一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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長くなりました。
お待たせして本当に‥()。
修学旅行編完結です。


【25】ただ道を歩む者へ

迫る闇の手。

硬直した大人びた少年。

考える暇はなかった。

ただ、飛び出していた。

 

 

********************

 

 

こんなことになる筈じゃなかった。

ただ、目の前の小さな世界を守れればよかった。

ただ、あいつは飛び出してしまった。

自分たちだけではなく、ありとあらゆる人や物を守る為に。

それに追従する従者たち。

仕方なく私も飛び出した。

あの時も、今も。

ただ、仕方なく飛び出してしまっただけなんだ。

誰かが間違っていたのだろうか?

いや、そんな筈はない。

強いて言えば、間違えてしまったのは。

 

 

********************

 

 

「‥‥あ?」

 

知らない天井だ。

優しい色合いの和室天井。

どこだここ、と起き上がって見渡すとやはり和室、その一室に敷かれた布団で寝ていたようだ。

触ってみると、今までにない感触を感じた。

随分上質な羽根を中に入れているようだ。

 

何してたんだっけ、と記憶を洗うが、あまり良く思い出せない。

何かの夢を見ていた気がする。

ただ、昨日はフェイトとの戦いを終えて、ネギ達がいる関西呪術協会総本山に戻ろうとして‥‥。

 

「‥あ、そこで寝たのか」

「寝たのかじゃないわ寝坊助がぁ!!」

 

スパァン!と小気味良い音を鳴らして開いた障子。

ゆっくりそちらを見ると苛々した様子のエヴァンジェリンがいた。

その後ろには茶々丸、足元にはチャチャゼロだ。

 

「‥何してんだ?こんなとこで」

「貴様‥昨日ここまで運んでやった恩人にその態度か!?」

「? ああ、昨日のあの後‥そうか、エヴァンジェリンか。そりゃ悪かったな」

「ふん!」

 

素知らぬ態度の千雨に、手元にあったチャチャゼロを投げるエヴァンジェリン。

一直線に飛ぶチャチャゼロが千雨の頭に飛び付き、座り直す。

 

「さて‥今何時だ?茶々丸」

「現在午前8時24分。既に旅館における朝食の時間が始まっています」

「げ」

 

当然のように訊ねる千雨、当然のように何故か応える茶々丸。

返答された時間が既に千雨が旅館にいなければならない段階を過ぎている、という旨だったので流石の千雨も顔を顰める。

だが、もう急ぐつもりはないようだ。

慌てても仕方がないという結論になったのだろう。

 

「んじゃー風呂でも借りるか‥。お前ら先行ってていいぞ、どこ行くかは知らねえけど」

「バカめ、私たちは今から京都観光だ!」

「んん?じゃあさっさと行って‥」

「貴様も来い、昨日の恩を返せ」

「‥‥‥風呂までせめて待て」

「私も入る」

「いやどうせお前もう入ったんだろ吸血鬼の癖に」

 

エヴァンジェリンが指をパチンと鳴らすと、するりと現れる和服の女性。

エヴァンジェリンに付いている専用の世話係のようだが、既にエヴァンジェリンのことは関西呪術協会には知られているようだ。

恐らく貴き客人程度だろうが。

エヴァンジェリンと共に浴場に向かう千雨。

道中で昨夜の後のことを茶々丸達から聞く。

 

「あ?もう旅館に戻った!?」

「はい。3-Aが泊まる旅館にてネギ先生達の身代わりが暴れているようです」

「その対処に戻ったというわけだ。貴様だけまだ寝てたからな、その世話に私たちが残ってやったというわけだ」

「ふーん。まあお前らは戻る必要ないからな。私や‥長瀬達も戻らなくてよかったろうに。何であいつら戻ったんだ?」

「ノリだろうな」

「そんなとこか」

 

そういえば、と周囲の廊下や部屋を見渡すが、石像など一つも見当たらない。

昨夜総本山に残った人々は一人残らず石化されていたらしいが、千雨が寝ている間に関西呪術協会の応援部隊が駆けつけたようだ。

すっかり元通りということなのだろう。

クラスメイト達も無事だったわけだ。

そういえば、ハルナも石化騒動に巻き込まれたようだが、アレに事情を説明したのだろうか。

面倒なことになりそうだ、と溜息を吐く。

 

ついでに目当ての人物も探すが、やはりいない。

彼と会うのはそれなりに緊張するのだ、身構えておく必要がある。

 

「‥詠春ならここにはおらんぞ」

「は?」

「奴は石化が解除された時点でここを出て、リョウメンスクナノカミの元へ向かったよ。封印を施すつもりなんだろう」

「誰もまだ詠春さんのこととは言ってねーだろ」

「違うのか?」

「‥‥」

 

勿論違わない。

ただエヴァンジェリンに見透かされるのは癪だったので、肩に乗せていたチャチャゼロを掴んでエヴァンジェリンの顔に押し付ける。

エヴァンジェリンとチャチャゼロ双方がジタバタもがき始めるが素知らぬ顔だ。

スタスタと案内係の後ろを歩いていく。

顰めっ面になるエヴァンジェリンだが、チャチャゼロを再度茶々丸に預けて千雨の後ろを追い始めた。

 

華奢な背中だと思う。

だが、筋力は馬鹿にできないほど強いし、スピードもある。

魔法も使える、咸卦法も未完成ながら使える。

訳のわからない魔法具も確認しただけで6,7種類はある。

アーティファクトも二つも持っている。

ラカン譲りの技法もある。

だからこそ何故だと問いたい。

何故そこまで戦う。

何故そこまで強さを求める。

明確な敵討ちでもしなければならないのか。

 

