、私が一撃で終わらせてやる」
「近衛を巻き込む気かポンコツ吸血鬼!‥茶々丸、ネギとそこの痴女を守ってくれ」
「ぽ、ポンコツだと!?貴様この600年生きる私を捕まえてポンコ‥」
「まって。違うの。ていうか千雨ちゃん何か貸して!!」
「痴女‥了解しました。Completed Input」
「ええい私の話はまだ」
「茶々丸さん今の何!!?」
「あ、アスナさん僕のシャツを‥」
「ん?ネギ、お前のその腕‥!」
「あ、だ、大丈夫です」
「コラーーーー!!」
「とりあえず誰でも良いから服ーーーーー!!!」
横を見ると、4人のクラスメイトと1人の子供教師。
この非常事態において既にいつもの3-Aの空気が戻ってきている。
思わず笑みが零れる。
何故だろうか。
「負ける気がしないよ、このちゃん」
「ああ。取り戻すぞ」
「木乃香さん‥今行きます!」
「ねえ!わたしこのまんまなの!!?」
「へへへ、良い眺めだぜ‥ぶぎゅ!!?」
「涙腺より流涙を検知。マスター‥」
「そんな目で見るなぁ!!」
さあ鬼神よ、自らの不運を嘆け。
貴様が乗せたその御身。
貴様の命ほど安くはないぞ。
ちうさまがほとんど出てきてないですがところどころ影響は出ています。
フェイトの分身は栞のアーティファクト研究の副産物ですね。
普通に使ってますが使い勝手が良いものにするかどうかはまだ未定。
だって‥それやったらこの先フェイトたくさん!とかデュナミスたくさん!とかできちゃうし。
まあちうさまが全員ぶっ飛ばします多分。
次回は怪獣大決戦+V.S.イスタンブールからの留学生です。