まだ齢14の小娘が。

同い年のクラスメイト達を見てみろ、と思い返すエヴァンジェリン。

‥頭痛がしてきたので思い返すのを止める。

能天気すぎて千雨よりもクラスメイト達の方がおかしく思えてきてしまったのだ。

 

だが、その意思を自分で持っているなら。

千雨自身の心で戦いの道を選んだのなら。

彼女は、戦いの先に何を求めているのか。

 

そのうち酒でも突っ込んで無理矢理吐かせるか。

そんな未来が少し楽しみになるとは。

そこまで考え、馬鹿馬鹿しいと首を振るう。

だが有り得んと思いつつも、こんな日常も悪くないのかと思い始めたエヴァンジェリン。

 

彼女も変わる。

幾数百年生きてきた吸血鬼の真祖、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

だが、長谷川千雨は、千雨・長谷川・ラカンは。

彼女は既に変わってしまったのだ。

あの日、あの時。

現実を守る為に、戦いの道を選んだその時に。

きっと、幸せな未来は来ないのだろうと思いながらも。

せめて、遺される者たちに平穏を送りたいと、拳を握った。

それが、恩返し。

紅き翼(アラ・ルブラ)の為に、彼らの大切な人たちのために。

その剣闘士は戦うのだ。

 

 

********************

 

 

関西呪術協会自慢の大浴場でゆっくり癒され、出掛けられる準備をした後。

千雨たちは何故か3-Aが泊まる旅館に戻ってきていた。

京都観光に行く前に、ネギ達も連れて行こうとエヴァンジェリンが言い始めたのだ。

何でも、この後詠春と会う約束をしているらしい。

それを言われたら仕方がねえな、と千雨も京都観光に同行することになった。

道中のエヴァンジェリンのはしゃぎっぷりに振り回され、相当疲れてしまったが。

ちなみに、主に振り回されたのはネギ、明日菜、千雨で、張り切ったのは夕映である。

ようやく説明のしがいがある同行者が来た、と夕映も嬉しかったのだろう。

数百年千年の歴史を誇る古都京都の文化財を相手に、これでもかというくらいの熱意をエヴァンジェリンと共にぶつけていた。

 

京都散策を終えると、早速という様子で詠春さんのところへ向かいましょうと皆に言うネギ。

やはり楽しみ‥というより居ても立っても居られないといったところか。

道中もソワソワして落ち着かないようで、明日菜に小突かれていた。

 

「おい、カモミール。結局早乙女達にはどこまで話したんだ」

「ああ、それなんだけどよ‥。あの眼鏡のイイおねーちゃんには何も話しちゃいないんだと」

「‥うん、それが正解だな」

「ええ、姐御までそう言うのかよ?ウマが合いそうなんだけどなあ‥」

「そりゃお前とは合うだろうけどな、事情を話したら2時間後にはネギがオコジョ決定だぞ」

「‥‥マジスか」

「んじゃ宮崎や朝倉(コイツ)にはちゃんと話したのか?」

「いや、私はある程度は状況聞いてるけど‥‥本屋には話してないみたいだよ」

 

コイツ、と言われた和美が反応する。

二人の線引きに、成程と頷く千雨。

和美は偶然事情を知ってしまい、のどかは偶然仮契約(パクティオー)カードを手に入れた。

そして、のどかにはまだ仮契約(パクティオー)カードについて何も説明していない。

一度小太郎という少年とネギ達が戦う際に使ってしまったらしいが、何故のどかは事情を聞いてこないんだろうと首を捻る千雨。

一歩踏み入る為の勇気を持っていないのかもしれない。

いくら何でも何かがおかしいとは思っている筈なのだ。

ちなみに、このことは後にネギに悩みの種として降りかかる。

 

「ふー‥」

「ん?どしたの千雨ちゃん」

「‥いや、まあ‥‥な」

「さしもの貴様も緊張するとはな」

「えー?千雨ちゃんが?」

「‥‥‥10年だぞ。長かったよ、ここまで‥」

「たかが10年で何を言うか」

「そうだな、お前は15年も閉じ込められてるもんなぁ優良登校児童」

「‥‥貴様、薄々思っていたがジャックのバカが移ってるぞ、間違いなく‥」

「あの変態親父と一緒にすんな!」

 

氷雪が背景に浮かぶエヴァンジェリンの頭を適当にこねくり回し、目を逸らすとネギと目があった。

ネギも緊張しているらしく、こちらを見てはにかむ。

それもそうだろう。

ネギにしろ千雨にしろ、父を追い求める少年に主人(マスター)を追い求める従者(ミニストラ)である。

その手がかりとなるかもしれない近衛詠春。

ネギにとっては父親の盟友、千雨にとっては紅き翼(アラ・ルブラ)という目指し続けた域にいる達人。

彼の英雄は何を語るのか。

 

「10年って何のこと?」

「朝倉にはそういや話してねーな。‥‥まあそのうち」

「それ私以外の誰かには話してるんでしょ!?情報屋が情報で遅れを取る訳にいかないのよ!教えてよー!!」

「やだよめんどくせぇ。どうせその内仲間内に話す時が来るんだろうし、それまで待て。どうしても聞きたいならカモミールにでも聞いてろ」

 

和美の方を振り向きながら話すと、既にカモの所へ向かっていた。

動きが速い。

戦闘のスイッチをOFFにしている千雨からしてみれば恐るべき俊敏さである。

情報に対する執念は本当に強い、と思いつつ再度前を見ると、エヴァンジェリンが変な顔をしながらこちらを見ていた。

 

「‥何だお前その顔」

「‥‥いや、なんだ。意外だな‥」

「は?」

「仲間内などと言うような人間ではなかったろうに。そうか、貴様の中では既に‥」

「! いや待て、仲間っつってもアレだぞ!!?ただのクラスメイトで‥‥‥。‥‥クラスメイトで‥?」

 

‥何だ?

そこまで溢れ出たエヴァンジェリンを無視し、狼狽しながら思考の海に沈む千雨。

そう、彼女らはクラスメイト。

恐らく友人でもあるだろう。

では、仲間ではないのか?

仲間とは一体何か?

もしネギも含めた皆が仲間なら。

では、紅き翼(アラ・ルブラ)は?

勿論彼らは仲間だろう。

千雨が紅き翼(アラ・ルブラ)かどうかはわからないが、仲間ではある。

彼らに育てられ、彼らの願うものの為に戦うと決めた。

それが千雨にとっても大事な、自身の現実を守るために繋がるから。

 

じゃあ、ネギたちは?

千雨はネギや明日菜、木乃香と言った面々は守るだろう。

紅き翼(アラ・ルブラ)の大切な子供達。

では、クラスメイトはと聞かれたら勿論守るだろう。

この2年で、クラスメイトたちは千雨にとって大切な存在になっている。

では、クラスメイトたちに背中を預けられるか?

しかも、千雨の敵に対して。

今回のような木乃香や刹那の敵ではなく、千雨にとっての敵‥つまり、フェイトのような敵に対して、背中を預けられるか?

 

無理だ。

出来るはずがない。

心のどこかから暗い声が聞こえて来る。

力量不足なのは間違い無いが、それだけではない。

関わらせられない。

明日菜も、ネギも。

先の真実に辿り着かせて良いはずがない。

魔法世界の真実と運命を、明日菜に授ける?

父親の跡と父親の仇敵を、ネギに追わせる?

 

今回は偶々運が良かっただけ。

フェイトの魔の手は誰の命も奪わず、最後の詰めも千雨が対処できたから無事に終わっただけ。

 

「‥仲間、か」

「‥‥何を悩んでいるかは大方見当が付くが‥‥。今の貴様がいくら悩んだところで答えは出んぞ」

「ああ?」

 

知ったような口振りのエヴァンジェリンに振り向く。

エヴァンジェリンの表情は千雨を煽るようなものではなく、どこか憐れむような、大切な何かを見るかのような表情だった。

もしかしたら、千雨を通して千雨ではない誰かのことを思い出しているのかもしれない。

 

「心配するな、長谷川千雨。貴様の思うものはいつか必ずわかるものだ。いつか貴様に手を差し伸べることができる者が必ず現れる」

「‥」

「それはもう既に見つかっているかもしれん。紅き翼(アラ・ルブラ)かもしれんし、ぼーや達かもしれん。今はわからんかもしれんが、必ずな」

「‥お前かもしれないってか?」

「それはないな。私はただ貴様を見ているだけの観察者に過ぎん。貴様とは生きる時が違う」

「不老不死か‥」

 

吸血鬼。

しかも吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)

日光やその他吸血鬼の弱点をほぼ全て克服し、悠久の時を過ごす。

エヴァンジェリンは確か600歳の賞金首と噂で聞いたことがあるが、彼女でも若い方なのだ。

千雨が知るエヴァンジェリン以外の唯一の吸血鬼は一万歳などとうに過ぎている。

 

「まあせいぜい悩んで足掻け。貴様の行く道は少々興味がある」

「興味?神楽坂の時も思ったけどお前悪趣味だよな」

「神楽坂明日菜の方はどうでも良い。貴様の果ては私にも多少なりとも関わりがあるからな」

「‥見てるくらいなら手貸せよ、お前は死んでも死ななさそうだ」

「不死なんだ、死にはしないが‥‥貴様が膝をつき、その頭を垂れるなら手を貸すのも吝かでは‥」

「茶々丸、行こうぜ」

「あ、千雨貴様コラ!」

 

チャチャゼロを抱えた茶々丸を連れて前方のネギたちに追いつく。

なお、繰り人形であるチャチャゼロは奇異の目で見られないように、歩けるが歩いていない。

人に抱えられていたら古ぼけた人形にしか見えないのだ。

 

「あっ‥」

「!」

 

声を上げたネギの視線の先に、一人の痩せた男が立っているのが見えた。

煙草を吸いながら他所を向いていたが、意識はネギたちに向いているのが遠くからでもわかる。

凡そ10年ぶりだ、と懐かしい記憶が蘇る。

男は此方を向き、ネギたち一人一人の顔を確認する。

ネギ、明日菜、木乃香、刹那と素早く見た後、全員の最後に千雨を見た男———近衞詠春。

千雨を見た時に目を見開くのが、千雨の目に捉えられた。

 

「長さん!」

「お父さま!」

「やあ皆さん、よく休めましたか?」

 

木乃香が父である詠春の側に駆け寄り、エヴァンジェリンやネギが詠春に次々と話しかけに行く中、千雨だけは足を止めたままだった。

皆とある程度言葉を交わした詠春が千雨の方に意識を向ける。

そして、歩み始める千雨。

 

「‥」

「‥」

「‥‥お嬢、ですか?」

「‥それはやめてください、詠春さん‥」

 

顔を赤くしながら否定の言葉が出る千雨。

その静かな千雨に驚く詠春。

まさか、あのお転婆がこんなに大人しくなっているとは。

先の明日菜と逆転しているようだ、と心の奥底でこぼれ出る。

だが、すぐに赤面してしまう癖は変わっていない、と柔らかい笑みを浮かべる。

 

「‥お久しぶりです」

「まさか、あのジャックの元で育って‥こんな立派な淑女になるとは」

「おい詠春、今のそいつは猫を被ってるだけだ。本性は荒々しい‥‥」

「それ、このバカにも言われましたよ‥」

 

エヴァンジェリンの頭を手繰り寄せて、がしりと掴む千雨。

余計なことを言うなボケ、と目が語っていた。

しかも先ほどとは違って本気の目である。

額からたらりと冷や汗が出るエヴァンジェリン。

この余裕の無さはラカンとは似ても似つかない。

 

「ははは、ジャックの義娘が礼節を弁えて話せるだけで充分ですよ」

「‥そのジャック・ラカンってぇのはそんなに杜撰なのか?」

「杜撰‥っていうか、うーん‥なんて言えばいいんだ?」

「適当、だな。適当という言葉が筋肉達磨になって服を着て歩いていると思えばいい」

 

カモの疑問に答えるエヴァンジェリン。

エヴァンジェリンの言葉に、ジャック・ラカンという者が何者か何となく想像がついた明日菜たち。

その脇で、新鮮な態度をしている千雨を見つめるネギ。

どうしたんだろう、と首を傾げるが、千雨は敢えてネギの視線に気づかないふりをする。

態々自分の幼少期の性格まで話すつもりはない。

子供の頃からお転婆お嬢と呼ばれ、力をつけてからはそれが更に酷くなったなどとは言う必要もない。

ちなみに、お転婆が治ったのは思春期に入ってからであるが、自分の思春期も相当に早かったんだろうな、と振り返って納得する。

 

「‥千雨・長谷川・ラカンって名前です」

「そうですか、その名は‥‥?」

「‥あのクソ親父がアホなせいで名前があったのにわからなかったんです」

「ハ?」

「後で説明します‥」

 

そこまで言ってネギに視線を振って呼ぶ。

これから、ナギがかつて京都で滞在していた別荘に行くというので、メインは息子のネギと秘密だがパートナーの千雨である。

ネギのパートナーである明日菜達4人と、エヴァンジェリンはあくまでついで。

言うまでもなく朝倉や図書館組、エヴァンジェリンの従者二人もである。

詠春としては、明日菜はついででも何でもないだろうが。

 

「詠春さん、あの‥」

「はい、勿論今から案内させてもらいます。この奥の3階建ての建物がそうです。早速参りましょう」

 

詠春の案内で再び歩き始めた一行。

道中、詠春に訊ね始めるネギ。

 

「あの‥長さん。小太郎君は‥」

 

小太郎とは、ネギが2度も戦ったという獣人の少年らしい。

昨夜楓と夕映とともにいた黒髪の少年がそうだろう。

総本山に帰ったその後、自ら牢に入ったと茶々丸から聞いていた。

また、天ヶ崎千草も既に牢に入れられたそうだ。

残ったのは月詠とフェイトだが、2人が捕まったという話は聞いていないし、昨夜いた人間だとあの2人を捕らえることが出来たのはエヴァンジェリン、詠春、千雨くらいだろう。

そこに真名を加えても良い。

 

「それほど重くはならないでしょうが‥それなりの処罰があると思います。天ヶ崎千草についても‥‥。まあその辺りは我々にお任せください」

「それより問題は逃げたあの白髪のガキと神鳴流剣士か」

「現在調査中です。今のところ、白髪の少年の名は自ら名乗ったフェイト・アーウェルンクスであること。一年程前にイスタンブールの魔法協会から日本へ研修として派遣されたということくらいしか‥恐らく偽物でしょうが」

「なに?おい、ちさ」

「詠春さん、月詠は?」

 

エヴァンジェリンの言葉を遮るように詠春に話しかける千雨。

遮られたエヴァンジェリンがムッとした顔で千雨の顔を見るが、すぐに考えを改める。

千雨が意図的にエヴァンジェリンの言葉を遮り、ここにいる誰かにフェイトの情報を話したくないのだと分かったからだ。

 

「月詠は‥彼女は神鳴流を修めた二刀の剣士です。現在の立場としては傭兵ですね」

「神鳴流なのになんで神鳴流と戦いを‥?」

「今の彼女は傭兵ですから‥。傭兵と雇い主との間に雇用が成立すれば、契約を遵守する以上傭兵は雇い主の命に従います。例えそれが本流派に逆らうことになったとしても」

「アイツはそもそも嫌々戦ってるわけじゃねーだろうがな‥」

 

ネギの疑問に答える詠春。

話題逸らしにはなったな、とエヴァンジェリンの方を向いて再度黙っとけと目で意思疎通を図る千雨。

間違いなく、千雨はあのフェイトという者のことを知っている。

しかも、その正体どころではなく恐らく関わった先にある未来を想像できるほどに。

それにネギたちを関わらせたくないということか。

エヴァンジェリンとしても折角呪いが解ける可能性のある者が身近に来たのだ、エヴァンジェリンのおよそ関わりの無い事で逃げられても困る、と千雨の方針に乗る。

 

話しながら歩くうちに、ただの変哲のない住宅街に大きめの木々が加わり始めた。

その奥に、木々に隠れて目立たない丸天井の白い建物が見えた。

所々ガラス張りになっていて、透明感を出しながらモダンな建物といえるだろう。

ナギにしては良いセンスしてやがる、と妙に感心する千雨。

もしかしたらナギが用意したものではないのかもしれない。

 

「ここです」

「なんか秘密の隠れ家みたいだねー」

「京都だからもっと和風かと思ってた」

「10年の間に草木が茂ってしまいましたが、中は綺麗なものですよ。どうぞ、ネギくん、千雨お嬢」

「いやすみませんあの、勘弁してください‥」

 

詠春の言葉にまた赤面する千雨。

こんな40代の渋いおっさん、しかも同級生の父親にお嬢などと呼ばれるなぞなんの罰ゲームか。

子供の頃はそれで別に普通と思っていたが、流石に今はそんな気分でも時分でもない。

 

詠春が玄関扉の鍵を開け、ぞろぞろと別荘に入っていくネギ一行。

広間に入ると3階まで通った吹き抜けがまず目に入った。

1階がダイニング、2階にも机とテーブル、壁に幾つかの本棚が埋め込まれている形になっていた。

本は一個人が所有するにはかなりの冊数があり、図書館探検組には好印象だったようだ。

また、2階の壁に取り付けられた本棚は、何故か足場がない。

一応1階から梯子が伸びて本棚の本を手に取れるようになってはいたが、浮遊の魔法が使える魔法使いからすれば、足場がなくても何も問題がないのだろう。

梯子は非魔法使い向けのカモフラージュか。

 

各々好き勝手探索を始め、千雨は詠春の後ろを歩く。

聞きたいことがたくさんあるし、確かめたいこともあるが、こんなに興味本位で動いてしまう女子中学生やら渦中の男の息子やらがいては話もできない。

 

「どうですか?ここに来るのは初めてでしたね」

「そもそも旧世界に来たのは13の頃でしたから‥」

「‥そう、でしたね。彼が彼女とここに来たのは13年も前のことか‥。‥ナギとのことを、ネギくんには?」

「ネギにはバレちゃったんでね‥‥」

 

不本意な知らせ方だったが、もう隠す必要もないだろう。

ネギは今回の任務で京都に自らやってきて、ナギの手がかりとなる詠春の元に自力でやってこれたのだ。

ある程度はネギは、事実に近づく権利がある。

 

(‥ま、権利があってそれをやったとして、そのままにさせると決まったわけじゃねーけどな)

「‥何の話だ?」

「やっぱ聞こえてたか?流石だな吸血鬼。五感が人間のそれじゃねーな」

「答えろ、何の話だ。貴様とナギが何だ?」

「‥コイツのマスターがあのバカ(ナギ)だってだけだ」

 

ひらひらと取り出したカードに、幼いチサメが映っている。

表と裏が交互に一瞬だけ見えただけだったが、吸血鬼の真祖の脅威的な動体視力はカードの裏に描かれていたその名前を捉えていた。

 

「ななななな、な!!?」

「おい、壊れたか?」

「いえ、驚きの余り言語野が停止したかと」

「ナギ!?貴様、ナギがマスターなのか!!?」

「そういうこった、言うとめんどくさいだろうなーと」

「何故言わなかった!!?」

「今言った」

 

理由も事実も。

こんのジャック二世が!!と揺さぶられる千雨。

綺麗な金髪と整った小さな顔が荒れ狂っているのは少々笑えた。

ゼェゼェと息を整え、頭の中を整理するエヴァンジェリン。

ジャック・ラカンの義娘がナギの従者。

しかも、ナギが姿を消したと言われる10年よりも前の時点で仮契約を済ませている。

千雨にしろナギにしろラカンにしろ、一体何を考えて2人の仮契約が行われたのか。

恐らく、千雨に訊いても答えは返ってこないだろう。

ならば。

 

「‥答えろ近衞詠春。何故此奴がナギの従者に?まだ力のない子供だったはずだ」

「おいコラ!何本人を目の前にして、本人に許可なくンなこと訊いてんだ!?」

「都合の悪いことだけ押し黙る捻くれ者に訊いても仕方があるまい、ガキめ」

 

仮契約のイメージから来る恥ずかしさからエヴァンジェリンを睨む千雨。

子供の頃は特に何とも思わなかったが今は無理だ。

だからこそネギとの仮契約を終えた夜も悶死するような思いで正座していた。

ギャーギャーと喧嘩する2人を前にして、きょとんと眺める詠春。

千雨とエヴァンジェリンがこんなに仲が良かったとは。

千雨はわからないが、恐らくエヴァンジェリンが千雨を気に入ってるのだろう。

千雨もラカンやナギに対するのと同じように接している。

力があり、明らかに歳上で頼り甲斐のある相手だからか。

そんなことを言ったなら、エヴァンジェリンはともかく千雨は否定するのが容易に想像できる。

 

「‥彼女の口から聞いてください。大丈夫、いつか必ず話してくれますよ」

「ふん、此奴に気なぞ遣わんで良い」

「ぶっ飛ばす」

「やれるものならやってみろ。今の私は4月の時よりも強い、最強状態だぞ」

「ほー、まだ私にも奥の手はあるぞ」

 

ナギの隠れ家にいるということも忘れて今にも戦い始めそうだったので流石に2人を止める詠春。

この2人が暴れ始めたら詠春とて被害無しで抑え込むなど出来はしない。

エヴァンジェリンの頬を引っ張っていた千雨だが、奥の手という言葉でやるべきことを思い出した。

詠春に声をかけ、エヴァンジェリンたちも連れて一度外に出る。

ネギたちはまだ隠れ家の中である。

千雨とエヴァンジェリンが相対するように距離を保って立ち、その2人を視界に収められるような位置どりで端に立つ詠春、茶々丸、チャチャゼロ。

 

「じゃ、準備いいか?人避けの結界も貼ったな?」

「おい待て、何をする気だ!?」

「先に聞いておくけど今は不死だよな?」

「そうだが‥‥おい、私が死ぬようなことをするんじゃないだろうな!?」

「いくぜ」

「人の話を聞いてるのか!!?おい!?」

 

千雨が戦闘用に身体を整えると、昨夜のように膨大な量の“気”が放出される。

そんな千雨を見て、確かにジャックの仔だ、と得心する詠春。

“気”の量も一般的な使い手を圧倒しているのもそうだが、“気”のチャージの仕方がそっくりだ。

魔力は系譜されるのが一般的だが、“気”は鍛錬の末に得られる物。

ある程度は腕力や心肺機能という身体的要素が受け継がれるかもしれないが、残念なことに2人の間に血の繋がりはない。

つまり、全て彼女の努力によって得た物。

相当努力したのだろう。

詠春の弟子であるクルト・ゲーテルといい、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの弟子であるタカミチ・T・高畑といい、彼女といい、紅き翼(アラ・ルブラ)の弟子は皆努力家揃いだ。

 

「障壁構えろよエヴァンジェリン!」

 

一声とともに、千雨の拳から気弾が発せられ、エヴァンジェリンへと真っ直ぐに飛ぶ。

対魔・対物ともに優れたエヴァンジェリンの魔法障壁が気弾を迎え撃とうと悠然に構えられるが、何の干渉もなく気弾は障壁をすり抜ける。

茶々丸のアイがその瞬間を捉え、チャチャゼロはその見覚えのあるとある大技に記憶を遡らせる。

そして、間一髪で躱すエヴァンジェリン。

死にはしないが、痛いものは痛いのだ。

気弾がエヴァンジェリンの背後で炸裂するが、そんなことも気にせずその場の誰もが目を疑っていた。

 

「今のは、やはり昨日の技か!?」

「神鳴流の奥義‥斬魔剣・弍ノ太刀!一体どうやって会得を!?」

「いや、斬魔剣っていうか‥手でやってるから斬魔掌‥‥いや、斬魔拳かな?そもそも剣撃じゃないですし」

 

魔法障壁の透過。

それは、魔法使いに対する必殺といえる技の極地。

神鳴流が最強の流派と言われる理由の一つがこれである。

対魔物、対人のどちらもこの技一つで事足りる。

弐ノ太刀自体が何かを透過して放つ概念を持つ技だが、斬魔剣・弐ノ太刀は障壁をすり抜ける事を目的とした技である。

他にも斬岩剣や斬空閃等も弐ノ太刀と組み合わせるそうだが、一番凶悪なのはこの斬魔剣だろう。

 

「だからこそ私はこれだけを極めました。魔法使いに対する脅威と奥の手として」

「では、斬岩剣や斬空閃は‥?」

「使えませんよ。見様見真似でそれっぽいのが出るだけです。それに、私は剣みたいな得物で斬魔剣・弐ノ太刀は出来ない」

「本当に障壁透過だけを目的に鍛えたというわけか」

「合理的だろ?単に岩切ったりぶっ壊したりなら殴るなり蹴るなり気弾撃つなりしたら出来るからな、ちなみに技自体はクソ親父に教わった」

 

咸卦法も重力魔法もな、と付け足す千雨。

あのバグキャラめ、と零すエヴァンジェリン。

大抵のことを「まあ俺様なら出来んじゃね?」と言い放ち、それを実行してしまえる。

そして、その義娘はそれを習得してしまうときた。

確かにこの千雨ならこのまま成長すれば確かに最強クラスになってしまうだろう。

今ですら片足は確実に突っ込んでいる。

実力で言えばAAA+以上S以下と言ったところか。

S未満と言えないのがこの女の恐ろしいところである。

まだ奥の手や戦い方に改良の余地があるのだ。

刹那や真名も歳にしてみれば相当の出来だが、千雨は更にその上を行っている。

明確な強さの目的があるらしいが、この強さの秘密はその有無の差だろうか。

 

「では、私にこれを見せたのは、技の完成度を見て欲しかったと?」

「ええ。あとは、一応神鳴流って色々見せられない裏世界でも更に秘匿の技だって聞いてますし、まあ使いますくらいには」

「‥恐るべき才能だと言わざるを得ません。あのクルトに優るとも劣らない、秘めた才をこの眼で見ました。勿論、使用も問題ありません。あとは神鳴流は得物を選ばずという言葉に則って修練を続けるだけで、貴女の戦いの幅はもっと広がる筈」

「一々武器を捨てて無手になるのも面倒ですからね‥」

 

出鱈目な女だ、と呆れるエヴァンジェリン一行。

誰だこんな女を育て上げたのは、と頭痛を手で宥めようとするが、その教えた相手はもっと出鱈目だったことを思い出してげんなりするエヴァンジェリン。

時間をかければ神鳴流の流儀すら出来ると思っているのだろう。

 

(障壁透過手段を隠し持つだけで、初見の相手にはそれで十分。畳み掛ければ倒せる相手が大半だろう。その癖にこれ以上何を求める気だ?)

 

「あ、詠春さん、千雨さん!」

「!」

「ネギくん」

 

隠れ家から出てきたネギが千雨たちに声をかける。

ネギの手には白い小さな写真立てがあった。

詠春に訊きたいことがあるのだろう。

中へと戻り、明日菜、木乃香、刹那の元へ集まる一行。

ネギが手にしていたのは、詠春にとっては懐かしい写真。

詠春曰く20年も前の写真らしい。

千雨も恐る恐る覗くと、見知った顔が何人も写っていた。

 

「この写真に写ってるのは20年前のサウザンドマスターの戦友達です。黒い服を着てるのが私です」

「わひゃー、これ父様?わかーい♡」

「真ん中がサウザンドマスター‥ナギだな」

「この少年が、ネギ先生のお父上ですか?」

「ああ。あとも全員顔知ってる‥いや、1人知らねーな。誰です?この子供」

「彼はゼクトです。ナギの魔法の師匠ですね」

「え!?」

 

千雨とネギが驚きの表情で詠春の方を向く。

エヴァンジェリンの方を見るが、エヴァンジェリンも彼の存在は知らなかったらしい。

どうやら、見た目通りの年齢の少年ではなさそうだ。

 

「じゃ、今は‥」

「はい、既に亡くなっています。20年前の大戦で‥」

「‥!」

 

20年前の大戦で死亡した、と聞いて千雨の中で思い当たることがあった。

彼なのだ、ナギの前任者は。

そして、10年前にナギがゼクトから継いだ‥いや、継がれたという言葉の方が正しいだろう。

 

「‥成程。あとは、ガトウさんとアル‥と、親父か」

「そういえば、千雨さんの父親がサウザンドマスターの友達だったって」

「友達‥まあ、友達‥かな?大別すれば」

「悪友ですかね‥どちらかというと」

「ま、そうですね‥。このデカいのがそうだよ」

 

詠春の言葉を受けて曖昧に頷く千雨。

デカいの‥と言われて見ると、写真の一番奥に大剣を構える浅黒い肌の大男が立っていた。

写真越しに見てもわかる頑強な身体。

太々しい表情。

外見は千雨に似ても似つかないが、戦う時の千雨と表情が瓜二つだ。

 

「こ、この人が?」

「た、逞しそうな人ですね‥」

「心配すんな、中身なんて外見の通りだ。‥しかし、この親父‥全然見た目変わってねーな。いくらヘラスだからって。皺も増えてねえ」

「ラカンは現在50代ですからね‥。ヒューマン換算でまだ20代です」

 

ヘラス?と頭を捻る旧世界組。

また今度教えてやる、と言って写真に戻る。

正直ラカンはどうでも良い、顔なんて飽きるほど見てる。

それよりも、とナギを見る。

やはり若い、というよりまだ子供だ。

20年前の写真だから15歳の頃だろう。

ちなみに、エヴァンジェリンはこの5年後にナギと邂逅したらしい。

 

「父さん‥」

 

ネギも自分の父親の過去の姿をじっくり眺めている。

やはり共に過ごしたことがないからだろうか。

6年前に一度だけ会っているそうだが、それが逆に父への憧憬を強くしているのかもしれない。

続いて詠春の話を聞く一行。

ネギに至っては真剣そのものだ。

 

「私はかつての大戦でまだ少年だったナギと共に戦った戦友でした。そして20年前に平和が戻った時、彼は既に数々の活躍から英雄‥サウザンドマスターと呼ばれていたのです」

 

ネギや刹那は神妙な顔で聞いているが、明日菜と木乃香は聞いてても何の話かさっぱりという顔だ。

ネギと明日菜にはあまり先の話を聞かせても仕方がないんだけどな、と話を聞きながら考え耽る千雨。

明日菜はせめて成人してから事情を徐々に話す筈。

ネギは個人的に聞かせたくない。

 

「天ヶ崎千草の両親もその戦で命を落としています。彼女の西洋魔術師への恨みと今回の行動もそれが原因かもしれません」

「む‥なるほどな」

「以来彼と私は無二の友であったと思います。しかし‥‥彼は10年前突然姿を消す‥」

 

10年前。

そう、あの日。

千雨が仮契約を行い、誰も彼もが千雨の目の前からいなくなってしまった日。

どうなったとラカンに聞いた。

みんな、どこへ行ったのと。

あの人は何も答えてはくれなかった。

ただ一言、お前が自分で探しに行け、と。

ナギを、あの日の真実を。

そして、子供だった自分は歩き始めた。

ただ1人、ひたすら目標に向かって。

ラカンの元で、魔女の元で、或いは闘技場で、古びた遺跡で。

だが、その道中で出会ってしまった。

今なら言える、出会ってしまったのだと。

ネギと明日菜。

最初は、ナギの息子程度にしか考えてなかったネギと、何もかもを忘れた中学生になった姫御子の明日菜という印象だったのに。

特にネギは、成長という名の変化が著しい。

エヴァンジェリン戦も大躍進だったが、この修学旅行では自分の身も顧みず強敵を一時退けた。

明日菜は無自覚だとしても、ネギのパートナーに相応しくなりつつある。

ただの庇護すべき存在ではなく、同じく千雨の横に立ち、ナギの元へ向かえるくらい同志になるのかもしれない。

だが、もしそうなったら。

再び明日菜はその役目を思い出し、ネギは父親を前に絶望の底へと叩き落されるかもしれない。

問題は、それを千雨が容認できるかである。

 

「‥どうすっかな」

「‥千雨さん?」

「! ネギ?」

 

いつの間にかネギが真横に来て、千雨の顔を覗き込んでいた。

どうやら詠春の話は既に終わってしまったらしい。

よく見ると手元に丸い紙束を持っている。

 

「なんだ?それ」

「これが父さんの次の手がかり‥になるかもしれません」

「なに?」

「ハ―——イそっちのみなさん難しい話は終わったかなー!記念写真撮るよ――!下に集まって!」

 

ネギに詳細を訊ねようとしたら、和美から号令が入る。

ついでだが、和美の横には夕映が壁に隠れるようにしてこちらを見ていた。

詠春の話をずっと聞いていたようだが、特に聞かれても支障がないと判断したのだろう。

こりゃ魔法なんてとっくにバレてるな、とぼそり零すが、千雨の興味からは外れている。

それに聡い夕映のことだ、皆に口外するようなリスクは推測できるだろう。

 

「写真?私はいいよ」

「わ、私もいいぞそんなもん」

「いーからちうちゃんもエヴァちゃんも♡」

「あ、こら朝倉!頭を掴むな!」

 

「ちっ、しゃーねーな‥また今度見せてくれ」

「はい!修学旅行後にでも‥」

「ああ。‥‥なあ、ネギ?」

「はい、千雨さん」

「お前さ‥‥こんな感じで、ちょっとずつナギの足跡を追っていく気か?」

「‥はい。いずれもう一度会いたい。今回のことで一段とそう思いました。詠春さんも、敵の白髪の少年も、父さんのことを知っていた。それだけ父さんが有名で‥偉大な魔法使いであった証」

 

ネギが背中の杖を手に取り、その目で杖の向こう側に父を見る。

今回、ナギに繋がるようなものは何もなかった。

それでも、何も見えなかった景色に、父の背中が豆粒くらいの大きさには映っただろうか。

追いつきたい。

追いついて、話をするだけでいい。

くだらない話でも世間話でも何でも良い。

ただ、傍にいるだけで。

 

「‥そうか」

「? あの‥‥千雨さんも、父さんを追っているんでしたよね?」

「‥まあ、な。出会ってぶん殴る予定だ」

「ぶ、ぶん殴るですか」

「ああ。パートナーや息子を放って何してんだか‥。‥でもよ、ネギ」

「はい?」

「何でお前、ナギを追うんだ?一度しか会ったことがないのによ」

「え?」

 

ネギの挙動がピタリと止まる。

普段は綺麗な子供の目だが、今だけはその目は空虚なものに見えた。

とてもではないが子供がしていい目ではない。

危うい。

この純真さを、そのままにしておいていいのか。

 

「‥いつかその問いをもう一度お前に問う。その時までに私が満足できる答えを用意しとけ」

「え、ええ!?」

「よく考えとけ。何が目標で‥今のお前は何を持っているかを」

 

話は終わりだ、と和美の元へ向かう千雨。

対するネギはしばらく動けなかった。

何を持っているか?

目標はわかるけど、今の僕が何を持っているかというのはどういう意味なんだろう?

 

そして、ネギの肩で黙って千雨とネギの会話を聞いていたカモは、ネギと同じように考えていた。

千雨の言葉は明らかにネギに向かって放ったものだが、一瞬千雨の目がカモにも向いたのだ。

アレは、余計な口出しをするなという意味だろう。

多分ネギ一人で考えさせたいのだ。

相談を受けるくらいは別に問題ないだろうが。

けど、自分はネギの使い魔だ。

主人が行く道についていきたいし、間違っていたら止めてあげたい。

では、千雨はネギのなんなのだろうか?

修学旅行二日目に、成り行きでパートナーになった。

だが、アレはパートナーという立場から出るような言葉とは思えない。

もっと近しい何か、それこそ家族のような。

いや、ネギが間違っていたら止めるというのはパートナーの役目といえばそうだが。

 

(‥でも、父の背中を追うのが間違ってるとは思えないんだがな‥)

 

やはり、何か重大なことを知っているようにしか思えない。

だが、聞いても絶対に教えてくれないだろうな、と諦めてネギに声をかける。

記念写真を撮る明日菜たちを待たせてしまっている。

 

少しうつむいた表情のネギだったが、写真を撮るまでには元通りになっていた。

写真を撮り、ナギの別荘を後にしたネギ一行。

そうして長い修学旅行は終わりを迎えた。

 

 

********************

 

 

「‥来てくれたカ」

「こんなうす暗いところまで呼び出されるとは思わなかったぜ。‥ああ、修学旅行じゃ助かったよ」

「問題ないネ。真実を瀬流彦先生に普通に話しただけだからナ」

「ああ、魔法先生なんだっけ?んじゃ話は早かったな」

「フフフ、丸太も役に立ったダロウ?」

「‥ノーコメント」

「マ、それはさておき。早速本題に入ろうカ」

「ああ」

「まず‥私の目的から話そう。そして、全てを話し終えたら‥千雨サンのアーティファクト解析に移ル」

「再三言うが、私が手伝うかはわからねーぞ?」

「大丈夫ヨ。ただ、私という人間を知ってほしい。そして、心の底から共感してほしい。まずはそこからネ」

「お前みてーなマッドサイエンティストに共感できるとは思えん」

「マッドサイエンティストはハカセの方ダヨ」

「どーだか」

「じゃ、珈琲でも飲みながら‥ネ。今夜は長くなりそうダ」




また15000字て。
最初の方7000字とかだった筈なのにこれは如何に。
次回からは学園祭編に入る前に、一度章を加えます。
ネギに対して千雨はかなり慎重になっています。
ただのマスターの息子から、見守る対象に、隣へ来るパートナーへ。
千雨さんが最後の最後にどのような選択肢を取るか、ご期待ください。
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